ポンペリポッサの魔女作戦~メルヘンと悪い魔女

作者:廉内球

 幽霊のさまよう大通りをコウモリが飛び交い、吸血鬼が談笑している。その様子をカボチャが笑いながら見守っている。ハロウィンパーティーの会場では、人々が思い思いにハロウィンの日を過ごしていた。
 そんなハロウィンを楽しむ人々の中に、ツインテールの少女が一人。派手な仮装をした一般人の中では、その姿はむしろ目立ず、彼女の胸元のモザイクにも誰も気づくことはなかった。
 少女はくすりと笑うと、その姿が徐々に巨大化し、肌は毒々しい緑色に変わっていく。幼げな顔は禍々しい鷲鼻へ変わり、鼻先は更に象のように伸びる。なおも巨大化を続けながら、その真っ赤な目がぎょろりと辺りを睥睨した。
「なんだあれ」
「仮装にしては変じゃない?」
「巨大化してる……化け物だ!」
 事態に気づいた人々が悲鳴を上げて逃げ始める中、なおも巨大化を続けるポンペリポッサがしわがれた声で笑った。

「今年もハロウィンが近づいてきたな」
 各地に漂うお祭りムードとは裏腹に、アレス・ランディス(照柿色のヘリオライダー・en0088)は憂鬱そうに言った。
「ハロウィンの魔力を求めて、ドリームイーターが動き出した。寓話六塔戦争以降、行方の掴めなかったポンペリポッサ……の、偽物だ」
 現れるのはポンペリポッサ自身ではなく、少女型のドリームイーター、シルエラ。しかしハロウィンの魔力を使って変身することにより、10メートルほどのポンペリポッサの姿に変わる。その強さはポンペリポッサそのものには及ばないが、ハロウィンの魔力を得ていることもあり、かなりの強敵となることが予想されている。
「敵の狙いは、ハロウィンの魔力の回収と思われる。食い止めて欲しい」
 偽ポンペリポッサの攻撃は、焼き菓子の匂いで裏切りを誘う、無数のソーセージを投げつけるなど、魔女らしいものとなっている。
「強力な相手だが、弱点はある。時間だ」
 変身して戦うとハロウィンの魔力を消費してしまうため、ポンペリポッサの姿を維持可能なのはおよそ五分程度。それ以上が過ぎてしまえば普通のドリームイーターに戻ってしまう。そうなれば勝つことの難しい相手ではない。
「さらに、この時間を短縮することも可能だ。方法は、お前たちがハロウィンらしく振る舞うこと……仮装をするとか、小道具を使うとか、やり方は任せる」
 ケルベロス側がハロウィンらしい演出を行うことで、ハロウィンの魔力を奪うことが出来る。そうすれば、敵の戦力が早期に下がり、戦いやすくなる。
「変身が解けた後は、小さな子供のような姿に戻る。これが敵の……シルエラというドリームイーターの本来の姿だ」
 シルエラは窯を召喚し敵を焼き殺そうとしたり、財宝を用いてケルベロスを惑わせるなどの攻撃を行ってくるので、そちらにも注意が必要だろう。
「楽な相手ではないが、ハロウィンを楽しむためにも、負けられん戦いだな」
 ハロウィンを襲う巨大な魔女。デウスエクスという脅威を追い払えるか否かは、ケルベロス達の双肩に掛かっている。


参加者
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)
穂村・華乃子(お誕生日席の貴腐人・e20475)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)
ザベウコ・エルギオート(破壊の猛獣・e54335)
ロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)

