ポンペリポッサの魔女作戦~いつかの断片

作者:雨音瑛

●愉しみ
 大宮駅の西口、ペデストリアンデッキ彩るのは楽しく妖しい飾り付け。橙の南瓜に混じる紫のお化け、白い骸骨。デフォルメされたそれらは可愛らしく、不気味な感じは一切ない。
 浮き立つような音楽は耳慣れないものではあるが、メロディの奥に潜む3拍子のワルツが軽快な雰囲気を作りだしている。
 それらが示すものはたった一つ、ハロウィンパーティー。
 仮装をして集う人々を眺める女性の目は、モノクルの奥で興味深そうに細められている。身に纏う衣装は、探偵を思わせる。ハロウィンの仮装、だろうか。
「……素敵。ここにはどんな夢があるんでしょうね?」
 アカギツネの耳と尻尾を一度だけ動かし、女性は悪戯っぽく笑った。
 とたん、女性の身体が徐々に大きくなってゆく。
 異変に気付いた人々が逃げ惑う中、女性は3階建てのビルほどの大きさとなった。デッキも破壊され、駅前の交通は寸断される。
 変化は、それだけにとどまらない。女性は、一瞬にして醜悪な老女――『ポンペリポッサ』の姿へと変わった。

●ヘリポートにて
 ドリームイーターの魔女が、動き出した。
 ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)の言葉に、ケルベロスたちは顔を見合わせた。
「彼女が求めているのは、ハロウィンの魔力。おおかた、寓話六塔戦争で受けた痛手を回復するのが目的だろう」
 これにより発生する事件は、奇怪も奇怪。
 ハロウィンパーティーで賑わう街角に出現したドリームイーターが、ハロウィンの魔力を利用して『ポンペリポッサの姿に変身して巨大化』するというもの。
「このポンペリポッサは、ひとまず『偽のポンペリポッサ』とでも呼ぼうか。偽のポンペリポッサは、全長10mほど。戦闘力こそ本物のポンペリポッサに及ぶべくもないが、かなりの戦闘力を誇るようだな」
 さて、ウィズの予知した出現ポイントは埼玉県大宮市、西口のペデストリアンデッキを利用したハロウィンパーティーの会場だ。出現ポイントは、駅から出てすぐの場所。
「まずは偽のポンペリポッサとの戦闘となる。攻撃方法は2つ、回復手段を1つ所持している。厄介なのは、付与される状態異常の数だろうか」
 帽子に載った甘いお菓子の香りをただよわせ、催眠状態にする攻撃。身体にまとわせたソーセージを放つ攻撃。そして自らの好奇心をかきたてて耐性を付与しつつ傷を癒すわざだ。
「ドリームイーターがポンペリポッサの姿となって戦闘を行うには『ハロウィンの魔力』を消費する必要がある。そのため、変身していられる時間は5分程度だろう」
 5分さえ経過すれば、変身が解けて元の姿に戻る。その後ならば有利に戦えるようだ。
「また、戦闘時に『ハロウィンらしい演出』を行い、ドリームイーターから『ハロウィンの魔力』を奪い取ることも可能だ」
 奪取できれば、5分経過を待つことなくポンペリポッサ化を解除させられる。
「変身が解除されたドリームイーターは、元の姿……すなわち、『アルバ・フラグメント』の姿へと戻る」
 アルバ・フラグメントは「探偵のような格好をしたウェアライダー」といった見てくれをしている。変身解除後も状態異常の付与を得意とするが、攻撃方法は異なる。
 足元から罠のように毒を噴出させる攻撃、ロープを放って捕縛する攻撃、煌めく断片を放って加護を破壊する攻撃だ。
「ポンペリポッサに変身したドリームイーターは、端的に言っても強敵。いつも以上に油断なく事に当たって欲しい」
 それに、アルバ・フラグメントはある者にとって縁のあるデウスエクス。縁者であれば、変身が解除された後に思いをぶつけてみるのもいいだろう。


参加者
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
暁・万里(迷猫・e15680)
比良坂・冥(カタリ匣・e27529)
歌枕・めろ(彷徨う羊・e28166)
月岡・ユア(孤月抱影・e33389)
丸越・梓(月影・e44527)
ステラ・フラグメント(天の光・e44779)

