巨大わんちゃんの逆襲!

作者:MILLA

●巨大ワンコ!
 とある街角に捨てられていたのは、犬型のペットロボットだった。
 かつてはその愛くるしい風貌で飼い主に愛されていただろうが、今はもう壊れて動かない。
 蜘蛛の如き小型ダモクレスが目を付けたのはそのペットロボットだった。機械的なヒールによって作り変えられたそれは、ものの見事に巨大化した。かつての可愛らしい姿そのままに巨大化したワンコロボは、自分を捨てた人類への復讐をせんとばかりに、わんわん吠えながら駆け出して行った。

●予知
「リリさんのおかげで、捨てられたペットロボットがダモクレスと化してしまう事件が予知されました。ダモクレスは市内の広い公園を目指しているようです。幸いにもまだ被害は出ていませんが、このまま放置しておけば、いずれ多くの人々が犠牲になるでしょう。その前にダモクレスを撃破して欲しいのです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が説明すると、花道・リリ(合成の誤謬・e00200)は物悲し気に微笑んだ。
「かつては家族の一員として大切にされていただろうに……可哀そうね」
「ダモクレスの体長はおよそ3~4メートルほど。爪で引っかいたり、噛みついてきたり、電撃を放出して攻撃してくるようですね。早朝ですので周囲に人はいませんが、広い公園を敵は人を探して俊敏に駆け回っています。うまく誘き出すなどして、早急に敵と接触すれば、避難誘導の心配なく戦えますね」
「可哀そうだけど、戦うしかないのよね」
 リリは重くため息を漏らし、椅子から立ち上がった。
 セリカはうなずき、拳を固めた。
「たしかに可哀そうな一面もあります! しかし被害を出させるわけにはいきません!」


参加者
花道・リリ(合成の誤謬・e00200)
ジゼル・フェニーチェ(時計屋・e01081)
空野・紀美(ソラノキミ・e35685)
エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)
終夜・帷(忍天狗・e46162)
霧島・蘇馬(この手に流星を宿し・e50380)
カグヤ・ブリュンヒルデ(黄金の戦乙女・e60880)
桜衣・巴依(紅召鬼・e61643)

■リプレイ

●巨大ワンコ発見!
 うららかな早朝。公園に足を踏み入れると、金木犀の甘くやわらかな香りが鼻先をくすぐった。花道・リリ(合成の誤謬・e00200)はう~んと眠そうに背伸びをする。
「犬ってのはどうして早朝に動き回るのかしらね。ペットロボットでも習性は変わらないのかしら?」
「どうなんだろうね」
 ジゼル・フェニーチェ(時計屋・e01081)が応じ、
「とりあえず見張りにつく。ね。ミルタも」
 と、ウイングキャットのミルタに目をやる。ミルタは大きな欠伸をした後、あたりを警戒し始める。
「さて、問題はどうやってその子を誘き出すかってことね。公園内にいるのは間違いないでしょうけど」
 リリは顎に手をやり、首をかしげる。
「少し周囲を捜索してみましょうか。あっちだって、人を見つけたいわけだし。そんなに苦労はないと思います。しかし、ペットロボットか……」
 エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が溜息をつくと、桜衣・巴依(紅召鬼・e61643)が彼女の言葉を継ぐように言った。
「一時期流行ったと聞きますが、ダモクレスと化したなら壊さないと」
 みんなで手分けして周囲を捜索し始めたが、終夜・帷(忍天狗・e46162)の仕事が早かった、すでに捜索を終えて戻ってきたのだ。
「目標を発見した。こちらに来るよう誘導はしておいた。すでに戦いやすい場所も調査済みだ」
 その言葉が終わるや否や、森から巨大なワンコロボが飛び出してきた。
「可愛らしいワンコちゃんですわね。これだけ大きくても可愛いのですから、ダモクレスと化す前はさぞかし愛らしかったでしょうね。きっと飼い主にも愛されたでしょうに……」
 カグヤ・ブリュンヒルデ(黄金の戦乙女・e60880)は憂いを帯びた顔を伏せた。
「心が痛みますわ……これから壊さないといけないのですから」
「たくさんたくさん、たーっくさんっ、遊びたかったのかなぁ。とってもとっても、とーっても、さみしかったのかなぁ。よーし、最後にいっぱいあそんであげるね! いっしょにあっちであそぼーよっ!」
 空野・紀美(ソラノキミ・e35685)が大きく手を振って近寄っていく。
「こんなデカイわんこ見たら、普通の人は卒倒しますって……。流石に愛でるのにも限界が……あります、よね?」
 首を傾げつつ、巨大ワンコがあらぬ方向へ行かないようにデッキブラシで牽制する霧島・蘇馬(この手に流星を宿し・e50380)。
 だが、巴依は巨大なワンコロボを可愛いと少しだけ思い、エリンに耳打ちする。
「戯れつつ修行と考えれば良さそうでしょうか?」
「おーいっ、こっちこっち!」
 と、ジャーキー片手にワンコの気を惹く紀美。
「さすがにロボットだし、ジャーキーは食べ……ないわよね。だけど、そうね」
 リリはワンコを見上げて微笑んだ。
「大きな犬は好きよ。アンタはさすがにデカすぎるけれど……でも、まぁ悪くはないわね」
「あたしは猫も犬も特別好きではない。あたしはあんぱん派。あんぱん以上においしくてきれいなフォルムのものはない」
 ジゼルがぼそっと呟く。
 巨大ワンコは、ケルベロスたちの挑発に乗ったのか、あるいはただ遊びたいだけなのか、うまく広場の方へと誘導されていった。

