アイドル襲撃~We’re オルファリア?!

作者:のずみりん

 地下アイドルというジャンルで、ファンは少数精鋭だ。
「キャーえったーん!」
「応援ありがとーっ! とってもえぇのー!」
 蒸し暑い熱気に自分の芸名をネタにした決まり文句で少女が答える。
「おぉーっ! ほぉーっ!」
 突出したものはないが、それなりといえる容姿と歌。
 まだ十代半ばの先人の真似事だが、幼い容姿の『媚び』を心得た衣装と歌声で九九人ものファンを集めた少女アイドルは、地下アイドルとしてはなかなかのものだろう。
「やれやれ……その程度でアイドルを名乗ろうとは片腹痛いのぅ」
 その狂信的ファンの中に、金髪の狐耳は傲岸不遜に現れた。
「誰だてめぇ!?」
「ホァッ!」
 ひきつれるのはオタクの忍者……そう表現するしかない、短杖めいたライトを振るう付き人が、九九人の熱狂を強引に割く。
「誰……ここは、えーのの場所よ……!」
「アイドルにはライバルがつきもの……よい、下がれ」
 気丈にも怪異に向き合う少女へ、乱入者は不敵に微笑む。暴力的な付き人を従える貫禄は140cm足らずにもかかわらず、ステージ上のアイドルが見下されてすら見えた。
「暴力など不要、このものは既に妾の大切なファンりょ。このオルファリア・ゲシュペンストの、アイドルのなんたりゅかを今から見りゅがよいのじゃ」
 いざ勝負の時と、これみよがしに披露される地下アイドルえーのの持ち歌、持ち芸。一味違い、プロの『媚び』が地下アイドルの少女からファンと自信を剥ぎ取っていく。
「ほぁーっ! おるふぁ様ーっ!」
「えぇの、って……私って、何……?」
 勝負はついた。波が引くようにファンたちと去っていくオルファリア。地下ライブハウスには独り、壊れたアイドルだったものが取り残された。

「シャイターンと螺旋忍軍が手を組んで動き出した」
 地図上を広げ、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)はケルベロスたちに告げた。
「動いているのはアイドルとして潜伏していた螺旋忍軍……彼女たちは地下アイドルのライブを荒らし、ファンを奪い取って回っている」
 なんともコメントに困る作戦だが、その実態は山下・仁(ぽんこつレプリカント・e62019)が危惧していたように血生臭い。
 魅了されたファンたちの戦期は黒幕であるシャイターン。ファンたちはそこで選定を受け、エインヘリアルとなるか、あるいは死ぬかしかないだろう。
「惨劇を防ぐため、ライブハウスに向かい乱入者たちを迎撃してほしい。頼むぞ、ケルベロス」

 リリエの示す地図の先は地下のライブハウス。収容人数百人前後の中小規模の会場だ。
「狙われているのはここで行われる、『えーの』という芸名の地下アイドルのイベントだ」
 えーのの持ち芸は王道、媚び媚びフリフリのリリカルポップだという。歌も芸もプロというには厳しいが、九九人という人数は地下アイドルとして十分なものだろう。
 そして会場に現れるという螺旋忍軍のアイドルだが……言って、リリエは少し戸惑うように声を切る。
「乱入してくる螺旋忍軍のアイドルだが……オルファリア・ゲシュペンストを名乗っている」
 より正確にはオルファリア・ゲシュペンスト(ウェアライダーの巫術士・e23492)の贋者。彼女の宿敵らしい。
「同じケルベロスなら雰囲気などで区別はつくだろうが……何を、考えているんだろうな」
 世間の信用を落とそうとしているのか、あるいは倒錯的な趣味か。理由はともあれ、その偽具合は本物で口調から姿、衣服まで瓜二つ。偏執的なほどにオルファリアだ。
「このオルファリア……紛らわしいので螺旋オルファリアと呼ばせてもらうが、敵は彼女と付き人忍者オタゲイジャーが二人。人数は少ないが、敵も状況も厳しい」
 その実力はケルベロス八人と拮抗。それに加え地下ライブ会場には九九人ものアイドルファンが詰めており、駆け付ける頃には螺旋忍軍の術中だ。
 正面から攻め込めば、付き人のオタゲイジャーに抑え込まれ、魅了されたファンが螺旋オルファリアに連れ去られてしまう。
 それを妨害するには、こちらもアイドル活動しかない。
「会場のファンたちは螺旋忍軍に幻惑されているが、この幻惑にはアイドルの魅力を感じる力を高める効果がある。アイドル力で真っ向勝負だ」
 ケルベロスたちの魅力が螺旋オルファリアを上回れば、ファンが魅了され連れ去られることはない。
 逆に勝負に負けたり、勝負せず戦う場合は魅了されたファンと彼女の逃走を妨害しながら戦わなければいけないため、非常に厳しい戦いになるだろう。
「戦闘中も螺旋オルファリアはオルファリアとよく似た能力、グラビティを使ってくる。オタゲイジャーは螺旋忍者の技と、手の短杖……ケミカルライト? うん。このケミカルライトで如意棒じみた技を使ってくる」
 アイドル勝負の勝敗に寄らず、オタゲイジャーはディフェンダーとして螺旋オルファリアを守るように動く。戦闘では彼らをどう処理するかも考える必要がありそうだ。

