魔法少女とよばれて

作者:土師三良

●宿縁のビジョン
 夕暮れ時の公園でレプリカントの少女が所在なげにブランコを漕いでいた。
 ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)である。
 先程まで元気に駆け回っていた子供たちも家路につき、今はもうルーチェしかいない。
 しかし、すぐに一人きりではなくなった。
 彼女がブランコから降りて歩き出すと――、
「貴様はプロキオンか?」
 ――横から声をかけられたのだ。
 そこにいたのは少女型のダモクレス。青い装甲服を纏い、長い鎚矛のような武器を持っている。
 そして、その顔はルーチェに少し似ていた。
「……え?」
 戸惑うルーチェをダモクレスの少女は値踏みするような目で睨みつけ、問いの返事を待つことなく、自分で答えを出した。
「ふむ。プロキオンとのデータとの適合率、七十二パーセントか……」
「な、なんで、七十二パーセントなんですか? 貴方のセンサー、精度が低すぎますよ! 私は百パーセント、完全に、間違いなく、頭のてっぺんから足の先っちょまでルーチェ・プロキオンですぅーっ!」
 我に返って、抗議の声をあげるルーチェ。
「だいたい、あなたは誰ですか!?」
「我が名は『アルゴメイサ』。そして、我が任務はプロキオンを処理すること」
 少女は鎚矛型の武器をルーチェに突きつけた。
「適合率は百パーセントではないが、貴様を暫定的にプロキオンと認定する。このシャイニング・ターボで灰に変えてやろう」
「だから、私は百パーセントですってば!」
 ルーチェは……いや、魔法少女ぷりずむルーチェはファイティングポーズを取った。
「論より証拠! 百パーセントの力を見せてあげます!」

●音々子かく語りき
「ルーチェ・プロキオンちゃんが皆さんの助けを必要としていまーす!」
 ヘリポートに召集されたケルベロスたちにヘリオライダーの根占・音々子が告げた。
「というのもですね、私、ルーチェちゃんがデウスエクスに襲われるビジョンを予知しちゃったんですよー。場所は岡山市東区の公園。そして、デウスエクスは『アルゴメイサ』という名のダモクレスです」
 アルゴメイサの容貌はルーチェに似ているのだという。ルーチェも元はダモクレスだったので、姉妹機や後継機の類なのかもしれない。
 しかし、当然のことながら、アルゴメイサはルーチェに親近感など抱いていない。彼女にとって、ルーチェは『倒すべき標的』でしかないのだ。
「アルゴメイサはパワー型でして、非常に高い攻撃力を有しているようです。ただ、標的を認識する能力はかなりポンコツですねー。老若男女を問わず、魔法少女っぽい雰囲気を漂わせている人は誰でもルーチェさんと見做しちゃうみたいです」
 何人かのケルベロスが『老若男女を問わず』の部分にツッコミを入れようとしたが、思い留まった。音々子の言葉が冗談でないことに気付いたのだ。
「これは一大事ですよー」
 と、真剣な顔をして音々子は言った。
「だって、放っておいたら、ルーチェちゃんだけじゃなくて、魔法少女っぽい人がかたっぱしから狙われちゃいますからね。全国の魔法少女を守るため、なんとしてでもアルゴメイサを倒してください!」


参加者
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
駒城・杏平(銀河魔法美少年テイルグリーン・e10995)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
フワリ・チーズケーキ(ふわきゅばす・e33135)
桔梗谷・楓(オラトリオの二十二歳児・e35187)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)

