姫巫女たちの清雅なるひととき

作者:藍鳶カナン

●姫巫女の受難
 秋のさなかにも緑の美しい竹林の奥には、神社が――。
 もとい、神社っぽい(あくまで『っぽい』)佇まいのカフェがあった。
 御品書きは抹茶と季節の和菓子、そして、姫巫女と呼ばれる給仕たちが雪のように真白な白磁の瓶子からお神酒っぽい(あくまで『っぽい』)雰囲気で注いでくれる米サワー(勿論ノンアルコールだよ!)。御品書きに記された店名は『姫巫女カフェ』といった。
 巫女装束――いや、巫女ドレスとでも呼ぶべきか。
 純白の白衣に千早を纏い、そこに緋袴ではなく、パニエでふっくらさせたフリルたっぷりロリータ・ファッション風の緋色のスカートを合わせた、いわゆる和ロリ巫女衣装を纏う『姫巫女』たちが給仕してくれるカフェ。
 その天井裏で今、二人の螺旋忍軍が感激のあまり身悶えしていた。
「和ロリ巫女……これぞ地球の、否、全宇宙の至宝でござるよ……!!」
「拙者拝みたい気持ちでいっぱいでござる……! して、狙いはあの姫巫女でござるな? あの、年の頃十八と見える……」
「おぬしとは美味い米サワーが呑めそうでござるな! 十八歳……そう、少女の瑞々しさと女性のあでやかさ、両方の魅力を相反することなく併せ持つ至高の年頃……!!」
「完っ璧でござるよ。あの十八歳姫巫女を洗脳して改造すれば、どのデウスエクス勢力にも高値で売れること間違いなしでござる……!!」
 固く頷き合った直後、彼らは天井をぶちぬき、カフェへ突入した。
「ヒャッハー! この十八歳姫巫女はいただいていくでござるー!」
「他の者は用無しでござるよ! 逃げるならそれで良し、刃向かうならお命とグラビティ・チェインを頂戴するでござる!!」

●姫巫女たちの清雅なるひととき
「これってつまり『エイティーン』案件だよね?」
 事件予知を語った天堂・遥夏(ブルーヘリオライダー・en0232)は、続けてずばんとそう言ってのけた。
 敵は螺旋忍軍の『影羽衆』。サブカル系の美少女や美少年を攫って、洗脳と改造を施した上で他のデウスエクス勢力へ売り渡さんと目論む者たちだ。しかし事前に避難活動を行えば影羽衆の標的が予知にないところへ移ってしまうだけ。
 従って、現場の一般人達を避難させるのは敵の出現後。
 一般人達の安全性を高めるため、この影羽衆の好みどストライクな『十八歳の姫巫女』にケルベロスが扮して彼らの狙いを惹きつける囮になるのが望ましいというわけだ。
 姫巫女カフェには既に話も通してある。
「ずばり十八歳のひとが行けるなら是非囮をお願いしたいところ。十六から二十歳くらいのひとならちょっとした工夫で十八歳に見せられるだろうし、姫巫女の衣装が巫女ドレスって感じだから、防具のドレスにお店の衣装を重ねるなりすれば防具特徴の『エイティーン』で年代が違うひとも十八歳姫巫女になれるしね。囮が複数いれば確実性もあがると思う」
 勿論、全員が姫巫女に扮する必要はない。
 他のケルベロスは姫巫女カフェの客となって敵を待ち受けるのだ。
 ケルベロスが客として卓を埋めていればそれだけ危険に晒される一般客が減るのだから。
 但し、サーヴァントやファミリアは影羽衆が現れるまで店のバックヤードに潜ませるべきだろう。姫巫女に扮するケルベロスも目立つ武器はテーブル下などに隠すのがベター。
「あ、でもお客さんになるひとは武装したままで大丈夫。『ほほう、コスプレ客も来るのでござるな!』ってあっちで勝手に納得してくれるから」
 何かちょっと憎めない感じの敵だった。
 だが勿論しっかりばっちり撃破しなければならない敵である。
「予知の光景で彼らが言ってたとおり、影羽衆は標的以外の一般人は逃げるならそれで良しって思ってるからね、影羽衆が現れた時に囮作戦が成功してたら、現場の一般人たちには『逃げろ!』って声かけるくらいで大丈夫」
 避難誘導に手を割くよりは戦闘を優先して、と遥夏は続けた。
 姫巫女カフェの店内で戦うことになるため、ある程度の物的損害は仕方がない。
 戦場を移そうとしても店の被害が大きくなるだけ。だが手早く敵を撃破出来ればそれだけ店の損害を抑えられるはずだ。
「相手は螺旋忍者の技を使うジャマーと螺旋手裏剣の技を使うスナイパーが一体ずつ。頭が切れるタイプには見えなかったけど、個体の能力で考えれば格上の相手。だけど、あなた達なら油断なんかせずに確り勝って来てくれる。そうだよね?」
 挑むような笑みに確たる信を乗せて、遥夏はケルベロス達をヘリオンに招く。
