ポンペリポッサの魔女作戦~我が名はネコ

作者:土師三良

●魔女のビジョン
 千葉県市川市のビル街の一角。
 歩行者のために開放された車道を魑魅魍魎の群れが歩いていた。
 もちろん、本物の魑魅魍魎などではなく、仮装をした市民たちなのだが――、
「やれやれ。誰一人として、私の伊達姿に注目してくれませんねぇ。せっかくのハロウィンだというのに……いや、ハロウィンなればこそですか」
 ――人間ならざる者が一人だけ紛れ込んでいた。
 西洋の剣士の扮装をした猫型のドリームイーターだ。
 周囲の人々は彼がデウスエクスだということに気付いていない。仮装をしたウェアライダーとでも思っているのだろう。
「しかし、膨大な魔力がこの身に注がれるのもハロウィンなればこそですな」
 指先でヒゲを弾き、ニヤリと笑う猫型ドリームイーター。
 次の瞬間、彼の輪郭は粘土のようにぐにゃりと崩れ、そこかしこが瘤のように膨らみ始めた。それらの瘤が重なり、さらに大きな瘤になって、体全体が巨大化すると同時に別のものに変わっていく。
 その怪異を前にしてなお、彼のことを『仮装をしたウェアライダー』と誤認する者などいるはずもない。市民たちは悲鳴をあげ、先にと逃げ出した。
「さーて! 皆様、お待ちかね!」
 恐慌をきたした市民たちにドリームイーターが語りかける。
 声は先程までと同じだが、外見はもう洒落者の猫ではない。体長十メートルほどの異形の老婆だ。
 寓話六塔戦争を覚えている者ならば、その姿にも見覚えがあるだろう。
 そう、ポンペリポッサである。
「これより始まるは、トリックよりも刺激的でトリートよりも魅惑的な最高の悪夢! お代は――」
 そして、魔女に化けた猫は逃げまどう市民たちを狩り始めた。
「――皆様のお命でーす!」

●音々子かく語りき
「今年のハロウィンもまたドリームイーターどもが暴れ回るみたいなんですよー」
 期間限定のカボチャのマーキングが施されたヘリオン『ヴァスティ号』の前で、ヘリオライダーの根占・音々子がケルベロスたちにそう告げた。
「しかも、普通に暴れ回るわけじゃありません。ハロウィンの魔力を吸収して、寓話六塔(ジグラットゼクス)の一塔であるポンペリポッサの姿に変身アンド巨大化しちゃうんです」
 おそらく、この作戦を計画したのは本物のポンペリポッサだろう。寓話六塔戦争で受けた痛手を回復するため、ハロウィンの魔力を自分の下に集めようとしているのかもしれない。
「ポンペリポッサに化けたドリームイーターどもは日本全国津々浦々で虐殺を繰り広げようとします。そのうちの一体――千葉県市川市に現れるドリームイーターが皆さんのチームの討伐対象です」
 ケルベロスたちが現場に到着するのはドリームイーターの変身直後。周囲には多くの市民がいるが、冷静に避難するように促し、なおかつ敵の注意を自分たちに向ければ、犠牲者を出さすに済むだろう。
「件のドリームイーターは、童話の『長靴をはいた猫』に出てくるような感じのキザで芝居がかった猫モドキです。もしかしたら、今は亡き赤ずきんに仕えていたのかもしれませんね。童話繋がりということで」
 本物のポンペリポッサほどではないが、偽ポンペリポッサに変身している時のドリームイーターは強敵であるらしい。とはいえ、変身を維持していられるのはせいぜい五分といったところ。維持に必要なハロウィンの魔力を戦闘で消費してしまうからだ。
「五分が経過すれば、敵は猫モドキの姿に戻っちゃうわけですね。また、皆さんがハロウィンらしい格好をしたり、ハロウィンらしい演出を加えて戦ったりすれば、敵からハロウィンの魔力を奪い取ることができます。そして、魔力を奪い取れば奪い取るだけ、変身時間は短くなるんですよ。上手くいけば、五分どころか二分くらいで変身が解けるかもしれません」
 音々子は一通りの説明を終えると、拳を天に突き上げて叫んだ。
「では、行きましょー! ポンペリポッサの野望をくじき、楽しいハロウィンを皆の手に取り戻すためにぃー!」


