ポンペリポッサの魔女作戦~白き羊は巨なる女怪へ

作者:月見月

 10月の風物詩と言えば、近年すっかりお馴染みとなったハロウィン。様々な電飾やカボチャ型のランタン、蝙蝠やお化けの飾りで装飾された町並みを、様々な仮装をした人々が楽しげに練り歩いている。カップルで仲睦まじく街を巡る者、子供を真ん中に手をつないで歩く家族、他方では町内会か何かだろうか、複数の子供達が家々を回ってお菓子を貰っている。
 そんな平和な非日常。だからだろうか、漆黒のゴシックドレスに身を包み、頭部に羊角、手に大きな鍵を持った少女が人込みの中をひらひらと歩んでいることを、誰も気にも留めていなかった。
「恋人、子供、家族……うらやましいなぁ、とっても幸せそうで」
 だからそれを、私にちょうだい。だからこそ、そんな彼女の呟きを耳にするものは誰も居なかった。そのまま言葉が雑踏のざわめきに溶けきった瞬間、ぼこりと彼女の全身が膨張を始める。
 何事かと人々が足を止め、ハロウィンのイベントかと興味深げに視線を向け……その勢いが明らかに異常であると悟った瞬間、ソレがデウスエクスであると理解する。楽しげな雰囲気は吹き飛び、悲鳴と泣き声、逃げ惑う人々の焦燥が燎原の火の如く広がってゆく。
 その中心、急速に人気がなくなったそこへ姿を現したのは、緑色の肌をした醜悪にして巨大な魔女。全長十メートルはあろうかというそのデウスエクスは、寓話六塔戦後に消息をくらましていた魔女『ポンペリポッサ』の姿であった……。


「た、たた大変っす! ハロウィンの力を求めて、ドリームイーターの魔女『ポンペリポッサ』が動き出した見たいっす!」
 会議室の中、参加者が集まった頃合いを見計らい、ダンテは開口一番そう切り出した。ポンペリポッサ、かの魔女は寓話六塔戦争に敗北して以降最近まで身をひそめていたが、戦力回復の為にハロウィンの魔力を狙っているのだという。
「発生する事件は、ハロウィンで賑わう街に現れた別のドリームイーターが、ハロウィンの魔力を利用して『ポンペリポッサの姿に変身、巨大化する』という内容みたいっす」
 ポンペリポッサ化したドリームイーターは全長が十メートルにもおよび、オリジナルには一歩劣るものの、その戦闘力は極めて強力。そのまま暴れられれば一たまりもない。
「偽ポンペリポッサは埼玉県の浦和駅前に現れるみたいっす」
 県内でも相応の大きさを誇る街である為、開催されるハロウィンと相まって偽ポンペリポッサによる被害はかなりのものになるだろう。
「偽ポンペリポッサの使う技は以前戦った時と似ているっすけど、元となったドリームイーターの影響っすかね、若干の差異があるみたいっす」
 手にしたソーセージを振り回しての近接攻撃、菓子の香りで周囲の者の理性を蕩けさせる技、足元から無数のモザイクをあふれ出させ相手の力を引きはがす技の三つである。
「ただ、弱点もあるっす。ポンペリポッサの姿に変身して戦闘をする為には、ハロウィンの魔力を消費する必要があるっす。強力な分消費も激しく、変身していられる時間は長くても5分程度が限界っす」
 それが過ぎれば、変身が解除されドリームイーターは元の姿に戻る。そうなれば偽ポンペリポッサよりも有利に戦えるだろう。加えて、このハロウィンの魔力は時間経過以外でも消費させる方法が存在する。
「戦闘時にハロウィンらしい演出や行いが出来れば、ハロウィンの魔力を奪えるっす。ハロウィンっぽい服装、それらしい言動や振る舞いをする人数が多ければ多いほど、より多くの魔力を奪って、五分よりも早く変身を解除させられるっす」
 元となったドリームイーターはリリナ・ルーファというドリームイーターだ。白い髪に羊の角、黒いゴシックドレスという姿をしており、足元にモザイクが纏わりついている。彼女は偽ポンペリポッサ状態と同じ、足元のモザイクを溢れださせる技に加え、相手を眠りの中へと落とす技、鍵を振るって相手の心を抉り取る技を使用する。戦闘力は偽ポンペリポッサ状態と比べるべくもないが、それでも決して弱いわけではないので、油断は大敵だ。
「みんなの楽しいハロウィンを台無しにさせないためにも、みなさん頑張ってくださいっす!」
 語るべき内容を話し終え、そう話を締めくくると、ダンテはケルベロス達を送り出すのであった。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)
西水・祥空(クロームロータス・e01423)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
宮岸・愛純(冗談の通じない男・e41541)
黒姫・楼子(黒耀玲瓏・e44321)
モニ・ブランデッド(おばあちゃんを尋ねて三千里・e47974)