 さあ、空を翔けていこうか。緑の美しい竹林の奥に佇む、姫巫女たちのカフェへ。


参加者
真柴・隼(アッパーチューン・e01296)
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)
織原・蜜(ハニードロップ・e21056)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)
梅辻・乙女(日陰に咲く・e44458)

■リプレイ

●姫巫女たちの清雅なるひととき
 ――神様なんて大嫌い。
 現役巫術士たちの前ではとても言えない、そして、葉擦れの音色もさやかな竹林の奥へと鎮座するこの神社(っぽい佇まいのカフェ)の『姫巫女』に似つかわしくない想いは胸奥に秘め、愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)が純白の千早の下に纏うパニエ入りスカートと揃いの緋色リボンできゅっと髪を結わえた、瞬間。
 瑞々しい光が神社(っぽい佇まいのカフェ)の片隅に満ち溢れた。
「こ、これが……十八歳の私、か?」
 眩い煌きは『エイティーン』発動の証。梅辻・乙女(日陰に咲く・e44458)が鏡に写った何処かあどけない姫巫女の姿に瞬いて、怨霊の狂気に囚われていた頃の見知らぬ十八の己の髪に紅千鳥の花簪を、
「いいねー、目尻の朱と花簪の紅梅がすごく乙女に似合ってるや」
「素敵ですね~。ルードヴィヒさんも射干玉の黒髪ロングがとってもお似合いですよ~」
 挿そうとする手が戸惑う様に気づき、すいと挿してやった青年――もとい十八歳姫巫女なルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)が破顔する。姫巫女たちの輪に混じるのが姫巫女観賞の最前席! と気合も新たになれば艶やかな黒髪(ウィッグ)がさらりと揺れ、柔らかに微笑んだ鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)の月白と浅葱の和ロリ巫女風な舞装束の裾から『エイティーン』の名残の煌きと銀狐の尾がふわり。
「紗羅沙さんは水の姫巫女って感じの色合いですねぇ!」
 彼女の衣装は自前だというから着こなし抜群なのは然もありなん。ひっそり見習いながらリティア・エルフィウム(白花・e00971)は、白きボクスドラゴンに着せた千早の飾り紐をひと結び。
「これでエルレも姫巫女ですよ! ポンちゃんもどうですか~?」
「あっ……! ぜひぜひ、なのですー!」
 皆の可愛い姫巫女姿に思わず『あおーん!』と叫びかけたのをぐっと堪えたミライは己が箱竜を手招いた。二匹になった小さな姫巫女たちに見送られたなら――いざ出陣!!
 美しい丹塗りの鳥居(っぽい門)を潜り、流造の拝殿(っぽいカフェ)へ昇殿したなら、参拝客(来店客ともいう)は麗しの姫巫女たちに迎えられて、
「やだもう、なんてステキなの!? みんなとってもKA・WA・I・I☆ わ~!!」
 華やぐ声で織原・蜜(ハニードロップ・e21056)が咲かせた歓声は心からのもの。途端に頭上で『ガタッ!』と音が響けば、既に席へと着いていた櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)や真柴・隼(アッパーチューン・e01296)と密かに頷き合う。
 ああ、天井裏で今、
『和ロリ巫女……これぞ地球の、否、全宇宙の至宝でござるよ……!!』
『拙者拝みたい気持ちでいっぱいでござる……!』
 影羽衆たちがそう身悶えする様が眼に浮かぶよう……!!
「いらっしゃいませ、確りお勤めさせていただきますね! 悪霊祓いとか、瓦割りとか!」
「あぁ~ん! 可愛い姫巫女さんが瓦割りなんて、ギャップ萌えしちゃうわ~!」
 取りあえず和風っぽいことを――と榊の玉串を振ってみせる姫巫女リティアに蜜が満面の笑みで合わせれば、機転では負けない現役ホスト・隼も破顔一笑、
「あの子、新人さん? 元気な姫巫女さんも可愛いね~、君たちと同じくらいにさ!」
「ありがとうございます~。今後ともぜひ御贔屓くださいね~」
「は、はい。よろしくお願いするよ……じゃない、します。ご注文を伺います、ね」
 和やかに会釈する姫巫女紗羅沙が浅葱色の裾とレースから覗かせる絶対領域の瑞々しさ、そして目尻に差した朱が艶っぽい姫巫女乙女の面映そうな微笑みにたっぷり眼福をもらい、裏で待つ弟分に思いを馳せる。
 ――許せ地デジ、後で一緒にスリーショット撮ってもらおうな!