「事件の黒幕についてはこちらでも調べてみる。これまでの事件を見る限り、第四王女の作戦では無さそうだが……なんだろうな。この、ナンセンスだ」
 とにかく今は螺旋忍軍アイドルを迎え撃ち、悲劇を阻止することだ……何とかまとめ、リリエはどうも調子が狂うなと頭を掻いた。


参加者
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)
綺羅星・ぽてと(耳が弱い・e13821)
オルファリア・ゲシュペンスト(ウェアライダーの巫術士・e23492)
黎薄・悠希(憑き物の妖剣士・e44084)
ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)
リヴィ・ルールド(空元気ぬこ様・e63322)

■リプレイ

●Challenger乱入!
「暴力など不要、このものは既に妾の大切なファンりょ……」
 湿度の高い地下ライブハウスの空気を野太い声援が震わす。漏れ聞こえてくる得意げな声に黎薄・悠希(憑き物の妖剣士・e44084)は眉をひそめた。
「あらあら……偽物のくせに頑張ってるのね」
「音紋一致率99.8%。物真似にしては異常な酷似です……準備と覚悟はよろしいですか」
 演目を確認し、特殊効果を準備したピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)は確認に振り向く。その、一致する声の主と仲間たちへ。
「うむ、アイドリュのなんたりゅかをみせてやろうぞ」
「それでは、レッツ乱入☆」
 既に準備は万端。オルファリア・ゲシュペンスト(ウェアライダーの巫術士・e23492)の声に、綺羅星・ぽてと(耳が弱い・e13821)が『撮影七つ道具』の照明器具が輝きを放つ。
「なにやつ!?」
「ちょっとまったぁ!」
 突然の挑戦状にざわめく会場。ステージに立つオルファリアの突き刺す声を、ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)の凛々しい声が打ち消して響く。
「アイドルにはライバルがつきもの、お主はそういったりょの?」
 ステージから入口へ、逆光を打ち消しレフ板が照明を反射する。ピコの『多重分身の術』がアイドルたちを幻影のように投影し、ライブ会場に虹が舞う。
 それは脇を進む橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)からの陽動であり、ケルベロスたちへと注目を集める演出でもあった。
『カバー、ヨシ』
「その程度で儂の偽物をかたろうとは片腹痛いの」
 ステージの死角からテレビウム『九十九』が送る『応援動画』に満を持して、振袖を着こなすウェアライダーの巫女は清楚に舞台へ降り立った。
「妾が本物のオルファリア・ゲシュペンストをくれりゅ」
 振袖を一振りするや、鮮やかに変わる姿に会場がどよめく。
 白と赤を基調に、フリルとリボンをあしらった正統派アイドルの姿。それは正に対峙するステージの鏡写し。
「偽物ですと!?」
「ど、どっちが!?」
「ならば決めるしかないだろう」
 混乱のるつぼと化した会場、広がる動揺に乗せてミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)は指を突き付ける。
 彼女もまたアイドル衣装、トップアイドルのオルファリアに従う付き人……という設定の、控えめだが清楚な青が螺旋忍軍の先客を追求する。
「お、オルファリアお姉ちゃんのそっくりさんなんて、ボクが許さないにゃん!」
「な、なにゅっ!?」
 左手を固めるのは、電飾が照らすラインも鮮やかなリヴィ・ルールド(空元気ぬこ様・e63322)のドレス姿。両手に花どころか両手に花束、対峙するオルファリアの顔が朱に染まる。
「……って、私もステージに立ってる!?」
「そのためのドレスですからっ! さぁどうする? 物真似芸人さん☆」
 ガートルードとのノリツッコミにクスリと漏れる笑い声をぽてとは逃さない。会場の空気を読み、彼女は敢えて過激に挑発した。

