●夜行性の動物がおよそ三匹
薄暗いライブハウスの中、響く重低音。
震えるスピーカーが、ポップでキャッチーなメロディを奏する。
合わせてパンクでフリルな衣装に身を包んだ少女達が、三人ステップを踏みながら。
40人程のファンたちの前で舞台を跳ね回る。
「お前らァ、アタシ達の為に盛り上げてけよォ!」
マイクを片手に、吠える少女。
地下アイドルグループ、三匹ウルフのリーダー・シズカ。
「ウタイ、カナデ、行くぞォ!」
「はぁい、いきまーす」「うん」
愛らしい子鹿のようなステップを踏んだ二人の少女が、対になる形で片腕を上げ。
瞬間、切り替わる音楽。
彼女たちが一番会場を沸かせる事のできる、打ち曲の『サイン』の前奏だ。
「ッシャァ! いくぞ!」
手慣れた様子で、大量のサイリウムを指に挟んだいつめんの古参が吠える。
彼は大量持ちをするが為に、いつもあえてペンライトで無く使い捨てのサイリウムを選ぶ。
「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー!」
ペンライトを振りかざし、吠えるファン達。
「ダイバー! バイバー!」
腕を引き、『サイン』のダンス一番の特徴の唇に指を寄せて。内緒のポーズを取る三匹ウルフ達。
「ッジャージャー!」
前奏の終わり、一気にファン達が跳ね――。
「きゃっ!」
悲鳴と共に、『サイン』の上に爆発的な音が重ねられる。
それは、この会場の誰もが聞いた事の無いはずの曲の前奏。
「……え?」
しかし。胸踊り、自然と心の奥よりコールが湧き上がるようなリズム。
「……、タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー!」
一度終えたコールを、知らぬ曲だと言うのに再びコールするファン達。
「やん、皆奢ってくれちゃうのね。ふふ、そんなつもりじゃなかったんだけれど――嬉しいわ」
こんと響いたヒールの音と共に。
舞台脇から金糸を靡かせ現れたのは、いかにもなアイドル衣装に身を包んだ女であった。
侍らせた螺旋の仮面の二人組が、客席へと跳ね飛び。
前奏に合わせて披露する、それは見事なパンケチャ。
豊満な胸を寄せて、ハイヒール型の酒瓶に唇を落とした女は笑う。
そして舞台の端で意識を失ったシズカのマイクを奪うと、豹の如くステップを踏んだ。
「ワタシも精一杯楽しんじゃう♪ 皆、たのしんでっ!」
三匹ウルフよりも、ずっとずっと洗練されたその足取り。
開いた唇から流れる言の葉は、震える程キャッチーでポップ。
一度聞けば脳にこびり付いて離れない響きは、三匹ウルフ達から推し変させるには十分な響きであった。
●アイドル・ケルベロス・ウォー
「お前達は確か、アイドルとかするの得意だったよなー」
レプス・リエヴルラパン(レポリスヘリオライダー・en0131)は、ケルベロス達の顔を見るなり全力で無茶振りをした。
「山下・仁(ぽんこつレプリカント・e62019)クンが危惧していた件でな、調べて居たンだが……。ホラ、螺旋忍軍って本星を失っただろう? で、地球社会でアイドルとして潜伏していたヤツらが一気に突然動き出した様子なんだ」
このチームが対応する螺旋忍軍はナーシサスと名乗っている。
地下アイドル『三匹ウルフ』のライブ会場に現れた彼女は、ファンたちを幻惑して根こそぎ連れ去り。シャイターンの選定を受けさせようとしているようだ、とレプスは掌の上に資料を展開させて皆に見せた。
「まあ俺は詳しく無いんだが……。三匹ウルフは、まあまあ最近客の入ってきた売り出し中地下アイドルでな。パンクロックでポップでキャッチーな曲調を売りにしている3人組ユニットだそうだ。アイドル単体の写真は500円、ツーショットなら1000円だ。頑張り屋さんで涙脆いシズカのボーイッシュなトークに。おっとりだがツッコミ、ドエス疑惑のあるウタイ。どこまでもマイペースだが、ダンスが抜群に上手いカナデの個性的な三人組だ。俺は詳しく無いんだが」
レプスがどこか早口に述べながら、ツーショットインスタントカメラの写真を資料として掌の上で展開する。めっちゃ笑顔のレプリカントヘリオライダーおじさんと、ウサミミをつけたシズカちゃんのツーショット。
とても幸せそうだ。
「そういう訳で。三匹ウルフの3人を気絶させて、ファンを連れ出そうとするナーシサスを絶対に絶対に撃退して欲しいぞぅ」
