ポンペリポッサの魔女作戦~ワイワイパニック!

作者:ハッピーエンド

●ハロウィンパーティー!
 辺りは闇に包まれていた。一切の光が遮断され、周りを動く者の影すら分からない。
「やだもーワクワクする!」
「ドキドキで心臓が飛び出しそうだよー!」
 闇の中からヒソヒソ声。至る所から聴こえてくる。そのすべてがウキウキ弾んでいるのだから、こいつはちょっとただならない。
 カションッ!
 不意に光が灯った。中央台座。
 橙色の光がボワボワと。人魂のようにゆーらゆら。
「トリック! オアー! トリート!」
 クルクルクルクル! 台座は回転すると、ピョーン! カボチャ頭のマントマン(イケメンボイス)が両手を広げて飛び出した。
「「「「「いえーーーーーーい!!!」」」」」
 闇の中、至る場所から響く声。
「ショーーッ! アーップ!」
 ボワボワボワボワボワッ。
 カボチャ頭の掛け声とともに、橙の柔らかな光が、そこかしこに灯り出す。カボチャランタンの炎が至る所でゆらゆら揺れる。
 明かりに映し出される人影は、カボチャ頭にスカルマン。ミイラ男に吸血鬼。魔女にドラキュラ、誰もかれもが仮装行列!
「トリックオアトリート♪」
 ここは某所のハロウィン会場。数千人収容のドームの中に、中世の街並みや森林をモチーフにした都市が広がっている。
「お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ~」
「やや、それは大変。こちらをどうぞ」
 白いレイスが、山高帽のイギリス紳士からカボチャクッキーを『ありがとう♪』。
 むこうもあっちもそっちでも。いたるところで笑顔の花が咲き乱れていた。
 そんな中に、一人の金髪少女の姿。
 煉瓦色のコウモリ翼をモッタリと、同じ色のデビル尻尾をクニクニ揺らし、パッチリ赤眼を好奇心で染め上げ。ブロンド少女が街を行く。
「すごいすご~い! 盛り上がってるね~! うっきうきしちゃってるね~!」
 両手を天に突き上げて、なにかを感じるようにクルクル回る。
 う~ん! としゃがみ、
 ピョコン!
「きたきたきたー!! なんだかすっごいハロウィンぱぅわ~!!」
 シャキーンと手を回す。
「変! 身! ポンペリポッサー!」
 もくもくと立ち昇る煙の中で、イヤッホ~☆ と少女がみるみる巨大化&緑色の魔女の姿に大変身。
 周りの参加者たちは、アトラクションが始まったと思って大フィーバー。狂喜乱舞にカシャカシャタイム。
 少女は、黄金の鐘に映った自分の姿を見、
「こ、これがアタシ!☆」
 ドッキン! 瞳に星が飛ぶ。
「あはははは! すっごーい! 悪そうだなー! 強そうだなー!」
 緑の魔女はピョコピョコ笑う。頭を左右に楽しそう。
「さーみんな~? トリーック! オーア! ドリームエナジー!」
 魔女の指先に虹色の光が集束し、
「『ハロウィンの魔力』ちょ~だい!☆」
「「「「「きゃー! にっげろー!」」」」」
 参加者たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのだった。

