アイドル襲撃~青い花

作者:ヒサ

 手狭な会場は、それでも満員とは行かなかったが。しかし毎回ライブの度に駆けつけてくれる数十名のファン達の為に、アイドル達は声を張り上げパフォーマンスを披露する。会場の全員がとうに顔馴染みで、熱気に満ちた場内には、それと共にどこかほのぼのとした空気が漂っていた。グループを構成するアイドル達が十代半ば~後半の少女ばかりである事や、彼女達の曲が恋に夢を見る無垢な少女の心情を歌うものが多い事もその理由なのだろう。ファン達の心境は、娘を見守る兄や父といったものに近そうだった。
「それでは次の曲、行きまーす!」
「──あなた達の、というわけには行かないけどね」
 合間のトークを終えた壇上の少女達の言に、しかし突如、第三者の声が割り込んだ。訝る彼女達を手早く気絶させたのは三体の螺旋忍軍。その一体、青いドレスを纏った幼い見目の少女は、急な事に戸惑っていたり倒れたアイドル達を案じていたりした観客達を冷たい目で見渡した。
「どいつもこいつも冴えない男達ね。セイカに侍るにはまだまだだわ」
 見目相応に幼い声は、先のそれと同様に硬質に響く。だが、少女はほどなく、ふわりと微笑んだ。
「でも良いわ。今に素敵な旦那様にしてあげる──」
 直前との落差ゆえもあり、その微笑みは固い蕾が綻ぶかのよう。彼女は顎を引いた上目遣いで観客達を見、少しばかり恥じらいも入り交じる風、頬を染めて見せた。
「未来の旦那様達の為に心を籠めて歌うから、セイカ一輪だけでもちゃんと綺麗に咲けるところ、見ててね?」
 幼い声と口調。愛する者を見詰める如く蕩ける笑顔。曲が始まればその様はなお情感に溢れ、少女はひたむきに恋を歌う。先のアイドル達の歌と方向性は似てはいるが、結婚を意識したフレーズや未来への展望は、年若い彼女達が踏み込んで来なかった領域だった。
 ややもすればセイカが小首を傾げるだけで場内は沸き、彼女の後ろでダンスパフォーマンスを披露する配下達につられて踊る観客達の情熱が室温すらも上げて行く。デウスエクスの力ゆえもあり彼女──セイカに魅入られた彼らはひどく熱狂し、曲を終えた彼女から告げられた別れを拒み、彼女を追って会場を後にしてしまったという。

 アイドルとして地球に潜伏していた螺旋忍軍達が動き出したようだとヘリオライダーは伝えた。
「彼女達は、他のアイドルのファンを奪って攫ってしまうみたい。その人達はエインヘリアルの選定のためにシャイターンのもとへ送られてしまうようよ」
 選定を受けた者達は、死亡するかエインヘリアルとなるかしてしまう。告げた篠前・仁那(白霞紅玉ヘリオライダー・en0053)の声は重い。
「防げる被害は防いで欲しい。あなた達の力を貸してちょうだい。
 今回はこの、ライブハウスへの襲撃を、止めて来て貰いたいの」
 彼女はケルベロス達へ螺旋忍軍の一体──セイカと名告る少女の討伐を依頼した。
 セイカは配下を二体連れているという。彼らは彼女のボディガード兼バックダンサー、という認識で良さそうだ。
 襲撃を受ける現場でライブを行っていたアイドル達は、彼女達が現れた際に全員気絶させられているという。ケルベロス達が敵へ戦闘を挑んだとしても、自ら邪魔をしには来ないアイドル達へセイカ達が危害を加える事は無いと見て良いだろう。
「『セイカを』倒して欲しい、という話なのだけれど。彼女の目的が、ファンを奪ってシャイターンのところへ連れて行くこと、なので、現場へ着いたあなた達が彼女達へ戦いを挑んだ際、彼女は配下に戦闘を任せてファンを連れて離脱してしまうかもしれないの。
 対策としては、とにかく彼女に攻撃を集中して、離脱の隙を与えないこと──」
 だが、配下達が彼女を護ろうとするであろうから、それは簡単な事では無い。ゆえ、ヘリオライダーは続けてもう一つの案を口にする。
「──か、戦闘を仕掛ける前に、あなた達がアイドルに扮して、彼女達がしたようにファンを奪ってしまうか」
 ケルベロス達が何がしかのアピールを行い、セイカのファンとなった者達をそれ以上の魅力で虜にしてしまえれば、セイカは邪魔者を排除した後に観客達の洗脳をやり直す必要がある為、現場に留まるであろうとの事だ。観客達はセイカの幻惑を受け、常識的な行動を取る事が出来ない状態にあるものの、代わりにアイドルの魅力に対する判断力が高まっているという。上手くすれば根こそぎファンを奪い取る事が出来、その状態であれば、『部屋の隅に集まって大人しくしていろ』程度の指示であれば彼らに聞かせられるかもしれない。
「『扉を開けて会場を出ていろ』は厳しいかしら……。……まあ、彼女は彼らを無事な状態で連れて行かないといけないから、彼らも危害を加えられる事は無いでしょうけれど」
 その意味では安心だがと仁那は息を吐いた。会場は小さな部屋だが、セイカ達が居るステージの上などを戦場と出来れば、被害を抑える事も十分可能だろう──壇上には気絶させられたアイドル達も居るけれど。
「……取り敢えず、セイカをどう足止めするかは、あなた達の判断に頼らせてちょうだい。被害を抑えるためにも、彼女を逃がさず倒して欲しい」