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
小車・ひさぎ(二十一歳高校三年生・e05366)
トーキィ・ゼンタングル(悪戯描きのモノクロガール・e58490)

■リプレイ

●ハロウィンなのに
 ビル街の車道に聳える体長十メートルほどの巨影。
 蜂の子を散らしたように逃げ惑う市民たち。
 怪獣映画の一シーンのようだが、巨影は怪獣ではなく、異形の老婆――魔女のポンペリポッサだ。ただし、偽者だが。
「高い視点から人々を見下ろすのは楽しいですねぇ。もっとも、その人々を蹂躙する楽しみには適わないでしょうな」
 外見に似合わぬ若い男の声で語りながら、偽者の魔女は足を踏み出そうとした。『人々を蹂躙する楽しみ』を満喫するために。
 だが、その時――、
「とりっかとりぃ~とっ!」
 ――元気な声が響き、魔女の頭になにかがばらばらと当たった。
 菓子の雨だ。
 魔女は思わず空を見上げた。視界に入ったのは、陽炎のようなゆらめき(ハイパーステルスモード中のヘリオンだろう)から現れて降下してくる者たち。
 その全員が仮装をしていた。
 先程の声の主であるオラトリオの姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)は白いシーツを被り、西洋風の幽霊に扮していた。シーツのせいで輪郭の定まらぬ頭部の上に魔女の帽子を乗せ、片手にジャックオーランタンを持っている。シーツの内側には大量の菓子が仕込まれており、裾が揺れる度にそれらが零れ落ちていく。
 示し合わせたわけではないが、オルトロスのゴロ太も同じような格好をしていた。ただし、こちらはシーツではなく、風呂敷だ。
 ゴロ太の主人のレオンハルト・ヴァレンシュタイン(医龍・e35059)は黒いマントを纏い、カボチャ型の仮面を被っていた。
「お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞー!」
 魔女に向かって叫ぶ彼の声(だけでなく、仮面に隠された顔も)は六十代とは思えぬ少年めいたものだった。ドワーフではなく、人派のドラゴニアンなのだが。
「トリック・オア・トリック! イタズラする子にはおしおきするよー!」
 と、声をあげているのはオラトリオのメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)。仮装のテーマは赤ずきん……ではなく、狼のほうだ。
(「メリルディ殿にイタズラしたら、おしおきどころでは済まぬじゃろうな……」)
 と、レオンハルトが密かに震え上がっていることも知らず、狼娘は手提げの籠から金平糖を撒いていた。
 金平糖だけでなく、コイン型のチョコも撒かれていた。竜派ドラゴニアンの神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)によって。
 彼の仮装のテーマは王様。煌びやかな宮廷で怠惰な日々を過ごしている王ではなく、甲冑に身を包んだ豪放磊落な武闘派の王だ。
 王がいるからには女王もいる。オラトリオの大弓・言葉(花冠に棘・e00431)だ。彼女が纏うドレスは女王蜂をイメージした物であり、黄色と黒の縞模様に彩られた蜂の尻が腰から伸びていた。天然を装って自らを可愛く見せることに余念のない言葉であるからして、その作り物の尻を『ぷるぷるぷる♪』という擬音とともに揺らすアクションも忘れていない。
 そして、王にはボクスドラゴンの従者が、女王には同じくボクスドラゴンの執事が随伴していた。各々のサーヴァントのラグナルとぶーちゃんだ。
「夢なら、悪夢よりも楽しい夢の方がいいに決まってる!」
 と、王たちの横で叫んだのは、仮面をつけたオラトリオのトーキィ・ゼンタングル(悪戯描きのモノクロガール・e58490)。
 彼女はチーム最年少の十四歳だが――、
「私も今日は夢を見させてもらうわ!」
 ――モノトーンドレスの『エイティーン』を使って、十八歳に成長した。

