ミッション破壊作戦~撃ち砕け、骨の城

作者:坂本ピエロギ

「招集に応じてくれて感謝する。先程、グラディウスの充填が完了したとの連絡があった。これよりミッション破壊作戦を発令する」
 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は、静かな口調でそう告げた。
 地球侵略の橋頭保である強襲型魔空回廊を、ヘリオンからの高度降下で強襲する。それがミッション破壊作戦の要諦だ。
「今回の目標は竜牙兵の魔空回廊だ。ドラゴン達が怪しげな龍を生み出している今、少しでも奴らの勢力の拠点を叩いて力を削いでおきたい」
 ミッション破壊作戦で果たすべきは、回廊にダメージを与えて敵領域から離脱する事だ。攻撃を繰り返すことで積み重ねたダメージが一定のレベルを超えれば、敵の回廊そのものを破壊できるだろう。
 回廊の破壊は作戦の成否には影響しないが、成功すれば回廊を有する敵種族との最終決戦勝率が僅かに上昇する。ちなみに、どんなに強固な回廊であっても、最大で10回程度の降下作戦を実施すれば、ほぼ確実に破壊が可能だと王子は付け加えた。
「現在、竜牙兵の魔空回廊は4つ。そのうち3つは無傷の状態で残っているため1回の強襲で回廊を破壊するには困難が伴うかもしれん――さて、次にコレの説明だ」
 そう言って王子が掲げたのは、刃渡り70cmほどの剣だった。
「これがグラディウスだ。回廊を覆う直径30m程のバリアを破って回廊本陣を叩くには、この剣を使う以外にない」
 グラディウスは通常兵器としてこそ使用できないが、所持者の『魂の叫び』に反応して、内部に蓄えたグラビティ・チェインを爆炎や雷光に変えて攻撃する力を持っている。この攻撃は、グラディウスを持たない者に無差別に襲い掛かり、いかなる方法をもっても防ぐ事は出来ないのだ。
「グラディウスは一度の使用でグラビティ・チェインを使い果たしてしまうのだ。再使用には充填期間が必要で、そう多用できる代物ではない。攻撃先は慎重に選ぶようにな」
 魂の叫びによる攻撃が終わると、回廊周辺はグラディウスの発するスモークで覆われる。このスモークが晴れる前に回廊の支配領域を離脱して、初めて作戦は成功となるのだ。
 ただし、魔空回廊の中には飛びぬけて強力な個体が存在し、撤退時にその敵と遭遇する事は避けられないだろうと王子は言う。
「スモークは敵を無力化する力を持っているが、けして万能ではない。持続時間に限りがあるからだ。撤退中に強力な個体と遭遇した場合は、スモークが晴れる前に倒さねばならん。もしも失敗したら、態勢を立て直した精鋭部隊がすぐさま押し寄せてくるだろう」
 そうなれば、降伏か暴走する以外に助かる方法はない。最悪、グラディウスを奪取される恐れがあるので注意せねばならない。
 王子は説明を終えると、ヘリオンの発進準備に取り掛かった。
「ドラゴン勢力の魔手から地球を守れるのはお前達しかいない。お前達の魂の叫びを、どうか奴らに叩きつけてやってくれ。それでは出撃する!」


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)
エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
アトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587)
九重・しづか(海柘榴・e42275)

■リプレイ

●一
 佐賀県鳥栖市。
 熊本滅竜戦の舞台にほど近いこの街は、ドラゴンの配下たる竜牙兵に占領されている。