取り巻きには、オタゲイジャーと呼ばれる螺旋忍軍が二人。
見事なペンライト手裏剣と、オタ芸捌きでナーシサスを絶対守る意志を貫くディフェンダーだ。
対するナーシサスはメディック。
自らに強化の癒やしと加護を重ねて、任務を遂行しようとしている。
「ナーシサスの曲調は、とにかくポップでキャッチー。テクノポップス混じりだがべタなアイドル曲調とのMIXが特徴だ。もうとにかくキャッチーなんだが……。いやもうなんかもう負けたくねぇなァ!」
最後にもう、ただのレプスの私情みたいな言葉を漏らし。一度首を振った。
「ナーシサスは普通に攻撃を仕掛けられた場合、オタゲイジャーにケルベロスを委ねてファンを連れて逃げ出す。――逃亡を阻止するために、お前たちには今回アイドルをして貰うぞ」
会場のファン達は幻惑されている為、正常な判断力は失われている。
その分、『アイドルの魅力を判断する能力』は高まっている。
「つまり。お前たちがナーシサスを上回るパフォーマンスを行えば、一気にファンを奪い取る事ができるはずなんだ」
三匹ウルフからすれば、二重に舞台を乗っ取られる形だが命には変えられない。
ファンを奪い取った場合。
ナーシサスはパフォーマンスで敵わないのならば、ケルベロスを倒してファンを奪い返すしかなくなってしまう。
任務を優先している様子の彼女は、撤退もできずにケルベロスに挑むしか無くなってしまうという事だ。
「だーがー。お前たちがファンの心を奪う事を失敗すれば、勿論ナーシサスはオタゲイジャーにお前たちの対応を委ねて、ファンを連れて逃亡する。その場合にナーシサスを逃さない為の対策も考えておく必要があるだろうな」
そうして。資料を閉じたレプスは、横に置いてあった大きな袋をケルベロス達に託すように差し出した。
「お前たちのアイドル力が試されている。……しっかし、この選定の仕方、星を失って困っている螺旋忍軍を巻き込む手口。エインヘリアルとは言え、最近暴れていた第四王女の仕業ではなさそうな感じだが――、黒幕は誰なんだろうな」
黙って話を聞いていた遠見・冥加(ウェアライダーの螺旋忍者・en0202)が首を傾ぎ。
「何にせよ、これ以上犠牲を出さないために頑張らなきゃよね!」
「おう、頼んだぞぅ」
レプスは小さく頷いて。力強くアイドル衣装の詰まった袋を手渡した。
参加者 | |
---|---|
ロゼ・アウランジェ(七彩アウラアオイデー・e00275) |
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584) |
リリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775) |
イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943) |
雛祭・やゆよ(ピンキッシュブレイブハート・e03379) |
西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589) |
ジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304) |
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383) |
●
オオオ。倒れている三匹ウルフの事など目に入らぬかの様に、ナーシサスに熱狂する人々。
「いい返事♪ 良い子達はもっともーっと良いトコロに連れて行ってアゲル!」
「ちょっと待った!」
瞬間、ステージの明かりが落とされ。一点、スポットライトが灯った。
「ボク達の」「私達の」
背中合わせ。
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)とジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)の手には使い慣れた銃。
「ステージはまだこれから!」
二人の影が長く伸びる中。彼女達はピッタリ3歩、距離を取る。
「シューティンガール!」
始まりは、重なる二人の声。同時に振り返ると、西部の決闘の様に早撃ちを交わした。
しん、と一瞬静まったハコの中。
走りだすビートは、西部劇をモチーフにしたアップテンポのダンスミュージックだ!
