ポンペリポッサの魔女作戦~美少年とシロクマモザイク

作者:ハル


 静岡県沼津市は、その日、市全体を挙げてのハロウィンパーティーで盛り上がっていた。
 富士山を横目に眺めながら、通りを大勢のゾンビ、吸血鬼、魔女、漫画キャラクターに仮装した人々が、笑みを浮かべて通り過ぎていく。また、駅前では大規模な立食パーティーで大賑わいを見せていた。南瓜のスイーツや、本格的なローストビーフが人気らしい。
「さぁ、ボクと本当のハロウィンを始めようか」
 そんな盛り上がりの中に、一人の美少年の姿があった。金糸のような髪を秋風に靡かせながら、貴族的な衣装を纏う彼は、この場に違和感を感じさせない。彼の手にする巨大な鍵も、傍らに佇む雪だるまのようなシロクマも、何かの仮装だろう……そう人々に認識させるのは容易い。最も、そのシロクマに、モザイクがかかっていなければ……の話ではあるが。
 ――気づいた時にはもう遅い。
「これが、ポンペリポッサの……力ッッ!!」
 ドリームイーター・クロード・グレイ・リグレットは、力の奔流に飲み込まれる。それは、ハロウィンの魔力だ。
 ようやく奔流が落ち着いたその時……ハロウィンパーティーの中心には、元のクロード・グレイ・リグレットとは似ても似つかぬ怪異がいた。全長10mはあるだろう醜悪な緑の魔女に変貌を遂げたクロード――否、偽ポンペリポッサとでも呼称すべき化け物は、「ぎゃあああああああ!」笑顔から一転、絶叫を上げて逃げ出す人々を嘲笑うように睥睨するのであった。


「どうやらハロウィンの力を求めて、ドリームイーターの魔女ポンペリポッサが新たな動きを見せたようです」
 集まってくれたケルベロスに、山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が一礼する。
「ポンペリポッサも寓話六塔戦争で痛手を負っているはずで、察するにその傷を回復するために、ハロウィンの魔力を狙ったのでしょう」
 発生が予知されている事件というのが、ハロウィンで賑わう街角に現れたドリームイーターが、ハロウィンの魔力を利用して『ポンペリポッサの姿に変身して巨大化』するというものだ。
「ポンペリポッサ化したドリームイーターは、全長で10m程と、巨体を誇るそうです。また、決して見せかけではないようでして、さすがに本物のポンペリポッサには及ばないものの、それでもかなり強力な力を有しています」
 桔梗は、さらに詳細を記した資料を配る。
「偽ポンペリポッサの元となったドリームイーターというのが、『クロード・グレイ・リグレット』という個体のようです。元となったドリームイーターの特徴が出ているのか、偽ポンペリポッサの頭髪には所々金髪が混じり、片腕はクロードに付き従う白い着ぐるみのような……シロクマでしょうか? を模しているとの事です。その腕でのパンチや、ポンペリポッサと似た攻撃を繰り出してきます」
 どちらにせよ、醜悪に変貌を遂げている事に変わりはない。
「現場は静岡県沼津市の、沼津駅周辺となっております。立食パーティーで大勢の人が集まっているので、見落とすような事はないかと。ちなみに、偽ポンペリポッサの出現と皆さんの現場への到着は、ほぼ同じタイミングか、皆さんの方が少しだけ早くなると予測されています。駅前周辺ですので敷地は広大ですし、交通規制もかかっていますが、当然そうしなければならない程に人は多いので、注意してあげてください。見回りをしている警察官や警備員の方々に、避難の協力を仰ぐ事もできるはずです」
 そして、ここからが偽ポンペリポッサと戦う上で、より重要な内容となる。
「クロード・グレイ・リグレットがポンペリポッサに変身している訳ですが、それも永遠という訳ではありません。何故なら、戦闘を行うためには、ハロウィンの魔力を消費せざる得ないためです。そのため、変身していられるのは5分程度が限度と思われます」
 5分を過ぎれば、変身が解けて元のドリームイーターに戻る。無論ポンペリポッサに変身していた際よりも、戦闘力の減衰は避けられないだろう。
「そして、5分経過以前でも、できる対応策もあります。戦闘時にハロウィンらしい演出を行うことで、ドリームイーターからハロウィンの魔力を奪う事が可能なのです」