●ハロウィンパーティー!
「トリック! オア! トリート!」
 ドラキュラに仮装した金色のオラトリオは、力強く振り返ると、そのままケルベロスの前にひざまずき、カゴを付きだした。厳かに。しめやかに。怖じることなく。堂々と。
「いやいやいやアモーレおかしい! おかしいよ! どっちかっていうと貰うのはボク達のはず!」
 ウィッチの扮装をした緑色のケルベロスが汗を飛ばした。
「言われてみればその通り! よろしい、では差し上げましょう」
 パチンッ!
 音と共に、アモーレ・ラブクラフト(深遠なる愛のヘリオライダー・en0261)のカゴからカボチャ型のクッキーが溢れ出す。
「さぁ!」
 そのままマントを翻し、踊る様にケルベロスたちへと配り行く。
 サクッ。
 そのクッキーは甘く、バターの香りが豊潤で、あっという間にケルベロス達を天国へと誘った。
「さて、では脳に糖分が行き渡ったところで本題に入りましょう。今回の目的は3点。
 1。ハロウィン会場を襲う敵を撃退し、
 2。『ハロウィンの魔力』がポンペリポッサの手に渡ることを阻止し、
 3。ハロウィンを楽しむことです!」
 ドラキュラ男はマントをブワサァッとはためかす。
「敵はドリームイーターの少女。ハロウィンの魔力を利用し、ポンペリポッサの姿に変身。10メートル級の巨体となって襲い掛かってまいります。
 最大5分の巨大化時間を経て、通常体に戻りますが、その間の攻撃は苛烈。耐えきるのはやや難しくあるでしょう。そこで――」
 ドラキュラは大仰な仕草でパソコンのスイッチをポチリと押した。
 デデン!
 モニターにデカデカと文字が映し出される。
『 ハ ロ ウ ィ ン ら し い 演 出 ! 』
「これを行うことにより、なんとハロウィンの魔力を奪取。敵を魔力切れの状態に陥らせ、変身を強制解除させることが可能となっております。
 また、これを行い敵の魔力を奪うことで、ポンペリポッサへと渡るハロウィンの魔力を大幅に抑えることも可能なのです。
 つまり!!」
 ドラキュラはググッと拳を突き上げ、
「皆様がハロウィンを大いに楽しむことにより、全ての目的は達成されるのです!」
 ワッ!
 ケルベロス達の席が、にわかに活気づく。
「それともう一点。死活問題となる注意点がございます。
 ポンペリポッサに変身している時のグラビティ。当班の相手は特に凶悪なのです。今回、1手目から5手目まで全ての予知が成功したのですが……」
「そ、そんなに強いの?」
 ゴクリッ。
「……臭いです」
「……え?」
「技は全てウインナーを発射する技。しかも手番が進むごとに数が増えます。5手目ともなると、大量に降り注ぐ膨大なる腸詰の雨嵐……。耐えられますか?」
「全力でハロウィンを楽しまないとね!!」
 ケルベロス達は真剣な顔で、互いに見つめ合ったのだった。
「なお、解除後の戦闘スタイルは資料をご覧ください」
 そう言うと、アモーレは手にした敵資料と、ハロウィンを楽しむ1000の秘訣(アモーレ・ラブクラフト著)という本を回し始めた。
「今回の依頼。いかにハロウィンらしさを出して楽しむかにかかっております! さぁ! レッツハロウィン! レッツトリックオアトリート!」
 ドラキュラは深々とお辞儀すると、手のひらにカボチャをポンッと出し、クスリと笑うのだった。


参加者
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)
ナザク・ジェイド(甘い哲学・e46641)

■リプレイ

 なんだろう。この連帯感は。
 中世風の薄暗い街並み。
 朧な燈火。
 羽ばたくコウモリ。
 いつもと違う格好。
 ワクワク。ワクワク。
 胸の高鳴りが止まらない。
 隣の仲間と目が合った。
 ガオーッ。
 ふふ。
 イタヅラな笑みが零れだす。
 これがきっとハロウィンマジック。
 誰もかれも、イタヅラっ子に変えてしまうのだ。