●ハロウィンなので
 女王蜂の言葉と武闘王の晟の共通点はボクスドラゴンだけではなかった。
 どちらも猫を抱いているのだ。
 二匹の猫は言葉と晟の手から離れ、空中でくるりと回転して人型ウェアライダーに姿を変じ、菓子を撒きながら着地した。
「さあさあ! 世にも不思議なケルベロスたちのハロウィンパーティーの始まりだぁーっ!」
 晟に抱かれていたのは水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)。身に着けたるは白いロングポンチョ。顔を覆うフードにはお化けの顔が描かれている。
「ケルベロスが来たからにはもう安心ですにゃー!」
 言葉に抱かれていた小車・ひさぎ(二十一歳高校三年生・e05366)が市民たちに声をかけた。彼女の仮装は紳士風の猫少年。そう、長靴をはいた猫である。語尾にわざわざ『にゃー』と付けたのは、魔女の正体である『長靴をはいた猫』とは違うということをアピールするためだ。
「なにやら猫率の高い面々だと思っていたのじゃが、よくよく見回してみると、オラトリオ率も高いのう」
 晟が錨型のドラゴニックハンマー『溟』を構えた。仮装に合わせて口調を変えているが、厳つい容貌をしているので違和感がない。
 地に降り立った彼らを見下ろして――、
「猫だろうと天使だろうと、招かれざる客であることにかわりはないのですがねぇ。とはいえ、最低限のおもてなしはしますよ」
 ――魔女が指を鳴らした。
「まずはマタタビのタルトをご賞味くださーい!」
 得も言われぬ芳香が周囲に漂い始めた。もちろん、ただの香りではなく、グラビティだ。それはケルベロスの前衛陣の鼻孔に潜り込んで魔法のダメージを与え、何人かにパラライズを付与した。
 しかし、その奇妙な攻撃に動じることなく、晟が翼を再び広げた。
「匂いだけでは賞味のしようがないではないか」
 体ごとぶつかるような勢いで魔女の眉間に飛び込み、アイスエイジインパクトを叩きつける。
 続いてグラビティを行使したのは狼娘のメリルディ。
「ほら、よい子の皆は避難して!」
 ひさぎと同様に市民たちに声をかけつつ、愛剣『main gauche』の切っ先を地に走らせて守護星座を描く。その輝きを受けて、紙兵の群れが宙を舞った。レオンハルトが黒い縛霊手から散布したのだ。
 そして、二人によって異常耐性を得た前衛陣を言葉が飛び越えて――、
「Trick and Treat! お菓子があっても、イタズラすればいいじゃなーい!」
 ――魔女の脚にスターゲイザーをぶつけた。ちなみに『Trick and~』の部分は無駄に発音が良い。あまりにも良すぎて、英会話の教材音声のように聴こえる。
 反対側の脚にもスターゲイザーが命中した。攻撃したのは幽霊のロビネッタ。
「お化けには足がないはずだって? それこそがハロウィンのトリック!」
 シーツから覗くエアシューズが魔女から離れると同時に別のエアシューズが撃ち込まれた。ウエスタンブーツ型の『Wind & Fire』。履いているのは紳士猫のひさぎだ。
 彼女の目は怒りに燃えていた。
「こちとら、六月からハロウィンの仮装を考えてたのに! よりにもよって、ドリームイーターなんかと被るなんてぇーっ!」
「ひさぎちゃんだけじゃなくて、私も怒ってるのよ!」
 またもや蜂の尻をあざとく振りながら、言葉も怒りを表明した。
「ドリームイーターってば、毎年のように私の誕生日に騒ぎを起こしてくれちゃって! いーかげんにしてよ!」
「あ? 言葉さん、今日が誕生日なんだー。おめでとうございます」
「どもども」
 と、言葉がひさぎに一礼している間にぶーちゃんとラグナルが魔女にボクスブレスを浴びせていた。だが、ぶーちゃんのほうは少しばかり腰が引けている。容貌魁偉な魔女に怯えているらしい。
 一方、ちっとも怯えていないのは蒼月。御業を解き放ち、禁縄禁縛呪で魔女の動きを鈍らせている。
「トリック・アンド・トリート! お菓子をよこせ! イタズラもするぞー!」
「でも、さっきのタルトみたいなお菓子は御免よ」
 そう言いながら、トーキィが攻性植物を収穫形態に変え、自分を含む後衛陣に黄金の果実の光を浴びせた。
「タルトはお気に召しませんでしたか? では、これはいかがでしょう?」
 魔女が再び指を鳴らすと、何本もの巨大な腸詰めが前衛陣に降り注いだ。

