はふり

作者:OZ

●はふり
 ああ、おまえ、と九十九折・かだん(スプリガン・e18614)は言って、ほんの僅かに目を眇めた。
「……ろうそくみたいだな」
 それは嘲りではなく、だが苦しみを吐くように、同時にありったけの優しさを込めて、かだんは言う。
 なあ、だから私が来たんだろう。そうだろう、なあ――。かだんは半ば、自分に語るようにそう言って、泣くように笑うように、顔を歪めた。
 竜の爪が、かだんの頬をかすめた。
 一筋だけの紅が一瞬散って、爪の持ち主は咆哮した。
 うらみ、つらみ、ねたみ、そねみ。
 呪のすべてを込めたような涙が、竜人の見えないかんばせから溢れているのがわかった。
「なあ、だから――きっと、私はおまえに『こたえて』やれる」
 皮肉ではなく、ただ、それはきっと。
 死者への、手向けの祝だった。

 どうしてこうも、と――九十九・白(白夜のヘリオライダー・en0086)は歯がゆそうに唸った後、九十九折・かだん(スプリガン・e18614)の名を上げた。
 彼女を知るものは集え、と。
「九十九折さんと、どんな縁があるのかは判りません――が、兎角緊急事態なのは事実です。恐らく、彼女が遭ったのは……」
 宿敵、という言葉を白は飲みこみ、子細は不明であると白は続けた。
 場所は朽ちた社。
 何故、かだんがそこに居たのかはわからない。気まぐれなのかもしれない。呼ばれたのかもしれない。
 こんな縁、と、白は吐き捨てるように言った。
「俺は……ッ」
 見送るだけしかできないから、とヘリオライダーは言う。
 ほんの僅かだとしても――縁、あった人がいなくならないように。
 どうか、と白は言う。
「おかえりを、言わせてください」


参加者
桐山・憩(コボルト・e00836)
エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)
霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)
リンネ・マッキリー(瞬華終刀・e06436)
多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)
九十九折・かだん(無縁塚・e18614)
九鬼塚・最後(鬼哭啾々・e56529)
犬曇・猫晴(銀の弾丸・e62561)

■リプレイ


「てめ、マジかよ」
 桐山・憩(コボルト・e00836)は思わず笑った。
 九十九折・かだん(無縁塚・e18614)が、エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)の放った攻撃の直線状に立ったからだ。
 かだんはぱっと散った血を拭って、一度だけちらと視線を投げた。
「気にすんな。私は崩れない」
「はは、そりゃよかった。かだんならそう言うんじゃねぇかなって、どうしてだろうな、思ったんだ」
 だから最初から気にするつもりもなかった、とエンデは笑う。
「ねえちょっと! かだんちゃん!」
 リンネ・マッキリー(瞬華終刀・e06436)は声を上げた。
「やりたいこと、かだんちゃんがそうするべきだって思うこと、私だってそうするべきだと思う! でも、でもね!」
 私は、とリンネは声を張る。
「貴女が傷付くのは、悲しいから! とっても!」
 それだけは、どうか解ってと。リンネは言った。かだんにそれは届いただろうか。
 一方で、多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)はきゅっと小さな唇を引き結んだ。
(「お胸が、ざわざわするですよ」)
 知ることは時として刃だ。
 それをタタンは知っている。
 覚えている、覚えていない、解っている、解っていない――どれも違う。
 理解は及ばず、ただ感情だけがそれを識るのだ。
 うらみ、つらみ、ねたみ、そねみ、――そして怒りと、畏れ。それが自らを害すだろうおそろしいものであると、生き物であるが故の本能で。
「……大丈夫か、たたん嬢」
 九鬼塚・最後(鬼哭啾々・e56529)は訊いた。
「あっあっ、はい、だいじょうぶ、です!」
 いきます、と最後の背後から飛び出したタタンに次ぐように、最後もまた動く。
「はっははー。かだんちゃんのことだから、どうせまた無茶やってるんだろうなって思ってたけど、ほんとその通りでちょっと笑うよね」
 犬曇・猫晴(銀の弾丸・e62561)が言葉通りに軽く笑った。
「そしてはじめまして。……名前があるのかないのか、わからない君」
 猫晴は死にゆく竜人に視線を向けた。
「どうしてだろう、……すこし寂しいね。それともこれは、悲しいのかな」
 その言葉に、竜人は怨嗟を吐くような咆哮を上げた。
 おっと、と、飛んできた鋭い斬撃を躱して、猫晴はもう一度、少しだけ笑った。
「こーいうの、ワガママ、って言っていーのカナ?」
「違いねぇ」
 霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)の言葉に憩は笑う。
 友と呼ぶべきか、仲間と呼ぶべきか、あるいは――飽くまで他者と呼ぶべきか。その九十九折かだんという名の鹿角の女が、面倒なほどに世界を許そうとしていることを知っていたから。
「片方しか見たがらねぇのは、どっちだって話だけどな。――それでもきっとそいつが正解なんだろう」
 ひひと並びのよろしくない歯を見せて笑い、憩は言い捨てた。


