ミッション破壊作戦～欠損したモノを求める者達

■リプレイ

●作戦直前の機内にて
　ヘリオンが向かうは、群馬県高山村。
　この地に復元されたロックハート城は現在、ドリームイーターの占領下にある。
　御門・愛華（竜喰らい・e03827）はジュスティシア・ファーレル（エルフの砲撃騎士・e63719）と共に地図をチェックしており、脱出経路を確認する。
　ジュスティシアはさらにミッション攻略中のケルベロスと連絡を試みており、後の合流の手はずも進めていた。
　程なくして、現地到着のアナウンスが機内に流れる。
「老骨に鞭打ち、ちと頑張るかのぅ」
　薄墨色の鱗の竜派ドラゴニアン、ゼー・フラクトゥール（篝火・e32448）は腰を上げ、降下準備を進めていく。
　同じく、横星・亮登（百万回失恋した煩悩・e44125）もあれこれと準備を整える。
　重大な作戦とあって、シリアス目に臨む亮登は半ばヤケになって作戦に臨む。その目には涙こそ浮かぶが、行動自体が軽い感じに見えている部分は彼の地なのだろう。
「人助けというのも大変なものね」
　レイス・アリディラ（プリン好きの幽霊少女・e40180）は高所に恐怖こそ感じはしないものの、なんでこんな高いところから飛び降りなきゃならないのかと愚痴を零す。
　その隣では、色とりどりのビオラの花を髪に咲かせた、アミル・ララバイ（遊蝶花・e27996）がアンニュイな態度ながらも決意を滲ませて。
　二対の夕闇グラデーションの翼を羽ばたかせ、彼女はヘリオンから飛び立っていく。
「ほんと、体張ってるって感じがするわ」
　首を振り、アミルも空中へと足を踏み出す。
　その後ろから、グラディウスをクルクルと手元で回して手に馴染ませていた、ミリム・ウィアテスト（リベレーショントルーパー・e07815）。
　グラディウスを逆手に持った彼女は深呼吸し、ヘリオンのハッチへと立つ。
　――デウスエクスに苦しめられる人を救いたい。
　そんな気持ちを胸に、ミリムもまた仲間を追うように眼下のミッション目指して飛び立つのである。

●魂の叫びを込めて
　各自、グラディウスを大切に扱いながらも、真下のロックハート城目指して飛び降りる。
　真っ先に、捻くれ太く老獪な「ムフロン」の角持つゼーが竜の翼を広げてグラディウスを振るい、ミッション地域を覆うバリアを砕く。
「物言わぬ者であろうとも、人の心に漬け込むのは感心せぬのぅ」
　ゼーは大きな被害が出る前に、夢喰いには早急にお帰りいただこうと言い放つ。
「この地を去れ」
　ロックハート城にある強襲型魔空回廊目掛け、ゼーは光る刃を突き立てる。
　直後、周囲へと激しくスパークする雷光はこの場の夢喰い達の視界を灼く。
「これを破壊しないと、捕らわれた人たちを助けられない……」
　この城で、忽然と姿を消したという傷心の観光客の安否を愛華は気遣う。
　そして、ワイルド化した左目で魔空回廊を見据えた愛華は、罪なき人々を誘拐する外道の所業を看過できぬと、光る小剣を握りしめて。
「だから、返してもらいます。貴方達が奪った全ての人達をッ！」
　魔空回廊目掛けて渾身の一撃を加え、更なる光をこの場に撒き散らす。
　続くジュスティシアもまた、傷心する人々に追い討ちをかける夢喰いに怒りの矛先を向けて。
「人間の夢も想いも、貴様等に喰われるためにあるんじゃない！」
　この城の復元や運営に日々頑張るスタッフや、楽しい想い出を作った客への侮辱だと思いを込め、ジュスティシアは刃を輝かせる。
　ほぼ同時に、ステイン・カツオ（砕拳・e04948）も仕掛けていた。
「人間のためのロックハート城だ。てめぇらがコソコソとしていい場所じゃねえ」