●歌おう In Together
「よ、よかりょ。せいぜい赤恥をかくがいいわ」
「なるほど、そういうことなら」
 戦闘モードにはいったミスラの呟きに、向き合う螺旋のオルファリアが顔色を変える。有無を言わさず始まる対バン、ケルベロスの身体能力に支えられた小細工抜きのダンスと歌が圧倒的な圧力で勢力図を塗り替えていく。
『みんながいて、わたしがいる♪』
『誰かじゃないし、誰もじゃない、みんなだから』
 ありきたりなアイドルソング。未来の希望と一人一人のすばらしさを歌うよくある歌詞も、振り付け一つ、演出一つでこうも魅せる。
『傷ついて倒れそうな仲間が居たら、笑顔の力を分けて』
 ともすれば頼りないガートルードを支える経験者たち。取り合う手と手を、左手のワイルド化を隠すアシンメトリーな長手袋が印象づけてくれる。
「さぁ、一緒に!」
 オルファリアから差し出す手を、今度はリヴィが取る。照明が落ち、『電飾服』仕様パフォーマンスウェアが放つ『フェスティバルオーラ』でセンターから仲間たちを鮮やかに照らす。
 恥ずかしがるオルファリアをステージに立たせるため、共に立つという彼に渡された衣装だが、その効果は絶大だ。
「は、恥ずかしい……にゃん……」
「今更今更! 『……これ本当にボクが着るのにゃん?……』ってかわいかったわー☆ ほら、そっちのオルファリアも何か言って!」
「な、なにゅを妾が!?」
 先ほどの辛辣さもどこへやら、突っ込み不足で大変なのよ、と双方を巻き込んでいくぽてと。
 けしてノリや同情ではない。アイドルは例えライバル同士でも一つのライブを盛り上げる為に協力するのは当たり前、対立だけで成り立つ仕事ではない……かつてトップアイドルと呼ばれた事もある彼女の高潔な心情はアイドル勝負の決定打となった。
「ぬぅぅ……オタゲイジャー!」
「ハッ! ハッ!」
 マイクを振られ、切り返そうとする螺旋のオルファリアだが、バックダンサーのオタゲイジャーの声援もむなしく、客席のざわつきは収まらない。
 ファンを魅了するためだった魅力感知の幻惑は、勝敗関係なく客を楽しませようとするケルベロスたちの熱量を正しく感じ取っていた。
「ゆきゅぞ、皆のもの!」
「尊い……っ! イイっ!」
「御意っ! 御意!」
 すかさずミスラとピコが配布する『オルファリア・ゲシュペンスト写真集』ピンナップの数々が瞬く間に消えていく、少々引くほどのオーバーキルである。
「勝負あったわね。さ、どうなされますので?」
 えーのの身柄は保護しおえ、芍薬がドラゴニックハンマーを片手に宣言する。とんとんとステージを叩くそれは、さながらゴングが判決の槌だ。
「人質なら無駄よ。私達は負けない……みんなの……誰かの応援がある限り……不滅です!」
「答えてもらうぞ。儂の名をかたりゅとは貴様何者じゃ」
 会場のファンを鼓舞するように、リヴィらと並ぶガートルード。最高の笑顔に会場は声援に包まれ、螺旋忍軍は顔をゆがませる。
「一度ならず二度までも……おのれ……おのれおのれおのれわぁぁぁぁーっ!」
「地に落ちたわね、偽物さん」
 暴力に訴える事はアイドルとして敗北を認めることに他ならない。突き付けられたオルファリアの指……与えられた最高の恥辱に殺意を咆哮する螺旋忍軍へ、悠希は冷たく『黎魂喰大刀』を構えた。

