降り注ぐは死肉か牙か

作者:坂本ピエロギ

 夕刻。
 茜色の雲海に立つ少女の死神が、眼下に広がる景色を見下ろしていた。
 ビルの建ち並ぶ街中を忙しなく走る電車。通勤帰りで賑わう駅前。地球に暮らす人々の、ごく平和な日常を。
「あの辺りならば良さそうですね」
 少女の死神はそう呟くと、背中の白い翼を広げ、手中の杖を静かに掲げる。
「さあ現れなさい。パイシーズ・コープス達……」
 その言葉に応えるように、死神の足元に描かれた魔法陣が青い光を放ち始めた。
 そこから次々に現れたのは、サルベージされた5体のデウスエクス。ドラゴンの使役する竜牙兵に海棲生物の肉を継ぎはぎしたような、歪な姿の怪物だった。
「これよりお前達を人間の街へと遣わせます。すべき事は分かっていますね?」
 死神はにこりと微笑んで、竜牙兵に命令を下す。
「さあお行きなさい。竜牙流星雨を再現し、グラビティ・チェインを略奪するのです」
「ハッ! 承知致シマシタ!」
 敬礼し、次々と雲下へ降下していく竜牙兵達。
 みるみる小さくなっていく彼らを見送りながら、死神は小さく微笑む。
「すべては、私達の真の目的を果たす為に……」
 地上に降りた竜牙兵達が街で惨劇をまき散らす光景を、死神は満足気に見下ろしていた。

「招集に応じてくれて感謝する。つい先刻、死神にサルベージされたと思しき竜牙兵の出現が予知された」
 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は、ヘリポートに集合した猟犬達に開口一番そう告げた。
「敵はパイシーズ・コープスと呼称される個体が5体だ。奴らは今日の夕刻、市街地の駅前に出現し、人々を手当たり次第に殺戮する。直ちに現地に向かい、敵を撃破してほしい」
 パイシーズ・コープスは通常の竜牙兵と同様、事前に周辺の避難勧告を行うと襲撃の場所を変えてしまう。従って市民の避難は、彼らの襲撃後に行わねばならない。
「敵はお前達の現地到着とほぼ同時に、街を襲撃するだろう。警察と消防の手配はすでに私が済ませてあるから、お前達は敵の撃破に専念して欲しい」
 出現するパイシーズ・コープスの数は全部で5体。前衛の3体はゾディアックソードを、中衛の2体は簒奪者の鎌を装備し、それぞれ武器に応じた能力で攻撃してくる。簡単な言語を操る程度の知能も有しているものの、有益な情報を得ることは難しいようだ。
「どうやら今回の事件は、死神が竜牙兵による襲撃を模倣して起こしているようだな。通常の方法でサルベージされた竜牙兵とは少し違う存在に感じられるが……いずれにせよ、今は敵の撃破に専念するのが先だ。1体たりとも討ち漏らさぬよう確実に撃破してくれ!」
 王子はそう言って、ヘリオンの発進準備に取り掛かるのだった。


参加者
新条・あかり(点灯夫・e04291)
江戸川・シャーロット(ぽんこつホームズ・e15892)
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)

