アッサムの誕生日~ハオチー! 中華が食べ放題!

作者:地斬理々亜

●彼が見つけたもの
「……あれっ?」
 街をぶらぶら歩いていた、アッサム・ミルク(食道楽のレプリカント・en0161)は、足を止める。
「こんなところに中華料理店なんてあったっけ? ……あっ、なるほど」
 思わず彼が口にした疑問は、『開店祝い』のメッセージが書かれた花輪が視界に入ることで、ただちに解決された。
「よーし。んじゃ、早速!」
 迷うことなく、アッサムは店内へと歩を進めていった。

●アッサムの誘い
「――ってなわけで、新しいお店見つけたんだよ。料理はおいしいし、接客も明るいし、内装もオシャレで、最高だったよ! せっかくだから、今年の誕生日パーティーはそこにしようと思うんだ」
 嬉しそうにアッサムは語る。
「そのお店は、中華料理の専門店だよ。オーダー式のバイキングで、食べ放題だから、当日は、みんなで、各自食べたいものを注文してね」
 アッサムは片目を閉じ、手を出した。アイズフォンによってその掌の上に表示されたのは、件の店のメニュー表である。
「麻婆豆腐に、北京ダック。ホイコーロー、チンジャオロースー、エビチリ……シュウマイに小籠包、餃子。チャーハンやラーメンもあるね。デザートは杏仁豆腐やマンゴープリンの他に、こし餡入りの胡麻団子も」
 読み上げるアッサムの瞳はキラキラしている。
「さあ、みんな、ハオチーな体験をしに行こうよ! あ、ハオチーは中国語で『おいしい』って意味だよ」
 にこにこ笑って、アッサムはそう誘った。


■リプレイ

●食事開始前
 アッサムは、誰とも会話をしやすい位置を選んで、テーブルに着いた。
「お誕生日おめでとうさん!」
「誕生日おめでとう!」
「おめでと」
 彼へと、保やルヴィル、ダリアが祝いの言葉をかける。
「ありがとう! 今日はいっぱい楽しんでね!」
 アッサムは礼を言い、ウインクして親指を立ててみせた。
「中華料理が食べ放題と聞いて、朝ご飯を抜いてきましたから。今日はお腹も心も、ハオチーな体験でいっぱいにしますね」
「おー、気合入ってるね。めいっぱいハオチーしてってね!」
 アリッサムに対しても、アッサムはにこにこして言葉を返す。
「中華専門店に来たのは初めてなのじゃ。楽しみじゃよ」
「そうなんだね。きっと良い思い出になるよ!」
 続いて、ヴィクトリカへと、アッサムは笑顔を向ける。
「紹興酒を注文したいが、問題ないよな」
「蒼眞は21歳だっけ? 大丈夫だと思うよ。オレは19歳だからまだダメだけど」
 念のため身分証を手元に準備しながら言う蒼眞へは、アッサムはそう応じた。
 一方、椅子の上で脚をぱたぱたさせるリリウムは、ご機嫌である。
「今日はお腹いっぱい食べましょーね!」
「おォ、腹ァぽんぽんになるくれェ食べようなァ!」
 彼女の正面のドミニクは、にかっと笑い返した。

●ハオチー体験の幕開け
「中華だーー!!」
 はしゃいでいるのは、【くらげのほね】のルヴィルである。
「皆でテーブル囲むの、わくわくするねぇ」
 おっとりとした口調で保は言い、メニューを開いた。ダリアもそれに続く。
「メニューだけで圧倒されちゃうね。どれもこれも美味しそうで迷う」
 じっ、と、メニューの文字に目を走らせるダリア。
「ほんま、お料理、いっぱい種類ある……何にしよかな?」
 ふわりと笑顔を浮かべて、保も思案する。
「酒もオッケーだな? おすすめの何かなー」
 ルヴィルはというと、ウキウキした様子でドリンクメニューを眺めていた。
「最初はさっぱりした前菜みたいなのがいいな」
「さっぱりめやと……青梗菜の炒めものとか?」
 言葉を交わすダリアと保。
「とりあえず分からないもの頼んでみてもいいと思うぞっ」
「わ、分からないものより食べたいものが優先かなー」
 ルヴィルの提案へと答えながら、ダリアは茶器に手を伸ばした。
 まず、茶器全てをお湯で温めてから、茶壺に茶葉を入れる。高い位置から茶壺の中にお湯を注ぎ、それから、蓋をした茶壺にお湯をかけて温める。茶壺から茶海へお茶を移し、最後に、茶杯へお茶を注ぐ。
 見よう見まねではあったが、ダリアは一連の淹れ方を丁寧な手つきでこなした。
「いただきますなぁ……ええ香り」
 ほっと心安らぐお茶の香りに、保の顔が綻んだ。
「ヴィルはお酒の方がいい?」
 ダリアがルヴィルに問えば、
「おー! もうオーダーしたぞー!」
 ルヴィルはハイテンションに答える。
「ルヴィはん、飲みすぎひんように」
 思わずそっと保がたしなめると、ダリアが静かにこう言った。
「帰りは苧環が頑張ってくれると思うから大丈夫」
 ルヴィルを担いで、せっせせっせと運ぶ、苧環(ダリアのシャーマンズゴースト)の姿を想像した保は、
「苧環さん、頑張って……!」
 思わず、応援した。