「……へっ?」
闖入者にぽかんと口を開けるナーシサスと、オロオロと回りを見渡すオタゲイジャー。
シューティンガールは揃いのガンマン衣装で、ステージを所狭しと駆け跳ね、舞う。
その隙にいぶきと冥加とソルシエルは素早く駆け寄り。ステージに倒れている三匹ウルフを抱え、舞台脇へと走って行く。
「さて、これで心置きなくパフォーマンスを楽しんで頂けますね」
気がつけばハコは満員御礼。ちょっと過剰な程に増えた客。
「もっとノって行こうよ♪」
摩琴の声掛けにサイリウムを握ったクルスとしずくが、リズムに合わせて手を振り。
「がんばってくださいー!」
「きゃーきゃー、摩琴かわいいです! がんばれがんばれー♪」
いつの間にか増えた客達――ケルベロス達は、この場を全力で楽しんでいた。
「ハイッ! ハイッ!」
やたらと響く大声は、シューティンガールのデフォルメ絵の描かれた巨大な旗を掲げたゾディアのコールだ。
「フゥーハハハ! 何をぼんやりとしておるのだ! 我に続け!」
幻惑の効果も在り。ポカンとしていた一般客達を叱咤するかのように、更にゾディアのコールが響く。
幻惑された彼らは、正常な判断力を失っている。しかし、アイドルの魅力を判断する能力は一段と高まっているのだ。
「えへへ、その……」
一人の客がリズムを取り出した姿を認めると、こみちは拳をぐぐっと握りしめて。
「一緒に応援しましょう!」
予備のサイリウムを手渡し、微笑む。
少しぎこちないジェニファーの動きに光の翼が輝き、全身のバネを使って舞う摩琴。
どちらも笑顔は百点だ。
ケルベロス達の熱気に当てられた客達は、徐々にリズムに体を任せ始め。
「はー、アイドルさんって何かとってもすごくて、賑やかで楽しくなっちゃいますねー!」
徐々に熱が籠もってきた客席に埋もれつつも。リリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)はきょときょと回りを見渡して、ナーシサスの位置を確認。
リリウム9歳、楽しげな雰囲気に好奇心ワクワク。
拾ったサイリウムぶんぶん、アホ毛も体もぴょいぴょい跳ねていますが、キチンとお仕事も忘れていません。えらい。
舞台脇より風船が放たれ、同時に跳ねたシューティンガール。
目にも留まらぬ早業。
床に手を一度付いて跳ねながら放たれた弾丸は、風船を的確に貫き――。
ぴたり、と背中合わせで立った二人。銃の形に構えた指先を吹くと同時に、音楽が終える。
客席が声援に沸き。
「次はオイラン・ラビット!」
再び二人の声が交わされ、照明が消える。そこに重なる三味線の音。
赤いスポットライトがポツリと灯る。
艶やかな打掛、桜唇を覆う扇。名花の如く、静々と。凛と響く歌声。
スポットライトの下に現れたのは、ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)だ。
「オイラン・ラビットさん……、とっても素敵です……♪」
サイリウムを曲調に合わせて振りながら、アリスが楽しげに笑う。
ああ、アリス姫様が、応援に……♪ 自らの仕える姫の姿を認めたミルフィは妖艶に笑む。
「花魁白兎の艷な歌に舞い――いざいざ、御観覧あれ!」
朗々とした声音を響かせ、打掛を客席へと脱ぎ捨てると衣装が变化する! 一斉に客席のサイリウムの色が桃色に染まり――。
「オイラン・ラビット、艶やかに参りますわ!」
和風ゴスロリ衣装に身を包み、携えるは七本の妖刀。
変調した曲調は、和楽器に乗せた艶やかながら軽快な響き。扇と刀を組み込んだ艶やかな舞いに、ポップな曲調に歌声を重ねて。
出口付近。
菖蒲が陣取りながらも体を揺らしてリズムを取る横。
腕を組むと豊満な胸が擡げられ、その肉感がムッチリと強調される。アイドルという柄では無いと、アイドルはしなかった西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589)。
「あーあ。可愛そう、あの子」
眼鏡奥の桃瞳は、オタゲイジャーに何やら指示しているナーシサスを追い。
「こんなに囲まれちゃ絶対逃げられないでしょう、コレ」
本日、この場に集ったのはケルベロスは総勢46名と、サーヴァントが9匹。
「完全に詰みね」
唇を加虐的に歪めて、玉緒は笑んだ。
●
歌うは想い人への愛しい気持ちに、恋の楽しさ。
着衣が開けることも厭わず、和太鼓の音が静寂を産む。
まっすぐに伸ばされた扇より桜の花が散る中、ゆっくりと口元へと扇を寄せるミルフィ。
「次は……、やゆ☆やよのご登場ですわ♪」
紹介と共に耳馴染み良く響くギターリフ。
「あちこちで歌ってきたけど、まさかアイドルをやれるなんてね。……アニソンアイドル『やゆ☆やよ』、今日はみんなの前で歌えて幸せだわさ!」
皆一度は聴いた事はあるであろうロボアニメ曲を引っさげ。ギターをかき鳴らす雛祭・やゆよ(ピンキッシュブレイブハート・e03379)は、長い髪を揺らして吠える。
「コールの準備はOK?」
熱に染まった会場から、応と大きなレスポンス。
タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー!
