ポンペリポッサの魔女作戦~少女は変わる

作者:Oh-No


「えっと、ここ……だね!」
 木陰から顔を突き出して、ハロウィンパーティー会場の様子を確かめていた女の子が、ぴょん、とジャンプして会場入りをした。風に流れる長髪が、光を浴びて金色に輝く。
 けれど、その手に握るスマートフォンはモザイクまみれ。
 ――現れた少女は、ドリームイーターだったのだ。
「よし、ハロウィンの魔力はわたしがもらっちゃう。いくよー!」
 周囲にいる仮装した少年少女の視線を集めながら、ドリームイーターは指先で輪を引っ掛けた金色の鍵をくるくると回す。すると彼女を中心として魔力の渦が巻き起こり、舞い上がった木の葉がその姿を隠した。
「どしたの、どしたの?」
「え、何かの出し物が始まるのかな?」
 ひとしきり会場の注目を集めたところで、渦の中から全長10mもの魔女が露わになり……、声にならない悲鳴が上がった。
 少年は後ずさり、少女は泣き叫ぶ。
 父は幼子を腕の中に抱きかかえ、魔女から守ろうとする。
 そして、誰もがその場から逃げ出していく。その姿は禍々しすぎて、あれは厄災なのだと、ひと目で理解できたがゆえに。


「巨大な魔女、ポンペリポッサのことを覚えているかい?」
 ユカリ・クリスティ(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0176)が、集ったケルベロスたちに問いかける。
 寓話六塔戦争後に姿を消していたポンペリポッサだが、ハロウィンの力を求め、今になって動き出したというのだ。
「今、巷にはハロウィンの魔力が溢れている。ポンペリポッサは受けた痛手を癒すために、その魔力を狙っているんだろう。迷惑な話だけどね」
 そう言って、ユカリは肩をすくめてみせた。
 とはいえ、ポンペリポッサ自身が現れるわけではない。ハロウィンで賑わう街角に現れたドリームイーターがハロウィンの魔力を用いて、あたかも本物のポンペリポッサであるような、全長10mほどの巨大な姿に変じるのだという。
「つまりは偽物ってわけなんだけど、戦闘力は本物に及ばないとはいえ侮っていいものじゃない」
 油断はしないように、とユカリは言い添える。

 ドリームイーターが現れるのは、滋賀県大津市にある湖畔の庭園だ。そこで開かれているハロウィンパーティーに乱入してくるのだ。そして直後にドリームイーターはポンペリポッサに変じるだろう。
 偽ポンペリポッサは、『甘ったるいお菓子の香りを漂わせる』、『愛らしい?ウィンク』、『ハートスタンプ乱舞』といった攻撃を仕掛けてくる。いずれも強力で厄介な攻撃だ。
「ただ、ドリームイーターがポンペリポッサの姿で戦闘を行うには、ハロウィンの魔力が必要でね、保って5分程度だと想定してるんだ。その後は元のドリームイーターに戻ってしまうから、それまでよりは多少楽になるんじゃないかな」
 それだけじゃない、もっと積極的に動くこともできるとユカリは言う。
「ハロウィンの魔力を、奪い取ることもできるだろう。戦闘の際に、こっちがハロウィンらしい演出をすることによってね。そうすれば、いくらかはポンペリポッサである時間が削れるはずさ」
 ポンペリポッサへの変身が解除されれば、現れるのは女子高生風のドリームイーターだ。『山盛りスイーツシャワー』、『愛らしいウィンク』、『アニメキャラの幻影をけしかける』などの攻撃を行うが、偽ポンペリポッサよりは幾分か楽な相手だろう。
「パーティー会場はお客様を楽しませようと、運営の皆が丁寧に飾り付けた場所さ。招かれざる客が暴れていい場所じゃあない。迷惑なドリームイーターは打倒して、みんなの楽しいハロウィンを取り戻してきてほしい。じゃあ、頼んだよ」
 そう言って笑ったユカリの髪で、ジャック・オー・ランタンのアクセサリが揺れていた。


