●降臨、スーパースパイラススター!
「みんなー! 今日はありがとー!」
小さなライブハウスに少女の声が響くと、客席から様々な歓声が沸き起こった。
東京は、とあるライブハウスである。収容人数100人程度の小さなものではあったが、連日様々な――テレビなどにはあまり出演しないタイプの――アイドル達が出演し、そのファン達が押しかける。熱意だけなら大型アイドルには引けをとらない、そんな場所であった。
しかし、今舞台に上がっている少女は、本来の主役ではない。元々この舞台に立っていたアイドルは、舞台の端で意識を失っている。
『スーパースパイラススター・星越マキ』と名乗る少女が現れたのは、本来のアイドルがその演目を始めようとした瞬間であった。
二人の屈強な仮面の男を伴い現れたマキは、今日この場にやってきたアイドルのファンを奪う事を突如宣言。困惑するアイドルとファンをよそに、仮面の男のパフォーマンスをバックに歌を歌い始めるや、ファン達の困惑は瞬く間に熱狂に変わった。
少女の恋を歌った、元気いっぱいのアイドルソング。催眠的な効果すら感じさせる、超常の歌――マキの歌とは、まさしくそれである。
瞬く間に、人々はマキのファンへと変わった。呆然とするアイドルを、仮面の男が手際よく気絶させる。その瞬間、舞台はマキの物へとなった。
「今日はね、皆にお願いがあるの!」
マキが元気よく、声をあげた。お願いがあるの、と言われれば、二つ返事で叶えてあげるのがファンと言う物である。たとえその先に、己が身の破滅が待ち受けていようとも。
雄たけびの様なYESの返事――マキは嬉しそうに頷く。その笑顔に、胸を撃ち貫かれ、ファンが一人ぶっ倒れた。
「よかった♪ 皆、大好きだよ!」
ウインク一つ、マキ。その可愛らしさに、ファンが三人ぶっ倒れた。
「それじゃあ、皆、私についてきて!」
ぶっ倒れたファンは、仮面の大男が抱え上げる。ハーメルンの笛吹き男ではないが、アイドルの先導の元、ライブハウスに居たファン達は、何処かへと去っていき、空っぽのライブハウスには、気絶したアイドルだけが残されたのである。
●アイドル大決戦
「螺旋忍軍の仕業のようだな」
アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロス達へ、予知された事件の概要を告げるとともに、そう言った。
曰く、アイドルとして地球社会に潜伏していた螺旋忍軍たちが、突如として動き出したという。
アイドル螺旋忍者たちは、他のアイドルたちのライブに乱入。そのアイドルのファンを奪い去り、何処かへと連れ去ってしまう。
「どうやら、ファン達は、この事件の黒幕であるシャイターンのもとに送られて、『シャイターンの選定』を受けさせられてしまうようだ。選定を受ければ、死ぬか、エインヘリアルにされてしまうか……」
山下・仁(ぽんこつレプリカント・e62019)の危惧した事態が、起こってしまたようだ。
「そこで、君達にはライブハウスへと向かい、この螺旋忍軍を撃退してほしいんだ」
今回の事件の被害者は、100人程のファンと、一人の少女アイドルである。少女アイドルは螺旋忍軍により気絶させられている。直接の標的ではないため、命に別状はない。
アーサーは、ふむん、と唸りつつ、一冊のアイドル雑誌を取り出した。メジャー・ローカル・マイナー、大小様々なアイドルを網羅しているといわれる、その筋の人間には有名な奴である。
「あー……あったあった。被害者は、松野うみ……元気いっぱい、皆の妹系アイドル……だそうだ。持ち歌は、オーソドックスなアイドルポップのようだな……キャッチフレーズは、『みんなの元気がうみの元気! うみみんでーす!』と」
分りやすい棒読みで、アーサーが言う。真面目に読み上げるのが気恥ずかしかったのだろう。それはさておき。
「……と、冗談で元のアイドルの特徴を説明したわけではないぞ。というのも、これは重要な情報なのだ」
アーサーが言うには、今回の敵となるアイドル螺旋忍軍――『スーパースパイラススター・星越マキ』は、ケルベロスが攻撃を仕掛けてきた場合、配下である仮面の男『オタゲイジャー』にケルベロスの対応を任せ、ファンを連れて逃げ出そうとするという。
それを阻止する為には、ステージに『アイドルとして乱入』して、ファンを奪い取る必要があるのだ。
「ファン達は、星越マキの歌に幻惑され、正常な判断力は失われている。が、その分、『アイドルの魅力を判断する能力』が高まっているようでな。アイドル螺旋忍軍を上回るパフォーマンスを行うことができれば、ファンをこちら側へと奪い取ることができるはずなのだ」
