●
「それじゃあ次の曲、行ってみよーー!」
小規模なライブハウスで、爽やかな汗を流す少女――YUKINAと名乗るアイドルがいた。アイドルらしい王道のポップミュージックに乗せて紡がれる透明感のある歌声は、決して飛び抜けて上手い訳でもなければ、飛び抜けて可愛い訳でもない。
「オオオオーー!! YUKINA! YUKINA!」
しかしそれでも、その場にいる30人のファンにとっては、少女は最高のアイドルに違いなかった。真剣にただ見つめる者、オタ芸を披露する者、はたまた、YUKINAのアイドル活動を応援する両親の姿もあり、どこかアットホームな雰囲気に満ちている。
「ウエーーイ! うちに注目しぃや!」
だが、そんな雰囲気も、唐突な終わりを迎える。
「……は、え?」
突然曲が中断され、YUKINAが困惑の声を上げた。
ズカズカと躊躇なくステージ上に昇ってきたのは、鮮やかな緑の髪色、ラフなウェディングドレス風の衣装、関西弁が特徴的な少女。
少女は、YUKINAを押しのけるようにして言う。
「あんたには悪いけど、こいつらはうちが貰うで? にししっ!」
「……それってどういう――」
緑の少女は、何の邪気もなく笑った。だが、YUKINAがその意味を知る事は無い。何故なら、YUKINAはいつの間にか背後に迫っていた緑の少女の配下、オタゲイジャーによって、気絶させられたからだ。
「「雪菜!!」」
倒れる娘の姿に、見守っていた両親がステージに上がってこようとする。
「なんやあんたら、この子の親かいな。親が見る来る地下アイドルなんて珍しいんやないか?! まぁええわ、ともかく始めるでぇ! 有り難く両親も頂きや!」
緑髪の少女が指を鳴らすと、オタゲイジャーが音楽を鳴らす。YUKINAの奏でる音楽ジャンルとは違い、それは一般に『電波ソング』と呼ばれる類いのもの。猛烈な勢いはあるが、王道アイドルを好むYUKINAのファンの琴線には響かない――はずだった。
「オオオオーー!! YUKINAより可愛いし、歌も上手い!」
「~~~~♪ うちの名前は『夏至』リョッカや! 頭に刻みつけときや!」
「リョッカ! リョッカ! リョッカ最高!!」
しかし気付けば、YUKINAのファン達は催眠と、一見ハチャメチャに見えるリョッカのパフォーマンス、オタゲイジャーの盛り上げに魅了されていた。
やがて、リョッカの言うがまま、ファン達はライブハウスを出てどこかへ行ってしまう。その中には、YUKINAの両親も含まれているのであった。
●
「皆さん、予知により、新たな事件の情報が! どうやら、アイドルとして地球社会に潜伏していた螺旋忍軍が、動き出した模様です!」
山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)の説明によると、アイドルに扮する螺旋忍軍達は、他のアイドルのライブに乱入し、罪もないファンを連れ去ってしまうようだ。
「実は、山下・仁(ぽんこつレプリカント・e62019)さんが、この件について危惧を表明していました。連れ去られてしまったファンの方達が、黒幕と予想されるシャイターンの元に送られ、シャイターンの選定を受ける事を……。必然的に、ファンの方達は死ぬか、エインヘリアルになるかを強制されてしまいます!」
阻止のためには、すぐにライブハウスに急行し、螺旋忍軍を撃破する他にない。
「現場の状況としましては、100人程度が収容できる箱に、ファンの方達が30と、スペース的な意味での余裕はありそうです。戦闘に支障はないでしょう。ここで元々ライブをしていたのは、芸名をYUKINAと名乗るアイドルの方で、日本的な王道のポップミュージックソングで人気のようです。踊りも可愛らしい感じのようですね。YUKINAさんは現在、螺旋忍軍によって気絶させられています」
一方。
「皆さんに相手取って頂く螺旋忍軍――『夏至』リョッカは、電波ソングを得意としているようです。歌に関しても踊りに関しても、とにかく勢いだけは凄い……といった感じですね。『夏至』リョッカ個体としての性格も、そのようなものなのでしょう。また、彼女が手にしている黒と赤の薔薇には毒があるようなので、お気をつけ下さい。配下のオタゲイジャーは2体が確認されており、どちら共がDfとの事です」