 倒壊し瓦礫と化した住宅街。青空を黒煙で染めながら炎上する市街地のビル群。その一角に鎮座する強襲型魔空回廊をヘリオンの窓越しに見下ろし、リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)はそっと胸に手を当てて思った。
 ついにこの時が来た、と。
 竜牙兵『ハートスティーラー』。彼の心臓を奪い、運命を狂わせた者。そんな因縁深き敵との戦いに、彼と仲間達はこれから臨もうとしている。
「リューデさん、忘れ物はありませんか?」
 同じ旅団の仲間であるアトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587)の声に、黒い翼のオラトリオは頷きを返す。
「破壊作戦の経験者が多いのは頼もしい。よろしく頼む、アトリ」
「いえいえ! 絶対に勝って帰りましょう!」
 ぐっ、と拳を握って微笑むアトリにリューデが頷くと、降下地点の到着を告げる機内放送が流れた。それを聞いたエヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)は、九重・しづか(海柘榴・e42275)と一緒に静かに立ち上がり、
「リューデ、アトリ、皆。今日はよろしくね」
「九重です。皆さん、よろしく、お願いします……!」
 緊張気味に一礼するしづかの手を引いてハッチへと向かった。
「よし、それじゃあ行くか」
 そう言って村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)もまた、腰をあげた。
 柚月はアトリと同じく、ミッション破壊作戦の経験が豊富なケルベロスだ。必要な準備を手際よく済ませ、慣れた足取りでグラディウスを手にハッチで歩いていく。
 柚月の経験から言って、今回の竜牙兵はかなりの強敵。万一にも敗北する事のないよう、あらゆるケースを想定しきっちり頭に叩き込んである。
 開放されたハッチの前では、降下準備を完了した八代・社(ヴァンガード・e00037)が、
 ――先に行ってるぜ。
 そう合図を送り、さっそくグラディウスを手に降下していく。
 彼の後に続くのは、同じ旅団に所属するレティシア・アークライト(月燈・e22396)と、眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)だ。
「どうぞ皆様、よろしくお願いします」
「みんな頑張ろうね。魔空回廊も竜牙兵も、ぜんぶ叩き潰してやろう!」
 香水の香りを残し、ふわりと飛び立つレティシア。
 手招きするように尻尾をうねらせ、ぴょんと躍り出る戒李。
 しづかは仲間達に先を譲り、小さなアロマペンダントに帰還の誓いを込めた。
 初めて参加する戦闘依頼。冷や汗の滲むしづかの手をエヴァンジェリンは優しく、そして力強く握り返した。
「さあ、行きましょう。友を、仲間を、守るために」
「はい。頑張ります……!」
 お守りのヒンメリを手に微笑むエヴァンジェリンを見上げて頷くしづか。
 二人は一緒に空へ身を躍らせ、眼下の回廊へと降下していった。

●二
 先陣を切った社のグラディウスが、光る楔となって回廊のバリアに突き刺さった。
「おれが今暮らしている街も、過去にドラゴンに襲われた。おれが無力だった頃の話だ」
 ドラゴンと竜牙兵に襲撃され、半壊した街。彼らの餌食となって死んでいった仲間達。
 あの頃から何一つ変わらぬまま罪なき人々を蹂躙し続けるドラゴン種族と、その配下たる竜牙兵達に向けて、社は魂の叫びをグラディウスに込める。
「ドラゴン共は皆殺しだ。その尖兵の竜牙兵共も、その骨の一欠片まで滅却する!」
 回廊から見上げる竜牙兵達の視線を真っ向から受け止め、不敵な笑みで睨み返す社。
 今度はお前達が狩られる側だ。それを行動で示すように、社はバリアの亀裂を更に深く、力の限り突き刺した。
