細くうねる階段を降りた先。
数多のステッカーが誇らしげに張られた、重い鉄扉の先には――……。
「今夜は黒き夜に美しき三日月の宵……今夜こそ、私達黒猫の夜よ!」
「今日は私達と君達だけの聖なる夜。White Cat Night!」
眩くも鮮やかな乳白色と黄金色のライトに照らされた少女二人が天を指す。
瞬間、わぁ!と一体で盛り上がるステージ。
「やっぱり、ホワイトキャットシスターズ最高だよぉ……」
「でしょでしょ!ホワキャすっごいんだから! かっわいいー!こっち向いてー!」
踊っているうちに観客とぶつかってしまうのではと思う程、小さな舞台。
キーボードとステージマイクだけを手に、目一杯声を張る二人が声を重ねて歌いあう。
「今宵の月が私を照らす 月白の魔法は今夜だけ――」
「にゃあ にゃあ にゃあ アイを囁く私の声、アナタの耳に届いてますか――?」
観客の手中で輝く猫型のライト。
ふわ、ふわ、と歌詞に合わせて月色に。愛を詠えば桃色に輝く様に、二人の少女は愛らしい笑顔を振りまいて。
今宵もまた最高のライブが紡がれる、はずだった。
『迷えるお前達よ……染まれ。我が魔眼の黒き波動 悪しき華よ咲き誇れ――!』
少女らしい二人のソプラノを上書く、ビターな声。
キーボードを掻き消す重低音が心臓を揺らし、明滅するペンライトが目を惑わせる。
ぶわりと空気が塗り替えられた。
『今宵は我等の黒き夜……ああ、この渇きはお前達の甘美なる悲鳴でしか癒されない』
「なにあれ……ちょーかっこいい」
「ホワキャより全然いーじゃん……」
均整の取れた体を包む黒いドレスは愛らしく、鮮やかな青髪は清廉で。しかし、その艶やかな紫眸だけは妖艶な輝きで室内を満たす観客を絡め取っていた。
『我が黒き波動を受けし僕よ集え!明日無き夜を永久に……ミサと紡ぎましょう?』
まるで御伽の笛吹きのように、颯爽と現れた黒衣の少女―ミサこと山田・美咲―は人々を連れ去った。
ただ二人、全てのファンを奪われ涙のまま気絶した少女達を残して。
●
机の上には簡潔な箇条書きの資料と温かいお茶と、可愛らしい猫型のペンライト。
お集まりくださりありがとうございます、と漣白・潤(滄海のヘリオライダー・en0270)と集まった面々が席に着いたところで説明が開始される。
「アイドルとして地球社会に潜伏していた螺旋忍軍の動きが確認されました」
件の螺旋忍軍は現在、他のアイドルのライブへ乱入し罪もないファンを略奪し連れ去ろうとしている。
連れ去られたファン達は山下・仁(ぽんこつレプリカント・e62019)が危惧していたように、この計画を企てたシャイターンの元へ送られシャイターンによる選定の材料とされてしまう。
「皆さんにはファンの略奪阻止、及び螺旋忍軍の撃退をお願い致します」
件のライブハウスにはホワイトキャットシスターズ、という二人の少女がステージ端で気絶させられていると潤は告げる。
ガールズバンドということで恋愛に関する愛らしい曲が多く、ふんわりとしたホワイトロリータに身を包みながら、ライブハウス内を満員にするほどファンを集めていたという。
「この二人の曲を上書きするように、螺旋忍軍の山田美咲……いえ、ミサはメタルな曲がジャンルなようで」
アイドル螺旋忍軍 ミサが幻惑を込めたメタルな曲で観客の判断力を酔わせ、付き従う二体のオタゲイジャーがより強く洗脳を促すことにより、いとも容易く数多の人々を掌握し誘拐してしまう。
「会場を満たす一般人は、皆さんが到着した時既にミサの手中です。よって、ミサはオタゲイジャーに皆さんを押さえさせ、自身はファンを連れての離脱を最優先事項としているはず」
ここで取り逃せばより多くの犠牲を生む。
それを阻止する方法はたった一つだと、潤は前置いて。
「まず、皆さんには“アイドルとして”会場に乱入していただきます」
静かになる室内。
スッと差し出される人数分のマイクと、何故か妙に輝いている潤の目。
「会場の一般人は螺旋忍軍に幻惑されている為、正常な判断力は失われています。ですが、その分『アイドルの魅力を判断する能力』が高まっているのです……!」