ファンを奪われた螺旋忍軍は、ケルベロスを撃退した後に、再度ファンを魅了する必要がある為、撤退する事はないのだという。
「被害に遭ったアイドルは、皆の妹系――『元気いっぱいで、一生懸命な所を応援したくなる』アイドルだ。会場に集まったファンは、男女問わず、そういうキャラが好きである、と判断される。星越マキも同タイプのアイドルのようだしな。つまり、君達がそういうアイドルパフォーマンスを演じ、ファン達を魅了することができれば、戦闘に有利に働くという事だな」
ふむん、と唸りつつ、アーサー。冗談めいた状況ではあるが、真面目な話である。
「君達がファンを奪えなかった場合、星越マキはさっきも言った通り、隙を見てファンを連れて逃げ出そうとする。そうなってしまった場合、逃走を阻止する作戦が必要になるだろう」
そう言って、アーサーはヒゲを撫でた。
「螺旋忍軍を利用した、人間の大量選定か。傾向を見る限り、第四王女の作戦では無さそうだが……」
アーサーは呟き、軽く頭を振ると、
「いや、すまない。まずは目の前の事件の解決からだな。君達の無事と、作戦の成功を、祈っているよ」
そう言って、ケルベロス達を送り出したのであった。
参加者 | |
---|---|
大神・凛(ちねり剣客・e01645) |
上村・千鶴(陸上競技部部長・e01900) |
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093) |
莓荊・バンリ(立ち上がり立ち上がる・e06236) |
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179) |
桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767) |
キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717) |
夢幻・天々奈(封印されし禁忌の少女・e36912) |
●アイドルVSアイドル
ライブハウスはまさに、熱狂の渦の真っただ中にあった。
突如として現れた『スーパースパイラススター・星越マキ』は、舞台を占拠。アイドルパフォーマンスを始めると、その演技に観客たちは、次々と魅了されていく。
「よし、これで今回のお仕事は完了ね」
満足げに観客席を眺め、そういうマキに、
「ハイ!」
「ハイ!」
『ハイ! ハイ! ハァァァァァイ!』
ケミカルライトを振り回しつつ、二人のオタゲイジャーが答えた。
マキがウインク一つ、
「みんなー! 実は、皆にお願いが……」
そう告げた瞬間である。突然、ライブハウスのライトが一斉に消灯した。暗闇に包まれるライブハウスに、観客たちの動揺の声と、ケミカルライトの明かりだけが浮かぶ。
「かつてスパイラスを(人気的な意味で)支配したというスーパースパイラススター。しかし、地球でのでかい口はそこまでにしてもらおう!」
声が響いた。同時にスポットライトが観客席を照らし、赤いケルベロスコートをばさりと翻した、板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)の姿があらわとなる。
「スパイラスでは一番でも、地球では末席だー! 地球の力を思い知れー!」
とう、掛け声一つ、えにかはステージへと躍り出る。スポットライト――設備は大神・凛(ちねり剣客・e01645)によって操作されているのだ――がその後を追い、えにか、そしてマキとオタゲイジャーを照らし出す。
「今日はみんなにサプライズの妹日和! 元気な妹たちがやってきたわよー!」
えにかが手をかざせば、舞台袖から少女たちが飛び出してくる。
まず登場したのは、莓荊・バンリ(立ち上がり立ち上がる・e06236)だ。元気よく手を振り、きらびやかなステージドレスを翻し、溢れんばかりの笑顔を振りまく。
「皆様ー! こーんにちはーであります!」
「……失礼いたします」
続いて、静かに、おずおずと現れたのはキャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)である。控えめな態度ではあったが、身に纏うミステリアスな雰囲気から、存在感はしっかりと発揮している。
「会場のお義兄様にお義姉様! アテナ様が来たわよ!」
