秘境には原住民的な何かがいる

作者:久澄零太

「グンマー!!」
『イェスグンマー! ゴー群馬!!』

「みんな大変だよ!」
 大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とある群馬県を示す。
「ここに群馬県民は秘境の民族であるべきってビルシャナが現れて、信者を増やそうとするの!」
 何を言っているのかわけがわからない? 考えるな、感じろ。
「信者は群馬の魅力を語ったり、逆に欠点を語ったりして、謎の秘境なんかじゃない、ちゃんとした群馬県を説くと目を覚ましてくれるよ!」
 ご当地愛、及び現地民のリアルな声が役に立つ……かも?
「敵は群馬県を悪い意味で日本の秘境だと強く信じてるから、群馬県の特産品とかを上手く使って、決して未踏の地なんかじゃないんだって事実を突きつけるとダメージを受けるみたい!」
 どうやってやんだよそれ……て顔する番犬もいたが、ユキはスルー。真のグンマーに仔細を語る必要はない。
「今回はかなり不思議な依頼になりそうだけど……みんな頑張って! あ、アイスとかお土産を期待して待ってるね?」
 君たちはこれは旅行じゃねぇってツッコミ入れてもいいし、某企業のアイスを持って帰ってもいい。


参加者
パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)
レクス・ウィーゼ(ライトニングバレット・e01346)
メルナーゼ・カスプソーン(静かに微睡む泡沫の眠り・e02761)
イド・モノクローム(想死災愛・e03516)
ユーフォルビア・レティクルス(フロストダイア・e04857)
上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)
ハチミツ・ディケンズ(彷徨える琥珀・e24284)
遠之城・王點(上州の道楽者・e36165)

■リプレイ

●そもそもどうしてこうなった
「グンマー!!」
「しってます。ぐんまーこわい、ですよね」
 イド・モノクローム(想死災愛・e03516)は現場入りしたのに何故か鳥さんじゃなくてこっち向いたまま。
「しかし、恐れていては何も得る事はできません。鳥巣に入らずんばビルシャナを得ず……我々は今、群馬を秘境と鳴く鳥オバケの巣に挑みます……!」
 どこぞの探検番組みたいなBGMと共にイドは「日本の秘境 グンマーの奥地に、アホをみた!!」のフリップを抱っこ。
「アホって私の事か?」
「戦わなきゃ、ぐんまーは日本最後の秘境じゃないって現実と……!」
「シカトかオイ!?」
 鳥オバケが馬鹿にしてんのかテメェ? って顔してるけど、イドはマイペース。
「あ、ちなみにアホと鳥でアホウドリを連想させ、絶滅危惧種ニアイコール秘境という小ネタをですね?」
「んな事聞いてない!!」
「まずは群馬県について見ていきましょう」
「話 を 聞 け !」
 ゴーイングマイウェイなイドは世界地図を手にして日本の大体真ん中辺りを示す。
「住所で言うと……この辺ですね。秘境として誰かがここで見つかった場合は、原住民との遭遇として盛り上がるのではなく、おそらくただの遭難者としてレスキューを呼ばれるだけだと思いますが」
「そりゃ普通に日本の田舎町だからねー」
 既に遠い目で「なんでわざわざこんな事言わなきゃいけないのかなー」って文字を背後に浮かべたユーフォルビア・レティクルス(フロストダイア・e04857)が異形をじとー。
「場所とかよく調べもせずにただ見たままで秘境グンマー! なんて言ってられるのかね~?」
「そんなわけあるまい! 群馬には他県にはない独特の文化が……」
「秘境って言ってるのはこんなの見たから?」
 ユーフォルビアに合わせて、スッとイドが「この先群馬県」「危険立ち入り禁止」の看板が並んで立ってる写真をだきゅむ。
「この看板はただ単に土砂崩れが昔あったから立てられただけだよ? 別に秘境でもなんでもない」
「そーなのかー」
 話を聞いてもらえなさ過ぎて、鳥さんが不貞腐れた。
「その土砂崩れでそこにあった村の八、九割を飲みこんだらしいよ? 見つからなかった人達が居たらしいし、今もそこに眠ってるかもね。そんな場所を秘境だーって言って騒げるのかい?」
「ふ、秘境に曰くはつき物……海外では幽霊に会えるホテルなんてのもあるしな!」
 ドヤる鳥さんだが、ユーフォルビアは氷のような眼差し。
「それをネタにしてるって事は、自分でも秘境だと思ってないんじゃないの?」
「ちちちちがわい! 身近な秘境としての売り込みをだな……!」
「群馬と言えば風が強い場所としても有名です。理想の原住民ルックではとてもとても耐えきれないでしょうね。まぁウインドブレーカーをきた原住民と言うのもそれはそれで面白そうですけれどね? さすがに身近過ぎはしませんか?」
「ゴフッ」
 イドの指摘に異形が吐血。
「そもそもさ、観光名所とかにも紹介されるような所が秘境な訳ないでしょうに」
 ザシュッ! ユーフォルビアの一言が異形の傷を抉る!!
「観光ってことは人が来るってことなんだしさ。それでも秘境って言うの? じゃあ、どこが秘境なのか教えて?」
「貴様……秘境と言う名の群馬に残された貴重な個性を奪い取ろうと言うのか……!? 群馬が秘境じゃなかったら、グンマー帝国はただの群馬県に成り下がってしまうのだぞ……!?」
「むしろ、お前の考えが一番の秘境じゃないのだろうかね」
 戦く異形を、お前は何を囀ってるんだって目でユーフォルビアは見つめていた。

