女騎士さんを屈服させたいニンジャたち

作者:砂浦俊一


 神奈川県某所。この日、市民ホールの一室はコスプレイヤーの撮影会が行われていた。アニメやゲームのキャラクターに扮するのが目的の少年少女や、撮影が目的の者で会場内も盛況――しかし、これを狙う不穏な影があった。
「目移りしてしまいますなぁ」
「美少女が選り取り見取り、嬉しい悩みでござる」
 螺旋模様の仮面をかぶった彼らは、螺旋忍軍の一派、影羽衆。彼らはサブカル文化に紛れて活動しており、この日のコスプレイベントを狙って会場の天井裏に潜んでいた。
「そろそろ仕事の時間でござるな」
「どの娘にいたそう?」
 影羽衆は3人。その中でリーダー格である1人に、残りが顔を向けた。
「あの金髪の縦ロール、女騎士風の装束に身を包んだ娘はどうか? 拙者、高貴な雰囲気で強気な顔の美少女を屈服させるのが何よりも好きでござる」
 リーダー格が、会場の中央にいる少女に螺旋手裏剣の刃を向ける。
「ほほう、拙者もああいう娘を辱めて泣き叫ばせるのは大好きでござる」
「彼女に改造と洗脳を施して、命令に忠実な女騎士に仕立て上げれば、どこの勢力にも高く売れるでござろう……」
 3人は薄気味悪い笑みを見せた後、天井をぶち破って会場内に降り立った。
「狙うは金髪縦ロールの女騎士! 邪魔者は斬れ! 逃げる者は放っておけ!」
 会場内が悲鳴と混乱に包まれる中、影羽衆たちは目的の少女へと一直線に駆けた。


「コスプレイベントの会場を影羽衆という螺旋忍軍が襲撃するっす。連中の目的は、サブカル系の美少女や美少年を誘拐、洗脳・改造を施して、他のデウスエクス勢力へ配下として売り渡すことっす」
 オラトリオのヘリオライダー、黒瀬・ダンテが集まったケルベロスたちに事件の概要を説明する。
「襲撃されるのは市民ホールの一室で、襲撃時刻は午後1時。出現する影羽衆は3人。リーダー格の1人が後衛で螺旋手裏剣を武器に、残りは前衛で日本刀を武器にするっす。事前に避難活動や市民ホールを封鎖すると、影羽衆は別の場所を襲撃するんで、事件の阻止ができなくなっちまうっす。だから少年少女たちの避難は影羽衆の出現後にやってほしいっす」
 しかし敵が現れたらすぐに対応したい。敵の出現時刻まで市民ホールのどこかで待機しているか、コスプレイヤーのフリをして会場内にいるか、そのあたりだろう。
「それと影羽衆は、『その場にいる少年少女の中で、最も外見が趣味嗜好に合う1人』を狙って誘拐しようとするっす。今回狙われるのは『金髪の縦ロール、高貴な雰囲気で強気な顔、女騎士風の衣装を着た』少女です。この影羽衆の性癖、じゃなくて趣味に合った姿のケルベロスが現場にいれば、連中の注意も引けるはずっす」
 続いてテーブル型の液晶ディスプレイに、現地の写真や会場内の見取り図が映し出された。コスプレイヤーの撮影会に貸し出されるだけあって、会場内は戦闘には充分な広さがある。
 しかしコスプレイベントだけあって人は多いだろう。出入り口となるのは会場南側の広い正面入り口と、北側の狭い裏口。イベント中は正面入り口の観音開きの扉は開いたまま、裏口の片開きの扉は閉じられているようだ。
 影羽衆を引きつける組、会場内の人間を避難させる組、この二組にメンバーを分けた方が良いのかもしれない。
「罪のない少年少女が誘拐されることも、どこかのデウスエクス勢力の手駒が増えることも見過ごせないっす。この影羽衆の企み、阻止してほしいっす」
 ダンテに見送られる中、ケルベロスたちが搭乗したヘリオンは発進シークエンスに移行する。


参加者
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
アンナ・トーデストリープ(煌剣の門・e24510)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
八刻・白黒(星屑で円舞る翼・e60916)