■リプレイ

●魔法少女隊
「論より証拠! 百パーセントの力を見せてあげます!」
 ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)は魔法のステッキ『シャイニング・ハート』を構えた。ステッキよりもルーンアックスに近い形状(というよりもルーンアックスそのもの)ではあるが、その点を指摘してもルーチェは耳を貸さないだろう。
 彼女と対峙しているのは少女型のダモクレスの『アルゴメイサ』。
 その冷たい眼差しは自身の先行機であろうルーチェに向けられて……いたのだが、今は横の砂場を見ていた。
 正確には、その砂場に転がっている人形を見ていた。魔法少女系アニメのヒロインの人形。この公園で遊んでいた子供の忘れ物かもしれない。
「プロキオンとのデータとの適合率、八十六パーセント」
「私よりも人形のほうがパーセンテージが高いって、どういうことですか!? 貴方、ポンコツにも程がありますよ!」
「シャイニング・ターボ、起動。対魔法少女ブラスター、発射」
 ルーチェの叫びを無視して、鎚矛型の武器『シャイニング・ターボ』を突き出すアルゴメイサ。
 その先端から熱線が迸り、砂場もろとも人形を吹き飛ばす。
 それを見届けると、認識能力に問題を抱えた刺客はルーチェに向き直った。
「適合率八十六パーセントの標的、抹殺完了……だが、念のために六十五パーセントのほうも始末しておくか」
「いや、さっきは七十二パーセントって言いましたよね!? なんで下がってるんですか!」
 ルーチェが再び大音声を響かせた。
 すると、それが合図であったかのように二つの人影が空から降下し、アルゴメイサにファナティックレインボーを浴びせた。
 虹の残滓を撒き散らしてルーチェの両横に着地したその二人は志藤・巌(壊し屋・e10136)と峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)。
「そこまでだ、アルゴメイサ! 俺たちが来たからには、もう好きにはさせないぞ!」
 雅也がアルゴメイサに指を突きつけた。声だけを聞けば、実に凛々しく、雄々しく、頼もしく思えるだろう。
 なにゆえに『声だけを聞けば』という条件がつくのかというと、身に纏っているのが尋常な代物ではないからだ。
 フリルとリボンで過剰に装飾された白いミニスカートの衣装。
 そう、魔法少女を意識したコスプレである。
 巌の衣装も同様だった。雅也のそれとは対になっており、こちらは黒を基調としている。
「殺戮の使者、ジェノサイド・ホワイト!」
「破壊の使者、デストロイ・ブラック!」
 二人は名乗りを上げると、声を揃えて――、
「参上!」
 ――と、魔法少女らしいポーズを決めた(雅也はポーズだけでなく、ウィンクまで決めた)。
 両者の叫びに爆発音が続く。後方でブレイブマインが炸裂したのだ。
 そして、カラフルな爆煙の奥から他のケルベロスたちが姿を現した。
「たまたま、通りかかったからさ。たまたま」
 誰に問われたわけでもないのにそう口にしたのはサキュバスのマルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)。ブレイブマインの起動元である爆破スイッチを片手に持ち、もう片手には猫を抱いている。
 その猫が地上に降り、人型ウェアライダーのフワリ・チーズケーキ(ふわきゅばす・e33135)に姿を変えた。
「きらめく愛の魔法少女ぷりずむフワリにゃー!」
 巌や雅也と同じようにポーズを決めるフワリ。もちろん、衣装も二人と同じような魔法少女系だ。
「データとの適合率――」
 フワリ、巌、雅也……と、順に視線を巡らせるアルゴメイサ。
「――八十ニ、六十一、六十四パーセント」
「フワリさんは良いとして、巌さんと雅也さんはいくらなんでもおかしいでしょう!? 男の人なのに私と同じ六十台だなんてぇーっ!」
 抗議の声をあげながら、ルーチェがアルゴメイサを攻撃した。魔法系のグラビティではなく、旋刃脚で。
「身をもって教えてあげます! 貴方が見落とした二十八……いえ、三十五パーセント分の力を!」

