ポンペリポッサの魔女作戦~リペイ・イン・ハロウィン

作者:鹿崎シーカー

 夜。飾り付けられ、大量のジャック・オ・ランタンの明かりに彩られた住宅街を、仮装した子供達が闊歩する。通りの歩道には出店が並び、車道は現在歩行者天国。肉の焼ける音や、手に下げたビニール袋一杯にお菓子を詰めた子供達、その後を追う親などが行き交うお祭りストリートを、一人の少年が歩いていた。
 銀髪にオレンジ色の羽根飾りがついた赤いとんがり帽子を被り、赤いマフラーで口元を覆う。茶色のロングコートの背中に真紅の刀を斜めに吊るし、赤いブーツで音も無く群衆の中を進む顔はうつむき気味で、帽子の影になって目元が見えない。
 一人で通りを歩いていた彼は、やがてはたと立ち止まる。肩越しに振り返ると、仮装した小さな子供達がコートの裾を握りしめ、無邪気な笑顔で見上げていた。
「おー菓子くーれなーきゃいーたずーらすーるぞっ!」
「お菓子……」
 ぼそっとつぶやいた少年が、子供達に向き直る。その間にも他の子供達が群がり、四方八方からコートを引っ張りながらお菓子の要求。少年の体がゆさゆさと揺れる。
「ね、お菓子ちょうだい!」
「持ってないの?」
「いたずらするぞ!」
 黙って揺すられるばかりの少年は、やがて子供達の手を取り、一人一人そっと手をコートから離させる。
「ごめんね。今、お菓子はないんだ」
「えぇー……」
「無いのー?」
 口々に落胆の声を上げる子供達。そんな彼らに少年は口元のマフラーを下げ、帽子を上げた。子供達のざわめきが止まり、ぽかんとした表情に変わる。外気にさらした少年の顔は童顔で、口元は笑っているが、その青い目は深い虚無に彩られていた。
 水を打ったように静まり返る子供達に囲まれた少年は、胸元に出現した二体のぬいぐるみを抱く。赤いとんがり帽子とマフラーを着けた猫と、モザイクで構築された茶色のコートに赤いマフラーの猫。そのうちコートを着た方からどぎつい緑色のモザイクがあふれ出し、少年の全身に広がり始めた。
「僕があげられるものなんて無い。だから……代わりに見せてあげよう。僕の、つまらないトリックを」
 後ずさる子供達の前で、少年を覆い尽くしたモザイクが間欠泉めいて吹き上がり膨張! 悲鳴を上げて子供達が逃げていき、異変を察知した人々が見上げる中、緑色の巨大竜巻と化したモザイクから像めいた鼻が飛び出した。さらに緑色の両手が竜巻を突き破って内から引き裂き、緑の肌をした巨大な魔女の姿を現す。藍色のローブに連なった巨大なソーセージを巻きつけ、魔女はしわがれた声で吠えた。
「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ……!」


「いやあ、もはや毎年恒例だけど……なんなんだろうね、ハロウィンの魔力って」
 訝しげな目で資料をパラパラとめくり、跳鹿・穫は首を傾げた。
 去る寓話六塔戦争以降、行方をくらませていたジグラットゼクスの一塔『ポンペリポッサ』が行動を起こしたようなのだ。
 『緑の好奇心』を喚起する大いなる魔女とされたポンペリポッサ。今回動き出した理由は恐らく、先の戦争で被った損失を回復するため。あれはハロウィンでにぎわう街にドリームイーターを送り込み、ハロウィンの魔力を用いて『偽物のポンペリポッサ』に変身させるというものだ。
 偽ポンペリポッサの全長は10m。市街を突き抜ける程であった本物ほどの大きさは無く、同様に力も本物より弱い。が、ハロウィンの魔力を吸収した影響か、普通のドリームイーターよりもかなり強化されているらしい。急いで現場の市街に向かい、このドリームイーターを排除してほしい。
 ローカルなハロウィンフェスで盛り上がったとある住宅街に出現したドリームイーターは、体に巻いたソーセージや長い鼻で物理攻撃、及びソーセージからジャック・オ・ランタンを模したエクトプラズムをまき散らして攻撃してくる。どれもこれも巨体に物を言わせた強力な攻撃であるので、油断すればケルベロスでも容易く蹴散らされる威力を持つ。
 ただ、弱点もある。ポンペリポッサ化には大量のハロウィンの魔力が必要となるため、変身の持続時間は五分が限界。それを過ぎると元の姿に戻り、力も本来のものになるため、偽物を相手するよりは各段に楽だろう。また、ハロウィンらしい演出ができればハロウィンの魔力を奪い取り、変身時間をより縮めることも可能なはずだ。