■リプレイ

●一
 林立するビルの向こうに、夕日が隠れゆく頃。
 櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)らケルベロスが到着するのを待っていたかのように、茜色の空から異形の怪物達が降ってきた。
「オ前達ノグラビティ・チェインヲヨコセ!」
「サア逃ゲ惑エ! 憎悪ト拒絶ヲ捧ゲヨ!」
 路上へと降り立った5体の竜牙兵達の姿に、のどかな駅前の空気はたちまち悲鳴と恐怖で塗り潰されていった。もはや一刻の猶予もないと、ケルベロスは竜牙兵達の元へと大急ぎで駆けていく。
「あれが『パイシーズ・コープス』。死神勢力の尖兵ですか……」
 助けを求める主婦めがけて振り下ろされるゾディアックソードを間一髪、小ぶりな護身刀で跳ね返すと、筐・恭志郎(白鞘・e19690)はあらん限りの大声で叫んだ。
「皆さん、急いで避難してください! 俺達はケルベロスです!」
 恭志郎の後に続くように、彼の仲間達が人込みをかき分けて現れ、パイシーズ・コープスの前に次々と立ちはだかる。
「あれがサルベージされた竜牙兵? 話には聞いてたけど凄いわね本当に骨に肉を継ぎ接ぎしたみたいじゃない! あっそれとも肉を削いでああなったのかしら? まあどっちでも同じ事よね私達ケルベロスが来たからにはもう市民に手は出させないわよ!」
 マシンガントークを炸裂させながら女子高生を避難させるのは、江戸川・シャーロット(ぽんこつホームズ・e15892)だ。ビシッと竜牙兵を指さす彼女の隣ではお供のミミック『ワトソンくん』が可愛らしいパイプタバコをぴこぴこと弄んでいる。
「ナニッ、ケルベロスダト!?」
「その通り! 今宵も大探偵が華麗にエントリー素敵な推理ショーの幕開けよ!!」
 ケルベロスの存在に気づいた異形のデウスエクス達にも動じることなく、シャーロットはスタイルの良い体を晒し自信満々に胸を張り、真正面から相手を睨み返す。
 その傍では比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)が、逃げ遅れた人を引き連れて避難していく警察を庇うように立ちながら、彼らに小さく目礼した。
(「頼りにしてるよ、いつもありがとうね」)
 民間人の避難を警察に任せて、アガサは竜牙兵と向かい合った。人や物への執着心が薄いアガサだが、襲われている人を見捨てるような事はできない。
 いまは猟犬の役目を果たすのみ。死神にもその手先にも人々の命は渡さないという決意を込めて、イリオモテヤマネコのウェアライダーはチェーンソー剣のモーターを入れる。
「さて、一匹残らず退治してしまおうか」
「はい。絶対に、好きにはさせません!」
 水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)が、アームドフォートを展開しながら頷いた。背丈ほどもある巨大な主砲を向けて、和奏は凛とした声で竜牙兵に告げる。
「さあ、かかって来なさい竜牙兵! 市民の皆さんに、手出しはさせません!」
「ククク……馬鹿ナ奴等メ、ノコノコト殺サレニ来タカ!」
 ゾディアックソードを手にせせら笑う個体を先頭に、竜牙兵達は慣れた動きで陣形を組んでゆく。前衛に3体、中衛に2体。かなり攻撃寄りの布陣だった。
(「僕と同じ妨害担当の中衛は……多分、あいつだね」)
 新条・あかり(点灯夫・e04291)の目が捉えたのは、簒奪者の鎌を2本背負った竜牙兵。
 髑髏の頭部に黒いフードという、いかにも死神ですと言わんばかりの個体だ。
(「星の名を冠するものたち……もう星空にも深海にもたどり着けないのであれば、番犬が地獄までおくろうか」)
 逃げ遅れた市民がいない事を確かめ、殺界形成を発動するあかり。彼女は同じ旅団の信を置く仲間達に、
「今日もよろしく。広喜さん、眸さん」
「ああ、よろしくなっ。死神が何考えてやがるか知らねえがぶっ壊すだけだ」
 隣から返事をよこすのは、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)。屈託ない笑顔を浮かべながらも、油断なく敵を取り囲むように陣形を展開していく。
 後列に控える君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)もよろしくと返して、
「さテ、皆、いつものよウに逝かせてやろウか」
 ドラゴンを模したメイスを手に、ビハインド『キリノ』と敵の最前列へと狙いを定める。
 暗躍する死神が何を企もうと、猟犬たる自分達のすべき事は変わらない。
 敵を倒し、人と街を守るのみだ。
 剣と鎌を手に襲い来る異形の竜牙兵を、ケルベロスは真正面から迎え撃つのだった。