「オーケー! さぁ、GO、GO! あたしの熱いラブハート、受け取ってほしいのよさ!」
ダイバー! バイバー! ジャージャー!
ヲタ芸を行いやすくアレンジされたハードロック調のアニメ曲。
「熱いラブハート届いてるよ、やゆ☆やよーーっ!」
ペンライトを振って、一般客達にアイドル達の名前を伝えるように声援を送る萌花。
飛んで、跳ねて、揺れるスカート。
笑顔でどこまでも楽しそうに肚奥から唄うロックに気持ちを籠めて。
熱く激しく力強い歌はやゆよの得意技だ!
ギュイとギターの弦の残響と熱気を残し、投げ込まれる小さなピック。
熱狂した客達は競うようにその小さなピックに飛びつき、やゆよは口を開いた。
「皆、ありがとだわさ、次は大トリ! あの2人の夢のコラボ!『ARis』だわさ!」
客席がざわめいた。
バックダンサーを務めていた先に出たアイドル達が、改めて並び直し。
ステージに飛び乗った弥鳥とやゆよが、ギターを構えて背中合わせ。
奏でる曲は『A.A and [Raison d'etre] is…』のインストだ。
薔薇のマイクを持ったロゼ・アウランジェ(七彩アウラアオイデー・e00275)と、イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)がゆっくりとステージに現れる。
皆が持ち込んだろぜっとらんちゃーが、幾つもの七彩の光を描き二人を出迎える。
白と赤の王冠、大輪の薔薇。童話をモチーフにした、赤と白の女王の衣装。
歌で物語を紡ぐアーティスト、アイドル歌手『A.A』。
自らの心と存在理由を歌によって表す表現者、音楽アーティスト『Raison d'etre』ボーカリスト。
「皆来てくれてありがとう。喰らえアラサーウインク」
おどけるイブ。本来ならばこのような小さなハコで共演するはずも無い二人。
「共に笑って、歌って。ファンと共に成長するのがアイドルです」
「ま、僕はアイドルやるには若干年齢的にオーバーキル気味な気もするが……」
ロゼの言葉にイブは肩を竦め。
「同じ表現者として、精一杯対抗させて貰うぜ、ナーシサス」「彼らは貴女には1人たりとも渡しません!」
宣戦布告と共に、ナーシサスを指す二人。
これだけ集まったケルベロス達に、正直既に心がオーバーキル気味のナーシサスはムッと唇を噛み締め。
「ふぅん、じゃあアイドル勝負ね」
「負けませんよ」
蜜のような髪を揺らし、ロゼは凛と笑う。
私の歌があなたの世界を彩る色彩のひとつになりますように。
「1秒だって、目を離しちゃ嫌ですよ!」
「――この歌がきみと、きみの愛する人に届きますように」
イブのライブで鍛えられたスタッフ技術は、彼女の曲であればどのような曲でも合わせられる。
乃亜が操る照明が彼女達を照らし。
囁くように、ロゼとイブが言葉を口にするとざわめいていた客席に黙が訪れる。
響くギター。弥鳥は唇を笑みに歪めた。
ポップでキャッチー。耳に残るMIXなんてそりゃあ人気が出るのも頷ける。
だけど此方には俺が応援してる歌手が二人もいる。そう、彼女達の歌声なら、きっと彼らなんて目じゃない。
「せーのっ」
女王様に合わせて、童話モチーフの服に身を包んだめろと万里の砲撃が、白と赤の薔薇弁をステージに散らす。
「――eat me kiss me,want you。あなたのもと留まる為に、力いっぱい走って、走って。薔薇色の黎明にあなたを染めて」
