ポンペリポッサの魔女作戦~権威喰は夜街に嗤う

作者:中尾

●権威喰
 お化けカボチャに吸血鬼。キョンシーに狼男。
 ハロウィン騒ぎに浮かれる大通りを、高いビルの屋上から見下ろす影があった。
 ボサボサの不揃いな髪にモザイク化した金の王冠。ギザギザの歯に、権威欲にまみれた瞳。
 剣の如き鍵を立て、赤いマントが夜風に靡く。
「ヒョッヒョッヒョ! 平民ども、このボク様にお目通りできることを光栄に思うがイイ!」
 まるで痩せた犬のような男が夜街に嗤い、仮装した人々が何事かとビルを見上げる。
 男の名は――権威喰・リィンドグ。
 ポンペリポッサの後ろ盾を得た男は、ハロウィンの魔力を練り上げる。
「サァ、刮目アレ!」
 もくもくと緑の煙がリィンドグを包み、それは歪に巨大化していく。
 それはやがて10m程になり、煙が晴れたその場所に居たのは。
「キャーッ!」
 ギョロリとした赤い瞳に、まるで緑の象のような巨大な顔。うねうねとした黒い髪に、帽子の上にはドクロのお家。魔女の服の上にぐるぐると巻くのは巨大なソーセージ。
 その姿は寓話六塔戦争に現れたジグラットゼクスの一塔、ポンペリポッサに瓜二つ。
「跪きコウベを垂れろ、ボク様のお通りサ!」
 声だけは甲高く。偽の魔女は降臨する。
 人々は逃げまどい、ハロウィンの大通りに悲鳴が響いた。

●ヘリポートにて
「皆さん、大変です……! 寓話六塔戦争から姿を消していたドリームイーターの魔女、ポンペリポッサが動き出しました!」
 寓話六塔戦争で受けた痛手を回復する為に、ハロウィンの魔力を狙ったのだろうと、雨宮・シズ(オラトリオのヘリオライダー・en0197)は語る。
「今回皆さんにお願いするのは、ポンペリポッサのバックアップを得て動き出したドリームイーター、権威喰・リィンドグの撃破です。彼はハロウィンの魔力を利用し『ポンペリポッサの姿に変身・巨大化』、ハロウィンの仮装パーティーに賑わう大通りに現れました。戦闘力は本物のポンペリポッサには及びませんが、かなりの強敵となるでしょう」
 場所は東京都立川市。車両を通行止めにした大通りがハロウィンの仮装パーティー会場となっているようだ。
「ここからが重要だから、よく聞いてくださいね。彼がポンペリポッサの姿で戦うには、ハロウィンの魔力を消費しなければなりません。それ故、彼が変身していられる時間は5分程度でしょう。それが過ぎれば、変身が溶けて元のドリームイーターに戻るので、戦闘は皆さんが有利となるでしょう」
 シズはケルベロス達を見回す。
「ですが、彼からハロウィンの魔力を奪い取る事が出来れば、もっと早くポンペリポッサ化を解除する事ができるでしょう」
 ――その、ポンペリポッサ化解除の方法とは。ケルベロス達が息を飲み、シズが笑う。
「そう身構えないでください。ハロウィンらしい格好や、演出で戦闘を行えばいいのです。そうすれば、彼のハロウィンの魔力を奪い取る事ができ、5ターンよりも短い時間でポンペリポッサ化を解除する事が出来るでしょう」
 ポンペリポッサ(偽)が扱うグラビティは次の3つ。周囲の人間に催眠をかける『香しいお菓子の香り』。ソーセージを放ち、追撃を加える『ウインナーソーセージ乱舞』。BS耐性を与える『好奇心を刺激する』。
 変身解除後の権威喰・リィンドグが扱うグラビティは偽物の配下を召喚し、対象を攻撃させる『配下召喚』、対象に催眠をかける『跪きコウベを垂れろ』、対象の肉体を斬り裂くと同時にトラウマを具現化させる『心を抉る鍵』の3つだ。
「ポンペリポッサの偽物、と言っても強敵です。皆さん、どうか無事に帰ってきてくださいね」
 シズはそう言ってケルベロス達を見送ったのだった。