■リプレイ


 コスプレイヤーの撮影会が行われている、神奈川県某所の市民ホール。
 ケルベロスたちはコスプレイヤーの少年少女たちに混ざり、会場内で影羽衆の襲撃に備えている。自分たちもコスプレイヤーやアマチュアカメラマンを装っているため、撮影を求められれば快く応じていた。
「うふふ……コスプレイベント、いいじゃない。女騎士以外にも魔法少女や格ゲーくノ一もいる……これを間近で見るチャンスを逃せるでしょうか。いや、ない。こうしてコスプレイヤーに混ざって女の子を凝視するのも避難誘導を迅速に行うため必要な事、つまり合法」
 頭まで甲冑姿のアンナ・トーデストリープ(煌剣の門・e24510)が漏らした小声に、騎士鎧姿のクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)は青い顔になってしまう。
「い、今は任務中であります、任務中。アンナ様の趣味嗜好は理解していますが、そこのところ忘れないで欲しいであります」
「うふふ、この依頼を引き受けて大正解……」
 顔も甲冑で覆われているので彼女の視線は周囲の人間にはわからない。しかし鈍色の厳つい鎧姿の威圧感のためか悪役のようだ。彼女を始め、騎士風の甲冑に身を包んだ面々は影羽衆の目に付きやすいよう、ひとかたまりになっている。
 別の場所では、時代劇の浪人姿のパトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)が撮影に応じていた。カメラマンの要望のままに、刀を構えたポーズを決める。撮影終了後、お礼を述べて立ち去るカメラマンに手を振り返すと、彼は安堵の息を漏らした。
「……それっぽくなっていたかな。変なポーズや無駄に煽情的なポーズを要求されなかったのは助かった……されたら逃げていたかも……」
「心配するな。充分それらしく見えた」
 声をかけたのは、赤目白髪で喪服姿のファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)。彼女は普段からこの格好のためか、コスプレイヤーに混ざっていても立ち振る舞いに違和感がない。
「狙われそうな女騎士さんは……彼女ですかね?」
 シスター姿のイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)は、それらしき少女を目線で2人に示す。
 影羽衆の狙いは金髪の縦ロール、女騎士風のコスプレイヤー。ちょうど彼女はエニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)に声をかけるところだった。
「あの……皆さんの甲冑、凄いですね……まるで本物みたいです……」
 まだ高校生ぐらいだろうか。彼女もコスプレイヤー、撮影を求められた時にはコスプレしたキャラクターのお決まりのポーズをしたり、言動を真似たりするのだろう。だが今は素の自分のままで、ケルベロスたちの甲冑に興味を示していた。実際、ケルベロスたちが着ているのはコスプレ用の衣装ではなく本物そのものだ。
 金髪縦ロールのウィッグをかぶり、碧のドレスの上から甲冑を纏うスタイルのエニーケは、スカートの裾を掴んで優雅に会釈する。
「ありがとうございます。この甲冑の製作には苦労しましたが、そう仰って頂けると嬉しいですわ。そちらも近くで見るとこだわりが感じられる出来栄えですわね……」
「はい、お小遣いを溜めて、お友だちにも手伝ってもらって作ったんです」
 少女が見せた満面の笑みからも、彼女がコスプレしたかったキャラクターなのが伝わってくる。
「お嬢さんも衣装も素敵です。よろしければ一枚、構わないでしょうか?」
 カメラを持参して撮影目当ての一般人を装う八刻・白黒(星屑で円舞る翼・e60916)が、少女に許可を求める。笑顔で応じてポーズを決める少女へと、白黒はレンズを向けた。カメラに関しては素人だが、そこが逆に一般人そのものに見えなくもない。
 その近くで、エヴァンジェリン・ローゼンヴェルグ(真白なる福音・e07785)は周囲に視線を走らせる。女騎士風のコスプレイヤーは他にも数人いたが、どれも金髪縦ロールではない。
「つまり、ここに金髪縦ロールの女騎士が集合したわけか――」
 自身もブロンドの髪をサイドテールの縦ロールにしたエヴァンジェリンが、そう口にした時。
 轟音とともに天井がぶち破られた。


