死の力が宿る竜の牙

作者:波多野志郎

 夜の駅前。その上空にある一つの雲の上に、ソレはいた。彼女の名は、星屑集めのティフォナ――死神だ。
 ティフォナが杖を振るうと、雲の上に無数の光の線が走っていく。光は複雑な軌道を描いていき、やがて魔法陣がそこに現われた。
 魔法陣の上に、五つの影が現れる。召喚されたのは、五体の竜牙兵――否、より正確には死神竜牙兵だ。
「さぁ、竜牙流星雨を再現し、グラビティ・チェインを略奪してきなさい。私達の真の目的を果たす為に……」
 五体の死神竜牙兵、パイシーズ・コープス達は答えない。ただ、その行動で示した。すなわち、雲から飛び降りる――人々で賑わう、夜の駅前へと文字通り流星となって落ちていった……。

「とある駅前に、死神にサルベージされたと思われる竜牙兵、パイシーズ・コープスが現れます」
 至急、ヘリオンで現場へ向かって下さい――そう、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は切り出した。
「竜牙兵と同じく、パイシーズ・コープスが出現する前に、周囲に避難勧告してしまうと別の場所に出現してしまいます。ですので、事前の避難はできません」
 ただ、ケルベロスが現場に到着した後は警察などが避難誘導を行ってくれる。みんなは、戦う事に集中してくれていい。
「パイシーズ・コープス達との戦いは、駅前のロータリーでになります。戦うのには十分な広さですので、思い切り戦って下さい」
 パイシーズ・コープスは、五体いる。パイシーズ・コープスαと言われるディフェンダーが三体。パイシーズ・コープスβというジャマーが一体。パイシーズ・コープスγというキャスターが一体となっている。
 五体は個々の戦力では、こちらより上だ。力を合わせて来ない分、着実に倒していく必要がある。油断せずに、挑んでほしい。
「この事件は、竜牙兵による襲撃を死神が模倣して起こしているようです。人々が殺される前に、対処してください」


参加者
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)
黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)
デレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689)
ウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)
清水・湖満(氷雨・e25983)
一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)
中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)

■リプレイ


 夜の駅前。そこを行き交う人々は、まだ知らない。もうすぐ、空から降ってくる脅威がある事を。
「チェイン欲しさに寄ってくるデウスエクスの対処じゃなきゃ。こんな人混みン中に来ることもねえんだがな」
 終わったら美味ェ酒でも呑まねえと割りに合わねえよ、とデレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689)が吐き捨てる。
「最近の死神は手数が多いというか手段を択ばないというか、急に活発になり始めたようだな」
「第二次代侵略期おっぱじめから足掛け二年。デウスエクスのキル数も積もれば、ニャるほど死神もはっちゃけ出す頃合ですよな」
 神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)の呟きに、黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)もしみじみとこぼす。そのやり取りに、一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)が笑って言う。
「何を企んで猿真似しとるか知らんが……此処で打ち砕けばいいだけの話じゃ!」
「そうやね」
 清水・湖満(氷雨・e25983)の視線の先、五つの流星が降ってくるのが見えた。ガガン! と駅前のロータリーに降り立ったのは、五体の死神竜牙兵、パイシーズ・コープスだ。
 人々の混乱は、思ったよりも少ない。警察の避難誘導が始まっているからだ。
「ざわざわ再現させるとなると、獄混死龍と同じようにドラゴン側も裏で関わっているんでしょうか? 気にはなりますが、まずここの被害を止めないといけませんね」
 中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)は、降り立ったパイシーズ・コープスに身構える。パイシーズ・コープス達も、ケルベロスを認識したのかそれぞれの武器を構えた。
「確かに個々には強いけど、死神に竜牙兵と所詮は偽りの協力、ケルベロスの真の連携の力で勝つみたいな感じでさ。サルベージ元がデウスエクスなら余計な気遣いは無用だね、3枚におろして差し上げようかね、うお(座)だけに?」
 三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)のボケに、パイシーズ・コープスは付き合わない。そのネタを合図に動こうとしたパイシーズ・コープス達の前へ、ウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)が踏み出していた。
「一番槍は貰ッタ」
 前に出るパイシーズ・コープスαに合わせ、鉄の爪でウォリアは切り裂いた。


