死竜来襲

作者:紫村雪乃


 遥か高みの蒼空に異様なものがうかんでいる。
 白磁の肌の美貌の少女。天使か――否。
 美少女からは魂すら凍りつきそうになる死の香りが漂い出していた。『先見の死神』プロノエー。その名のとおり、彼女は死神だったのである。
「お待ちしていました、ジエストル殿」
 可憐な美貌を向け、プロノエーは口を開いた。その視線の先、二体の竜の姿がある。
「此度の贄となるのは、そのドラゴンでしょうか」
「そうだ」
 プロノエーの問いに黒の竜がうなずいた。ジエストルである。
 ジエストルが引き連れている二体目は、定命化により弱りきった竜であった。既に死も近いその竜へ視線を向けると、ジエストルはいった。
「お主の持つ魔杖と死神の力で、この者の定命化を消し去ってもらいたい」
「わかりました」
 プロノエーはそっと頷いた。そして瀕死の竜を冷たい目で見やった。すると、その瀕死の竜は浅い息を零しながら、薄く目を開いた。
「……既に心は決している。残り少ないわが命をドラゴン種族の勝利の礎としたい」
「良きご覚悟です。では、これより、定命化に侵されし肉体の強制的なサルベージを行います。あなたという存在は消え去り、残されるのはただの抜け殻にすぎません。よろしいですね?」
 あくまで冷たく、そして優しく、プロノエーは問うた。冷徹な確認のためであるが、竜は躊躇わなかった。
「やってくれ」
 次の瞬間、雲が光に照らされた。プロノエーの儀式によって現れた魔法陣が、眩く光っていたのだ。
「オオオオオ」
 定命化した竜は苦悶しつつ、魔法陣の中で溶け崩れていった。代わりに現れたのは、死の力に彩られた異形の竜である。──『獄混死龍ノゥテウーム』であった。
「サルベージは成功。この獄混死龍ノゥテウームに定命化部分は残っておりません。ですが……」
「わかっている。この獄混死龍ノゥテウームはすぐに戦場に送ろう。その代わり、完成体の研究は急いでもらうぞ」
 重々しい声でジエストルはいった。


「兵庫県神戸市にドラゴンである『獄混死龍ノゥテウーム』の襲撃があることが予知されました」
 焦りと恐怖の滲む目でセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はいった。
「襲撃時間は何時?」
 瑞々しい半裸の姿を惜しげもなくさらした美しい娘が問うた。これはサキュバスで、名を和泉・香蓮(サキュバスの鹵獲術士・en0013)という。
「まもなくです。ですから市民の避難は間に合いません。このままでは多くの死傷者が出てしまうでしょう」
「急いでヘリオンで迎撃地点に向かわないといけないということね。そして獄混死龍ノゥテウームの撃破する」
 香蓮がいうと、セリカは頷いた。
「はい。その獄混死龍ノゥテウームですが、知性はありません。ドラゴンとしての戦闘力も低めです。けれど、やはりドラゴンである事には違いはありません。間違いなく強敵であるので、全力で迎撃を行ってください。なお」
 セリカは驚くべき事実を付け加えた。敵は戦闘開始後八分ほどで自壊して死亡する、と。つまりは撃破するか、或いは時間まで耐えきれば勝利となるのだ。
「自壊する理由は不明です。あるいはドラゴン勢力の実験体であるのかもしれませんが……。とにかく敵にドラゴン。僅か八分でも多くの人を虐殺するには容易いことでしょう」
「なるほどね」
 香蓮は薄く微笑んだ。
「時間より先にこちらが敗北してしまえば被害が出るのは免れない。油断は禁物ということね」
「そうです。敵はケルベロスが戦闘を仕掛ければ、ケルベロスとの戦闘を最優先するでしょう。けれどケルベロスが脅威にならないと思えば、市街地の襲撃を行う危険性があります。注意してください」
 セリカはいった。


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
楡金・澄華(氷刃・e01056)
リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)
小柳・瑠奈(暴龍・e31095)
之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)