●二
「凍エルガイイ、ケルベロス!」
「ソノ服、切リ裂イテヤル!」
 凍りつく剣のオーラと回転する鎌の斬撃が、尾を引いて次々とケルベロスに降り注いだ。盾役の竜牙兵は、剣で地面に守護の文様を描いて前衛を包み込む。
 敵の狙いはケルベロスの中衛。あかりと広喜の2人のようだ。最も火力が高い竜牙兵達のオーラ庇ったシャーロットとアガサが、たちまち身を蝕む氷で覆われていく。
「ふむ……後衛から眺める戦場は、なかなかに景色が違うものだ」
 回転鎌の集中攻撃を浴びたあかりの衣服をキュアウインドで繕いながら、千梨は呟いた。
 普段は前列で戦うことの多い彼にとって、メディックというポジションは新鮮でもあり、若干のプレッシャーでもあるようだ。
(「まあ。皆が存分に踊れるよう、舞台を支え切ってみせよう」)
 一方、あかりは広喜と息を合わせ、雷の壁とオウガ粒子で仲間達を覆っていく。
(「なんて醜い姿だろう、彼ら」)
 ついこの間戦った、死神にサルベージされた相手とは大違いだ――。そんな内心の葛藤を押し隠すあかりの後方では、眸と和奏が、砲口を一斉に敵へと向けたところだった。
 前衛の火力を担う1体を、道路に散乱するガラスとコンクリート破片で切り刻むキリノ。それを合図に、一斉に発射される眸と和奏の砲撃。
「さテ。そろそろ、反撃といこウ」
「絶対に逃がしません。……行けっ!」
 砲撃形態に変形した眸のメイスから、和奏のアームドフォートの砲口から、展開する浮遊砲台から砲弾が放物線を描いて次々と着弾。振動と共に生じた煙が周囲を満たし、夕焼けの空を灰色に染めていく。
「グヌ……ッ!」
 即座に庇いに入る、盾役の竜牙兵。いかに守備に優れる敵といえども、和奏と眸、そしてキリノの同時攻撃を捌ききるには技量も頭数も到底及ばない。猛攻撃の嵐に捉えられた前衛の竜牙兵達は威力を殺しきれず、瞬く間に回避の機動力を封じられていった。
「しかし……魚、ですか。なかなか凄いセンスの魔改造ですね」
 砲弾が止んだのも束の間、次に降り注いだのは恭志郎の召喚した無数の刀剣だ。必死に剣で攻撃を弾き、次第にこぼれ始める竜牙兵の刃。そこへアガサのチェーンソー剣が唸りをあげて振り下ろされ、竜牙兵の鱗もろとも身体を切り刻む。
「ヌウウウ! 面妖ナ術ヲ……!」
 集中砲火を浴びる竜牙兵は、焦りも露わにそう言った。
 敵をバッドステータスで絡め取りつつ、火力役の竜牙兵に集中砲火を浴びせて確固撃破。脅威となる牙を真っ先に叩き折り、それから盾役、妨害役と順番に潰していく――。
 このケルベロス側の作戦にはパイシーズ・コープスも程なく気づいたが、ケルベロス達の猛攻撃は、有効打を繰り出す隙を彼らに与えなかった。