　連れ去った人々の解放を求めるステイン。
　もし、もういないとあれば、ただでは済まさないと彼女もまた怒りを漲らせて、眩い光をグラディウスから放って。
「言い訳など言わせない。黙って消え失せなさい！」
「まずはここの魔空回廊を破壊する！　てめぇらが人攫いするのも今日でおしまいだ！」
　２つの刃が突き刺さり、激しい爆炎が巻き起こる。
　それらはこの場の夢喰いへと襲い掛かり、大きな混乱を起こしていた。
「Ｍｒ．キャンドルとやら！　傷心の男女を狙うその所業は絶対に許せん！」
　亮登も多少臆する部分こそあれ、開き直った様子で刃を突き出す。
　傷心旅行に出るのは女性が多く、彼女達をたぶらかす夢喰いは女の敵。亮登にとっても許されざる存在だ。
「全世界のお姉さんたちのために！　うりゃああああああああああ」
　そんな亮登に多少調子を乱されかけるも、ミリムもやはり連れ去られた旅行者を気にかける。
　人々を思えば、心が痛む。いてもたってもいられない。夢喰いを野放しになど、ミリムにできるはずもない。
「連れ去った人達を返しなさい！　そしてこの地から消え失せろぉおお！！」
　続けて２つの刃が突き刺さり、周囲へと濃いスモークが噴出していく。
　最後に、アミルとレイスが上空から魔空回廊を狙う。
「傷ついた人の心につけこんで夢や願いを弄ぶようなやり方、あたし達は絶対許さない」
　そいつが何も語らずとも、アミルは行方不明となった人々、その帰りを待つ人々の痛みを蝋の身に叩き込むべくこの作戦に参加していた。
　――どれだけ時間がかかっても、必ずあなたから彼らを取り戻してみせる。
　――そして、この城に穏やかな時間をもう一度。
「これが今のあたしの、ケルベロスとしての決意よ」
　同じく、レイスもグラビティを手に叫ぶ。
「これでも星を守る者の端くれ。人間にはそれなりに目をかけているつもりでいるわ」
　労せず人間をその手にかけて増強する夢喰いに、レイスは怒りで身体を震わせて。
「自分の無力さを嘲笑われているように思えて、無性に腹が立つのよ！」
　まして、狙っているのは精神的弱者ばかり。人間の尊厳を蹂躙する非道な行いを許すわけにはいかない。
「私は他者の命を差し出す気もないし、奪われる気もないわよ！」
　強烈な光を放つ２つの刃は同時に、魔空回廊へと突きつけられて。
「あなたなんかに負けるもんですか！」
「これ以上凶行を続けられないよう、全て破壊してあげる！」
　突き刺さるグラディウスは、先の作戦に参加したケルベロス達のつけた亀裂をより大きく広げていく。
　……が、それが魔空回廊全体にまで及ぶことはなかった。
　着地したミリムは握りしめた拳を、力なく開く。
「次こそは……」
　変わることなく動き続ける魔空回廊。
　対して光を失ったグラディウスを見つめ、ジュスティシアは悔しさを滲ませるのだった。

●ドリームイーター、Ｍｒ．キャンドル
　周囲にはまだ、雷光と爆炎が残っている。
　だが、ぼやぼやしているとスモークが晴れ、この場に沢山の夢喰いが現れて逃げ場を失ってしまう。
　ステインだけは念の為にとジュスティシアへグラディウスを預けていたが、ケルベロス達は各自グラディウスを手にしたままシャーロット城からの離脱をはかる。
　そんな一行の行く手を遮るように、スモークの中から１体の夢喰いが姿を現す。
　臙脂色の燕尾服を纏う蝋燭頭。その名は、Ｍｒ．キャンドルという。
「なに考えてんのかさっぱりだな、この蝋燭野郎。跡形もなく消しとばしたやらぁ」
　すぐさまステインは黒い悪意「黒山彦」を己の手足から噴出し、構えを取る。
　果たして、この夢喰いが求めるものは一体何なのか……。