参加者
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)
エトヴィン・コール(澪標・e23900)
ウーリ・ヴァーツェル(アフターライト・e25074)
近衛・如月(魔法使いのお姉ちゃん・e32308)
赤穴・景(赤金・e34519)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ


「お待ちなさい」
 幻惑した者達を率いんとするセイカを呼び止める声があった。新たに壇上へ出でたのは、白いドレスを纏った女性三名。その一人、チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)が一歩前へ進み出てセイカを見据えた。
「あなたの所業、見過ごせません。旦那様は決して『侍らせる』ものじゃない。傍に寄り添い、互いを見守り支えあいながら、共に人生を歩むもの」
 隙無く手入れされた彼女の肌を、穢れ無き衣裳を、スポットライトが輝かせる。反して舞台全体は照明を絞られて暗く。操作をしているのは裏方へ回ったルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)だ。
「私とて歌い手です。あなたには成しえない『本当の愛』、今ここに証明して見せます!」
 即座にオルゴールの前奏が流れ出す。何を、とセイカが手にしていたブーケを持ち上げ、
「待たれよ、其方にも歌い手の矜恃があろう。よもや競う自信も無いなどと言うまいな?」
 だがそれは舞台のすぐ下に佇むガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)の声に制止される。和装に中折れ帽を合わせた彼の表情は壇上の少女からは見えなかろうが、厳めしい声が孕む試す如き色は伝わったようで。
「──言ってくれるじゃないの」
 ブーケを持った細い手が下りた。長時間は難しくとも、暫し静観させる事は出来よう。
「危ないですから退がってくださいね」
 再びの急展開に浮き足立つ観客達へ声を掛けながら、警備スタッフに扮したシルク・アディエスト(巡る命・e00636)が舞台と客席を区切るようテープを張って行く。静かな曲調に配慮してか騒ぎ立てはしない人々の多くは今は、主にセイカを案じているようだった。
 壇上の照明を浴びる近衛・如月(魔法使いのお姉ちゃん・e32308)が前奏に合わせオカリナを吹く。天使に扮したウーリ・ヴァーツェル(アフターライト・e25074)は柔らかな微笑みとたおやかな所作で舞台を彩った。
 そうして紡がれるチェレスタの歌は、夫への感謝を綴る。彼女のそれは、自身が縁を結んだただ一人を想いながらも、会場の人々への慈愛に溢れた優しい声。
「辛く寂しい時もあなたが傍で微笑んでくれたから──♪」
 穏やかなメロディに合わせ舞うウーリが演出の一環の如く、倒れ伏すアイドルを助け起こす。手を差し伸べそっと抱き上げて、白く染めた翼を翻し照明の範囲外へ。歌い手達の動きを妨げぬ為にも意義のある動きは咎められる事無く、空いた場所へチェレスタがドレスの裾を広げるようにターンを。慣性で絡まる裾を、追従するよう動いた如月が手早く整えた。