参加者
シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)
幽・鬼丸(レプリカントの戦士・e00796)
星詠・唯覇(星天桜嵐・e00828)
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)
リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)

■リプレイ


 庭園の道を、高い襟が付いた黒マント姿が歩いている。顔の位置には淡く光るジャック・オー・ランタンが鎮座していて、夕暮れを迎えた薄暗い景色の中で映えていた。
「おー、カボチャ頭だ、すげぇ」
 よく見ようと正面に回り込んだ子どもたちと、カボチャの中で目を細めている幽・鬼丸(レプリカントの戦士・e00796)の目があった。顔の傍にある光源は弱くとも眩しく、鬼丸はどうしてもしかめ面になりがちだったが、子どもたちのためと頑張って笑い、手にしたランタンを持ち上げてポーズを決める。
 シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)はドレスの裾を揺蕩わせ、池の畔に立っていた。柔らかに体躯を包む純白の薄布は、大きく広がる白翼と併せて神秘的で、彼女を女神のように見せている。彼女の傍らには、小さなマントと魔女帽子で着飾ったボクスドラゴンのシグナスが寄り添う。
 偽ポンペリポッサの登場を待つケルベロスたちは今、それぞれに気合の入った仮装でハロウィンパーティーに溶け込んでいた。
「「とりっく・おあ・とりーと!」」
「あら、トリートでお願いするわね。こちらをどうぞ」
 他方では、唱和する子どもたちに、丈の長い橙色のジプシースカートを翻して微笑み、ハスキーな声で応えるケルベロスがいた。手に下げた籠から取り出したクッキーを一人ひとりに配るその姿は、どう見ても細身の女性だが……。
(「――そろそろか」)
 化けも化けたり、怜悧に思考するその『男』こそヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)である。
「え、なに」
「きゃーっ!」
 不意に周囲から悲鳴が上がる。振り返れば、およそ全長10mほどはある巨大な魔女が夕暮れの庭園に、突如現れていた。
「慌てないで。案内に従って、落ち着いて逃げるんですよ」
 周囲の子どもたちに優しく言い含めながら、ヴォルフの視線は巨大な魔女を鋭く貫く。
 上空からは、巨大な魔女を掠めて飛ぶように、箒にまたがった魔法使いが現れた。
「おやおや、おや。ずいぶんと派手に現れたじゃあないかい、御同輩?」
 そのまま悠然と、魔女の周囲で緩い螺旋を描いて降下、メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)は降り立った庭園から、魔女を見上げて言う。
 巨大な魔女は不気味に笑うばかりだ。
「はい、あなたにもトリック・オア・トリート! こんな楽しいパーティーなんだから、壊すのではなく一緒に楽しみましょう?」
 そんな相手に、相対的には小さな魔女に扮したリュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)が、かぼちゃクッキーで満たされた籠を差し出して言う。
「ええ、お菓子を差し上げますから、お帰りいただけません?」
 シアライラもキラキラと光を零すタクトを小脇に抱え、かぼちゃ型バケツを両手で上に持ち上げた。
「残念だねえ、そんなお菓子なんかじゃあたしの腹は満たされないのさ。ほら、こんなに濃厚なハロウィンの魔力をせっかく用意してもらったんだ。すべて残さず頂いていくに決まってるだろ?」
 巨大な魔女はその姿にふさわしい、しわがれた声で応じる。
「退かぬというのであれば、戦うしかありませんか」
 傷跡のある右腕を前方に突き出して構え、風魔・遊鬼(風鎖・e08021)がつぶやく。不健康に色白な、薄汚れたゾンビの仮装の中で、赤い瞳だけが爛々と光を放っていた。
 星詠・唯覇(星天桜嵐・e00828)は、舞い散る花弁の中から現れた。花弁が幻のごとく風に溶ければ、後には白いマントで身を覆う唯覇の姿が残る。
「よろしい、ではあなた自身を奪い去り、この騒がしいひとときを鎮めるとしましょう。今宵の私は、星天怪盗、花吹雪! 私の指先から逃れることなど叶わぬと、夢のうちに知りなさい」
 マントを払い、これもまた純白のタキシードを見せつけながら、唯覇は笑みを深めた。
 ゆらりと現れたレベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)の仮装もまた、白い衣装だ。しかしこちらは、素肌に包帯を巻き付けたミイラ。緩く巻かれた包帯から覗く白い肌が、妖艶な雰囲気を醸し出す。
「そんな容易にハロウィンの魔力が奪えると思わないことだ。我が眠りを妨げる邪悪にトリックでは生温い。心胆凍える罰を授けよう」
 レベッカはいかにも深い眠りから目覚めた体で、おどろおどろしい声を絞り出した。
 黒いローブに身を包んでいるメイザースは、被っていた三角帽子を脱ぎながら、大げさな身振りで周囲を見渡して笑う。
「どうやら個性的な演者が出揃ったようだ。それではどちらがよりハロウィンに相応しいか、腕比べといこう。しばしお付き合いの程を」
 そして脱いだ帽子を胸に当て、右脚を後ろに引き、これ以上なく上品な礼を魔女に見せつけた。