●魔法少女かい?
「ちぇっ! 思ってたよりも低いなぁ」
 六十四パーセントと判定された雅也も不満げな顔をしていた。
「巌との差が三パーセントしかないのも納得いかない」
「いや、おまえらが二人とも六十パーセントを超えてることのほうが納得いかないんだが……」
 そう言いながら、人派ドラゴニアンの鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)が如意棒をヌンチャク型に変形させ、斉天截拳撃でアルゴメイサを攻撃した。ちなみに男性陣の中で魔法少女のコスプレをしていないのは彼だけである。
「俺なら、八十パーを軽く超えられるぜ」
 と、根拠のない意見を自信満々に述べたのはオラトリオの桔梗谷・楓(オラトリオの二十二歳児・e35187)だ。
「でも、魔法少女ってのはよく判んねえだよなぁ。どんな風に名乗ればいいんだ? 愛と真実の正義を貫くラブリーチャーミーな………いや、なんか違ぇな。愛と勇気と希望の名のもとにマジカル……うーん。これもちょっと違くね?」
 本人以外にとってはどうでもいい試行錯誤を経た後に楓は名乗りをあげた。
「ラブ・アンド・ピースの魔法少女カエデ、参上っ! ……うん、こんなもんかな」
「颯爽登場! 銀河魔法美少年テイルグリーン!」
 と、楓に続いて名乗ったのは同じくオラトリオの駒城・杏平(銀河魔法美少年テイルグリーン・e10995)。他の男たちと違って、魔法少女の衣装を完璧に着こなしている。それもそのはず。彼にとって、それは普段着も同然なのだから。
 そして、最後の魔法少女モドキ――五十路の竜派ドラゴニアンであるヴァオ・ヴァーミスラックス(憎みきれないロック魂・en0123)もポーズを決めた。
「略奪の使者、プランダー・レッド!」
 名前からも察しがつくように衣装は巌と雅也のそれの色違いだ。足下にいるバセットハウンド型オルトロスのイヌマルも可愛いリボンを付けていた。正確には『付けていた』ではなく、雅也によって『付けられた』のだが、本人(本犬?)は気に入っているらしい。楽しげに尻尾を揺らしている。
 そんな一人と一体にアルゴメイサは興味を引かれたようだが――、
「データとの適合率……照査の必要なし」
 ――すぐについと目を反らした。
「そりゃねえだろ! 恥をしのんでこんな格好したのによぉ! 何パーセントか言えー! 言ってくれぇーっ!」
「対魔法少女ミサイル、発射」
 ヴァオの悲痛な叫びなど聞こえていないような顔をして、アルゴメイサは体のあちこちからミサイルを発射した。標的は前衛陣。そこにルーチェがいたから……というわけではなく、すべての前衛(ルーチェ、巌、杏平、雅也、イヌマル)が魔法少女風の格好をしていたからだろう。
「おいおい。ヴァオのオッサンはともかく、俺まで無視するんじゃねえよ」
 ミサイルを浴びた前衛陣の頭上を飛び越え、楓がスターゲイザーを放った。
「適合率、五十四パーセント」
 蹴りを受けて体勢を崩しながらも、アルゴメイサは冷静にそう告げた。
「くそっ! 六十パーにも届いてねえのかよ! てゆーか、なんで雅也より低いんだ?」
「僕は何パーセントかなー?」
 杏平が鉄塊剣を横薙ぎに振るい、デストロイブレイドを食らわせようとした。前衛である彼もミサイルの洗礼を受けたが、ダメージは被っていない。巌が盾となったからだ。
「適合率――」
 アルゴメイサは鉄塊剣をひらりと躱した。
「――四十九パーセント」
 外見だけなら十分に魔法少女として通じる杏平であったが、判定は意外と辛かった。杏平が『少年』を自称したためだろう(外見よりも自己申告を優先するあたりにアルゴメイサのポンコツ振りが窺える)。
「八十ニパーセントの私がカッチカチにしてやるにゃー」
 メンバーの中で最も適合率が高いと見做された(それでも人形には劣る)フワリがペトリフィケイションの光線を撃ち出そうとしたが――、
「……と、思ったけど、ペトリフィケイションを用意してくるのを忘れちゃったにゃー。しょうがないから、こっちで攻めるにゃー!」
 ――代わりに熾炎業炎砲を放った。

