セリカの誕生日~わんわんざんまい

作者:猫目みなも

「あら……これは」
 何気なく立ち寄った書店、何気なく手に取った雑誌、そして何気なくぱらぱらと開いて見たページ。そんな気まぐれがもたらした発見に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はぱちりと瞬いた。
 フルカラーの広告ページを穴が開くほど見つめた後、彼女はその雑誌を手に早足にレジへと向かい――そして。

「ワンちゃんたちに会いに行きませんか!」
 平素、事件の説明をする時よりも幾分目と声音とを輝かせて、セリカはケルベロスたちにそう呼びかけた。その手には、書店で買ってきた例の雑誌の広告ページが。
「世界各地原産の犬と触れ合える、犬のテーマパークなんだそうです。人懐っこくて可愛い犬たちと、ドッグランや遊歩道で一緒に遊んだりお散歩が楽しめるようですよ。ボールやフリスビー、引っ張りっこ用のロープなど、犬のおもちゃをレンタルすることもできますし、それに併設のカフェにも色々な犬をモチーフにしたメニューやお土産がたくさん……はっ。と、とにかく、犬好きにはたまらない施設のようです!」
 そわそわ。心なしか頬を紅潮させつつ、セリカはケルベロスたちを見回して。
「宜しければ、一緒にいかがですか? たまにはこうして息抜きをすることも、きっとケルベロスの皆さんにとって大切なことだと思いますので……!」
 そう言うと、彼女は深々と丁寧に頭を下げるのだった。


■リプレイ

●ふれあいプロムナード
 青く澄み渡った空、心地良い微風、今日は絶好のお散歩日和。
 遊歩道に沿って植え込まれた木々も緑から金、朱色と様々な彩りを見せ、木漏れ日のきらめきも相まって、そこはいっそ夢の世界のよう……だけれど。
「おっ、と……」
 そんな風景の中を、セルリアンはあっちへふらふらこっちへふらふら。とは言え、それも無理のない事。何せ彼の右手からは何本ものリードが伸びていて、その先に繋がれた犬たちがそれぞれにあっちへ行きたいこっちへ行きたいと目を輝かせているのだから。
「あの、大丈夫ですか?」
 後ろからかけられた声に振り返り、セルリアンはにこりと微笑んだ。左腕の中のシーズーを指先であやすようにしつつ、彼は声の主――セリカに向けて僅かに首を傾げて。
「流石にこの数を一人だと大変かも。よければ一緒に散歩しない?」
 手伝ってくれると嬉しい、と誘われると、そういう事なら是非と頷いて、セリカがいくつかのリードを受け取った。自己主張こそするもののそれなりに行儀よく人間に合わせて歩く犬たちに、動物好きの彼女は口には出さずともわくわくしているらしい。日頃よりもほんの少しだけ幼く見える気もする横顔に、セルリアンは屈託なく笑いかけた。
「今日はせっかくの誕生日だし、目一杯楽しんでこーね」
 僅かに目を見張った後、セリカが頷く。或いは彼女は、自分の誕生日だということを失念していたのかもしれない。そんな姿を前方に認めて、リュセフィーもそちらに歩み寄った。
「セリカさん、誕生日おめでとうございます!」
「ありがとうございます! まあ……そちらのチワワも、可愛い子ですね」
 頭を下げたセリカが、そのままリュセフィーの足元に視線を下げて頬を緩める。頷き、リュセフィーも犬と視線の高さを合わせるように膝を折った。
「小さくて、可愛いですよね」
 言葉の意味が分かっているのか、どことなく誇らしげにチワワがひとつ高い声を上げる。その背中を撫でながら、リュセフィーはセリカに笑みかける。
「カフェにはもう行きましたか? 景色も素敵だったし、それにクッキーがとても美味しかったんですよ」
「そうなんですか? 実は、後で寄ってみようと思っていて……ふふ、楽しみです」
 リードの先の犬たちにじゃれつかれながらそう言うセリカの髪を、秋の風が舞い上げる。散歩日和は、まだまだ終わらない。