■リプレイ

●番犬たちのパレード
 ハロウィンムードの街を、巨大な魔女ポンペリポッサが蹂躙しようとしている。パーティ会場が一転して阿鼻叫喚のるつぼに変わった。お化けに魔女に吸血鬼、仮装をした人々は我先にと逃げ出していく。
 その中で、人の流れに逆らうようにポンペリポッサに近づいていく一団があった。魔女やお化けに悪魔達が、火の玉を引き連れたパレード、それは仮装したケルベロス達であった。
「なんとかオアかんとか! ありったけのお菓子を寄越すんだぜェーッ!」
 ザベウコ・エルギオート(破壊の猛獣・e54335)が叫んだ。一番どうでもいいところしか合っていないハロウィンの言葉に、巨大な魔女がゆっくりと視線を向ける。杖を持ちローブを着込んだナノナノ、イェラスピニィを傍らに従え、プリンセスモードの発動により華々しい衣装を纏うオウガ男性の姿は、冷静に正直な感想を述べるならば、女児向けアニメのコスチュームを無理矢理着ているようで似合っているとは言いがたい。しかし、もしこれを一般人が見たならば……なんか勇気づけられるのである。
「トリックオアトリート」
 クールな声な声が訂正する。お化けを模したシーツの中で、四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)の瞳が赤く変じた。彼女らしい至ってシンプルかつオーソドックスな仮装の中で、何か棒状のものが動くように布が変形している。
 周囲を漂う人魂……ロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)の地獄の炎に照らされて、真っ白いシーツがゆらりと揺れた。
「そういえば、ハロウィンを楽しむのって何気に初めてかもしれませんね、ハイ」
 初めてといえども手を抜かないのがロスティである。飛行しながら地獄の炎と混沌の水を用いることで、ホラー演出を余念無くこなす。
「ハッピーハロウィン! お菓子が無いなら悪戯しちゃうわよ☆」
 ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)が纏うは薄紫のフリルが愛らしい白のドレスにとんがり帽子。羽織った白いマントに刃を隠し、白の魔法使いになりきっている。一般人が退避したパーティ会場で、それでも笑い、楽しそうな雰囲気を作っている。
「いいえ、パーティーをじゃまする悪いポンペリポッサにはお仕置きよ! お菓子くれても悪戯するわ!」
 トリックオアトリートの問いの意味を否定して、ケルベロスとしての使命に燃えるメアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)は、血の深紅に濡れた淑女の姿で残酷な童話を口ずさむ。その傍らには優しげな女性ビハインド、ママ。目元が隠れていようとも、唄うメアリベルを優しげに見守っている。
 彼女らを見守るのは穂村・華乃子(お誕生日席の貴腐人・e20475)も同様だ。こうしてハロウィンの時期にドリームイーターとの戦いが繰り広げられるのも、そろそろ恒例行事になってきた。
「ドリームイーターはハロウィンに活動しなきゃいけない決まりが有るのかしら?」
 くすりと笑みを浮かべる、カボチャ色をした貴族風の麗人。その傍らには同じくカボチャの魔女と、ジャック・オ・ランタン。天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)とその相棒、ナノナノのだいふくであった。
「楽しみつつ、しっかり敵も撃破していきましょう」
 雨弓に頷くように、だいふくのカボチャ頭が揺れる。お祭りムードに少し浮かれる雨弓同様、だいふくも張り切っているようだ。華乃子と雨弓の仮装はお揃いの貴族風。共にお菓子を携えて、華乃子の扮するハロウィン紳士が、カボチャの淑女を戦場へとエスコートする。
「私はどちらかというとトリート……おもてなし専門でしょうかね」
 穏やかに微笑む鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)はカボチャの意匠があしらわれたコートを羽織り、高貴な貴族のような出で立ちだ。悪魔の仮装に身を包みながらも、奏過は柔和に微笑む。このように穏やかな悪魔こそ、心の隙間に潜り込む術に長けた、本当に恐ろしい相手なのかもしれない。
 ケルベロス達のアピールによって、ハロウィンの魔力の流れが変わる。偽ポンペリポッサもそれに気づき、首にかけた長い腸詰めを踊らせる。火の玉の演出をしていたロスティは地に降りると共に、地獄と混沌の力を戦いに向ける。
「楽しむのが初めてだからといって、戦闘の手を抜くなんてことはしませんよ」
 悪い魔女にはお仕置きを。ケルベロス達による魔女退治が、始まろうとしていた。