 さて、これより闇の劇が開宴されるが、その前にキャストの紹介はしておかねばならないだろう。
 クスクス笑う闇の眷属達。
 ふかふか耳にふさふさ尻尾。鋭い爪と肉球を嬉しそうにガウガウと、『狼男』ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)。
 とんがり帽子を目深にかぶり、炎の精霊ならぬファミリアロッドのアカをヒュボゥと瞬かす、『魔術師』鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)。
 ドラキュラマントをお洒落に纏った翼猫『ネコキャット』。そんな相棒の仮装を楽しそうに手伝う『吸血鬼』、マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)。
 眠そうな表情で、自身の攻性植物、葉っさんにローブを巻いている、ケープの『魔女』、フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)。
 相棒の翼猫『ヴェクサシオン』にメイクを施しながら、氷のような笑顔を作ってみせる『死霊の花嫁』、遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)。
 銀刺繍の黒衣を纏い、念入りにリュートの手入れをしている『吟遊詩人』、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)。
 鳥のようなマスクを着けて、本当にこれやるのか……と呟いている『ペストドクター』、ナザク・ジェイド(甘い哲学・e46641)。
 周り皆をウキウキ見つめ、某書を楽しそうに反芻している星色の『占い師』、レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)。

 ポゼットが嬉しそうに巨大化し、参加者たちが訓練された傭兵のように一斉退避を始めたところで、
 パッと消灯。
 中世の街並みは闇のとばりに包まれた。
 闇の集いが、今嗤い声を上げる。