 ドミニクとリリウムが頼んだ料理が運ばれてくると、リリウムは率先して小皿に取り分け始めた。なんでもやりたがるお年頃、ゆえのやる気である。ドミニクはそれに甘えることにして、取り分けを任せた。
「ドミニクおにーさんは背が大きいから一杯食べるんですよー」
 ドミニクの皿に多めに盛るリリウム。
「すっかりリリウムもおねーさんだァな。そっちもたァンと食うて、もっとでっかくなるンじゃぞー」
「はい! わたしも大人になったらドミニクおにーさんぐらいおっきくなりますー!」
 一旦皿を置いたリリウムは、ぐっと小さな拳を握ってみせた。
「そうじゃ、アッサム! 誕生日おめでとうなァ!」
 ドミニクは一旦リリウムを視界から外して、アッサムへと祝辞を告げた。
「サンキュー!」
 元気な笑顔と共に、アッサムは礼を返す。
「ついでと言っちゃなンじゃが、オススメのメニューはなンかあっかァ? ちいせェお子様も大喜びなヤツがベストなンじゃが」
「お子様大喜びかー、それならバナナ春巻なんてどうかな? 加熱されたバナナがとろっとしてて……」
 などと、ドミニクとアッサムが会話を交わしている間に、リリウムは、スパイスたっぷり大人向け麻婆豆腐を、いつもの気分でぱくりと一口。
 じわーっと、リリウムの口内がヒートアップを始めた。
 あれよあれよという間に、バーニング状態に。
「ぎゃ、ぎゃわー! お口がー!」
「あわわわ、大変だ!」
「ちょッ、水! 口直し! なンか甘ェやつーッ!」
 そんな大慌ての一幕。
 でも、ひんやり杏仁豆腐でなんとか持ち直したリリウムであった。

●お腹がいっぱいになるまで
 蒼眞は、空になったグラスをテーブルに置いた。
 きつね色に揚がったカリカリの春巻と、甘い脂が舌の上でとろける豚の角煮ことトンポーローを胃の腑に収めた彼は、次の注文に移る。
「焼き餃子と水餃子を両方。あとは、白飯も大盛りでお願いします」
「お、食べ比べ的な?」
「ああ。やってみたかったんだ」
 声を掛けてきたアッサムへと、蒼眞は応じる。
「料理って不思議だよね。食材が同じでも、調理法が別だと全然違うんだから」
 アッサムは頷いた。やがて、蒼眞の前に、2種の餃子と大盛りのご飯が運ばれてくる。
「コース料理とかだと、ご飯とかは最後の方だったりするけど」
 まずは焼き餃子へ、蒼眞は箸を伸ばした。
「俺は白飯と料理を一緒に食べる方が好きだな」
 口に運んだそれを前歯で噛めば、かりっ、と快い音が響く。同時に、旨味たっぷりのエキスが蒼眞の口内を流れる。続いてご飯を頬張ったなら、優しい米の甘みがふわりと広がった。
「分かる分かる。日本人的には、餃子はご飯のお供だよね。中国では、なんか餃子は主食らしいけど……」
「そうなのか?」
 アッサムの話に相槌を打ちつつ、蒼眞は水餃子を一口。
 透明なスープと共に、つるりと口に滑り込んだそれは、あっさりとしてしつこくない。もちもちの皮で肉を包んだそれは、言われてみれば、おにぎりにも似ている気がした。それでも、いつも通りにご飯を口に運べば、やはり、ほっと心が落ち着いた。
 付け合わせも、米一粒たりとも残さぬよう、蒼眞は丁寧に食べ進めてゆく。一口一口、舌鼓を打ちながら。

