金木犀の手仕事

作者:雨音瑛

●オープンカフェカフェ『金木犀』
 植えられた木々の葉、その色が変わり、時折落ちては舞う。
 暑くも寒くもないこの季節、とある駅前の広場では椅子やテーブル、テント、購入できる雑貨の入ったボックスケースが設置されていた。木製の看板に描かれた文字は『秋限定運営オープンカフェ「金木犀」』。
 提供されるのは、珈琲や紅茶などのドリンク、サンドイッチやケーキといった軽食メニューだ。
 ボックスケースに入れられた雑貨は、どれも金木犀をモチーフにしたもの。ペンダントやブローチといったアクセサリーから、香水やお香といった香りのするもの、手拭いやグラスといった日常使いできるものなど。
 温かい飲み物であったまった後は、ボックスケースに入れられた雑貨たちを眺める者も少なくない。
 もっとも、降り注ぐ巨大な牙はそんな楽しみとは無縁のようで。広場に突き刺さるが早いか、牙は鎧兜を纏った兵として顕現し、手当たり次第の虐殺を行うのだった。

●秋めく日に
 秋季限定のオープンカフェに竜牙兵が現れ、人々を虐殺する。そんな事件が起こるのでは無いか、と危惧していたのはスプーキー・ドリズル(レインドロップ・e01608)であった。
 スプーキーは、真剣な面持ちでヘリオライダーから聞いた情報を伝える。
「今から現地に向かえば凶行を阻止できる。けれど、竜牙兵の出現前に避難勧告を出してしまうと、竜牙兵は他の場所に現れてしまうようなんだ」
 そうなれば、事件を阻止できないばかりか被害がさらに拡大することを意味する。
「人々の安否は心配だけど……幸いなことに、ケルベロスが到着した後は警察に避難誘導を任せられるらしいから、竜牙兵の撃破に集中できそうだね」
 警察へも連絡済みだというから、何ら憂うことなく戦闘に入ることができるだろう。
「さて、出現する竜牙兵の数は4。うちクラッシャーが2、スナイパーが1、メディックが1という話だよ」
 装備している武器は、次のとおり。クラッシャーとメディックはバトルオーラを、スナイパーはゾディアックソード、だという。
「戦闘となる場所は、オープンカフェのある駅前広場。時間は午後2時で秋晴れときたら、オープンカフェを楽しむにはなかなかの好条件といえるかもしれないね。もっとも、竜牙兵はお呼びじゃないのだけれど」
 そう言って、スプーキーは苦笑する。
 なお、竜牙兵はケルベロスとの戦闘が始まった後は一般人を攻撃することはなく、撤退もしないということだ。
「そんなわけで、竜牙兵退治が終わったら、オープンカフェでひと休みなんてどうだろう? 金木犀の雑貨も、どんなものがあるか気になるしね」
 付け足し、スプーキーは笑みを浮かべる。
 戦いの後、平和になった場所を真っ先に楽しめるというのはケルベロスの特権かもしれない。


参加者
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)
スプーキー・ドリズル(レインドロップ・e01608)
西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
クラリス・レミントン(暁待人・e35454)
アベル・ヴィリバルト(根無しの噺・e36140)
鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)