『夏至』リョッカは、ケルベロスとの交戦が開始されると、オタゲイジャーにケルベロスを任せ、ファンを引き連れて逃走を試みようとする。阻止するためには、戦闘を始める前に、ステージに『アイドルとして乱入』した後、『夏至』リョッカからファンの心を奪い取る必要がある。
「ファンの方達は、催眠、幻惑によって、正常な判断力を失っています。ですがその分、『アイドルの魅力を判断する能力』が高まっていて、『夏至』リョッカを上回るパフォーマンスを行う事ができれば、一挙にファンの心を奪い取れるでしょう」
ケルベロスがファンの心を奪えば、『夏至』リョッカがファンを連れて撤退するには、再度ファンを取り戻さなければならない。それができない限り、『夏至』リョッカの撤退はないだろう。
「ファンを奪わずとも、『夏至』リョッカの撤退を防ぐ事は不可能ではありません。ですがそのためには、隙を見てファンを連れ出そうとするアイドル螺旋忍軍の撤退を阻止する作戦が必要になるでしょう」
桔梗が、ケルベロス達を見渡す。
「YUKINAさんのファンが真に望むのは、王道です。『夏至』リョッカのような色物さんは、本来好まないはず。そこにファンの皆さんを救うためのヒントがあると思います! それと、この件の黒幕とされるシャイターンの存在も気になる所ですねっ!」
参加者 | |
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リリィエル・クロノワール(夜纏う宝刃・e00028) |
ミツキ・キサラギ(剣客殺し・e02213) |
アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715) |
ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051) |
猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868) |
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164) |
冷泉・椛(ただの女子高生・e65989) |
花津月・雨依(壊々癒々・e66142) |
●
(「にししっ! あんたのファン、あっという間にうちの魅力にメロメロやないか! あんたのオカンとオトンも頂いていくで!」)
「リョッカ! リョッカ! リョッカ最高!!」
『夏至』リョッカが電波ソングを唄い終えると、ライブハウスにはYUKINAの存在を気にかける者は誰一人として存在しない。虚ろな瞳のまま、ただひたすらにリョッカを至高のアイドルとして称賛し、崇敬している。
すべてがリョッカの思惑通り。後は、この愚かなファン達を連れ出すだけであり――。
「な、なんや!?」
だが、次の瞬間、リョッカにとって想定外の事が起こる。
突如ライブハウスをスモークを覆ったのである!
「パフォーマンススモークの作動を確認しました!」
モクモクとスモークが焚かれる中、花津月・雨依(壊々癒々・e66142)が言った。
「さぁ、ファンの心、皆で掴んじゃいましょうよ!」
「です!」
すると、リリィエル・クロノワール(夜纏う宝刃・e00028)とアンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)がステージ上に駆け上がる。その後に、ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)、猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)、プリンセス変身したジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)が続く。
「雨依、スモークのタイミングバッチリだったぜ?」
「それはもう、勉強しましたから!」
「椛は照明の準備、大丈夫か?」
「もちろんだよ。ライトアップなら、私にお任せだよ!」
「なら、お手並み拝見といこうか」
ミツキ・キサラギ(剣客殺し・e02213)、冷泉・椛(ただの女子高生・e65989)、雨依が視線を交錯させる。
雨依がスモークが切れるまでのカウントをとる。やがて、カウントがゼロになると。
「今だねっ!」