参加者
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
端境・括(鎮守の二丁拳銃・e07288)
御影・有理(灯影・e14635)
ノイアール・クロックス(菫青石の枯草色・e15199)
時雨・乱舞(純情でサイボーグな忍者・e21095)
鉄・冬真(雪狼・e23499)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
ノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)

■リプレイ

●魔女の災難
 オレンジ色の灯りが並ぶ、ハロウィンの大通り。ケルベロス達は思い思いの仮装でヘリオンから外へと飛び出し、夜空より急行する。
「「ハッピーハロウィン♪」」
 そんな掛け声と共に、煙幕ボールが偽のポンペリポッサ目掛けて投げられる。
「な、ナンダ!?」
 白い煙幕が辺りを漂う。緑の魔女は鬱陶しそうに煙を払い、ボールを投げた主を見上げた。端境・括(鎮守の二丁拳銃・e07288)は月を背に現れる。
「借り物の魔力で魔女に化けたおぬしがコウベを垂れろなぞ片腹痛い! なぜならば!」
 括はデコラティブを握りしめる。自身の武装全てを変形させ、アラビアの魔神へとその姿を変える。
「自分で変身できる究極の魔神、魔神王たるわしの方が偉いに決まっておるのじゃからのぅ!」
 フラフープの如き金色の指輪を優雅に振るい、高笑いをキメる。
「ま、魔神王ダト!?」
 王、という単語に反応する魔女。だが、王族は彼女だけではなかった。
「ケルベロスとなってはじめてのハロウィンを、楽しく過ごすためにも……!」
 長き銀髪の頂きにちょこんと乗せたのは可愛らしい王冠。まるでお姫様のような豪華なドレスに身を包み、登場したのはノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)。
 ダイナマイトモードを使用した彼女の体は豊満でいて、大きく空いた胸元には魔術回路が走り、赤く発光していた。
「さあ、しかとその目に焼き付けなさい? 私達のトリックオアトリートを!」
 周囲にはハロウィンらしくカボチャを被った怨霊を浮かべ、慣れない口調に少し照れながら、魔女を指さす。
「昨年の様にハロウィンを我が物にしようとする不届き者が現れたようだな」
 白いシャツにキリリとネクタイを締め、白衣を羽織った男が前に出る。
 首に聴診器をかけ医者に扮するは、鉄・冬真(雪狼・e23499)。
 その隣に佇むナース、御影・有理(灯影・e14635)は胸にカルテを挟んだクリップボードを抱いて頷く。黒きボクスドラゴンのリムはお菓子の詰まった救急箱を持つ助手役だ。
 有理は薬に見立てたゼリービーンズを冬真とリムにひと粒ずつ差し出した。
 その愛らしい姿に、冬真は思わず顔が綻ぶ。
 口に広がる甘い味。それと同じくくらいに互いの想いも甘い。
 そんな冬真に、有理が見惚れていたのは内緒の話。
「有理がくれたゼリービーンズが力を増してくれるみたいだ。さあ、治療を始めようか」
「悪戯が過ぎる夢喰にお菓子はあげないよ。一秒でも早く“治療”してしまおう」
 大通りにパラパラと何かがバラまかれる。よく見ればそれはカラフルなお菓子。
「さぁ、魔法の夜のショータイムの始まりだよ!」
 空から魔法の絨毯が、否、絨毯を引っ提げ翼飛行で登場したのはマヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)だ。
 まるでアラビアンナイトに出てくるお姫様のような出で立ちの彼女は、大通りに居たピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)の横へと降り立つ。2人はお揃いの装いで、ピジョンは王族の衣装を身に纏っていた。
 大通りはピジョンの展開した魔法で、化石や蝶の標本、中東の民芸品が並ぶ博物館と化していた。ピジョンはマヒナの腰に手をあて、エスコートするように一人掛けのソファーに腰掛ける。抱き寄せられたマヒナは頬を染め、ドギマギしながらもされるがまま静かにその身を任せる。
「ほんとに悪戯好きだよね……」
 マヒナは声を潜めて言った。
「権威が欲しいのなら、このくらい鷹揚にやらなくっちゃねぇ」
「ひとりぼっちの王サマ、一緒にハロウィンを楽しもう……?」
 魔女を挑発するピジョンとマヒナ。
 ピジョンは辺りをキョロキョロと見回していたリムを呼び止め、トルコのお菓子であるロクムを振るまう。ロクムに興味深々なリムは喜んでそれを一口。口の中に広がる薔薇の香りに目を見開く。
「マヒナもおひとつどうぞ、続きはこれを片付けてからね」
 はい、あーん。はむっ、と、四角いそれを口に入れる。口の中に広がるはココナッツの風味。マヒナは礼を言うと故郷ハワイの揚げドーナッツ、手作りのマラサダをピジョンへと渡した。一口噛めばふんわりとした感触と共に、表面に塗した砂糖が唇に触れる。中のクリームがとろりと甘い。
「えいやー!」
「ッ~~~!?」
 そこへ、枯草色の髪をまとめ上げ、ヴァイキング風のツノ付き兜を被った少女が魔女の顔面へと蹴りを入れた。顔面に足跡を付けられた魔女は咄嗟の事でなにがなんだかわからない。
「トリック&トリート! 倒して食料も頂きっす!」
 ノイアール・クロックス(菫青石の枯草色・e15199)は大通りに着地すると、豪快に笑って巨大な大斧を夜空に掲げる。ミミックのミミ蔵はハリボテと塗装を用いた、金銀財宝を抱く赤き宝箱の仮装での参戦だ。
 直後、空に巨大なコウモリが横切った。いや、よく見ればコウモリではなくあれは、ヘリオンからダイブしたライドキャリバー・シラヌイだ。
 シラヌイに乗った吸血鬼、時雨・乱舞(純情でサイボーグな忍者・e21095)は黒いマントをはためかせ、犬歯を覗かせて言った。
「楽しいハロウィンを邪魔させません!」
 それはそのまま魔女の顔面へとダイブし、車輪の跡をつけると見事大通りへと着地した。
「ぶへっ!」
 続けて顔面を強打した魔女は怒り心頭であるが、ケルベロス達はそれをスルーして、人々の避難を開始する。
「皆の者よ! ここは我とこのしもべシラヌイ、そして仲間たちに任せよ!」
 カボチャのライトに照らされながらバサリとマントを翻し、乱舞は告げる。
「皆さん落ち着いて避難を。ここは我々にお任せ下さい」
「手早く終わらせますので、離れて待っていて下さいね」
 冬真と有理は割り込みヴォイスとボイスチェンジャー付き拡声器を併用し、一般人へ避難を呼びかけた。
「さぁ残りのお菓子は後回しじゃ! 此よりこの場は我が戦場! 力なき民草は疾く逃げ失せーぃ!」
 括がおもちゃのバズーカを天高く発砲すれば、夜空からキャンディやチョコレートなどのお菓子が降り注ぐ。
「このデカブツは自分達がいただくっす! 他の連中は、撒かれたお菓子と一緒に下がった下がった!」
 ノイアールが声を張りながらも、魔女を見据える。
「ケルベロスじゃない皆は安全なところで待ってて! さぁ、童心に返ってお菓子と悪戯マシマシで行こうか!」
「悪いお化けはワタシ達に任せてね!」
 ピジョンが市民を促すよう手を広げ、マヒナがウィンクを飛ばす。
「どうやら愚か者がいるようだな。貴様の血は甘美か? 確かめてやる!」
 乱舞が不敵に笑った。