●群馬っていうか、群馬の駅
「グンマー!」
『グンマー!!』
 ハチミツ・ディケンズ(彷徨える琥珀・e24284)が拳を突き上げると、番犬達が合わせて頭上を殴りつけ、信者と鳥オバケの視線がハチミツに集中。
「……失礼致しました」
 照れるならやるなよ。
「いいじゃないですか、私だってたまにはネタに走ってみたくなることもあるのです」
 まぁ、じゃなきゃ開幕叫んだりこんな依頼に来たり……待て、クールビューティー幼女、ハチミツちゃんのお仕事履歴は結構ネタに染まって……。
「群馬と言えば北関東、夏暑く冬寒いですわね」
 オイコラ過去の自分から逃げるな。
「細かい事は気にしない主義ですの」
 ぷーい、そっぽむいたハチミツは信者を見上げて。
「わたくしが住んでいる練馬区とシンパシーを感じますの。あそこも二十三区内では一番田舎って言われてますし」
 その一言はアカン!
「貴様ァ……東京の刺客か……我々グンマーを忘れ去られた田舎と嗤いに来たのか……!」
 ご当地系の鳥さんだもん、そりゃあ下手に地元を出すと地雷踏むさ。
「都心の犬め……死ねェ!!」
「バッキャロー!!」
「つまごいっ!?」
 襲いかかろうとした鳥オバケをパトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)の振るう、通常よりやや長めの刀(イン鞘)がぶん殴る!
「オレ、最近群馬であったアイドルグループのライブで、群馬に来てるんだが……朝メシに、朝がゆ。昼メシに、だるまの弁当。夕メシに、鶏飯だったぞ!」
 調べて知ったけど、鶏飯だけ一般名詞っぽいね。
「それがどうし……はっ!」
 並んだ三つの食事に存在するとある共通点。それは……弁当であること。
「ホールライブが出来て、駅弁の為に来るような奴がいる時点で、どこが秘境なんだか……それより、外部からの来客に応える環境ができている群馬において、その群馬に教義を置くお前が外部の客人を否定してどうするんだ!?」
「あばばばばば」
 ガクガク震えはじめる異形にパトリックは指を突きつけ。
「きょうはきょうでも、秘境じゃなく吾妻峡にしておけ!」
「あそこはな……下手すると沈むからな……」
 フッ、急に哀愁が漂い始める鳥オバケ。ここぞとばかりに番犬が信者に向けて畳みかける。
「まあ群馬と言えばだるまさんのお弁当に鶏飯ですわね。店は混んでて私はお弁当を買いましたが……タレがしつこくなくて美味しかったんですの! それに伊香保温泉も、その地域で有名なおうどんもありますし、水が綺麗な土地はご飯も美味しいですわね。お肌も綺麗になりますとも、ええ」
「そうだ、群馬の女性は美しい。そして強くて良い女が多い『かかあ天下』の国だ」
 ハチミツに便乗したのは遠之城・王點(上州の道楽者・e36165)。地元群馬名産の織物に身を包み、カラコロと下駄を鳴らして歩む度、揺れる羽織から達磨模様が垣間見る。やべぇ、どう見ても群馬の化身だ。
「おっと、勘違いするなよ? 秘境の民アマゾネスじゃあない。かかあ天下とは世界遺産の富岡製糸場に代表される、養蚕等の絹織物産業に従事する女性が多く働き者で経済的にも自立していたことに由来する。実に先進的で都会的だと思わないか?」
 袖を合わせ、今は議会で舌剣を振るっているであろう家内を思う。
「我がつれあいも政治家として地元のため働いている。おかげで悠々自適の暮らしが出来ているよ」
「え、それってつまりヒモなんじゃ……」
「はっはっは」
 鳥さんの疑問を豪快に笑い飛ばす王點。ちなみに、彼は無職なわけではなく、地主である。