「――eat me trust me,want you。きみが触れる程に色づく それは薔薇色のトワイライト」
女王を祝福する花弁が舞い、万里に抱っこされたパンドラも一緒に、めろと万里はハイタッチ。
『ARis in wonderland』。今日の為に結成されたユニット、ARisの今日の為に生まれた歌。
柔らかくステップを踏む女王様達。それは、敵と同じ方向性の曲。キャッチーでポップな歌声だ。
客席で息を飲む声が聞こえた。
『ウィンクして』のうちわが揺れ、何故かマサムネ応援アイテムまで持ってきたマサムネがろぜっとらんちゃーを放つ。
軍服より取り出すは兎メルヘンペンライト。
42歳。
スプーキーは、持ち前の音楽的感性を活かし――。
「……L・O・V・E・ラブリーARis!!」
よく通る低い声音で、熱いコールを繰り出す! 堰を切ったように盛り上がり始める客席。
「さいこーねーえーさーん!」
「頑張ってくださいアンナ様ー!!」
姉貴分であるイブに向かって、マサトラがノリノリで声をかけ。イブの歌う所ならばドコにでも行くと楔がサイリウムを振る。
「きゃー! ロゼー! ぎゃわいいいー! 笑ってー! 歌って! キスミー! キスミー!!」
「キャーいっぶちゃーんろっぜちゃーん! 姫さんうっつくしー、あいしとるぞー!」
季由が頬に手を当て、叫ぶ。既に歌ってるし笑ってるけどお構いなしだ。アイビスも野太いエセ広島弁を披露しながら、光る団扇にハッピ鉢巻やる気満々。
目配せした女王様達は、投げキッスを客席に一つ。
「きゃー!」「わ、わ、ロゼが私にもキスしてくれてる……!」
良かったね季由くん。雫も流れ弾でドキドキしちゃう。
「ひゃー生イブさんでありますー! あいらぶー!!」
「俺はヲタ芸できるタイプのシャドウエルフなんで!」
卒倒しそうになりつつも、バンリがファンTシャツも輝かしくサイリウムを振り。光貴と合わせてそれは見事なヲタ芸を披露する。
歌と踊りが歌手の戦いならば、戦天使として助けるのは当然の事。ロウガが不慣れながらも、動きを合わせ。
和希の声援も一段と熱が入る。
頃子がジェスチャーでイブの目線を貰い、真剣な表情で撮影中の横。カルロがチヨを見て首を傾ぐ。
「チヨちゃん、動かねえけど生きてる?」
「ねーちゃんを目に焼き付けるので忙しい」
「え、目に焼き付けてんの、こわ、ガチ勢こわ……」
「姉様ー! レタッチごとおまかせくださいましー!」
ドン引きカルロ。撮影しつつ結局サイリウムを振り出す頃子なのであった。
「っとと、楽しすぎて本来の役割を忘れてしまいそうだ」
勇がペンライトをぎゅっと握りしめたまま、ふるふると顔を振る。
「摩琴、ロゼ……! 頑張って!」
そんな勇の動きを見ながら合いの手を打つソロは、まるで学芸会での親のような心境。
サビに入る旋律。女王様達が手を合わせると互いの衣装が入れ替わり。
わぁ、と上がる感嘆の声。
「どうですか?末娘の晴れ姿は」
「歌で、こんなに大勢を笑顔にできるのか……」
アレクセイが、ライブグッズに身を包ませたヴェルダンディー。
恋人と並ぶ父と視線が合ったロゼは、一瞬ドキとするが顔には出さず。
柔らかく笑みを浮かべる。
――ああ、そんな笑顔を向けられたら、絆されてしまうじゃないか。
今だけは。……絢爛の歌声に浸り、身を任せようか。
そして湧き上がるはアンコール。
アイドルケルベロス達は再び全員で前へ、アンコール曲は――ヘリオライトだ!