最後めっちゃ力入ってる。珍しく拳とか作ってる。
ぴっかぴかな瞳の潤が、皆を見た。
「なので、皆さんにはアイドルになっていただきます!」
詳しい説明は資料に綴られていた。
アイドル螺旋忍軍 ミサを上回るパフォーマンスで一気に観客を奪還することで、ミサのお役目である観客攫いが阻止される事は勿論、お役目を果たせなければミサも帰れない。
よってミサ自身再び観客を奪還するため会場に残らざるを得なくなることで、ミサの撤退の阻止にも繋がる。
つまり一石二鳥です!潤は胸を張っていた。
だが同時に、全力のパフォーマンスを行わなければファンの心はもとより命さえ守れない。失敗はミサの逃走とファンの死に繋がるのだと、最後に念押しが成された。
「本星を失い困窮する螺旋忍軍を利用するシャイターンは、恐ろしいもの……ですが」
皆さんなら、きっと大丈夫です。どうかお気をつけて……!と、ぴかぴか虹色に光らせたペンライトを振る潤が、皆を送り出す。
参加者 | |
---|---|
リティア・エルフィウム(白花・e00971) |
隠・キカ(輝る翳・e03014) |
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771) |
輝島・華(夢見花・e11960) |
月岡・ユア(孤月抱影・e33389) |
ドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117) |
綿屋・雪(燠・e44511) |
刈安・透希(透音を歌う黒金・e44595) |
●さぁ!
ィン、と締められたギター。
一瞬訪れた静寂の中、ミサの指がマイクを滑り艶やかな唇が囁き笑う。
『我が黒き波動を受けし僕よ集え!明日無き夜を永久に……ミサと紡ぎましょう?』
「だめだよ。アイドルは、みんなを笑顔にするの……!」
湿った夜のようなミサの言葉を阻止したのは鈴転がすソプラノ。
全てのライトが落ちて騒めく中、バッとミサが周囲へ視線を走らせた瞬間――……。
突如ライブハウスの扉が照らされる。
バンッと勢いよく扉が開くと同時、観客の視界をジャックしたのは真白い花。
「とどけたい 君にだよ♪」
輝島・華(夢見花・e11960)のライドキャリバー ブルームには大輪の百合や飛沫のように華やかなカスミソウ。かわいらしいデイジーと、同じ花を飾った隠・キカ(輝る翳・e03014)と華が腰掛けていた。
まるで花の妖精のような二人の姿に観客の瞳へ興味が宿る。
『な、なによ貴女達』
「たったひとつ、僕の音♪」
観客の間を走るブルームに乗ったまま笑顔で歌うキカと華、そしてキカの相棒キキの帽子には白から青へ色流れる薔薇が咲く。白金と淡紫の上で揺れる度に散る香りが、ステージへ赴くまで全ての視線を縫い付けて離さない。
ステージへの軽やかな着地は揃いのヒールを鳴らして、レースに包んだ掌で手拍子!
揃いの衣装はフリルたっぷり。くるりとターンでふんわり揺れて、望洋としていたファンの瞳を徐々に明るくする。
「La、La、La きみときらきらしたいの♪」
「いっしょに歌って いっしょにスマイル♪」
二人が到着した舞台の上、猫の着ぐるみの綿屋・雪(燠・e44511)がジャンプ!
キカと華と同じく真っ白もこもこな愛らしさに“きゃあ!”と歓声が上がれば雪はもっとジャンプ!
観客席最前線。七色ライト携えたリティア・エルフィウム(白花・e00971)がペンライトを優雅に振るえば視線を惹く。
「ひゅーう!!鋼鉄アイドルブルームの登場ですー!!きぃちゃーん!はなちゃーん!ゆきにゃーん!」
洗練されたペン捌きに弾けるリティアの笑顔。
かわいい。非常に可愛いのに隠されず溢れるオタみ。カタカタとリティアの横で震えていた男達が、スッと頭上でペンを構えた。
「き・い・ちゃーん!」
「は・な・ちゃーん!」
「ゆ・き・にゃーん!」
魂が抑えられないと言わんばかりのコール!
