女喰いと少女殺し

作者:秋津透

 埼玉県熊谷市、郊外の住宅街。
 深夜の路上で、青白い光を放つ体長二メートルほどの怪魚が三体、空中をゆらゆらと浮遊しながら泳ぎ回っている。
 そして、怪魚が泳ぎ回る軌跡が、まるで魔方陣のように浮かび上がった時。
 その中心に、この地でケルベロスに撃破された罪人エインヘリアル『女喰いのジャゴゥ』が召喚される。
「グァ……オンナ……喰ウ……」
 以前は、地球に追放された変態外道の重犯罪者とはいえ、それなりにケルベロスと会話もし、身の上の一端なども語ったジャゴゥだが、怪魚……下級死神にサルベージされて知性を失ったか、目をぎらぎら光らせ歯を噛み鳴らし、獣のような唸りをあげる。
 そこへ、轟音とともに一体のエインヘリアルが空から降ってきて、半ば地面にめりこむように着地する。
「ほう、あんたは女を喰っちまうのか。俺も女、特に弱っちいガキの女を弄り殺すのは大好きだが、さすがに喰いはしねぇな。変態としちゃ、あんたの方が一枚上ってわけか」
 惨殺ナイフを携えた罪人エインヘリアル『少女殺しマッブ』が、地面から身体を引き抜きながら、冷笑交じりに告げる。しかしジャゴゥは気に留める様子もなく、虚空を見据えて唸る。
「オンナ……喰ウ」

「女性を殺して食べる変態エインヘリアルが死神にサルベージされて、合わせて少女を好んで殺す罪人エインヘリアルが差し向けられる……もう、最悪」
 空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)が嫌悪の情も露わに告げ、ヘリオライダーの高御倉・康が緊張した表情で続ける。
「はい、熾彩さんのおっしゃる通り、埼玉県熊谷市郊外の住宅街の路上で、ケルベロスの皆さんが撃破した罪人エインヘリアル『女喰いのジャゴゥ』が、下級死神によってサルベージされるという予知がありました」
 そう言って、康は熾彩の方をちらりと見やる。
「しかも今回、ジャゴゥのサルベージに合わせたと思うのですが、更に一体、罪人エインヘリアル『少女殺しマッブ』が送り込まれてきます。つまり、現場には二体のエインヘリアルと、三体の下級死神がいるわけです」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。『女喰いのジャゴゥ』は、惨殺ナイフの武器グラビティ「血襖斬り」と、下級死神と同じ噛みつき、シャウトを使います。ポジションはクラッシャー。知性をなくしていますが、性癖は残っているようで、視界内に女性がいれば優先して噛みつき攻撃を仕掛けてくるようです。下級死神は三体、怪魚型で、噛みつき攻撃をしてきます。ポジションはディフェンダー。そして、この連中は、ジャゴゥが出現してから七分後に生存していれば、魔空回廊を使って自動回収されます」
 つまり、七ターン以内に斃さないと逃げられてしまうのですが、逃がしたからといって、その場で一般人の被害が出るわけではありません、と、康は少々歯切れ悪く告げる。
「一方、『少女殺しマッブ』は、妖剣士のジョブグラビティと惨殺ナイフ二本の武器グラビティを使います。ポジションはクラッシャー。少女を好んで襲いますが、身の破滅になってまでも嗜好を優先するほどのこだわりはないようです。利己的、卑劣、かつ狡猾で、状況にもよりますが、いきなり逃走する可能性もあります。そして、もし逃げられてしまったら、一般人の被害は重大なものになるでしょう」
 そう言って、康は一同を見回す。
「エインヘリアル二体と、怪魚型死神三体……もちろん全部撃破できれば言うことはありませんが、タイムリミットもあり、完全勝利は難しい依頼だと思います。ジャゴゥや死神を逃がしてもいい、わけはありませんが、人々の直接脅威となるマッブの撃破、そして皆さんが無事に帰還することが優先されると私は思います。どうか、よろしくお願いします」
 ご武運を、と、康は深々と頭を下げた。


参加者
神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)
リーズレット・ヴィッセンシャフト(寄り添う太陽・e02234)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)
リリス・セイレーン(空に焦がれて・e16609)
鍔鳴・奏(あさきゆめみし・e25076)
空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)

■リプレイ

●貴様ら逃がさん! 絶対に!