「欠落したモノを誰かに埋めてもらうのはいい。それは癒しになる筈だもの」
　アミルはその身のオウガメタルを自らの腕に集めながら、夢喰いへと言い放つ。
「でも、誰かから奪い取るのは許されない」
「…………」
　だが、Ｍｒ．キャンドルは語ることなく、頭上の炎を揺らめかすのみ。
　まるで、お前達の罰を見せてやろうと言わんばかりに。
「言っても分からないドリームイーターには、お仕置きが必要よね、チャロ！」
「蝋燭頭……、その厄介な灯火を消し払ってやります！」
　アミルの呼びかけにウイングキャットのチャロが一声鳴いて応じ、前線のミリムは抜いたブルーフレイムソードを深く構えて突撃姿勢をとる。
　その真横から、愛華が真横から飛び出す。
「確実に攻めます。……斬り裂け、ヒルコ」
　彼女は獄竜の左腕を剣形態と化し、夢喰いへと刃を振るう。
　一度刃で切られたＭｒ．キャンドルは僅かに怯みかけたものの、頭上の炎を燻ぶらせ、怪しく揺らめかせてくる。
　大きく燃え上がる炎は、近場にいるケルベロス達のトラウマを映し出す。
　ミリムは苦悶に満ちた人々を助けられぬ、ケルベロスになる前の非力な自身の姿を見る。
　燃え上がる戦火の中、デウスエクスによる虐殺が……。
　酷い頭痛を覚えるミリムは、頭を大きく振って耐えようとしていた。
「やはり外道、ですね……」
　どうやら、愛華もまた、これまでに助けることが出来なかった人々の姿見てしまい、ワイルド化した左目が地獄の炎を纏って赤黒く燃え上がる。
「わたしは、もう過去から逃げたりしない」
　トラウマに耐える仲間達を横目に見ながら、うまく炎の及ぼす効果から逃れたステインが夢喰いに狙いを定めて。
「アンタらドリームイーターにも、役割ってのがあるのかもしれねぇ。……だからって、人の心につけ込むような真似を許す理由にはならねえ」
　ステインは自らの手に悪意を凝縮し、その指先から弾丸を発射していく。
「とっとと消え失せろ！」
　夢喰いへと浴びせかけられる弾丸は、着弾と共に黒い竜巻を巻き起こして相手の足取りを鈍らせる。
　その間に、アミルがトラウマに苦しむメンバーを見て。
「ここに居る誰一人、欠けさせないわ。あたしとチャロが居る限り」
　しっかり者の女の子であるウイングキャットのチャロが大きく翼を羽ばたかせ、アミルも様々な色のビオラの花を嘴に咥えた燕達を召喚する。
「この子達はとってもやさしいの」
　清浄の風に乗る燕がくわえていた花びらを舞わせ、メンバー達に癒しをもたらしていく。
　相手の炎が厄介だと感じたジュスティシアは乙女座が描かれた剣で守護星座を描き、仲間達の体を煌く光で包みこむ。
「リィーンリィーン、頼むぞ」
　戦場においては老獪な古き良き武将といった雰囲気のゼーが呼びかけると、彼の愛弟子である箱竜リィーンリィーンが属性注入へと動き、前線メンバーを炎から守ろうと動く。
　また、ゼー本人は竜鎚より、夢喰い目掛けて砲撃を叩き込んでいた。
　さらに、レイスも同様に相手へと轟竜砲を撃ちこみ、足止めをはかる。
　ただ、相手は多少態勢を崩しかけるも、あまり大きな反応をみせない。
「顔があるのかないのか、よくわからないのがまたムカツクわ！」
　敵の態度にレイスは苛立ちを隠さず、さらに夢喰いへと飛びかかろうとタイミングをはかっていたようだ。
　代わるように、亮登が飛び込んで。
「無式寂寞拳！」
　零式忍者の使う零式寂寞拳にも似ているが、亮登は自らが得た「無の境地」を拳に載せて夢喰いの身体を殴りつけていく。
　そして、十分に力を蓄えたミリムが長剣に緋色の闘気を纏わせ、牡丹を描く斬撃を夢喰いへと浴びせかけた。
「…………」