●ハロウィンなのさ
 タルトと腸詰め以外にも魔女の凶悪な『おもてなし』はあったのだろうが、ケルベロスたちはそれを味わえなかった。
 腸詰めの攻撃に屈することなく、彼らが攻撃を加えていくと――、
「おっと!?」
 ――魔女が驚愕の声を発し、その巨体が風船のように破裂したのだ。
 大量の血や肉片が飛び散った……と、見えたのは一瞬。それらはカラフルな紙吹雪に変わった。
 その奥から現れたのは剣士姿の猫。本来の姿と大きさに戻ったドリームイーター。
「やれやれ。皆さんがハロウィン的な演出に凝るものだから、せっかく溜めた魔力がもう切れてしまいましたよ。まあ、しかし――」
 猫は腰の剣を抜き放った。鞘から解放された刃はモザイクに覆われている。
「――こうして私の伊達姿を披露できたのだから、良しとしましょうかねぇ」
「その『伊達姿』と被ってしまった者の恨みを思い知らせてやるぜー!」
 紳士猫のひさぎが剣士猫に突進し、『鏤氷敲氷弾・零(ルヒョウコウヒョウダン・ゼロ)』を撃ち込んだ。御業を込めた弾丸をゼロ距離から放つグラビティだが、今日は弾丸の代わりにお菓子を使っている。
「勘弁していただけませんかねぇ。私、甘いものは苦手なんですよ」
 糖分たっぷりの礫に体を抉られながらも、猫は軽口を叩いてみせた。
「僕はお菓子、だーい好きだよ」
 蒼月も御業を用いて攻撃した。二度目の禁縄禁縛呪。
「ハロウィンに付き物のカボチャのお菓子も楽しみにしてるんだ。カボチャのプリン、カボチャのタルト、カボチャのクッキー! だから、ハロウィンを台無しにしようとするポンペリさんたちは許すまーじ!」
「私にも許せないものがありましてね」
 猫は御業の拘束をなんとか振り解き、サーベルを一閃させた。刃が描いた水平の軌跡が波状のモザイクに変じ、ケルベロスに押し寄せていく。
「それはちゅーちゅー鳴く鼠どもです」
 モザイクの波をかぶったのは後衛陣。
 しかし、全員ではない。ひさぎはレオンハルトに庇われたため、無傷だった。
「お嬢さん――」
 波に受けたダメージをものともせず、レオンハルトはひさぎを振り返り、ダンディーな表情を決めて(童顔な上にカボチャの仮面で隠れているので無意味だが)声をかけた。
「――怪我はないちゅー?」
「いや、『ちゅー』って……」
 と、戸惑うひさぎの横で悲鳴らしからぬ悲鳴があがった。
「ちゅー!?」
 声の主は言葉。彼女も波を被った者の一人だ。
「なんだか、自分が鼠になったような感じがして、その気もないのに語尾に『ちゅー』が付いちゃうちゅー! おまけに恥ずかしさがこみ上げてきたちゅー! やーん、とっても恥ずかしいちゅー! 恥ずかしいちゅー! だけどぉ、こういう時はいっそのこと開きなおったほうがいいちゅー! ぶーちゃんもそう思うでちゅー?」
「……」
 首をかしげて問いかける主人に対して、ぶーちゃんは呆れ顔を返した。
「な、なんで、ジト目で見るちゅー? ぶーちゃん、もしかして『可愛く思われたくて、わざとちゅーちゅー言ってんじゃね』とか思ってるちゅー? そんなことないちゅー! ないちゅー!」
 ぶーちゃんの疑惑を必死に否定しながら、ブレイズクラッシュを猫に叩きつける言葉。トーキィに付与された異常耐性が働いたが、恥ずかしさが完全に消え去ることはなかった。敵はジャマーのポジション効果を得ているのだ。故に恥ずかしさも通常の三倍。
「原典では鼠にされるのはオウガなのだが……まあ、いいか」
 晟がアイスエイジインパクトを放った。本来の口調に戻っている。敵の変身が解け、ハロウィン的な演出をする必要がもうなくなったからだ。
「ゴロ太スラッシュちゅー!」
 口調を戻したくても戻せないレオンハルトがゴロ太を振り回し、猫に向かって放り投げた。
「ちゅー!」
 と、神器の剣を加えた口の端から鳴き声を漏らしつつ、ゴロ太が猫を斬り裂いた。
「誰か、このちゅーちゅー状態をはようキュアしてくれんかちゅー?」
 羞恥に頬を染めて、レオンハルトはホーミングアローで追撃した。
「ちょっと恥ずかしいだけなんだから、べつに治さなくてもいいと思うんだけど……」
 少しばかり渋りながらも、メリルディがスターサンクチュアリで前衛陣を癒した。異常耐性を付与しただけなので恥ずかしさが即座に消えるわけではないが、メリルディは気にしていない。恥ずかしさではなく、ポンペリポッサ時の猫に与えられた状態異常やダメージを消すことが目的なのだから。
「ロビィもちゅーちゅー状態だちゅー!」
 ロビネッタが愛銃『シェリンフォード改』で跳弾射撃を披露した。シーツから零れ落ちる菓子群の間を弾丸が何度も跳ね回り、猫の脇腹に命中した。
「私も恥ずかしいちゅー」
 と、赤面して嘆いているのはトーキィだ。
「今日は大人の姿をしているから、クールビューティーな『できる女』感を出したかったのにちゅー……」