■リプレイ

●巨なる女怪、華々しき怪異
 本来であれば、ハロウィンで賑わうはずの街中は、それとは別種の喧騒に包まれていた。人々の悲鳴、避難を促す怒号、子供たちの泣き叫ぶ声。その中心にいるのは、醜悪にして巨大な女怪であった。
「いいなぁ、いいなぁ。家族や恋人、兄弟姉妹でおでかけして……本当に、うらやましいなぁ」
 だが、その見た目に反して、口から漏れ出るのは幼い少女の声。それが逆にアンバランスさを引き立て、不気味さを感じさせていた。女怪は体に巻きついたソーセージを手に取ると、大きく振りかぶる。
「ねぇ、だからそれ……ちょうだい」
 狙いは避難している一般市民。前がつかえている最後尾へと、丸太の如き肉塊を叩きつけようとし……。
「イタズラはそこまでですわ、女怪もどき! それ以上狼藉を働くようであれば、チェストさせて頂きます!」
「トリート&トリート! 甘いお菓子があれば、トリックは空の上にサヨナラなのよ!」
 女怪の眼前に落ちてきた南瓜顔のくす玉が音を立てて炸裂した。目を眩まされ、肉塊は地面を抉るのみに留まる。咄嗟に頭上へと視線を向けた女怪が目にしたのは、飴細工を模した仮装に身を包んだ黒姫・楼子(黒耀玲瓏・e44321)や、杖を手にした魔女に扮したモニ・ブランデッド(おばあちゃんを尋ねて三千里・e47974)の姿。
 彼女たちを筆頭に、ケルベロスは無数のお菓子や紙吹雪を振りまきながら、ヘリオンより降下していた。
「トリート&トリート! でも、わたしはお菓子をくれたって悪戯しちゃうわよ……さて、今夜ここからはケルベロスの魔女退治」
「皆様、落ち着いて避難なさってくださいませ。ここは私達が迎え撃ちます」
 地面へ着地すると、小悪魔風な装いの翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)はそれとなく殺気を放ち市民へと警告を促し、西水・祥空(クロームロータス・e01423)は吸血鬼然とした衣装のマントをはためかせながら、声を張り上げ呼びかける。
「フンガー! 俺達はお菓子の妖怪だ! お前達もお・か・しでこの場から落ち着いて逃げるんだぞ!」
 お菓子で装飾されたフランケンシュタイン姿の結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)が、逃げ遅れた人の手を取り戦場外へと送り出している。ケルベロス達のコミカルな姿が怯える人々の恐怖を和らげ、落ち着きを取り戻させた結果、市民の避難はそれほど時を置かずに完了した。
「みんな、いなくなっちゃった……」
「みんなの幸せを邪魔することは許されない……トリックオアトリートに魔力の文字はないよ……!」
 きょろきょろと周囲を見渡す女怪へ、黒で統一した魔女服に南瓜のランタンを携えたシェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)が、内部に蒼炎を灯したそれを突きつける。
「『リリナ・ルーファ』……羊? なんとなく、似ているような……ともあれ、存分に楽しく仮装して、しっかりやっつけましょう!」
 一方では、事前説明で伝え聞いた姿と今の仕草や挙動に、スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)が箒を片手に小首を傾げていた。数瞬思案していたが、今は戦闘が優先と気持ちを切り替える。
「駄目よ、だめ……もっと集めなくちゃいけないの。楽しくて、しあわせなものを。わたしには、無いから」
「ふむ、普段より悪と戦い正義を示すしっと戦士として。貴様は間違いなくしっとの同志と言えるであろう。運命が違えば良き友になれたかもしれぬし、さらに言うなら女には手を上げぬ主義ではあるが、デウスエクスであれば倒さねばならぬ!」
 若干ベクトルの違う雰囲気がするが、相手へ抱いた共感を押し殺しながら、宮岸・愛純(冗談の通じない男・e41541)は覆面と南瓜ぬいぐるみ姿で戦闘態勢を整える。ここからは、華々しくも荒々しき祭りの時間だ。
「そう、それじゃあ……お菓子も命もおいていって!」
 ポンペリポッサと化したドリームイーターの咆哮、それが開戦の火蓋を落とすのであった。