 手応えはあった。ウォリアの俊迅爪は、その高速の一閃により確かにパイシーズ・コープスαの一体を捉えた――そのはずだった。
「カカ!」
 だが、パイシーズ・コープスαは笑う。ウォリアが駆け抜けようとするのを、パイシーズ・コープスγが許さなかった。放たれるオーラの弾丸、気咬弾が真横から着弾する。
「――ッ!?」
 裂帛の闘気を右腕に集中させ、ウォリアは紙一重で受け止めた。しかし、威力に体が浮かされ――直後、三体のパイシーズ・コープスαが魚座のオーラをケルベロス達へと解き放った。
「冗談だったのに!?」
 千尋は愕然とするが、パイシーズ・コープスα達も返す言葉もないだろう。まさか、あんな冗談を言われる事を念頭に置いて、剣に魚座を宿したり誰がするものか。
 ドォ! という鈍い炸裂音に続き、パイシーズ・コープスβが鎌をウォリアに向かって投擲する。それを前に出て弾いたのは、晟だ。
「集中攻撃か。確かに、連携してくるようだ」
 一撃が重く、そして鋭い――それでも、晟は弾き返した。
「なら、こっちもってぇもんですよ!」
 物九郎がザ・レフトハンドを頭上に掲げる。「招き猫の左手」に纏わる霊威を補強する左腕専用ガントレットから、黒太陽が具現化。パイシーズ・コープスα達を、絶望の黒光を照射していった。
 それに合わせ、晟がブレイブマインの爆発で前衛を飲み込み、ボクスドラゴンのラグナルは属性インストールによってウォリアの傷を癒やした。そして、爆発の中を白が駆け抜ける!
「百火、動きを止めろ!」
 白がそう言った刹那、ビハインドの一之瀬・百火が百火の両腕に纏った鎖を無数に放ちパイシーズ・コープスαの動きを四つん這いで拘束。
「噛み砕け、咬龍の牙!」
 ギシ、とパイシーズ・コープスαが体を鎖を軋ませた直後、手刀の構えを取った白が魂魄を集束――巨大な戦斧の形状となった手刀が、パイシーズ・コープスαの頸に振り下ろされた。
 白の降魂龍牙拳【咬龍】(コウコンリュウガケン コウリュウ)を受けて、強引にパイシーズ・コープスαが立ち上がる。そこへ、竜矢が轟竜砲の榴弾を叩き込んだ。
「今です!」
 竜矢の声を受けて、デレクはリボルバー銃へ右手を伸ばし――その瞬間に、銃声が鳴り引いていた。
「まず鬱陶しい盾役からだ」
 ガガガン! と無数の銃声が長い一発の音に聞こえる程の早打ち、デレクのクイックドロウがパイシーズ・コープスαに着弾していく。だが、パイシーズ・コープスα達は構わず前進した。
「まったく、硬いねぇ連中は」
「文字通り盾って事やろうね」
 千尋がケルベロスチェインを操り鎖で魔法陣を描き、湖満は小さな籠手を振るい祭壇から霊力を帯びた紙兵を散布する。千尋のサークリットチェインと湖満の紙兵散布で守りを固めた前衛が、身構えた。
「五体も揃って単体としての戦力は我等個々より格上。戦士ならばこれで燃えぬわけがナイ」
 左側に瞳を燃え上がらせ、ウォリアが言い捨てる。それに、物九郎は笑っていった。
「死神竜牙兵ねェ。倒しても蘇る? なら何度だってブチのめしてやりまさァ! ブチネコだけに!」
「そうやね」
 湖満もにこやかに、しかし背筋が凍りつく殺気と共に告げた。
「皆残らず地に還ってね」
 真っ向から、全力で――ケルベロスとパイシーズ・コープスが、再び激突した。


