死鱗流星

作者:雷紋寺音弥

●死牙の兵団
 西の空に沈む夕日が、雲海を赤く染めている。雲の切れ間から覗く街の光景。未だ多くの人通りに加え、交差点を行き交う車も多い。
 そんな眼下に広がる街並みを見つめながら、空中で魔方陣を描く者が一人。背中の翼は一見してオラトリオを思わせるが、しかし妖精族の如く尖った耳を併せ持ち、彼女が地球に住まうどの人種とも異なる存在であることを示している。
 星屑集めのティフォナ。魚人を思わせる装飾や、魚の下半身を持った竜牙兵達を魔法陣より呼び出した彼女は、満足そうに頷いて杖先で眼下の街を指し示す。
「さぁ、竜牙流星雨を再現し、グラビティ・チェインを略奪してきなさい。私達の真の目的を果たす為に……」
 それだけ言って、彼女は召喚した竜牙兵達を、街の交差点へと送り込んだ。
 雲を突き破り、夕刻の街に現れる5体の竜牙兵。悲鳴を上げて逃げ惑う人々の背に狙いを定め、彼らは躊躇うことなく武器を振るう。その本能が命じるままに、街を夕焼けの色よりも赤く染めようと。

●死兆の流星群
「招集に応じてくれ、感謝する。東京、北区にある交差点に、死神にサルベージされたと思しき竜牙兵……パイシーズ・コープスが出現し、人々を殺戮して回ることが予知されたぜ」
 大至急、現場に向かって敵の凶行を阻止して欲しい。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に、自らの垣間見た予知について語り始めた。
「敵の出現する場所は、2本の大きな通りが交差するところだ。近くにはコンビニ、大型スーパー、他にも数多くの飲食店があるだけでなく、高速道路やガソリンスタンドまである場所だからな。こんなところで暴れられたら最後、計り知れない被害が出るぞ」
 おまけに、近くには小学校から大学まで教育施設も多く設置され、間の悪いことに襲撃の時間は夕方だ。買い物に出ている主婦や、帰宅途中の学生達が巻き込まれる可能性もあり、とても見過ごせる状況ではない。
「敵のパイシーズ・コープスは、全部で5体。前衛が3体に中衛が2体の、かなり攻撃的な布陣を敷いているようだな」
 前衛の内、2体は攻撃役を務め、残る1体は仲間の壁となって立ち回る。3体とも邪悪な気を纏っており、バトルオーラのグラビティに似た技で攻撃してくる。
 一方、残る中衛の2体だが、大鎌を持った個体は多数の状態異常で、長剣を持った個体は俊敏な動きで、それぞれ攪乱を主体として立ち回るらしい。
「今から向かえば、竜牙兵達の出現する直前に現場へ急行できるはずだぜ。だが、慌てて周りにいる人間に、襲撃があることを伝えようとしないでくれ」
 事件が起きる前に周囲へ避難勧告をすると、パイシーズ・コープスは他の場所に出現してしまい、事件を阻止する事ができなってしまう。
 幸い、近くには交番もあるので、騒ぎになれば直ぐに地元の警察が駆けつけてくれるだろう。避難誘導は彼らに任せておけばよいので、敵の出現後は戦闘のみに集中できる。一度でも戦闘に突入すれば、敵は逃走することもないため、後は思う存分に戦うだけだ。
「パイシーズ・コープス……通常の方法でサルベージされた竜牙兵とは、少々異なる存在のようだが……ここで詮索していても始まらないからな」
 とにかく、今は目の前の敵を倒して行く以外に道はない。そう言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)
速水・紅牙(ロンリードッグ・e34113)
春夏秋冬・零日(その手には何も無く・e34692)
柳生・梵兵衛(スパイシーサムライ・e36123)
遠野・姫貴(魔ヲ狩ル者・e46131)
副島・二郎(不屈の破片・e56537)

■リプレイ

●逢魔ヶ路