■リプレイ

●壊す者と護る者
 駅前広場の穏やかな空気に、西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)は眼鏡の奥で目を細めた。脳裏をよぎるのは「小春日和」という言葉だ。
「こんな日は秋の風情をのんびり楽しむのが贅沢――って訳にも行かなそうですね」
 ちらり見た上空には巨大な牙4つ。竜牙竜星雨の一端だ。
 これから起こることは、既にヘリポートで聞いているネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)である。
「悲劇など秋の穏やかな日には似合わんからな。お呼びでないものにはご退場頂こう」
 そうして牙の着地地点を見定め、少しばかり下がった。地震にも似た衝撃に、灰色の髪がふわりと浮く。
 突き刺さった牙は一瞬で変形し、鎧兜を纏った兵の姿となった。
「来ますよー、皆さん気をつけてくださいね〜」
 鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)がもふもふの尻尾を揺らして警戒する。
「そのようだね。鮫洲も充分に気をつけて。回復、頼りにしているよ」
 そう言ってスプーキー・ドリズル(レインドロップ・e01608)は竜の翼を展開し、竜牙兵の前に立ちはだかる。纏う硝煙と焦げた砂糖の馨に、金木犀のそれが混じる。
「この花の馨を無粋な雨に掻き消させる訳にはいかないからね……お引き取り願おうか」
 彼の背後では、警察の指示で人々が避難を始めている。
 幾人もの足音を聞きながら、竜牙兵たちは各々の武器を構えた。
「フム、グラビティ・チェインを奪オウと思ッタが……」
「邪魔者がイルヨウダナ」
「先に排除スルとシヨウ」
「素敵な昼下がりの時間、邪魔者はどっちだろうね?」
 人形をしっかりと抱きかかえ、アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)が返す。
「人々の命は、ひとつたりとも散らせないよ。お前達は奈落の底で、ゆっくりお眠り」
 時間も場所もわきまえない竜牙兵に、クラリス・レミントン(暁待人・e35454)はふんわりと、それでも確かな意思を宿した声で話す。
 さーて、と竜牙兵たちを見渡すアベル・ヴィリバルト(根無しの噺・e36140)はどこか楽しげだ。
「甘い香りに存分に浸る為にも、一仕事と行きますかね」
「行くぞ」
 低く呟くレーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)の両腕は無く、今は地獄の炎で彩られている。巨大な縛霊手と炎の文様で彩られたゲシュタルトグレイブが、その腕を飾っている。
 相まみえた、壊す者と護る者。
 両者ともに、譲る気は無い。

●骨砕き
 竜牙兵の数は4。そのうち回復を得意とするものが1だ。
 ネロの担当は、回復を得意とする個体への攻撃だ。
「賑やかなのは好ましいが……骨の鳴る音は騒がしくて敵わん。無粋には灸を据えてやろう」
 髪を掻き上げ、言葉で炎を喚ぶ。
「呼吸をしろ、鞴を絶やすな、ネロの令だ」
 両腕が異形の形を取った。喚んだ炎が纏わり付き、ひとつの武器となる。
「グッ……!」
 圧される竜牙兵を藍の瞳に映し、吐息ひとつ。ネロの腕に灯っていた炎が勢いを収め、腕も元の形に戻る。
 すると、スプーキーのリボルバー銃「clepsydra」の銃口が、地面を示した。
「ハ、ドコを狙ッテイル!」
「ここだよ」
 スプーキーが自身のこめかみを人差し指で示した。直後、怪訝な表情をする竜牙兵の頭蓋に側面から弾丸がめり込む。
「さすがスプーキー。それじゃ私も見せようかな……昔取った杵柄、ってやつをね」
 クラリスの両の手が合わさり、指鉄砲が作られる。指先にエクトプラズムが収束し霊弾が出来上がれば、
「ばーん! ってね」
 一直線に、竜牙兵の腹部を貫通した。よろめく竜牙兵が体勢を立て直す。竜牙兵が顔を上げると、既にアンセルムの惨殺ナイフが眼前に迫っていた。
「これはどうかな?」
 アンセルムが見せた刀身に映るトラウマに、竜牙兵は頭を抱えて呻く。正夫は肩をすくめた。
「頭を抱えたいのはこっちですよ。毎度毎度、野暮な上、風采も悪いと来ましたからね」
 そのうえ目の前に広がるのは金木犀に竜牙兵という絵にならない絵。
「いきますよ」
 見てくれこそただの足刀は、空間を切り裂いて後衛の竜牙兵たちへと襲い掛かる。砕け散る音に続いて舞い散る骨の残骸は、つい先ほどまで癒しを担っていた竜牙兵のものだ。
「バカな!」
「手始めに1体を片付けたところで、次もサクっといきましょうか」
 息切れひとつせず、正夫はつま先で地面を何度か叩いた。
「ウグ……!」
 ともに足刀を受けた竜牙兵は、星辰の加護を自身の足元に描く。すると二体の竜牙兵が、手元にオーラを収束し始めた。
「次は我ラの番ダ!」
「コレデモ喰ラエ!」
 オーラが弾丸となって、正夫へと飛来する。ふたつ、立て続けの衝撃は竜牙兵の目論見とは異なる相手――レーグルの精悍な身体を穿った。正夫は小さく頭を下げ、礼を述べる。
「助かります、レーグルくん」
「構わぬ、これ位無傷のようなもの。さて――ヴィリバルト殿、行けるか」
「はいよ、レーグルに合わせるぜ」
 漆黒と紫の瞳が一瞬交わされ、竜人は動いた。
「ーー奏でよ、奪われしものの声を」
 マーコールに似た角が腕に灯る炎で照らされるのと、竜牙兵に呪詛が与えられるのはほぼ同時。
 直後、アベルは地面に落ちた小石を掴んだ。竜牙兵が警戒する好きすら与えず、小石は手にした弾丸、あるいは礫を以て敵の武器を砕くガンスリンガー――未だトリガーは引けず、その理由を口にもしないが――の業である。
「悪いね、手加減も遠慮も出来んのよ」
 いつの間にやら再び拾った石を手で遊ばせ、アベルは笑った。
「うんうん、順調です。それでは、わたくしは回復をしますね〜」
 そう言って、紗羅沙も緩やかに微笑んだ。
「あなたを導く燈火となりましょう」
 紗羅沙の秘法から現れた、見えざる導火。幻影により生み出されたそれは、レーグルに宿り、敵の動きを予測して命中精度を高めるものだ。
 連携して立ち向かうケルベロスの勢いは、苛烈に、迅速に。それはもはや、竜牙兵たちに止められるものではない。