最後に現れたのは、夢幻・天々奈(封印されし禁忌の少女・e36912)である。小悪魔をイメージした衣装は、艶やかさを感じさせるものである。
「三者三様、地球の誇る妹アイドル! 全員まとめて魅了しに来た! 今日だけ特別、存分に満喫しなさい!」
観客のボルテージを煽るような口調で、えにかの司会パフォーマンスが響き渡る。
「まさか、ケルベロス……!」
マキが呻いた。額に少しばかりの汗をにじませ、動揺した様子を見せる。
「元気いっぱい、少しばかりのドジっこオーラ……オーソドックスながら、完成された妹キャラ。控えめにしてミステリアス。でも内心は心優しい暖かな妹キャラ。そして生意気にして甘え上手、小悪魔系妹キャラ……!」
それぞれ、ケルベロス達の属性と傾向を瞬時に判別するマキ。マキはにやり、と笑うと、
「確かに、かなりのアイドルパワー……認めるわ。あなた達は、強い……!」
まずは称賛。マキ程のアイドルであれば、相手のアイドルパワーを見極めることなど容易い。そしてそれほどの実力者であるマキだからこそ、相手の実力を正当に評価し、そして敬意を表することができるのである。
「でも……だからって私は負けない」
しかし、敬意を表する事と、自らの実力を自負する事は、決して相反しない。
「私の全力のパフォーマンスで魅了したファン達! 奪えるものなら奪ってみなさい!」
マキは力強く、宣言した。
螺旋忍軍としては、任務遂行の妨害となるケルベロス達のパフォーマンスを、見過ごす必要はないだろう。
しかし螺旋忍軍である以上に、星越マキはアイドルである。
アイドルであるが故のプライドが、同じアイドルと言う土俵で挑んできたケルベロス達を、同じ土俵で迎え撃ちたいという欲求が、この時、任務への使命感に勝った。
マキの言葉に、ケルベロス達は頷く。
「皆様ー! それでは、聞いてほしいであります!」
バンリはそういうと、キャロライン、天々奈と共に舞台の真ん中へと移動。スポットライトがそれを追いかけ、三人を照らした。
「今日の為に、一生懸命、研究いたしました」
静かにキャロラインが告げる。
3人の後ろには、桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)が控えている。バックダンサーやコーラスなどを行う、サポート役である。
「会場のお義兄様、お義姉様も、アテナ様と一緒に盛り上がってね!」
天々奈がギターを手に、弦をつま弾く。足元にはウイングキャット『聖天使猫姫』も控え、主に合わせて飛び跳ねた。
照明が賑やかに色をかえ、やがてイントロが流れ始めた。3人は静かに息を吸い込むと、一斉に、歌を紡ぎ始める。
始まりは静かに。
観客席に潜んでいた土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)、そして上村・千鶴(陸上競技部部長・e01900)からの声援はあったものの、それでも、未だ洗脳の解けぬファン達からのリアクションは薄い。
しかしAメロが終り、Bメロに差し掛かった時から、徐々に観客たちの様子にも変化が訪れた。次第に体を揺らし始め、リズムに乗り始める。
サポート役であり、観客席全体を俯瞰していた萌花は、それを見逃さなかった。さりげなくメインの3人に接触し、指示を伝える。
バンリはとりわけ、ノリのいい観客たちへ向けて、歌いながら指さした。ウインク一つ、いわゆる鉄砲の形にした手を振り上げる――観客を撃ち抜いた、というポーズだ。
観客たちがざわつく。また少し、変化が訪れた。歌は一度目のサビに突入する。
続いたキャロラインは、また別の観客たちに向けて、笑顔を向ける。無表情だったキャロラインの笑顔。静から動。それだけで充分である。その笑顔を、自分に向けられたのだと錯覚させるには。
少しずつ、観客たちの動きは大きくなっていった。
岳の振るケミカルライトに合わせて、少しずつ、観客たちがライトを振った。
千鶴の声に引っ張られるように、少しずつ、観客たちの声援もあがって行った。
二度目のAメロ。
天々奈は観客たちにに向けて、無邪気そうな笑顔を見せた後に、少しだけ意地悪気な顔で、投げキッスを披露した。観客が一人ぶっ倒れた――その観客こそが、最初に洗脳から解かれた一人である。
二度目のBメロの頃には、観客たちの多くが、ケルベロス達に熱中していた。岳と共にライトは大きく客席を舞い、千鶴の声に負けぬ大声が、客席を飛び交う!
二度目のサビ! その時全ては爆発した!
歓声! 嬌声! 応援の声が飛び交い、合いの手が飛び交い、ライトが交差する!
