ミッション破壊作戦～触手は熱を帯びて赤く光る

■リプレイ

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　８人は海沿いの倉庫街にある魔空回廊をバリアごと叩き割るべく、石英で宮城県上空へ差し掛かった。
「寒っ……さすがは１１月の東北、しかも上空」
　燈家・陽葉（光響射て・e02459）は、眼下に漁港を臨みつつも、余りの寒さに両手で自分を抱き締める。
　絹を縒ったような真っ白な髪と陽の光そのものな金色の瞳が特徴の、ボーイッシュな少女だ。
「そんな幻影で女の人達を攫うとか、許せないんだから」
　陽葉は覚悟を決めて空へ身を躍らせると、女の敵たるオークへ憤怒の声を張り上げる。
「５０％の完成度っていうか体の半分しか覆えてないじゃん。まぁ、１％でも１００％でも許さないけれど」
　実に鋭いツッコミだが、陽葉が見たのはオークの幻術使いがイケメンに化ける瞬間を捉えた写真である可能性も否定できない。
「というかそもそも漁港にイケメンなんているわけないでしょー！？」
　最後はクワッと目を見開くや、漁港勤務の男性が聞いたら抗議しそうな怒号と共に、グラディウスをバリアへぶっ刺す陽葉。
　内容の真偽はともあれ本人の怒りの強さがそこそこ伝わってきたので、グラディウスの刀身へグラビティも半分ぐらい溜まっていた。
「腐れ豚との対決だが……今回は、女性が一人しかいないみたいだから、変な事をされない様に守らねえとな」
　水無月・鬼人（重力の鬼・e00414）は、予め調達した漁港の地図に目を通す傍ら、８人の中で紅一点な陽葉を気にかけていた。
「星を又にかけた強制猥褻罪がどれだけ罪深いかも、きっちり教えてやる！」
　仲間と打ち合わせた脱出経路を頭に叩き込むと、オークの幻術使いへの激しい憤りをぶつけるべく、颯爽と宙へ駆け出す鬼人だ。
「イケメンだろうが、なんだろうがよ。異性に優しくできない奴が気取ってるんじゃねぇぞ！」
　普段はただただやる気のない彼だが、ここぞという時は真面目に他者への思いやりや男の生き様のなんたるかを説くのだから、妙に格好良く見える。
「貴様らの価値観は知らんが、この星に来た以上、この星の規則にしたがってもらう！」
　しかも、オークらと地球に住む人々との価値観、倫理観の違いを理解した上で、まるで論戦のように要求を言葉で突きつける理知的な一面をも覗かせた。
「てめぇら、動く強制猥褻罪を排出するこのゲートを完全に破壊してくれるわ！」
　そして、鬼人はグラディウスを力強く握り締め、男らしく魔空回廊の破壊を宣言してバリアへ特攻。
「燃やし尽くせぇ！」
　グラビティの輝きに満ち満ちた刀身をバリアへ目一杯叩きつけて、大きな蜘蛛の巣状のひび割れを作った。
「幻影で惑わせようとは、んっとにせこい奴だぜ」
　木霊・ウタ（地獄が歌うは希望・e02879）は、そのストイックな外見に違わぬクールな物言いでオークの幻術使いを唾棄すると、
「豚野郎を焼き豚にしてやるぜ」
　義骸に頼らず赤々と燃え盛らせている右腕の地獄を外気に晒して、威勢良く石英から降下した。
「無理矢理子どもを作らせて、しかも殺してグラビティ・チェインを得ようとか虫唾が走るぜ！」
　憤懣やるかたないウタの咆哮は、オーク種全体に当てはまる、誰もが思っている嫌悪感に相違ない。
「人は皆、一人一人が生きて、それぞれの人生を歩んでいるんだ——それをお前らの好きにされて堪るか！」
　それに加えて、ウタは熱い持論をグラビティに変え、グラディウスの刀身へなみなみと注ぎ込む。
「お前らの存在を許せない怒りと！　命を守る覚悟と！　それらが響き合って紡ぐ未来へのハーモニーを！　耳かっぽじって聞きやがれ！」
　流石はミュージックファイターと言ったところか、詩的な魂の叫びを発するウタ。