 だがそのとき隼は知る由もなかった。
 彼のテレビウムはバックヤードで今、リティアとミライの箱竜、即ち姫巫女っぽい衣装を着せてもらったかわいこちゃん達ときゃっきゃうふふしていることを……!!
「わ、千梨さんは今日も気合いっぱいですね……!」
「何、姫巫女に逢うならこれくらい当然でござるよ」
 立ち姿は嫋やかな花を意識して、けれど笑顔は天真爛漫に、姫巫女ミライが白磁の瓶子を手にすれば、白地に黒の括り緒を取り回した狩衣(風コート)でコスプレ常連客になりきる千梨は姫巫女を拝み、ありがたくお神酒(っぽい米サワー)をいただいた。その瞬間、彼に何者かの視線が突き刺さる!
 茶色の小鳥さんがみてる。ファミリアがバックヤードから微妙な呆れ顔して超みてる。
 弟子にチクったりせんでくれよ――と祈るような心地で傾けた盃からとろりしゅわしゅわ口中へ流れこむ米サワーは、微発泡の瑞々しさと米の甘味のあでやかさが融けあうよう。
 ――ハロウィンの魔女も騙したこの女優魂で、楚々とした姫巫女を演じてみせるよ!
 心の中で固く拳を握りつつ、ルードヴィヒが浮かべるのは奥ゆかしき大和撫子の笑み。
 背の高さも低い声も、それをほんのり気にする乙女として控えめに振舞ったなら、姫巫女ルードヴィヒもばっちり清楚な十八歳。なお彼が昨年のハロウィンに魔女仮装で騙したのはパンプキョンシーであり、緑の魔女は現れなかったのだが、それはまた別の話だ。
 白磁の瓶子を手にしずしずと歩めば、
「それじゃ手裏剣投げ行きますねー! そいやっ!!」
「手裏剣!?」
 いきなり始まったリティアの手裏剣投げ(折り紙製)に思わずつんのめりかけたけれど、外国人客に『オー! シュリケンヒメミコ、スバラシイネー!』と大ウケしている様に気を取り直す。傍らでさらりと靡いたのは緋色リボンで括られたミライの銀の髪、
「私、リティアさんのヘルプに行ってきますね……!」
 掛ける言葉もいかにも同僚へのそれっぽく、己の魅せ方を心得たアイドルの本日の挙措は清らで優雅。皆可愛いなぁとルードヴィヒは心の中で笑み崩れつつ、
「私も姫巫女の衣装、着てみたいわ! もう二十代半ばだけど、まだ行けるかしら?」
「ふふ、お客様ならきっとお似合いです。楽しいですよ、とっても」
 普段からお手入ればっちりな美貌でわくわく訊ねるオネ兄さんな蜜へ淑やかに笑み返し、お神酒(っぽい米サワー)を静かに酌む。
「しゅ、手裏剣姫巫女……萌えとは奥が深いんだね」
「やー、個性的なのも魅力だよ! 俺は誰推しとかないから! 全員可愛いから!」
 背筋をぴんと伸ばし、腰から広がる緋色スカートのフリルを膝の辺りでふんわり揺らし、抹茶と和菓子を運んできた乙女が呟けば、さりげなく店を見渡す隼が上機嫌でそう応じた。
 姫巫女たちは清さとエロもとい艶っぽさの匙加減がもう最高、愛しの彼女にも似合うこと間違いなしだが、お願いしようものなら明け色の瞳が冴え冴えと冷えていく様がありありと眼に浮かぶ。
 お月様の色した栗餡の菓子を彩る紅葉は、ほんのりと透ける紅や緑の柿羊羹や抹茶羊羹を型抜きしたもの。黒文字で切り分ければ秋らしい彩りが更に映え、口に運べば秋をたっぷり堪能できる甘さで、微かに口許を綻ばせた千梨の眦が、あえかに舞った香りにも緩んだ。