 リンネがとんと床を蹴る。
 一瞬、それだけの初動で腐りかけた床が傾いだ。
「ちょっ――」
「リンネちゃん、まさか……!?」
「ままま待って、別に私が重いわけじゃないと思うの!?」
 タタンの言葉にリンネが慌てて応えた。
 エンデがちらと、踏み抜かれ無様に穴を空けた床を見遣る。
 そこには何の感傷もありはしない。
「――さて、『力添え』だ」
 死ぬなよ、と囁きを添え、エンデは力を籠める。床を踏み抜かぬよう、それでも一足飛びに敵――的との間合いを詰める。
「おい」
 底冷えした声だった。
 力が炸裂しようとしたまさにそのとき、かだんがエンデの手を再び払う。やはりその目に、思わず――エンデは笑った。
「かだん、……お前ほんと、すげぇ面倒臭ぇな」
 信じられないレベルで、と続けて言って、エンデは飛び退く。
 ぱら、と何かが崩れる音がした。
 竜人の瓦解する身体がたてた音だった。
「あァ、ホントに……今回俺たちができるコトって、ほとンどなくない?」
「……悔しいかな、ちょっとそんな気はするね」
 悠の言葉に、リンネが応じた。でも、とリンネは刃を抜く。
「手助け、なら」
「なのですなのです。お手伝い、くらいなら! できるでしょから!」
 タタンが祈るよう力を籠める。
 その力がだれかの背中を支えるものであることは明白だった。

「――なあ、」
 かだんは眼前の竜人に向けて言う。
「どう、したかったんだ。おまえ」
 少し、違うか。かだんはうそぶく。
「……どう、なりたかったんだ。寂しくて、悲しくて、叫びたかったのか。叫ばなくても、……聞いてほしかったのか。その痛みは、」
 瞳が眇められ、かだんは少しだけ笑った。
「……最初は痛みじゃなくて、誰かに向けたかったあったかいもんじゃ、なかったのか」
 だから、とかだんは言う。
「おまえの、あったかいもんも、全部、……いや、どうかな、全部は無理かもわからんけど。それでも、できるだけ、私が拾ってやるから。大丈夫だ」
 ――わたしは、おまえをうらぎらない。
 そう、かだんは言った。


 社に閉ざされていたらしい竜人のかつてを知る者等、誰一人としていないのだ。
 過去は語られるにつれその形を変える。
 かつて存在しただろう真実などというものは、故にこの場には存在しなかった。
 爪が空を切るおとと共に、呻くようなすすり泣きが竜人の隠されたかんばせから漏れる。身体を振るう度にぱらぱらと崩れる身体は、最早放っておいたとして死に至るだろう。
(「あまりにも、」)
 見ていて痛むと最後は思う。かだんに向かう攻撃を潰すように動いていた猫晴の眼差しは、どことなく冷えている。
 遊ぶように、不意に猫晴の攻撃が竜人へ向いた。
 ぱん、と肉の爆ぜるような音が――それは事実であったが――響き、かだんが血濡れになってまで、その攻撃から、竜人を護ったことを、猫晴は知る。
 猫晴の底冷えしていた眼差しが、ほんの一瞬汚泥に濡れた。――が、それは本当に一瞬のこと。
「ごめん、間違えちゃった」
 軽く、場違いに弾むように、ぬるく。猫晴は言った。
「ふむ。しかして――ヘリオライダー殿にも『おかえりを言わせて』と言われておる故、な。乞われたことを違えるは、俺の矜持に反する」
 最後はかだんの傷の様子を見遣り、癒しの力を飛ばす。
「せめて邪魔立てにならぬよう、やらせてもらおうか」
「なかなかどぉして、お前もあいつのこと知ってんだなぁ。なんだっけ名前」
「九鬼塚」
 憩の問いに端的に応えれば、憩は満足そうに歯を見せた。
「なんだろなぁ、私達、意味がないほどに、癒すしか能がねぇな、今回」
「まったくだ」
 最後と憩は顔を見合わせて薄く笑った。