「地獄の番犬の牙が！　クソ豚の喉を喰い破ってやるぜ！」
　それでいて、何を言いたいのか解り易く、論旨の散逸を起こしていないのは見事である。
「ぶっ潰れろ！」
　ウタは男らしく大喝して、グラビティに充たされたグラディウスの白刃でバリアへ斬りかかり、深い亀裂を残した。
「ここは野放しにはできねえからなァ！　魂の叫びを解放して絶対にぶっ潰す！！」
　ククロイ・ファー（ドクターデストロイ・e06955）は義に篤い彼らしく、回廊破壊に闘志を燃やしていた。
「超絶イケメンの幻影だァ！？」
　勢い込んで石英から飛び降りた際にも、まず口から出たのがイケメンに対する反発心であるだけ、世のモテたい男性の気持ちを我が事のように理解する人間味溢れたレプリカントだ。
「全てのモテたい男達を愚弄するその所業！　完成度が５０％だろうと許すわけにはいかねえェッ！！」
　もはや悔しさにも似た憎悪から血の涙を流しそうなぐらい、怒りに震えるククロイはオークの幻術使いに聞こえよと喉を枯らした。
「石巻市に住む人達の暮らしの為にも！　女の子達が犠牲にならない為にもッ！！」
　無論、彼の頭の中はモテたい男達の屈辱に占められている訳じゃなく、直接辛い被害を受けた女性の心の傷や不安に怯える石巻市民の事も慮っている。
「そして全てのモテたい男達の明日の為にもッッ！！！　この魔空回廊は絶対にぶっ壊すッ！！！」
　それでいて、本心の吐露でなければグラビティを充填できないと解っているからこそ、やはり最後はモテたい男達の代弁で締めた。
「唸れ！　グラディウスッ！！　皆の未来を切り開く為にィ！」
　斬りつけたグラディウスの刀身——溢れそうなグラビティがカッと強い光を放って、眩い一太刀が厚いバリアを引き裂く。
「終焉を与える一撃を！　放てェェェッ！！！！」
　身体の白い紋様が淡く発光するほど絶叫するククロイ。
　彼のモテたい想いに呼応したグラディウスは、一際大きな刀傷をバリアへ刻みつけた。
　一方。
「オークの魔空回廊もまたちらほら見つかってきている……」
　常々クールな佇まいを崩さない村雨・柚月（黒髪藍眼・e09239）も、倉庫街を空から見下ろすその表情は険しかった。
「増加を止める手が見つかっていない以上、１つ１つきっちり潰していかないと」
　何せ、ミッション破壊作戦へ積極的に参加している柚月だから、グラディウスを手に飛び降りる姿も不思議と貫禄を漂わせている。
「妙な魔法で女性をかどわかす悪党どもが！」
　寒さ身に沁む風圧にも負けじと、日頃の冷静さをかなぐり捨ててオークの幻術使いへ激昂する柚月。
「不完全な魔法だろうが一般人には脅威なんだ。完成したらそれこそ女性は街を歩けなくなる——安心のない街なんかにしてたまるかよ！」
　怒りに我を忘れたようでいて、オークの幻術使いによる被害の大きさを筋道立てて説明してのけるのが、柚月の頼もしさである。
「それに、男性だってオークだの何だのとあらぬ疑いをかけられる。女性だけが被害者じゃねぇんだ！」
　しかも、オークによる直接的な被害者である女性のみならず、間接的に二次被害を被る男性の事まで考慮できる客観性の高さ、頭の回転の速さも素晴らしい。
「つまるところ、お前らは街の全ての人々にとって排除すべき敵なんだよ！　だからここでぶっ潰す！」
　もしもビルシャナ信者相手だったらしっかり彼らを動揺させられそうなほど論理的な魂の叫びを引っさげて、柚月はグラディウスを振り下ろす。
　彼の強い義憤はグラディウスにも伝わり、グラビティが満杯まで溜まった刀身はバリアへ確かな風穴を開けた。
　他方。
「偽イケメンとかいう厄介な手段、いずれ完成して応用とかされたら困るからな。ここで阻止したいところだ」
　ギメリア・カミマミタ（バーチャル動画投稿初心者・e04671）は、愛猫ヒメにゃんを肩に乗っけて、魔空回廊のバリア蔓延る漁港をメガネの奥から見据えた。