 そして、元になったドリームイーターの名は、『ユリノ・トレインズ』。ドリームイーターによって希望を奪われた男子中学生を素体にしており、背負った刀と自立して動く二体のぬいぐるみを操って戦闘を行う。出自に由来したのか、斬撃やぬいぐるみが放つ黒いエネルギー弾をまともに受けると、一定時間激しく絶望して動けなくなる。こうなると大きな隙をさらすことになるので気を付けてほしい。
「毎年毎年ハロウィンがらみで色々あるけど……なんでハロウィンがドリームイーターの力になるんだろうね?」


参加者
篁・メノウ(紫天の華・e00903)
灰野・余白(空白・e02087)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)
ノーグ・ルーシェ(二つ牙の狼剣士・e17068)
チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)
上里・藤(黎明の光を探せ・e27726)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)

■リプレイ

「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ……!」
 宵の空にポンペリポッサの咆哮が響く。体に巻きついたソーセージをつかみ、ムチめいて振り回す魔女は足元ですくみ、泣きだす子供達を見下ろし片足を持ち上げた。屋台を捨て逃げ出す客達の間をすり抜けて疾駆するカテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)はミニスカメイド服の背についた蝙蝠の羽根をはためかせ、黒マントにマイクロビキニ姿で二匹の蝙蝠を連れたマイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)に呼びかける!
「マイア殿ッ!」
「ええ。急ぎなさいな」
 急ブレーキをかけたマイアのサイハイブーツが光輝き、左腕に吊るしたカボチャに収束。目と口から閃光をほとばしらせるカボチャはマイアの腕を離れて飛翔し、カテリーナを飛び越えて振り下ろされた魔女の足裏に直撃し押しとどめる。まばゆい虹色の光が周囲を染め上げる中、カテリーナは踏み潰されかけた少女を抱きあげ後方へパス! 狼の着ぐるみを着たノーグ・ルーシェ(二つ牙の狼剣士・e17068)は少女を受け止め、コートのポケットから取り出したお菓子を持たせてつつ叫んだ。
「急いで逃げろ! ここは食い止めておく!」
「ほらほらおさないかけないしゃべらない……おかしで避難せいよお。あ、ウチも配るわ」
 ノーグが放ったいくつかのお菓子を受け止めた灰野・余白(空白・e02087)はホッケーマスクを帽子めいて被ったまま逃げ出す子供達に投げ渡す。その時、ポンペリポッサの足元で蝙蝠の竜巻が暴発! 竜巻の中心に立った上里・藤(黎明の光を探せ・e27726)は黒いマントをひるがえし、薔薇を差し出しながらぎこちないウィンクをした。
「トリックオアトリート! あなたの生き血を私に下さい、なんてな」
 しわがれた咆哮を上げながらポンペリポッサは藤にソーセージを振り下ろした! 大地割る一撃をバック転でかわした藤をスミレ色の突風があおる。フード付きマントを被り、紫光で出来た大鎌を頭上で回転させる篁・メノウ(紫天の華・e00903)の風に閃赤を押され、逃走する人々の足が早まる。ポンペリポッサの近くから人影がいなくなったのを確認し、余白は巨大チェーンソーのスターターヒモを引っ張った。駆動部が激しく振動し、刃が高速回転を開始。エンジン音を轟かせつつ、ホッケーマスクを引き下げる。
「さて、こんなもんかいな。さあ行ったろかの!」
 三度吠えたポンペリポッサのソーセージが余白の脳天をめがける! 余白は巨大なチェーンソーを振り上げて大上段から一閃、真っ二つに裂けたソーセージが彼女の両サイドを叩くのと同時に、ポンペリポッサ背後のアスファルトを突き破って傷だらけの青肌にナース服を着たチェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)が出現!
「はっぴーはろうぃーんっ! ヒールくれなきゃ攻撃しちゃうぞっ!」
 跳躍し、引き絞った腕から掌底を繰り出す!