パァン、とリティアとオタ芸を披露した男たちが固い握手を交わしたのは一瞬。鋭く向き直り背筋を正すや、合図無しで妙に揃うキレッキレのペンライト。
そんな様子とコールに微笑み零したキカと華が手を振り、バケツヘルム越しでもぴるぴる震える光翼に照れの見える雪がにゃんにゃんと招けば更に沸いて。
『は?!ちょっと!』
「うぉおおおおかわいいーーー!!」
ミサの叫びは雄叫びに消える。
うそでしょ。と震えたミサが乱入した三人をギッと強い視線で睨み付け。
『アンタ達、ふざけてんじゃ――』
「そう、“本当”こそここにあるんです」
『は?!』
カン、と暗くなる室内。次に照らされたのはフリル可愛らしいインバネスコート纏ったドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117)。
目深に被っていた帽子の鍔を引いて、視線を上げた。
「私の愛が届かないなら せめてあなたと沈みたい」
180度反転した雰囲気に会場が息を呑む。
ドロッセルの銀髪がライトに透け、黄金の瞳が妖しく弧を描いた瞬間――、どぉんと心臓震わせる勢いで反響するピアノの低音。
先の甘い空気感を払拭するように紫のライティングが奔れば、どよめく観客の湧きが大きくなって。
「ああせめて彼岸の向こうでは 一緒にと――……指切り交わして呪う想い」
少女らしさを残しながら艶めく声。
掻き抱いたマイクに魂を込めるように歌い上げれば、後押しするように彼岸花色に光るペンライトを振るうリティアと先程固く握手交わした男達のオタ芸が、花のように輝く。
咲いては散るその技は、しっとりとした曲に合わせながらもリティア達の後押しも有りアイドル性を失わないどころが、観客の目により魅力的に映る。
「すっご……」
「なんか、こっちのが楽しくない?」
ざわめき、さざなみ、どよめいて。
徐々に徐々に会場が一体になっていく。あの子可愛かった、あの子の声すっごく良い、もう一回聴けるかな?と観客は次々ミサの下から去っていく。
『待って、ミサの……今宵こそ我が黒き波動受ける夜であろう、しもべっ――!』
「やーまださん?」
呼ばれた本名にミサ――否、山田・美咲は目を剥いた。
ミサ自身決して晒したくはない本名で、特にありふれた名字の方で呼んでやれば、燃えるような瞳で東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)を強く強く睨み付ける。
あまりに想像通りの姿に苺が喉を鳴らして笑えば、更に強くなった視線はいっそ人でも殺しそうなほど。大凡、“アイドル”のする目ではない。
「山田さん、それアイドル顔じゃないよね?」
『うるさいわよ』
平静を保とうとするミサが鮮やかな青髪を払った時、苺も倣うように豊かなツインテールを翻す。
薔薇やダリア、サザンカなど季節の花が惜しみなく咲いた白基調の和風ロリータも合わせるように揺らして駆けたのはステージ。手を伸ばすミサもミサを守るように立つオタゲイジャーも置き去りに、光の下へ。
「さあ、盛り上がっていくよー!」
弾ける愛らしさはプリンセスモード。響く曲は愛らしいアイドルソング。
わぁー!っと上がる歓声。煌びやかなライト。沢山の笑顔は絶えず、テンポに合わせ揺れるペンライトの鮮やかさに、突入した時と変わらず舞台を盛り上げるキカは思う。
この応援してくれる人々がいるからこそ、アイドルも笑顔になれるのだと。
「みんなの応援、もっとききたい!楽しい気持ち、きぃ達に教えて!」
キカのフェスティバルオーラが弾けた瞬間、その魅力以上に室内の興奮は最高潮に達し、キカや華、ブルームに雪、ドロッセルや苺へのコールは収まるところを知らず次第にファン達の声は揃っていくばかり。
ミサは思う。狭い室内ゆえに遠くなどない筈なのに、何もかもが遠いと。
全ての歓声が反響する煌びやかな世界とは程遠い暗がりで、乱入者の名しか呼ばれない舞台に腹が立つ。
振り返りも一瞥さえしない、所詮はエインヘリアルの材料でしかない人間に腹が立つ。
苺へ向けはくりと開かれたミサの唇はもう閉じ、今は噛みしめられていた。