「ブチ抜け、グラディウス! これが死んでいったおれの仲間達の、鎮魂の鐘だ!」
 グラディウスから迸る爆炎と雷光が濁流となって回廊に押し寄せた。為す術なく絶命していく竜牙兵の群れを見下ろして、戒李とレティシアも魂の叫びを込めていく。
「ドラゴンに襲われたボクが住む街……新人だったボクが見たのは、全てが終わった後」
 戒李の脳裏にも、かつての記憶は生々しく刻まれている。血と死と、嘆きだけが残された成れの果てが。
 だからこそ戒李は思う。もう、あんな惨劇を再現させてはいけないと。
「お前たちが尽くを壊すなら、ボク達の持つこの光が、その全てを打ち破ってやる!」
 雷光と爆炎に覆われていく回廊を見据え、レティシアもまた口を開いた。
「番犬の生を選んだ日から、牙を手にしたあの日から、為すべきことは決めています」
 人々の命を、グラビティ・チェインを奪う侵略者を、牙を以て打ち砕くため。
 番犬の力はそのためにあると、レティシアは己が魂の言葉を紡いだ。胸に宿す決意を示すように、両手で握りしめたグラディウスを全力で振り下ろす。
「その下らない目論見諸共、黄泉路へ叩き落として差し上げましょう」
 続けて降下してきたのは、柚月とアトリだ。
「人はお前らのために生きてるんじゃねぇ! ふざけた真似はここで終わりにしてやる!」
 鳥栖を死の街には変えさせない。ドラゴン勢力の進撃は、ここでお終いだ。そんな叫びを込めて、柚月は叫びを迸らせる。
「回廊諸共、竜牙兵を一つ残らずぶっ潰す! この街を救ってみせる!」
「命を、掛け替えのないものを、ただの供物だといいますか……ただ、強くなるために他の命を積み重ねて生きていくと言うのですか……そんな事、絶対に許せない。許さない!!」
 自分の居場所を、幾度となくデウスエクスに蹂躙されたドラゴニアン。故に、その暴虐に抱くアトリの怒りは人一倍強い。
「必ず、必ず、みんなを守ってみせる!!」
 人々の命と尊厳を無碍に扱う竜牙兵に怒りを向け、光剣に魂を込めるアトリ。そこへ降下してきた最後の3人が、一斉に剣を掲げた。
「友達の……リューデの、宿敵。その心臓を奪った牙。彼の苦悩を、アタシは知ってる」
 エヴァンジェリンは思う。この地球上には、彼と同じ境遇の者が大勢いるに違いないと。その悲劇を生み出し続けるハートスティーラーを、絶対に許すわけにはいかないと。
「もう二度と、そんなことはさせない。此処で潰えてもらう……!」
 エヴァンジェリンの隣で、しづかはぎゅっとグラディウスの柄を握りしめた。
 彼女が思うのは、仲間であるロストワードの事だ。
「大切な人に何かある事、笑顔が帰らない事。それがどれほど胸を冷やす苦しいか、知っているから、そんな思いを絶対に、誰かにさせたくないんです」
 静かな、しかし揺るがない強さを秘めた声で、しづかはグラディウスを共鳴させる。
「使命や正義じゃなくてもいい。わたしの思いや力が、誰かの胸を凍らせる痛みをなくせるなら……ロストワード様の思いを果たす力になれるのなら……わたしは何も、恐れません」
 最後の一人となったリューデが、静かに言葉を紡いだ。
「俺の心臓は貴様等に奪われた。嘗てこの胸を満たしていたものは、恐怖だ」
 彼の脳裏に描かれては消えていく、苦しみの日々。辛いなどという言葉ではとうてい表現しきれなかったはずの記憶は、不思議と前より薄れて感じられた。
 代わりに描かれるのは、仲間達の顔。地獄とは違う暖かい炎を、立ち向かう勇気を、己の胸に灯してくれた者達の顔だ。
 リューデは思う。
 もう誰にも、同じ境遇を歩ませたくはない。だから自分は――。
「今此処で、貴様等の全てを撃ち砕く!」
 リューデのグラディウスが、ひときわ強く輝いた。