「勇往邁進! せいやぁっ!」
 曲がった背骨に突き刺さった手の平から衝撃が波打ち、ポンペリポッサが前によろけた。メイド服を着たヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)が地に両手をつける。
「トリックアンドトリート! お菓子が無いなら悪戯多めで行くのですよ!」
 ヒマラヤンの手元とポンペリポッサの片足下が光輝き、タケノコめいてタンスが飛び出す! 彼女の肩から飛び立った黒猫が投げつけた赤いリングに額を打たれ、後ろに傾く魔女に向かって天高くジャンプした藤と下段に刀をたずさえて疾駆するノーグが迫った。
「お菓子をやるから悪戯させろってな!」
「ケルベロスの悪戯は少し痛いぜ。覚悟しとけよ、ドリームイーター!」
 真紅の稲妻をまとった藤の飛び蹴りと青白い炎をまとったノーグの斬撃がそれぞれ上下からポンペリポッサを強襲していく。だがポンペリポッサは転倒寸前で踏みとどまり、裂けたソーセージをモザイクで修復。両手に持った巨大ソーセージで二人をなぎ払い、横回転で鼻を振り回す! 両脇にあった住宅が打ち砕かれて崩壊する中、メノウが紫光の大鎌を操って踊る。
「清き風が運ぶは雪。静寂に深々と降り積もれ。篁流回復術、『雪風』」
 宙に投げ上げた鎌をキャッチし石突を地面に打ちつけた瞬間、戦場に粉雪の風が吹き荒れた。一方でマイアは足元に浮かんだ大きな魔法陣に両手をかざした。
「無垢と純情、貪り食らいて黒き竜」
 陣が一際大きく輝き、漆黒の霧を噴出! 戦場を覆う煙幕を斬り裂いて飛び出した黒鱗の竜がポンペリポッサに組みつき、喉笛に牙を突き立てる。苦悶の咆哮を上げ竜に鼻を巻きつけ押しのけようとするポンペリポッサ。竜の背中を駆け上がったカテリーナが手刀を振り抜く!
「HAHAHAHAHA! その鼻削いでやるでござるよ!」
 バスケットを片手に加速し、腕を刃の如く振り回して巻きつく鼻に切り傷を刻む。ポンペリポッサは鼻を解いて力尽くで竜を押しのけ、鼻を一気に縮めて解放! 砲撃めいて伸びた鼻が竜の首を貫き奥にいたカテリーナを吹き飛ばした! 直後、チェリーが桜紋の刃を振り抜き魔女の股下を駆け抜けた。斬り裂かれたふくらはぎが鮮血を噴き出す。ぴょんと跳ねるチェリー。
「やっちゃえ余白さーん!」
「ほんじゃあイタズラさせてもらおうかのう!」
 言うが早いか余白が取り出したガトリングガンをぶっ放した! 顔面を打ち据える鉛弾の雨を嫌い顔を腕でかばったところへ、電光まとう槍を手にしたヒマラヤンがチェリーとすれ違い突進。突き上げに鳩尾を射抜かれたポンペリポッサに瓦礫から飛び出したノーグが二刀を振りかざす!
「いつまでそんなモンの中に居んだ! さっさと出て来い!」
 X字の剣閃に斬り裂かれた魔女は腕を開いてノーグを吹き飛ばし、ヒマラヤンとチェリーをちゃぶ台返しめいたムーブでふっ飛ばした!
「おおおおおおおおおおおおおおッ!」
 吠えたポンペリポッサは両手のソーセージと鼻を高速で回転させながら突撃を敢行! 宙舞うノーグ、ヒマラヤン、チェリーを叩き上げ、メノウとマイアを地面ごと抉り取る。藤をムチめいた一撃で跳ね上げ、マイアに二本のソーセージを叩きつけてガトリングの弾幕を鼻で打ち払いながら余白を後ろまで薙ぎ払う! ふっ飛ばされて地面を転がったカテリーナを下段からのソーセージで打ち上げた所で急ブレーキをかえて前後反転! 虚空で踊るメノウが大鎌を振るう。
「篁流回復術、『青嵐』っ!」
 ストリートを走る紫の突風がポンペリポッサに吹きつけ、体から垂れた緑のモザイクを流す。追い風を受けて疾走した藤は両手に赤い稲妻を溜め、マイアが二匹の蝙蝠に黒みがかったピンクの光をまとわせた。
「Night shade! Mucus dubh!」
「はっ!」
 二匹の蝙蝠と二条の赤雷が光線めいて飛翔! ソーセージでそれらを迎撃したポンペリポッサの懐に瞬間移動したチェリーが再び掌底を引き絞る!