 知覚できる攻撃ならばまだ対処のしようもある。だが、彼ら竜牙兵の戦列は先程から知覚も予測もできない攻撃に晒されているのだ。
「初歩的なことだよ、明智くん!」
 シャーロットの駆使する、『謎は全てミステリー』によって。
 地面を割って噴き出す雷。割れたビルの窓から飛んでくる氷塊。横断歩道の赤信号など、先ほどから真っ青な炎を吐いている。それに混じってワトソンくんがぽいぽい飛ばす、何だかよくわからないレプリカの財宝。おまけにマシンガントークのおまけつきだ。
「おかしいわねーいったい全体何が起こってるの? まあでも些細な問題よね何故って全部エクトプラズムが原因なのだから!」
「ヌウウウ! ウルサイ女ダ!」
「前衛ニ攻撃ヲ集中シロ! 数デ押シ切レ!!」
 この世のものとは思えない光景が繰り出す混沌。コミカルな音を立ててダメージを与える偽の財宝。竜牙兵は星辰の守護で辛うじて正気を保ちつつ、刃を掲げて前衛に突撃した。
 前衛、特にディフェンダーの2名は味方を攻撃から庇い続けた事で相応のダメージが蓄積されている。即座にあかりが雷の壁で、千梨はマインドリングの光で彼女らを癒やすが、さすがに敵の手数の方が多く回復が追い付かない。
 これ以上負傷が重なる前に、クラッシャーを落とす必要があった。
「あら~? 催眠にかからないなんておかしいわね? そうよこうすれば万事解決だわ!」
 パチン、と指を鳴らすシャーロット。
 それを合図に、物陰から忍び寄らせたブラックスライムが一斉に竜牙兵を呑み込んだ。
 スライムの咀嚼によって星辰の守護を消化されていく竜牙兵たち。アガサのチェーンソー剣で守りを剥がれた影響もあり、集中攻撃を浴びた1体の動きが次第に鈍くなっていく。
(「よしチャンスだ、ぶっ壊す!」)
 腕部換装パーツ六式を変形させる広喜の視線が、後衛に立つ眸のそれと一瞬交差する。
「眸!」
 1秒に満たない一瞬の時間。だが、それで十分だった。
 コートを翻す音で、応じる眸。
 広喜は危険を顧みずに敵の射程に飛び込むと、零距離から砲撃をお見舞いした。
「グオオオォォォ!!」
「終わリだ」
 足を浮かし、派手に宙を舞う竜牙兵。回避も防御も不可能なそこへ眸の流星蹴りが直撃、竜牙兵が跡形もなく砕け散る。
「吹き荒れろ」
 ケルベロスの攻撃は留まるところを知らない。
 アガサの呼び声は嵐を招き、砂塵と礫をまとう暴風となって新たな標的へと牙を剥いた。
 そこへ混じって飛んでくるのは、恭志郎の妖精靴『導』が蹴り飛ばす星型のオーラだ。
「クウウウ……グ、グググ……!!」
 最前列で成す術なく切り刻まれる竜牙兵。盾役の1体は和奏の砲撃を防ぐのに精一杯で、助けに回る余裕を失っている。
 竜牙兵が火力の一角を失った事により、戦いの趨勢はケルベロス側へと傾き始めた。