 夕暮れ時の交差点。二つの大通りが重なる場所には、コンビニからスーパー、果てはガソリンスタンドまでが立ち並び、車も引っ切り無しに走っている。
 家路を急ぐ小中学生や、夕食の買い物に出掛ける主婦達の姿も見えた。いつもの光景、いつもの街角。そんな場所に、突如として流星の如く舞い降りたのは、魚のような下半身を持った骨の身体を持つ怪物だった。
「ウゥ……アァァ……」
「グラビティ……チェイン……」
 本能に突き動かされるままに、魔物達は手にした武器を振り上げると、周囲にいた人々に見境なく狙いを定めて暴れ始める。が、今まさに狂刃が命を狩らんとした瞬間、新たな星が交差点へと舞い降りた。
「我が槍が汝を大地に縫い止め……破滅へ誘う……畏れと共に跪け!」
 着地と同時に、すかさず光の矢を叩き込んだのは喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)。先手を取られ、思わずうろたえるパイシーズ・コープス達を余所に、他の者達も敵を取り囲むよう次々と着地して。
「やっはーっ! 速水紅牙が来たぞっ! 敵は……人型なのに半分魚? サルベージした死神はお魚大好きちゃんか」
 間髪入れず、速水・紅牙(ロンリードッグ・e34113)が俊足の動きで掌底を叩き込む。外部からではなく内部から、渦巻く螺旋のエネルギーで、敵の身体を直接破壊するために。
「ウ……ァァ……」
「ケル……べロス……。殺ス……殺スゥ……!!」
 獲物を狩る邪魔をされたことに立腹したのだろう。5体のパイシーズ・コープスは、今や完全にケルベロス達を標的に定め、一斉に攻撃を仕掛けて来た。
「「ウゥオォォォ!!」」
 骨の盾に魚人の身体。最も肉体の多く残る2体が、全身から邪悪な気を発しながら拳を振り上げる。骨だけの、何ら重さのなさそうな一撃にも関わらず、まともに食らった紅牙の身体が、それだけで大きく吹き飛んだ。
「……ッ! スッカスカの身体のくせに、なかなかのパワーじゃねぇか!」
 ガードレールを蹴って衝撃を殺し、紅牙はなんとか踏み止まった。だが、そうこうしている間にも、今度は更なる1体が、練り上げた気を弾に変えて、後方目掛けて撃ち出した。
「んう? うしろ、させない」
 すかさず、今度は伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)が射線に立ち、気弾の直撃をその身で受け止める。が、それで気を良くしたのだろう。残る2体のパイシーズ・コープス達は、一斉に勇名へと狙いを定め、遠間から攻撃を仕掛けて来た。
「ァ……アァ……」
「死ネ……死ネ……」
 巨大な鎌が、魚座の星辰を宿したオーラが、それぞれに勇名へ向かって飛んで行く。特に、展開されたオーラの方は勇名だけでなく、正面に立つ者全てを飲み込まんと、酷寒の領域となり広がって行くが。
「……うごくなー、ずどーん」
 立て続けに攻撃を食らったにも関わらず、勇名は平然とした顔をして、お返しとばかりに小型ミサイルを叩き込んだ。
「大丈夫か? 序盤から、あまり無理をして飛ばし過ぎるでないぞ」
 戦場に立ち入り禁止のテープを張りつつ、春夏秋冬・零日(その手には何も無く・e34692)が勇名に尋ねた。もっとも、見た目はボロボロになっていても、当の本人はまだまだ元気な様子であり。
「んう。いっぱいまもる、ぼくのしごと。だいじょぶ、がんばる」
 擦り剥けた手の甲の部分を軽く舐め、拳を固めて答える勇名。そんな彼女の姿を見て、俄然やる気を鼓舞される仲間達。
「ハッハッハ、その通りだな! この程度で退いていたのでは、地獄の番犬の名が廃るぜ!」
