アイドル襲撃~シング、スティール・ゼム・ハーツ

作者:鹿崎シーカー

 複数色のライトが点火し、小さなステージを照らす。薄暗い立ち見観客席から上がった歓声が狭いライブハウスを震わせる中、ステージに立った少女達が決めポーズの姿勢から歌に合わせて踊り出す。息の合ったダンスに合わせて集まったファンが入れる合いの手が響き、ライトも色合いを変えつつ場を彩っていく。曲もサビに入り、ファンも少女達のボルテージも最高潮に達した瞬間、全電源が一斉に落ちた。
 一瞬にして真っ暗闇に閉ざされたライブハウスにどよめきが満ち、観客からアイドルを呼ぶ声が聞こえた、その時!
「ちょっ、何よアンタ達! きゃっ!?」
「いや、何!? 押さないで!」
 ステージから少女達の悲鳴。動揺した観客たちがステージに呼びかけるも返答は無く、悲鳴もまたフェードアウトする。暗中で困惑がさざ波のように広がったところで、ステージ上のライトが再点灯。別の少女と二人の男の姿を照らし出した。
 二つに分けて括ったロングヘアに、白と青の羽衣めいた上着。トップスに和服系、ボトムスに足を大きく晒したミニスカートを身に着けた少女は、客席へ愛嬌を込めた笑顔でウィンクを飛ばした。
「皆さん、こーんばーんわー! 歌詠の蘭赦の、飛び入りゲリラライブですっ! それでは早速、聞いてください。リリィズカラー・フューネラル。ミュージック……スタート!」
 涼やかなピアノの旋律が流れ出すと共に、ピンクの法被に赤いふんどし、足袋に螺旋の朱面のみを着けた筋肉質の男二人が動き出す。静かに歌い出した蘭赦の声が狭いハウスに沁み渡り、魂の抜けたような表情になった観客達を曲調のテンポアップと一緒に盛り上げ始めた。サビに入って最高潮にボルテージはエンディングのソロ伴奏になって僅かに沈み、完全に曲が終わると同時に爆発した。歌い終えた蘭赦は髪を弾ませ片手を掲げる。
「ありがとうございましたー! それではこれから、盛り上げてくれた皆さんを、特別な場所へ招待します! 私についてきてくださーい!」
 言い終わった直後に蘭赦は男二人とムーンサルト回転跳躍。観客達を飛び越えて客席最後列に降り立つと、出口に向かって駆けだした。歓声を上げた客達が全速力でその後を追ってハウスの出口へ殺到していく。波が去るように人がはけたハウスから、電源が落ちた。

「アイドルかー……前にもあったね、懐かしい。……おっと」
 我に返った跳鹿・穫は湯呑を置くと、代わりに資料を取り上げた。
 主星スパイラスへと続く『彷徨えるゲート』を破壊され、地球に潜伏していた螺旋忍軍が再び動き出したらしい。
 今回事を起こすのは、地球人に混じってアイドル稼業行っていたアイドル忍軍。彼女たちは他のアイドルのライブに乱入し、ファンを魅了。ハーメルンの笛吹男よろしく連れ去ってしまうのだと言う。
 連れ去られたファン達は、黒幕であるシャイターン『夢幻楼ハイズラーン』の元に送られた後、選定されて死ぬかエインヘリアルにされてしまう。
 これを許せば、地球人殺害によるグラビティ・チェイン略奪とエインヘリアルの戦力増強を同時に行われてしまうこととなる。今すぐライブハウスに向かい、アイドル忍軍を撃退するのが今回の任務だ。
 現場となるのは、東京の外れにある小さなライブハウスで、いわゆる地下アイドルやアマチュアバンドが主に利用する場所だ。乱入を受けるのアイドルは、五人グループの少女達。スタンダードなアイドル像に則った明るいJ-POP主体で、乱入してきたアイドル忍軍に気絶させられ、舞台裏に押しのけられる。
 そして乱入してくるアイドル忍軍の名は、歌詠の蘭赦。女性のみで構成された螺旋忍軍『歩き巫女』の一員で、ジャンルは和ロック。歌声により強化・回復・妨害を行う補助型だが、素手の格闘においても高い実力を誇る。取り巻きであるオタゲイジャー二名はサイリウム型レーザーダガー二刀流での近接戦闘を主とし、蘭赦からのサポートを継続的に受けつつ最前線で暴れ回るようだ。
 また、蘭赦はケルベロスの攻撃を受けるとオタゲイジャーに戦闘を任せ、隙を突いてファンを連れて逃げ出そうとするらしい。これを阻止するには、戦闘前に『アイドルとして乱入』し、ファンを奪い取る必要がある。