●闇の集会
 ボゥッと南瓜ランタンの明かりが灯る、教会の鐘。
 その下から一つの影が駆け上る。
「アオーン!」
 遠吠え一つ。空を見上げ、力を漲ぎらせる狼男。
 決まったぜ。という表情をしているが、色々初々しく、狼男というよりは狼ワンコに見えなくもない。
 そこに、空から吸血鬼が舞い降りる。南瓜仮面をスタイリッシュにシュッと投げ、どこから取り出したのか血のようなトマトジュースをグイグイ煽り。そして――、
「ゴフッ!」
 血を吐いた!
 そのまま狼男も一緒にバタリ。
「また犠牲者が出てしまったか……」
 悔恨の声は、森への道から零れ落つ。
 南瓜ランタンの明かりに映し出された声の主は、鳥のような仮面をつけた黒衣の男。ペストドクター。
「あらまぁ、また黒死病ですか」
 美しくも寒気をもよおす声は、地中から。
 地面から腕をつきだし、墓地から青白い女性が這い出した。蜘蛛の巣のような美しいヴェール。死霊の花嫁。
「俺はもうどうしたら良いのか!」
 正義のドクターはくずおれるように倒れ伏す。いきなり目の前で劇を始められたポゼットも、『アタシもどうしたらいいんだ……』息を呑む。
 そんな場面に流れ来る、美しいリュートの音色。
 橙光に照らされて、闇を纏った吟遊詩人が静謐に歩み寄る。
「どうされたのですカ」
 穏やかな声に医師は答えた。この町の惨状を。猛威を振るう黒死病の存在を。
「フム……」
 吟遊詩人は記憶を探る様にうつむき、
 透き通る声で答えを導いた。
「ウインナーを食べるのです」
 時が止まりました。
 鳥マスクは呆然と固まります。偽ポッサもハラハラと。
 そんなところに、また一人の登場人物が。
 薄闇の街道を、水晶の明かりに照らされて、星空色のローブに身を包んだ占い師が静々と。
 全てを見通すような透き通った瞳を揺らし、
「鍵はウインナーが握っています」
 やっぱりウインナーでした。
 占い師はスッ、とポンペリの首に巻かれたウインナーを示し、
「視える……視えるわ。今宵、南瓜色の魔力が奪われゆく貴女の姿が」
「あ、アタシっ!?」
 さぁ、遂に偽ポッサが無理やり劇の登場人物に仕立てられたぞ。
 後ずさる魔女を畳み込むように、今度は後ろから赤々とした光。
「やっと見付けた……これこそ俺の探し求めた魔力の気配だ。なあ、寄越してくれよ。俺達の炎に呑みこまれたくなかったらな!」
 それは闇の魔術師。
 とんがり帽子をクイと上げ、使い魔のような鼠を一瞥。
 鼠は悪ぶった顔でキュイと鳴くと、サマーソルトするようにクルリ舞い。メラメラと焔を巻き上げる一杖のロッドに姿を変える。パシリッ。魔術師が力強く相棒を掴み、
 その視線の先には――、
 ウインナー。
「お前もかよ!」
 戸惑う偽ポッサ。だが役者達は待ってなどくれない。
 最後の登場人物が、赤々と染まる街並みに、のっそりと現れた。
「傷の匂い……血の匂い……それも深い……騒ぎを振り撒かれるのは……迷惑……この魔女も……力を貸そう……」
「その匂い、絶対最初のトマトジュースの匂いだよ!!」
 カミソリのようにキレッキレな偽ポッサのツッコミ。
 しかし魔女は、背後に魔方陣をボウと輝かせながら、幽鬼のようにひたひた無視。
 頭に付いた花の使い魔が、ランタンのついた杖をゆらゆら揺らし。薄橙に包まれ歩を進める。
「つまり、だ」
 声は後ろにいたドクターから。
「そのウインナーを奪えば、大団円なんだな!」
「さっぱり話が分からねーよー!」
 緑の巨人は頭を抱えて天を仰いだ。
「がうっ、そういうことなら、いっちょ暴れまわるぜ!」
「お前の魔力を吸いつくしてやる!」
 先に倒れた狼男と吸血鬼も跳ね起き、ノリノリ。
 ということで、
「「「ウインナーを寄こすのです!」」」
「ま、ま、ま、マジで!!?」
 マジです。
 あたふたと仮装集団を見渡すが、ウインナーをこんがり焼こうとスタンバってる男や、ウインナーを逃すまいとカゴを背負っている翼猫の姿もちらほらと。
「え? 食べる気? 本気で? え、だってアタシのウインナーってあれだよ!? 去年、黒いでっかい怪物になって襲い掛かっていったっていうあれだよ!?」
 ポンペリポゼットは思わず後退。
「こんなの食べたら……ヤダ! グロい! グロいよ!」
 恐るべし闇の集団。偽ポッサは錯乱したように勢いよくウインナーを発射した。
「Bratwurstにして差し上げまショウ」
 エトヴァの仕込みリュートから、炎が勢いよく噴射され、ウインナーをこんがりクッキング。
 焦げ目のついたウインナーがグオオオオッ。空を斬る。
「やはり俺か。そうだろうな」
 射線の先にいるペストドクターは、腕を組んで仁王立ち。どこか悟りを啓いたような凄みがある。だが――、
「か、身体が勝手に!」
 ものすごい勢いでマサムネがディフェンス! ポジション故のダイブか、はたまたこんな美味しい役目は譲れないという思いがそうさせたのか!
 それは定かではないが――、
「させるかよ!」
 炎を身体に巻き付けて、華麗にウインナーを弾き飛ばしたのはヒノトだった。
「「ばかな!!」」
 すっかり受ける準備のできていたナザクとマサムネの声がハモる。
 弾き飛んだウインナーはニッコリとヴェク氏がキャッチ。鞠緒と嬉しそうにハイタッチ。
 気勢の上がった闇の眷属たちは、
「トリックオアトリート!」
 一斉に闇の衣を翻した。