●魔女の夜は騒がしく
「トリックオアトリート……お菓子をくれなきゃ、命をもらうわ。くれても、もらうけどね?」
「っ、攻撃が来ますわ! 可能な限り回避を、無理なら私たちの後ろへ!」
 まず動いたのは女怪。ソーセージを手に、再び大きく振りかぶる。横薙ぎに振るわれたそれは、巨大な壁が迫るのに等しい。スズナは警戒の声を上げつつ前衛を疑似肉体で強化すると、相棒のミミックやレオナルドと共に攻撃を受け止める。
「こ、こんな威力を発揮できるなんて……ハロウィンの魔力、恐ろしいですね」
 尋常ではない衝撃に、思わずレオナルドが呻く。これが最大で五分続くのかと、時計をちらりと見やりながら歯噛みした。
「でも、だからこそハロウィンの夜の楽しい仮装を見せてやりましょう!」
「ええ、さっさとその化けの皮、剥がさせてもらうわ。熱々の焼き菓子と、ひんやり冷たいスイーツ、どちらがお好みかしら?」
 三人がかりで勢いを殺し切ると、レオナルドは竜鎚の一撃でソーセージを弾き返す。思わずたたらを踏む女怪、その隙をついて前衛の背後からロビンが飛び出した。ソーセージを足場代わりに懐へ飛び込むや、硝子片を握り込み拳に炎を纏わせ……。
「――さあ、たんとお食べ」
 女怪の鼻っ柱を強かに殴りぬいた。直撃で威力は十分、だが相手は攻撃力もさることながら耐久力も頭一つ抜けている。
「お菓子をご所望の様子、であれば差し上げましょう。ですが、こちらが頂けないのであれば、いたずらのお返しを」
 ならば更なる一撃を。全身に炎を纏った祥空がドクロクッキーをばら撒きながら、別方向より飛び掛かった。吸血鬼の牙の如く、二振りの刃が相手の緑色の肌へ傷を刻み込んでゆく。
「お菓子がほしいの……いいわ、あげるわ。食べ切れるかまでは、わからないけどね」
 攻撃後、ケルベロスが離脱するよりも早く、女怪が帽子に手を掛けた。瞬間、その上に載っているお菓子の家から、ぶわりと甘ったるい香りが振りまかれる。一呼吸吸っただけでも脳髄を侵すそれは、体力と共に正常な判断力を奪い、敵味方の判別を狂わせる……が。
「香しいお菓子の香りには負けないのよ。惑わされないようにお菓子の実物をたくさん持ってきたのよ!」
 色鮮やかな飴玉と共に、花弁舞う涼風が戦場を吹き抜ける。綿飴を侍らせたモニの生み出すそれは香気を吹き流し、仲間達の思考を澄み渡らせていった。
「おおう、すまぬ助かった! 奴を殴るのは心苦しいが、かといって仲間を攻撃しては本末転倒だからな!」
「堪能させてもらったよ。代わりにちょっとした悪戯だけど……黒羽の弾丸、避け切れるものなら……!」
 ぶんぶんと頭を振って思考の霧を振り払う愛純は、シェミアと共に反撃へと転じる。彼女の黒翼がはためくたびに漆黒の羽が打ち出され、女怪の全身へと縫い止められる。そうして動きの鈍ったところへ、愛純は重力を籠めた蹴撃を食らわせ、更に動きを封じた。
 ケルベロスと偽ポンペリポッサの戦いは、一進一退の攻防が危ういバランスの上で進んでゆく。女怪は大幅に強化されたその能力をいかんなく発揮し、縦横無尽に暴れまわる。それに対しケルベロスも、相手の行動を妨害しつつ出来うる限りの火力を叩き込んでゆく。
「仮装通り、とは中々いきませんね。甘く見たら、一撃で崩されそうです」
 振るわれるソーセージの一撃を間一髪でいなす楼子の頬を、一筋の冷や汗が伝う。体感時間ではそろそろ三分は経ちそうな頃合いだが、それで解除される保証もない。変身解除が先か、その前に直撃を受けて強引に押し切られるか。
「……分からない以上、出来うる限りのことはしませんとね」
 冷静さを保ちながら小太刀と薙刀、双刃を振るって更なる傷跡を増やしてゆく。思うように動けなりつつある事に苛立ったのか、女怪は巨体を揺らして地団太を踏む。
「貴方達ばかりぴょんぴょんと……そんなの、ずるいわ」
 すると、足元からぞるりとモザイクが溢れだし、津波の如く押し寄せた。ケルベロスも咄嗟に回避するも、地面そのものを埋め尽くす範囲を完全に避けるのは至難の技。
「まずい……このままじゃ!?」
 あの威力の上、強化を引き剥がされればその時点で流れを奪われ、押し切られてしまう。スズナが焦りの声を上げ、女怪がにやりと笑みを浮かべた……その時。
「え、うそ……力が、どうして!?」
 モザイクの勢いが急速に衰え、それに比例するように女怪の全身が縮み始める。ケルベロスはそれが魔力切れだと瞬時に直感するが、対するドリームイーターは理解が追い付かない。
「聞いていない……聞いていないわ、こんなの! どういうことなの、ポンペリポッサ!」
 困惑の叫びが夜空に虚しく吸い込まれる。後に残ったのは、白羊の如きドリームイーター『リリナ・ルーファ』の小さな姿のみであった。