 数分後。
「ケルス、お願いちゅー!」
 自らの攻性植物に呼びかけて、メリルディが『道化師の祝福(カラン・デュヌ・クルーン)』を発動させて仲間の傷を癒した。
 その口調からも判るように後衛陣以外にも被害は広まっている。
(「喋らなければ、どうということはないちゅー……って、心の声にまで『ちゅー』が付くのかちゅー!?」)
 と、無言で恥ずかしさに震える晟の横をラグナルが通過し、ボクスタックルで猫を攻撃した。『ちゅー』と咆哮しながら。
「ちゅー、ちゅー、ちゅー! なんだか、ツボにはまったちゅー! 恥ずかしいけど、楽しいちゅー!」
 ハイテンションの蒼月が螺旋掌を敵にぶつけた。
 同じくテンションのロビネッタが『シェリンフォード改』を連射する。
「ちゅー! こっちは語尾に『ちゅー』が付いちゃってるけど、猫さんのほうは『にゃー』って言わないちゅー? 不公平だよちゅー!」
「私が『にゃー』語を喋ってしまうと――」
 激しい攻撃を受けながらも、猫は余裕のある態度を崩さなかった。
「――そちらのお嬢さんとまた被ってしまいますのですね」
「あたしのことちゅー? 『にゃー』を付けてたのは最初だけだから、被りようがないちゅー!」
「おっと!」
 ひさぎのルーンディバイドを食らい、さすがの猫も体をよろめかせた。言動に表していないが、限界に達しているのだろう。
「とどめちゅー! 私好みに染めてあげるちゅー!」
 トーキィが黒のインキで何枚ものパイ皿を描き、猫めがけて投じた。『インク仕立て(メイクブラック)』なるグラビティだ。ハロウィンなので、皿の中のパイはコウモリや猫やコウモリの形をしている。
 それらは次々と猫に命中し、勢いよく弾けて染みに変わった。
「やれやれ」
 インク塗れになった体を猫は見下ろしたが、すぐにまた顔をあげて――、
「伊達姿が台無しですねぇ。こんな格好であの世に行ったら、赤ずきんに笑われてしまいます、にゃー!」
 ――ニヤリと笑ってみせた。
 そして、音も立てずに消滅した。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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