紅葉狩りを邪魔する邪魔蛇

作者:雪見進


「綺麗だね〜」
「少し早いかと思ったけど、結構綺麗だね」
 ここはとある公園。少し気が早い紅葉が衣替えをして、赤やオレンジ色のグラデーションで公園を彩っていた。
「ふかふか〜」
「汚れるから、ほどほどね〜」
 グラデーションは樹木だけでなく、落ち葉は公園の地面も彩り、子供達に遊び場所になっていた。
「……でも、まだ紅葉していない葉もあるのね……え?」
 全ての葉が紅葉するには早い時期であったが、一部で不自然な緑色がにじみ出す。
「この程度、群れてくれれば充分か……」
 にじみ出した緑色のナニカが不気味な声を上げる。
「あれ……蛇?」
「きゃぁ!」
 それが蛇の形だと気付くと、悲鳴をあげる。
「さあ、狩りの時間だ! ニンゲンどもよ、グラビティチェインを我が主に捧げよ!」
 姿を表した蛇達は、紅葉を楽しんでいた人たちに襲いかかるの!
「若い女もいるな。なら、女は殺さずにおいてやっても構わんぞ。生きたまま主に献上してやろう!」
 さらに不気味な言葉を吐きながら、のどかな公園を地獄絵図へと変えていくのだった。


「とある公園にドラグナーさん達が現れ、紅葉を楽しむ人達を襲撃しようとしています」
 そう説明をするのはチヒロ・スプリンフィールド(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0177)。テーブルの上には、毛糸で作った紅葉の落ち葉モチーフを山盛りに並べている。
「本当は、怖い思いをさせないように避難させてあげたいのですが……」
 襲撃の予知が出来ても、その状況を変化させてしまうと予知が外れ、敵が別の場所に出現してしまう可能性がある。なので、ケルベロスは、公園にドラグナーが現れてから対処する必要がある。

「今回の『堕落の蛇』というお名前のドラグナーさんなのですが……」
 続いて、公園に出現するデウスエクスの説明をするチヒロ。
 『堕落の蛇』はドラグナーとしては弱い個体で出現数は3体。
「そして、公園の落ち葉の中に隠れて、機会を伺っています」
 そう言いながら、山盛りの紅葉おチーフの中からもぞもぞもと取り出したのは緑色の蛇のあみぐるみ。
 どうやら、その緑の蛇が『堕落の蛇』をイメージしているようで、紅葉に隠れ、隠密行動をしているデウスエクスのようだ。しかし、その隠密行動も完璧では無い。注意深く観察し、何らかの方法で発見出来れば、先制攻撃が可能だろう。

「紅葉狩りを楽しんでいる人を襲うなんで、許せません。なんとかして下さい」
 そう言って、後を託すチヒロであった。

「ふむ、紅葉でござるか」
 チヒロの作った紅葉モチーフの毛糸を手に取り、くるくると回しながら、何かを考えていたウィリアム。
「うむ」
 何が『うむ』なのか分からないが、荷物を手にヘリポートへ向かうのだった。


参加者
雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)
草間・影士(焔拳・e05971)
フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)
砂星・イノリ(ヤマイヌ・e16912)
デュオゼルガ・フェーリル(月をも砕く蒼狼拳士・e61862)
クロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)
石狩・和人(静かに燃える急尾の猛狐・e64650)

■リプレイ


「また、新手の奴か……」
 紅葉色付く公園の中をゆっくりと歩きながら、静かに淡々と呟くのは雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)。
「この中にドラグナーが隠れている訳か」
「枯葉の中から、襲いかかってくる蛇さんね」
 シエラの言葉に答える草間・影士(焔拳・e05971)とクロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)。今回のデウスエクスはドラゴン軍の尖兵である『堕落の蛇』。身を隠し落ち葉に潜んでいるのだ。
「枯葉から突然襲いかかってきたらトラウマになるよ」
「竜牙兵みたいに派手に落ちて来てくれるんなら話が早いのに」
 現在も公園では、紅葉狩りをゆっくり楽しむ親子などの姿も見える。たくさんの紅葉の木があるこの公園は、この季節少し有名な紅葉狩りのスポット。そこを堕落の蛇に目をつけられた。