「くっ、もう一度、ワタシも……」
「勝負の結果は……まぁ、言うまでもないわよね」
首を傾ぐ玉緒。
そう、完全にファンの心を掴みきったケルベロス達。
「尻尾を巻いて、おめおめ逃げる? ――それとも、実力行使ってヤツかしら?」
このままでは自らの任が果たされる事は無いと悟ったナーシサスは、再びマイクを握り。
「きみ、ファンは大事にしないと駄目だぜ」
イブは銃の指を作り、ナーシサスの胸を撃ち抜くハンドサイン。
「さ、今日のコンサートはココまでだぜ。皆、外へ」
「焦らずとも、大丈夫だ。ゆっくりと歩いて動いて欲しい」
「慌てない慌てない、ボク達の指示に従って落ち着いて避難して!」
イブの声かけで、ハルやアンセルムを始めケルベロス達の避難誘導が始まり。
「手元にサイリウムがない私なりの応援方法はこれしかありませんわね!」
エニーケがオーラの旗を掲げ、避難口を示す。
幻惑されているが故に大人しく。アイドルの指示通り、静々と客達は外へと引いてゆく。
こっそりと避難を手伝っているつもりのジゼルは、肩を竦める。
花に罪は無いが。自らの美しさに恋い焦がれる水仙など、他者を想い歌う2輪の薔薇の美しさに敵う筈が無い、と。
「や、やーん」
「もう逃げられませんわ……ここから真剣勝負ですわ!」
姫を護る、戦乙女達の銘を冠した槍を手に。ミルフィはナーシサスを睨めつけて。
「ちょっと通してくださいでーす……わぷっ、待っ」
避難する群衆に揉まれ。ぺへっみたいな音を立てながら現れるたリリウムは、ドラゴニックハンマーをビシッと構え。
「あなたの計画はびしっとお見通しなのです!」
人にもみくちゃにされたリリウムは、髪もぴょいぴょい。やや満身創痍だが格好良くキメたのでした。
……キマったよね?
●
イッパイアッテナがオタゲイジャーの攻撃を庇い、息を飲む。
あたしの歌を聴け――!
「この惑星の明日を勝ち取るため、何度でも立ち上がれ鋼鉄の猟犬!」
――その牙に力宿し、闇を裂くグラビティ。未来に疾り永久へ吼えろ!
やゆよの歌は止まらない。加護を宿し響くギターはビートを上げる。
「避難はバッチリ完了です」「頑張ったわっ!」
テープを片手に持った佐祐理と、冥加が得物を構えて駆け込んで。
「おかえりなさーい! よーし、わたしも頑張っちゃいますよ!」
「行きますわっ!」
サポートの仲間達から加護を幾つも重ねられ、元気もりもりのリリウムは、遠心力にまかせてぐるぐると竜槌を翳して回りだし。
重ねて、オタゲイジャーのサイリウムを弾き飛ばしながらミルフィが槍を握り込むと、空さえ切り裂きそうな勢いで踏み込んだ。
「オタゲイジャー! 避けなさいッ!」
「ギッ!?」
ナーシサスの癒やしの加護も虚しく。
「ほーむらーーん!」
ミルフィの一撃は雷の如く。
床すら削る勢いで跳ねたリリウムが、ただ振り抜く竜槌。それは、グラビティチェインが籠められているだけの一撃だ。
しかしシンプルな攻撃は、シンプル故にシンプルに強い。貫き、叩き込む!
「お、オタゲイジャーッ!」
「ギーッ!」
槍に貫かれ、槌に押しつぶされ。カートゥーンめいてぺちゃんこになって倒れるオタゲイジャー。
「露払いは任せて下さいっ」
白と金の薔薇で装飾された大槌を両手で構えたロゼが、最後のオタゲイジャーの前へと立ち塞がり。
「やろうぜ、赤の女王サマ」
共に駆け込んできたイブは十字架をあしらったアリアデバイスに指先を寄せ、目配せする。
「はい、行きましょう。白の女王サマ!」
揺れる赤と白の衣装。
eat me kiss me,want you.eat me trust me,want you.