●魔法少女だい!
 ケルベロスたちの中にはルーチェの妹分であるメイ・プロキオンの姿もあった。
「あの敵はルーチェに似てるけど、妹君にも似てない?」
 アルゴメイサとメイを見比べながら、マルレーネがオウガ粒子を散布した。
 その言葉にルーチェやメイが反応するよりも早く、アルゴメイサがメイの照査結果を口にした。
「データとの適合率、三十二パーセント」
「やはり、魔法少女らしい格好をしていないと、パーセンテンジが低いらしいな。しかし、ルーチェの特徴を『魔法少女』ってところに集約するのは単純というかなんというか……」
 呆れ顔で独白する道弘。
 その呟きを大音声がかき消した。
「ダモクレス時代の姉妹機や後継機に狙われた時の対処については一家言あるっすよぉーっ!」
 声の主は鯖寅・五六七。ルーチェやメイがそうであるように彼女もまた元ダモクレスのレプリカントだ。
「ご教示願います!」
 と、ルーチェが『一家言』を求めると、五六七は胸を張って答えた。
「ずばり! よぉーく狙って、力の限りにブン殴ればいいっす!」
「なるほど!」
 感心しきりといった表情で頷くルーチェ。
「いや、納得するなよ……」
 と、鼻白む道弘の前でルーチェがアルゴメイサに飛びかかった。
「よぉーく狙って! 魔法でブン殴りまぁーす!」
 放たれた『魔法』の一撃はルーンディバンイド。ステッキとは名ばかりの『シャイニング・ハート』がアルゴメイサに叩きつけられ、装甲の一部が砕かれた。
 だが、アルゴメイサは動じる様子も見せずに反撃した。
「対魔法少女格闘術」
『シャイニング・ターボ』が振り下ろされた。標的はルーチェではなく、雅也だ。ファナティックレインボーによる怒りが働いたのかもしれない。
 しかし、雅也の前に巌が立ち――、
「まじかる・がぁーどっ!」
 ――己が身を盾にした。
 その逞しい(が、魔法少女の衣装に包まれた)背中の向こうにいるアルゴメイサめがけてエクスカリバールを投擲しながら、雅也が尋ねた。
「なんだよ、その『マジカル・ガード』ってのは?」
「頭に『まじかる』だの『はいぱー』だのを付けたほうが魔法少女らしいだろうが」
 と、巌は言い切った。迷いのない顔をして。
 そんな彼を白い目で見つつ、道弘がヒールドローンを展開した。
「おまえ、このシチュエーションを楽しんでないか?」
「そんなわけねえだろ。盾役として敵の注意を引くため、しかたなくやってんだ。そう、しかたなく」
 魔法少女姿の巌はそう答えると、仲間たちに反駁の機会を与えることなく、アルゴメイサを挑発した。
「なんだかんだ言ってるが、テメエも物理攻撃系魔法少女なんだろう? ああン?」
 ただの挑発ではない。相手に怒りを付与する『痛恨の舌撃』というグラビティだ。
 もっとも、その挑発に対して真っ先に反応したのはアルゴメイサではなく、ルーチェだったが。
「待ってください、巌さん! 『テメエも』って、どういう意味ですか!? 私も含まれてるんですか!? 正統派の魔法少女なのにー!」
「どんな魔法少女であれ、ルーチェお姉ちゃんが大切な仲間であることにかわりはないにゃー」
 と、フワリがフォローした。
「その『大切な仲間』をいじめるような奴は絶対に許さないにゃー!」
 咆哮とともに二発目の炎弾が発射されたが、それが撃ち抜いたのはアルゴメイサの残像だった。
「うーん。熾炎業炎砲以外の攻撃グラビティを忘れてきたから、簡単に見切られてしまうにゃ……」
「僕に任せて!」
 杏平がアルゴメイサに肉迫し、破鎧衝を仕掛けた。
「がんばってにゃー、銀河魔法美少年テイルグリーン!」
 しかし、フワリの声援もむなしく、杏平の鉄塊剣は空を切った。敵との能力の差が大きい上に、頑健性に基づくグラビティしか用意してこなかったので、すべての攻撃が容易に見切られてしまうのだ。
「美少年の攻撃がダメなら、この美青年……いや、魔法少女の攻撃はどうだ!」
 無駄に良い声で叫んだのは『ラブ・アンド・ピースの魔法少女』こと楓。
「レディを拳でブン殴るなんて、俺の流儀に反するが――」
 楓はアルゴメイサに正面から突進し、すれ違いざまに戦術超鋼拳を叩きつけた。
「――まあ、ダモクレスは『レディ』の範疇に入らねえよな!」