●VS巨大ワンコ!
 広場で巨大ワンコを取り囲むケルベロスたち。ここからが本番である。
「ほら、アンタと遊んでくれる者がこんなにいるわよ。最後だからね、悔いのないよう全力で遊びなさい」
 リリが味方に加護を与えるために解き放った清らかなる光は、巨大ワンコにとっても戦いの合図となった。すばしっこく駆け回り、鋼の爪を立てて突っ込んでくる。
 敵の動きを止めようと、蘇馬は刀で斬りかかるが、巨大ワンコの走力に追い付かない。
「いや、図体でかいのに、すばしっこさだけは本物ってどういうことなんでしょうね?」
「まずは攻撃を当てることが肝要ですわね」
 巴依はオウガ粒子を放出、味方の感覚を研ぎ澄ませていく。すかさずそれに応じるエリン、ドラゴニックハンマーを構え、
「どんなに可愛くても星に住む人達の為、被害は此処で止めなきゃ!」
 発射!
 ドウッ!!
 砂塵が舞い、巨大ワンコの足が止まる。
 隙を狙っていた帷は素早く背後を取り、地を這う影に螺旋の手裏剣を突き立て、巨大ワンコをその場に縫い止める。
「かわいそうですけれど、人に牙を剥くよりは!」
 カグヤが光の翼をはためかせ急降下、その勢いのままにゲシュタルトグレイブを振るう。
 その一撃を首筋に受けた巨大ワンコは天に吠え、辺りに電流を撒き散らした。その凄まじい電撃攻撃には、ケルベロスたちも手を焼く。
 さらに追撃の構えを見せる巨大ワンコ、ぐっと後ろ脚に力を溜めて飛び掛かろうとする。だが、そこにミルタが横から飛びついて引っ掻く。
「犬と猫って相性どうなんだろう。ね?」
「さあ? とりあえず目の前にいる犬との相性はよくないんじゃない?」
 ジゼルの問いに応じながら、リリは御業を召喚。ミルタが敵から離れた頃合いを見計らい、御業に合図、炎を放つ。
 だが、炎に包まれても、巨大ワンコはケロリとしている。
「あらあら、困った子ね。まだまだ遊び足りないみたい」
「そうね。遊び足りないわよ。ね」
 ジゼルは空を見上げる。太陽はまだ頂きに届いていない。一日は始まったばかり。
「最高の思い出とともに送ってあげなくちゃ。ね」