 なにも難しいことはない。ハロウィンと聞いて想像する事を、皆で偽ポンペリポッサに披露するだけでいい。
「ハロウィンの魔力を奪い取る事に成功すれば、5分よりも早く……最速で2、3分程度まで短縮する事さえ不可能ではありません」
 変身を解除できれば、クロード・グレイ・リグレットとの戦闘となるだろう。
「どうやらハロウィンの魔力は、我々の想像以上にドリームイーターにとって重要なものなのかもしれませんね。偽のポンペリポッサは強敵ですが、年に一度のハロウィンを守るため、お力をお貸しください!」


参加者
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
黒江・カルナ(夜想・e04859)
ソル・ログナー(陽光煌星・e14612)
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)
リュリュ・リュリュ(仮初の騎士・e24445)
アーニャ・クロエ(ルネッタ・e24974)
エイス・レヴィ(ワールドイズユアーズ・e35321)
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)

■リプレイ


「ぎゃああああ!」
 食欲を刺激する匂いが、雰囲気が、その絶叫により一変した。全長10mは有に越えるだろう偽ポンペリポッサに睥睨された時、人々は恐怖一色に染まった。
「ドリームイーターって、ポンペリポッサみたいなのに変身することに忌避感とかなかったのかな……」
 ポンペリポッサと目が合った燈家・陽葉(光響射て・e02459)が、その醜悪さに、思わず目元を花弁をあしらった白の帽子で隠す。
「変身は5分が限界って話だからな。それはさておき、楽しい祭りに茶々入れやがって! こちとら人形だって用意してきてんだぞ」
 陽葉に言葉を返しながら、黒い甲冑を身に纏ったソル・ログナー(陽光煌星・e14612)が小さく舌打ちを。彼の隣には、呆然と偽ポンペリポッサを見上げる警察と警備関係の人達が。ソルは、彼等に助力を取り付ける事に成功していた。
「ここは、危険、だから、早く、離れて、ね」
 目つきに狂気を、所々赤いシミつき……そんなハロウィンらしい不気味さを醸す兎の着ぐるみから顔だけを出した兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)が、避難を呼びかける。
「おやおや、お祭りに誘われてでっかい悪戯お化けだ。危ないから皆逃げてね!」
 ソルもその後に続くと、警察と警備関係の人達も我を取り戻し、すぐに動き出してくれた。
「むぅ、ここにいる人達にもお菓子を貰いたかったのですが、仕方在りませんね」
 王子様の格好をしたエイス・レヴィ(ワールドイズユアーズ・e35321)が、少し残念そうに。なにせ、エイスにとって初めての本格的なハロウィン参戦の日だ。
「無事に作戦を終えたら、いくらでも貰えるよ。僕達だっているしね。配れるように、お菓子だって用意してるんだよ?」
 そんなエイスの肩を、陽葉がポンと。振り返ったエイスの前で、お菓子をヒラヒラとアピールしてみせると。
「それなら――お菓子をくれないと、いたずらしちゃいますよ?」
 エイスが、お菓子を入れるかごを持ち上げた。
「それは困ったね、はいどうぞ」
 陽葉がかごにお菓子を入れると、エイスの顔には溢れんばかりの笑みが浮かぶ。
 瞬間、ポンペリポッサを形成しているハロウィンの魔力が、吸い取られるようにケルベロスの元へ!
「トリックオアトリートなのー!」
 絶望、恐怖……そういった負の感情に汚染されそうになっていた人々の耳に、盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)の楽しげな声は、染み入るように。
「すごーい! あの黒い魔女の人、壁を走ってるよー?!」
 必死な形相で手を引く両親とは対照的に、子供達は状況をよくは理解していない。人波と逆流するように壁を歩くふわりに純真な瞳が向けられると、
「ふふーん、すごいでしょ、なの♪ そんなボクちゃんにも、トリックオアトリートなのー!」
 陽葉とは対照的に、黒の三角帽子とドレス姿のふわりは、カボチャのランタン型のバケツから、バサッとお菓子を舞い上げた。
 さらに――!