 会場の一般人は蘭赦に魅了された結果、正常な判断力と引き換えに『アイドルの魅力を判断する能力』が高められている。つまり、蘭赦以上のパフォーマンスを行えば、一気にファンを奪えるはずだ。ファンを奪い取った場合、蘭赦は再度ファンを取り戻さなければならなくなるため、撤退せずケルベロスの撃破にかかる。
 どのような手段を取るかは皆に任せるが、作戦はよく練った方がいいだろう。
「あっちこっちで色んなのが共同戦線引いてきたけど、今できるのは現状の対処! 観客の人達を守って、シャイターンの選定を阻止するんだ!」


参加者
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
甲斐・ツカサ(魂に翼持つ者・e23289)
斬崎・冬重(天眼通・e43391)
新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)
鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)

■リプレイ

『夕暮れ、貴方と見た空に――――舞い上がる白い花弁、葬送花。いつかの別離が定められたとしたら――――涙と送ろう、百合色の葬送歌』
 ギターソロと激しい三味線の音色が響き、蘭赦に歓声が向けられる。ライブハウスの舞台裏、その映像に見入っていた『STAFF』刺繍の帽子とジャケットを着た男二人の背後で、扉が開いた。入室したスタッフ装備の二人組のうち片方が、朗らかな笑顔で片手を挙げる。
「お疲れー! 交代に来たよ!」
「え?」
 振り返った先客二人が目を丸くする。
「いや、シフトはまだ……それに仕事中だし……」
「いいからいいから」
 青年は二人の肩を軽く叩き、ステージ映像を視線で示す。
「折角なんだし、ここは俺に任せて最前列で見て来なよ。大丈夫、ヘマはしないって!」
 二人は互いに顔を見合わせ、引け気味に椅子を立つ。そのまま出て行くスタッフを見送り、甲斐・ツカサ(魂に翼持つ者・e23289)はキャップのつばを人差し指で押し上げた。
「よっし! 潜入成功!」
 椅子に腰かけた斬崎・冬重(天眼通・e43391)が操作盤に目を走らせた。ボリューム、音程などのツマミを確め、ステージ映像に視線を向けた袖をまくる。
「俺のプロデュースするアイドルは売れない。だが今回は違う!」
「ああ! 折角の晴れ舞台なんだ。みんなの魅力、最大限に引き出さないとね!」
 元気よく言い、ツカサは曲の終わりと同時にキーをひとつ押し込んだ。ライブハウスの照明が一斉に落ち、再び真っ暗闇に包まれる。どよめくオタゲイジャー二人を背に、蘭赦は目を見開いて振り返り連続バク転! 彼女の居た場所に光る矢が突き立ち、オタゲイジャー二人もステージの左右に分かれて矢をかわす。
 ステージ下に降り立った蘭赦の前で、白いスポットライトがひとつ点灯。ステージで煌めく、白地に金糸の縁取りが為されたアイドル衣装。金糸で猫の肉球を刺繍したとんがり帽子を揺らし、燈家・陽葉(光響射て・e02459)は金色の大弓を片手に手を振った。
「みんなー! 楽しんでる? 折角ライブ会場に来たんだし、アイドルパフォーマンスをもう一つ見て行ってよ!」
 大弓の弦を引き、右手から伸びた光の矢を斜め上に射る。アーチを描いた矢が反対側の出入り口で弾け、点いたスポットライトの光をと共に、そこに立つ四人の姿を描き出した。陽葉と似たデザインで、それぞれ違う色の衣装を着た彼女達のうち、オレンジ基調のアストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)がプリンを模した肉球マークのハットを揺らし、高らかに宣言した。
『はーい注目っ! 歌って踊れてついでにバトルもできる素敵なアイドル達のお出ましだよっ!』
 続いて藍色衣装に肉球タグ付き花冠を被った新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)と、紫メインで丸帽子に猫のワッペンを着けた愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)がマイクに声を流し込む。
『サプライズは一度とは限りませんよ』
『Love you&Take your heart! さぁ行きましょうMusiC☆T!』