椛が、ジークリット命名のケルベロスアイドル――『サーベラス』の面々の頭上をライトアップ。
突如現れ、手を繋いで愛嬌を振りまく『サーベラス』に、観客達の視線が集まると、指をパチン! と鳴らし、椛がほくそ笑んだ。
「それじゃあ俺達も行くぞ!」
マフラーで顔半分を隠しながら、ミツキがベースを、椛がギター、雨依がトランペットを手に、『サーベラス』の後方に陣取る。
「……YUKINAさん」
雨依が、気絶しているYUKINAに、痛ましい視線を送る。雨依はYUKINAについて知識を得て、その過程で彼女のファンに。今や彼女のステージは乗っ取られ、両親は支配されてしまっている。
「絶対にステージを成功させないとですね」
雨依は強い気持ちを込め、トランペットを構えた。
「皆さんお待たせしましたー!私達の歌でいっぱい楽しい気持ちになってくださいねっ」
ライトアップされた瞬間、ロージーは花が咲くような笑みで観客に呼びかけた。
「みんなー! 今日はウチらの為に集まってくれて、ありがとなー! いっぱい楽しんでいってなー!」
それに、千舞輝が続く。
最初こそ、「あれ誰だ?」「リョッカちゃんの邪魔するな!」そう野次っていた観客だが、次第に『サーベラス』の魅力に絆されるように、反応が好意的なものに。
(「……アイドル、か。憧れはあっても、縁などないものと思っていたが……」)
現実は小説よりも奇なり。作戦の一環ではあるが、ジークリットは確かに今、アンジェラの指導通りに、観客の目を熱っぽく覗き込み、ロージーを見習って明るい笑みを浮かべていた。
「あとは、ジークリットちゃんが心から楽しむ事よ! 演者が楽しんでこそ、お客様の目を引いて楽しませることができるのよ。ふふ、楽しんでいきましょっ!」
「あ、ああ!」
緊張を隠せないジークリットに、耳元に口を寄せたリリィエルもアドバイスを。一生で一度の機会かもしれない……後悔しないよう、泡沫の夢に浸るようにジークリットが目を細めていると、
「なんや、あんたら! なに急に乱入してきとんねん!」
当然リョッカ達が黙っているはずもなく、おまいうな文句を恥知らずにも口にしてくる。
「若干ウチとキャラ被ってるキミは黙っとき! 関西弁キャラは二人もいらんのや!」
「な、が……なぁ!?」
だが、千舞輝に一蹴、他のケルベロスには無視され、リョッカは口をパクパクさせながら震えるしかない。
(「YUKINAさんの衣装、参考にさせてもらいました、です! YUKINAさんに変わって、必ずファンの皆さんを取り戻してみせます、です!!」)
アンジェラが、フリフリキラキラ、水色の衣装でクルリと一回転。王道アイドルらしく、それぞれカラーが違う。アンジェラなら水色、千舞輝ならピンクのように。
「それでは、アイドルの王道! 明るく可愛いメロディのポップスを披露しましょう! 恋人との素敵な未来を思い描く女の子の気持ちを歌った曲です。タイトルは――」
スターライト・ドリーム!!
ロージーが宣言すると、ミツキ、椛、雨依が、キャッチーなメロディーを奏でる。
「この曲、そんな曲名だったんだな。確かに王道ではあるな」
「私も初めて知ったよー!」
「本業でアイドルをやっているというロージーさんのオリジナル曲なんでしょうか?!」
演奏しながら、コソコソとそんなやり取りがあるのも、即席アイドルの醍醐味か。
「君と並んで見る夢は、キラキラ輝く素敵な未来っ♪」
観客に手を差し伸べ、恋する乙女のように頰を染めながら、ロージーが唄う。
(「あら、踊りなら私もロージーちゃん達にだって負ける気はないわよ?」)
唄で盛り上がっていると、自然と観客達はリリィエルの踊りに目を吸い寄せられる。
(「こんなアイドルを意識した衣装で踊った事は無いけれど、たまにはいいものね」)
注目を集めている事実が、リリィエルの背筋をゾクリと震わせる。気をよくしたリリィエルは、今日だけは夜の華ではなく、皆の心に咲き誇る可憐な華になろうと心に決めた。
(「みなさんが、本当に好きだったものが、どういうものだったか…思い出してください、です!」)
アンジェラが、一人一人観客を見つめながら、精一杯のダンスと歌声を届ける。
(「恋とか愛とか歌ってキラキラっとして、そういうのがええんやろ、なぁ、なぁ! ――って、ウチあかん! これ結構キッツいわ! がんばれウチ、これが終わるまで……火詩羽助けてや!!」)