「ほう……今日の薫物は菊花の香でござるか」
「流石は千梨さん、聞香もばっちりですね~」
 紗羅沙が水色香炉で慎ましやかに巫女衣装へ焚きしめた香り。気づいてくれたお得意様に花咲く笑みで振り返る様を装えば、水晶の鈴が竹林のさざめきに融けるように小さく鳴る。
 次の瞬間、唐突に天井が破られて、
「皆、逃げて――!!」
 凛と響き渡ったのは、紗羅沙の声。

●姫巫女たちの溌剌なるひととき
 忍びのくせに派手に天井をぶちぬいて現れた二人は勿論影羽衆、浅葱色リボンを咲かせた紗羅沙の腰を一人が攫って、
『ヒャッハー! この十八歳姫巫女はいただいていくでござるー!』
『色々目移りしたでござるが、他の者は用無しで――って、何っ?』
 同時にもう一人が螺旋手裏剣を構えたが、その途端バックヤードからばばーんと飛びだす四つの小さな影! サーヴァントやファミリアの乱入に敵が気を取られた隙に、
「御逃げなさい、慌てないでね」
「お目が高い、その姫巫女殿は拙者の推しでござるよ」
 穏やかな微笑みと落ち着いたイケボを惜しみなく振舞う蜜に促され、一般人達はさくっと避難。彼らを背に護る位置取りからふわりと距離を詰めた千梨の狩衣の袂から舞った銀色の粒子に包まれ、今にもお姫様抱っこされそうだった紗羅沙が懐から銀狐の霊符をするり。
「咲く花を手折る悪漢であれば、容赦はいたしません」
『ぬわー!? 姫巫女様からお仕置きをいただいたでござるー!!』
 幾重にも超感覚を覚醒させる千梨の術は効果覿面、至近で紗羅沙が召喚した氷結の騎士の一撃で影羽衆が盛大にぶっ倒れれば、
「様がついた!? それじゃ私も、巫女っぽくいっちゃうのです!」
 天使の翼を広げたミライが九字手印を(何となく)切って狙い澄まし、超弦理論に基づく魔法で追撃! 相手を構成する『超ひも』の振動を停止、要するに何やかんやで足止めする術をぶっこまれた敵が『おぬしら、ケルベロスでござるな!』と悟れば、
「大正解! 楽しいお仕事中にお邪魔様っ!」
「キミ達のような同志とは、別の形で出会いたかった……!」
 敵の視界を遮るように千早の袖と天使の翼を翻すルードヴィヒが神殺しの星を撃ち込み、その陰から跳躍した隼が虹の蹴撃を直撃させた。同時にぴかーっと光るテレビウム。
『おのれケルベロス、拙者たちの改造美少女売りつけ大作戦を邪魔するでござるか!』
 刻まれた怒りと氷結の螺旋を隼へ炸裂させた影羽衆に乙女は瞬きひとつ。
 いくら魅力的だからって攫うなんて――と思っていたが、逆なのだ。
 影羽衆は姫巫女の魅力に参って攫おうとしたわけではなく、他勢力により高く売れそうな美少女を攫うべく品定めしていたのであり、選ぶ基準が個人的好みに振りきっていただけ。まず拉致ありきなのである。
「と、ともかく……それなら尚更、退場してもらうよ」
 凛と解き放った殺戮衝動は、後衛陣に破魔の力を授けるもの。
 忍術使いのジャマーから倒すのが皆の策、だがもう一人を放置するのではなく、
「ねぇ貴方、ちょっと差し向かいで姫巫女の素晴らしさについて語り合いましょうよ」
『何!? 望むところでござるぶぁー!!』
 明るい蜜の声に思いきり振り返った手裏剣使いの腹に完璧な狙いの轟竜砲が決まる!
