崩れ去るいのち

作者:坂本ピエロギ

 地球上のいかなる生命も存在を許されない白雲の海。
 その雲上で『先見の死神』プロノエーは、来客のドラゴンに向かって静かに口を開いた。
「お待ちしていました、ジエストル殿。此度の贄となるのは、その者でしょうか」
「そうだ。お主の持つ魔杖と死神の力で、この者の定命化を消し去ってもらいたい」
 プロノエーの視線の先、ジエストルと呼ばれたドラゴンは頷いた。
 その後ろからは定命化で衰えた龍が1体、よぼよぼとついてくる。命の弦の綻びた、ただ死を待つだけの龍が。
「これより、貴方の肉体を強制的にサルベージします。貴方という存在は消え去り、残るは抜け殻のみ。よろしいですね?」
「お願い申す。我らドラゴンの……繁栄のために……」
 龍の言葉にジエストルは小さく頷き、プロノエーを振り返る。
「では、やってくれ」
「承知しました」
 少女は魔方陣を展開すると、龍の体を冷たい光で包み込んだ。
 苦悶に呻く龍の体が、水をかけられた砂城のように崩れていく。程なくしてそれは定命化の鎖から解き放たれ、新たなデウスエクスとして生まれ変わった。
 地獄の炎と混沌の水を宿した醜悪な龍、獄混死龍ノゥテウームとして。
「サルベージは成功、定命化からも解き放たれました。ですが……」
「ああ、この同胞はすぐ戦場に送ろう。ただし完成体の研究は急いでもらうぞ」
 ジエストルはそう言い残して、ノゥテウームを連れて雲の下へと降りて行った。

「緊急事態です。東京都立川市のターミナル駅がドラゴンの襲撃を受けるようです」
 ヘリオライダーのムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)は集合したケルベロス達に単刀直入に要件を告げた。
 ムッカの声には明白な焦りの色がある。それだけ状況が切迫しているからだ。
 ドラゴン――獄混死龍ノゥテウームの出現までに残された時間は少なく、市民を避難させる余裕はない。このままでは、多大な犠牲者が出るのは免れ得ない。
 ムッカはヘリオンのモニタにノゥテウームの映像を投射し、過去に得られた情報を踏まえて敵の情報をケルベロスに伝え始めた。
「ノゥテウームの全長はおよそ10メートル。地獄の炎と混沌の水を纏い、骨の露出した腕の薙ぎ払いを織り交ぜて攻撃してきます。ドラゴン種族の中では力は弱いようですが、それでもなお容易な相手ではありません。十分に注意して下さい」
 ノゥテウームは戦闘開始から8分が経過すると自壊して死ぬことが明らかになっている。力及ばず撃破に至らずとも、その間だけ敵の攻撃を引き受けられれば作戦目標は達成だ。
「民間人に多数の犠牲が出た場合、作戦は失敗となります。敵はケルベロスである皆さんが仕掛けた攻撃に最優先で反撃しますが、それを脅威でないと感じれば躊躇なく市民を攻撃するでしょう。初手から全力で、攻撃を浴びせ続けるようにして下さい」
 ムッカは説明を終えると、自分の願いを託すようにケルベロス達を見つめて言った。
「この悲劇を防げるのは、ケルベロスである皆さんだけです。よろしく頼みます」


参加者
霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)
春日・いぶき(遊具箱・e00678)
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)
クラト・ディールア(双爪の黒龍・e01881)
ユリス・ミルククォーツ(蛍火追い・e37164)
八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)
カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)