(「本物だろうが、偽物だろうが、あの魔女に魔力は渡せません……! 早々にご退場いただきましょう」)
 シアライラは星空の意匠が施された長剣で、足元に守護星座を刻む。ほのかに光る地面から漏れ出したオーラは、前衛に立つサーヴァントたちとヴォルフを守護する力となる。
「ふん、何をしたって無駄さ。お前たちには、これをくれてやろうじゃないのさ。たんと嗅ぎな」
 巨大な魔女が懐から取り出した壺の蓋を開けると、途端に胸が焼けるほどに甘ったるい匂いが周囲に充満した。
「死せる我には匂いなど通じぬ!」
 顔をしかめながら、レベッカはあたかも不死の王のように傲岸に言い放ち、折り畳まれたアームドフォートを展開。
「……こんな大きい的、外せません!」
 素の口調でつぶやきながら、トリガーを引く。
 放たれる熱戦に紛れて、遊鬼はオウガ粒子を放出した。
「ゥ――、ウウ」
 ゾンビのような仮装に合わせた、意味に取れない呻き声とともに空間に満ちていく粒子が、仲間の超感覚を刺激して覚醒させていく。
「まずは、守る。反撃は、それからだ」
 鬼丸は縛霊手を展開させ、祭壇から紙兵を撒き散らした。風に乗って吹き上がる紙兵は、込められた霊力で以てケルベロスたちを穢れから遮るだろう。
 それらが舞い散る中から、偃月刀を小脇に抱えたヴォルフが飛び出していく。タップを踏むように軽やかに地面から飛び上がり、距離を詰め、魔女の腰部目掛けて稲光を帯びた穂先を突き出す。
「そんなにお年を召された姿では、躱しきれないのかしらね」
 流れる動作から放たれた瞬速の突きが魔女を貫き通したとき、巨大な魔女はうざったそうな視線でヴォルフを捉え、――死角が生じた。
 一瞬を見逃さず、にじり寄ったメイザースが魔女へとささやく。
「そら、目線を切っていていいのかな。貪欲な影が君を食べてしまおうとしているよ」
 彼が纏うローブからは、顎門を開いた暗黒が覗いていて、そのまま魔女に齧りついた。