 太陽のように眩しい灼熱の炎弾が、吸い込まれるように魔空回廊の中枢へ消えていく。
 そして――。
 回廊から生じた光が脈打ちながら膨張し、周囲のすべてを飲み込んだ。
「やったぜ! 俺達はドラゴン軍団にだって負けやしねぇよ!」
 快哉を叫ぶ柚月にリューデは小さく頷き、力を使い果たしたグラディウスを鞘に納めた。
(「……待っていろ。次は貴様だ」)
 胸の炎を静かに昂らせ、降下していくリューデ。
 この日、竜牙兵ハートスティーラーの魔空回廊は永遠にその姿を消した。

●三
 着地すると同時、合流したケルベロス達は駆けだした。
 かき分けるようにスモークを突っ切り、散発的な抵抗を即座に沈黙させ、領域外離脱への最短コースを脇目も振らずに駆けてゆく。
 そして領域との境界まであと半ばに迫った、その時。
 ふいにリューデが、足を止めた。
「……!!」
 聞いたからだ。
 奪われたはずの、心臓の鼓動を。
「……ヤシロ、レティ、皆。来たみたい」
「ええ、そのようですね。現れたことを後悔していただきましょう」
 戒李の促す警戒にレティシアは微笑み、仲間達と共に即座に陣形を組んだ。
 進路の先、スモーク越しに放たれる氷雨のような殺気。やがて、ゆらりと姿を現したのは1体のハートスティーラーだった。剣と盾で武装し、軽鎧を装着した身が放つ威圧感は、ミッションで戦う竜牙兵のそれとは、まるで次元が違う。
「貴様ラ……ハート・バイター様ノタメ集メタ心臓ヲ、ヨクモ!!」
 表情のない、骨格だけの顔。だが、その底知れない怒りは、両眼で爛々と輝く鮮血めいた赤い光が雄弁に物語っている。
「ドラゴン種族ノ栄光ニ泥ヲ塗ッタ野良犬ドモメ! コノ場デ塵殺シテクレル!!」
 ワニのような長細い口を開け、竜牙兵ハートスティーラーは吠えた。
 直後、社の刀光が一閃。
 鞘内の魔力発破で放たれた首狙いの一撃を盾で受け流す竜牙兵。日本刀『缺月』の冷たい光で身体を凍りつかせていく敵に、胸から引きずり出した地獄炎をリューデが掲げる。
「諦めろ。貴様はもう、何も奪えない。そして――もう、逃れられはしない」
 リューデの炎が、幾条もの蔦のように燃える触手となって竜牙兵を絡めとる。苦痛の呻きすら塗り潰すように燃え盛る炎に包まれた敵めがけ、戒李が零式鉄爪で真空波を放つ。
「さあさ、お前にボク達が強いのが意思だけじゃないって教えてあげるよ」
「チッ、邪魔ヲシオッテ!!」
 ハートスティーラーは防御態勢に入って傷を癒すと、空に向かってけたたましい雄叫びをあげた。恐らくは敵発見を知らせる合図だろう。
「煩い応援が来る前に終わらせましょう」
「旅人達への守護をあなたに……!」
 対するケルベロスも負けてはいない。エヴァンジェリンがオウガ粒子で、アトリが翡翠色の鳥に捧げる祈りで、前衛の戦闘力を底上げしていく。
「骨だろうがぶった斬るまで!」
 月光斬の構えを取った柚月が、アスファルトを蹴って突進。竜牙兵はステップでの回避を試みるも、絶妙のタイミングで放たれたしづかのスターゲイザーがそれを封じた。
「逃がしません……!」
「目障リダ小娘!!」
 直撃を受けた竜牙兵はしづかに狙いを定め、腰を落として尾骨での攻撃態勢を取った。
 レティシアは霧のルーン文字を描き、薔薇の香りで社を包み込むと、ウイングキャットのルーチェに視線を送る。
「では、守りはこちらにお任せを」
 言い終えた直後、竜牙兵の一撃がしづかを襲った。その外見からは想像も出来ない速さで迫りくる尾骨を、ルーチェの翼の風を浴びたレティシアが盾となって庇う。
「スモークの中を舞う蝶なんて、冗談にもなりませんけれど」
 命中と回避を損じる敵の尾骨縛りを、レティシアはルーチェの保護で容易く振りほどき、愛用の爆破スイッチ『Papillon capricieux』に指をかけた。