 パラパラに仕上がった金色の卵チャーハンに、豚肉やたけのこを包んでからりと揚げた春巻など。【ひまだまり】のヴィクトリカとアリッサムは、まずは定番の中華料理を堪能した。
「これが本場の味……ううむ、流石じゃのう」
「お家で作るものとは全然違いますね……やはり、中華は火力なのでしょうか?」
 それぞれに唸る2人。
「あ、折角ですから、食道楽なアッサムさんのオススメのお料理があれば頂きたいです」
 アリッサムが、アッサムに声を掛けた。
「そうだね、このお店のレバニラ炒め、最高だよ。新鮮な柔らかレバーが舌の上でふわっととろけて、シャキシャキのニラやモヤシとの相性もグッド。良かったら食べてみて!」
「ありがとうございます。ぜひに」
 アッサムからオススメ料理を聞いたアリッサムは、レバニラ炒めを注文。
 ヴィクトリカはというと、チンジャオロースーと格闘を始めていた。
(「実に美味、じゃが! ピーマンはピーマンじゃ!」)
 細切り牛肉が主役として主張しているためか、ピーマンの苦味はさほど強く感じられない。それでも、皿にたっぷりと乗ったピーマンをいきなり食べきるのは、ヴィクトリカにとっては、割と苦行であった。
「ヴィクトリカさん、こちらの酢豚と麻婆茄子も絶品ですよ」
「おお、それでは少し味見させてもらおうかの。我のもどうぞなのじゃ」
 ヴィクトリカの苦労を知ってか知らずか、アリッサムは自分の料理をシェアする。ヴィクトリカは安心した顔をして、肉ばかりが減り気味なチンジャオロースーの皿をアリッサムに差し出した。
 2人が、皿を空にした頃。お待ちかねの、北京ダックが運ばれてきた。
 まず、せいろに入ったクレープのような薄餅。続いてやって来た皿には、焼いたアヒルの皮と、細く切られたネギにキュウリ。それに、味噌のようなものが添えてあった。
「……どうやって食べるのかの?」
「薄餅に、甜麺醤を塗って、具を乗せて、薄餅を折り曲げて包んで食べる……だったはずです」
 自信なさそうな手つきで一連の作業をやったアリッサムとヴィクトリカは、北京ダックをそっと口に運んだ。
 もちっとした薄餅を歯が破れば、シャリッと新鮮野菜が出迎える。それから、少量であるにも関わらず、非常に濃厚なコクのあるアヒル肉の味わいが、口いっぱいに広がった。
「……これぞまさしく、アレじゃな」
「ハオチー、ですね」
 2人は思わず笑顔をこぼす。
 その後、ヴィクトリカはマンゴープリンと、アッサムに勧められた香ばしくもちもちな胡麻団子を注文。アリッサムは杏仁豆腐を頼み、互いに交換し合ったりもしながら、デザートのひとときを終えた。

「おこげスープっておこげ入り?」
 ルヴィルが尋ねると、保が答えた。
「うん、おこげ入ってるよ、熱々……!」
 ぱち、ぱち。
 保の注文した、海鮮おこげあんかけスープが、音を立てる。
「音のするおこげのスープいいよね」
 ダリアが言う間にも、また音は鳴る。
 ぱち、ぱち。
「拍手みたいで、お祝いって感じがする」
「お祝いかぁ……ふふ、いただきます!」
 冷めないうちに口に入れれば、海鮮の旨味が凝縮されたスープをたっぷり含んだ、香ばしいおこげの食感が、楽しい。
「おこげにスープがマッチしてるなー!」
 ルヴィルも笑顔でもぐもぐ。合間に飲み物をごくり。
「どんなん好き? 辛いの? こってり?」
「辛いのは痛いからなーこってりは好きだなーさっぱりも好きだなー」
 合間に保の問いに答えながらも、ルヴィルはもぐもぐ、美味しそうに咀嚼を続ける。
「こっちは海老餃子? 海老入りなのかー!」
 続いて、ルヴィルは点心を頬張る。
「食感うまーー」
「僕ももらおうかな」
 笑顔を咲かせるルヴィルを見て、ダリアも海老餃子に箸を伸ばした、が。
「……っと」
 つるん、つるん、箸から逃げる。
「この海老餃子生きてるんじゃないかな」
「えっ、生きてる……」
 ダリアの呟きに、保が思わずまじまじと海老餃子を見つめる。
 もっちりとした皮の向こうに、鮮やかな緑色のニラと、ぷりぷりの海老の姿が透けて見える、実につややかな水餃子である。
「中華……生きてる料理が多いな!」
 そんな感想を述べるルヴィルであった。
 最後の締めのデザートは、別々のものを頼んで少しずつ分け合うことにした。
 ダリアが頼んだのは、風味豊かなココナッツアイス。
 ルヴィルは、目に鮮やかな黄金色のマンゴープリン。
 保は、つるんとした喉越しが嬉しい杏仁豆腐だ。
「どれもさっぱりしてて美味そうだよなー!」
 ご機嫌のルヴィルは、並んだデザートにさらにテンションを上げる。
「甘うて美味しいなぁ」
 一口頬張った保は、破顔。
「美味しいものいっぱいって幸せだね」
 ダリアが言った。この場全員の想いを統括するかのように。

●明日へ向かおう
 こうして、アッサムの19歳の誕生日は幕を閉じた。一同は解散し、それぞれの場所へ帰ってゆく。
「また遊びにきましょーね!」
「あァ、また行こうなァ」
 手を繋いで、仲良く帰途に着くリリウムとドミニクの背を見送ってから、アッサムもまた帰路へ向かった。
 ハオチーで幸せな体験は、明日へ向かうためのエネルギー。
 戦いも、日常も、全力でこなしてゆくために。

作者:地斬理々亜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月14日
難度:易しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。