 蜜を含む後衛陣をめがけて降りそそぐ手裏剣の雨に護り手たちが跳び込めば、
「隼くんには私ががっつりヒールをぶっこみますねー!」
「それなら私は、広く癒しと護りを!」
 真白な眩さで降りそそぐリティアの光が輝きを共鳴させつつ隼を抱擁して、磨きこまれた板張りの床を奔った乙女の黒鎖が守護魔法陣を描きだす。いずれの術も癒し手の浄化を孕むもの、癒し手たちに篤く護られつつ、巫術士たちの熾炎業炎砲が炎を燈しオラトリオたちの時空凍結弾が齎す氷に重ねる皆の攻勢がみるみる忍術使いを追いつめる。更に、
「さて、姫巫女の神楽でなくて悪いが」
 こいつにも付き合ってやってくれ、と千梨が解き放った小鳥が翔けめぐれば一気に新たな炎や氷に包まれて、敵は堪らず分身を纏ったが、
「悪いね。結構効くんだよ、殺神ウイルスってのはね!」
 癒しがウイルスに弱められる様にルードヴィヒが悪戯な笑みひとつ。
 即座に織り上げたのは一陣の風、神速の風刃が自陣最高火力で今の癒し以上に忍術使いの命を削れば、
「行きますよエルレ! 一緒に姫巫女アタック!!」
「あっ! 姫巫女アタック素敵なのです、ポンちゃんもお願い!!」
 癒し手の破魔を重ねてリティアが蹴り込む幸運の星、乙女に授けられた破魔を乗せて揮うミライの拳、そして小さな姫巫女な箱竜たちの突撃が三重の分身を砕きにかかった。
 個体能力では影羽衆が上。だが、姫巫女同士の絆と彼女たちを尊ぶ常連客の一体感という普段以上に強固な連携を築きあげたケルベロスたちが彼らを圧倒する!
 肩に喰らった螺旋掌の圧を序盤にリティアが描いた星の聖域で克服し、隼は神速の稲妻で忍術使いを貫き通す。彼もまた同好の士、なれど今生は戦う定めであったから。
「来世は一緒に、美味い米サワーが飲める事を願ってる……!」
『姫巫女様のお酌で……頼むでござる……!』
 手向けの言葉を贈れば、ぐっと親指立てて同好の士は散り消えた。
 一方、胸に手裏剣使いの毒を喰らった蜜は、流れるように乙女が翳す喰霊刀から注がれる癒しに「百人力だわ」と笑み、バスターライフルから眩い光弾をぶっ放す。
「ここの姫巫女さんたち、凛とした清楚さとフリルの可憐さが堪らないわよねぇ!」
『おぬし解っているでござるな! 更に十八歳とくれば……って、あ、相棒ー!?』
 激しい攻防を繰り広げつつすっかり蜜との萌え語りに熱中していた手裏剣使いは、ここで漸く仲間が撃破されたことに気づいたらしい。今度は彼が集中砲火を浴びる番。
 この手裏剣使いも同好の士、彼らのござる口調を真似るのも面白かったが、
「十八歳に限らず、それぞれの年頃はそれぞれに魅力的だと思うんだがなあ」
「ええ。幾つであっても女の子は花ですからね」
 そこだけは同意できん、と呟いた千梨が織り成す術は怪談を孕む昏き炎。敵を囲むそれがひとつ、またひとつと消え、幾重もの怪異の座の裡へ相手の足を留めれば、間髪を容れずに迸った紗羅沙の御業が手裏剣使いを鷲掴み、ルードヴィヒの幻影竜が灼熱の炎で焼き払う。
 最早万に一つも敵に勝ち目はなく、攻防が続いたのも僅か数分のみ。
 蜜めがけて螺旋を描く手裏剣の一撃を隼の駆動刃が威を殺しつつ受けたなら、蜜は攻撃の手をとめ、姫巫女たちへ声を張った。
「武士の情けよ。姫巫女さんたち、彼を昇天させてあげて頂戴!」
「分かりました。さあ参りましょう、彼に、引導を渡しに」
「うん。巫女らしい技ではないけれど、せめて十八歳姫巫女の姿のまま揮わせてもらうよ」
 常に温和な紗羅沙も戦場に在っては凛と咲く。撓やかに躍らせた尾から解き放った幻獣の狐が鋭い爪牙で手裏剣使いを穿てば、続け様に舞ったのは緋色のフリルよりなお紅い呪いの血潮、呪詛に塗れた鮮血が乙女の意のまま相手を捕えたなら、流体金属のクッキーちゃんを拳に纏わせたミライが馳せて。
 彼を天に送る一撃はクッキーちゃんパンチこと戦術超鋼拳、そして、贈る言葉は奇しくも隼とほぼ同じもの。
「来世は一緒に米サワー楽しみましょう、ね!」
『約束でござるよ、姫巫女様……!』
 武士の情けを受けた手裏剣使いも、何処か晴れやかな言葉を最期に散り消えた。
 皆の心を清め潤してくれる素敵な場所だから、とルードヴィヒが癒しのオーラで修復した天井を幻想の鈴が彩れば、鈴を見上げて微笑んで、蜜が乱れた卓や椅子を調えていく。
 本当に癒しのカフェだったから、心から。
 ――ごちそうさま。

作者:藍鳶カナン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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