 そこへエヴァンジェリンが、アトリが、次々に爆破スイッチを手に加勢する。
「アタシも乗るわ。折角なら、派手な方が良いもの」
「右に同じく。ドカンと一発、盛大に行きますよ!」
 起爆。
 カラフルな煙幕が薔薇の香りと共にスモークを彩り、社とリューデの背を押した。
 踏み砕かんばかりの力でアスファルトを蹴り、突進する二人。迎撃態勢を構える竜牙兵を戒李と柚月、そしてしづかが三方から同時に妨害する。
「ほーら、余所見してちゃダメだよ?」
「止まって、下さい……!」
「八代君! ロストワード君! 思い切り叩き込んでやれ!」
 『銀弧・艶姫』の放つ絶空斬。御業が放つ炎弾。オウガメタルが叩き込む超硬の拳。
 回避を封じられ、炎上し、鎧を剥がれた竜牙兵を、社が保護ともども袈裟に斬り裂いた。僅かに残った装甲さえも、バール状に変形した『黒翼のレイピア』が完全に破壊する。
「グウウウ! 喰ワレル者共ノ分際デ!!」
 竜牙兵は防御をかなぐり捨て決死の反撃に出た。戦いの最中にしづかとアトリが付与したアンチヒールの呪いは、敵の回復能力を殆ど無意味なものにまで変えていたからだ。
 フェイントを織り交ぜ突進する竜牙兵の動きが、突然止まった。
 足元を睨む竜牙兵の目に映ったのは、青い鎖。辿った先には、『蒼縛』を発動した戒李の左足が、魔術回路に青く輝いている。
「足止めはこっちに任せて。ぶちかましてやって」
 蛇のように絡みつく鎖に悲鳴を上げる竜牙兵にルーンアックスを振り下ろすレティシア。エアシューズで蹴りつけるしづか。骨の砕ける鈍い音が立て続けに響く。
「オヤスミ、心臓喰いの竜の牙」
「刻め螺旋に舞う式神! 顕現せよ! カードスラッシュ!」
 エヴァンジェリンの銀の矛『glisch』が紫電の輝きを帯びて竜牙兵の胴を貫き、砕け散る骨片もろとも、柚月のカードが旋風のように体中を切り裂いていく。
「ただの紙切れと思うなよ? お前に死を刻むカードだ」
「オ……ノレェェェッ!!」
 せめて一人だけでも道連れにせんと、剣を構える竜牙兵。
 そこへ迫るのは、刀を地面に突き立て、二挺のリボルバーを抜いた社だ。
「――穿て」
 両腕を介して送り込まれた運動エネルギーを乗せて放たれる致命の弾丸に、ガードした盾もろとも頭部を吹き飛ばされ――竜牙兵は亀裂だらけの剣でリューデの胸を突く。
「ハート・バイター……様……バン……ザ……」
「言ったはずだ――」
 剣の傷がドラゴニアンの女性によって綺麗に塞がれゆく中、竜牙兵ハートスティーラーが最期に見たもの。それは黒翼のオラトリオの胸に燃え盛る炎と、そして――。
「貴様はもう、何も奪えないと」
 炎を帯びた細剣が、コギトエルゴスムと化していく自分を打ち砕く光景だった。

●四
「皆、お疲れ様だ」
 領域を抜けると同時、柚月はふうっと息を吐きだした。
 暴走、重傷ゼロ。紛失グラディウスなし。回廊の破壊にも成功。文句なしの大金星だ。
「ミッション中の仲間と、連絡が、取れたわ。もうじき、迎えが来るわよ」
 傍でエヴァンジェリンが、しづかをそっと抱きしめながら呟く。そんな彼女と仲間達に、リューデは静かに口を開いた。陽光のような笑顔を浮かべて――。
「ありがとう」
 勇気を与えてくれた仲間、力を貸してくれた仲間。
 皆のおかげで、長い長い戦いがやっと終わった。
「……ありがとう」
 エヴァンジェリンにもう一度、笑顔で感謝を伝えるリューデ。
 仲間達と見上げる空は、抜けるような青色がどこまでも広がっていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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