「綺麗だね〜」
「少し早いかと思ったけど、結構綺麗だね」
 そんな、デウスエクスが潜んでいる公園だが、今もなお一般市民が普通に紅葉狩りを楽しんでいる。本当なら事前に避難させたいのだが、それではデウスエクスが現れなくなって、別の場所で被害が出てしまう。
「ゼル、この平和と信頼は俺たち、ケルベロスが護らないとな……」
「そうだなカズ! のどかな公園を地獄絵図にさせる訳にはいかねぇからな!」
 そんな人達の姿を眺めながら石狩・和人(静かに燃える急尾の猛狐・e64650)は一瞬だけ、視線を交差させ、デュオゼルガ・フェーリル(月をも砕く蒼狼拳士・e61862)は肩から下を破いたケルベロスコートを翻しながら、決意を新たにするのだった。

「ふかふか〜」
「汚れるから、ほどほどね〜」
 そんな公園の別の場所では砂星・イノリ(ヤマイヌ・e16912)はゆっくりと歩きながら、楽しそうに枯葉で遊ぶ子供達を優しい瞳で見つめる。
「……こんなにのどかな場所を襲うなんて、許せないよ」
「そうだな。折角の紅葉狩りにふざけやがって」
 そんなイノリに声をかけたのは木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)。
「家族や仲間、友達とのハッピーな時間を血に染めさせて堪るかよ」
「ん、紅葉を楽しんでいる人達を襲うなんで許せないの!」
 フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)もイノリとウタと一緒に。ゆっくりと公園を歩き始めるのだった……。

 そんな公園を歩く者たちとは別に動く者もいる。
「さて、デウスエクスは任せたでござる」
 ウィリアム・シュバリエ(ドラゴニアンの刀剣士・en0007)は消防警察の担当者と軽く打合せを行っていた。
「住民の避難は任せた」
「頼んだぜ!」
「うむ、任せるでござる」
 そう言って、ウィリアムは警察消防と協力して避難誘導の準備に向かった。

 ウィリアムが避難準備に向かったところで、本格的に動き出すケルベロスたち。
「俺たちができることを……全力でやるまでだ!」
「そうだな。一般市民や、女性陣が襲われないように警戒しつつ探すぜ」
 隠れている堕落の蛇を先に発見出来れば先制攻撃が出来、それだけ避難も安心して行えるだろう。
「まずは、この不埒な蛇たちの発見だな!」
 和人とデュオゼルガは公園をゆっくりと歩きながら周囲を警戒し、堕落の蛇を探す。
 影士は冷静に紅葉を眺めるフリをしながら、周囲を警戒している。
(「早く見つけなければいけないが、焦りは禁物。必ずどこかに手がかりがある」)
 焦る気持ちを抑えながら、ゆっくりと歩く影士。発見が遅れれば、逆に堕落の蛇の奇襲を受ける事になる。
「絶対に守り抜くぜ」
 ウタは木に登り、他の人とは違う視点で堕落の蛇を探している。
 別の場所では、のんびり歩いて散策する風を装うシエラ。もちろん、警戒を怠る事は無い。
 そんなケルベロスたちの捜索の中で、注意した点は襲われる可能性の高い女性。
 その情報を元に、ケルベロスたちは狙われる可能性が高い女性の周囲を密に警戒していた。
「……」
 最初に発見したのはシエラ。それもそうだろう。狙われたのは彼女自身。殺意を感じながらも冷静に、何気ない動きにハンドサインを潜ませ、仲間たちに伝える。
「紅葉、きれいだね」
「ん、きれいなの」
 イノリとフォンは一緒に散歩しながら、紅葉を楽しんで……いるフリをしながら周囲を警戒していた。
(「ボクの後ろ……」)
 自然な動きで、フォンの肩に軽く触れるイノリ。同時に接触テレパスでイノリが見つけた堕落の蛇の場所を知らせる。
 フォンも気づいていた。
(「ん、わかったの」)
 イノリの接触テレパスにそっと折り紙で作った紅葉を渡して答えるフォン。
「センサーに察知! 蛇さん、こっちでも見つけたよー!」
 最後の一体を発見したのはクロエ。様々なガジェットを使用して、隠れていた堕落の蛇を発見。最後の一体も狙っていたのはクロエ自身。
 事前の情報通り、女性を狙っていたようだった。
「……じゃ、さっさと終わらせちゃおうか?」
「よし、先制攻撃だね! わたしも合わせる!」
 シエラとクロエの言葉が引き金となって、全員が動く。戦いの開始だ!