 翼を広げた四人が四色の光を散らし飛行し客席を飛び越える。光の粒を降らせつつ、赤い服装の鷹崎・愛奈(死の紅色カブト虫・e44629)は胸に抱えた子猫を両手でつかんだ。
「行くよキアリさんっ! ステージ……オーンっ!」
 愛奈に放られた黒猫が前方回転しながらステージの上へ飛んでいき、黒金の旋風をまき散らした。強風に驚く観客達の前で、変身を解いた円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)の体に黒と金の光が巻きつく。ショートパンツをミニスカートに、チューブトップを黒地に金糸を織り込んだ衣装に塗り変え、頭に子猫のピンがついた小ぶりなシルクハットが形成。キアリは閉じていた目を開き、マイクに叫んだ。
「こーんにーちは――――ッ! MusiC☆Tによる二度目の乱入ライブです!」
 観客達が歓声を上げる。呆けていたオタゲイジャーの一人が我に返り、怒鳴り散らした。
「ま、待てぇい! ここを誰のステージと……」
「下がって」
 オタゲイジャーが驚き、ステージ下の蘭赦を見やる。キアリの両ふくらはぎに刻まれたタトゥーを眺めた彼女は、配下に冷たい一瞥をくれた。
「なっ……蘭赦殿!? しかし……」
「二度は言わないわ。下がってて」
 やや迷い、すごすごとステージ端まで引き下がるオタゲイジャー。一真っ向から睨み返してくるキアリに笑みを向ける。
「その入れ墨、見覚えあるわ。そう、確か……千世滅が飼ってるペットのマーク」
「…………っ」
 マイクを握るキアリの手に力がこもる。ステージメンバーが心配そうな面持ちで見守る中、彼女は吐き出すように言った。
「……今のわたしは『傾城の千世滅』の虜囚だった頃とは違う。見せてあげるわ、蘭赦。これが『MusiC☆T』……ケルベロスとしてのわたしの全力! ヘリオライト!」
 キアリが高く掲げた手で指を鳴らすと同時にハイテンポなギターのイントロが響く。広がった六人をそれぞれ六色のライトが照らし出した。キアリが最初に歌い出し、愛奈とアストラが入れ替わりつつ続き、陽葉、瑠璃音、ミライのコーラスが重なる。間奏に合わせて飛んだ愛奈が頭上で手拍子をする下で、陽葉とアストラがマイクを手に台詞を挟んだ。
『いい感じに盛り上がって来たよ! もっともっと、楽しませてあげる!』
『果たして真のアイドルはどっちか、刮目だね!』
 最終節を歌い出すキアリ。バックコーラスに背中を押され、彼女は声を張り上げた。
『欠けた地球が僕を嗤っても、それでもずっと輝いて。千切れそうな空の隙間に、虹をかけるよ―――――! …………光を――――』
 曲のフェードアウトし、照明の光量が落ちる。潮が引くように静まった客席が再度の歓声を上げる中、蘭赦は大きく拍手した。不敵な微笑を浮かべ、ステージ下からキアリを見上げた。
「やるわね。千世滅に仕込まれたのかしら?」
「言ったはずよ。これがわたしの力。さあ蘭赦! 観客たちは、もう貴女のファンじゃない。何を企んでるか知らないけれど、これ以上好きにはさせない!」
 堂々と言い切られ、蘭赦は軽く肩を竦める。直後、彼女は跳躍し、ムーンサルト回転しながらステージ奥に降り立った。両サイドから飛び出してきたオタゲイジャーが蘭赦と六人の前に割り込み、風をまとったツカサもステージに着地! 抜き放った二刀と両脚に風をまとわせ、臨戦態勢!
「みんなお疲れ様! さあ、ここからは俺もステージに立たせてもらおうか!」
 肩に蒼い目の子竜を乗せた冬重も少し遅れてステージに上がり、手の平に子竜を乗せて光らせる。ステージを包む一色即発の気配。悠然とたたずむ蘭赦は横に伸ばした腕を持ち上げ、静かに歌った。
『百合咲く舞台、修羅を包む華の芳珠。刃を種に血を吸い上げてほころぶ白の……Ah―――』
 その瞬間、蘭赦の足元から漆黒の波紋が広がりライブハウス全体を黒く塗りつぶす! 客席と歓声が遠ざかり、ケルベロスと蘭赦達のみが立つただ黒いだけの空間が生まれた。途切れぬ蘭赦の歌声とともに白い花弁が雪のように舞い散り、背を丸めたオタゲイジャー二人の筋肉がゴリラめいて膨張していく!
「おおおおおおおおおおッ……!」
「取り返されればまた奪う。貴女達を倒した後で」
「ふん」
 冬重はつぼみ型の光に包まれた子竜をつかみ横薙ぎに振るった。光で出来た三日月型の鍵盤が出現!