●三
 次第に防戦へと追い込まれ始めるパイシーズ・コープス。対するケルベロスは攻めの手を強め、それまで支援に回っていたあかりも攻撃に加わった。
「アガサさん、無理しないでね」
「ありがとうあかりちゃん、大丈夫」
 『Liar』の詠唱を紡ぎ始めるあかりの言葉に、ヤマネコの拳を敵クラッシャーへ叩き込みながら応じるアガサ。そんな彼女の後ろで、あかりは竜牙兵を見据えて口を開く。
「――星よ、探索船よ。その姿は本望なのか」
 あるべき姿で、あるべき処へ還れ。そんな意思を込め、あかりは召喚の言葉を紡いだ。
「嘘ついたら針千本――縫い留めようか、その口を」
 発動と同時に、氷の針が次々と降り注ぐ。標的となった竜牙兵は必死に回避を試みるが、とうてい避けきれる数ではない。氷の針はあたかも意思を持った小魚の如く、悲鳴をあげる竜牙兵に群れをなして突き刺さっていく。
「グワアアアアァァァァ!!」
 和奏のサイコフォースの爆発を受け、眸の地獄化した腕が振り下ろす戦棍に身を砕かれ、さながら氷の針鼠と化した竜牙兵はたちまち瀕死に追い込まれた。
 隣の盾役は絶え間ない攻撃を浴び続け、もはや回復だけで精一杯。中衛の2体の妨害も、シャーロットと千梨のキュアウインドによってすぐ除去されてしまう。
「どうだ、皆強えだろ?」
「グォ……」
 自慢げな笑みと共に繰り出す広喜の回し蹴りが、その竜牙兵が最期に見た瞬間だった。
 コギトエルゴスムとなって砕け散る敵を眺めながら、千梨は人知れず小さく溜息をつく。
(「なかなか気を張るものだな。死なば諸共が許されないというのも」)
 普段の依頼では眸やあかりから支援を受ける側である事が多い身だけに、こうして後ろに立つと色々な事が見えてくる。護るのは奪うより余程大変だ、そう感じるくらいに。
(「此度は俺の腕の見せ所かね」)
 敵ディフェンダーが攻撃を浴びて追い詰められていく光景を見つめながら、千梨はそっと肩を竦めた。敵の抵抗が既に散発的なものへと変わっているのに対して、ケルベロス側の回復はBS耐性も含めてほぼ万全だ。致命傷を負った者もいない。
 余裕があれば攻撃に回れるかもしれない――千梨がそう考える間にも敵ディフェンダーは恭志郎のアイスエイジインパクトの直撃を受けて絶命していた。
「さて、ぼちぼち俺も加わるかな」
 マインドリングをかざして、服を破られたシャーロットを輝く扇のようなシールドで保護しながら結界を巡らせ始める千梨。その前方では暴風のように荒れ狂うケルベロスの猛攻によって攻撃を完封されていく竜牙兵達の姿があった。
「あれを見たまえワトソンくん! 明智君も御覧じろ!」
 シャーロットの「エクトプラズム」は、もはや完全にやりたい放題だった。街路樹の紅い落ち葉が蝋燭の灯のような炎へと変わり、乗り捨てられた自動車のタイヤが回転して竜巻を生み出し竜牙兵達を弄ぶ。
「ナ、何ガ一体ドウナッテ――ギャアアアアアアア!!」
 この世のものとは思えない光景に正気を失った二本鎌の竜牙兵が、飛んできた恭志郎のフォーチュンスターに頭を吹き飛ばされ、斃れた。
「これで、最後ですね!」
「だな。油断禁物だぜ!」
 回避に優れる竜牙兵の軌道は、広喜と眸の轟竜砲と、和奏の弾幕によってあっという間に封じられた。迫り来る死を1秒でも未来へと伸ばすべく簒奪者の鎌で生命吸収の構えを取る竜牙兵。だが、それを許すほどケルベロスは甘くない。
 あかりの担いだバスターライフルから発射された光弾に火力を中和され、アガサの大嵐に自由を奪われ、気付いた時にはその体を千梨の蜘蛛糸が絡め捕り――。
「借りるは千筋の蜘蛛の糸」
 千梨の『散幻仕奉「土蜘」』によってその身を跡形もなく粉砕され、絶命するのだった。

●四
「……ええ、竜牙兵の排除は完了しました。迅速な協力に感謝します」
 戦いの終わった駅前で、恭志郎は警察への連絡を済ませると、仲間の元へ合流した。
「お疲れさまでした、皆さん」
「お疲れ様。被害も少なくて良かったね」
 雷の壁でビルの亀裂を修復し終えたあかりが、こくりと頷いて言った。
 殺気の晴れた駅前のあちこちで避難警報の解除を告げるアナウンスが流れる。じきに街は日常の賑わいと雑踏が戻ってくる事だろう。
「いやー、やっぱ皆強いんだぜー」
 オウガ粒子で道路を塞ぎながら、広喜が屈託のない笑顔を浮かべた。
 パイシーズ・コープスは決して弱くはなかった。そんな竜牙兵達に勝てたのは、自分達が彼らにないものを持っていたからだろう、と広喜は思った。
 それは手下でもない、駒でもない、命を預けて戦える仲間。
 死神には分からぬであろう力だと――。
「さて、そろそろ俺達も帰ろうか」
 千梨の言葉に頷いて、ケルベロス達は夕刻の駅前を去っていく。
 夕焼けを浴びる道路に、猟犬の長い影が伸びるように落ちていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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