「安心して逃げてくれ! ケルベロスにまかせとけって!」
 凛とした声を響かせながら、避難していく人たちに声をかけるウタ。人々を安心させるように、力強く手をぐっと握って見せる。
「こっちに避難するでござる」
 その先ではウィリアムと警察消防の方々が誘導を行い、整然と避難が進んでいた。
 避難開始と同時に奇襲を開始したケルベロスたち。最初に動いたのはシエラ。
「……お仕事ご苦労様」
 足元に隠れていた堕落の蛇を無造作に蹴り上げる。
「そして、ご愁傷様だったね?」
 宙に浮いた蛇をそのまま流星の力を込め、蹴り抜く。
「こそこそと隠れるのはもうやめたのか」
 見つかっているのに隠れている姿は少々滑稽。影士は黒太陽を具現化し、足元に隠れている堕落の蛇を指差す。
「クッシャァ!!」
 隠密行動を見破られた堕落の蛇は、奇声を上げ襲い掛かろうとするも、その前に影士が動く。
「ならば此処で、焼かれて消えろ」
 体当たりしてくる蛇を拳で払い落とし、堕落の蛇たちへ黒光を照射して焼き焦がす。
「ダッシャァ!」
 他の二体が発見されたと気付いたのか、クロエを狙っていた堕落の蛇が動く。
「くるか……! 情報通りだな……っ!」
 来ると分かっていた攻撃に、防御の姿勢を取るクロエ。
「防いで見せる、スチームバリア」
 同時に動力装甲から魔導金属片を放出させ、自身の防御力を上昇させ、堕落の蛇の体当たりを耐える。
 ケルベロスたちの奇襲を受け、姿を表した堕落の蛇たちを狙い、デュオゼルガと和人が動く。
「旅人だからってナメんなよ……!」
 堕落の蛇を睨むデュオゼルガ。同時に、空色装甲のバトルガントレット『ルプスガントレット』に力を込める。
「俺にも狼の意地ってもんがあるんだッ!!」
 続く言葉と共に、グラビティチェインを拳に集中、凝縮させるデュオゼルガ。
「俺は……もう、振り返らない!」
 デュオゼルガの動きに合わせ、刀にグラビティチェインを纏わせ燃え猛る和人。
「餓狼の拳、その身に叩き込んでやるぜェ!!!」
「この刃は……護る為にあるんだ!!」
 三体の堕落の蛇を巻き込み、デュオゼルガの圧縮されたグラビティチェインと和人の豪炎の抜刀斬撃で嵐を巻き起こす。
「ラッシャァ!」
 二人の攻撃を受けながらも奇声を上げ、反撃しようと暴れもがく堕落の蛇たち。
「叶えたい夢があるなら思いのまま迷わず翔け抜けろ!」
「その思いを胸に、一歩でも二歩でも先に行こう♪」
 ウタとイノリの二人の歌声と演奏が公園をコンサート会場に変える。そして、ウタの歌声が一陣の風を呼び、仲間たちに何もの囚われな力を与え、イノリの歌声が新時代を築く強さとなり、堕落の蛇を圧倒していく。
「ん、みんなを守るの」
 二人の演奏と歌声に乗せるように、フォンは懐から紙兵を取り出す。それは、丁寧に手織りされた動物達の折り紙。それが宙を舞い踊り自身を中心にイノリやデュオゼルガを支援させる。
「ダッシャァ!」
「ラッシャァ!」
「クッシャァ!」
 ケルベロスたちの連携の取れた先制攻撃を受け、怒りを露わにする堕落の蛇たち。奇声を上げながら蛇行し体当たりを繰り出したり、毒を吐き出したり、足元に絡みついたりと反撃を繰り出してくる。
 それに臆するケルベロスたちではない。
「こそこそと女を狙う下種野郎め!」
「さっさと消えて……」
 ウタとシエラの言葉と共に、このまま勢いに乗り、堕落の蛇たちとの本格的な戦闘に突入するケルベロスたちであった。