●私たちのステージ
「やれぃ、オタゲイジャー!」
「ハハーッ!」
 太鼓のバチのような巨大ケミカルライトをふるい、左右のオタゲイジャーが花道を塞ぐ。法被にフンドシ、半裸の様相は、鍛えられた肉体をもっても何ともヲタクくさい。
「ここはもう危険だから、各々身の安全を最優先に避難して!」
 呼びかけながら悠希の振るう大刀を、十字に構えたケミカルライトが受ける。輝く瑠璃とライトグリーンの火花散るぶつかり合いは、さながら親衛隊の場外乱闘だ。
「フォォォォ……!」
 だが勢いで負けながらオタゲイジャーは一歩も引かない。見た目はあれでも螺旋忍軍というべきか。
 攻めあぐねる前衛にガートルードはアイドル衣装の内に棲む共生者へと支援を呼びかける。
「私達は負けない。みんなの……誰かの応援がある限り……不滅です!」
「オォーッ!」
 歓声のなか『メタリックバースト』の華が咲いた。鋭さを待つ歓声がオタゲイジャーの護りを破り、一気に芍薬たち前衛を敵本陣へと踏み込ませる。
「なんかしょうもない逆恨みみたいだけど、覚えある?」
「……こうも似姿では思い出しようもない」
 芍薬に聞かれ、オルファリアは身も蓋もなく答える。そもそも心当たりがあれば聞く必要もない。
『自分を見失っておられる』
「きぃぃぃっさまぁぁぁぁぁーッ!」
 更に容赦ない動画によるテレビウム『九十九』のテレビフラッシュが激情を煽り、なりふり構わず螺旋のオルファリアは叫ぶ。
「他人の姿のまま変なことするんじゃないの! 冥土の土産よ、アンコールは地獄の底でやってなさい!」
 叩き込まれるドラゴニッシュスマッシュを御業が受ける。敵はアイドルの姿の身ならず、戦闘力まで綺麗にトレースしているという筋金入りだ。
「うぅっ、やっぱりオルファリアお姉ちゃんに、攻撃なんて……」
「だったら試してみようじゃないのっ!」
 ギリギリと押し合う芍薬に対し、拮抗と躊躇うリヴィの心に穴をこじ開けたのは悠希のドリル。
「オルファリアを真似たんだ、これぐらい耐えられるよねぇっ!?」
 『Seior Ragnarok -Lapis-』から変形した勢いのまま突き刺さり、蒸気をあげて回転するガジェットドリル。
 熱気を増す悠希の感情を乗せ、終末の魔導を齎したという兵器の欠片が『護殻装殻術』の鎧にひびを入れる。振り抜かれたハンマーがステージ奥まで螺旋のオルファリアを吹っ飛ばす。
「ほらほらぁ!」
「オル様! 螺旋様!」
 更にもう一撃。追撃に走る悠希だが、突き立てた瑠璃色の大刀へケミカルライトが差し込まれる。
「この護り……親衛隊は飾りじゃないわね」
 これも螺旋の技の一種というべきか。ガードルートの『サンライズブリンガー』が重ねて溜め切りをうちこんでも、脆そうな光の短杖はしなやかに持ち堪えてくる。
「援護します。その『螺旋』というのが彼女の名前ですか……」
 乱戦の中に突然撃ち込まれる掌打と言葉はピコのもの。
 コンパクトにリファインされた新式のアームドフォートと、脚部側面に配された母機エミュレーター・クイーンの『飛行ユニットだった物』が、その螺旋忍軍をも翻弄する機動力を彼女に与えてくれる。
「えぇい、恥を知れ!」
「ハッ! ハッ!」
 だが跳ね除けられるも、オタゲイジャーはマキビシよろしくシュリケンスコールを撒き散らす。マインドシールドの護りはあるが、こうも弾幕を張られては迂闊に動きづらい。
「ステージのアイドルに真名を尋ねるとは……!」
「うわわわ、ごめんなさいにゃんっ!」
 熾炎業炎砲の火球と共に飛び出す理不尽な言い分、言いがかり。
 だが愛しい人の姿をとる螺旋のものの叱責はリヴィに思いのほか響いてしまったらしく、『はらわた塞ぎ』の包帯をぽてとたちに巻きつつ、思わず頭を下げてしまう。
「謝る必要なんてないわ。ニセフェリアちゃんはアイドルじゃない。アイドルとは認められない……!」
「ぽ、ぽてと……さん」
「ぬかせっ!」
 遮ったのは、もはや隠さぬぬぽてとの煮えたぎる激情。爆発する『日頃のストレス』のオーラが、掴みかかる螺旋のオルファリアの禁縄禁縛呪を跳ねのけ、逆に抑えつけていく。
「アイドルはファンがあってのもの、そのファンを生贄に捧げる為に洗脳して攫って行くと言うのは言語道断!」
「例え姿形は真似られても、アイドルとしての魂までは真似られない。さて、あなたはどうかしら?」
 借り物の姿で人々の心は掴めない。ミスラの『憐れみの賛歌』が螺旋忍軍のまいた氷と炎を振り払い、仲間たちの花道を作り上げる。
 地下ライブハウスのステージは今、ケルベロスたちの煌く舞台と化した。
「舞台に立った偶像は無敵よ。ここは私の、私たちのステージ!」
 信念を自己暗示した『綺羅星の舞台』が強烈な拳で螺旋のオルファリアへ襲い掛かった。