●魔女は去り、羊の夢は醒めゆ
「変身が解ければハロウィンパーティーも、そろそろ終幕かな……会いたかったわ、羊さん」
「どうやら、都合の悪い事については聞かされていなかったようですね。それについて思うところが無い訳ではありませんが……因果応報、お覚悟を」
 動揺から立ち直れぬ相手を、わざわざ待つ義理も無し。無防備であればむしろ好都合、ロビンと祥空は躊躇なく戦闘を続行する。
「我が地獄を治めし可憐なる乙女達に願い奉る。神討つ力を我に与え賜え……」
「あら、今度は冷たい氷をご馳走しようと思ったのに、両方だなんて欲張りさんねえ!」
 焔を散らす九口の刃と冷気を立ち昇らせる重槌、炎斬氷打の連撃が白羊へと叩き込まれた。変身解除と共に積み重ねた妨害も解除されたようだが、元の戦闘力は比べるべくもない。
「か、ぁ……なん、で。ポンペリポッサ、助けてちょうだい……はやく」
 呆然とした表情を浮かべるも、与えられた痛みによりそれは憎悪へと変貌する。確かに女怪と化していた時よりも戦闘力は落ちているが、さりとて元の白羊が弱いという訳ではない。
「わたしを助けるつもりが……ない、の? だったら、ここはっ」
 兎も角、ここを切り抜けねば後がないと思い知った白羊は、足元のモザイクを周囲へと振り撒いてゆく。妨害こそなくなったが、ケルベロスは強化を整えたまま。少しでもその差を縮めねば僅かな勝ち目こそない。
「……厄介だけれども、威力は通常のそれね」
 陣形を崩される。だが、初めからこの事態を織り込んでいた者と予想だにしていなかった者、その差は白羊が思うよりも大きい。慌てることなくモザイクを払うように箒を振るうと、大人の姿へと変じたスズナが刀の束に手を掛ける。
「何でも『ちょうだい』って言うのは、関心できないのよね……どこまでも他人任せ」
 私の友達は、私が護る。言葉と共に抜き放たれた電光石火の居合切りが、相手の角を切り飛ばした。
「くぅっ、よくも……!」
「ハロウィンの夢はここで終わりだ……心静かに――恐怖よ、今だけは静まれ!」
 返す刀で鍵を繰り出そうとする白羊の眼前へ、スズナと入れ替わる様に飛び出したレオナルドが二の太刀を放つ。陽炎を纏った刃が相手の脇腹を裂き、白銀鍵の切っ先がレオナルドの肩口を抉り取った。
「しっと魂、治療を頼んだぞ……貴様とは敵として会いたくなかった。せめて、我が手で楽にしてやろうではないか! 許せよッッッ!」
 すかさず愛純がナノナノをカバーへ廻しつつ、自身は白羊へと対峙する。無念と諦念、半ば見捨てられた相手への同情、そしてリア充への怒り。それらを炎へと転じさせるや、愛純は全身全霊を込めて相手へと叩き込んだ。焼き菓子とはまた違う、焦げ付いた匂いが立ち込める。
「こ、こんな……こんなはずじゃなかったのに。わたしはただ、ハロウィンの魔力を、家族を……!」
 よろよろとよろめきつつ、白羊は全身から魔力を解き放つ。荒々しくも絡みつくようなそれは、羊の毛玉の如くケルベロス達の精神を包み込み、一時的にではあるが戦意を衰えさせてゆく。それを発動するや否や、白羊は踵を返し戦場からの離脱を試みる。
「逃げるつもりなのよ! でも、お祭りは最後まで楽しまなきゃだめなのよ!」
「ええ、その通り。始まりは華やかに、終わりは一瞬にごさいますので……チェストです!」
 綿菓子のような魔力をかき消すのは、モニの全身より放たれる金属粒子の輝き。感覚を研ぎ澄ますそれらの力を借りながら、楼子は凍てつく刃で白羊の両足を切り裂いた。舞う血飛沫も雪片となり、両足はモザイクごと氷漬けとなる。
「そん、な……これじゃあ」
「所詮偽物の力、借り物の夢から醒めて悪夢に惑え……! 蒼炎の一撃、その身に刻め……!」
 移動はおろか、回避するままならぬ身では、続くシェミアの一撃を避ける事は不可能であった。蒼炎と共に軌跡を描く大鎌は、真一文字に相手の胴体を切り捨て。
「ぁ、おねぇ……ちゃ……」
「家族がいるのが羨ましいとか……それはわたしだってそうだよ。でも、それを守るのがわたしの使命だから」
 その存在を、完全に焼却せしめるのであった。