■リプレイ

●怪盗参上
 ハロウィンの日、大宮駅に現れた巨大な魔女は『ポンペリポッサ』の偽物であった。
 遠目に見ればイベントの一環。間近で見ればいつ自身の命に危険が及ぶかもしれないデウスエクスの襲撃である。
 一目散に逃げ出す人々とは対照的に、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)は崩れかけたペデストリアンデッキの上で偽ポンペリポッサを見上げた。すると、何やら状態異常への耐性が付与されるのが見てとれる。
「うわー、おっきな魔女! それにしても、本当に怪盗が現れるのかな?」
 小腹満たしのお菓子でぱんぱんになった鞄、それと手帳を手に魔女を見上げる。今日の円は、怪盗のおっかけ記者だ。言いつつ、黄金の果実の光で仲間に耐性を与える。
「ほーう、怪盗とは賑やかになりそうだねえ」
 黒装束に地獄のラッパ吹きという出で立ちの比良坂・冥(カタリ匣・e27529)はのんびりと告げ、お化け南瓜で賑やかに飾った黒い鎖で守備を固める。
「トリックオアトリート!」
 元気な声は、頭から白いシーツを被ったお化け――歌枕・めろ(彷徨う羊・e28166)のもの。かたわらには、ひときわ小さなシーツお化け――ボクスドラゴン「パンドラ」がいる。
 ゆっくりと振り向く魔女の手に当然お菓子はなく、めろは飴色の瞳を光らせた。
「お菓子をくれないのなら、悪戯ね!」
 機敏に跳び上がったお化けは、偽ポンペリポッサまで垂直降下。蹴りつけつつも、手にしている菓子が沢山入ったジャックランタンは死守、である。
 すぐ傍で見る偽ポンペリポッサの肌はぼこぼこ、表情も不気味だ。
「折角、可愛い顔をしてるのに……勿体無いわ」
 本当は可愛い者がこのような姿になるのは、可愛さが全てのめろには見ていられない。
 続いてパンドラがブレスを浴びせると、ウイングキャット「蓬莱」も尻尾についているリングを飛ばす。
 身体を覆う黒マントにペストマスク、言わば死神のような仮装をしているのは暁・万里(迷猫・e15680)だ。
「悪戯されるのはごめんだね、お菓子をどうぞ? ――饗応せよ「Giacomo」」
 陽気な南瓜頭のばら撒く飴やチョコは爆発し、纏わり付く。
「賑わう駅前、本日出現を予告した怪盗は今いずこに……ああっ、あれはもしや――!?」
 白猫パーカーに鈴付きチョーカーをつけたクレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)は、解説とナレーション担当だ。
 クレーエの指差したのは、駅ビルの屋上。誰もが注視した瞬間、ゾディアックソード「Gladius de《Leo》」で魔法陣を描いた。
 とたん、大量のお菓子とカードが空から降り注ぐ。
「やあ、これはこれは大きな魔女さんだ。今宵、この怪盗が素敵なハロウィンをお送りするぜ! さあさ、ご注目!!」
 怪盗ステラ・フラグメント(天の光・e44779)の登場だ。ステラはぱちんと指を鳴らし、マントをなびかせて降下する。足に魔力をまとわせて、偽ポンペリポッサへ急降下。輝き流れる星は、傾く魔女を何度か足場にしてデッキへと着地した。
 それと同時に、ウイングキャット「ノッテ」の起こす風がステラを包む。
「ハロウィンの夜には魔女はつきもの♪ 皆でハロウィンを楽しめば怖い魔法は楽しい魔法に変わるの!」
 フェスティバルオーラを発動させるのは怪盗の助手、月岡・ユア(孤月抱影・e33389)。ノッテと同じ黒猫の仮装をし、猫ポーチにはお菓子を沢山詰めて。
「れっつ! ハロウィンナイト!」
 元気に叫び、ユアもビルから飛び降りる。逃げ行く人々の声援には、手を振って。
 喰霊刀にいくつもの霊を憑依させつつ、怪盗を追ってきた刑事の丸越・梓(月影・e44527)は屋上で小さくため息をついた。
「ハロウィンにふさわしい随分と賑やかな夜、だが――笑顔が足りないのは、いただけねえな」
 梓もビルから飛び降りると、こちらはスーツジャケットの裾が風になびく。勢いのまま振り下ろした刀は、偽ポンペリポッサの鼻先に直線を刻んだ。
「フラグメント! 今日こそ捕まえてやると言いてえところだが、今ばかりはお前に手を貸してやる。……しくじるんじゃねえぞ!」
 刑事が向けた刀と言葉に、怪盗はウインクで応えた。