ミサの下に残っている人間はたった数人。これでは自身を遣わせた者に認められないことなど、母星への帰路無き自身が成果を上げぬ撤退など許されないことなど、分かっている。
ならばミサ自身に残された道はただ一つ。
『集え』
薄明りに潤んだままの紫眸で、ミサは歌う。
深く息を吸って絡め取るようにビターな声を合図に、視線を惑わすオタゲイジャーのペンライトが妖しく揺れる。
『我が僕。今宵こそ真の――……黒き宴に相応しい! 恐れず夜とっ、私と踊れ!』
「こっちも聴けよ」
「――命を賭けようか」
空を裂くギターの音。
土砂降りのように激しく、しかし心惹く鋭いドラムがミサの声を貫く。
ミサと真逆。舞台上で凛と立つのは二対の金。
すらりとした長身に細身を颯爽と魅せる刈安・透希(透音を歌う黒金・e44595)と、揃いの黒革ジャケットを纏い透希と真逆の愛らしい装いの月岡・ユア(孤月抱影・e33389)。
『まだ居たの』
「勿論。今夜はただ一夜……永遠の夜なんか無い!」
「ボクの見えるトコで死を与えようとした愚かな君達こそ、永遠の夜と死が相応しい!」
透希とユアを照らしているのは真白い一筋の光だけ。
花も星も無く、あるのは凛然とした心攫うほど美しい空気。
つい、と視線を落としたミサ舞台を指差した。瞬間、観客を飛び越えたオタゲイジャーが手中のペンライトを逆手に持ち。
『破壊を。我紡ぎし今宵は決して終わらせない!』
透希とユア目掛けて振り下ろす。
●歌え
「さー!この後を楽しむ為に、皆!後ろに下がってて!」
ライトにきらきら星夜の如く輝いたのはユアのドレス。
スタイリッシュモードの煌めきはしっかりと人々の心を掴み避難させる。
「マカロン、みんなを守って回復優先してねっ」
「くるる」
「行きますわよ、ブルーム!」
飛び込んでくるオタゲイジャーへ立ち向かったのは苺のボクスドラゴン マカロンと華。
ユアへ向け叩き込まれる青のペンライトは天照の名を冠す華のバトルオーラとぶつかり合い、透希の前に飛び出したマカロンの身や抱えた本に青いペンライトが叩き込まれるも、一人と一体は決して怯まない。返す様にオタゲイジャーの下へ踏み込んだのは淡い水色と朱い瞳が目を惹く小竜。
「オタ芸なら負けませんよ!」
「ぴぁ!」
言葉と共にリティア手中で練り上げたのはペンライト型の気。突き出す様に発されたそれは噛み付く様にオタゲイジャーへ喰らい付き、添うように飛んだエルレのタックルも合わさりオタゲイジャーは乗りかけた舞台から突き落とされる。
「同じアイドルだからこそ、正面から受けて立つってね!」
「くるっ、るぅ!」
ミサの下へ飛び込もうとする苺の前に立ちはだかるのは屈強なオタゲイジャー。ならば、と呼吸整えた苺はより傷付いた一体へ小柄な体躯を活かし潜り込む。拳に込めたのは地を裂くほどに純粋な力のみ。
『……ッ!?』
仮面の下から悲鳴は上がらない。
オタゲイジャーの喉からカヒュッと漏れた息だけが苺の耳に与えた衝撃の威力を伝えれば、合せるように吹き付けられたマカロンのブレスがオタゲイジャーの足に絡む戒めを深く刻み込んだ。
次いだユアのヒールが舞台を越えてホールを軽やかに奏で、ライトに閃いた鋼は猫爪月の如く。
「月光の一閃、体で覚えるといいよ」
「きぃ達は、まけないよ」
白く細いキカの手が取った黄金の実りが前衛を加護の輝きで照らし出せば、輝きの向こうからドロッセルが星光宿したエアシューズで駆け、雪は半身を鋼と鬼とした拳を振り上げる。
「死ぬまで私と、踊りましょうか」
「あいどるは、きっと、ゆめなのです。そのゆめを、こころを、利用はさせません」
頭部に鋭い一蹴。
顎を殴り上げる鋼拳。
吹き飛ばされたオタゲイジャーが、どうと沈み二度とは起き上がらない。
『っ、そんな程度で潰れるなどっ!我が僕よ暗き輝きを授けよう』
残るオタゲイジャーの身へ花のように咲いた黒傘に盾の加護。
構え直そうとしたオタゲイジャーの死角。迫った透希が叫ぶ。
「その輝きは誰の為だい?ファンの為でないのなら、アイドルを名乗るな!」