ツーサイドアップの髪を揺らし、精神的にも肉体的にも限界に達しながらも、千舞輝はなんとか笑顔を維持。無論、アイドル服を無理矢理着せられた火詩羽(♂)には無視される。
(「さすがだな、千舞輝も。マネージャーとして何人ものアイドルを育て上げてきたと言っていただけある。アンジェラだって初心者なのだから、私も負けぬようにしなければ!」)
ヒーヒー言っている千舞輝の心中を知らないジークリットが、戸惑いを振り切るように踊り、声を張り上げる。
そのパフォーマンスに、熱に呼応するように。
「オオオオーー!! サーベラス! サーベラス!」
観客は盛り上がっていた。オタ芸を披露し、PPPHが鳴り響く。
それは、『夏至』リョッカを過去の存在とするに、十分なものであった。
●
「あ、あ……あ、あんたら! なんちゅう事を!!」
リョッカは、地団駄を踏んでいた。ケルベロスの活躍により、このままでは観客を連れ出す事ができないからだ。
「ふふ、思い通りに行かなくて残念でした、です♪」
アンジェラが、クスリと笑って挑発する。
「この人達を催眠で操って連れ出すなんて、絶対にさせないよっ!」
椛が、敵意を込めて睨み付けた。
と、なれば。
「オタゲイジャー、準備はええな!」
「オッス!」
「リョッカちゃんをイジメる奴は許さん!」
リョッカ達に、実力行使の他に選択肢はない。
「うちの歌を聴けーー!」
猛烈な勢いをもって、リョッカが電波ソングを奏で始める。
対するケルベロス達も、望む所。
アンジェラが美しい虹を纏う急降下蹴りで先陣を切ると、
「私達がファンの心をガッチリ掴んじゃったから、嫉妬しているのかしら」
リリィエルが、暴風雨を纏う強烈な回し蹴りで、早速オタゲイジャーに掛かった耐性を剥がしにかかる。
「リョッカさん達は、ファンの皆さんへの愛情が足りなかったでたいですね!」
ロージーが、冷気を帯びた手刀を前衛に纏めて叩き込んだ。
「よーやっとアイドルから解放や! やっぱNEETにアイドルは無理やったんや、ノリノリだった事に対する突っ込みは勘弁やで!」
千舞輝が、イチノヒで覆った拳をねじ込む。火詩羽が、ヤレヤレと肩を竦めるような仕草を見せながら、翼を羽ばたかせた。
「特に恨みはないが……ま、ここで会ったが百年目――って、なんだそりゃ!」
うお座をゾディアックソードの刀身に輝かせ、オタゲイジャーに狙いを定めていたミツキが瞠目する。
「「オー! オー! オー! オー!」」
ペンライトを振り乱し、彼等は突如キレキレのオタ芸を披露したのだ。ヒールに加えて守りを固めたオタゲイジャーが、ミツキの痛打を阻む。が、ミツキの攻撃は単純な威力を期待してのものではない。
「ふっ、フリフリの衣装のまま戦闘というのも、またとない期待……か」
羞恥神などとうに捨て去ったジークリットは、オタゲイジャーが守りを固めても慌てず騒がず、心刀一体を体現し、ゾディアックソードに重力を宿して斬り払う。
椛が狂気を解き放つと、その狂気をまずは前衛の面々に伝染させていく。
「ご両親やファンの皆さんが楽しみにしていたステージ、返してもらいます!」
雨依が、煌めきと重力を宿した飛び蹴りを喰らわせた。
●
「ちょーー、邪魔すんなや!」
「なっ、リョッカさんこそ、オタゲイジャーに守られっぱなしじゃないですか、です!」
広範囲に渡る破剣の付与が厄介かつ戦闘力の劣る椛を潰そうと、リョッカが強力な毒性を有す危険な赤と黒薔薇の棘を飛ばす。だが、耐性的に相性のいいアンジェラに庇いに入られ、ギリギリと歯軋りを。
「気にするな、アンジェラ。それが関西人の特徴だ」
「そうよ、アンジェラちゃん。私のステージにもね、たまに来るのよ、そういうお客様が……」
うるさいというか、騒がしいというか……とにかく我の強いリョッカに辟易とするアンジェラに、ジークリットとリリィエルが助け船を出すが、「風評被害や、風評被害! それにそいつ関西人とちゃうやろ!」千舞輝が抗議する。
「ごめんなさいね、千舞輝ちゃん」
リリィエルがウインクをしながら謝ることで、一先ず場を納めた。
「ネコマドウの三十三、「可愛さ余って猫さ百倍」。当社比です」
千舞輝が50円を対価に、ハートを抱えた猫を召喚。アンジェラにハートをぶつけさせ、可愛さで癒やす。
「たくっ、馬鹿やってる場合じゃないだろ」
