その花は美しく

作者:白鳥美鳥

●その花は美しく
 唯花は、飾られた花を見ていた。華道の授業で一番の出来だと褒められた咲枝の生けた花だ。華道は空間を活かす日本ならではの花の生け方。
「やっぱり咲枝ちゃんは上手いなあ。私なんか自分でも酷いと思うよ……」
 そんな唯花に、見慣れない女学生が近づいてきた。見た事も無い彼女に驚く唯花に、彼女は微笑みかける。
「何か悩んでいるのね? 良かったら私に話してくれないかしら?」
 その女学生の言葉に、何故だか唯花は悩みを話し出してしまう。
「このお花、綺麗でしょう? ……私は、頑張っているつもりでも、ごちゃっとしてしまって綺麗にならなくて……」
「身近な人では、どんな人になりたいの?」
「え? やっぱり、この花を生けた咲枝ちゃんかな?」
「そう、だったら、理想の自分になる為に、その理想を奪えば良いのよ」
 唯花の言葉に、女学生はにっこりと微笑む。そして、鍵を唯花に刺した。崩れ落ちるように倒れる唯花。その彼女から、花びらのドレスを着た少女が生れたのだった。

 放課後、咲枝は自ら生けた花に水を足しにやって来た。そんな彼女の前に花びらのドレスを着た少女が襲い掛かって来たのだった。

●ヘリオライダーより
「日本の高校って各高校によって色々な特色ってあるよね?」
 そう言ってから、デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、事件について話し始めた。
「実は日本各地の高校にドリームイーターが出現し始めたんだけど、ロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)が予知した事件が起きてしまったんだ。その学校はお嬢様学校で華道の授業があるらしい。それが事件の発端になったみたいなんだよ。ドリームイーターに襲われた被害者から産み出されたドリームイーターは強力な力を持つんだけど、この夢の元である『理想の自分への夢』が弱まる様な説得が出来れば弱体化させる事が可能になるんだ。例えば、今のままでも魅力がある、とかそういう感じかな? ただ、このドリームイーターは被害者である唯花の心とも繋がっているんだ。だから、説得の仕方によっては、ドリームイーターを倒しても自信を失ってしまったり、夢を失ってしまう事もある。だから、説得に関しては唯花の心の事も考えてあげないといけない。上手くフォローしつつ、説得して貰えると嬉しい」
 デュアルは状況について説明する。
「場所は放課後の教室だ。ドリームイーターは花びらの様なドレスを着た女の子の姿をしている。使ってくる攻撃も花にちなんだものみたいだ。それから、みんなが来ればドリームイーターは咲枝から、みんなの方に標的が移る。だから、咲枝の救出はそんなに難しくないんだ。だから、みんなにはドリームイーターと対峙して貰いたい」
 デュアルは最後にケルベロス達に声援を送る。
「夢って、未来に進む為にとても大事だと思うんだ。だから、出来れば、みんなには唯花の未来も守って欲しい。説得は大変だと思うけれど、みんなが唯花の事を思って話しかけてくれれば、きっと彼女に伝わると思う。みんななら出来るって信じているよ!」


参加者
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
ゼルガディス・グレイヴォード(白馬師団平団員・e02880)
九鬼・一歌(戦人形・e07469)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
ユノー・ソスピタ(守護者・e44852)
ロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)