 背後で一般人が逃げていく気配を感じながら、ケルベロス達は死神竜牙兵達と鎬を削る。パイシーズ・コープスαの剣と、晟が真っ向から打ち合っていた。
「ここから先には行かせない」
 晟が振るう蒼竜之錨鎚【溟】と、パイシーズ・コープスαの剣が火花を散らす。速度で勝るパイシーズ・コープスαの剣が押しきれないのは、晟の腕力があるからだ。速さを重さで拮抗する――その拮抗を破ったのは、晟のドラゴンブレスだ。
 ゴォ! と炎が視界を埋め尽くす。パイシーズ・コープスαが、焼かれながら前に出た。しかし、既にそこには晟の姿はない。
「――これが連携じゃ」
 ボッ、と炎を突っ切って現われたのは、白だ。百火の緑鎖によって押され加速した白が、晟が横へ飛んだ瞬間高速で入れ替わったのだ。白の強い踏み込みからの戦術超鋼拳が、パイシーズ・コープスαを吹き飛ばした。
「ウォリア殿!」
 白の声に、ウォリアがその顔面が焔に包まれる!
「天に輝く七の星を見よ……オマエに死を告げる赫赫たる星こそが我……流星を騙る者共よ、地獄に堕ちる覚悟はできているな? ……さぁ、オレ/我がオマエを此処で殺す……終焉の時は、来たれり」
 ウォリアの足元から、四方八方に炎が迸る。そしれ立ち上る無数の火柱――そこから現れるのは、ウォリアの分身達だ。
「……来たれ星の思念、我が意、異界より呼び寄せられし竜の影法師よ………神魔霊獣、聖邪主眷!!! 総て纏めて……いざ尽く絶滅するが好いッ!」
 太刀を、槍を、弓を、鎚を――七体の分身が振るう武具の数々。ウォリアの戦神竜皇・翔崇星影ノ断(センシンリュウオウ・ショウスウセイエイ)が、パイシーズ・コープスαを粉砕した。
「――ッ」
「どこを見てるんで?」
 仲間が倒れた、その動揺の隙を物九郎は見逃さない。胸部を狙った前蹴り、物九郎のスターゲイザーがパイシーズ・コープスαの胸骨を砕いた。一歩下がったパイシーズ・コープスαの側頭部を、即座に跳んだ竜矢の回し蹴りが蹴り抜く!
「お願いします」
「おう」
 パイシーズ・コープスαが竜矢の旋刃脚に、吹き飛ばされた。そこへデレクが轟竜砲を放ち――それを、もう一体のパイシーズ・コープスαが庇う。
「まだ、終わって――」
 湖満が滑るような足取りで、吹き飛ばされたパイシーズ・コープスαを追った。居合の一閃から放たれる湖満の一撃が、パイシーズ・コープスαに届く――その寸前に、パイシーズ・コープスγの気力溜めがパイシーズ・コープスαを回復させた。
「――届かへんね」
 確かに切り裂いた、届くはずだった。しかし、デレクの轟竜砲を庇われ、パイシーズ・コープスγに回復された。それで届かない、湖満は途中で気づいても手を止めなかったのは着実に削るためだ。
「大丈夫、こっちが勝ってるよ」
 千尋がメディカルレインを降らせ、ラグナルが属性インストールで回復をフォローする。パイシーズ・コープス側も体勢を立て直すのを見て、竜矢は呼吸を整えた。
(「連携する敵……なるほど、厄介です」)
 連携とは、己の役目を果たすということ。逆を言えば、役目以外は仲間に任せる――あるいは、託すという事だ。全体で個に勝てないとしても、力を合わせて総和で勝つ。それが連携の基本にして、全てだ。
 だからこそ、個の力で上回る相手に連携を取られるのは厄介極まりない。だが、ケルベロスは知っている。他に何に劣ろうと、力を合わせるという意味において、ケルベロスは敵を超える経験値があるのだ、と。
 ゆえに、連携を取ったパイシーズ・コープスが遅れを取る。一日の長は、ケルベロス達に確かに味方していた。
「――ッ!!」
 パイシーズ・コープスαが、剣を振り上げて前に出る。それを蒼竜之錨鎚【溟】で真っ向から受け止め、晟は前進した。