●骨崩し
 オーラを纏った拳ふたつ。迫るそれらを片腕で受け止め、次いで襲い来るオーラをも受け止める。
 竜派、人派のドラゴニアンふたりは、驚愕する竜牙兵にただ無言の笑みを向ける。
「やるね、レーグル」
「ドリズル殿こそ」
 レーグルはゲシュタルトグレイブを手元でくるりと回転させた。稲妻を帯びさせ、突きを見舞うまでの動きに一切無駄は無い。
「ビドー殿、頼む」
「任されたのなら、全力でいきたいよね。――術式展開。いくよ……!」
 瞬間、アンセルムによって陣が展開された。並び立つ2人の魔術士の前に、黒白の精霊と氷の楔が顕現する。2人の呼吸が、整う。放たれるのも同時。
 骨の身体、そのひとつが穿たれた。その命を終わらせるには、あと一息だろうか。クラリスは、その場でくるりと回転した。片足を軸にしたバレエ・ダンスを思わせる、軽やかな舞いだ。
「一瞬で、散らせてあげる」
 あとは、言葉の通り。繰り出された回し蹴りは冬以上の冷気を伴い、竜牙兵を砕いた。竜牙兵が最後に見たのは、無数に散る氷晶であった。
「クラリスさん、すごいです〜。あとは2体ですねー! 分担して対処していましたから、そう時間はかからないはずですよ〜」
 戦況を告げる紗羅沙の次の声は「ブラッドスター」の音階を踏んだ。
 なるほど、アベルが何度も攻撃を仕掛けた前衛に残るは1体。
「なかなか楽しかったぜ。最後まで手加減とか無し、な? ――さぁ、狩りと行こうぜ」
 アベルは目を細め、今にも砕け散らんとするほどに傷を負った竜牙兵を見た。
 それらの間に見える何かに、竜牙兵がはたと姿勢を正す。
「ドラゴンサマ――イヤ、違う、コレハ……!」
「ほら、狩りと食事の時間だ」
 藍紫の色を持つ龍にも見えるというそれは、竜牙兵にはどう見えていたのか。響き渡る咆吼は、竜牙兵の身体を喰らい、消した。
「畳みかけたいところですが、慎重にいきましょう。カフェで満身創痍なんて風情がありませんからね」
 正夫のルーンアックス「那羅延金剛」から、ネロに破壊のルーンが宿される。
「まったくだ、」
 苦笑するネロの手にはルーンアックス「Rotkappchen」。最後の竜牙兵まで駆け、背中側に回り込む。光輝に満ちる斧の色を竜牙兵は視認できず、ただただ無慈悲な斬撃を背に受ける。同時に、スプーキーの眼前まで押し出された。
「良いコントロールだね、ネロ」
 慣れた手つきでシリンダーに弾丸を押し込み、回転させるスプーキー。
「Be electrocuted!」
 銃口から放たれた弾丸の色は蛍光ブルーだ。竜牙兵は迫り来る弾丸を回避しようとするが、蓄積した状態異常がそうはさせない。
 弾殻が炸裂すると、電磁気を帯びたまま全身を廻り始める。炭酸入りキャンディを彷彿させる弾の仕事、しかしもはや竜牙兵にはそれを楽しむ時間は残されていなかった。
「我ラが……全滅、ダト……」
 跳ね散る泡沫のビートは、いっそ鎮魂歌代わり。倒れ伏した竜牙兵は起き上がることなく、崩れて消えていった。