「えぇーいッ!」
 渾身の掌底がポンペリポッサの腹部を撃ち抜きたたらを踏ませる。荒いテレビ画像めいてモザイクがかかり、崩れ始める巨体に向かってカテリーナは『万伏』と刻印された刀を手に疾駆! 跳躍回転斬で胴を刻むがスイングされた鼻にチェリーもろとも打ち払われた。ヒマラヤンがリボンの巻かれたロッドを打ち振りスズメを発射。錐揉み飛行した小鳥が赤い眼球に命中! 両目を押さえて悲鳴を上げるポンペリポッサに余白はチェーンソーを振り上げた。
「ほおれ、真っ二つじゃあ!」
 けたたましい駆動音とともに振り下ろされた刃が魔女の巨体を一刀両断! 半分に割られ、融解するポンペリポッサの肉体からユリノ・トレインズは後方回転しながら飛び出して着地。そこへノーグが二刀を構えて斬りかかる!
「ユリノおおおおおおッ!」
 ユリノは右腕に抱えたぬいぐるみを直上に放り上げ、斜めに背負った赤刀を抜いてノーグを迎え撃つ。至近距離で鍔迫り合いをしながらユリノは虚無じみた瞳で口を開いた。
「ノーグ……今度は僕を殺しに来たのかい。ネリムみたいに……」
「ぶつくさ言ってんじゃねえ!」
 ノーグの叫びに、ユリノの表情が僅かに揺らぐ。火花散らす刃を押し込みながら、ノーグはさらに食いついた。
「確かに俺はネリムを殺した! ああそうだ! お前には文句も恨み言も山ほどあるんだろうよ! けどな、そんなに言いたきゃ病院でいくらでも聞いてやる! だから……今は思いっきり叩き起こすぞ、ユリノ。罵詈雑言聞いて、その後説教だ!」
 ややムッとした表情に変わったユリノは剣を押し返してノーグを打ち払った。ユリノは頭上で浮遊する二体のぬいぐるみを見上げ、バク転して飛び離れるノーグに刀を突きつける!
「絶望を与えて!」
 猫のぬいぐるみが両手を向け無数の黒球をマシンガンめいて連射! 地に足を着け、降り注ぐ弾丸を見上げたノーグの足元に、盾の形をした三重の魔法陣が現れる。拡大する陣で味方を包んだマイアは静かに詠唱。
「智慧、戦争の女神。太陽の神。大いなる主神。三柱の神が守護の奇蹟を今ここにもたらさん。Aegis protection」
 陣の縁から三重の結界が天に伸び黒球の連打を受け止める。陣の内部で藤は片手に雷を生み出して一回転し、投擲! 結界を突き抜け一直線に飛来する電撃の槍を、ユリノは赤刀の切り上げで迎撃した。Y字に裂けた電光が彼の左右をかすめ、刃を振り切ると同時に通りの左右を挟む民家を爆砕! 轟音を背後にするユリノの真ん前に入ったチェリーは薄桃色のオーラをまとった拳でラッシュを繰り出す。
「どりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」
 神速の連撃を刀一本でいなしたユリノが紙一重で右ストレートを回避。刺突でチェリーの腹部を撃ち抜き吹っ飛ばす! すぐさま飛び出した結界からメノウとヒマラヤンは浴びせられる黒球の弾幕にかすめられながらも駆け抜ける。大鎌を振りかぶるメノウの隣でヒマラヤンが跳躍! 取り回した槍に電光をまとわせて引き絞った!
「残念ながら絶望とかもう間に合ってるので、ノー! サン! キュー! なのですよッ!」
 投げ放たれた槍が稲妻のドラゴンと化してユリノめがけて急降下! バックジャンプで飛び下がる彼は地表ギリギリで方向転換・低空飛行で飛んでくる竜を助走をつけて飛び越え、再び跳躍。宙空のヒマラヤンを竜巻めいて回転しながら斬ってすれ違うユリノの足元で、メノウは輝く大鎌でチェリーを斬り、前後反転してジャンプした後ヒマラヤンも斬って刃に宿る黒い霧に手を触れた。
「嵐よ、絶望を食い千切れ! 篁流回復術、『花嵐』ッ!」
 手を横薙ぎに払うと共に黒霧が散る。光が戻った目で体勢復帰したチェリーとヒマラヤンを尻目に転がる形で着地したユリノにノーグが突進! その全身に白い炎が燃え上がる!