 仮装したケルベロスたちは、その華々しい姿にふさわしく華麗に戦う。そして、ハロウィンの魔力が少しずつ、ケルベロスたちへと集まっていった。
「ケルベロス共がわらわらとうざったいねぇ。その元気、すこし分けてもらおうかね!」
 思うように魔力を集められないからか、苛立ちを感じさせる仕草で巨大な魔女は節くれだった両手を合わせた。その指先はハートを形作っていて――、そこから色とりどりのハートがぽんぽんぽんと飛び出した。
 ハートは弾みながら、ケルベロスたちを襲う。唯覇のテレビウム、カランは主人を守るためハートの前に立ちふさがって、手にしたマイクスタンドで弾き返そうするが、張り付かれて力を少し奪われた。
 シグナスもまた、主に襲いかかろうとしたハートを、マントを翻しながら転がるようにタックルして弾き飛ばす。
「シグナス、ありがとう。いま癒やしますからね」
 すぐさまシアライラが印を切ると、御業がシグナスを鎧った。
「その程度で終わりですか?」
 庭園を駆け抜けながら、唯覇が笑う。広範囲に飛び散ったハートは、ケルベロスたちから確かに幾許かの力を奪い去っただろう。だが、その程度でいまさらどうなるものかと。
「星詠さん、これで……!」
 リュセフィーは振り上げたロッドから雷の力を飛ばし、唯覇を賦活した。
「今の私は星天怪盗、花吹雪! その偽りの姿、この手で奪い去るとしよう!」
 唯覇は一層力強く、躍動する。白いタキシードの下で、オウガメタルが唯覇の体を鋼鉄へと変える。そして放たれる超鋼拳が、ポンペリポッサの巨体を幻へと返した。


「……っ、最悪! ポンペリポッサの奴、話が違うじゃない」
 ポンペリポッサへの変身が解けて、ルーファは乱暴に髪をかき上げながら立ち上がる。
 そんな彼女を遠巻きに囲うように、ケルベロスたちは距離を詰めた。鬼丸はそこからさらに踏み込み、ルーファとの間にいくつかの菓子が入った透明のラッピングを置いてから、また距離を取る。
 そして訝しげな視線を向けるルーファに、朴訥な声を掛けた。
「ルーファ、ハッピーハロウィン」
 ラッピングされた菓子は、様々なアニメのグッズだ。ヘリオライダーから聞いた予知から、きっと好きなのだろうと想像して、鬼丸が集めてきた菓子。
「お菓子あげるから、いたずらはやめよう」
 そう言って、鬼丸はマントを大きく翻した。すると、ジャック・オー・ランタンからほのかに溢れる光の中を、ちいさな黒い蝙蝠たちが泳いでいく。――鬼丸のマントに仕込まれた紙細工だ。
 その光景にルーファは毒気を抜かれて、ふわっと微笑んだ。
「あんた、優しいんだ。でも、あんたのお仲間は見逃してくれないみたいよ」
「ええ、ハロウィンパーティーをめちゃくちゃにしようとしたのですから、その報いは受けていただきます」
 リュセフィーが硬い表情で応じる。
「うん。それでも、俺は、贈りたいと、思ったから。困らせたら、ごめん」
「……ふん、ドリームイーターに贈り物しようだなんて、馬鹿なんじゃないの? それならグラビティ・チェインをよこしなさいよ」
「それは、できない」
「なら、あんたは敵ね。無駄な贈り物用意してさ、……ほんと馬鹿よ」
「そうかも、しれない」
 ラッピングされた菓子を挟んで立つ鬼丸とルーファの間に訪れる、しばしの沈黙。
 ――打ち破ったのは、ヴォルフの一言だった。
「それで、お話は終わりでいいのかしら?」
「そうね、あとはあんたたちを血祭りに上げるだけよ」
「よかったわ、ここで降参されたんじゃつまらないもの」
 ヴォルフは仮装したロマの姿で、満足そうに艶然と微笑む。
 メイザースは蛇絡む杯を模した杖を斜めに構え直した。
「では仕切り直しかな。レディ、折角だ。君にもハロウィンの『魔法』をお目にかけよう」