■リプレイ

●一
「ここは危険だ! 俺達ケルベロスに任せて、急いで退避してくれ!」
 カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)の声が、白昼の街中にこだました。
 ここは東京都立川市。ターミナル駅前のロータリーは、空から降ってきた巨大ドラゴンの出現によって瞬く間に大混乱へと陥っていた。
「後はぼくたち、ケルベロスが受け持ちます。落ち着いて」
 ユリス・ミルククォーツ(蛍火追い・e37164)は、突然の出来事に狼狽える市民を冷静な言葉で落ち着かせ、安全な方角へと逃がしていく。
 今にも人々に襲いかかりそうなドラゴン――獄混死龍ノゥテウームを見上げて、ユリスはその異様な姿に眉を潜めた。地面を這い回り、髑髏を思わせる頭部からあげる龍の咆哮が、あまりにも苦しそうに聞こえたからだ。
(「竜は宿敵。情けをかける気はありませんが、徒に苦しませる気はありません」)
 武器を掲げるユリスの隣で、ロストーク・ヴィスナー(庇翼・e02023)がボクスドラゴンの『プラーミァ』を地面へと降ろし、ノゥテウームの虚ろな目を見つめた。
 知性も生きる術もない、破壊の化身。何らかの実験によって生み出されたであろう、歪な存在。自然の摂理を踏みにじるようなその姿に、ロストークは哀れみを覚える。
 いったいあの龍の目に、地球という星は、そこに生きる自分達はどう映っていたのか。
「ああ。分かっているよ、プラーミァ」
 感傷に浸っている時ではない、そう言わんばかりに見上げる火竜に頷いて、白い手袋をはめたロストークは槍斧『ледников』の矛先をノゥテウームに向ける。
「タイムキーパーは僕がやる。奏多さん、万一の時はよろしくね」
「ああ、任せろ。あの龍も刻を区切られた命、為したい事もあったんだろうが――」
 霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)は言葉を切り、チェーンソー剣のモーターを入れた。
「――何も、成させない」
 破壊のために在るドラゴン。守るために在るケルベロス。お互い決して交わらぬならば、あとは獲り合うしか無い。奏多はそう考える。
「……御託はこの辺で。アンタは必ず、此処で倒す」
 人の消えたロータリーで、奏多はノゥテウームと対峙した。
 駅前のビル街やターミナル駅には、未だ多くの人が取り残されているはずだ。犠牲者を出さないためにも、何としてもこの龍を、ここで食い止めねばならない。
「何度も何度も……しつこいんですよ……!」
 シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)の顔を覆うフルフェイスの隙間から、デウスエクスを呪う言葉が地獄の炎と共に吐き出された。
 敵はどの道、あと数分しか生きられない。だが、好き放題暴れさせて自死させる気など、シルフィディアにも仲間達にも端からない。
「何一つとして貴様らの思い通りにはさせませんよ……今すぐぶっ殺してやります……!」
「8分では遺書一つ満足に書けないでしょうに。死ぬために生かされるなんて……まるで、昔の自分を見ているようで親近感すら覚えますよ」
 春日・いぶき(遊具箱・e00678)は小さく嘆息し、後列からノゥテウームを見据えた。
 ノゥテウームが何者の手で如何にして生み出されたのか、それをいぶき達は知らない。
 だが龍が語らずとも、ケルベロス達は誰となく解していた。このドラゴンが行わんとする破壊も殺戮も――それは、ドラゴン自身の意思であろうことを。
「それでいいんですね、貴方は」
 そのことだけを告げて、もはや語ることはないといぶきは武器を手に取った。
 最前列に立つクラト・ディールア(双爪の黒龍・e01881)は、剣の切先をノゥテウームへと向けて、戦いの始まりを告げた。
「黒き竜の家系。大切な絆を守るためにこの牙を振るいましょう!」
 街を、命を、あらゆるものを叩き潰さんと迫る獄混死龍ノゥテウーム。
 それら全てを守り通さんと立ち向かうケルベロス。
 両者の戦いの火蓋は、今ここに切って落とされるのだった。