●ライブは終わらない
 必殺の衝撃がめりこむ。だがそれは螺旋のオルファリアではない。
「ホ……ホァッ……オル、サマ……!」
「オタゲイりょっ……御役、大儀であった」
 庇い、倒れるオタゲイジャーに、意外にも螺旋は労いをかけた。部下なれど、彼らもまたアイドルのファン。真似に過ぎなかった彼女にも、アイドルの誇りがあったのだろうか。
「偽者なりに矜持はあるのでしょうが……偽者である限り、どんなに足掻こうと本物にはなれません」
 いつも通りの表情だが、ピコの声はどこか悲しい。それは疑似螺旋力炉の実験機である彼女のアイデンティティにも突き刺さる言葉であるからだろうか?
「リヴィ殿。姿は似りょうと、アレは妾ではない。ためらいは失礼りょ」
「お姉ちゃん……にゃ……ああぁぁぁぁぁぁぁ……!」
 諭すようなオルファリアの後押し。自分の似姿をしかとみつめた彼女に、リヴィは蓄積された負の感情を『絶対零度の涙』と変える。
 全てを氷の魔力へと暴走させ、振り切った。
「なりょっ!? この力は……だがこの程度!」
「お主が真似た妾なら、そうりゃろな……が」
「だったらお熱いのはいかが? エネルギー充填率100%!」
 未知の凍結の魔力を振り払う螺旋の前に飛び込んでくるのは、赤熱した拳。ハンドレッドの異名をとる芍薬の『火葬』が、衣装を炎と焼いて螺旋を宙へとうちあげる。
「わ、妾とてアイドル……ただではっ!」
「じゃあ、フィナーレだ!」
 もがく螺旋を追いかけ飛ぶ悠希。巨大なブラックスライムの『クロマ』をジャンプ台に、天井まで飛びついて三角飛びから大刀を振るう。
「五ノ刻、黎明。十七ノ刻、薄暮。始り、終わりの交わり、来たりて――」
 時刻を交じらわせた神速の『黎薄流刀剣術『瑠璃斬』』が御業の護りを瑠璃色に裂く。なおも抗おうとする螺旋を、ミスラの『グラビティブレイク』が鮮やかな光へと変えた。

「……生き残るのは、本物の魂だけ」
「アイドルは例え相手が神であってもファンは譲らない。その気概無ければファンに崇拝されるに足る『偶像』の資格なんてないのだから……ね?」
 ぽつり呟くミスラに返すぽてとの言葉は、誰に当てたものか。その答えは彼女の見つめるステージにあった。
「……お主、何処からみりょった」
 言葉を失ったえーのの幼い顔に、まぁ無理はなかろうと思いつつオルファリアが突っ込む。
 事件はさておいてもこの面々、地下アイドルのライブには過ぎた顔である。ぽてとに至っては年齢、経歴的に少女が憧れるレジェンドであった可能性すらあるのだ。
「大変だったわね。えーのちゃん、まだ未熟だけどアイドルとしての心構えはあるわよ」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
 様子を伺いにポツポツくるファンから、驚愕と声援と拍手。どうやら事態は異なる方向に暴走しつつあるらしい。
「さぁ後押しがでましたよ! えーのさんも、オルファリアさんはもう言い逃れが出来ないレベルのアイドル。このままトップアイドルへの道を駆け上がって欲しいですね!」
「大丈夫、みんなが一緒なら、どんなに高く分厚い壁も越えられる! 面倒なら……ぶち破っちゃえ!」
 えーのに加えて押しまくられるオルファリア。こうなればいつも通りに開き直る事にする。
「せっかくじゃしリヴィ殿もアイドルやりゅべきじゃよな」
「えーのぅ!」
「えぇーっ!?」
 リヴィまで巻き込み、地下ライブの夜は限界無しとボルテージをあげていった。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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