●魔女の時間は儚く終わりを告げて
「はは~ん、さてはキサマさん達はケルベロスだナ?」
 顔を撫でながら、魔女はひょっひょと笑う。
「本物の王族なのカ? まぁいい、全員片付ければわかるだろう、そう、この国の言葉で言えば、飛んで火に入る夏の虫ってやつサ!  なんたって、今のボク様はあの、ジグラットゼクスの一塔、ポンペリポッサの――」
「相変わらず、ペラペラうるさい野郎っすね!」
「ンン~? ボク様の有り難いお言葉に口を挟んだのはキサマさんカ?」
 ノイアールが飽きれたように言うと、魔女は目線を向ける。
「ボク様の邪魔して、ただで済むと――」
「頭が高ァいっ!」
 そこへすかさず、括が脳天めがけてスターゲイザーの蹴りをお見舞いする。
「!?!?!?」
「そ、そうよ、アナタこそ、コウベを垂れなさい!」
 ノアルは先輩に合わせてそう言うと、宝石でデコったハンマーを砲撃形態へと変形させて放つ。
 ノイアールも大斧を振り回しながら、魔女に突撃する。
「有理……この症状をどう見る?」
 冬真は有理へと話しかける。
「なんと言うか……いろいろと重病ですね」
 よく喋る敵に思わず言葉を濁す。
「そうだね、重病だ。それだけでなく偽りの仮面を被っていると見える」
 冬真は御業を宿したカルテを指で摘まむ。
「偽りを暴くとしよう……さあ、手術開始だ」
「ええ、早急に片付けましょう」
 カルテから、半透明の御業が姿を現し、炎弾を放つ。
「アチチ! ボク様になんてことヲ! うげっ」
 ペラペラと喋っている間にも、有理の気咬弾を食らう。
 ピジョンは博覧怪奇の歓待を保ち、幽霊執事が攻撃をお見舞いする。
「トリートだと思った? 残念だったね!」
 召使の格好をしたテレビウム・マギーは楽しいハロウィンパーティーの動画を流す。
 続けて魔女を蹴りあげるはマオリのキラキラ星で彩ったフォーチュンスター。
 大ぶりの金属製アクセサリーでおめかししたシャーマンズゴーストのアロアロは周囲のハロウィン騒ぎにフルフルと震えながらも原始の炎を操る。
「ハッハッハ、さあ、我が幻影達よ……踊りなさい!!」
 乱舞は歪んだ笑みを見せ、印を結ぶ。吸血鬼はその姿を増やし、魔女を取り囲んだ。
 まさに、その姿は幻術を操る吸血鬼そのものである。
 うろたえる魔女へと分身達が一斉攻撃を加える。巨大な腕を振るうもどれが本体かなど、わかりもしない。
 たまらず、魔女はソーセージを飛ばして反撃する。
 ケルベロス達にハロウィンの魔力を奪われ、魔女は徐々に萎んでいく。
「眷属を従えるも魔神王の嗜みよ!」
 括が氷結の槍騎兵へと命令を下す。兵は長い槍を魔女へと穿つ。
「ウッ……!」
 魔女が出現して、わずか2分。ボワン、と元の姿に戻ったリィンドグは狼狽する。
「ど、どうしたポンペリポッサ!? もっと……! もっと、ハロウィンの魔力をボク様ニ!」
 天に剣を振りあげる。しかし、ハロウィンの魔力を再び彼が纏うことはなかった。
「クソッ、クソッ! 話と違うじゃないカ!」
「正体表したっすね! その鼻柱へし折ってやるっすよ!」
 ノイアールを前に、リィンドグは首を振る。
「ヒイッ! ち、違うんダ、これはポンペリポッサが!」
 見苦しい仇の姿に、ぴくり、とノイアールの眉間が動く。
「何が違うんっすか、お前はいままで多くの人を……」
 表情はそのまま、威厳の為に母を殺したドリームイーターを前に、鼓動が早まる。
「お前がどう思おうと、私はあの日を忘れていない! 復讐を、くらいやがれ!」
 ノイアールは殺意とオーラをその血に巡らせ、おもいっきりリィンドグの鼻へと拳を付き出した。
「ぶへっ!」
 哀れリィンドグは吹っ飛び、折れた鼻からはたらたらと血が落ちる。
「クソッ! クソクソクソッ!! こうなれば!!!!」
 立ち上がり、リィンドグは地団駄を踏むと、ケルベロス達にその剣を向けたのだった。