●カフェと雑貨と
「戦闘も終わりましたし、ヒールも済んでいます……いやいや、僕たちもカフェを楽しませてもらおうと思っていたので。はい、それでは」
 カフェの店主に挨拶をしたスプーキーが仲間の元へ戻ると、レーグルが口を開いた。
「……店主は何と?」
「是非ごゆっくり、ってさ」
「では、遠慮無くゆるりとさせて頂こう……ところで、共にこの時間を楽しむのを提案したく。ここに集ったのも何かの縁と思うのだが、いかがだろうか?」
 仲間を見渡すレーグルに、ネロは笑顔で首肯した。
「賛成だ。注文したものは席まで運んできてくれるようだし、歓談しながら待とうじゃないか」
 ネロの提案に、ケルベロスたちは4人掛けのテーブル2つを囲った。
 やがて運ばれてきた飲み物とスイーツが、次々と並べられてゆく。
 クラリスの前には、紅茶とプチフール。優雅な気分をもたらしてくれる。最初は紅茶から、次はプチフールも口に入れて。
「とっても、おいしい」
「うむ。味も暖かさも、実に染み入る」
 紅茶の温度と味を確かめるように、レーグルはゆっくりと目を閉じた。
 抱えた人形に微笑みかけ、アンセルムは林檎の乗ったフルーツケーキをフォークで切り取る。鮮やかな一角を口に含むと、幸せを表現したような味が口の中に広がる。
「ふふ、こういう穏やかな午後の時間も、良いものだよね」
 続いてコーヒーを流し込めば、アンセルムの細身の身体も温まる。
「ネロのサンドイッチは具だくさんなんだね。美味しそう」
「あ、アンセルム……あの、動いた後だから、……その、お腹が空いていて……」
 ネロも年頃の女性だ、あからさまな食欲には恥じ入ってしまうというもの。だがこの場は恥ずかしさより、美味しいメニューの方に気持ちが傾いてしまったようで。
「大丈夫、働いた後はお腹が空くものだからね。僕も少しボリュームのあるものを選んでしまったよ」
 そう話すスプーキーの前に置かれたのは、金木犀のシロップがかかったパンケーキ。先に飲んでいたコーヒーを置き、季節の味を頬張った。
 秋晴れの陽射しと穏やかな風を受けながら、ゆっくりと過ごす贅沢な時間。
 ネロが海老の入ったサンドイッチをかじると、どこからか金木犀の香りが漂ってきて、思わず双眸を和らげた。
 ゆっくりと煙草に火をつけるのは、コートを羽織た正夫だ。
「こういう、ただあるだけの贅沢ってのはいいですよね。こんな場所では何もないのが良いし、何も起きないのが良い……被害が出なくて良かったですよね」
「ああ、ゆったりとしたひと時は何にも代えがたい」
 言いつつ、アベルは正夫の上げる毒煙――煙草の紫煙に目を留めた。アベルも愛煙家ゆえ、懐から一本、一服しようかと悩んだが、すぐに思いとどまる。何せ、今日はカフェメニューを制覇するのが目的。味への欲求に真正面から立ち向かうなら、今回は煙草にはお休みいただくということで。
「それに、きっちり仕事をした後のひと時は格別だからな」
「違いないです」
 コーヒーを口に含む正夫が、アベルの手元で視線を止めた。
「……若いですねえ」
「そうかい? これでも34なんだがな」
 だというのに、胃袋は年齢を知らないとばかりにベイクドチーズケーキにチョコスフレ、フロランタンにショートブレッドなどを受け付けてゆく。そのどれもに金木犀が添えられているが、味は全て異なるというのだから驚きだ。
「うん、美味しいじゃねぇの。好い出会いだわ。にしても新しい美味しさに出会う瞬間てのは堪んないねぇ。いや、実に楽しい」
「ふむ、それは重畳であるな。雑貨を見ておられる方々も楽しそうだ」
 レーグルはゆっくりと紅茶を飲み干し、人々に混じって雑貨を眺める仲間へと視線を遣った。つられてアベルも見れば、遠くに笑顔が見える。
「どれ……はは、確かに楽しそうだ。おや、スプーキーも気になってる、って顔だな?」
「はは、ばれてしまっては仕方が無い、やはり僕も見てこよう。気になって仕方が無いんだ」
 椅子を引いたスプーキーは、早足に雑貨コーナーへ向かった。