●彼は旅に出た
「群馬へのプチ旅行ですか。このまま草津温泉に行くのもいいかもしれませんね」
「……折角だし、じゃあ帰りにはどこか寄っていこうか」
 お前ら、仕事終わってないのに日帰り旅行の相談してんじゃねぇよ。
「私今日は休暇なんですけど……」
 ファッ!? そんなはずは……マジや。まさかのメルナーゼ・カスプソーン(静かに微睡む泡沫の眠り・e02761)はスケジュール上、今日はオフだったことが発覚し……いや待て、なんで休みの日に太陽機に乗ることに違和感を覚えなかった!?
「……まぁ、目の前に敵がいるのに休暇、というわけにもいきませんか」
 空気を読んだ上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)はシャシャッとスマホを操作。
「……これは、群馬の知識がほぼない私が今適当に調べたことだが、群馬はこんにゃくが特産品らしい」
「適当!?」
 手抜きなお仕事に鳥さんショック! 仕方ないよ、この二人今回遊びに来てるから。
「……全国のこんにゃく芋の九十%以上が群馬県で生産され、その生産量は約五~六万トンだとか……凄いよね」
「まぁね、群馬だからね」
 若干得意げな鳥さんに、零からジャブを通り越してブローが刺さる。
「……これが簡単に調べられる程度には群馬は広く日本の人に知られた場所、決して秘境とは言えない……そんな群馬にいる人を『秘境の民族』と言えると思う?」
「コフッ」
 割とクリーンヒットした異形を、零の半分死んだジト目視線がジリジリと焼く。
「……秘境とは『様子が世に知れていないため、神秘的な感じのする所』……だから正直無いと思うよ、うん」
「痛い痛い痛い!?」
 おら見ろよ、と言わんばかりに鳥頭に若干食い込む程スマホを押し付ける零。異形の顔がゴリゴリ言ってるからそろそろやめたげて?
「富岡製糸場、というのはご存知ですか?」
 唐突に口を開いたメルナーゼ。しかし彼女の姿は異形からは見えない。
「一九八七年まで動き続けた生糸の生産工場です。その高い品質は世界にも評価されたほどで、当時としては高い技術力を保有していたはずです。それがあったのは三十年以上前の話ですが、秘境というにはあまりにも文明が発達し過ぎているのではありませんか?」
「いーじゃん別に! 秘境に世界遺産があってもいーじゃん!!」
「……あの、そこで何を?」
 もはや半泣きの異形から目を逸らすと、メルナーゼは零の陰に隠れるようにして、シルクハットから零れる髪をつまんでいた。
「こうして髪を掴んでおけば、寝落ちしたら上野さんの髪を引っ張ってしまいますから、起きてられます」
 そこはかとないドヤァ。彼女なりに、今回は寝ないつもりで頑張っているのだろう。
「少しでも調べりゃあ直ぐにそんなもんじゃねえと判るだろうに、ネタの冗談を本気にしちまうとはなあ……」
 呆れかえったレクス・ウィーゼ(ライトニングバレット・e01346)はやれやれ、と言わんばかりにテンガロンハットを目深に被る。
「秘境秘境言うが、群馬県民の自動車保有数を知ってんのか?」
「全国トップクラスだろう?」
 事もなげに応える異形に、レクスはため息。
「全国一位取った事も有る普及率な上に、北関東自動車道を初め、多くの道路がある交通の要所で飲食店だけじゃなく薬局や眼鏡屋のドライブスルー迄あるレベルの車利用率だぞ?」
「はうぁ!? いや待て、車を使わないのが秘境なわけでは……!」
「しかも北軽井沢みたいな風光明媚な所や、日本三名泉の一つ草津温泉迄有るのに秘境な訳ねえだろう」
「か、隠された秘湯的な?」
 震え声の異形に、レクスが指を鳴らすとソフィアがとある秘境(ガチ)のパネルを持ち上げた。
「そも秘境なら、富山の黒部峡谷下ノ廊下とかの方が凄まじいぞ? 物語に出て来るような岸壁沿いを削って造った、足を滑らせたら死にかねん細い道が長く続くしな」
 峡谷の特徴とも言えるコの字型の道や、本来補助のはずのワイヤーがもはや命綱になるような足場を示しつつ、今度はイドが美しい紅葉の谷のパネルをオープン。
「黒部峡谷下ノ廊下は日本の中じゃ秘境中の秘境だから入れる時期も一年に一カ月位だからな? 逆に、その時期になるとこういう景色も見られるが、もし崩落事故なんぞあろうものなら、その年は入れなくなるマジでヤバい秘境だ。公式サイトに命の保証はしねぇって書いてあるぜ?」
 ソフィアがそのホームページを印刷したモノをそっと配り、信者の目が死んだり逆に輝いたりする。
「……秘境と聞いて私が思い浮かぶのは未知なる冒険の地だ。群馬も魅力的な場所だろうが……秘境とは言い難い……どうせ冒険に出るのなら、そうだな……誰も知らない未知の土地で……原住民探すのも良いんじゃないかな? ……何なら協力するよ?」
「秘境行の太陽機はこちらになります」
 クイッと、零が外を示してイドが『番犬観光』の旗を手に手招き。彼女に導かれるままにぞろぞろと信者が出ていって、最後に零とメルナーゼがついていく。
「ちょ、同志!?」
「教祖様、ちょっくら秘境まで行って参ります!」
「秘境の教官、略して秘境官になって帰ってきます!」
「秘境土産『謎の水』をご期待ください」
 こうして信者達はイドと共に秘境へ旅立ち、零とメルナーゼは群馬観光へ出かけていった……。