■リプレイ

●その花は美しく
「きゃああっ、何!?」
 花びらドレスのドリームイーターに驚く咲枝。
「こちらへ」
 九鬼・一歌(戦人形・e07469)は、そっと咲枝の手を取る。
「我々はケルベロスです。あなたたち二人を助けに来ました。ここは危険なので、一緒に避難しましょう」
 咲枝に接触テレパスを使って状況を伝える一歌。この方が言葉で伝えるより確実だ。それに対して、咲枝は頷いた。一歌は彼女を避難させつつ、彼女の制服のポケットにこっそりとケルベロスカードを忍ばせる。必要な時に使って貰えれば、そう思って。
 一方、他のケルベロス達はドリームイーターと対峙していた。
「一つ、聞いても宜しいでしょうか?」
 そう、ドリームイーターに問いかけるのはソールロッド・エギル(々・e45970)。
「ここは部室ですよね? 唯花さんと咲枝さんの生けたお花を見せて頂いても宜しいでしょうか?」
「……それが何か大事なの?」
「ええ」
 にっこりと微笑むソールロッドの言葉に、ドリームイーターは考える。そもそも、このドリームイーターは唯花の憧れから生まれたもので、心は唯花とも繋がっている。だから、唯花の生けた花にも興味を持って貰えるのは少し嬉しかったりするのだ。
「……まあ、いいわよ。こっち」
 ドリームイーターはケルベロス達を何点もの生け花が飾られている場所に案内する。
「これが唯花で、こっちが咲枝ちゃんのね」
 その中から、ドリームイーターは唯花と咲枝の生け花を教える。どちらも秋の定番である菊をメインに扱ったもので、花も本数も同じ。しかし、他の作品も含め、どれも個々の個性を表しているのか、どれも趣は異なっていた。確かに咲枝の生け花は他の作品に比べて群を抜いて綺麗だが、唯花の生け花も綺麗だと思う。
「私にはどちらも綺麗な花に観えますが唯花さんには違いが判るのですね。華道を嗜まれる方としての審美眼がある証拠かな」
「そ、そう?」
 ソールロッドの言葉に、ドリームイーターは少し照れたような表情をする。
「僕は今の唯花さんの作品も十分魅力的だと思いますが……」
 同様に素直な感想を伝えるロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)の言葉にも、やはり照れている。第三者に認められる事が余りなかったのだろうか。嬉しそうにしている。それを見ていると、なんだかこのドリームイーターが花びらドレスである事も加えて可愛らしく見えてくるのは何故だろう。同じ世界で切磋琢磨している彼女達の中で、第三者の言葉が入ってくる事は無かったのかもしれない。生け花を『認めて貰える』、『評価して貰える』事が純粋に嬉しいのだろう。
 そんなドリームイーターにゼルガディス・グレイヴォード(白馬師団平団員・e02880)は、言葉を投げかける。
「『花を上手に生けて称賛される自分』を求めるより、『花が好きで、花の美しさを自分の手で表現したい』と願うなら、真摯に努力を重ねていってもらえれば、と個人的には思う」
「称賛されたい訳じゃない。大好きな花をね、もっと美しくしてあげたいの。でも、私の手では……これでも努力はしているんだよ? でも……」
「活けた花に納得がいかないのは、あなたの心に志、あなたの目に向上心があるから。焦らず学べば、いつか素敵なお花が活けられるはず」
 千手・明子(火焔の天稟・e02471)は寺育ち。盛り花等、華道の事も一通り経験している。だからこそ、この気持ちを伝えたい。
「向上心……」
「思うに、お前さんの理想はこんな小さくない。花が好きで、美しく見せたいんだろ? 確かに、華道は立派な手段の一つだ。だけど逆に、数ある手段の一つでしかない。花を育てたことはあるか? 描いたことは、撮ったことはあるか? 華道に拘る必要はどこにもない。他に手段は色々ある」
 アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)は、また別の提案を投げかけてくる。花を愛するのならば、華道に拘る必要は無い筈だ。だけど、それでも華道に拘るのならば。
「センスが無いと嘆くなら、それを補う知識を求めれば良いのではなかろうか。花の色や種類、そして空間という場を、生け花だけでなく、写真や絵画、彫刻等これまでとは違う視点で色々と学んでみてはいかがだろう?」
 ゼルガディスは、アジサイの提案のものや他のもの、多くの物の視点を持つ事を薦めてみる。
「……私はお花も華道も好き。だけど、華道を投げ出したくはない。……でも、他のものを見て勉強するのは大事……だよね」
 明子、アジサイ、ゼルガディスの言葉に、ドリームイーターは頷くように聞いている。
「そうですね、憧れの咲枝さんの作品をもっとじっくり観察してみるというのはどうでしょう? どこがどうだから上手、とか、なんとなくでもあると思います。そうして得た情報を元に試行錯誤し、自分が持っている魅力をもっと引き出してみませんか」
「……咲枝ちゃんの上手い所……さっき言って貰った事も魅力の引出し、だよね?」
 ロスティの言葉に、ドリームイーターは頷く。
「唯花さんには唯花さんの、咲枝さんには咲枝さんの歩むスピードがある。華道は奥深いと聞く。まだまだ学び始めたばかりのはずだ。唯花さんも一歩一歩進めばいいと思う」
 ユノー・ソスピタ(守護者・e44852)は、そう言って誇り高く微笑む。
「少しずつでも自分の力で進めば誇れるはずだぞ。少なくとも私は尊敬する」
 死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)も、ドリームイーターに言葉を投げかける。
「こういう時には初心を思い出すと良いと聞きます。まだ慌てるような時間じゃありません……。落ち着いて一本活けましょう」
「一歌に花のことは分かりませんが、それが華道という道であるのなら、続けていくことに意味があると思います。この事件を一緒に乗り越え、いつか唯花さんだけが作れる花の姿を皆に見せてください」
「あなたがあなたのペースで上達するのを、花はきっと待っていてくれるはずよ」
 一歌と明子も言葉を重ねる。そして、最後にソールロッドが微笑んだ。
「芸事とはその人ならではの色が出るもの。客観的に技巧を評される事もあれど、心はそれだけでは、ない。……私はこの作品、好きですよ」
 ケルベロス達の言葉を聞いたドリームイーターは、泣きそうな顔で微笑んだ。
「あのね、みんなの言葉、唯花にも伝わっているよ。可能性を広げる事も、自分のペースでいく事も……花が好きで……もっと頑張ろうって思った事も。唯花、良かったね。……でも、私はドリームイーター。優しい言葉をくれたあなた達と……戦わなきゃ、ね」
 そして、花びらが舞い踊った。