 紗羅沙が雑貨コーナーで手に取ったのは、金木犀の香水だ。香りを試すための紙「ムエット」に一吹き、ゆっくりと香りを吸い込む。
「真実……どんなに小さく慎ましく咲く花であっても、その香りは隠す事が出来ない」
 思わず紗羅沙の口をついたのは、金木犀の花言葉。
「花が開いた事をごまかせないなんて、なんとも健気で愛らしいと私は思わずにはいられませんねー。……あっ、ネロさんは、何かお探しですか〜?」
「紗羅沙か。バスグッズを、な。……ああ、これがいい。金木犀の花弁が浮かぶ、バスソルト。これなら香りもしそうだ」
 秋の夜長、なんて言われながらもいざ過ぎれば短いもの。だからこそ、自分を甘やかしてゆっくりする贅沢もたまらなく素敵に感じられる。
 身体が温まったクラリスも、雑貨をゆっくりと見る。探すのはアクセサリーだ。
 柄じゃないかもしれないけど、とクラリスは、金木犀の花飾りが揺れるイヤリングを手に取った。鏡の前で長い耳に合わせ、続いてスプーキーを見る。
「たまには耳、出してみようかな。……ねぇ、これ似合う?」
「もちろんだよ。オレンジ色が白い髪のアクセントになって、とても印象的だ」
 その表情は、まるで父親のよう。購入するクラリスを見送り、次は自分用のものを探す。手に取ったのは、硝子ペンだ。
「透明な中に見える橙の色違いの硝子が金木犀を表現しているのか。周囲の細かい気泡も秋の空気を含んでいるようだ……」
 普段よりも饒舌なのは、手仕事と植物フリークゆえか。スプーキーがそこまで言うと、彼の肩に橙の花弁が舞い落ちた。後押しされたような気がして、会計へ進む途中、つまみ細工の簪に視線を止めた。浮かぶのは、無邪気な慕い人の顔。
 スプーキーの頬が、わずかに綻んだ。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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