 周囲の人々を避難させつつも、柳生・梵兵衛(スパイシーサムライ・e36123)が豪快に高笑い。見れば、近くの交番から応援に駆け付けた警官達もまた、人々の避難を手伝ってくれている。
「パイシーズ……確か、うお座だよね。うお座の双魚宮って言えば、エインヘリアルの第二王女が仕切ってるんだっけ?」
 情報によれば、彼女は死神と組んでいるとか、いないとか。そういうことなら、今回の一連の話は繋がって見える。が、細かな詮索は後回しだと、セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)は気合を入れて。
「さあ、行こう、みんな!」
 立ち止まらず戦い続ける者達の歌を奏で、星辰の力を押し返す。それだけでなく、響く歌声は時に敵の攻撃を妨げる障壁となり、その威力を大きく減衰させる。
 こうなれば、後は目の前の敵を叩くのみ。忌むべき転生を遂げた殺戮者達と、ケルベロス達は改めて対峙して。
「死神だか竜牙兵だか……ああ、正体なんて知ったことか。俺はただ、貴様らを潰す為に、ここにいる……!」
「どちらが死神か……実力で解らせてやるよ! 行くぞ、シュウ丸!」
 副島・二郎(不屈の破片・e56537)の伸ばした鎖が敵の身体を絡め取り、遠野・姫貴(魔ヲ狩ル者・e46131)の放った黒き液体が、そのまま槍の如き形状に、細く伸びて敵を貫く。瞬間、怯んだ敵の頭目掛け、テレビウムのシュウ丸が情け容赦ない凶器攻撃!
「ガッ……!? ウ……ウゥゥ……」
「ケル……べロス……抹殺……抹殺……」
 それでも、やはり知性や感情は持ち合わせていないのか、本能のままに戦いを続けようとするパイシーズ・コープス達。
 地獄の番犬と骸骨兵。互いに一歩も譲らぬまま、戦いは更に苛烈さを増して行く。

●擦れ違う思惑
 空を赤く染めている夕陽が、街に細長い影を落としていた。
 殆ど奇襲に近い形で、先制攻撃を決めたケルベロス達。だが、その後はどうにも足並みが噛み合わず、早くも混戦に陥っていた。
「通常の竜牙兵ならば幾度か相手をしたが……死してなお、戦場に身を投げるとは敵ながら天晴れな者どもよ。……それ以上に、虚しい存在じゃがな」
「迷い出た亡者を討つのはサムライの仕事ってね。竜牙兵達にゃ悪いが、今後の憂いを絶つために成仏して貰うぜ!」
 斬霊刀を片手に、護り手を崩さんと斬り掛かる零日や梵兵衛。その後ろからは二郎も竜砲弾を放って援護しているが、確実に敵を追い込んでいる彼らとは異なり、他の者達は以外にも敵に翻弄されている。
「ゴチャゴチャしてるわね、もう! 敵の動きはこっちで防ぐから、後はお願いね」
 鎖を伸ばし、一際素早い敵を絡め取る波琉那。中衛を得意とする者は、それ故に撹乱以外に突出した力を持つことは無い。故に、効率良く立ち回るには、どうしてもある程度の力量が担保されていなければ話にならない。
 メンバーの中でも高い力量を誇る彼女が撹乱に回るのは、この場合は正しい選択だった。が、それに続く攻撃が、必ずしも彼女の思惑通りに繋がるとは限らないわけで。
「オラァッ! 近づくやつは、全部ブッタ斬ってやるぜ!」
 特定の敵に狙いを定めておらず、紅牙は手近な敵をナイフで斬り付けている。完全な力技のゴリ押しだが、今回の相手は複数の竜牙兵。
 戦力的には、敵1対につきケルベロス2体で挑み、互角か少し上回るといった程度だろう。だが、仲間の力量に大きな差がある状況で、狙いを明確にしないのは混乱の元に他ならず。
「くそっ……ちょこまか動くな!」
 姫貴に至っては、漆黒の弾丸も捕食形態に転じたスライムの波も、悉く回避されてしまっている。いかに狙撃手の間合いに着いているとはいえ、格上の相手に同じような属性の技で攻撃を続ければ、見切られ、避けられてしまうのは道理である。相棒のテレビウム、シュウ丸も、細かな指令がなかったことが災いしてか、心配そうに主人の回復支援をしつつ、手の空いた際に目に付く敵を攻撃するだけだ。