●権威喰の最期
 リィンドグはその鍵を、ノイアール目掛けて振り下ろす、だが、彼女を押し代わりにその攻撃を受けたのは冬真だった。斬撃を受けたその身のまま、リィンドグのアゴを蹴りあげる。有理はすかさず、古代語魔法『月神の揺籠』を詠唱し、白い光で冬真を優しく包み込む。
「悪戯ばかりの悪い子は、こうじゃ!」
 括はオウガメタルのなまはげさんを纏い、その拳で殴りつける。
「おぬしは外見からして仮装だからのぅ、そぅれ悪戯代わりのお菓子じゃ!」
 お次はマインドリングを蝙蝠のクッキーに見立てて、叩きつけ。
「このッ!」
 例え反撃を受けても不敵に不遜に傲岸に。にやっと口元に笑みを絶やさず。
「真に偉い者は、守るべき民草に弱い姿を見せたりしないのじゃ」
 ピジョンもまた、お化け風におめかししたファミリアロッドのヤモリ、チョロに魔力を込めて敵へと投げたり、攻撃の際、大きな音で脅かしたりなど、生き生きとした表情を見せる。
「アイスを作っちゃおうかな?」
 マヒナは悪戯っぽく笑って、時空凍結弾を放つ。
「一夜の夢に、異国の果物をどうぞ?」
 時には手を叩き、ヤシの木の幻影からココナッツを落下させ。
 ノアルはスターゲイザーと轟竜砲で相手の足止めをする。
「これ……脱がなきゃダメですよねぇ~」
 手にかけたのはその身に纏ったお姫様のドレス。
 彼女の扱う魔法は体表の魔術回路を露出させなければ発動できない。
 ノアルはくっ、と唇を噛み恥じらいながらも、バッとドレスを脱ぐ。
 そこに現れたのはグラマラスなボディ。
「おお! サキュバスの仮装ですか!」
「ち、違います~」
 真面目な乱舞の言葉に、ノアルはボッと頬を赤くさせる。
 ノアルがその手を掲げると、全身の魔術回路が呼応するように赤く輝く。
 周囲からは怨霊が集まり、彼女はそれをナイフとして形成する。
「これが、私の魔法です……!」
 故郷に伝わる独自の魔術。剣の穹窿はリィンドグへ降り注ぐ。
 剣の雨が止むと、炎を纏ったコウモリが、リィンドグへと突撃した。
 シラヌイに跨る乱舞はその際、螺旋を込めた掌で相手に触れる。
 触れた箇所から内部を破壊され、リィンドグの顔は苦痛に歪む。
 リィンドグは剣を振るい、配下を召喚する。その前に立ちふさがるのはマギーだ。
 配下とマギーが揉み合いになっている間に、ノイアールが地を蹴る。
 ボロボロになったリィンドグの目掛けて、殺意とオーラを叩き込む。
 紫の瞳が、ノイアールを見ていた。
「もしや……キサマさんは……」
 蚊の鳴くような声。宙に舞うリィンドグが小さく呟く。
 リィンドグは地に落ちると砂となり、そのまま風と共に消えていった。
 それが権威を求め人々を襲ったドリームイーター、権威喰・リィンドグの最期だった。

