アイドル襲撃~青春エクストーション

作者:青葉桂都

●奪われた青春
 寒色から暖色へと徐々に色を変えるライトが小さなステージを照らし出す。
 左右対称に設置されたレーザービームが上下左右に動き回り、薄暗い空間を光で切り裂いていた。
 そこはとある街にあるライブハウス。
 おそらく収容人数は最大200ほどの小さな空間。にもかかわらず、行われているライブでは隙間のほうが多いほど客が少なかった。
「青春、それはダークサイド~♪」
 ステージの上では2人の少女が笑顔で歌声を響かせている。
 もっとも表情はともかく歌のほうの出来はけしていいとは言えない。それでも数少ない客はそれなりに喜んでいるようだ。
 いわゆる地下アイドルと呼ばれる少女たちのライブ。
 未熟ではあるが当事者たちはそれなりに楽しんでいる……そんなライブの空間に、乱入者は現れた。
 青と水色を組み合わせたフリフリのワンピースを身に着けた女性がステージに飛び込んできたのだ。
 背後には仮面をつけた半裸の男を2体、従えている。
 髪に巻き付いた茨が伸びて、さりげなくアイドルたちに刺さって気絶させる。
「みんな、まがい物の青春に惑わされないで。私の素敵な新曲を聞いてください!」
 ピンク色のマイクでライブハウス内に声を響かせると、曲が流れ出す。
 リズムに合わせて体を動かすと、髪や大きく広がったスカートについている黄色い薔薇も一緒に揺れた。
「『四季』のブルースプリングで、『わたしだけのあなた』――」
 ライブハウス内にいた人々が呆気にとられているうちに、歌が始まった。
 配下の男たちが、ケミカルライトに似たなにかを手に奇妙な踊りを始める。
 甘い歌声は先ほどまで歌っていた地下アイドルたちよりも深く響く。
 客たちも、スタッフも、とがめることもなく彼女たちに見入っていた。
 確かな技巧と、歌声や踊りに込められたグラビティによって、人々は彼女たちに魅了されているのだ。
 ライブが終わると、彼女たちに導かれるまま彼らはどこかへと歩き去った。

●ヘリオライダーの依頼
 集まったケルベロスたちに簡単な挨拶を述べると、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は語り始めた。
「螺旋忍軍のうち、地下アイドルとして潜伏していた者たちが動き出しました」
 他のアイドルのライブに乱入し、ファンを魅了してどこかへ連れ去ってしまうのだ。
 山下・仁(ぽんこつレプリカント・e62019)が危惧していた通り、背後にはシャイターンがいるらしい。
 連れ去られた先で選定を受け、死ぬかエインヘリアルになってしまうのだ。
「ライブハウスに向かい、螺旋忍軍を阻止してください」
 芹架は静かに頭を下げた。
 ライブハウスで襲撃を受けるアイドルは『青春ダークサイド』という。このライブハウスでは青春という名を冠したユニットをいくつかプロデュースしており、その1つだそうだ。
 彼女たち2人は螺旋忍軍乱入時に気絶させられ、ステージ上に倒れている。他に客やスタッフが3~40人ほどいる。
 連絡して避難させるのは簡単だが、その場合螺旋忍軍が予知とは別の場所を狙うだけなので意味がない。
「襲撃を行う螺旋忍軍はブルースプリングという名です。『四季』と名乗る4人組バンドとして活動していたそうですが、残る3人は別のライブハウス襲撃を行っています」
 代わりにオタゲイジャーという配下の螺旋忍軍を2体従えている。
「バンドとしてどのような曲を演奏していたかは確認していませんが、ソロで歌う曲は恋とか愛とかをテーマにした正統派のアイドルソングです。歌は攻撃手段にもなっています」
 恋人の浮気心に対する怒りを歌った『わたしだけのあなた』は対象を魅了し催眠状態にする効果がある。
 また、恋人ができない切なさをテーマにした『誰より素敵なわたしになりたい』は聞く者の力を奪い取り、自分を回復することができる。
 他にもレパートリーはあるようだが、効果はそのどちらかと同じだ。もちろんすべて範囲攻撃となる。
 なお、どの曲も他の女性に対する対抗意識がこもっている。嫉妬深い性格なのかもしれない。
「髪や服に巻き付いたいばらの棘を飛ばして攻撃することもできます。棘には麻痺毒が含まれています」