「みんな、落ち着いて! こういう時こそ、力を合わせなきゃ勝てないよ!」
 矢継ぎ早に飛んでくる敵の攻撃から仲間達を守るべく、セラフィは味方を奮起させる歌を歌い続けた。だが、様々な間合いから飛んでくる敵の攻撃を、彼女だけでフォローするのは少しばかり重荷だ。
「んうー、骨だけだと、美味しくなさそうだけどー」
 とりあえず、その命を再びいただこう。業を煮やした勇名が拳を固め、敵の顔面目掛けて叩き込む。先程まで、零日や梵兵衛と戦っていた際の消耗が激しかったのか、半骨半魚な敵の顔が、鈍い音を立てて醜く陥没した。
「なんか、すかすかー。でも、じゃすてぃすー」
 地に倒れ伏し、砂のように崩れて行くパイシーズ・コープスを見て、勇名が気だるい様子で拳を上げている。喰らった魔の力は、あまり美味しくなかったようだが、それはそれ。
 残る敵は、後4体。魔と魔がぶつかる交差点。混戦の先に待っているのは、希望か、それとも絶望か。

●混戦の果て
 交差点での戦いは、混迷の色を極めていた。
 敵の壁を斬り崩し、後は各個撃破を狙うのみ。だが、やはり狙いが定まらない上に、連携の途切れる隙間があるのは如何ともし難い。
「ギ……ギギィ……」
「殺シテヤル……殺シテヤル……」
 骨の盾を持ったパイシーズ・コープス達は、攻撃力が高い。その強打を刃で受け流しつつ立ち回る零日や梵兵衛だったが、敵に1対1で張り付かれてしまった結果、他の者をフォローするところまで手が回らない。
「死しても引っ張り出されて扱き使わされるとは、ご苦労さんだねぇ……」
「感心している場合ではないぞ。街の被害が広がる前に、早急に仕留めなければならぬな」
 衝撃に顔を顰め、腕の痺れを苦々しく思いながらも、零日は梵兵衛の軽口に対して釘を刺すように返事を返す。
 自分達の力量であれば、後方からの支援も受けて、辛うじて個々に対処できるレベル。しかし、そうでない者達の場合、下手にスタンドアローンで戦いを挑もうとすれば、それは手痛い反撃を食らうことにもなり。
「……ッ! シュウ丸!?」
 敵の投げ付けた大鎌の一撃にやられ、消滅した相棒の姿を見て姫貴が叫ぶ。立ち位置さえも指定されぬまま、明滅する光によって敵の意識を引き付けてしまったこと。それにより、怒った敵から集中的に狙われてしまい、早々に限界を迎えてしまったのだ。
「くそっ! これ以上は、マジでヤバいか……」
 さすがに疲労も蓄積し、紅牙も額の汗を拳で拭う。もっとも、それで止まってくれるほど、敵もお人好しなわけではなく。
「ウゥゥ……オォォォォ……」
 地獄の亡者さながらの雄叫びを上げながら、長剣で斬り掛かって来るパイシーズ・コープス。咄嗟に、刃の間合いから散開するケルベロス達だったが、しかし何故か勇名だけは動かなかった。
「馬鹿、なにやってる! 直撃もらうぞ!?」
 横薙ぎの斬撃が勇名に迫るのを見て、思わず紅牙が叫んだ。が、それでも勇名は微動だにせず、敢えて攻撃をその身で受け、しかし強引に踏み止まった。
「ん……う……ちょっと……痛い……。でも……」
 刃が食い込み、鮮血の流れ出る脇腹を、片手で抑えながら勇名は呟く。
「ボクのうしろ……あたったら……どかーん、て……なる……」
 果たして、そんな彼女の後ろには、既に無人となったガソリンスタンドが。確かに、こんな場所に攻撃の余波が一発でも当たれば、人はいなくとも大惨事だ。
「待ってて! 今、治してあげるからね!」
 このまま放っておけば、いかに守りに特化した勇名とて耐え切れない。すかさず駆け寄り、セラフィは強烈なショック療法で、強引に勇名の身体から敵の刃を取り除き。
「……おかえし、あげる」