「……あれか」
 サーヴァントのボクスドラゴン『響』とともに、ヘリオンから現場へと降下したリーズレット・ヴィッセンシャフト(寄り添う太陽・e02234)は、青白い光を放つ体長二メートルほどの怪魚、下級死神が空中をゆらゆらと浮遊しながら泳ぎ回っているのを認めて呟いた。
 そしてリーズレットが降下していく間に、下級死神が泳ぎ回る軌跡が魔方陣のように浮かび上がり、頻りにがちがちと歯を噛み鳴らす罪人エインヘリアル、この地でケルベロスに撃破された『女喰いのジャゴゥ』がその中心に召喚される。
「グァ……オンナ……喰ウ……」
 更に、高空から轟音とともに、罪人エインヘリアル『少女殺しマッブ』 が降ってきて、半ば地面にめりこむように着地する。
「ほう、あんたは女を喰っちまうのか。俺も女、特に弱っちいガキの女を弄り殺すのは大好きだが、さすがに喰いはしねぇな。変態としちゃ、あんたの方が一枚上ってわけか」
 マッブは地面から身体を引き抜きながら冷笑混じりに告げたが、ジャゴゥは気に留める様子もなく、ぎらぎら光る目で周囲を見回す。
「オンナァ……喰ウ……喰ワセロォ!」
 大声で喚くとジャゴゥは素早く飛び出し、リーズレットの降下点へと疾走する。
(「げっ!? 嗅ぎつけられた!?」)
 そんな歓迎ノーサンキュー、と、リーズレットは慌てて自前の翼で飛行上昇し、降下点を変える。そのため、リーズレットに続いて降下してきたピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)と、そのサーヴァント、ボクスドラゴンの『プリム』が先に着地する。
「オンナァ!」
「ぎょえっ!?」
 急遽身を翻し、ピリカが着地すると同時に喰らいつこうとしたジャゴゥだが、ディフェンダーの『プリム』が飛び込んで庇う。
「ウエッ! トカゲ、不味イ! 邪魔スナ! オンナ喰ワセロ!」
(「……まずいとか言いながら、喰うことは喰うんだな……」)
 うー、やだやだ、と内心呻きながら、着地したリーズレットはがっぷり腹部を喰い取られてしまった『プリム』に強力な単体治癒を行う。『響』はジャゴゥへブレスを放つが、これは文字通り宙を飛んで駆けつけてきた下級死神に阻まれる。
 そしてピリカは、飛び下がってジャゴゥとの間を開け、オリジナルグラビティ『ピリカフラッシュ(ウオッマブシッ)』を放つ。
「おんみょうだんをくらえ~っ!」
「グアッ!」
 ジャゴゥはもちろん、三体の下級死神、更に何が起きているのかいまいち把握できていない様子のマッブにも、赤青に点滅する強烈なグラビティの目潰し閃光が浴びせられる。死神の一体がマッブを、別の一体が仲間の死神を庇い、庇われた方はダメージを免れるが、庇った方は倍のダメージを受ける。
「な、なんだ!? もう、ケルベロスとかいう奴らが襲ってきたのか!?」
 マッブが狼狽した声を出し、早くも逃げ腰になって周囲を見回す。そこへ『プリム』がブレスを放ち、たまたま庇う死神がいなかったため、まともに入る。
「うわ、なんだ!? ミニドラゴンか!?」
「恥知らずな罪人め、逃がしはせんぞ」
 降下してきた目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)が、オリジナルグラビティ『凍爆(アイス・レイド)』を炸裂させる。
「空隙拡散。氷弾よ、大気を斬り裂け!」
 大気の隙間に撃ち込まれた氷の弾丸が、近接周囲に冷気の亀裂を生じさせる。二体のエインヘリアルは死神に庇われたが、下級死神にはグラビティの氷が付着する。
 そして真のサーヴァント、ボクスドラゴンの『翔之助』がジャゴゥを狙ってブレスを放ち、庇った死神の氷を増殖させる。
「くそっ、このままじゃ、やられちまう……」