絢爛な歌声と、天啓の歌声が重なり織り成す、薔薇色の幻想曲。
それは彼女の存在理由。それは心を癒し、世界を彩る彼女の音。
掌を貝の様に結び。同時に跳ねた女王様達の歌声と、踵がオタゲイジャーに叩き込まれる!
「ギッ!?」
何故か幸せそうに倒れるオタゲイジャー。わかるよ。
「いくよ、バディ♪」
――アキレアの花言葉って知ってる? 治療、勇敢、そして君の微笑み!
摩琴が薬瓶を割ると、加護を持つ甘い香りが広がり。
「勿論です、摩琴さんっ!」
ジェニファーが大きく光の翼を広げてリボルバー銃に『力』を籠める。
「――ヴァルキュリアの弾丸よ、敵を貫け!」
「ッ!」
オタゲイジャーという盾を失い、腕を交わしてガードを上げたナーシサスの方を貫く弾。
たたらを踏んだ隙を逃さず、ジェニファーは視線を玉緒へと向け。
「玉緒さん、お願いします!」
「了解よ。……ねえ、あなたアイドル活動を通じて、得られる物はなかったの? ……定命化って選択も出来たでしょうに」
ホットパンツから伸びる靱やかな脚を折り曲げて。七色に輝く蝶の翅を揺らめかせて、玉緒はナーシサスに尋ねる。
「……ワタシにも誇りがあるわ、アイドルに身を窶したって、螺旋忍軍としての誇りは翳りはしないのよ」
完全包囲されて居る事を差し置いても、彼女はもう引くことは出来ない。今の彼女には、逃げた先に後ろ盾など無いのだから。
「ふぅん、なら」
玉緒の囁きは、決別にも似た響き。身を撚ると、大きく赤髪が揺れた。
自身のグラビティが知覚を増幅させる。緩やかな時の中、一瞬で詰める距離。
鳩尾にヒールの爪先を刳りこみ、そのまま柔らかい肉を踏み抜くように体重をかけると一気に膝を引いて顎へとブチ込んだ。
「……祓ってあげる」
「!」
躰のバネを引き絞り、蹴り抜きながら大きく広げたオーラの翅が虹めいて輝いて。大きく玉緒は跳ねる!
そして重力と勢いを全て籠めて捩じ込まれた一撃は、ナーシサスの顔面にブチこまれ、彼女を引き倒し。
「容赦なく、ね」
揺れる胸を擡げて。どや、と瞳を閉じる玉緒。
「アンタってさァ……、性格悪い、わよね……」
硝子の靴の形をした酒瓶が、カシャンと音を立てて割れ。
強烈な一撃を受けたナーシサスは、マイクを握りしめた姿のまま地に崩れ落ちた。
「んー……。ちょっとだけ、いけずなだけよ」
そのまま口元へ指を寄せ、ウィンクした玉緒は言った。
●
「ツーショット1000円だって。どうだいアイビス」
「お、お前に値段なんつけられるかい」
イブがアイビスを誂い、喉を鳴らす。
ケルベロス達は、ヒールを終えたハコの前。
「皆様お疲れ様です。ね、打ち上げいきませんか?」
「いいですわね」「うちあげ!」
問いかけるロゼにわあと声援が上がり、ミルフィとリリウムがコクコク頷く。
「私達も勿論参加しますよね?」
「うんっ」
摩琴に声をかけたジェニファーも頷き、サポートの皆も賛同する。
ライブが狙われた事で、未だ呆然とする三匹ウルフにヒールをしていたやゆよ。
「三匹ウルフのライブ、また今度ちゃんとみせてほしいのだわさ」
「……は、はいっ!」
楽しみ、と微笑むやゆよの言葉に三匹ウルフ達は大きく頷き、なんとか笑顔を取り戻したのであった。
作者:絲上ゆいこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2018年10月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 15/キャラが大事にされていた 2
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|