「もうタタリモードは終了です。撃ちまくりますからね!」
 ミイラの演技を放棄したレベッカの抱え上げたガトリングガンが咆哮を上げる中、遊鬼は左右に飛び跳ねながら、距離を詰める。
 懐から取り出したるは棒苦無。火薬で形成されたそれをドリームイーターの体に突き刺して、飛び退る。
「触れれば爆けるが鬼の腕」
 そして遊鬼が唱えた直後に棒苦無が発火、爆発して弾け飛ぶ。
「痛いなぁ、もう。可愛い子にこんな事するなんて、酷くない? ねえ?」
 ルーファは口をとがらせながら、ウィンク一つ。目が合ったリュセフィーに衝撃が走った。
「催眠なんて、私が醒ましますから無駄ですよ」
 間髪入れずに、シアライラが飛ばした御業がリュセフィーを正気に戻す。
「ならば可愛らしいレディに『華』を贈ろうじゃないか。鮮やかに、艶やかに。とびきりの『華』を咲かせてあげよう」
 ローブから伸びるメイザースの左腕には、彼岸花を咲かせた攻性植物が絡みついている。その手のひらをルーファの背中に押し当てて魔力を送り込めば。
「――罪咎燃やせ天蓋花、彼岸此岸に咲き誇れ」
 咎人の罪を糧に、紅蓮の花が花開く。
 ルーファを中心に巻き起こる攻防の傍ら、鬼丸は一歩引いた位置から仲間を支援する。
「――俺の思い出を、トペラトトにあげる」
 鬼丸がそう唱えれば、押し花の幻影が現れて、穏やかな癒やしの光を残して消えた。

 ルーファの攻勢はさほど長くは持たなかった。それでもなお、ルーファは抗うようにグラビティを放つ。けれど、唯覇は降り注ぐスイーツの雨など物ともしない。
「今宵のハロウィンに幕を下ろすために、あなたの魂を頂かなくてはなりません。お嬢さん、お別れのときです」
 唯覇は白いマントを無造作に払い、星型のオーラを撃ち出した。重ねるように、リュセフィーがウイルスカプセルを投射する。
「ヒールも使わせませんから!」
「念が入ったことで!」
 ルーファは皮肉げに笑い、最期の悪あがきとばかりに包囲の僅かな隙を突かんと駆けるが……。
「逃げられるわけがないでしょう? ……忘れがたき悪夢に包まれて逝きなさいな」
 進路に割り込んだヴォルフが、大ぶりのナイフを掲げる。その刀身はルーファの内に潜む恐怖を映し出し、不定形の怪物を生み出した。
「ほんと、貧乏くじだったわ」
 怪物はそう呟くルーファを覆い尽くしていき……、そして怪物が幻と消えたあとには、何も残されてはいなかったのである。


 終わってみれば、ルーファが繰り出すというアニメキャラの幻影はついぞ現れなかった。――あるいはそれが、彼女のささやかな意趣返しだったのかもしれない。
「……うん、片付けをしないとな。力仕事なら得意だから、任せてくれ」
 鬼丸はルーファが消えたあたりをしばらく見つめていた。それから小さくつぶやいて、飛び散った木々を集め始める。
 遊鬼はどこかに痕跡が残っていないかと調べてみたが、痕跡らしい痕跡もなく、何も見つかりはしなかった。おそらく、現れた場所も同様だろう。
「私はヒールをしていくよ。折角の素敵な庭園だ、綺麗に直したいしね。多少幻想的になったとしても、そこはそれ。ハロウィンの魔法という奴さ」
「いいですね、それ。むしろ素敵かも」
 メイザースが茶目っ気たっぷりに言うと、リュセフィーが目を輝かせて笑った。
「それでは、手分けして直していきましょう。できれば、避難した市民が戻ってくる前に大方済ませてしまいたいですね」
 シアライラも加わって、傷ついた庭園は見る間に元の姿を取り戻していく。

 やがて、遠くから喧騒が聞こえてきた。
 状況を知らせに行ったヴォルフから話を聞いた市民たちが、この庭園へと戻ってきたのだろう。
(「……ハロウィンの魔力はこれ程までに魅力的、なのだろうか?」)
 もう警戒する必要もないはずだ。肩の力を抜いて、唯覇は思う。
「どうしたんですか、唯覇さん? パーティー、再開するみたいですよ。どうせなら参加しましょう!」
 ミイラ姿に仮装したままなレベッカに声をかけられて、唯覇は曖昧にうなずいた。
 デウスエクスにとっての意味に答えは出ずとも、集まった人々が楽しくなるだけの魅力があることは間違いない。
 ウキウキと会場に向かう後ろ姿を見て、そう思う。

作者:Oh-No 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。