■リプレイ


 ドアが開き、強風が吹き込んできた。翻ったのは雪のように白い純白の髪だ。
 旋回を始めた機上から、その娘は下方の都市を見下ろした。
 美しい娘だ。秀麗な顔立ちは女神を思わせる。オラトリオなのである。名をメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)といった。
「あれが……獄混死龍ノゥテウーム……」
 メルリディは重い声をもらした。見えるのは異形の骸竜。その巨影の足元では人々が逃げ惑っている。
「いよいよドラゴンたちも後がなくなってきたのかな。まずはノゥテウームを倒して、それから手掛かりを探すよ」
「八分」
 つぶやくと、之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)ははだけそうになる着物の裾をおさえながら、スマートフォンを手にした。
 獄混死龍ノゥテウームが爆死するまで八分。本来の戦闘力はないとしても、やはり龍は龍。戦闘以外のことをする余裕などケルベロス側にはない、と七歳の可憐な少女は読んでいた。だから、せめてヘリオン機内にいる間に現地の警察に電話で情報を渡そうとしているのだ。
 と、シートに座していた女が瞑目した。青く長い神を背に流した冷然たる美貌の女だ。二十歳ほどだが、どこか武術の達人にみられるような落ち着きがあった。名をリィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)といった。
 触れていた武器飾りのサファイアの珠から手をはなすと、リィンは髪を結っていたシュシュを解いた。それから改めてポニーテールに結い直した。
「嘗て天災に見舞われながらもこの街は復興を果たした。その原動力となった人々の営みと想い、けして壊させはしない」
 開いたリィンの目がぎらりと光った。刃の鋭さを秘めた目だ。
「ドラゴン、か」
 タラップに足をかけて螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)は吐き捨てた。リィンと同じく冷然たる若者だ。そして、リィンと同じように目に鋭い光をためている。怒りと憎悪の光だ。かつて、彼の故郷はドラゴンによって滅ぼされたのであった。
「貴様等は全て叩き潰す…必ずだッ!」
 敵の直上へ到達した瞬間、セインは躊躇わず空へ跳んだ。
 およそ五十メートルもの自由落下。風に髪を翻し、セインはノゥテウームに迫った。そして流星の重さを煌くつま先にやどし、セインは蹴りを放った。
 ドォン。
 爆発にも似た轟音と衝撃が空間を震わせた。死龍の巨躯がわずかに揺らぐ。恐るべきセインの蹴りの威力であった。
 蹴りの反動を利用し、空で旋転。セインは地に降り立った。
「これ以上何も奪わせはしない…ドラゴン共ッ…!」
 セインが叫んだ。死龍はこたえない。が、倒すべき敵とはみとめたようだ。
 漂う焔に零れる冷気。かつて龍であったことが窺えぬ程、それは死の匂いに満ちた異形であった。が――。
「もうすぐ死んじゃう、ぼろぼろのドラゴンさん。なんだがとっても綺麗なの。貴方の最期の人に、ふわり、なりたいなーって思うの♪」
 吐き気のしそうなほど不気味な異形を前に、少女は微笑んだ。天使のもののようなそれには、しかし、どこか艶があった。
 盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)という名の少女であるのだが、死の匂いを嗅ぎ、興奮しているのである。何を考えているのか、良くわからぬ少女であった。
 ストップウォッチをセットすると、ふわりは鎖を噴出させた。地を削りながら疾ったそれは輝く紋様を描いた。味方を守護する魔法陣だ。
「死して尚戦う竜か」
 コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)は浅黒い顔をむけ、 重い声をもらした。余人は知らず、賢者を名乗るだけあって彼は感じ取っている。眼前の死龍がただの死にゆく存在でないことを。
「虚ろな器に恐るべき覚悟を感じるぞ」
「とはいえ」
 彫りの深い端麗な美貌の少女が口を開いた。浅黒い肌に綺麗な白髪が映えている。すらりとした肢体は大人びており、モデル並みといって良いだろう。
 少女――小柳・瑠奈(暴龍・e31095)は冷笑を口元に刻んだ。
「八分間、生死の線を跨いで踊る熱いダンスと来ればお相手するのに厭はないけれども、肝心の殿方に心が無いのは燃えないね。だから、制限時間までのお付き合いはナシだ。還る場所に還って…オヤスミ」
「では、竜退治といこうか」
 楡金・澄華(氷刃・e01056)はいった。澄んだ黒瞳には何の表情も浮かんではいない。
 なにも感じてはいないのではなかった。むしろ、怯えている。
 そのことを澄華は恥ずかしいことではないと考えていた。強大な敵を前にして怯えぬ者などいるだろうか。怯えて、当然。だから用心もするし、己を高めてもいく。成長とは、より高い壁を乗り越えることであるからだ。
 怯えを覚えぬ者は、時として驕りを抱く。それは歴史上最も強力であった戦闘集団――忍びが戒めねばならぬことであった。
 そう。澄華こそ軍神と呼ばれた上杉謙信が子飼いとしていた軒猿の末裔なのであった。
 怯えを刃の下に。静かに澄華は怒りを身裡にためた。
 次の瞬間だ。噴出した鮮血が狭霧のように澄華にまとわりつき、不気味な紋様を描き出した。