●二
「オオオオオオオオオオオ!!」
 ノゥテウームの口が火花を散らした直後、真っ赤に伸びる炎の舌がケルベロスを襲った。
「ぐう……っ!」
 奏多を狙うその一撃を、自ら盾となって庇うユリス。かつて熊本で戦った魔龍とは比べるべくもないが、その圧倒的な火力は紛れもないドラゴンのものだ。
 一瞬の油断が命取りになる――そう思い、改めて気を引き締めるユリスの背後では、炎を逃れた奏多がスターサンクチュアリの保護で前衛を包み始めた。
「すまない、今回復するぞ」
 ルーンアックスを手に、ノゥテウームへ飛びかかるカーラ。後衛からシルフィディアが、変形したドラゴニックハンマーで竜砲弾を次々と髑髏めがけて撃ち込んでいく。
「1分1秒でも早く! 片付ける!」
「死ね……くたばれ……この塵虫ケラ以下のクズ野郎……!!」
 髑髏の骨が叩き割られ、腐った腕の肉が砲弾で吹き飛ばされるも、ノゥテウームの攻勢が衰える様子は全くない。ロストークは、後衛から吐き出されるプラーミァのブレスと共に、エアシューズで敵に接近し、流星の蹴りを叩き込む。
「オオオオオオオオオ!!」
 怒りを孕んだ声が、龍の口から迸った。
 追いかけ、いたぶり回した挙げ句に命を奪うはずだった小虫が、牙を剥いて襲いかかってきた事に対する苛立ち。自分に狩られる獲物の分際で生意気な――そんな感情だった。
「甘く見ると、悲惨な事になりますよ? 今よりももっと――ね」
 いぶきのゴーストヒールが前衛へと降り注いだ。奏多を庇ったユリスの麻痺は癒えたが、敵は腐ってもドラゴン。炎で受けたユリスの熱傷は、いまだ塞がっていない。
「だったら、こいつの出番だな」
「皆さん頑張って! どんどん攻撃しましょう!」
 八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)が、ユリスと共に爆破スイッチを起動した。
 黒煙と土埃の舞うロータリーをカラフルな煙幕が包み込むのを見て、クラトは斬霊刀を構えると、ドラゴニアンとして顕現させた角と翼から生じる蒼い炎を刀へとたぐり寄せる。
「ドラゴン……! 朽ち果てる前に俺の刀で、倒してみせます!」
 クラトが振るう刀から生じた蒼い衝撃は、灼熱の炎と化してノゥテウームの体を捉えた。
「ガアアアアアアアアアア!!」
 獄混死龍は『初ノ式・風波爪咒』の斬撃に悶え狂いながら、混沌の水をクラトのいる前衛へ次々と飛ばしてきた。ロストークはクラトを庇い、氷に身を侵された体で地面を蹴って、ледниковを手にノゥテウームへと迫る。
「これで……っ!」
「加勢するっすよ、ヴィスナーさん!」
 その後ろでは如意棒のデータを弾丸に付与したカーラが、ロストークの振り下ろす一撃に合わせて『ZigZag弾』を発射した。
「穿け、刻め、弾丸!」
 ルーンアックスの直撃で、砕け散るノゥテウームの頬骨。そこへ食い込んだカーラの弾がジグザグの刃に変形し、音を立てながら硬い骨を削ぎ落としていく。
「死ね……死ね……このゴミめ……!!」
 時空を凍結させる力を込めた弾を発射しながらシルフィディアの悪罵はなおも続く。体中の地獄炎を燃え盛らせて容赦のない射撃を浴びせるも、ノゥテウームに怯む様子はない。
「さあ、さっさと引導を渡してやろうぜ」
 奏多は癒しの雨を前衛へと降らしながら、いぶきが大地から抽出した魔力によるヒールと共に、彼らの身を覆う氷を溶かしていった。
 敵の攻撃は妨害に優れるポジションからであり、8ターンの間ならば辛うじてダメージをフォローする事ができそうだ。序盤に付与したBS耐性が作用し始め、火力で押し切られての全滅という可能性は避けられたようだった。
(「……とはいえ、本当の勝負はここからでしょうが」)
 と、いぶきは思う。
 あくまで今の自分達は、守りを固めた段階。負けはないが勝ちもない、そんな状態だ。
 そして時間切れによるノゥテウームの自壊を待つ気は、いぶきにも仲間達にも、ない。
 狙うは敵の首級。完全勝利だけだ。
「ヴィスナー君。いま何分だ?」
「もうすぐ4分……だね」
 ロストークの返事を聞いて、紫々彦は獰猛な笑みを浮かべる。
「折り返しか――面白くなってきた!」
 ルーンアックス『玄帝』を振りかぶって突進する紫々彦。真正面から飛んでくる獄混死龍の攻撃を巧みにかい潜り、振り上げる一撃を下顎から見舞う。
 氷に包まれ体勢を崩す敵めがけ、達人の技を修めた地球人、その無念の魂を宿したユリスと喰霊刀を抜いたクラトが距離を詰め、エネルギー弾と斬撃の嵐でドラゴンを包み込む。
「龍死しても光は死せず。全てを屠すまで輝き続ける。戦い続ける」
「この刀は、ドラゴンの魂を貪るための……モノです」
 猛攻撃によって付与した重度の凍傷。そして休む間もなく襲い来るケルベロスの攻撃が、ノゥテウームの身を次第に蝕み始めた。