「おおっ!」どこかから、そんなどよめきが。
 人波の中で、灰かぶりの質素な仮装をして目立たずにいた黒江・カルナ(夜想・e04859)が、プリンセス変身でドレスアップされていたのだ。カルナが硝子の靴を踏み鳴らすと、睥睨する偽ポンペリポッサに告げた。
「楽しい筈の一夜が、悪夢に飲まれないように……呼ばれぬ客にはご退場願いましょう」
 それはまるで、一度は壊れかけたハロウィンを復活させる魔法のように、はたまたお伽噺のように。
「出たねケルベロス。このボクの邪魔をするつもりか!」
 だが、偽ポンペリポッサは、やはり当然ながらこの状況をいつまでも悠長に眺めていてはくれないようだ。見た目に相応しいおどろおどろしい声に、元のクロードの幼さが混じった声色は、その『ボク』といったような口調も相まって、非常に奇妙で、違和感をケルベロスに植え付ける。頭に乗せた『お菓子の家』はそのままに、シロクマを模した腕を振り上げ、偽ポンペリポッサはふわり目掛けて振り下ろす!
「やらせませんっ!」
 しかし、ふわりに直撃する間際、巨体から放たれる凄まじい威力を秘めた拳の前に、騎士(ナイト)の仮装を纏ったアーニャ・クロエ(ルネッタ・e24974)が、颯爽と割って入る。直後、突風と共に粉塵が巻き上がり、アーニャの細身は地面を削るようにして吹き飛んだ。
「アーニャ!」
 予想はされていたが、耐性を整え、威力を抑えてなおの破壊力に、ソルが思わず声を上げる。だが、アーニャはソルを制するように腕を上げると。
「ふ……ふ、ふふぅん! こういう守護ナイトって憧れだったんですよね……!」
 強がるように、笑みさえ浮かべて見せた。
「もうっ、参ったわ、アーニャ。衣装が逆なんじゃ……なんて野暮な事を言おうと思ったけど、ここで着替えるわけにもいかないし、今日は仕舞っておいてあげる。だから――頼りにさせて貰うよ、騎士様!」
 これだけ騎士としての度量を見せつけられると、赤や橙を基調とした華やかな妖精のお姫様の仮装しているリュリュ・リュリュ(仮初の騎士・e24445)は、傷ついた彼女を前にしても、反対の言葉を見つけられない。むしろ、淡いときめきを感じる程だ。
「もちろん、私がお姫様リュリュさんを護るのですよー! ティナも妖精猫として、私のサポート頼むね……!」
 アーニャがマントをバサァーと広げると、リュリュはお姫様として、楚々とその影に隠れることにする。ティナが、翼を羽ばたかせた。
「ご安心を――すぐに皆様の舞台を、夢の一時を取り戻します。おいで――」
「さて、元の美少年に戻ってもらおうかな。今のお前は見るに堪えないよ。トリックオアトリート、敗北を与えてあげる」
 直後、避難する人々の背に向け言いながら、カルナが「影」を縫い止める黒猫の幻影を放ち、陽葉は煌めきを帯びた飛び蹴りで反撃を。
 アーニャが自身を含めた前衛を守護させるべく、紙兵を大量散布する。
「お祭りしたいなら、もちっと可愛い仮装しなきゃ。受付した? してない? 駄目だよ全く、規則だよ?」
 アーニャの無事に安堵し、舌の滑りをよくしたソルは、軽口を叩きながら光り輝くオウガ粒子を放出する。
「それじゃあ、はろうぃん、ぱーてぃ、の、始まりだ、よ」
 十三は人々の気配が少しずつ遠ざかっていくのを確認してから、周囲に殺気を張り巡らせる。ライティングボールを撒き、場に彩りを。十三は、着ぐるみについているカボチャの王冠を誇示するように、
「とりっく、おあ、とりーと? だ、よ。――お菓子を、くれなきゃ、首、置いてけ?」
 そんな、ハロウィンを理解しているのか、いないのか……。それでも、楽しく、誰もが笑顔であった事は間違いないから、それは、素敵な事のはずだから、十三は首を傾げながらも、感情を共有しようと、怒り、凍える怨嗟、殺意を解放し、赤黒い刀身に纏わせ一閃する。
「十三ちゃんの言う通りなの! だ・か・ら♪ お菓子くれないならー、いーっぱいイタズラしちゃうの♪」