 手に持つ南瓜ランタンが十の朧光となって闇夜に揺れる。
 眷属達の影がナイトメアの様にミョーンと伸びた。
 吸血鬼が血の雨を紡ぐような歌をかき鳴らし、
 死霊の花嫁が、未来からの解放を求める歌を切なげに震わせ、
 魔女の使い魔が神々しく仲間を癒しの光で包み込み、
 占い師の水晶から生まれし霊弾が、光の白刃となって闇を裂く。
 吟遊詩人は漆黒の流星となりて、機動を打ち砕き、
 黒死医者は、薄ぼんやりと発光するメスで闇に線を引く。
 狼男は疾風となり、敵の鼻を鋭い爪で斬り裂いて、
 魔術師の杖から噴き上がる赤の火炎は、二筋の光となって弧を描く。
 中空では二体の使い魔が、美しい光の粒子を雪のように散らしていた。
 火の粉が舞い散り、街灯に掲げられた南瓜ヘッドが赤々と嗤う様に燃え踊る。
「イエーイ!」
 マサムネは戦いながらもズギュウウウンとバズーカでお菓子を撒き散らし、
「羞恥心は捨てろとアモーレの著にもあった」
 ナザクは甘い匂いの薬瓶をマッドドクターのように投げ狂う。
「『旅の恥はかき揚げ』ってやつだな! 確かに書いてあった気がするぜ!」
 闇を駆けるラルバ少年は自信満々ニヤリと笑い。
「ハロウィンを楽しむ秘訣その44、『魂の開放』ですね! 存じておりますとも!」
 ふふんと嬉しそうに弓をつがえるレカ女子はまさかの暗唱! これだけ読んで貰えたのなら、どこぞのヘリオライダーもエクセレントでブワサァなことだろう。

●闇の開宴
 ちょっと皆がハロウィンを楽しみまくった結果、あっという間に偽ポッサはポゼットへと萎んでいった。戦いが始まってまさかの2分。最短記録の一つだろう。
「……え?」
 金髪少女は変身が解けてポカーン。
「な! な! なんで!?」
 どうやら想定外だったらしく、酷く狼狽している。
「ドンペリポッサ! どういうことなの!?」
 必死に黒幕の名前を呼ぶが、そんな名前の魔女などいない。
「どうやらハロウィンの魔力が尽きたようですね」
 悲壮感溢れる歌を紡ぎながら、鞠緒がニコリ。
「尽きるものなんだ……ハロウィンの魔力って……くそ……くそ……!」
 ポゼットは地団太を踏んだ。
「知らなかったのか? ちょっと可哀想だけど、逃がす訳にはいかないぜ?」
 魔術師ヒノトの指からシュッと火炎のリングが闇を焼き、ポゼットの周りを取り囲む。
 ポゼットはフンッと鼻で一つ笑うと、
「こんなにかわいいポゼットちゃんが、ここで終わりなわけないじゃん! アタシはポゼット! こんなところでやられる脇役じゃなぁい!!」
 突き上げた指先からは虹色の眩い光が迸る。元より唯我独尊な性格。屈服などあり得ない。
 来る。相手の攻撃が。全て催眠。番犬達は身構える、が、
「見た目の好みで選ぶか……ちょろそうなやつにするか……」
 ポゼットさん。もう少し心の声ミュートして。
「決めた!」
 虹色の波が飛沫を上げて狼男へと向かって走った。
「どっちでだ!?」
 ついつい上がるラルバの叫び声。
 しかし、絶体絶命の仲間を庇う影。緑髪の優吸血鬼、マサムネ。
 格好良く仲間を護ったものの、早速、目の中にハートマークを浮かべ、ポゼット様を回復しようと翼をはためかす。
「浮気してたって言い付けるぞ!!」
 鳥マスクから友情の声。
「おれはしょうきにもどった!」
 どっこい身体は全然止まらない。
「葉っさ……じゃなくて……使い魔よ……あの者の傷を癒せ……」
 ギリギリのタイミング。光合成の光が吸血鬼を包み込み、フローライトのキュアが危機を救った。
「「やっぱりフローラは頼りになるぜ/な!」」
 二人の声は、またハモる。