「みんな!」
 晟の声に応えたのは、ウォリアだ。その右腕を地獄の炎に包み、豪快な殴打でパイシーズ・コープスαを上空へ跳ね上げる。
「やレ!!」
 宙を舞ったパイシーズ・コープスαへ、晟とラグナル、竜矢が迫った。
「砕き刻むは我が雷刃。雷鳴と共にその肉叢を穿たん!」
「我が身に宿る炎よ!今閃光となって敵を焼き尽くせ! シューティングレイ! ブラスター!」
 ラグナルのタックルと晟の蒼雷を纏った竜頭の如き得物から放たれる超高速の突きが下から、竜矢の牙の隙間からあふれ出すほどの炎を蓄えたプラズマ化した青い熱線が上から――パイシーズ・コープスαを電撃が撃ち抜き、燃え尽きた。
 その刹那、竜矢へとパイシーズ・コープスβの鎌の一閃が迫る。竜矢は気付きながら、動かない。理由は二つ、一つは限界まで引きつけるため。もう一つは――仲間を信じていたからだ。
「まったく放っておけんなぁ」
 白がその鎌を、地面に突き立てた如意棒で受け止める! そして、白が如意棒を支えに横回転し肘打ちで、百火が緑鎖によるビハインドアタックで、パイシーズ・コープスβを吹き飛ばした。
 吹き飛ぶ先――そこに待ち受けていたのは、物九郎とデレクだ。
「ナインライヴス・エミュドライブ! 『コピーキャット・アレンジ』!」
「刻んでやるよ、テメェの鎮魂歌をよォ!」
 物九郎のパイシーズ・コープスβの鎌をコピーした右腕と、デレクの身体に酸素を溜め込んだ無慈悲なまでの無酸素連撃が同時に繰り出される。一瞬で九回を数えた鎌の斬撃と、唸り軋みを上げるドラゴニックハンマーが、パイシーズ・コープスβを細切れにして消し飛ばしていった。
 残るは、パイシーズ・コープスγ一体。パイシーズ・コープスγが、その禍々しいオーラを拳に込めて、音を超える速度で打ち放った。そのハウリングフィストを、真っ向から湖満は籠手で払って受け流した。
 拳を弾かれた体勢で、パイシーズ・コープスγが動きを止める。千尋が地面を蹴り、湖満はたおやかに微笑んで、言った。
「『真の目的』が何かは知らんけど、見過ごせへんね……さ、逝ってらっしゃい」
「両手の刀だけがアタシの剣じゃないんだよねぇ―――三本目の刃、受けてみるかい?」
 湖満の冷気を宿した居合が横一文字に、千尋の右腕部に搭載されたレーザーブレードが手刀の要領で縦一文字に、パイシーズ・コープスγを断ち切った。


 戦いは、終わった。戦いが終わった事に避難した一般人達も気づいたのだろう、遠くで歓声が聞こえた。
「……死体は、残りませんか」
 小さくこぼし、竜矢はため息をこぼす。竜矢はデウスエクスの体であっても、死体を利用する死神の行いには良い感情を抱いていなかった。まずは、それを止められた事を良かったと思うべきか。
「まずは、直さんとなぁ」
 湖満が周囲の荒れ果てた惨状を見回し、笑みをこぼした。少なくとも、これを引き起こせる暴力が人の命に向かっていれば、間違いなく多くの命が失われていただろう。
「えっ自己ヒールだけだと復興ヒールできないって? じゃあアタシのケルベロスチェイン貸すから手伝っておくれよ。戦闘後なら受け渡しても問題ないだろ……ダメかい?」
 千尋のそんな声を聞きながら、晟はようやく一息ついた。それに、白が小さく笑う。
「ようやく安心したようじゃな」
「ああ」
 ヒールが終わり、人々がそこに戻ってくる。その光景を見て、初めて実感できるのだ。人々を救い、確かに敵に勝ったのだ、と……。

作者:波多野志郎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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