●魔法少女HIGH!!
 並外れた攻撃力を有するアルゴメイサであったが、戦いが始まってから数分が過ぎた頃には満身創痍となっていた。場違いな魔法少女の扮装をしているとはいえ、ケルベロスたちもまた歴戦の勇士なのだから。
 しかし、アルゴメイサの顔に焦燥や恐怖の色が浮かぶことはなかった。彼女が最初に吹き飛ばした人形のほうがまだ人間味があるかもしれない。
「もしかして、ダモクレスだった頃のルーチェもこんな感じだったのかな?」
 後衛陣にメタリックバーストを施しながら、マルレーネが首をかしげた。そう言う彼女も無表情だったが。
「昔はどうだか知らないけど、今のルーチェお姉ちゃんとはぜっんぜん似てないにゃー!」
 マルレーレのオウガ粒子に彩られたフワリが叫ぶ。
「ルーチェお姉ちゃんは優しくて、かわいくて、なにより誠実なんだからにゃー!」
 炎弾が飛んだ。幾度目かの熾炎業炎砲。メタリックバーストによるエンチャントやアルゴメイサに付与された状態異常が働いたのか、今度は命中した。
 しかし、例によって、アルゴメイサの表情は変わらない。
「似ていないから、なんだというのだ? 私は自分がプロキオンに似ているなどとは思っていない。それに貴様たちのうちの誰かがプロキオンと確定されたわけでもない」
「だから、私がルーチェ・プロキオンですってば! いいかげん、確定してくださーい!」
「……」
 ルーチェが声を張り上げたが、アルゴメイサは返事をする代わりに『シャイニング・ターボ』を突き出した(杏平の自己申告を受け入れておきながらルーチェの自己申告を無視するあたりに屈折振りが窺える)。
「対魔法少女ブラスター、発射」
『シャイニング・ターボ』から熱線が伸びた。狙いはルーチェのようだが、彼女をルーチェ・プロキオンと認めたわけではないだろう。
 なんにせよ、それはルーチェに命中しなかった。
 雅也が盾となったからだ。
 そして、『ジェノサイド・ホワイト』である彼の横を『デストロイ・ブラック』の巌が駆け抜け、アルゴメイサめがけて旋刃脚を見舞った(ちなみに『プランダー・レッド』は後方で一人寂しく『紅瞳覚醒』を演奏していた)。
「まじかる……どりゃあぁぁぁーっ!」
「いや、気合いの声にまで『まじかる』を付けなくてもいいから」
 と、巌にツッコミを入れつつ、雅也がまたエクスカリバールを投げた。
 それがアルゴメイサに命中すると同時に――、
「魔法少女らしく、派手に決めてやるぜ! まじかる・げんいふーざん!」
 ――楓が『厳威風斬(ゲンイフウザン)』を発動させた。巌に倣い、『まじかる』を付けて。
 刃の鋭さを有した風が巻き起こり、アルゴメイサを斬り刻む。
 その風が収まった後も斬撃が途絶えることはなかった。
 道弘がチェーンソー剣を振り下ろしたからだ。
「とどめは任せるぜ、ルーチェ」
「はい!」
 チェーンソー剣の駆動音に紛れて聞こえてきた道弘の声に頷き、ルーチェがオウガメタルの『ラスター・ルテイン』を解き放った。
 それが敵に絡みついて動きを鈍らせた隙を衝き、自身もまたアルゴメイサにしがみついて力任せに抱きしめる。ベアハッグにしか見えないが、この『シンチラート・エンブレイス』なる技も彼女流の『魔法』だ。少なくとも本人はそう思っている。
「せめて、愛のパワーに抱かれて眠ってください!」
 ルーチェは更に力を込めた。愛とともに。
「き、貴様が……」
 万力のごとき両腕に締め付けられて、体を小刻みに痙攣させるアルゴメイサ。
 その顔に初めて動揺の色が滲んだ。
「……プロ……キオン……だったの……か?」
 最後の『か?』にスパークの音が重なり、体のそこかしこから数条の煙の糸が立ち昇り始めた。
 そして、痙攣が止まり、生体活動も止まった。

 ルーチェの足元に横たえられたアルゴメイサの亡骸。
 その傍にフワリが傍に寄り、優しい手つきで目を閉じさせた。
「これが正真正銘のぷりずむルーチェの力です、と、言いたいところですけど――」
 姉妹機を見下ろしていたルーチェが仲間たちに振り返った。
「――皆さんがいなかったら、どうなっていたか判りません。来てくれて本当にありがとうございます!」
「べつに姉さんを助けに来たわけではありません。ケルベロスの損失は可能な限り避けるべきだと判断しただけです」
 と、澄まし顔で応じたのは妹分のメイだ。
「私も助けに来たわけじゃない。最初に言ったように通りかかっただけだから」
 同じく済まし顔をしているのはマルレーネ。もっとも、何人かのケルベロスは彼女の心中を代弁するかのように笑みを浮かべている。
 その『何人か』の一人である杏平が提案した。
「皆の魔法少女姿、とても似合ってると思うよ。写真でも撮る?」

 魔法少女に扮した男たちの写真は見るに耐えない代物だった。
 だが、滑稽な格好をした彼ら(だけでなく、魔法少女に扮しなかった者たちにも)に救われたこの日のことをルーチェは決して忘れないだろう。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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