「クッシャァ!」
 堕落の蛇が吐き出した毒を迎え撃つのは、デュオゼルガのオルトロス・ラゴゥ。吐き出された毒を睨みつけ毒の一部を蒸発させる。
「ラッシャァ!」
 体当たりを繰り出す堕落の蛇に身を挺して相対するのはフォンのボクスドラゴン・クルル。自身を箱で包み、箱ごと体当たりを繰り出す。
「皆の避難が終わったでござる」
 さらに、市民たちの避難誘導を終えたウィリアムも炎の息吹を吐き、支援しながら合流する。
「よし、これで心配要らないな」
 懸念事項の一つが解消された。奇襲が成功してからは、ケルベロスたちが一方的に押す展開となっている。
 しかし、油断は禁物。ダメージの大小はあるものの、無傷の者は誰も居ないし、毒などの被害も出ている。
 最後まで気を緩めないようにとフォンが応援を行う。
「ん、みんな気合いを入れて頑張るの!」
 気合いを入れて応援するフォンだが、気合いを入れすぎて、フェネックの姿に変わってしまっている。フェネックの姿でちょこちょこと応援する姿は皆を和ませる。
「うん、そうだね!」
 そんなフォンの応援に答えたイノリ。
「行こう、クルーン」
 静かな言葉に答えたのはオウガメタルのCroon。変幻自在の身体を変化させ、イノリを支える。
「一歩、その先へ」
 イヌの姿となったイノリがオウガメタルCroonと共に、積年の相棒のように躍動と変形を繰り返しながら、堕落の蛇を追い詰めて行く。
「クッシャァ!」
 ケルベロスたちの猛襲に、逃げ出そうとしたのか、それとも距離を取ろうとしたのか蛇行しながら離れる堕落の蛇。
「逃げられると思うなッ!」
「……ここから先へは行かさん!」
 そこへ回り込むのはデュオゼルガと和人。息の合った動きで連携を繰り出す。
「俺の拳は硬いぞッ!」
 先に動いたのはデュオゼルガ。獣化した拳を握り、その先に重力を集中させ撃ち抜く。その拳は堕落の蛇の顎を捕らえた。
「グッシャァ!」
 悲鳴のような音を出す敵を容赦なく追撃する和人。
「一刀……両断ッ!!」
 納刀状態から放たれた居合の斬撃は堕落の蛇の胴体を捉える。
「クシャァ!」
 それにも耐え、反撃をしようと顎を開くが、そこへ和人の斬撃とデュオゼルガの拳撃が再び交差する。
「これで最後だッ!」
「断ち切るッ!」
 二人の撃が交差した直後、一瞬の沈黙が訪れる。
「……」
 一瞬の空白ののち、堕落の蛇は崩れ落ち地面で黒い霧となり消滅した。

「まずは一匹……じゃあ、次だ」
 一体目が倒れたのを冷静に確認し次に移るシエラ。
「ダッシャァ!」
 仲間が倒れ、激怒したのか体当たりで反撃する堕落の蛇。
「……まだ、まだ」
 それを掻い潜り、懐に入り込む。その動きは常人には出来ない動き。彼女は感覚神経を活性化させ、運動能力と反射速度を強制的に極限状態まで高めていた。
「ダ……ダッシャァ!」
 しかし、その超反応に無理矢理反応し、身体を捩る堕落の蛇。
「……踏み込める!」
 その無理矢理の動きをさらに超え、さらに半歩踏み込むシエル。
「……シャァ!」
 シエラの動きに付いて行けず体勢を崩したとことへ、下段から放つカウンター気味の鉄槌。その一撃は敵の真芯を捉える。
「ダ……」
 そして、そのまま堕落の蛇は沈黙し消滅した……。