「待ってよ」
 動き出そうとした澄華をメリルディはとめた。そしてふわりと同じく魔法陣を鎖で描いた。
「これで少しは動きやすくなるはずだよ」
「助かる」
 薄く笑みを浮かべた瑠奈は死龍を見すえた。凄絶の殺気に地の礫がすうと浮かび上がる。
 瑠奈は最初から全力で攻撃するつもりであった。制限時間まで待つのではなく、倒しにいくのである。待つより攻める方が瑠奈の性には合っていた。
「ぬんっ」
 瑠奈は殺気を解き放った。それは稲妻と変じ、死龍を撃った。声を上げた死龍が軋む首を下げ、番犬達に目を向ける。その視線が後衛にまで及ぶ前に小さな影が飛鳥のように空に舞い上がった。しおんだ。
「多くの人命がかかっています。最善を尽くさせていただきます」
 高々度からしおんは舞い降りた。七色の光の尾をひきながら急降下、蹴りを死龍に叩き込む。
 オオオ。
 地を揺るがすほどの咆哮をあげ、死龍は目を舞い降りたしおんにむけた。それは、まさにしおんの狙い通りだ。死龍はしおんを狙って紅蓮の炎を放った。
 それは視界を朱に染めるほど強力なもの。紅蓮の炎に包まれ、しおんの皮膚は炭化し、艶やかな髪は燃え上がった。
「さすがはドラゴン。器にしては、やる」
 コクマが地を蹴った。身を旋風のごとく旋回させて死龍を襲う。叩きつけたのは、彼の身よりも巨大で無骨な鉄塊のごとき剣――スルードゲルミルであった。
 飛び散る黒光。それははじかれた死龍の鱗であった。
「オオオ」
 身をよじらせながら、しかし死龍はなおも猛攻を止めることはせず、氷嵐を吹き荒れさせた。が、その中にあってもしおんは退かず、耐え抜いている。
 それは、やはりしおんの狙いであったから。自分に攻撃の矛先がむいている間は仲間は無傷であるのだ。それだけの覚悟を、七歳の少女がもっている。驚くべきことであった。
「しおん、見上げたものだ」
 リィンほどの女の口から感嘆の声がもれた。その眼前、まだしおんは立っている。それは二重の防御のおかげでもあった。
「異形の姿に変わり果てた哀れなその魂よ。我ら地獄の番犬が真の死と言う救済を与えん!」
 リィンは馳せた。その手にあるのは二振りの刃である。
 宿りし星座は蟹座。それを表すように一剣は蟹の鋏を思わす二枚刃であった。もう一剣は女には手に余る程の巨剣で、蟹座のシンボルか刻まれている。
 リィンの剣が舞った。天才の剣はさしもの死龍も躱しようもなく、鋼の硬度をもつ鱗ごとざっくりと切り裂かれる。
 足への一撃。たまらず死龍をふらついた。