 前衛で彼女を護衛する配下のオタゲイジャーたちは、ケミカルライトのように光る棒手裏剣を両手に装備しており、螺旋忍者や螺旋手裏剣と同等のグラビティを使うらしい。
 また、奇妙な踊りで範囲の対象を催眠状態にすることもできる。
 現場に到着するのは敵が客を魅了した後になる。ケルベロスたちが攻撃した場合、ブルースプリングはオタゲイジャーに後を任せ、客を連れ去ることを優先する。
「それを防ぐには、皆さんがアイドルとしてステージに乱入し、客を奪い取る必要があります」
 幻惑状態の観客は通常の判断力が失われた分、アイドルの魅力を判断する能力が高まっており、ケルベロスが螺旋忍軍以上のパフォーマンスを行えばファンを奪い取ることができる。
 その場合、ブルースプリングもケルベロスを撃破してから改めて客を魅了しようとすることになる。
「当然ながら、アイドルとして乱入できる方がいなかったり、奪還に失敗した場合は、撤退を阻止する方法を考えておく必要があります」
 芹架はそう付け加えた。
「本星を失っても螺旋忍軍は脅威のままです。それがシャイターンや他の勢力に利用されているのは、厄介な話ですね」
 姿を見せた機会に、確実に叩いておきたいと芹架は付け加えた。


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
中邑・めぐみ(ときめき螺旋ガール・e04566)
アウラ・シーノ(忘却の巫術士・e05207)
ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)
コンスタンツァ・キルシェ(スタンピード・e07326)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)
ニーベルン・フェリミニオン(ドラゴニアンのゴッドペインター・e64638)

■リプレイ

●アイドル対決!
 さほど広くもないライブハウスでは、すでにライブが始まっていた。
 ただし、歌っているのは本来ここに立っているべき者ではない。
 螺旋忍軍の忍者アイドルが、配下のオタゲイジャーと共に歌って踊っているのだ。
 そこにまず、1人のケルベロスが現れた。
「赤のアイドル……紅燐(降臨)」
 電飾のコードを体に巻きつけて、カラフルな光を放ちながら天井から落ちて……もとい降りてきたのはノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)だった。
 もちろん狭いライブハウスに専用の設備があるわけではなく、そこにあったロープを使った即席のものだ。
 肺から無理やり空気が押し出される音を皆が聞いたような気がしたが、ノーザンライト本人は気に留める様子もなくキーボードを構えて……。
「……邪魔」
 そして電飾やロープを乱暴に引きちぎった。
「……あなた、なにがしたいの?」
「ユニット・ラバーハートとして、アイドル勝負を挑みに来た。わたしたちの歌を聴いて、沸け」
 螺旋忍軍があきれた様子で突っ込むが、ノーザンライトは無表情のままで応えた。
 その言葉に合わせて、他のケルベロスたちも次々にステージ上に現れる。
「歌を悪用するとは、なかなか悪辣な手段を取るのだな。よろしい! ならば、我々は歌を使って人々を助けよう!」
 ニーベルン・フェリミニオン(ドラゴニアンのゴッドペインター・e64638)がマイクを使ってライブハウスに宣言する。
「自分のためにファンを集めるのではなく、ファンのために活動するのがアイドル……今宵は私もその一角に加わらせていただきましょう」
 少し崩した巫女風のコスチュームに身を包み、アウラ・シーノ(忘却の巫術士・e05207)がその横に並ぶ。
「ブルースプリング……青春っすか。芸名はステキなのにやってることはエグいっすね」
 続いてコンスタンツァ・キルシェ(スタンピード・e07326)もツインテールにした金髪を揺らしながら歩み出る。
「それにファンを洗脳するなんてアイドルの風上にもおけねっす。正々堂々歌とダンスで真剣勝負っすよ!」
 マイクを突き付けて、コンスタンツァが宣言する。
「パフォーマンスで魅了したファンを攫うアイドル忍者ですか。まるでハーメルンの笛吹き男ですね。なら、相手以上のパフォーマンスで魅了し返して魅せましょう」