●魔女は去り、されど祭りは続く
 戦闘はケルベロスの勝利によって幕を閉じた。魔女は消え去り、町に静寂が戻る。
「これにて一見落着……ですかね」
「ええ、そうみたいですね。ドリームイーターも無事倒せましたし、一般市民への被害もないですしね」
 仮装衣装についた埃を払い、周囲を見回す祥空の言葉に、大人から年相応の姿へと戻ったスズナが頷く。その横では、愛純がドリームイーターの消えた場所をじっと見つめていた。
(「しっとの同志よ。貴様の遺志を引き継ぎ、これからも戦い続けよう……」)
 しっと戦士よ、永遠なれ。彼が決意を新たにしている一方で、楼子が戦闘の余波で壊れた建物や飾りへとヒールを施していた。
「壊れたままでは、祭りも楽しめませんからね。いつもよりも派手に、華やかに治しましょう」
 ハロウィンの夜に相応しく、キラキラと華やかに。幻想的に変化する建物が、今日は一段と街の雰囲気とマッチしていた。それと共に、戦闘の終わりを察した市民たちが恐る恐ると言った様子で戻ってきている。
「それでは市民の皆さんも戻ってきていますし、ハロウィンの続きを楽しみますか」
「う~ん……モニはもう夜だから眠いのよ。続きは夢の中なのよ……」
 戦闘でずれた仮装衣装を直すレオナルドの傍らで、モニが重たくなる瞼を擦っていた。手近な椅子に腰かけるとウトウトし始める。その姿を微笑まし気に横目で見つつ、シェミアも魔女服を整え直す。
「楽しいハロウィンの再開だね……さぁ、フォー・ユー・トリート……!」
「お菓子の欲しい人はこっちに来なさい。チープかと思いきや、案外おいしいのよこれ」
 おもちゃのバズーカを構え、頭上へと向けるロビン。ポンッという小気味の良い音と共に放たれるお菓子の雨が、ハロウィンの再開を告げるのであった。

作者:月見月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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