 この時、足をふらつかせた者がもう一人いた。しおんだ。弱体化しているとはいえ、敵は龍。さすがに連続して攻撃をうけるのは過酷であった。
「わたしが。しおんのことは任せてよ。――ケルス」
 メリルディの右腕にからみついた攻性植物に花が咲いた。可憐な紫紅の花弁。アルメリアだ。
 道化師の涙。思い出を想い出を共有させることにより傷を癒す、メリルディにしか成し得ぬ業であった。しおんの傷ついた肉体が分子レベルで修復されていく。
「今度は私に注意をむけてもらうぞ」
 澄華の腰から白光が噴出した。喰霊刀――黒夜叉姫を抜刀したのだ。
「刀たちよ、 私に力を…!」
 澄華の声に反応するように黒夜叉姫が唸りをあげた。秘められた力が解放されたのだ。
「ぬうん」
 黒夜叉姫が大気に光の亀裂を刻んだ。あまにも鋭い斬撃。空間ごと死龍の身体が断ち切れた。黒血をしぶかせ、死龍がよろめく。
「地球人でも、これくらいの威力はだせるのだぞ?」
 澄華が冷たく告げた。次の瞬間だ。笑みをうかべたリィンが右手の人差指を死龍にむけた。
「Bang!」
 死龍からわずかに離れた空間が爆裂した。外したか、とリィンが舌打ちする。
「これならどうだ」
 コクマは真紅の弾丸を放った。地獄の業火を凝縮させた炎弾である。
 死龍はすうと身動ぎした。炎弾が死龍をかすめて過ぎる。
 その時だ。機械音が鳴り響いた。ストップウォッチのアラーム音だ。四分過ぎたのであった。
「残り四分か。……俺の仲間も多くの人々も…これ以上傷つけさせはしない…!」
 一息で肉薄。セイヤは降魔刀『叢雲』の刃を舞わせた。月輪にも似た剣光が正確に死龍の傷を切り広げる。
「ガアッ」
 死龍の骨腕が唸りをあげた。さしものセイヤも躱すこと不可能だ。衝撃に吹き飛ばされたセイヤがビルに激突、建物を崩落させた。
「やるね」
 吹き荒ぶ粉塵の中から声がした。瑠奈だ。
「けれど、そんなリードじゃ私は踊れない」
 嘲るように告げると、瑠奈はステップを踏みつつ接近。巨大な大鎌を一閃させた。デウスエクスですら視認不可能な一撃が死龍の身を切り裂く。
「見えました」
 鋭い呼気とともに、しおんが竹槍を投げた。龍を爆撃機と見立てての攻撃である。龍を屠殺しうるという伝説の一撃が死龍の身を貫いた。


 雷鳴にも似た轟音が響いた。死龍の咆哮である。
「くっ」
 数人のケルベロスが膝をついた。ものすごい衝撃に細胞そのものが破壊されている。
 死龍が歩みだした。いかに攻撃されようと、死龍はさがらない。攻めることしか知らない。故に、ひたすらにケルベロスめがけて一歩一歩と踏み寄ってくる。
「ドラゴンさん、凄いのー」
 目と耳、そして鼻腔から鮮血を滴らせつつ、ふわりは微笑した。範囲攻撃でもこの威力だ。単体にむけての攻撃はどれほどのものなのか。なにも考えていないようで、恐るべき冷静さでふわりは的の力を見極めていたのだった。
「ふわりは皆愛してるの」
 ふわりは血濡れた瞳で仲間を見回した。美しく、恐ろしい顔で。
「だから皆も、ふわりの事を愛して良いの。いっぱい、いっぱい、壊れちゃうくらい激しく愛して欲しいの……」
 ふわりが哀願した。それは――その哀願そのものが詠唱であった。
 ふわりから放散された薄桃色の靄がケルベロスたちを包み込んだ。その瞬間である。ケルベロスたちの血が奔騰した。獣染みた本能が燃え上がり、戦闘能力を向上させる。
「無様に生き恥を晒すデウスエクスめ」
 リィンが死龍を見据えた。その声には怯えの響きは微塵もなかった。代わりにあるのはデウスエクスへの怒りと憎しみである。
 全身から凄絶の殺気を放ちつつ、リィンは冷徹な声音で告げた。
「死に損なったことを後悔させてやるぞ」
 リィンが跳んだ。巨大な死龍よりもなお高く。
 天空に座する巨蟹のように、二振りの剣を手に、リィンは襲いかかった。縦横一文字の斬撃を叩き込む。
 ズウン。
 激烈な剣圧に死龍の足元の地が陥没した。