 オーバル型の眼鏡を軽く直しながら、中邑・めぐみ(ときめき螺旋ガール・e04566)もステージの上に並んだ。
 名乗る前から、客席にいた者たちの一部が彼女の名を呟く。
「あまりこういう名乗りはしませんが歌って戦うアイドルレスラー中邑めぐみ参上です」
 めぐみや他の者たちの名が、客席の一部から漏れ聞こえ、広がっていく。
「即席のバンド対決……ふふ、腕が鳴りますね。ケルベロスバンド『ラバーハート』……私たちの歌を、聞いていただきましょう」
 アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)が告げた。
 控えめに、少し後ろに下がってはいたものの、彼女が放つオーラが観客席の空気を一気に暖めていく。
「みんながんばれー! 可愛いは正義だぜ!」
 あえて客席のほうから月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)が応援の声を上げた。
 よく響くその声に触発されて、観客たちの中からもケルベロスの名を呼ぶ者が現れた。
 いつの間にかステージ上からは気絶している2人のアイドルが消えていた。
 少女とはいえ2人の人間を軽々運び出し、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)はステージの袖で振り返る。
「さて……うまく取り戻せるといいのだがな」
 口の中で呟いて、ヴォルフは観客席の様子を油断なく見渡す。
「そんな奴らの言うことを聞いちゃだめですよ。わたしのことだけ、見ててくださーい」
 だが、ブルースプリングが声をかけると、また観客たちは彼女に心を向けた。
 空気はケルベロス側の有利に少し傾いているようだが、まだ支配力は打ち破れてはいないようだ。
 後はステージ上にいる者たちのパフォーマンス次第だろう。
 そして、ライブが始まった。

●ラバーハートの初舞台
 まず響いたのはベースの音色だった。
「私がフォローしますから皆さんは全力で歌ってください」
 アトは仲間たちにだけ聞こえる声で告げて、低音を響かせリズムを作る。
 ミュージックファイターである彼女がリズムとコーラスを担当し、仲間たちをサポートする作戦だ。
「ありがたい。アイドルは未経験だが、それでも精一杯やらせてもらう」
 ニーベルンが頷いて、華麗に翼を広げる。
「まずは聞いてもらうぞな。ラバーハートで『あなただけのわたし』」
 そのベースにノーザンライトのキーボードがメロディを重ねた。
 殺人的な音痴だという彼女は歌には参加せず、演奏に集中している。
 奏でる曲は、一途な恋心を歌い上げる、甘く明るいアイドルソングだ。
 めぐみとアウラ、コンスタンツァとニーベルンがステージ上で入り乱れて踊る。即興ではあるものの、ケルベロスとしての身体能力を発揮して無理やり合わせる。
 圧倒的な魅力のオーラをまとったアトは観客たちの視線を惹きつけ、そしてその視線を他の仲間たちに誘導しながら演奏する。
 歌うのは予知でブルースプリングが歌っていた『わたしだけのあなた』に対向する曲。
 曲が最初のサビにさしかかる。
「ラバーハート、かっわいい~っ!」
 客席から咲耶が上げた声に触発されて、他の観客たちも思わず合いの手を入れた。
 コンスタンツァが観客の声に合わせて進み出る。
 彼女もミュージックファイターだが、普段はソロで歌うことが多く、こうしてユニットを組んで歌うのは新鮮な経験だ。
「アタシのアナタはアナタのアタシ。大好きな人へ届けこの想い……チェリッシュスプリング」
 別のライブハウスでは、親友もまた忍者アイドルと戦っているはずだ。
 あちらの戦場でもうまくいっていることを願いながら、コンスタンツァは恋人を想う気持ちを歌い上げる。
 入れ替わり立ち代わりステージ中央で歌声を響かせ、そして1曲目が終わりに近づく。
「さぁ皆さんもご一緒に! はい!」
 最後のサビで、タイミングよくアトが声をかけると観客たちの一部が歌いはじめた。
 けれどラバーハートのライブはまだ終わらない。
 ベースを爪弾くアトと、キーボードに指を走らせるノーザンライトが後方に残り、コンスタンツァ、めぐみ、アウラ、ニーベルンがレーザービームを浴びながら並ぶ。