　かつてはデウスエクスに洗脳され暴走していたが、猫動画の愛らしさへ魅せられたのをきっかけに正気に戻ったという自宅警備員だ。
「この術により起こりえるあらゆる悪行を防ぐ為、この地は必ず奪還する！」
　今は心より猫と平和を愛するギメリアだから、石英から身を投げ出しての宣誓も相当に熱が篭っている。
「何より、猫の飼い主の女性がオークに騙し連れ去られて猫が悲しむような事態は絶対に阻止するぞッ！」
　この辺りは猫を愛するギメリアなればこそ思い至った危惧だが、なるほど、オークによる被害が人間のみに留まらぬのは事実だろう。
　女性が攫われて辛い思いをするのは、本人だけとは限らない。女性の家族や友人、ペットとて我が身を裂かれるほどに辛いのだ。
　ギメリアのグラディウスによる眩い一閃は、魔空回廊のバリアへ一筋の亀裂を疾らせた。
　彼の猫へ対する真摯な愛情を表したかのように、真っ直ぐな刀傷を。
「戦闘後にヒメにゃんをモフらせてもらう為、迅速かつ被害なしで行くぞ！」
　乗降口から漁港を見下ろして、気合を入れるアルベルト・ディートリヒ（昼行灯と呼ばれて・e65950）だが、そのイケメンぶりと口から飛び出した彼にとってのご褒美の落差が凄まじい。
　何せ、現場上空へ到着するまでの間、ギメリアの膝の上に収まったヒメにゃんをチラチラ眺めているぐらいに超絶猫ラブを公言する彼だ。
　しっかと言質を貰えた戦闘後のお楽しみを心の糧に、やる気満々でグラディウスを構えて段差を蹴るアルベルト。
「石巻はいい所だな……海の幸に恵まれとるし、一押しは何と言っても猫島！」
　やはり、彼が石巻市の魔空回廊破壊へ挑んだ一番の理由も、猫絡みであるらしい。
「決して薄汚いオークがうろついていい場所じゃない！　拐った女達も返してもらうぞ」
　猫の楽園たる猫島へ尽きぬ親しみと憧れを抱くアルベルトだからこそ、オークの幻術使いの跳梁跋扈する現状が殊更許せないのだろう。
「卑怯のみならずセコい手で俺達が脱力するとでも？」
　アルベルトは、幻術を使わずともイケメンな自分と仲間——偶然にも参加者の内７人はイケメン男子、１人は清楚な美少女だ——の容姿、ひいては外見に滲み出る内面の清廉さを誇ってから、オークの幻術使いへ怒りをぶつける。
「全身全霊をかけて汚物は消毒だ――――！！！」
　グラディウスもアルベルトの魂の叫びへ答えて、グラビティで満ちた刀身がバリアへ深い亀裂を刻みつけた。
「水平線まで広がる海。良いねぇ、これぞ冒険の始まりじゃねぇか」
　結城・勇（贋作勇者・e23059）は、自信に溢れた面持ちで眼下に広がる青い海を眺めていた。
「こう言う高ぇトコからの景色ってなぁ、やっぱ格別だわなぁ」
　しみじみと呟いてから、決意を固めて空へダイブする勇。
「お前らにゃ分かんねぇだろうが、港ってのは勇者にとっちゃロマンの塊なんだよ！」
　彼がオークの幻術使いへぶつける怒りは、仲間達と方向性の異なる、一種独特なもの。
「海を越えてやってくる外国の珍しいもんとか、美味い魚。外人の美女だって構わねぇ。そう言うもんと出会える場所なんだぜ」
　そう。どうやら勇は港への思い入れが強いらしく、オークの幻術使いのせいで港が卑劣な犯罪の温床と化すのを何より許せないようなのだ。
「それに港は冒険の始まりの場所でもあるんだ。国内の冒険を終えて、海を越えて外を目指すってなぁＲＰＧじゃ鉄板だろうが？」
　勇の理屈はげにご尤もである。ＲＰＧにおいて港町からの船出と言えば、一気に行動範囲が広がる冒険の節目であり、印象的なイベントも多い。
「そういうロマンも理解しねぇで、ただのアジト代わりにしか利用しねぇ。心意気の無ぇてめぇらみてぇなザコがイケメンになんのは、一生賭けても無理ってもんだ！」