 舞台袖へ運ばれたアイドル達は、観客の目に映らぬ場所でエトヴィン・コール(澪標・e23900)が引き取る。混乱や危険から極力遠ざけるべく、裏手の控え室の方へと少女達を集めていた。
(「お疲れ様。あと二人だね、頑張って」)
(「まず手前の人を運んで貰って……、セイカ達に近いところに居る人は逆側に運んだ方が良いかもっす。あっし、裏から回り込んでおくっすよ」)
 裏方風の地味な衣裳に身を包んだ赤穴・景(赤金・e34519)の提案にウーリが頷く。
(「けどもう暫くするとサビやから、隙を見て景が直接回収してくれた方がええのかも」)
(「ふむふむ。じゃ、まず向こう側でセイカ達の様子を観察しながらっすね」)
(「うん、よろしゅうな」)
 周囲を警戒する配下に護られる形で演目を見据えているセイカの表情は、穏やかならぬもの。彼女達が成すステージの魅力に気付いているのだろう。
(「……相手へ求める恋は、熱くはなれるんだろうケド」)
 その少女の様を見、優しい音を奏で続けながらも如月は思う。
(「求めるだけじゃその先には進めないんじゃないかな。想い合って与え合えなきゃ……きっと、愛にはなれないんだわ」)
 澄んだ和音が幾重にも歌を彩る。曲の盛り上がりに合わせてルーシィドが照明を重ね、三名を眩く照らし上げた。
「孤独の闇はあなたが晴らしてくれた──♪」
 オカリナの音が繊細な振動を伴い聴衆へ訴える。ウーリが翼を広げ光の中へ舞い上がる。
「今度は、私があなたの光に──♪」
 チェレスタが手を差し伸べる先には、客席の『旦那様』達。囚われた彼らの救済を願う如き、清らかな声。天使は祝福の如く花びらを降らせ、その彩の中で花嫁へ寄り添う少女の存在感が人々の目をより惹きつける。その陰で、倒れたアイドルの最後の一人が壇上から無事助け出された事を観客達は知らない。
「──二人寄り添い合って、同じ未来を共に──♪」
 そうしてやがて、曲が終わる。謳い上げたのは愛する幸福、共に生きる喜び、
「……歌い手としての私は、ファンの皆さんに支えられてここまで参りました。これからも共に心に寄り添う存在でありたいと願っています」
 そして、愛される事への感謝。壇上の三名が優雅に礼を。
「チェレスタちゃーん!」
「素敵っすー!」
 無事務めを終えて客席に下りていたエトヴィンと景が声援を送る。その声に誘われるよう、彼女らに魅了された客達が沸いた。結婚や温かな家庭に肯定的であったり既に所帯を持っていたりといった年長者を中心に響いたようで、大半のファンを奪えた様子だった。
「うん、まあ、一部ああいうのがご褒美って人が居るとは聞くけどさ」
 未だセイカ派の少数の主張を聞く限りでは『幼妻に罵られたい』だの『冷たいトークとデレ曲のギャップが良い』だの。青年が肩を竦め、少女は首を傾げていた。
「好みは人それぞれという事でしょうね」
 セイカの反応を警戒し客達を退がらせるべく身振りで指示を出していた──人々は未だ騒いでいて声での誘導は難しい──シルクが仲間へ助力を依頼した。