獣化した透希の利き手に絡む重力が、人ならざる力で盾ごとその身を打ち据えた。
ギリと歯を噛むミサは徐々に傷だらけ。
同じくどころかそれ以上に傷だらけでも、時に往なし揮う拳に迷いのないオタゲイジャーが粘り続ける――……が、攻撃に特化したオタゲイジャーに回復量の少ないミサと、連携に秀でたケルベロス達では雲泥の差。
治せども治せども嵩を増し続ける傷には、全てが焼け石に水。
『我が声に酔いしれ暗闇を惑うがいい。明けぬ夜、永久の夜、闇夜を永遠に!』
苺達後衛陣を狙うように紡がれたミサの歌声が紫色の譜面を紡ぐ。
絡みつくようにキカへ迫った譜面へマカロンが身を挺し、苺の前にはブルーム、ドロッセルには華が付き守り抜く。
「マカロン……その思い出を、きぃに貸してね」
幾度も身を挺し続け、痛みに震えるマカロンに癒し手のキカが壊れ物を扱うように触れた。
優しい指先が呼び起こす甘やかな記憶を一人と一匹で共有すると同時に深い傷と痛みを夢幻と拭ってゆく。
『っ、オタゲイジャー!』
「その技、さっきよりキレが落ちていますね?」
畳み掛けるように飛んだミサの指示。
血塗れの体を厭わずマカロンへ拳振り上げたオタゲイジャーの頭上で、ちっちっちと指を振ったのはオタ芸で張り合い続けたリティアだった。
「その程度で緩むなんて、ファン失格です! そいや!」
パァン!と張り出される平手突きは張り手に似る。
間髪入れずに、そいや!そいや!と連続で突き出されたリティアの張り手砲は、オタゲイジャーを現世の土俵から突き飛ばした。
残るは、眦吊り上げたミサのみ。
『我が魔眼は呪いの魔眼。その命を刈り取る死神の目!』
ミサが指の隙間からキカを睨み据えれば、キカが気付く前に華が割り入り身を挺す。
どんどん傷付く衣装は口惜しい。が、今成すべきはただ一つと華はしっかりと胸を張り。
「華……!ありがと、華。華のおかげで、こわくない」
「わたくし達、アイドルですもの!さぁさ綺麗な花吹雪、楽しんでくださいませ!」
微笑みあって手を取り合えば、心は無敵。
華が手を伸ばした瞬間、ミサの頭上でミサとは真逆の真白い花が咲く。目を見開いたミサが避けようとした時にはもう遅い。花弁一枚一枚に込められた追尾の魔術は、逃げ惑う者を決して逃しはしないのだから。
『ッ、う……!我が、声をっ』
「あなたのうたは、うたいたかったうたですか?」
鋼のヘルム越しに幼い声がミサに問う。
痛みに歯を食いしばる唇は、決して答えなかったけれど。
「あなたをかざる――」
「さぁ、断ち切りましょう」
雪に合わせたのはドロッセル。
ぬらりと照る刃に乗せた暗き呪いが、身を塗り替えるささめゆきに苛まれるミサを断つ。
『ハッ、―――この、我を……不遜なる犬め!』
「その徹底さはアイドルかな。でも……目を逸らすな、私は此処にいる」
「この僕を否定するのなら、その命を差し出す勇気はあるかい?」
透希とユアの声重なれば金満月。Lunariaとなった二人の声鋭く、透希の紡ぐ揺らがぬ自身とユアの紡ぐ反逆が刃のようにミサの内を刻んでいった。
『―――、』
それでもまだ、立つ。
煌々と燃える瞳で、震える手足で、未だ。
「うん。ミサ……山田さん、さあ最期までアイドルとしてぶつかろうか!」
不屈を見せたミサ―山田・美咲―に苺がわらう。
幾度も拳も視線も一蹴も交えたのだから、最後は相棒と共に。
「よーしマカロンと一緒に踊っちゃうよー」
小さな手を取り合って刻むステップはタイフーン。
笑って笑って、アイドルならば。
『我が声に、竜巻など効かぬ!』
「マカロン行くよーっ」
ぶん、と。
飛んだのが苺かマカロンかのどちらかは分からない。
ただライブハウスの床に沈んだのがミサであることが、ケルベロスの勝利の証。
作者:皆川皐月 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年10月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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