●花びらドレスのドリームイーター
「あきら」
「ええ」
 アジサイと明子はアイコンタクトを取り、頷きあう。そして、アジサイは黒砕という名のルーンアックスを握りしめ、ルーンを発動させて光り輝く呪力と共にドリームイーターに斬りつけると、間髪入れずに明子の輝きを伴う重い蹴りが放たれた。信頼している者同士、その息の合い方はぴったりだ。
「闘者強きを求めよ、武の足を風は導く。陰踏む影も踊らんと」
 ソールロッドは透明度の高い白き剣を生成し、風の妖精の導きと共にドリームイーターを斬りつける。その間に、刃蓙理は紙兵達をユノー達に放ち、護りの力を高めていった。
「願うは結氷…… 緩やかに侵蝕せよ」
 ゼルガディスは凍気の魔力を纏わせると、ドリームイーターに突き刺す。
「混沌と地獄の力で……悪い効果を防ぎます!」
 ロスティは混沌の水と地獄の炎による癒しの力を刃蓙理へと送った。
「どんな形で生れて来たのであれ、私は戦うわ。戦わなくちゃ」
 ドリームイーターはドレスを揺らめかせると花びらを舞い飛ばし、まずは攻撃力の要であるアジサイを狙う。だが、その攻撃をユノーが受け止めた。
「大丈夫か?」
「ああ、助かった。ソスピタ」
 ユノーの言葉にアジサイが感謝の言葉を返す。
「直ぐに回復します」
 一歌はユノーに対し、二本指で五芒星を切るようなイメージで剣形のルーンを描く。そして、回復と共にユノーの傷を癒していった。
「神々の女王よ、勇壮なる戦士たちに祝福を!」
 ユノーに呼応して天から優しい光が明子達に降り注ぎ、護りの力を高めていく。
 ドリームイーターが次に取り出したるは一輪の薔薇。それを、今度は回復の要である一歌に向かって放つが、それはロスティが庇った。
「大丈夫ですか?」
「ありがとうございます」
 無表情ではあるが、一歌の言葉を聞き、ロスティは少し安心した笑みを浮かべた。
 刃蓙理は両腕でドリームイーターを挟む様に殴りつける。更に畳み掛けるようにソールロッドが急所を狙って、ゼルガディスが硬化した爪で重い一撃を与えた。
「これからも唯花と咲枝がお花を愛していけますように……」
「消えて貰おう」
 まずは明子がドリームイーターの急所を鋭く突く。そこにアジサイの、敵の動きを極限まで見極めた上で放つ一撃が放たれ、ドリームイーターは花びらとなって消えていく。その姿は不思議と綺麗に見えたのだった。

●華道とは
 まずは部室のヒールをして回る。どのケルベロス達も、生け花等の作品に攻撃が当たらない様に気を付けていたので、幸い、生け花への被害は少なかったが、机等はかなり壊れてしまっていて、それのヒールに追われる。また、部室で倒れていた唯花も見つけ出し、刃蓙理、ユノー、ロスティが中心になってヒールを施す。一方で、一歌は咲枝を迎えに行き、彼女は部室に連れ戻す途中で今回の事件の事柄を聞くことになった。
「……ごめんなさい、咲枝ちゃん、ケルベロスの皆さん。私がもっとしっかりしていたら……」
 唯花は俯き気味に謝る。ドリームイーターにかけた言葉は唯花にも届いている。それは嬉しい気持ちにもなるし、余計に迷惑をかけてしまったというのもあるように感じた。
「こんなことがなければ、お花を大切にする唯花さんだから、自然と素敵なお花が活けられるようになっていたはずです。人の夢を弄んだドリームイーターが悪いんですよ」
 落ち込み気味の唯花に明子が声をかける。そう、花を愛しているだけだったのに、こんな事になってしまったのだ。悪いのは唯花では無い。
「そうよ、唯花ちゃん。私……唯花ちゃんが憧れてくれているなんて知らなかったし、今、こうして、私も唯花ちゃんも無事でいる。私、唯花ちゃんがお花を大好きな気持ちを知っているから、これからも一緒に頑張ろう?」
「咲枝ちゃん……ありがとう」
 そんな二人の様子を温かく見つめる刃蓙理。
「良いご関係ですね……。美しきは……友情かな……」
「ええ、そうですね」
 ロスティも笑顔を浮かべた。
「ところで……可能であれば生け花を教えては貰えないだろうか?」
 そう提案するのはゼルガディス。
「生け花ですか? それでお礼になるのでしたら……」
「はい。一緒に体験して戴けると私も嬉しいです」
「わたくしも盛り花等、華道の経験がありますので……流派の違いやわたくしの経験等もお話出来たらと思います」
 彼の提案に頷く唯花と咲枝。それに華道をやっている明子も話に加わってくる。
「中々出来ない体験だな。私も加わっても良いだろうか?」
 ユノーの言葉を皮切りに他のケルベロス達も加わり、唯花と咲枝、そして明子の生け花講習が始まる。
「まずは、全体の基礎になる花を選ぶんです」
「配置や選択した花によって雰囲気が変わるんですよ」
 生け花の話をする唯花と咲枝の表情はとても明るくて……二人共、本当に花が好きだと良く分かる。この二人の花への愛と、友情が続きますように――。そう願うケルベロス達だった。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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