「これっぽっちの数じゃ足しにもならないじゃない」
 自身に残ったファンを見、セイカが毒づく。
「其方の歌の浅さが露呈したという事よ」
 ガイストが地を蹴り壇上へ。帽子が落ちて、露わになった彼の金眼が少女を見据えた。
「我が心に染み入るものも無い。他者を尊ばぬ胸の内が透けて見えるようだ」
「ふん。餌をどう尊べと言うの、おじいちゃん。愚直な子が好きならあのグループの子達でもプロデュースしてあげれば? ──生き延びられたらね」
(「彼女は多くの人に接して来たでしょうに……それでもやはり歩み寄れもしませんか」)
 嘆息するシルクを始め、ケルベロス達の戦意が一層燃え盛る。だがセイカは顧みもしない。今度こそブーケをかざした少女は高く遠く、神経を冒す音波を放つ。ウーリがチェレスタの腕を引き庇った勢いのまま前へ。肩を並べるのは応戦に棍を構えるガイスト。重ねた齢を感じさせる、されど衰えなど知らぬ冴えた瞳は戦いに臨む高揚を灯し、討つべき敵をしかと見据え──踏み込む。その眼前に割り込み少女を護る配下がそれを受け、ぶつかり合った矛と盾は鈍く重い音を生じさせた。
「こっちは任せて、皆は怪我とかしないように気を付けて!」
 配下達へ黒光を放つ如月が、観客席へと声を。幻惑が解けていない者達も含め、皆が無事で居られるようにと。
「援護致しますわ」
 裏手から壇上へ駆けつけたルーシィドは即座に仲間の動きを見、配下へ向けてファミリアを放った。癒し手の援護を受けた射手の竜砲がもたらした苦痛をより深める。配下達が散らした氷螺旋はケルベロス達を苛んだが、その影響を舞台近辺で留める事は叶った。これならば、敗北せぬ限りは人々を護れるだろう。
「悪意の花はここで摘み取らせて頂きます」
 菫色をした武装を展開したシルクが敵と、近場の出入口を結ぶ線上に位置取る。壇上へ距離を詰め、小盾を御し花を描き標的を幻惑し。務めんとするのは仲間達の──ひいては護るべき人々の為の盾。
「頑張ってくださいっす!」
 景のドローンが傷ついた味方を癒す。民間人の被害は叶う限りに抑えられる見込みであることは何よりだったが、敵に先んじられては治癒に注力せざるを得ない。敵の挙動を警戒しつつ、彼女は皆の様子を窺う。セイカに逃走の素振りは見えない、とはいえ完全に放置するのも、と彼女のみならずエトヴィンも警戒を続けている。それをセイカも解っているのだろう、ブーケを媒介に振るわれる彼女の攻撃が、光刃となり癒え難い傷を標的へ刻む。籠められた呪詛が加護をも砕くのに気付き、血を零しつつも射手が仲間達へ警告を。
「ならば何度でも致しましょう」
 まずは護りを固めねばならないが、それも含めて抗う準備は出来ている。雷壁を織りながら癒し手は皆に暫しの辛抱を依頼した。てつちゃんが皆を応援し彼女達を手伝い、ウーリの術は敵を惑わせる偽りの救済を謳う。
 加護を散らす配下の斬撃を阻むべくシルクが前へ。硬質な音を響かせる菫盾を御す少女は衝撃に唇をきつく結びはしたもののすぐに微笑んで見せ、受け止めた光剣及びその担い手の動きを押し留めて仲間が攻め入る隙を作り出す。
 しかしセイカを見据えて切り込んだとて、もう一体の配下に阻まれれば、その刃が如何に鋭くとも彼女へは届かない。
 だが、これで良いのだ。彼女を自由にさせる意志など無いと伝われば、今は十分。あとは真正面から打ち崩すのみ。弧を描く棍を振るい踏み込んだガイストは、迫る敵をいなし逆の手で操る得物で相手の死角から一撃を。
「──命を削る針をあなたに。糸車の巡りを数えましょう」
 ルーシィドの声が柔らかに呪いを紡ぐ。時をも止め得る幻想の形が、筋骨逞しい敵の肉盾を穿つ。衝撃によろめきたたらを踏む体を迎えるのは、風を裂き鋭く迫るエトヴィンの刀。照明に鋼の色が散って、それは瞬く間に血の色に濡れて──ひとつ、重いものが頽れる音を響かせた。