 ふわりが貰った飴玉を舌先で転がしながら、鎌を回転させて投げつける。
「厄介者共め! 的確に嫌な所を突いてくる。なら、これでどうだ!?」
 そのハロウィンを意識した行動一つ一つが、偽ポンペリポッサから継戦能力を奪っていく。偽ポンペリポッサもその事は自覚しており、『お菓子の家』から優しい香りを立ち上らせ、前衛の心を惑わせた。
「そうはさせませんよ!」
 ――が、優しい香りが猛威を振るう前に、エイスの雷の壁が立ち塞がる。同時に、ライトニングロッドの先に取り付けられたかぼちゃの飾りが揺れた。その特性ゆえに、すぐには全てを防げないが、時間は稼げる。
 さらにソルがカラフルな爆風を発生させると、煽られた腰のパンプキンチャームがカラカラと音を立て、ガジェットで浮かせておいたゾンビ人形や藁人形が舞い踊る。
「臭いだけはおいしそうね。でも私たちの要求はお菓子なの! トリックオアトリート! お菓子くれなきゃ悪戯するわ!」
 リュリュのバスターランサーが凍気を纏い、偽ポンペリポッサに突き立てられる。
 その度に、偽ポンペリポッサが発していた強大な圧力が、存在感が薄れていく。
「ああ、魔法が解けてしまいそうですね」
 カルナは、偽ポンペリポッサの様子を指して、また自身の仮装の役に入り込むように……お菓子をばら撒いた。
「シンデレラとは真逆の、忌まわしき彼の変身こそを解き――そして覚めぬ眠りへと誘いましょう」
 カルナが振り上げた光の剣は、悪しき魔女を両断し、掲げた南瓜馬車風のランタンが真実の姿を照らし出す。
 その間、たったの2分程度。偽ポンペリポッサは、その本領を発揮するに至らず。ハロウィンの魔力が弾ける。
「ぐっ!」
 変わりに姿を現したのは、忌々しげに唇を噛む金髪の美少年――クロード・グレイ・リグレットと、彼に付き従うシロクマ。
(「…………あっ」)
 その整った中性的な顔立ちを目にした瞬間、エイスの胸中が揺さぶられる。ニセモノだ、「あの方」ではない……そう分かっているはずなのに。
「貴様達を殺してやる! そうだな、そこの黒髪の少年だけは、戦利品としてボクの配下にしてあげてもいいよ?」
 それでもエイスはやはり、目が合った瞬間、視線を逸らしてしまった。


「ポンペリポッサ! ボクの声が聞こえていないのか、返事をしろ!」
 幸か不幸か、エイスの動揺は、比較的早くとけた。その要因となったのは、変身がとけたクロードが、ポンペリポッサに助けを求めたからだ。だが、1分、2分が経過しても、依然として助力の手はなく、クロードは醜態を晒してしまっていた。
「何故ボクの声に応えないッ!? このッ――行け!」
 クロードは状況を打開しようと、モザイクがかかった雪だるまのようなシロクマを突撃させる。
「エイスと似たような格好してるし、てめぇならお祭りに参加できるかもな。まっ、生き延びられたら……の話だがな!」
 突撃への対応を請け負ったソルが、地雷を一斉起爆させて相殺しようと試みるが、さすがに押し切られる。
「もっと、とりっく?」
 ゆえに、十三が影の如き斬撃を放ってフォローを。
(「お祭り騒ぎ、楽しんで!」)
 その時、リュリュが小さく笑った。序盤に素早く亡霊達を呼び寄せた事により、クロードの美学の薫陶を得た攻撃は、一気にケルベロスのエンチャントを無効化させるまでには至らない。ポンペリポッサ化解除と共にクロードの状態異常の大部分は解除されたが、ケルベロス達が優位に立つ面は未だ多い。
「だ、大丈夫です?」
 アーニャが、ソルを光り輝くオーラで包む。
「本当にポンペリポッサとの落差が酷いね。僕達のやる事は変わらないけど!」
「こればかりは、燈家様に同感でございます」
 クロードの、金糸のような頭髪がフワリと揺れる。シロクマのファンシーさといい、陽葉が肩を竦めながらエネルギーの矢を放ち、カルナがケルベロスチェインでクロードを締め上げる。
「このぉッ!!」
 後衛からの攻撃は、クロードの大きな泣き所だ。