　とにかく港に見果てぬ夢を抱いている勇は、オークの幻術使いの港の利用方法、ひいてはイケメン化魔法から窺い知れるゲスい根性へ激怒し、大声で非難した。
　グラビティが潤沢に注がれたグラディウスも煌々と輝き、勇の一太刀に合わせてバリアへ広範囲に及ぶヒビ割れを起こし、そして。
　バリィィン！！
　８人の固い決意が通じたのか、広がったヒビ割れは幾筋もの亀裂や風穴へ振動を伝え、遂にバリアを崩壊させ、強襲型魔空回廊も機能停止させるに至った。

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　轟々と雷が落ち爆炎が吹き荒れる中、スモークで視界の悪い道のりを８人は駆ける。
　そこここから聞こえるオークの悲鳴を尻目に、まずは突き刺したグラディウスを回収。
　ギメリアは懐に仕舞い込み、アルベルトやウタは落とさぬようベルトに固定。
「いよっしゃぁああ！」
　ククロイも破壊成功に快哉を叫びつつ、仲間のグラディウスをアイテムポケットへ格納した。
「これで使い手を潰せば、くだらん魔法は消滅ってことだな」
　柚月は仲間が皆拾ったか目を配っている。
　中でもエアライドで落下の衝撃を回避した鬼人は体制を立て直すのも微かに早かった。
　だが、これだけ機敏に脱出を試みても強敵との遭遇は避けられないのが破壊作戦の常。
「本物のイケメンはお呼びでないブヒ！　女をコマす邪魔ブヒ！！」
　８人の前にも、やはり強化版オークの幻術使いが立ちはだかった。
「来やがったか！」
　ウタは守り抜く覚悟を気力に変えて精神を限界まで集中させる。
　——ボンッ！！
　精神が極限を超えて研ぎ澄まされた瞬間、それは果たして未来を創る意思の表出か、強化幻術使いの触手を一切触れずに爆破してみせた。
「機動力を蹴り殺す！」
　オーバーズを履いた足で身軽に跳躍するのはククロイ。
　流星の尾棚引く重い跳び蹴りを幻術使いの脳天へ命中させ、平衡感覚を失わせた。
「さて、やるか」
　幻術使いへ向けて愛刀を抜き払うのは鬼人。
　空の霊力帯びし無名刀を閃かせて、太い豚足の傷跡を正確に斬り広げた。
　戦いは続いた。
「邪な存在は全て浄化だ！」
　柚月は全身を覆う光の力を日本刀に移し、幻術使いを薙ぎ払う。
　目にも留まらぬ早業の剣戟に翻弄されて、幻術使いは柚月の思うままに肉を斬られていた。
　雪と星の導きを片脚に纏わせ、幻術使いへ突撃するのは陽葉。
「これで……沈めっ！」
　電光一閃、陽葉がオークの股座目掛けて繰り出したのは、紛う事なき金的蹴り。
「グェーッ！！」
　強化幻術使いを、脳天まで突き抜けてそのまま昇天してしまいそうな激痛が襲ったのは言うまでもない。
「俺も非モテ故にイケメンになりたい気持ちはわかる。だが、容姿が良くとも心根が邪悪な者は、猫達の為にも決して赦さんッ！」
　ギメリアはやればできると信じる心を魔法に変えて、将来性を感じさせる一撃を幻術使いへ叩き込む。
「そこを動くなよ」
　アルベルトも呼吸を合わせて、シンプルなれど強烈たる刺突をオークの急所へ繰り出した。
　そして、男達２人に雄姿を見逃すまいと見守られていたヒメにゃんは、シャキーンと前脚の爪を伸ばして幻術使いの腹を一所懸命引っ掻いた。
「ま、ザコを倒して港を解放ってのもある意味ロマンじゃあるけどよ！」
　勇はニヤリと笑うや、バスダードソードを構えて全身に力を溜める。
　己が筋力にも任せた超高速の斬撃を見舞って、強化版オークの幻術使いをまさに一刀両断、トドメを刺した。

作者：質種剰	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年11月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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