●ハロウィンの悪い魔女
 トリックオアトリート、の掛け声に反応するかのように、ケルベロス達に向かって、偽ポンペリポッサはソーセージを投げつけてくる。文字通り体で受け止めた前衛陣がその質量になぎ払われた。
「いてて……でもソーセージは……よし、お菓子だな!」
「いや、ソーセージはお菓子に含まれない……」
 跳ね起きたザベウコはポジティブに考えるが、千里が冷静に否定する。そして。
「……だから悪戯する」
 次の瞬間、ふわりとシーツが空を飛ぶ。そしてポンペリポッサの真っ赤な目の前に到達すると、口の切れ目から突き出した拳が猛烈な勢いで魔女の鼻っ柱に伸びた。
 猛打が叩き混まれると同時に、華乃子もパイルバンカーの杭に強烈な冷気を纏わせてポンペリポッサへと飛びかかる。
「お菓子が欲しい子には、お姉さんの愛と甘ぁいお菓子のプレゼントよ!」
 持ってきたお菓子が空に撒かれる。一方でポンペリポッサに打ち込む杭は甘さとは対極。打撃の中心点から氷が広がり、しわだらけの老婆の肌を覆っていく。いくつかが衝撃で剥がれ落ち、お菓子に混ざって空を飾った。
「ええ、私も今年は見ているだけではありませんよ。ね、だいふく」
 雨弓にだいふくがこくりと頷き、ハートの光線を飛ばす。
「おやおや、かわいいカボチャだこと。けれど、このポンペリポッサの敵じゃあないよ!」
「どうかしら?」
 敵がナノナノに気を取られた隙を突き、雨弓は華乃子らを追うように宙へ。地獄の翼の光が尾を引き、エアシューズを履いた足が吸い込まれるように魔女に直撃する。同時に張り付いていた氷がいくつか剥がれ落ちた。
「お見事です。僕も確実に当てに行きますからね、ハイ」
 ロスティがドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変化させる。一瞬遅れて、轟音と共に砲弾が発射され、巨大な魔女に吸い込まれていく。直撃と共に敵の動きが鈍ったその隙に、ザベウコが動く。
「トリックアンドトリート! お菓子をよこせ、イタズラはやめねェーけどなァ!」
 要求通りに叩きつけられるお菓子をかいくぐり、ザベウコの躊躇無いパイルバンカーの一撃が偽ポンペリポッサをえぐる。白銀の杭が魔女の体を穿つと同時に、愛の魔道士イェラスピニィも杖からハートの光線を飛ばす。
「よいぞ貴公ら、大義である。余が手助けして進ぜよう」
 そんな尊大な言葉を発したのは奏過であった。せっかくだから仮装を活かした演技もと、普段の丁寧な物腰からは想像も出来ないような傲慢さで、薬液を降らせ味方を癒やす。言葉はあくまで遊びのうち。表現は変われど、彼の本質は変わらない。
「お菓子がなければソーセージを食べればいいじゃない? そんなこと言うあなたを腸詰めにしてあげましょうか!」
 ポンペリポッサからの三度目の攻撃を受け止めて、メアリベルは反撃に移る。
「トリックオアトリート!」
 時空すら凍結させる氷の弾を撃ち出すメアリベルに、心配そうな素振りのママも、カボチャのランプに念を込めて魔女へとぶつけて攻撃する。
 戦線維持を旨として行動してきたヒメは、不意に敵の様子がおかしいことに気づいた。
「もしかして……! トリックオアトリート☆」
 白マントの下から刀を取り出し、空の力を魔女に刻む。その斬撃と同時に、ポンペリポッサの姿が大きく歪んだ。
「思った通り、ポンペリポッサの変身が解けそう!」
 ヒメが言うとおり、ケルベロス達の目の前で、緑色の巨大な魔女の姿がどんどん小さくなっていく。鷲鼻が縮み、肌の色が変わり、腸詰めが消え。髪の色も変わっていって、最後にはエプロン姿の少女に戻った。
 戦闘開始からおおよそ三分が経過していた。