 傷が塞がると同時に、勇名が敵の顔面目掛け、ナイフの刃を突き立てた。
「……ッ! ゴァァァァッ!!」
 穴だけの瞳に刃が刺さり、思わず雄叫びを上げて、パイシーズ・コープスが勇名から離れる。そこを逃さず、紅牙は一気に距離を詰め、空の霊力を纏った刃で斬り捨てる。
「コイツで終わりだ、ほねっ子ゾンビ!!」
 敵の身体が揺れると共に、ゴロリと転がる骸骨頭。崩れ落ちた残骸は、瞬く間に灰と化し消えて行き。
「こっちも、そろそろ片付けるか! こいつの切れ味はちょっと辛口だぜ!」
 この流れを無駄にしてはならないと、梵兵衛が纏めて敵を薙ぎ払った。
「ウゥ……ア……?」
 交差点の真ん中へ押し戻されたとことで、なんとか堪えて立ち上がるパイシーズ・コープス達。しかし、彼らが顔を上げた時には、既に零日が間合いを詰めていた。
「首狩にて断罪せし」
 死角より迫り、急所を狙って繰り出される手刀。その威力は正に一撃必殺。首を斬られたことさえ分からないまま、3体目の敵も崩れ落ちる。
「グゥゥゥ……」
 明らかに押され始めたことで、パイシーズ・コープス達にも焦りが見え始めた。もっとも、ケルベロス達とて決して楽な状況ではなく、互いに一撃もらったら、その時点で倒され兼ねない状況だ。
「迷っている暇は無い、か……ならば!」
 素早く動き回る1体に狙いを定め、鎖を伸ばして捉える二郎。自慢の俊足さえ奪ってしまえば、後は落とし易い的でしかない。
「今だ、やれ!」
 瞬間、二郎の叫びと共に伸ばされる漆黒の槍。気が付けば、後ろに回った姫貴の一撃が、敵の脳天を貫いていた。
「……残念だったな。逃がすとでも……思ったか?」
 相棒を倒され、自らも肩で息をする状況でありながらも、姫貴は最後の最後で敵を仕留めた。今までとは異なる属性の技に切り替えたことで、敵は咄嗟に対処をすることができなかったのだ。
 これで残るは、後1体。最後の敵目掛け、波琉那はここぞとばかりに杖を構え、先端から大量の矢を発射する。
「残念だけど骨折り損……。あ、竜牙兵だから牙折り損かな?」
「グ……ガガガガッ!!」
 針の如き形状をした無数の矢が命中する度に、骨の削れる音がする。全ての攻撃が終わった時、そこには何も立っておらず、ただ灰が残っているだけだった。

●牙達への鎮魂
 戦いが終わって空を見上げると、既に月が登る時刻になっていた。
 秋の夕暮れは、落ちるのが早い。修復を終えた街を夜の帳が静かに包み、何事もなかったかのように、人や車が行き交っている。
「勇名、大丈夫?」
「んうー、平気……。でも……ちょっと、おなかすいたー」
 心配するセラフィを余所に、勇名は空腹を訴えている。そんな中、第二の死を与えられた竜牙兵達に、零日や梵兵衛は、静かに黙祷を捧げていた。
「ふむ……。パイシーズ・コープス……哀れな竜牙兵の残骸よ。静かに土へ還るがよい」
「涅槃に向かえば、敵も味方も皆ホトケってな……。パイシーズ・コープスが、迷わず逝けることを願うだけだぜ」
 竜の牙より生み出され、死後は死神に利用される。眷族とはいえ、あまりに不憫な彼らの一生に、思うところもあったのだろう。
(「罪深いあなた達が、転生できる時がいつになるのか分からないけど……」)
 仮に、生まれ変わりというものがあるのであればと、波琉那は静かに月を仰いだ。
(「今度生まれ変わったら、うっかりと仲良しの友達にでもなろうね……」)
 できることなら、誰とも争わず、友達になれる未来が欲しい。そんな彼女の想いもまた、夜の空へと静かに昇って行った。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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