 敵はどれほどいるんだ、包囲されちまってるのか、と呻きながら、マッブが殺戮衝動を解放。自分のみならず、ジャゴゥや死神の傷も癒す。
(「……治癒に専念されてしまうと、いささか厄介ですね」)
 状態異常の解消ができないのは有難いですが、と、降下してきたバジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)が冷静に戦局を見定めて呟く。
「では、凍りついてもらいましょうか……この卓越した技術の一撃で!」
 その身に受けなさい、と、バジルはジャゴゥに向け達人の一撃を放つ。死神が庇うが、既にダメージの蓄積が限界近かったのか、庇って直撃された瞬間に砕け散る。
「おや、凍るより先に砕けてしまいましたか……それもまた良し」
 盾が一枚減ったわけですからね、と、バジルは微笑する。普通の人ならおそらく女の子と見間違うであろう柔らかな美貌だが、これを幸いというべきか、嗅覚で女性を見定めるジャゴゥの関心は惹かない。
 そして、続いて降下してきたリリス・セイレーン(空に焦がれて・e16609)が、二体のエインヘリアルを見据えて言い放つ。
「どっちも女狙いだなんて、あまり良い趣味とは言えないわね。エインヘリアルって、馬鹿は馬鹿なりに、もう少し堂々としたものかと思ってたんだけど?」
「ぬかせ……強い相手と堂々と戦って、それで勝ちゃいいだろうが、負けたらタダのバカじゃねぇか。他の奴らは知らんが、俺はバカじゃねえんだよ」
 マッブは少々むきになって言い返すが、ジャゴゥはまるで聞く耳持たず、舌なめずりして唸る。
「オンナァ……ウマソウナ、オンナァ……」
「食べたい? 食べてみる? 食べさせてあげないけど」
 近接攻撃が届かない後衛スナイパーにポジションを取り、リリスはオウガメタルから「黒太陽」を具現化、敵群に絶望の黒光を照射する。二体になった下級死神の一体がマッブを庇うが、もう一体は動かない。
 だが、リリスのサーヴァント、ウイングキャットがジャゴゥに向けキャットリングを飛ばすと、死神が庇って受ける。
「ふむ……」
 降下してきた鍔鳴・奏(あさきゆめみし・e25076)が戦況を見回し、リーズレットへ声をかける。
「これは攻撃に専念だな……リズ、回復は任せていいかい?」
「もちろんだとも! 全力で回復するから奏君は存分に暴れてくれ!」
 リーズレットが満面の笑みで請け負い、奏は小さく苦笑する。
「では、お言葉に甘えて……だが、奴らは女性を狙うらしいので、真面目に気を付けてな」
「心配してくれてるのか? ありがと♪ 私も倒れぬ様頑張る!」
 嬉しそうに、リーズレットが応じる。するとマッブが、呆れたような声を出した。
「……何やってんだ? お前ら? これが地球のバカップルってやつか?」
「妬くなよ、ロリコンエインヘリアル。黒光で焼いてやるからさ」
 平然として応じると、奏は先刻のリリスと同じ、絶望の黒光の照射を行う。ただし、リリスは後衛スナイパー、奏は前衛クラッシャーなので、威力に倍近い差が生じる。
「ガアッ!」
 今回、二体の死神は、それぞれジャゴゥとマッブを庇ったが、ジャゴゥを庇った方の死神が砕け散る。残り一体の死神は、奏に喰らいつこうとしたが、ウイングキャットが飛び出して庇う。
 そして、奏のサーヴァント、ボクスドラゴンの『モラ』が、ウイングキャットに属性インストールを行い治癒を施す。
(「しかし実際、今回はサーヴァント多いな……逃がさず包囲するには、好都合この上ないが」)
 周囲を視線だけで見回し、奏は言葉に出さずに呟く。今回参加したサーヴァントは、ボクスドラゴン四体、ウイングキャット一体。更に、ケルベロスの方も四人が飛行可能なので、たとえ飛行可能なデウスエクスであっても、これを振り切って逃げるのは難しい。