●最後の思い出
「愛おしい日々の思い出だけは残るよう、忌まわしいダモクレスの呪縛から解き放ってあげますわ!」
 カグヤが放つ不可視の虚無球体。それに呑まれても巨大ワンコは動じなかった。
 見た目は可愛くともダモクレス、戦闘が長引いても利点はない。すばしっこく駆け回る敵を相手に消耗していく。そんな折に、カラフルな花びらが散り、ケルベロスたちを包む。
「みーんなまとめて治しちゃうからねっ!」
 紀美が元気よく声を上げ、巨大ワンコと向かい合う。
「最後に、いっぱい、いっぱい、遊んであげるからねっ!」
「遊んであげると言えるほど、気楽な相手ならよかったんですけども」
 飛び掛かってきたワンコを寸前で躱しつつ、蹴りを叩き込む蘇馬。しんどい相手であるのは間違いない。
 足止めもなかなか追い付かない。巨大ワンコの素早さに対抗できるのは、帷だけだった。速さを競うというよりは、木々を渡ったり、足場を利用するなどして、直線的に無駄なく立ち回る。死角から飛翔し、刀で斬りつけ、敵を翻弄する。
 次はいかに装甲を打ち破るか。ジゼルは高速演算で敵の構造的弱点を見抜き、痛烈な一撃を放つ。そこにリリがすかさずファミリアシュート。装甲の傷口を広げていく。
「さすがね、ジゼル。見事な攻撃よ」
「でもまだ。ね」
 巨大ワンコは傷つきながらも、闘志を剥き出しに吠える。その闘志は電撃となってケルベロスたちを襲った。
「ちゃんと送ってあげなよ。ね」
「そうね。かわいそうだけど、手は緩められないわ。きっちりと片を付けるわ。それが私の情けよ」
 巨大ワンコは大きく飛び跳ね、牙を剥いて巴依に襲い掛かる。が、主を守るために飛び出したライドキャリバー緋椿が敵に当身を食らわせる。間髪入れず、巴依はドラゴニックハンマーで巨大ワンコを狙い撃つ!
「エリンさん、お願い!」
「まかせて!」
 拳に邪を祓う黒き滅殺の闇を纏わせる。
「黒き祝滅の牙纏いて汝の全てを喰らう! 消え失せろっ!!」
 掛け声と同時に、敵の背に拳を撃ち込む。そこから濁流のごとき闇が迸った。
 巨大ワンコは身を振ってエリンを振り落とすと、苦し気に呻き、弱々し気に首を垂れた。
「なんだかこのままやっつけちゃうのがかわいそうだね。だけど、すきなひとを傷つけちゃう前に、ちゃあんと終わらせてあげたほうがこの子のためだよね」
 紀美がむんと気を引き締め、万全を期すための一手を打つ。
「もふもふバリアーっ!」
 牡羊座の加護による真綿のような魔力で仲間をふんわり包み込む。
 きっちり片を付ける――相手を必要以上に苦しめないためにも。帷はその決意を胸に、再度敵の影を縫い、動きを封じた。そして目で合図を送ったときには、蘇馬が詰めていた。
「我が両手に天より墜つる星々の輝きを!……ぶち砕く!! 流星拳:星墜ッ!」
 両手に魔力を集中させ、流星群の如きラッシュを叩き込む。凄まじい連打により、巨大ワンコの装甲はボコボコになり、剥がれ落ちていく。
 もう巨大ワンコに力は残されていない。それでもまだ戦おうとするのをやめないのだ。よろよろと立ち上がり、ケルベロスたちに牙を剥く。底知れない執念が感じられた。それはかつて人から受けた愛情の裏返しなのだろうか。ダモクレスと化した後にも、人と過ごした思い出がかすかに残っているのかもしれない。
 巨大ワンコは唸り、傷ついた前脚に構うこともなく、飛び掛かる姿勢を取った。
 刹那、四肢に絡みつき、巨大ワンコの動きを封じる虹色の紐。
「お願い、そのままでいて。もう苦しめたくはありませんから……!」
 悲痛な面持ちを浮かべるカグヤは、相手を拘束する紐にさらなる魔力を注ぎ込みながら、リリを振り返った。
「リリさん、お願いします! 今のうちにどうか……!」
 ジゼルもリリを見る。
「そろそろ送ってあげよう。ね」
 リリは静かにうなずいた。
「そうね。番犬とのお遊びは少々荷が重かったかしら。でもこれでゆっくり眠れるわね。おやすみなさい」
 霊雨集いて水精と成る。リリは微笑みを湛え、蒼い夢を呼んだ。魂を解き放つ夢。その夢に誘われ、巨大ワンコはその場に体を臥した。そのまま首もゆっくりと垂れ、安らかな眠りについたかのように動かなくなる。
「この世の何より優しい夢を」
 夢に包まれて、その巨大な体は消えていく。呪縛から解き放たれたように――。

● 今はもう動かないペットロボット
「終わったな」
 帷が誰に告げるというわけでもなく静かに言った。
 ダモクレスが焼失した後の広場に残っているものがあった。カグヤはかがんでそれを拾う。ダモクレスの元になったペットロボットだった。
「……サポート切れっていう寿命もあるとか言いますよね、最近は。……なんとも言いにくい最後の遊びといーますか……」
 蘇馬が白タオルを巻いた頭の裏をやるせなさそうに掻いた。
「ちょっとかわいそうだったね」
 と紀美も神妙な顔をする。
「これが供養となると悲しいけど……」
「誰も傷つけることがなかったのが、せめてもの救いでしたね……」
 エリンと巴依が肩を落として頷き合う。
「そうですわね」
 カグヤがペットロボットを抱きかかえたまま立ち上がった。
「たとえ壊れて捨てられたのだとしても、人を襲うのはこの子の願いではなかったでしょうから。この子は、わたくしがあらためて弔ってあげたいと思いますわ」
 リリはやわらかに微笑み、
「お蔭さまで眠気も覚めたわ。パンの食べ放題のついたモーニングでも決めましょうか」
「それなら、あたしの行きつけの喫茶店に行こう。よ。美味しいあんぱんあるから」
「そうね」
 リリは空を見上げた。青く透き通った空を。その空には犬のような形をした大きな雲がふんわり浮かんでいた。

作者:MILLA 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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