 咲耶の声が響く前に声を上げる観客が出始めていた。
 2曲め、『誰より素敵な私になりたい』に対抗するために作った曲のタイトルは『何よりも素敵な世界へ』。
 ステージの上で、ライトと共にケルベロスたちが踊る。
「不器用だし甘えんぼだし、自信がなくて意気地なし。むちゃくちゃなことやらかしたり。でも明日を選んでいいの」
 めぐみがマイクを観客席に向けると、観客たちが応えてくれる。
「ここにBurningHeart 愛のゆきさきを誓え 強く生きることを言葉にして。愛の奇跡この手でつかめるはずさ」
 レスラーらしい力強い動きでめぐみがステップを踏む。
 ネガティブな自分と優しい世界を対比させた歌詞が表現しているのは、世界が決して敵ではないというメッセージ。
 愛を歌った1つ目の曲に対して、2曲目は世界を表現するメッセージソングだ。
 アウラは最初の曲よりも熱を込めてこの曲を歌っていた。
 巫女である彼女にとっては、世界中の人々を想って歌える曲が性に合う。
(「年齢的にちょっとギリギリかな感がありましたが……大丈夫そうですね」)
 22歳の巫女は心の中で胸をなでおろし、包容力を押し出して歌う。
 悪意に蹂躙されてもなお残る世界の美しさを訴える。
 アトのコーラスが自分の声を引き立ててくれているのがわかった。
「スーパースポットライト、かまん」
 間奏にさしかかったところでノーザンライトが声を出した。
 スポットライトがステージ上で歌う5人を照らす。
「青春がダークサイドであってたまるか。ノット、青春エクストーション……青春を奪われるなっ」
 突き上げた拳に、咲耶が、そして観客たちが応じる。
 オラトリオの翼を広げてアウラがステージから飛翔する。
「今は彼方に見えるその場所へ 一歩ずつ近づいていこう 素敵な世界へ――」
 スポットライトへと、手を伸ばしながら上昇していく。
 観客たちはもうブルースプリングを見ていない。
 そして、パフォーマンスの勝負では目がないと悟った螺旋忍軍が動き出した。
「私より観客を盛り上げるなんて……もう許しません!」
 作戦の失敗以上に、ケルベロスたちへの嫉妬をあらわにしてブルースプリングが叫ぶ。
 その棘がアウラへ伸びるが、咲耶のオルトロス、リキがかばって攻撃を受けた。
 オタゲイジャーたちが棒状のケミカルライトを構えるのが見えた。
 壁際で待機していたヴォルフがすぐに飛び出して、螺旋忍軍を牽制する。
「馬鹿の行動は読みやすい……見え見えの攻撃だな」
 魔法陣を宙に描き出し、彼は敵を挑発する。
「義兄!」
 客席の前列で黄金の果実を生成しながら咲耶が叫ぶと、リキがヴォルフをかばうように敵と対峙する。
 ステージ上にいた者たちもすぐにそれぞれの武器を構える。

●アンコール
 ケルベロスとデウスエクスが戦闘体勢に入る中で、ノーザンライトがラジカセのスイッチを入れる。
 ノリのいい曲に合わせて彼女は踊り出す。
 そして前奏が終わり、魔女が歌いはじめた。
「♪゛」
 殺人的な音痴だと自称していた言葉そのままに、大音量で響く歌声はもはや歌詞を理解することすらできない。
 大魔女音頭という曲だが、単にBGMが流れているだけで、それは事実上獣の叫び。オタゲイジャーたちの足を麻痺させた。
「殲窮(ThankYou)」
 歓声は1つも聞こえなかったが、気にすることなくノーザンライトは観衆に片手を上げた。
 殺人的な歌を塗り替えたのは、アトが規則正しく奏でるハーモニカだった。
「今の皆さんでいられるよう、私から送る曲です。どうぞ……」
 歯車が動く音にも似たマーチが、仲間たちの動きを調律する。
 ケルベロスたちはまず、オタゲイジャーたちから狙っていった。
 とはいえ、ブルースプリング完全に放置していたわけではない。
「解放……ポテさん、お願いします」
 咲耶がファミリアロッドを梟のポルテに戻し、魔力を込めて弾を撃たせる。
 狙い済ました梟の突撃がアイドルの体を麻痺させる。
 それでも歌声を響かせながら戦うブルースプリングに対して、ケルベロスたちもまた歌って踊りながら戦っていた。
 ヴォルフはそこに加わってはいないものの、大型のシースナイフを淀みなく操る動きはパフォーマンスを阻害することはない。