 骸の喉が震え、死龍の咆哮が轟いた。
 よろめく巨影。その足は道路を踏み抜き、瓦礫と化さしめている。
「よろめくだけで、この始末か」
 コクマはスルードゲルミルを大きく振りかぶった。すると死龍が憤怒の声をあげた。それは、ただの獣じみた敵意。自身がこうなることを、誇り高き龍が予期していたのかは分からない。
「貴様の執念と信念は感じた。だが…貴様らは思い違いをしている。死にたくない。生を繋ぐために全てを尽くすなら…其れこそ地球を愛せばよかったのだ。貴様らのそれは誇りの為に他者を犠牲にする愚行に他ならぬ」
 瞬間、コクマはスルードゲルミルを横一文字に薙ぎつけた。迎え撃った死龍の骨腕が吹き飛ばされる。だ。よろめく死龍に振り下ろした。ランドルフは銀の輝きを纏った拳で一撃。瞳の一つを砕き、眼孔にまで亀裂を入れる。
「見えました」
 鋭い呼気とともに、しおんが竹槍を投げた。龍を爆撃機と見立てての攻撃である。龍を屠殺しうるという伝説の一撃が死龍の身を貫いた。
 刹那である。死龍の目は迫る澄華の姿をとらえた。
 ひょう。
 澄華の刃にやどった無数の怨霊が哭いた。切り裂かれた死龍の目がどす黒く染まる。
「オオン」
 苦悶しつつ、しかし咆哮と共に死龍は残る骨腕を振るった。が、その衝撃が澄華をとらえることはない。眼前へ飛び込んだしおんが自身の体で防いだからだ。
 一体どれほどの覚悟が小さな身体に秘められているのか。爆発したような衝撃にしおんが吹き飛ばされた。
「今、治療をするよ」
 ビルにめり込んだしおんにむかってメリルディがオーラを放った。凝縮され、神気のレベルまで高められたオーラである。瀕死のしおんの身が再生されていった。
「そろそろかな」
 瑠奈が呟いた。すると、ぼろ、死龍から骨の欠片が崩れ落ちた。自壊の兆候だ。が、それで戦いを止める死龍ではない。
「さあ、フリーズで決めるよ」
 どす黒い死をまとわせた大鎌を手に、瑠奈は身を躍らせた。それは死のダンスだ。死龍の首がざっくりと切り裂かれた。が、まだ死龍は倒れない。
「ならば魔龍の双牙で朽ち果てろ…ッ!」
 セイヤが地を蹴った。超高速での機動。衝撃波を残し、セイヤは死龍に迫った。その全身を覆うのは禍々しい漆黒のオーラである。
「おう」
 黒龍の姿をとったオーラをまとわせた拳をセイヤは死龍にぶち込んだ。解放された黒龍のオーラが巨大な顎門を開き、死龍を飲み込む。
「ガアアア」
 死龍が断末魔の咆哮を発した。その身がぼろぼろと崩壊していく。と――。
 オーラではない、実体である巨大な顎門が死龍を飲み込んだ。
「一つ、血の一滴も、ふわりと一緒になるの♪」
 ごくりと死龍を嚥下すると、捕食形態をとった漆黒のスライムがふわりの濡れた股間に吸い込まれていった。


 戦いは終わった。地に死龍の骸はなく、ただ無残な破壊の痕跡のみ残されていた。
 死龍は自爆することなくケルベロスたちに斃された。もし自爆していたなら、さらなる被害が生じていたはずだ。
 かつて天災により破壊された街が、今度はケルベロスたちにより癒されていく。風のごとく流れるのは、リィンの奏でる蘇州二胡の音色だ。
 ――静かに、静かに。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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