●三
「これで、どうだ!」
 ルーンアックスを手に、カーラがノゥテウームへと突っ込んだ。
 前衛めがけて薙ぎ払われる骨腕によって切り開かれる傷にかまうことなく、カーラはそのまま横転したバスを踏み台に跳躍。獄混支流の額、そのど真ん中めがけて斧を振り下ろす。
「オオオオオオオオオオ!!」
「燃え尽きろ……この薄気味悪い腐れドラゴンめ……!」
 骨片をまき散らし、暴れ狂うノゥテウーム。地獄の炎をドラゴニックハンマー『墜龍槌』に纏わせて、シルフィディアは全力で武器を振り抜いた。
 防御を剥ぎ取られ、分厚い氷に覆われたノゥテウームの体から巨大な火柱が立ち上った。バッドステータスを取り去る術を持たずにもがき苦しむドラゴン。悪臭を放ち剥がれ落ちていく腕の肉、その隙間にユリスが狙いを定める。
「子供だからって、甘く見ないで下さい!」
 回転体当たりを食らい、バランスを崩すノゥテウーム。その口から漏れる悲鳴から次第に力が失われつつあるのを、スターゲイザーを叩き込んだロストークの耳は聞き逃さない。
(「もうすぐ7分経過……か」)
 それまで回復に回っていた奏多が攻撃へと転じた。龍の頭と言わず腕と言わず、どこでも当たれとばかり繰り出されるチェーンソー剣の斬撃は敵の体をボロ雑巾のように切り裂き、全てのバッドステータスを最大まで活性化させている。
「さて……そろそろ僕も攻めるとしましょうか」
 いぶきは炎を浴びたクラトのパラライズをサキュバスミストで取り去ると、二振りの惨殺ナイフを手に取った。最後の1分、彼も攻めに徹するためだ。
「ぬんっ!」
 紫々彦がまたも、ルーンアックスをノゥテウームめがけて振り下ろした。跳躍からの一撃を受け続けた黒い髑髏は、あちこちが削られて原型を失いつつある。
「これで……!」
 クラトの絶空斬が骨腕を突き刺すのと、混沌水の凍結が紫々彦ら中衛を覆い尽くすのは、ほぼ同時だった。
「二人とも、大丈夫っすか!?」
 カーラの言葉に、紫々彦と奏多は「問題ない」と答える。
 残った時間はあと1分。ケルベロスは防御も回復も振り捨てて、最後の攻勢に出た。
「こいつで……砕け散れ!」
 戦斧を担ぎ、全力で振り下ろすカーラ。一撃を受けて悶絶するノゥテウームの眉間に照準を合わせ、シルフィディアの身を纏う炎が一際激しく燃える。
「この死に損ないの生ゴミめ……地獄に堕ちて、死に絶えろ……!」
 露出させた地獄の片腕が、大型の杭打ち機へと姿を変えた。空を舞うシルフィディアは、敵を見下ろす形で額に杭打ち機の先端をコツンと接触させ、
「爆ぜて消え去れゴミめ……!」
 暴走させた鉄杭で額を貫いた。
 地獄の血液で作られた鉄杭は、ノゥテウームの頭蓋骨の中で暴れ狂い、その中身を爆破、完膚なきまでに破壊する。直撃を受けたノゥテウームは、この世のものとも思えぬ悲鳴をあげて藻掻き、のたうった。
「最後の一手は全力で。せめてもの餞です」
 いぶきの振るう惨殺ナイフに合わせて飛んでいく虚無球体。それに続くように、奏多の放つ流星蹴りが、紫々彦の振り下ろすルーンアックスによる達人の一撃が、三本の矢と化してノゥテウームをその場に縫い止める。
「今、その苦しみから解放してさしあげます」
 無念の魂を宿らせたユリスが、バトルオーラ『Ghost fake』から超特大のエネルギー弾を生成。達人の魂が導くまま、掌に浮かぶその弾をノゥテウームめがけて発射した。
 身に宿した魂が消えていく感覚のなか、ユリスの眼前に映るのは、直撃を受けたドラゴンがあげる特大の断末魔だった。
「ギエエエエエエエエエエエエエ!!」
「謡え、詠え、慈悲なき凍れる冬のうた」
 ロストークの詠唱に反応しледниковのルーンが開放された。投擲した槍斧はドラゴンの目へと突き刺さり、昇華によって生じた氷晶が龍を凍りつかせていく。
 ますます激しく轟く咆哮に、ロストークと仲間達は獄混死龍の感情を強く感じた。
 それは、憎悪。
 己の生が無為に終わる事への、理不尽に対する嘆きだった。
 それを聞いたクラトは、
「やはり、ドラゴンは……嫌いです」
 そう小声で呟いて喰霊刀に蒼い炎を纏わせると、
「ここで――貴方を葬ります!」
 渾身の力を込めて、初ノ式・風波爪咒の衝撃波を撃ち込んだ。
「ギエエエエェェェェ――ェェ……」
 額を割られたノゥテウームは全ての息を吐き切ると、それきり二度と動くことなく、躯となって倒れ伏したのだった。