 まして、飛行ができないエインヘリアルでは、八人のケルベロスを一気に吹っ飛ばすレベルの超戦士でもない限り、とても突破などできないだろう。
 そこへ降下してきた神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)が、逃げ腰のマッブに向けて堂々と言い放つ。
「少女殺しマッブ、お前の相手はおれだ」
「な、なにぃ?」
 目を剥くエインヘリアルに対し、皇士朗はオリジナルグラビティ『秘剣「流星天翔」(ヒケンリュウセイテンショウ)』を駆使する。
「神楽火流征魔の太刀がひとつ、流星天翔!」
「ぐおっ!」
 斬撃が十重二十重に繰り出され、刃の軌跡が流星の如く煌めく。残り一体となった死神は庇いには出ず、マッブの全身から血が噴き出す。
「くそっ、てめぇ、俺に何か怨みでも……」
「殺すことを悦ぶお前たちのような外道と戦うことが、おれの存在意義だ」
 個人対個人で怨みがあるわけではないが、地球を狙うエインヘリアルが地球人に怨まれていないわけがないだろう、と、皇士朗は言い放つ。
「我が心は鋼にして、暴虐を阻む盾なり! おれがここに立っている限り、お前は誰も殺せないぞ、デウスエクス・アスガルド!」
「く、くそっ、恰好つけやがって……」
 ぎりぎりと歯噛みして、マッブは皇士朗を睨み据えるが、それでもどこか、ケルベロスと対決するより何とか逃げたい、という逃げ腰な気配が漂う。
 そこへ最後の一人にして、この状況を予測してヘリオライダーの予知を引き出した当人、空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)が降下してくる。
(「サーヴァントを含め、包囲は手厚い。ならば、タイムリミットまでにジャゴゥを倒すことに全力をあげる!」)
 声には出さずに内心で決断すると、熾彩は急降下重力蹴りをジャゴゥに見舞う。死神は庇いに出ず、熾彩の蹴りは見事にジャゴゥの頭部を直撃するが、その瞬間、エインヘリアルは腕を伸ばして相手を捉えようとする。
「オンナァ……喰ウ……喰ワセロォ!」
「貴様なんかに、喰われてたまるか!」
 冗談じゃない、と、背筋に冷たいものを感じながら、熾彩はジャゴゥの伸ばす腕をかいくぐり、素早く間合いを取って離れた。

●すべて死すべし、変態外道
「邪魔……スルナァ!」
 咆哮とともに、ジャゴゥが惨殺ナイフを振るう。狙われたのはボクスドラゴン『プリム』だが、ウイングキャットが飛び出して庇う。
「トカゲ……ネコ……ドッチデモイイ、殺ス! 邪魔者ヲ殺シテ、オンナ、喰ウ!」
「殺させないし、食べさせもしない。貴様は、ここで再び死ね」
 正直、シャウトで状態異常を解消されていたら危なかったな、と、内心では冷静に呟きつつ、奏がジャゴゥに重力蹴りを叩き込む。既に下級死神は三体とも潰れており、庇う者はいない。
「くそ、死んでたまるか……」
 歯噛みをしながら、マッブが殺戮衝動を解放する。その様子を意外なほど冷静に見据えながら、皇士朗がアームドフォートからレーザーを照射、ジャゴゥとマッブを同時に撃ち抜く。
「……凍て付き、眠れ」
 熾彩がオリジナルグラビティ『凍結竜言(コオリノコトダマ)』を放ち、ジャゴゥを凍りつかせる。既にエインヘリアルの全身には分厚く氷が付着しており、もしも彼が正気だったら攻撃を一手省いてもキュアを施して剥がしただろうが、知性を失ったジャゴゥには、氷の恐ろしさがわからない。
「六分経過……最終ターン突入だ。女喰いの変態にとっては、だが」
 リーズレットが宣言し、オリジナルグラビティ『黒影縛鎖(シャドウチェイン)』をジャゴゥに向け放つ。
「見えなき鎖よ、汝を束縛せよ」