観客たちが叫ぶ! バンリちゃん、と! キャロラインちゃん、と! アテナ様、と!
マキと同等――いや、それ以上の熱狂! 小さなライブハウスを吹き飛ばさんばかりの熱量!
その曲が終わるころには、全くすべての観客たちが、ケルベロス達のとりこになっていた。割れんばかりの拍手と歓声。3人が手を振る度、微笑む度、一挙手一投足に、ファン達が声をあげる。
「く……っ!」
マキが呻く。敗北感! 圧倒的な敗北感! マキもアイドルであるがゆえに、だからこそわかる、相手の実力――。
「――完敗、よ」
マキはそう言った。笑顔であった。悔しさはあった。しかし、アイドルのパフォーマンスとは、見た者を笑顔にするものである。
しかしマキは、すぐに悲し気に目を伏せると、その目を冷たく光らせた。
「でも――私は、螺旋忍軍だから」
「ままならないものよねー」
えにかが言った。ゆっくりと、武器を取り出し、構える。
それに応じるように、ケルベロス達も各々武器を構えた。演出ブースに居た凛、観客席に紛れ込んでいた岳、千鶴もまた、舞台上に躍り出る。
そして静かに――戦いの火蓋は切って落とされた。
●ケルベロスVS螺旋忍軍
「届いて私の螺旋、あなたの心、撃ち抜くの――」
マキの歌声が響くや、紡がれた螺旋の力が氷片を生み出し、ケルベロス達を襲う。
「この宇宙(そら)に届けたい、愛のリズム――」
一方で、キャロラインの紡ぐ歌は、マキのそれとは異なり、仲間を癒し、護るための歌である。
「アイドルをされているのなら、貴女のファンの方々の声援に応えるように……そのまま地球を愛せなかったのでしょうか……!?」
仲間に賦活の雷を飛ばしながら、岳が声をあげる。その言葉に、マキは静かに首を振った。
「――ハァッ!」
気合一閃、凛は駆け、マキへと向かい、『白妖楼』を振るう。しかし、その前に立ちはだかったのはオタゲイジャーである。凛の刃を、オタゲイジャーは手にしたケミカルライト状の武器で受け止めた。見かけによらず、強度はあるようだ。
「ハイ! ハイ! ハァァァイ!」
お返しとばかりに、オタゲイジャーが手にした武器を振るう。ある種の舞のような、奇妙な動きから放たれる、強烈な一撃。『白妖楼』と『黒楼丸』、二振りの刃で以て、凛はそれをガード。
「くっ……妙な戦い方を……調子が狂う!」
舌打ち一つ、凛は飛び跳ね、距離をとる。入れ替わりに、バンリはオタゲイジャーへと攻撃を仕掛けた。回転する腕がオタゲイジャーのライトと接触、激しく火花を散らす。
「アイドルとは……人々の心に光齎す陽であり星。歌を利用し、人を弄ぼうとは、アイドルの道に反するであります!」
「ほいや、っと」
バンリに続くように、えにかがオタゲイジャーへと飛び蹴りをお見舞いする。オタゲイジャーが吹っ飛ばされるのを眺めつつ、
「バンリさんの言う通り。ちょっといただけない作戦かしらねー」
えにかが言った。
「ハァァァイ!」
一方で、オタゲイジャーが舞うような動きからの激しい突きを繰り出す。えにかは如意棒を構えてその攻撃を受け止めた。
「今日は徹底的にアイドルのアテナ様で行くわよ!」
「じゃあ、あたしはテッテーテキにサポートでいこっかな。任せて、アテナ様?」
天々奈の言葉に、萌花はウインク一つ、口紅を取り出した。
それは、魔力を増幅するという口紅。赤く艶めく唇から、紡がれるは束縛の言葉。
「まずは――あたしに痺れてみない? アイドルさん?」
囁かれれば逃げられない。痺れ、悶え、立ち尽くすだけ。
「うっ……なにこれ……! まさかあなたもアイドル――!」
痺れるような刺激にマキが呻くのへ、萌花は笑んだ。
「ううん、今日はサポートの萌花ちゃんでーす。アテナ様、準備おっけー」
「次はアテナ様のソロライブよ! 響け、「片翼のアルカディア」!」
天々奈がギターをかき鳴らし、大きく息を吸い込んだ。響き渡る天々奈の「片翼のアルカディア」。先ほどのライブとはまた違った、力強い歌声が、螺旋忍軍たちに重圧と化して降り注ぐ。聖天使猫姫は、天々奈の歌声に合わせるように、清浄なる風を吹き渡らせていた。
「誰よりうまく美しく。彼女たちの輝きの向こう側に――ナラブモノナシ……!!」