●少女の祈りと怖い童話
「どうしましょう、ハロウィンの魔力が切れてしまったわ! どうか、助けてくださいな」
 シルエラが両手を組んで祈る。それはどこかにいるポンペリポッサに捧げたものか、それとも他の誰かへの祈りなのか。
「一体何をするつもり?」
 予期せぬ事態に備えてメアリベルらが身構える。だが……何も起こらない。
「ああ、やっぱり助けてはくださらないのね。なら私が、悪いケルベロスを燃やしてしまうしかないわ!」
 シルエラが叫ぶと、何も無かった場所に大きなかまどが現れる。不思議なのはそのかまどが、勝手に動いて飛んでくること。炎がまっすぐ奏過に向かい、悪魔を飲み込まんとする。
「熱っ……いくら悪魔とはいえ、童話の魔女と同じ末路は御免です」
 奏過が【仕込み雷杖『朧白夜』】を掲げると、雷の防壁がグラビティの炎をかき消していく。
「それが本来の姿……なら」
 千里が白いシーツを勢いよく脱ぎ捨てる。その下から現れたのは、赤い瞳の和装の少女。普段と少し違うのは、猫耳と二股の尻尾。今度は猫又の仮装で、ドリームイーターにつけいる隙を与えずに【妖刀”千鬼”】を振るう。
 シルエラの体勢が崩れた。千里の攻撃の隙を潰すように、ヒメは【緋雨】【緑麗】の二振りを用いて十字の剣撃を刻む。
「この剣は阻めない――」
 鉄断ち(クロガネダチ)の双撃に、ドリームイーターは揺らぐ。
「ヨッシャー! 悪い効果を防ぐ力をまとめて付与してやるぜェーッ!」
 ザベウコが護力の魂宿脚(ゴリョクノコンシュクキャク)の力を振るう。渾身の回し蹴りはデウスエクスに届くことは無いが、代わりにケルベロス達に癒やしと守護をもたらした。
「ではこちらは、混沌の地獄の力で……悪い効果を増幅させます!」
 ロスティの地獄の炎と混沌の水が混ざり合う。形の異なる二つの浸食がシルエラを襲い、その肌を焦がし髪を浸していく。
「まあ、仲が良いのね。私にも……誰かいれば、今頃モザイクも晴れていたかしら?」
「どうかしらね? でもどの道、ここで終わりよ」
 華乃子が不敵に笑うと、その口元には牙が見えた。彼女の放つオーラの弾は、シルエラの首筋に牙を立てるように食らいつく。その光弾を追いかけて、雨弓の姿が光に変わった。その突撃にナノナノ達も連なるように、とがった尻尾をシルエラへと突き刺した。
「これ以上、パーティー会場を荒らさせるわけにはいきません」
「その通りだわ。哀しみよこんにちは 惨劇よいらっしゃい 衣装棚を覗いてみましょ 魔女の竈より熱くて怖い地獄を見せてあげる!」
 シルエラが竈を召喚するなら、メアリベルが呼ぶは衣装棚。中から現れた骸骨が、シルエラの手を取り足を掴み、クローゼットへと引きずり込んでいく。
「どんな夢を見たか聞かせて頂戴。指きりげんまん約束よ?」
 骸骨達の隙間から、シルエラの悲鳴が響く。クローゼットが閉じる刹那、シルエラの唇が誰かを呼ぶように動いたが……声にはならず。少女は扉の向こうへ消え、二度と出てくることは無かった。

●メルヘンとハッピーハロウィン
 ケルベロス達の活躍により、ドリームイーターの脅威は去った。しかし、全長十メートルはあろうかという魔女が我が物顔で歩き回ったパーティー会場はあちこちが壊れてしまっている。
「派手に壊れてしまいましたね」
 雨弓がだいふくに視線を送れば、ちいさなカボチャお化けが心得たとばかりにヒールに取りかかる。
「壊れたって、直せば良いのよ。ハロウィンなんだから幻想たっぷりの方がちょうどいいでしょう? ね、だいふく」
 ナノナノと協力して会場をヒールしていく華乃子。かけるごとに、飾りだけだった会場が怖くて素敵になっていく。
 ハロウィンの夜を、シーツを被ったドローンが舞う。破壊の爪痕を修復するお化け達だが、その親玉は隅っこにいる。白い衣服のヒメは顔を赤らめ、頭を抱えていた。
(「は、恥ずかしい……」)
 ハロウィンの魔力を奪うためとはいえ、語尾に☆までつける気合いの入った振る舞いを、思い出して恥ずかしがっているのだ。そんなヒメにねこみみ千里がシーツを持って近寄っていく。
「……貸そうか?」
「……大丈夫」
 そう、とちょっと油染みがついたシーツをたたんでしまうと、千里は瓦礫の撤去作業に戻っていった。
 そうして会場の片付けも佳境にさしかかる頃、サベウコはふとロスティの持ち物に気がついた。気がついてしまった。
「お? ロスティいいモン持ってんじゃねーか! 小腹も空いたし一個いただくぜ!」
 返事も聞かずにロスティの持ち込んだお菓子と、お菓子とは言いがたいモノの中から適当に摘まむザベウコ。
「チョコ以外はオススメしませんが……あ、ハイ」
 押しの弱いロスティに押しの権化のザベウコである。勢いで持って行かれると抵抗も無意味で。
「チャレンジャーですね……トイレはどこでしたっけ?」
 来るべきもう一つの脅威に備えて、ロスティはきょろきょろと会場を見渡すのであった。
「さて、やっと終わりましたね」
 奏過はスキットルを開け、中のウィスキーを一口。魔女が消え、人々の気配が近づいてくるのを感じながら、悪魔の紳士はほうと一つため息をつく。
「いいえ、全然終わってないわ。ハロウィンナイトはこれから始まるのよ!」
 皆を会場に迎え入れるべく、メアリベルがママの手を引き、奏過がその後に続く。
 こうして、悪い魔女は退治され、ケルベロス達は素敵な宝物……楽しいハロウィンを手に入れましたとさ。めでたしめでたし。

作者:廉内球 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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