 互いに【破剣】の掛け合い、破壊のしあいになるが、先に焦れたのは、当然のようにクロードであり――。
「さすがにあの鍵で開くものがお菓子の宝箱……なんてことはないわよね!」
 黄金に輝く鍵が、リュリュの心臓を執拗に付け狙う。
「ティナ、お願い……!」
 それに対し、ティナ達Dfが身を張った。
「これで……沈めっ!」
「ぐは!」
 陽葉の股間を狙った蹴りが、炸裂する。
「クロードくんも、トラウマでいっぱいにしちゃうの!」
 ふわりが、鍵の一撃に対する意趣返しのように、ナイフの刀身にクロードのトラウマを映し出す。
「刻む――」
 リュリュが右手で強くルーンを掴み取ると、クロードに氷の祝福を与えた。
(「……クロードはしきかんさまを騙っている……だから、エイスがトドメを刺すのが一番いいのでしょうが……」)
 エイスは理解はしている。だが、クロードが苦しむ姿に、心がザワついてしまう。だから、
「お願いします! あいつにとどめを刺してください……!」
 エイスはその役目を仲間に託すことにして、トラウマに苦しむDf陣にオーラを注ぐ事に専念した。
「じゅーぞーに、任せると、いい、よ?」
 呪われた太刀――【月喰み:十三夜】に呪詛が浮かぶ。美しい軌道を描いた斬撃は……。
「ボクは! ……ボクはポンペリポッサに騙されたのか? ……このボクがあああああ!」
 シロクマ諸共、クロードの首を刈る。
 十三が剣を払うと、付着した液体が地面と着ぐるみに真新しいシミを作った。
(「お休みなさい」)
 カルナが目を伏せる。
 今宵はハロウィン。
 悪霊は、退散するが、定めなり。


「いろんな、仮装、おもしろい、ね」
 十三は、通りを行脚する大勢のゾンビ、吸血鬼、魔女などを見て、僅かに頰を綻ばせていた。
「ほらよ、十三、それにエイスもな」
 そんな十三に、そして笑顔ながら、どこか浮かない顔のエイスの前に差し出されたのは、紅芋タルトだった。
 エイスが見上げると、ハロウィンを盛り上げるべく、やる気に満ちたソルの顔が。
「お前らも子供だからな。事情は知らんが、今日は楽しもうぜ!」
「はい!」
 気遣いに、エイスは感謝を。
「おーい、紅芋タルトが欲しい子供は集まれよー!」
 さらに、ソルが周辺に呼びかけると、
「あっ、僕お菓子あげるばかりで、全然貰ってない!」
「ふわりも欲しいのー!」
「……お前らなぁ」
 大勢の子供達の中には、陽葉とふわりも混ざっていた。ふわりなどは大人の男性達に、「改めて、お菓子とイタズラどっちが良いのー?」などと妖艶な笑顔を見せていたため、その変わり身の早さにソルは呆れたように肩を竦めるが、密かに仲間の分も用意していたため、事なきを得る。
「……ログナー様達は、紅芋タルトでございますか」
 立食の列に並びながら、カルナのお腹が可愛らしく鳴き声を上げる。その音を誰かに聞かれていないか、そこはかとなく頰を赤く染めたカルナは周囲を見渡して、その過程で花びらの舞踊によって修復した街並みに目を向けた。
 幻想は、ハロウィンの今日には素敵なスパイスに。
 とはいえ――。
「ローストビーフや南瓜のスイーツも捨てがたいのです」
 紅芋タルトに惹かれる心を抑えながら、カルナは人々の楽しげな笑い声に浸った。
「たまにはエスコートされるのもいいよね、騎士様?」
 ソルから貰ったタルトを食みながら、リュリュとアーニャは腕を組んでいた。
「もちろんです。さぁ、お姫様。わたくしとパーティを楽しみましょ……!」
 だが、今日に限ってはアーニャがホストで、リュリュがギュッと抱きつく側だ。リュリュが甘えるように、悪戯するようにアーニャの耳元で囁くと、アーニャは擽ったそうに耳元を真っ赤にする。
 二人の様子を、アーニャの頭上でティナは、微笑ましそうに見ているのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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