●四
「み、みなさん大丈夫ですか……?」
 静寂の訪れた街中で、シルフィディアは真っ先に口を開いた。
 戦闘が終わり、彼女は気弱で臆病で、そして仲間想いの少女へと戻っていた。
「ありがとな、大丈夫だ。しかし、あれが獄混死龍ノゥテウームか……」
 シルフィディアに笑顔で応じて、現場の周りを見回すカーラ。そこには異形の龍が残していった破壊の爪痕が、生々しく刻まれている。
 道路はひび割れ陥没し、駅へと続くデッキは崩壊し、横転した車両は原型を失い、まるで天災にでも見舞われたような惨状だ。
「これでドラゴンの中では下位の実力……ぞっとしないな」
「存在自体が災害だからな、奴らは」
「本当っすね……そういえば、市民の人達は?」
「犠牲者ゼロだそうだ。さっき警察に連絡した時に確認しておいた」
 惨劇の記憶から抽出した魔力で道路を修復しつつ苦笑を浮かべる紫々彦。これだけの破壊がまき散らされながら死者がゼロで済んだことに、あらためて肝が冷える思いがする。
 一方いぶきは、完全に崩れ去ったノゥテウームのコギトエルゴスムの残骸を見下ろして、小さなため息をついた。
 何か手掛かりがえられればと思い、敵の躯を探っては見たものの、有益な情報は何ひとつ得られなかったからだ。さすがに機密を体に残すほど、敵もマヌケではないということか。
(「獄混死龍……いったい誰が何のために」)
 現場の修復を終え、龍の降ってきた白雲を見上げるいぶき。
 秋風に吹かれたコギトエルゴスムの破片が、青空へ溶けるように消えていった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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