●番犬って容赦ない
「お前の頭の中が一番の秘境だぁ!」
「まえばしっ!?」
 ユーフォルビアの機械刃が唸りを上げて、異形の頭羽をジョリジョリ……仕方ないよね、一撃じゃ死なないもの。
「いけっ、ティターニア!」
「やっちゃえババロア!」
 二体の箱竜が左右から体当たりしてキャッチバード。目を回し始めた異形へパトリックが肉薄。
「雷と空風、義理人情、ってな!」
「おくとねっ!?」
 刃の刺突で異形を弾き飛ばせば、レクスが脚払いをかけるようにして空中でスピンをかける。滞空する異形に向けて、王點が取り出したのは群馬名物の串に刺さった饅頭。
「お見せしよう、これが、これこそが、群馬という土地だ……」
 虚空を一閃。切り開かれた世界はいわば王點の思い出の中。白髪の毛先だけ紫に染めた女性と共に、浴衣姿で串刺しの饅頭を頬張りながら山嶺を眺める温泉街……。
「グンマァアアアアアアアアア!?」
 群馬の輝きの前に、鳥オバケは塵芥と散った。
「散々駅弁ネタを振ってたら、『あれ』を喰わずにいられねぇぜ!」
 目的の達成を確認するなりとある駅に向かおうとしたパトリックだったが、ピタッとUターン。
「ところで、遠之城翁。オレがファンのバンドに、同じ苗字のメンバーがいるが、ひょっとして? ……いや、私事に立ち入ろうというワケじゃないが……」
 あ、バカ地雷踏んだな?
「これが今後も群馬で君たちを守ってくれるだろう……」
 地元の銘菓とかるたを配っていた王點がピタと止まる。
「鞠緒の事だろうかいや実に良い子だろう知っているのなら是非持って行くといいブロマイドや写真集にもちろんCDも……これは持っているかな?」
 孫を溺愛する祖父の姿がそこにあった。つらつらと語りながら鞠緒グッズを配る姿の溺愛具合に、若干パトリックが引いてるのはご愛敬?
 その帰り道、巻き添えを喰らって? 群馬土産と大量の鞠緒土産と共に電車に揺られるハチミツは駅弁を手に遠くを見る。
「私、なぜ太陽機でここまで来たのにこんな貧乏旅行みたいな真似を……」
 群馬を味わう為じゃないかな……。
 一方その頃、途中降下して群馬を歩いてた零とメルナーゼはと言うと。
「こ、コレにしますか?」
「……インパクトは、あるね……実際美味しいらしいし」
 少々リアル過ぎる蚕のチョコ土産を買うか否かで揺れていた。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 6
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