●変化
「怪盗ステラ! 現れたわね!」
 お化けーツを脱いだめろの体が、まばゆい光に包まれた。光が収まった二人の体を包むのは、婦警の衣装だ。
「むむっ、賑やかになってきたんだよ!」
 桃色の霧を梓に放った円は、すぐさまカメラを取り出してステラたちを激写する。
「噂の怪盗、ついに姿をおさめ……って何か映ってるー!?」
 写真を確認する円の嘆きをよそに、ユアは楽しげに立ち回っている。
「ほーら♪ 星の怪盗さんが現れたにゃーん! 皆、ハロウィン楽しんでるにゃーん? みゃ? 刑事さんも猫さん仲間……沢山来てるにゃー! 賑やかにゃ~♪」
 壊れかけのデッキを猫のように器用に渡り、手すりを蹴り、ユアは宙を舞った。星屑と重力の輝きが、偽ポンペリポッサを襲う。
 巨大なデウスエクス前に、人々は既に避難を終えている。この撃戦を前に人々が戻ることはないだろうと、クレーエは偽ポンペリポッサへと向き直った。
「さあ、怪盗に助手に刑事も登場! ハロウィンパーティーの会場は大混乱、これからどうなる……おや?」
 雷光の切っ先を偽ポンペリポッサに突き刺したクレーエが、異変に気付いた。
 時計を見遣れば、2分が経過したところだろうか。
 紫の煙が偽ポンペリポッサを包み込んだかと思えば、巨大な身体が消えている。
 代わりに、デッキの手すりに座る女がひとり。
 ステラによく似た、アカギツネの耳と尻尾をもつ『アルバ・フラグメント』だ。
「ポンペリポッサの力もここまでのようね。でも、まだまだ愉しみは終わらないわ。だって怪盗が現れたんですもの。……ねえ、あなたの夢を私に頂戴? ごっこ遊びの続きをしましょう。貴方の夢といつまでも遊び続けましょう」
 アルバが言うや否や、ステラの足元から毒が噴出した。
 マントで口元を押さえて軽く咳払いをするステラの前に、万里が立つ。黒マントとマスクを脱ぎ棄てた万里の姿に、アルバは楽しそうに笑った。
「まあ、手下の登場ってわけね」
「やあ、探偵のお嬢さん? 怪盗ステラはそう簡単には捕まらないよ」
 仰々しく礼をした万里の衣装は、ステラと同じもの。顔を上げると同時に地面を蹴れば、足元を覆う星の煌めきが追従する。
「――だって、僕らが付いているもの。さあ、ステラ!」
「ああ、このチャンスは逃さない! ――さあ、素敵な探偵のレディ。最高のおもてなしをしてみせるよ!」
 ステラは、万里の攻撃で距離が縮まったアルバへと同じ技を仕掛けた。
 着地して跳躍、さらに再び着地した先は、飴売りへと衣装チェンジした冥の前。
 気付けば、冥の衣装も飴の入った加護を下げた飴売りへと変わっていた。髪色の猫耳とシッポを生やし、リングのついた尻尾はウイングキャットを思わせる。
 ステラは南瓜キャンディの入った籠から素早く飴をひとつかみ、探偵の行く手を阻むようにばらまいた。
「南瓜キャンディがぁあ! 怪盗ステラめぇ! 探偵さん捕まえとくれよー……なぁんて、あんなに楽しそうにばらまかれりゃハロウィンお菓子も本望!」
 ノッテの送る風に続き、冥はハロウィンお化けを模った紙兵をばらまいた。
 紙の兵による加護を受け、梓は数歩踏み出す。
「怪盗対策に多数の部下は鉄則だが……こんな日にそんな応援を呼ぶのは無粋ってもんだ、なあ相棒―――シス」
 梓の影から、揺れる黒犬が浮かび上がると紅蓮の眼がゆらめき、アルバを捉える。
「怪盗対探偵だ、此処に刑事が出張るのも野暮というもの……偶には怪盗が勝つのもいいだろうさ!」
 ネクタイをわずかに緩め、梓はシスと共に口角を上げた。