●闇の別れ
 その後の戦いは、一方的な様相となった。
 漆黒の流星が降り乱れ、弦音が闇を裂き、ウイルスが煙を立ち上げ、爪撃が一閃、炎が街を朱く染め、物悲しい歌が響き渡る。
 虹色の光が番犬を惑わすが、葉っさんと桃色の霧が大躍進。
 哀れポゼットは色々な意味で封殺され、気がつけばチャペルの下で仰向けに倒れていた。
 動かなくなった身体にそれでも魔力を込めようとし、
 フゥ。
 諦めたように力を抜く。
「なんだかんだ楽しかったよ。ハロウィンっていいね」
 観念したように薄笑い。
「なぁ。ハロウィンって、ジャックが化けて出るんだろ。アタシもできるかな。そしたらまた遊ぼうぜ。今度こそ、お前らのドリームエナジーを吸いつくしてやるからさ」
 ニシシと笑う。
「ただし! アタシを騙したポンポコポッサは絶対に許さない! 絶対にだ!!」
 どこのタヌキ。
「仇を、期待してるぜぃ!」
 無邪気な少女はグッと親指を突き立てると、ハロウィンの空気に混ざる様に闇の中へと溶けていった。
「ゴーイングマイウェイな夢喰いだったな」
「気持ち良いくらいに」
「機会があれば、とってあげましょうか。仇」
「今宵の俺たちは闇の集団。そういうのも良いかも知れませんネ」
 番犬達は、消えたウインナーの跡を見つめながら闘志を燃やすのだった。
 なお、本物ポッサに奪われるハロウィンの魔力は、極限まで抑えることに成功したという。

●闇の祭り
「それにしても、ウインナーは結局取れませんでしたね」
「残念デス」
 さて、これからどうするか。
 ウインナーの消えたカゴを見つめる番犬達。
 その後ろから、長身の男が肩を叩いた。
「トリックオアトリート!」
 ビシッと敬礼。
 いや、どなた?
 声をかけた相手は警察官だった。先ほどまで避難誘導に当たっていた心強いお仲間である。
「敵の撃退お疲れ様です! このトリートをお受け取り下さい! あの人からです!」
 警察官たちは箱を残して去っていった。
 箱の上には達筆なメモ。
『こんなこともあろうかと』
 番犬達は顔を見合わせる。
 ゆっくり箱を開けてみた。
「まぁ!!」
 飛び出したのは大量のソーセージ!
 ボロニア、フランク、ウインナー。
 ヴルスト、チョリソー、ビアシンケン。
 キンッキンに冷えた黄金色の液体や、果実のジュース瓶も汗をかいてお待ちかね。常温の物も当然のように用意され、果てにはご丁寧にバーベキューセットまで。
 いったいあの人とは何者か。あまりに難問過ぎて答えられる者などいないだろう。だが一つ、はっきりしたことがある。
「「ソーセージパーティーを開けるぞ!!」」

 場所は中世風の食堂。薄暗く、ロウソクの光だけが照らす店内で、闇の祭りが始まった。
 パリッ! とした音と同時に、
 香ばしい匂いが弾け、
 ジュワァッとした旨みが、身体中に染み渡る。
「「うまぁぁあい!」」
 番犬達は思わず互いに肩を抱き合った。
 ガシャン!
 汗をかいたグラスも陽気に声を上げる。
 ソーセージの他にも、クッキーにガトーショコラなど。スウィーツも申し分なく、もきゅもきゅとウットリ食べる女子と鳥マスク。
 宴もたけなわとなったところで、鞠緒が某書を歌い出し、レカも負けじと暗唱を披露。次第に全員を巻き込んだ古今東西ゲームの様相を成す。
 次第次第に人は増え、避難誘導のスタッフや、関係者たちもワイワイやんやの大パーティー。
 気がつけば時刻も夜を回ったところ。
「そろそろ、行きますか」
「だな!」
 イタヅラっぽく笑った面々は、それぞれの扮装を整えて、
「「「トリックオアトリート!」」」
 夜の街を練り歩く。
 闇の宴はここからが本番だ。
 南瓜ランタンが、ゆらゆらフラフラ嬉しそうに闇の中で微笑んだ。

 笑い、はしゃぎ、おどけ合い。最後に皆で撮った写真に写ったもの。それは――。

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 0
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