●遊びはしゃいでドッグラン
 広いドッグランにもまた、暖かな陽光が降り注ぐ。秋の光を受けて輝く芝生の上を力いっぱい駆け回る犬たちの姿は、どこまでも爽やかだ。
「ハッハッハ、いいぞ、お前達からは芯の強い作曲センスを感じる……」
 元気いっぱいな犬たちにインスピレーションを得たサンシャインは、早速それをオリジナルの曲にしようと意気込むも。
「……イダァ!」
 友人が投げたのであろうフリスビーが後頭部を直撃し、勢いよく振り返った彼の目に映ったのは、見知った顔より少し、いや随分小さな――。
「……ん? ギデオン? 痩せたか?」
「サンシャインそれ俺じゃねえしミニチュアピンシャー」
 屈み込んで首を傾げるサンシャインの真上に、短い尻尾を振るミニピンのそれとよく似た耳を生やした影が差す。
「ギデオン貴様そっちかァ! 人に当てるんじゃない! お前がその気なら受けて立つぞ!」
 現れた本物のギデオンにひとしきり抗議するサンシャインの真横を、落ちていたフリスビーを拾った子犬が得意げに駆けて行った。
 子犬からフリスビーを受け取った悠人が、なおも騒がしい悪友たちを見やってにやりと笑う。勢いをつけて投げ放ったフリスビーに、犬たちだけでなく大の男ふたりまでもが全力で食らいつき、終いには彼らが犬そっちのけでフリスビーを奪い合う様子に、悠人はひとりくつくつと肩を揺らして――ふと、彼は振り返る。その視線の先に、どこか微笑ましげに彼らを見守るヘリオライダーの姿があった。
「よ、セリカちゃん。はいこれ、誕生日おめでと」
 足元に戻ってきた子犬を抱き上げ、花を持たせるようにしてセリカの前に差し出すと、少女のような感嘆の声が零れた。少しばかり照れたように贈り物を受け取るセリカの姿に、あっとサンシャインが遠くから声を上げて。
「いつの間にか悠人がリュミエールさんに声を掛けているじゃないか! 私からもプレゼントを一曲!」
「……って、待て俺もセリカにおめでとう言う!」
 負けじとばかりに駆け寄るギデオンの姿は、どことなくこのドッグランを楽しげに走り回る犬たちを思わせる(実際、彼は犬のウェアライダーではあるけれど)……と、セリカが思っていたかどうかはさておいて。
「おっと危ねぇな」
「イダァ!!」
 悠人の足が勢いよく走ってきたサンシャインにめり込み、軽く後ろへと吹っ飛ばす。びっくり顔の犬たちとセリカに詫びを入れつつ、悠人は笑顔で手を振って。
「あ、ペットダメだったよねここ、ごめんね?」
「いや誰がペットだよ!? 人間! 人間!!!」
 さらりと発された冗談にすかさず突っ込むギデオンの声に、同調するようにミニピンが一声ワンと吠える。まるで自分のことも人間だと思っているかのようなその声と顔つきがおかしくて、誰からともなく笑い声が上がった。
「ふぅ……」
 ひとしきりミリムのもふもふを堪能し終えた後、リリエッタはひとつ長い息をつき、真剣な目をして屈み込む。その目の前に居並ぶのは、屈んだ彼女を見下ろせるほどに大きな犬からバッグの中に納まりそうな小犬まで、大きさも犬種も様々な犬たち。
「むむむ、まさか私もモフモフされる側だったなんて……まあ、リリちゃんが楽しそうでしたし、よしとしましょう!」
 そう言うミリムが注目を促すように犬用のおもちゃを手の中でプギプギと鳴らすと、さらに数頭の犬が寄ってきた。そちらにも目をやって、リリエッタは無表情に唇を開く。
「おまえ達、今日はセリカの誕生日。リリなんかと遊んでないでセリカが来たらお祝いするんだよ」
 分かったと言わんばかり笑顔のような表情で尻尾を振る犬、不思議そうに小首を傾げる犬、後ろ足で耳の後ろを掻き始める犬。一頭ごとに個性も様々な反応を微笑ましげに見守っていたミリムが、あ、と声を上げて一点を指差した。その先には、わんわん天国のような光景に目を止めたセリカの姿が。
「ほら、来ましたよ! 突撃ー!」
 号令にすかさずリリエッタは立ち上がり、犬たちに向けて頷く。そして――。
「きゃあ!?」
 驚いたと言うよりはむしろ嬉しそうな悲鳴に、ミリムが声を立てて笑う。犬たちに飛びつかれ、じゃれつかれるセリカに駆け寄って、ふたりは心からの祝福を述べた。
「もふもふ天国誕生日プレゼントですお誕生日おめでとう!」
「セリカ、誕生日おめでとう。ほら、わんこ達もお祝いしてくれてるよ」
「ふふっ……ええ、本当ですね。ありがとうございます!」
 そんな楽しげなじゃれ合いを遠目に見て、エルピスは軽く拳を握る。
「近所のわんこはワタシを見ると怖いって逃げちゃうの……! 今日は沢山遊ぶのよ!」
 あれだけ人懐っこい犬たちなら、きっとエルピスのことも怖がらずにいてくれる筈。そんな希望を更に確かにするように、大きな影が彼女の目の前を勢いよくよぎった。
「わ、人懐っこいとは聞いてたけど、すげえ熱い歓迎だ」
 声を掛けて早々に飛びついて来たハスキー犬を抱き留めながら、そうヒノトが笑う。彼の促すような視線を受けて、エルピスもハスキーと目を合わせて。
「ワタシとお友だちになってくれる?」
 問いかけると、強面の大型犬は千切れんばかりに尻尾を振った。ぱっと目を輝かせて胸を張るエルピスに、ヒノトが大きく頷く。そうして彼の投げたフリスビーに、ハスキーは瞬時に追いついて華麗に空中キャッチ!
「次はエルピスが投げてみないか?」
「良いの?」
「ああ、さっきの俺よりもっと遠くに飛ばしてくれ!」
 それじゃあ、と投げたフリスビーに追いすがるのは、ハスキーだけではない。気付けばヒノトの足元にいた他の犬たち、そしてヒノト自身もいつの間にかフリスビー追いに加わって、けれど獲物を捕まえたのは、やっぱり誇らしげなハスキーで。
「……狐姿ならもっと速いんだ……!」
「フリスビーが好きな子、沢山いるのね」
 負け惜しみを零すヒノトの姿に、エルピスは楽しげに笑ってボールを放る。
「それ、ヒノト! キャッチキャッチ!」
「お、俺は犬じゃないぞ!」
 口では言い張りつつも、ヒノトの体は反射的にボールを捕まえてしまう。早く次を投げろと言わんばかりのチワワにも小さく笑って、彼は手の中のボールを軽く投げ上げた。
 今日はめいっぱい、日が暮れるまで楽しむとしよう。だって、せっかくこんなに遊べる日なのだから!

作者:猫目みなも 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月8日
難度:易しい
参加:9人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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