●怪盗VS探偵
 怪盗が怪盗を演じるように、探偵もまた探偵を演じてくれる。
「待ちなさい、怪盗! これまでに盗んだお宝、返してもらうわよ!」
 アルバの手からいくつもの煌めく断片が放たれると、ステラの前に梓が立ちはだかった。
「こんなところで倒れる気か、怪盗?」
「まさか。刑事さんが協力してくれてるんだ、倒れるわけがない。そうだろ?」
「おおっ、怪盗対探偵プラス刑事、いい写真撮らせて欲しいんだよ!」
 ウキウキした様子で、円は黄金色の光を怪盗たちに向けた。それはさながら、フラッシュライトのよう。
 そして蓬莱の翼が起こす風はいっそ、上昇気流。ステラは足場を伝い、再びビルの上へ。
 見下ろす先には、モノクルをした探偵の姿。演技なのか本気なのか、悔しそうな表情は妙に板についている。
 けれど、今目の前にいるアルバ・フラグメントはステラの姉そのものではない。片割れの、姉の姿を獲った夢喰いだ。
 だから、ステラはいっそう怪盗であることを意識をする。笑みを崩さず、強気に、華麗に。
 何より、アルバに似た目の前の誰かは、女性に優しくしろと教えてくれたのだから。生前の姉と遊んでいた時と同じように、完璧に「怪盗」を演じるまでだ。
「さあ、探偵のレディ。流れ星がみえるかな?」
 足には魔力を、仮面ごしの目には笑みを。
 自身が怪盗であり続けるのならば姉もまた証明され続ける。そう信じていた自分を演じきるのは、姉の死を受け止めきれなかったから。
「そんな直線の動き、捕まえて欲しいと言っているようなものね!」
「捕まえられるかな?」
 直線、と見せかけた動きは宙で曲線を描いた。足を捌き背中を蹴りつけ、ステラはアルバから逃れる。
 仮面を被り、誰かの望む姿を演じるステラの気持ちを、万里はなんとなく理解できる。素顔を忘れた万里ではあるけれど、ステラには自分を見失って欲しくないのだ。
 それに、と万里は弓を引き絞る。
「泣けるときは、泣いてもいいんだ」
 誰に言うでもなく呟いた後、万里はめろへと向き直った。
「婦警のめろちゃんも、今日は協力してくれるんだよね?」
「もちろんよ、怪盗さんの手下の万里ちゃん。……そういうわけなの、可愛い探偵さん。めろと遊びましょう」
 瓦礫の上を、舗装された道路であるかのように走るめろ。足に纏う炎を叩きつければ、アルバに炎が灯る。
 ステラの思い。あるいは、アルバの思い。そのどちらも否定せず、梓は見守る。怪盗と探偵、その勝負の行く末を見守る刑事の目で。
 今度は刀に呪詛を載せ、梓はアルバへと斬りかかった。
「双子の弟を一人で残してくなんてホンット悪いお姉ちゃんだわ。意地悪言わないで目一杯遊んであげないとお仕置きの悪戯よー?」
 ゆるい笑みを浮かべ、冥はアルバの傷口を切り開いた。
 双子、なら冥にも覚えがある。自らの手で命を断った弟だ。
 置いて行かれてまた逢えた羨望をわずかに浮かべる冥の顔は、それでもいつものゆるさを保っている。
「怪盗は華麗な動きで探偵を翻弄! 手下も刑事も飴売りも、息の合ったコンビネーションだ! さあ、ここで解説担当も参戦!」
 クレーエが地面の一部に手を向けると、月夜の舞台がせり出した。
「明けること無き夜、沈むこと無き月の舞台を始めよう」
 クレーエの言葉が開演の合図。美貌の歌姫の歌声が響き、アルバを捉える。
 実のところ、ステラとクレーエには、共通点がある。
 それは「実の家族の姿をしたドリームイーターと相まみえた」ということだ。だかクレーエには、兄の姿は記憶になかった。双子の姉、しかも記憶にあるのならば辛いことこの上ないだろう。
 けれど、下手な同情をするにはまだ付き合いが浅すぎる。だから今回はただ見守り、この場を盛り上げるだけ。
「次は怪盗助手が動いたぞー!?」
「さぁ、最後まで楽しく遊ぼう。ステラさんの背中はこの助手にお任せあれ♪」
 ユアもまた、ステラを援護しようと歌声を紡ぎ出した。
「この聲が、この唄が、去り逝く魂の導と成りますように――」
 スローテンポ・バラードの曲に、ユアは思考を巡らせる。
 最後までステラらしく向き合うのは、とても心が痛いことだろう。
 双子の片割れを失う痛みは誰よりも理解できるユアだ。
 だからこそ、大切な友人を支えたいという気持ちは人一倍、強い。