「そっちが毒蛇なら、こちらの毒も受けて貰おう」
 影士が言葉と同時に魔法陣を描き始める。
「猛き炎を持つものよ。忌わしき牙を持つものよ。我が命運切り開く為に。その身に宿りし力を以って、喰らい尽くせ、立ち塞がるものを」
 詠唱と共に現れるのは炎の毒蛇。その長い身体を堕落の蛇に絡ませ、炎で包みさらに頭ごと喰らい牙を突き立てる。
「ラ、ラッシァァ」
 表面が焦げ、毒により動きが鈍くなるも、身体を這わせながら、ケルベロスたちのグラビティチェインを奪おうと動く。
「かき鳴らす調べと響く歌後が、運命を切り裂く風を呼ぶ♪」
 そんな堕落の蛇の気迫に負けないように、ウタが歌声を響かせ、クロエたちを鼓舞する。
「キュアありがとう! 助かったよ!」
 ウタの歌声を受けて、気合いを入れ直すクロエ。
「時間の止まれ……!」
 クロエの静かな言葉と共に、発動するのは彼女が封印している禁術。対象の時間を数秒だけ操る術。
「ディスティニー・オブ・マキナ!」
 時間操作と同時に武器に電撃の呪文を付加する。
(「……この時間だけは、時間を私色に塗り替える……っ」)
 操られた時間の中で、身動き出来ずに振り下ろされるのは、雷撃を帯びたブリッツベイル。
「ラッシャァァァ!」
 クロエの攻撃を一切の防御も出来ず受けた堕落の蛇は、時間操作から解放された瞬間に白炭と化した。
 これで三体全ての堕落の蛇を撃破した。ケルベロスたちの勝利だ!


「こ、公園が廃墟になってる!?」
 堕落の蛇を倒した直後、クロエが何かを口走る。しかし、公園はケルベロスの活躍により平和を取り戻している。
(「時間軸が跳んだ!? あっ、違う代償か……」)
 一瞬、意識が揺れたクロエだったが、すぐに正気を取り戻す。
「クロエさん、どうしたの?」
「ん、大丈夫なの?」
 そんなクロエを心配そうに覗き込むイノリとフォン。
「ごめん、クラっとした」
 そんな二人にそっと笑顔を返すクロエ。

「……ふう。疲れた。ゼル、なにか食いに行かないか?」
「おう、カズ。いい案だな。けど、何か美味そうな気配がするんだよな」
 そう言ってデュオゼルガの視線を追う和人。その先にはウィリアムとイノリが何か話をしていた。
「ウィリアムさん、『うむ』って言ってたのなんだったの?」
「ん、気になるの」
 イノリとフォンは、ちょっと気になった事をウィリアムに聞いていた。
「うむ、ちょっと待つでござる」
 そんなイノリとフォンの言葉に笑顔を見せ、ウィリアムは鞄から取り出したのは、紅葉の形をした饅頭。
「紅葉狩りと共に饅頭を食べようと思ってな」
 あの『うむ』の時に本当にそんな事を考えていたのかは不明だが、紅葉型の饅頭を用意していたのは本当の事。
「さ、一緒に食べぬか?」
 九人で食べるには多すぎるほどの紅葉型の饅頭を丁寧に山盛りにしてから、お茶の準備までしている手際の良さは、ある意味ウィリアムらしい。
「ん、それじゃ食べるの。いただきますなの」
 そんな饅頭に手を出したのはフォン。パカっと半分に割ると、出てくるのは白あん。
「俺もいただくぜ」
「俺も!」
 美味しそうな饅頭に、同時に手を出すデュオゼルガと和人。二人が食べたのは仲良くこしあん。
「これは……うぐいすあんだね」
 シエラも左手でもみじ饅頭を取る。シエラのは、緑色鮮やかなうぐいすあん。
「ボクのは……お芋?」
 イノリが食べたのは、サツマイモを練りこんだ独自のあんこ。もしかしたら、ウィリアムお手製なのかもしれない。
 他の者達も各々、饅頭に手を伸ばす。
「一緒に緑茶もどうぞでござる」
 ウィリアムの煎れてくれたお茶を飲みながら、紅葉を眺めるケルベロス達。
(「また兄さんと出会う為に……頑張ろう」)
 つぶあんの饅頭を食べながらクロエは心の中で呟く。
「これで竜の支配の軛から解放されたな。蒼き地球で安らかに」
 そんな中で静かにギターを爪弾くウタ。その曲は鎮魂曲。ウタの優しさが込められた演奏と共に蒼き地球の四季の移り変わりを楽しむケルベロス達であった。

作者:雪見進 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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