●ハロウィンの夜は続く
「お疲れ様」
 有理は冬真の温かな腕の中、囁く。
 お互い怪我の有無を確認すると、その頬に唇を落とす。
 それが冬真にとって何よりの癒しだった。
「このあとは二人きりでゆっくり、ね?」
 指を絡ませ、幸せそうに微笑む。
「皆の物よ! 受け取るがいい!」
 乱舞は戻って来た一般人へとシラヌイと共にお菓子を配る。
 ノアルはボーイッシュな姿に戻ると、貰ったチョコレートを口に含んだ。口いっぱいに広がる小さな幸せに、ノアルは微笑む。
 ケルベロス達のヒールでファンタジックさを増したハロウィンの大通りは賑やかさを取り戻す。マヒナはピジョンと共に、その景色を楽しんだ。
 ノイアールは、リィンドグが消えたその場所を、じっと見つめ、その拳を握った。
 思い出すは衰弱して死んだ、母の顔。戦わず、母を抱えて逃げた自分。
 ずっと、ずっと後悔していた。
 周囲の厄を落としながら桃を配っていた括は、彼女の背中を見てその足を止める。
「ノイアール……」
「さ、帰るっすよ!」
 振り返えったのは、いつも通りに自信に溢れる笑顔。
「お腹空いたっすねー。このあとご飯でもどうっすか?」
「おお! それは名案よのう!」
 括も笑顔で返し、ハロウィンの夜は更けていく。
 ケルベロス達はそれぞれハロウィンを楽しみ、帰路につくのだった。

作者:中尾 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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