●断片たち
 肩口を押さえるアルバは、よろめきながらもロープを放った。しかしアルバはマントを翻し、ロープを弾き返す。
「まだよ……探偵は、諦めないものなの!」
「ごっこ遊びは、もうおしまいだ! そしてごっこなんかじゃない、俺は怪盗ステラ! ステラ・フラグメントだ!!」
「そうよ。夢の時間はもうおわり、これからは現実の私達が楽しむ番だよっ!」
「これがカーテンコールならステラちゃんの悔いなきように、どうか」
 にこやかな笑顔を浮かべる円と、星と夜明けの姉弟を目に灼きつけておこうと覚えておこうと二人を見遣る冥。
「最後は怪盗ではない、君の手で、どうか」
 万里の手がアルバを示す。そうして今度は、アルバを見遣る。
「彼は僕らの星なんだ。悪いけれど、その輝きを君に消させるわけにはいかないよ。遊んで、笑って、君の往くべき場所へ、お帰り」
 万里の言葉に、アルバが歯噛みする。
「そんな、こと――」
「ありがとう、みんな」
 アルバの言葉を遮って、ステラが礼を述べた。少年らしい笑顔には、決意めいたものが浮かんでいる。
「最後まで、一緒に戦ってくれよ! 俺のガジェット!!」
 ステラは、手にするガジェット二つを変形させた。組み合わされたそれは砲撃を行うのに最適な形となる。
「君に贈る花は『イフェイオン』。花言葉は別れの悲しみ、星に願いを」
 砲身に熱が集まる。輝きが二人の顔を照らす。
「おやすみ、姉ちゃん」
 収束した光がアルバを貫く中で、いつかの姉が手を振った、ような気がした。
 熱と光、そしてアルバが消えて、ステラはその場に膝をついた。手元に転がってきたのは、アルバのつけていた金色のモノクルだ。ステラはモノクルを握りしめ、仮面をそっと外す。
 二度目の喪失ならば「俺」に戻って泣くことも許されるだろう、と。
 そうして地面にできた丸い染みはいくつもいくつも増えていって、やがて滲む視界で見えなくなる。
 むせぶステラの背に、ユアが手を添えた。続く声が奏でるのは、死者を送る唄だ。
「……頑張ったな」
 万里も、ステラの震える背に触れる。
 立派に演じきった怪盗ステラに。ごっこ遊びを昇華したステラ・フラグメントに。何より、仮面を外した彼に伝えるべきは。
「おかえり。そしてこれからも……よろしく」
「……うん、ただいま!」
 無理矢理涙をぬぐって見せた笑みに、めろも笑みを見せた。
「ステラちゃんの笑顔がめろは大好きだけど、でも心からの笑顔がいいな。今度、彼女との想い出を聞かせてね」
 ああ、と応えてモノクルを握る手を開いたステラ。モノクルの隣に落ちた星型ドロップは、笑顔の冥によるものだ。
 ふたつの輝きに、ステラはゆっくりと瞬きをした。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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