「音楽を一般人の心を惑わすために使うとは許せんな! 歌うぞ、マグナス!」
 伴奏と共にキアリは両手に二丁ガトリングガンを呼び出し蘭赦に向かって銃弾を乱射! その射線に入ったオタゲイジャーズがレーザーソードの高速連撃!
『ハイハイハイハイハイハイハイハイ! ハイィィィーッ!』
 最後の弾丸を斬った直後、跳躍して二人に接近したツカサの二刀が竜巻をまとう!
「吹けよ風! 掻き消せ暗雲! 未知なる蒼穹を斬り拓け!」
 繰り出される嵐の一閃がオタゲイジャー二人をまとめて吹き飛ばす! 大弓を手にした陽葉と赤い六枚翼を広げた愛奈が疾走し、蘭赦を挟んだ。白光の矢が番えられ、真紅の翼に金色の光が灯った。
「君達も良いパフォーマンスだったよ。でもここで退場してもらおうかな」
「さあお前の罪を数えろ! 出来ないんならあたしが決める!」
 笑みを崩さない蘭赦に放たれる矢と光線! 蘭赦は優雅な回転跳躍でこれを回避し、百合の花風をまといながらさらなる歌を口ずさむ。
『歌え、踊れ、狂い回れ。吹き抜ける風、眠る貴方を揺するよう』
『諦めないで、どこかで少女が貴方を見ているから』
 渦巻く百合の花弁に薄紫の花びらが混じる。冬重の伴奏に合わせて瑠璃音が歌う。
『凍れ、凍れ、貴方の心が見えないのなら』
 蘭赦の周囲を渦巻く花嵐が下の方から凍結開始! せり上がってくる氷の塔を見下ろし、蘭赦はメドレーめいて歌を繋いだ。
『燃えろ、燃えろ、私の魂心を溶かせ』
 頂点まで昇りかけた氷が内部から白い炎を噴出して砕け散った! 激しく燃え上がる白亜の塔。瑠璃音と冬重に目配せしたミライは曲調の変化と同時に口ずさむ。
『豪炎切り裂いて進むのよ、負けることを知らない狂戦士! 死を知らない竜に、命の意味を教えて地獄の猟犬!』
 歌声が流れ、疾駆する猟犬のアロンにスミレ色の光を宿す。光に爆炎を交えて一気に加速し、跳躍して白炎の塔に突っ込んだアロンの前にブレードを振り上げたオタゲイジャー! 斬り下ろしが子犬を捕らえ地に叩き落とした。
「兄弟ィ!」
「応ともよ!」
 オタゲイジャーの片割れが白炎の塔を回り込んで陽葉に刺突! 脇腹を貫かれ、続く前蹴りに吹っ飛ばされる陽葉を見たアストラは手中のスマホを高速タイプしながら実況めいて口を回す。
「おーっとここで割り込んで来るかオタゲイジャー! その見た目でヒーロームーブ? あ、ちょっとボックスナイトー! キアリさん危ない!」
 文字列の渦が陽葉を飲み込む一方、キアリの懐に踏み込んだ蘭赦が片腕を引き絞る!
「っ!」
 とっさにガトリングガンを手放したキアリは両腕に槍状の黒液をまとわせ下段からの掌打をクロスガード! 後ろに押しのけられるも踏ん張って突進、マシンガンめいた速度でラッシュを放つが蘭赦は全て掌底と最小限の動きで華麗に受け流していく。
『強がり、それでも構えた刃。それで手にしたものは何?』
「はぁっ!」
 両手で打ち出したキアリの突きを、左右に弾いた蘭赦。彼女は空振りで隙を見せたキアリの両鎖骨に一撃ずつ殴打を振り下ろして骨を破壊! 次いで大きく足を後ろに引いた瞬間、彼女の後頭部めがけて白い一本角を持った子竜がドラゴンダイブを敢行。
「ポンちゃんっ!」
 鋭く一回転して子竜を蹴り飛ばした蘭赦は、殴りかかって来るミライの拳を手の甲を当てて逸らし、腹に膝蹴りを入れる。体をくの字に折ったミライは汗を浮かべながらも顔を上げ、蘭赦を見据えた。
「歌が好きなら、サビで電源落としたのはいただけません、ね……!」
「ふぅん。それで?」
「今度は、途切れさせませんっ!」
 ミライの手が蘭赦の胸元を捕まえ、飛び上がった愛奈が片手斧を振り上げる! そこへ猛ダッシュしていくオタゲイジャー!