ミツキが右手のナイフを歪に変形させながら、顎をしゃくる。そこには凍傷を耐性で消化しきれず、瀕死のオタゲイジャーが。
「始末……じゃないな、撃破させてもらうぜ?」
「リョッカちゃん、俺は! 君を最後まで守る!!」
悲壮な覚悟を決め、ケルベロス達の精神を動揺させようと念波を送るオタゲイジャーに、ミツキが容赦なくナイフを突き立てる。
「風の刃、見切れるか!?」
さらに、ジークリットが間髪入れず、剣を斬り上げて真空の刃を撃ち出した。
「最後の足掻きって訳ね。でも、私達には通用しないよ?」
念波の影響を、椛はすぐさま光り輝くオウガ粒子を放出して最小限に。
「そう易々とやらせはせん!」
もう一体のオタゲイジャーが、ペンライトセイバーを振り上げ抵抗を見せるが、火詩羽が抑え込んだ。
「まずはあなたから、YUKINAさんを、YUKINAさんのファンを、YUKINAのご両親の心を歪めた報いです!」
「リョッカちゃ……!」
雨依のエクスカリバールがオタゲイジャーの肉を抉り、ステージの上に沈める。
「私達アイドルは、いつだってファンの皆さんの心の恋人であろうという心意気をもってなくてはいけません。ファンの皆さんを思い通りにしようとした時点で、あなた達の敗北は決まっていたのですよ!」
ロージーが、焼夷弾をばら撒く。
オタゲイジャーは互いの攻撃を庇い合っていたため、残されたもう一体も相応に負傷が激しい。徹底したエンチャントのブレイクと、継続ダメージによって、死は加速度的にオタゲイジャーに近づいていた。
「くっ、このおおおお! リョッカちゃん……守れなくて、ごめん……!」
もう一体のオタゲイジャーが撃破されるまで、必然、長い時間はかからなかった。
「楽しくギターが弾けた事だけは、感謝してもいいよ。許さないけどねー!」
「つかまえました、逃しません、です!」
喰霊刀を振って発生させたカマイタチで、椛はリョッカがオタゲイジャーに庇われている間に溜め込んだ耐性が吹き飛ばす。
椛とのコンビネーションで、アンジェラは無防備になったリョッカの懐に瞬時に飛び込むと、広範囲の間接を極めた。
「ぐっ……ひぎぃ! アイドルユニットSummer Brideの一員として、まだ死ぬ訳にはいかんのや! まだぁ!!」
ギリギリと、リョッカの全身が悲鳴を上げ始めている。そんな状態でもリョッカは執念を燃やし、氷結の螺旋を放つ。
しかし、オタゲイジャーを失った時点で、リョッカに勝ち目はなく。
「残念だけど、さようなら……よ」
リリィエルが、彼女に相応しい夜纏う刃をリョッカに突き立てる。リョッカは次第に霊体に汚染され、もう二度とその姦しい口を開く事はなかった。
ふいに――パチパチパチ!
敵を滅したケルベロスに、正気を取り戻した観客から、拍手喝采が。
(「そうか……この瞬間、この達成感は……何物にも代えがたい物……なのだな」)
ステージの上で起こったアイドル達が主役の舞台の終幕に、ジークリットは得も言われぬ感情に満たされるのであった。
リリィエルはアンコールに応え、ステージで踊りを披露していた。求められればやる、それがリリィエルという女性だ。
「大丈夫、ですか? ぜひファンのみなさんにも、一声かけてあげてください、です♪」
「私はあなたのファンです。あなたにも、ご両親にも胸を打たれました。だから……行って下さい」
だが、リリィエルの一人舞台にしておくには、惜しい少女が一人いる。
アンジェラと雨依が告げると、その少女――YUKINAは力強く頷いた。
同じアイドルとして、ロージーがその背を押す。
ジークリットは、どこか憧憬するようにその背を見つめていた。
「楽しみにしてるよ!」
椛が笑いかけた。
ミツキと千舞輝が、コクリと頷く。
リリィエルに出迎えられ、YUKINAがステージに昇ると、すぐにYUKINAコールに満たされる。
「みんなー! 心配させてごめんね! それじゃあお詫びに次の曲、行ってみよーー!」
そう、ここはYUKINAが主役のステージなのだから。
作者:ハル |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年10月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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