 くるしい、さみしいと竜人は言う。
 だがそれは言葉にならず、漏れるのは崩れる音ばかり。タタンは後方から癒しを飛ばし続け、いつの間にか大きな瞳を瞬きもせず見開いていた。
 こわい、と。
 そればかり思っていた。
(「ねたむのはつらい。うらむのは、いたい」)
 お願いだからはやく終わってと、タタンの呼吸は自然と詰まる。
 そのときだった。
「あぁ、……ちょっと、悪い、おまえら」
 かだんが言った。
「寝ててくれ」


 瞬間、爆ぜるような光と爆風があたりを煽った。
 凄まじい熱量に、油断――こそしていなかったものの、全員が一気に身体を傾がせた。
「っ……じょうだん、でしょ……!?」
 リンネが血反吐交じりに言葉を吐く。
「残念ながら、冗談じゃねえんだ。……悪いな、埋め合わせはする」
 かだんは立っていた。
 竜人が放った、最期の一撃とも言わんばかりの攻撃は、支援に努めていたケルベロス達に膝をつかせるに十分な威力だった。かだんと――猫晴、エンデ、そして最後。四名だけがその発動までの所作に気付いたのだろう。
「……なんだ、どうせなら全員に寝ててほしかったんだが」
「身勝手が過ぎるんじゃねぇか、そりゃ、さすがに」
「はは。やっぱり?」
 エンデの苦笑に、かだんは応える。
「いいんだ。私の仲間は斃れないし……死んでなきゃ、ある程度、傷は癒える」
「やめてよ……致命傷だったらどうするつもり?」
「そりゃ……謝るしかないな」
 猫晴の呆れ声に、やはりかだんは薄く笑った。
 どうして、と喘ぐ数名に、かだんはごめんなと言葉を放った。
「……私が治るのも、もう、寂しいんだろう。こいつは」
 ごめんな、と。
 かだんは今度は、竜人に向けて言葉と攻撃を放った。
「おまえがほしかったものを、……送ると言いつつ、私は見せびらかしてんだな」
 拍車のかかったうらみの爪が、かだんの腹を裂いた。
 ぼたぼたと落ちる血をそのままに、かだんは脇腹に抉り込んだ竜人の腕を掴む。
「つかまえた」
 だいじょうぶ、とかだんは言った。
 微笑むように穏やかに。
「……おまえはここにいたよ」
 眠りに落ちる子供をあやすように、かだんは。

 ああ、やべえなクソ痛ぇ、と、鹿角の女は大の字に転がって言葉を吐いた。辛うじてヒールが間に合った数名も、このまま一人で帰還せよと言われたならば、それは難しかったかもしれない。
 はらわたの一部があたりに散っていた。
 誰かは、無茶のしすぎだと怒った。――リンネだ。ごめんなと、かだんは、やはり笑った。タタンは半分ほど涙を堪えながら、かだんに繰り返しヒールをかける。
 はやく、はやく、と傷をふさぐ。
 おわったから、あとは、おうちにかえるだけだから。
「しんだりしたら、ゆるさない、です……!」
「おー……」
 大の字のかだんは、タタンの頬を軽く触った。
 エンデがポケットから何かを探そうとしたらしいが、ああ、と息を吐いた。添える気だった花は戦闘中、落としたらしく――さらにその上、竜人の一撃で燃え尽きたらしい。
「ヤバい、ちょー痛いんだケド」
 コレは予定になかったと、悠は笑った。
「おうこらかだんてめぇ」
「あー……もう煩いなおまえら」
「何がうるせぇだてめぇこら、文句くらい言わせろってんだ」
「はは、」
 憩の言葉に、やはりかだんは笑った。
「大丈夫。……ちゃんと聞くから、なんだったら腸一本くらい抜いてくれてもいい」
「馬鹿じゃねぇの。腸は一本しかねぇよ」
 そうだっけ、ああ、そうだった、と。
 生きている鹿角の女は、己の顔に重そうに腕を乗せると、それから口元だけは、穏やかに笑った。

作者:OZ 重傷:桐山・憩(鉄の盾・e00836) 霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089) リンネ・マッキリー(瞬華終刀・e06436) 多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518) 九十九折・かだん(食べていきたい・e18614) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 10
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