「ローリンローリンダーリン!」
 客席にウインクを投げかけながらコンスタンツァが歌うアップテンポなナンバーを、ニーベルンが描く背景がさらに盛り上げる。
「私は絵描きだが、こうして歌を盛り上げるために描くというのもなかなか興味深いな」
 ペイントブキを華麗に操り、ニーベルンが言った。
「それに芸術を悪用するやからも断じて許せんしな」
「そっすね。アタシも歌を愛する気持ちは本物のつもりっす。だからだれかを傷付ける歌なんて認めねっす」
 言葉を交わし、2人はさらにオタゲイジャーを攻め立てる。
 アイドルソングを響かせるブルースプリングと、分身しながらオタ芸を打つ配下の攻撃はケルベロスすら幻惑するが、アトの歌や黄金の果実が操られることを防いでくれている。
 やがて、コンスタンツァの歌声に圧倒されて、 まず1体のオタゲイジャーが倒れた。
 さらにもう1体が倒れるのも、時間の問題だった。
 めぐみが縛霊手で縛り上げた敵に向かって、ビハインドのトモノアイが飛ばした電飾が絡みついて動きを留止める。
「あなたのハートを燃やしてあげます!」
 そして、アウラが熱い想いを具現化させた(という設定の)炎が2体めを焼き尽くした。
 もっとも、長引くライブの最中、単独で皆を守り続けていたリキも限界を迎えて倒れていたが。
 ブルースプリングは1体となってもなお歌い続けるが、コンスタンツァの歌が自身のステップに合わせて星を踊らせ、敵のパフォーマンスを上回った。
 そして妨害役が3人がかりで忍者の動きを縛っていく。
 ヴォルフの偃月刀が雷をまとって彼女を麻痺させる。
 ノーザンライトの輝く剣がケミカルライトのごとく踊るが、それは応援のためでなく傷口を切り開くためだ。
 ニーベルンが空中を駆ける道を描き、その上を踊りながらブルースプリングへ突撃する。
 もちろんブルースプリングの歌もケルベロスたちの体力を削っていくが、アトが支えているお陰で誰かを倒しきるにはいたらない。
「地獄よ。我、我が身を門として汝を引寄(ドロー)せん」
 アウラの歌声によってカード型に凝縮した地獄が爆発を起こした。
「さあ、舞台の幕引きとしましょう。これがあなたへ捧げる鎮魂歌です」
 爆炎の中、軽やかにステージを駆けためぐみが、大きく体を反らせて膝を叩き込む。
「許さない。私はあなたたちなんかより素敵なアイドルに……」
 ブルースプリングの声が途切れた。
 重ね続けられた攻撃で麻痺して、口が回らなくなったのだ。
「歌はもういい。どうすればお前が死ぬのか……知りたいのはそれだけだ」
 雷をまとったヴォルフの刃がまた敵を貫いた。
「……可愛いとか綺麗とか以前に、螺旋忍軍な時点でブルースプリングの姿って作り物だよね?」
 義兄とタイミングを合わせて、咲耶のポルテから放たれた魔法弾が追い討ちをかける。
「……」
 ブルースプリングはなにかを言おうとした。
 おそらくは否定しようとしたのだろうご、雷と魔法弾に神経を麻痺させられたアイドル忍者は無念の表情を残してステージに倒れる。
 まだ残っていた地獄の炎が、螺旋忍軍の死体を焼きつくす。
 一瞬、舞台に静寂が戻った。
 けれどすぐに大きな声が響き始める。
 アンコールを求める観客たちの声を聞き、ケルベロスたちは顔を見合わせた。
「それではせっかくですからアンコールに応えさせていただきましょうか」
「悪くない提案だ。なかなか楽しい経験ではあるからな」
 アウラの言葉に、ニーベルンも不敵に笑う。
「倒れているお2人も、回復して加わっていもらいましょうか」
 ヴォルフが壁際に避難させていた地下アイドルたちはまだ意識を失っていた。
「みなさんがおやりになるのなら、わたくしも一肌脱ぐとしましょうか」
 めぐみが言った。
 ノーザンライトは無表情のまま、キーボードのストラップを肩からかけた。
「それじゃ、歌を愛する者同士心は一つ。繋がって輪になるっす!」
 コンスタンツァが元気な声を張り上げると、観客席から歓声があがった。
 ケルベロスたちのステージは、まだ終わらない。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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