「いかん兄弟! 俺を使えッ!」
「借りるぞ兄弟!」
 片割れの後方に回ったオタゲイジャーが跳躍して相方の背中を足場に再跳躍。愛奈めがけ一直線に飛翔するオタゲイジャーの背に、ツカサが空中から旋風をまとった回転斬撃!
「ぐあッ!」
「おっと、行かせない、ぜッ!」
 二刀が振り切られ地面に叩きつけられたオタゲイジャーの傷から白煙が噴出した。一瞬にして体躯がしぼみ、元に戻る相方を飛び越えてもう一人が走る!
「蘭赦殿おおおおおおおおッ!」
「天・誅ッ!」
 愛奈を見上げた蘭赦はミライを天に蹴り上げる。泡を食って斬撃を止めた愛奈にミライが衝突! 髪を払う蘭赦の耳をシンセサイザめいた旋律が震わせた。冬重が鍵盤を奏でるたび、光の花弁と冷たい雨が漆黒の戦場を濡らす。
「瑠璃音くん!」
『貴方はきっと、迷い道の中』
 瑠璃音が伴奏に合わせて歌い出すと共に薄紫の花弁が雨と二色の花吹雪に混じり、数を徐々に増していく。片頬に笑みを浮かべた蘭赦は息継ぎの隙に歌詞を奪った。デルフィニウムと白百合の花弁の比率が瑠璃音と蘭赦の歌合戦に応じて激しく変動!
『貴方はきっと、霧の中を往く哀れな子猫』
『友の声こそ貴方の標』
『その印こそ貴方の証』
『貴方がもしも望むなら、私達は手を引こう』
『うつむき連れられるまま』
『それでも打ち破ると誓ったのでしょう』
 交互に紡がれる詞。花嵐の中、キアリが再度ぶっぱなすガトリングの弾を踊るように回避しながら歌い続ける蘭赦のアキレス腱を矢が射抜いた! つまづきバランスを崩した彼女は無数の鉛弾がかすめられながらも手をつき、優美に後方ジャンプ。その落下点に突撃する陽葉は周囲に流れる文字列の弾幕を流し見し、両腕に星空じみたオウガメタルで手甲を生み出す!
「終幕だよ」
 着地の衝撃で足の傷から鮮血を零す蘭赦を陽葉の鉄拳が強襲! 屈み込んだ姿勢から鋭い回し蹴りで拳を弾いた瞬間、アストラがスマホを片手に声を張った。
「そこだぁーッ! 行っけぇキアリさんっ!」
 とっさに振り向き目を見開く蘭赦の横合いから、片腕を黒い槍に変えたキアリが突進! その身をデルフィニウムと光の花弁に乗った旋律、オーロラの輝きが包む。ミライと瑠璃音が声を合わせてデュエットを歌う!
『切り拓いて輝く道を!』
『決められた未来なんて、きっとないよ』
「はぁぁぁぁッ!」
 眩い光と二色の花風をまとった刺突が無防備となった蘭赦の腹に突き刺さった! 深々と穂先を抉り込まれた蘭赦が血反吐を吐くと、漆黒の空間が一気に開けライブハウスの景色に戻る。奥の壁に激突しぬい止められた蘭赦にオタゲイジャー二名が走った。
「ぬぉぉぉッ!」
 全力疾走する二人の前に流星めいて飛び込む愛奈! 思わず足を止めた二人の後ろで、アストラが客席に拳を振り上げる。
「さあみんな! コメントカモン! ギルティ・オア・イノセンス!?」
 一斉に叫ばれるギルティの声。愛奈は大きく広げた翼を輝かせながら言い放った。
「審判は下ったよ! 悪い奴は聖王女様に代わってお仕置きなのです!」
 六枚の翼が羽ばたき、放たれた閃光が二人を飲み込む。影も残らず消し飛ばされた二人が爆発四散! 湧き上がる観客席を背後に、キアリは槍を食いこませたまま蘭赦に至近距離で問いかけた。
「他の『歩き巫女』の居所は? 答えるのなら楽に殺してあげるわ……」
「ふふっ……追っかけなんて趣味悪い……それとも、ご主人様が恋しくなった?」
「黙って。……これが最後よ。他の『歩き巫女』の居場所を教えなさい」
 蘭赦は笑い、キアリの耳元で何事か囁く。キアリは固い表情で槍を引き抜き、蘭赦の胸を貫いた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。