「グアッ……!」
 よろめくエインヘリアルに、サーヴァントたちが攻撃を集中させる。この一分間だけは回復、援護なし。ひたすら全員がジャゴゥへ攻撃を集中する。
 真が戦術超鋼拳を叩き込み、ピリカが達人の一撃を決める。そしてリリスが、オリジナルグラビティ『幻想の蔓薔薇(イミテーションヴァンローズ)』を放った。
「Bloom Shi rose. Espoir sentiments, a la hauteur de cette danse」
 飛ぶように軽やかに、戯れるように舞い遊ぶ。優美な舞いのその足元から、可憐な蕾が花開き、咲き乱れる。現れた蔓薔薇は、想い願われるままにその蔦をくねらせ、花弁から甘い香りが溢れる。たとえ幻だったとしても、その姿は気高く甘美さえも纏って。
「グオオ……オンナ……オンナ、ノ……」
 狂猛なエインヘリアルは、幻想の薔薇に全身を巻かれ、呻きながら力尽きて倒れる。美しい女性に抱きつかれ、歓喜のままに存分に喰らいつく幻影でも見ているのだろうか。その死顔は、死神にサルベージされて知性を失った狂戦士とは思えないほど安らかだった。
「女喰いの変態にとっては、少々過ぎた最期だったかもしれませんね。……おっと、そちらの変態も、逃がしませんよ。逃がすわけがないでしょう?」
 ジャゴゥが倒れた瞬間、ケルベロスたちの張りつめた気合が僅かに緩んだと見たか、マッブが逃走を図るような気配を発する。いや、発したか発しないかの刹那に、バジルが絶妙のタイミングで、オリジナルグラビティ『青薔薇の棘(アオバラノトゲ)』を放つ。
「青き薔薇よ、その神秘なる茨よ、辺りを取り巻き敵を拘束せよ」
「ぐあああああっ!」
 青薔薇を咲かせる茨を飛ばし、周囲を取り巻くと共に茨による傷を負わせつつ、茨に仕込まれた神経性の毒で体を麻痺させ、動きを封じる。 ダメージそのものはそれほど大きくないが、マッブの巨体が硬直し、動きが止まる。
「う、ぐ、ぐ……」
「貴様は、時間をかけて慎重に倒してもいいのだが……正直、長々と付き合いたくはないな」
 奏が冷ややかに言い放ち、オリジナルグラビティ『この息は神の域なり(ケルベロスチェイン) 』を発動させる。
「定められた命だからこそ、その領域へ届こうと手を伸ばす……不死に驕るデウスエクスにはわかるまい」
「う……がっ……」
 透明なグラビティの鎖で容赦なく締め上げられ、マッブは声も出せずに身体を震わせる。皇士朗が惨殺ナイフを振るって血襖斬りを見舞い、熾彩がクリスタルファイアを放つ。
「炎は刃、刃は炎。切り裂け」
「がっ……」
 スナイパーポジションからの攻撃では、時にクリティカルヒットが生じる。熱を持たない「水晶の炎」が、エインヘリアルの太い首を絶妙な角度でばっさりと裂き、頸骨を断って斬り落とす。
「終わった、な」
 呟いた奏が、いきなり口調を変えて続ける。
「あー……疲れた。リズ、何か食べに行く?」
「お疲れ様! 私、甘い物食べたい!」
 こちらもころりと口調を変えて、リーズレットが浮き浮きと応じる。
「私もおなかすいたー! ごはんー!」
「この時間で、この場所か……深夜営業してるファミレスとかあるかな?」
「このあたりで探すより、ヘリオンで送ってもらった方が早くない?」
 一転して日常的な会話が交わされる中、バジルは戦闘のあおりで抉れたり削れたりした道路や塀をせっせとヒールする。
 ……実は、彼がヒールをすると、どこもかしこも花いっぱいになってしまうのだが、住宅街の中だし、ま、いいか。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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