「行くぞユリノ! まずはその絶望って名の咎を、焼き尽くしてやる!」
「詭弁だろう、ノーグ。そうやってネリムを殺したんだろう……?」
 ぼそっと呟いたユリノは片膝立ちの姿勢から走り出し、ノーグと激しく斬り結んだ。目まぐるしく立ち位置を変えながら繰り返される剣戟の応酬! ユリノの横薙ぎの一閃を右の剣で受け止め、左の剣で肩を斬りに行くノーグをユリノはタックルで弾いた。たたらを踏むノーグ!
「ぐおッ……!」
「ノーグ! ネリム!」
 ユリノの後ろから真上に飛び出した二体のぬいぐるみがノーグに黒球を連射する! その時、体勢を崩したノーグを背後から抱きとめたカテリーナがステップを踏み複数人に分身した。無数の黒球が残像を貫通していく!
『HAHAHAHAHA! さあさ、本物を当てられるでござるかな!?』
 エコーめいて反響する声に、ユリノは不機嫌そうに眉をひそめる。次の瞬間、はっと目を見開いた彼が振り向いた先に稲光の戦槌を振りかぶった藤が零距離にまで肉迫していた!
「よりにもよってこんな仮装なんてする羽目になったんだ。悪戯、受けてもらうぜ!」
 横薙ぎのフルスイングに折り曲げた腕を差し込んで防御するも吹き飛ばされるユリノ! 彼に向かって真っ直ぐダッシュするチェリーは黒球の射線を向けてくるぬいぐるみを見上げ、肩越しに叫ぶ。
「メノウさん! 突っ込むからバックアップよろしくっ!」
「はいはい。……吹き下ろせ! 篁流回復術、『颪』!」
 大鎌を振って起こした突風が全力疾走するチェリーに巻きつく。加速する彼女にユリノを守るように陣取った二体のぬいぐるみが黒球をばらまくが紫の風が全て打ち払う! 真上に飛んだぬいぐるみの下を通ったチェリーが赤刀と斬り結んだ瞬間、ユリノの背後から黒い霧を吹き出すドラゴンが再出現! 鎌首をもたげる竜の足元で、マイアが自分の唇に指を這わせた。
「いっちゃうわよ。パクッとね」
 大口を開け噛みかかるドラゴン! チェリーの斬撃をスレスレで避けたユリノは彼女の胴を一閃して跳躍。竜の噛みつきを回避して空中で一回転!
「ネリム! 手を貸して!」
 二体のぬいぐるみが身をひるがえしてユリノへ急降下し、コートの背中を斜め下に押し出した。竜の背中に降り立ったユリノはマイアめがけて一直線に疾走! 下段に赤刀を構えて突撃してくる彼の前でマイアは片腕を振るう。
「Mucus!」
 地に落ちた蝙蝠が黒い粘液に戻り、マイアの前に壁を生やした。構わず黒液の壁を斬り上げたユリノの目に飛び込む白い爆炎! 白く燃え上がるノーグが刀を掲げた。その背を狙う二体のぬいぐるみを見上げた余白はヒマラヤンの肩を叩いた。
「足場頼めるかの!」
「任せるのです!」
 駆け出す余白を見ながら両手にヒマラヤンは地面に両手を打ちつける。直後、余白の足元が光輝き下からタンスが飛び出し彼女を宙に射出した。タンスの勢いを利用して高く跳んだ余白は肉球に黒い物体を生み出す二体のぬいぐるみをわしづかみ、グレーの光を流し込む。ぬいぐるみがボコボコと膨らみ爆散!
「さーて、トドメはお願いしてもええかの?」
 ノーグが上段からの斬撃に、ユリノは横向きにした赤い刃を差し込んで防御する! ぶつかり合った刀同士が甲高い悲鳴を上げる中、ノーグの炎が腕を伝って刃に収束。白炎の剣が赤い刃に少し食い込み、ノーグは一気に押し込んだ!
「おおおおおおおおおおおおッ!」
 振り切られた刀がユリノの胴を斜めに裂いた。斬り飛ばされた赤い刃の上半分がくるくると回転しながら離れた地面に突き刺さる。大量の鮮血を散らしたユリノの体が傷口から徐々に黒ずんでいく。だらんと下げた手から折れた刀を取り落とし、彼はノーグの顔を見上げた。
「ノー……グッ……!」
「悪いな、ユリノ。後始末したら見舞いに行くから……恨み言準備して待っててくれ」
 真っ黒に染まったユリノが煙の如く霧散する。刀を振り下ろした姿勢でそれを見届けたノーグは立ち上がり、息を吐いて刃を納めた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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