 その後、シルクを手伝い負担の分散に努めたテレビウムが倒れはしたが、前衛達を排除する事はほどなく叶った。独りになったセイカが音波を放ち、ケルベロス達の動きを妨げると共に彼らの護りを砕きに掛かる。
「あなたのまやかしなど」
 感覚の鈍る手でそれでもしかと杖を握りしめ、ルーシィドは敵を見据えた。
「たとえあなたの歌があったとて、観客の皆様が夢想したのは本来応援していた方々でしょう。チェレスタ様がなさったように……彼らに寄り添わぬあなたなど、一方的で傲慢なあなたが歌う心など、何の価値がありましょう。あなたのような方がアイドルだなどと、名のらないでくださいな」
「そうね、あなたが歌ったのは恋ですら無いわ! だってそれは本当は、相手を想う気持ちの筈でしょう?」
 如月が握った拳は銀流体を纏う。踏み込んだその先で、ブーケを持つ手とぶつかって軋る。菫花が舞い、白腕が過ぎり、氷の色した少女を捉えんとする。景が宙へ散らした警護の、チェレスタが重ねた護雷の、後押しを受けて彼らは臆する事無く攻めた。
 如何に少女が力あるデウスエクスとはいえ、追い込まれてしまえば最早。
「──逃しはせぬ」
 枯れた低い声が、短く。言葉で語らぬ代わりに技で、視線で、戦意を雄弁に謳っていた武術家が、灯りに溶ける神速で以て得物を振るう。音も何も置き去って、しなる棍は首をもたげる龍の如く。
 無数の人工月に白む夜に獲物を屠り、幻夢共々塵へと変えた。


 戦いを終えたケルベロス達は急ぎ、人々の介抱と会場の修復にあたった。罪無き人々に、出来る限りに元通りの平穏をと願う。
 被害を抑える為にと尽力した甲斐あってそれはほどなく叶い、事情を知ったアイドル達は彼らへ深く感謝を示した。今は彼女達に乞われ、チェレスタと如月が壇上へ招かれている。
「うりちゃんも遠慮しないでアイドルぶってみれば良かったのに」
「『ぶる』て何やの」
 供された飲み物を運んで来たエトヴィンの手からその片方を受け取ったウーリが眉をひそめる。
「あれは人助けやから出来ただけやし、うちは本来目立つん得意や無いし」
「勿体ないよねえ、歌って殴れるバール天使」
「それはただの危ない人やない? どういう発想やの、えっちゃんちょっと直されとく?」
「接触不良とかじゃないからね? 僕は殴られる趣味無いんでファンやめます」
 綺麗に洗って治癒も済ませた白い掌が向けられる。遠慮の意思表示に、呆れたような嘆息が一つ。
「えっちゃんこそアイドルやったらええやん。犬んなってフリフリつけて」
「フリフリかー。……んじゃ、いつか動物アイドル対決とかあったら頑張るね」
 冗談半分、ゆるりと笑んで。黒狼の尾が楽しむようにはたりと揺れた。
「──ええ、元は娘に誘われて。ですが今は私の方が入れ込んでいる有様で」
 会場の一画ではガイストが、歳の近い男性客の話を聞いていた。
「ふむ。我も彼女等が歌うような音楽には詳しく無いが……」
「私も元々は演歌くらいしか……。ですが、こうして彼女達が頑張る姿や成長を目にしているとどうにも──」
「──そうっすよねえ、皆キラキラしてるっす」
 最前列の席に招かれ、周囲の観客達と共に壇上の仲間とアイドル達へ声援を送っていた一人である景は、ライトを浴びる者達を見上げて、それこそ輝くような笑顔を。
「あなた達は上がらなくて良かったの? トークライブとかでも楽しかったと思うよー」
 だが傍に居た女性客に話を振られ、彼女達は目を瞬いた。
「え、いや、あっしは流石にそんな度胸は──」
「あのような華やかな衣裳を着こなす自信はございませんもの」
 視線を向けられたものの、ルーシィドもまた控えめに微笑み首を振る。
「何事も挑戦といいますし……彼女達を見ていると、興味を惹かれはしますが」
 女性の隣席に掛けていたシルクは、供されたライトを見様見真似で振りながらそう応じた。冗談めかしての微笑みは、年頃の少女らしい悪戯めいた色を交ぜて──それは、無事に一つの日常を護り得たからこその。

作者:ヒサ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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