　しかし、Ｍｒ．キャンドルは黙ったまま頭上の炎を揺らし、なおもケルベロス達に自身の罪を見せ付けようとしてくるのである。

　夢喰い、Ｍｒ．キャンドルは頭上の炎を燃え上がらせ、繰り返しケルベロス達へと自身の罪と罰を見せ付けようとする。
　だが、一般人はともかく、こちらは力あるケルベロス。そう簡単に己のトラウマには屈しない。
「いくよ、ヒルコ」
　愛華が左手の鉤爪で敵の身体を切り裂き、グラビティで傷痕を凍りつかせる。
　直後、戦言葉を紡いでいたステインが氷結の螺旋を浴びせかけて夢喰いの身体をさらに凍らせようとした。
　敵の炎によってトラウマを呼び起こされかけたメンバーには、アミルが翼猫チャロと癒しに当たる。彼女の広げた翼から放たれる極光が仲間のトラウマを消し去っていたようだ。
　折を見て気力を発して仲間を正気に戻すジュスティシアも、「J＆W2000 対物狙撃銃」の銃口を敵に向けて。
「敵の回復行動確認、直ちに妨害します」
　グラビティ配合徹甲弾を撃ちこみ、相手の回復を先んじて制する。
　箱竜リィーンリィーンがブレスを吹きつけ、さらにゼーが炎を纏う蹴撃で夢喰いを追い込んでいく。
　ゼーの一撃によって腹部をわずかに引火させた夢喰いへと、レイスが真横からチェーンソー剣で斬りかかる。
　さらに、正面から躍りかかる亮登が今度は「零の境地」を載せた拳で殴りかかると、Ｍｒ．キャンドルは何を思ったのか恭しく一礼してみせた。
　それによって発動するグラビティによって敵の体が幾分か癒されていたが、ジュスティシアの弾丸の影響でさほど大きく回復はできずにいたようだ。
　その隙を前線メンバーが逃すはずもなく、ステインが再び悪意の弾丸を指先から発射する。
　黒い竜巻に巻き込まれた敵へとミリムが獣となった拳で殴りつけて燃え上がる炎を消そうとすると、敵を冷静に見つめていた愛華が小さく頷いて。
「貴方の弱点は見抜きました。……これが私の全力です」
　愛華は地獄の左手を握り締め、拳を放つ。
　しかし、夢喰いは僅かに身を逸らして急所を避け、ギリギリ炎を消されずに済んだらしい、
「頭の不気味な輝き、気に入らないわね。……この漆黒の闇で塗り潰してあげるわ！」
　そこへ、レイスが大鎌を象った鈍い光を放つエネルギー体で、敵の体を塗り潰そうとする。
「…………！！」
　ついに、Ｍｒ．キャンドルの頭上で燃えていた炎が消え去ってしまう。
　同時に敵の体は徐々に粗いモザイクとなっていき、姿をかき消してしまったのだった。

●離脱は速やかに
　夢喰いを討伐すれば、メンバー達は素早く武器を収めて。
「皆、無事かのぅ」
　ゼーが仲間達に問いかけると、全員が返事しつつ自身の管理するグラディウスがあることをしっかり確認する。
「長くいるべきではないわ。逃げるわよ」
　ただでさえ、今作戦での破壊は叶ってはいない。敵に囲まれる前にと、レイスはこの場から撤退する。
「……こちらです」
　キャプチャーインアイズを活用するジュスティシアが退路のナビを行う中、安堵の表情を刹那浮かべていた亮登ももう一踏ん張りと気を引き締めていたようだ。
　愛華は前に立ってメンバーを誘導し、ロックハート城から離れていく。
　そんな中、アミルは後を振り返って。
「次は必ず破壊してみせる、絶対」
　小さく決意した彼女は一度城を見上げ、そこから背を向けたのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年10月16日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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