そう言って、千鶴が駆けた。文字通りの全力疾走。しかしそれだけで、千鶴は全てを切り裂くソニックブームを発生させる。ただ走る、それだけで千鶴に並ぶものはなく、そして走り抜けた後に立つ者も居ない。
「ハイィィィィッ!」
体を切り裂かれたオタゲイジャーが、悲鳴をあげながら消滅する。
「もうすこし、頑張って!」
マキは傷を癒す歌声により、残ったオタゲイジャーへの援護を行うが、ケルベロス達の攻撃の前では、その効果量は些か心もとないものだっただろうか。
一方で、キャロラインも、負けじと仲間達を癒す歌声を響かせる。戦いの場でありながら、敵味方共に響き合う歌声が、不思議な賑やかさを感じさせた。
「畳みかけましょう!」
岳が声をあげ、武器を振るった。武器より放たれた破壊のルーンは、凛の持つ刃へと宿り、
「了解……これで、二匹目……!」
援護を受けた凛が、オタゲイジャーへと接近する。同時に放たれた斬撃がオタゲイジャーの霊体を汚染・破壊。オタゲイジャーは悲鳴をあげる間もなく、この世から消滅した。
続いて、バンリがマキへ回し蹴りを見舞う。慌てて受け止めるが、勢いを殺しきれずマキは吹っ飛ばされる。壁に叩きつけられ止まったマキへ向かい、
「さっきも言ったけど――」
えにかは言って、高く飛びあがった。手にした武器を大きく振りかぶり、
「――地球でのでかい口は、そこまでにしてもらおう!」
振り下ろす。それは、まるで巨大が口が閉じるかのような、全てを飲み込むような、一撃である。
(「そういえば、この子」)
振り下ろした一撃が、マキへと直撃する刹那――。
長い、スローモーションの一瞬で、えにかは、マキと目があったような気がした。
(「むかし、路上ライブしてたような。それで、握手してもらった、ような」)
長い一瞬は、当たり前のように一瞬で過ぎ去った。えにかの一撃が、マキへと突き刺さる。
「……負けちゃったかぁ……」
マキは呆然と呟くと、がくりとうなだれた。次の瞬間、その亡骸は煙のように消え失せて、マキが持っていたマイクだけが、その場に残されていた。
●アンコール
「貴方のアイドルとしての思い出は、きっとファンの皆さんのお心に何時までも在り続けるでしょう。地球の重力の元どうか安らかに……」
静かに、岳が祈りの言葉を捧げた。
ケルベロス達は、現れた螺旋忍軍を無事撃退。さらわれるはずであった観客たちも、見事奪い返すことに成功した。
ライブハウス内のヒールを終え、舞台袖に引っ込んだケルベロス達。気絶していた、本来ここでパフォーマンスを行うはずだったアイドルの無事も確認し、一安心、と言った所である。
「……妙な敵ではあったけど……アイドル……目指す目標がある、って言う点では、わたしも同じだったのかも……」
千鶴が呟く。
「えーと……確かに、前に……」
と、何かを思い出すようにして首をかしげていた、えにかだったが、
「ま、いいか。終わり良ければ総て良しよね」
と、気を取り直したように言った。
「んー……まだ終わってないかも」
しかし、そんなえにかに、萌花が声をかけた。萌花が指さした方向――客席の方を見やれば、何やらアンコールを要求する観客たちの姿があった。
「洗脳がまだうまく解けてないのかはわかんないけど、アレ、治めないとヤバイかな」
苦笑する萌花。
「簡単じゃない。アテナ様達が、アンコールに応えてあげればいいのよ!」
と、天々奈。
「そうでありますな、ここまで来たら、最後まで歌いきるであります!」
バンリが頷き、
「演出は任せて」
凛も頷いた。
「では……アンコールライブと参りましょうか」
キャロラインが静かに言うのへ、ケルベロス達は頷いた。
アンコールの声が響く舞台へ、アイドルは再びはばたく――。
作者:洗井落雲 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年10月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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