 運良く真下に人がいなかったため下敷きになった者はいないが、そこには螺旋模様の仮面を被った3人の影羽衆たちが降り立っている。
「狙うは金髪縦ロールの女騎士! 邪魔者は斬れ、逃げる者は放っておけ!」
 影羽衆たちのリーダー格が、仲間たちへ号令をかける。
 突然の出来事に会場内の人々は体が硬直して動くこともできないが、ケルベロスたちは即座に反応する。
「会場内の者たち、私たちはケルベロスだ。あの螺旋忍軍どもは私たちが退治する」
 ダイナマイトモードを用いつつ避難指示を出すファルゼンは、メタリックバーストを飛ばして自らも前衛に付く。
「ここから先へは一歩も進ませないであります!」
 影羽衆たちの前に立ち塞がるクリームヒルトは、自らを盾に標的にされた女騎士の少女の姿を隠す。そして紙兵散布で前衛の防御を固めた。
 直後、エニーケのアームドフォートが敵前衛へ牽制の砲撃。
「今のうちにあなたも早く逃げなさい、仲間が避難誘導しています」
 彼女は女騎士の少女へと避難誘導している仲間たちの下へ行くよう指示する。うろたえていた少女は、正面入り口で手招きしているイリスの下へと真っ青な顔で駆け出した。
「皆さん、こちらです。あっ、立てますか? さあ急いで!」
 駆けてきた女騎士の少女は転んでしまうが、イリスは腕を掴んで立たせ、逃げる人々でごった返す正面入り口へ向かわせる。
「さぁ、行こうか……」
 自らを奮い立たせるように呟き、エヴァンジェリンが敵前衛へとキャバリアランページ。パトリックは相棒のティターニアを前衛の支援に向かわせると自らはスターサンクチュアリを飛ばす。
「向こうの方は問題なさそうだな……」
 彼の視線の先では仲間たちが避難誘導に当たっている。
「うふふ……かわいこちゃんたちの避難が終わったら素っ首落としてあげるから。忍者どもは首を洗って待ってなさい」
「大丈夫、彼女は味方です。何も怖いことはありません。こちらから逃げてください」
 避難誘導にかこつけてコスプレ少女たちに触れるアンナの声は、喜々としている。彼女の呟きを聞いてしまってぎょっとするコスプレ少女へ白黒は一声かけると、その手を引いて入り口の外へと逃がした。
「ケルベロスどもめ。我らが狙う女騎士を逃がしおって!」
「構わぬ、奴らの中にも我らが狙う容姿の者がいる。標的、変更!」
 ケルベロスたちと切り結ぶ仲間へ指示を下すと、リーダー格は両手から手裏剣を放つ。
 数ではこちらが上回っているが、忍者だけあって敵は身のこなしも素早い。
 この戦い、油断はできない。


 囮役が敵を引きつけている間に、最後の一般人が正面入り口から逃げ出していった。避難誘導を担当していた面々も戦列に加わる。
「銀天剣、イリス・フルーリア―――参ります!」
 イリスがスターゲイザーを浴びせ、続いて白黒が敵の攻撃を受けた面々へとウィッチオペレーションを使用する。
「ところで、女騎士の方に具体的に何を求めているのですか?」
 それが影羽衆への白黒の疑問だった。
「ただ洗脳と改造を施して売り飛ばすだけでは面白味に欠ける」
「高貴な雰囲気の強気な美少女に『くっ、殺せ』とか『洗脳には負けない!』とか言わせたいでござる」
「それが金髪縦ロールの女騎士なら、なお良し!」
 問われた影羽衆たちが答えるが、その変態趣味に何人かのケルベロスの背筋には寒気が走った。
「うふふ、高貴で強気な女の子を辱めるのが好きなのね……私も好きよ。辱しめるのも、辱しめられるのも。はぁ……想像しただけでゾクゾクしちゃう。でも、ダメよ? そういうのは女の子同士じゃないと」
「なんと趣味が同じ? 否、少々違う?」
 アンナのエアシューズによる蹴りを受け止めつつ、日本刀所持の影羽衆が困惑の声を上げる。
「金髪縦ロールの女騎士がお好きのようですが――」
 エニーケは日本刀所持へと破鎧衝を浴びせた後、ウィッグを脱ぎ捨てて馬耳と尻尾を出した。
「真のお姿、お気に召しましたかしら?」
 微笑む彼女の姿に、影羽衆たちは驚きを隠せない。
「カツラだと!」
「それにケモノ耳、いや馬耳!」
「ならば我らの嗜好の範囲外、こやつは殺せ!」
 リーダー格が仲間を諫めるものの、浮き足立つ日本刀所持の片割れをパトリックの死天剣戟陣が襲った。手にした日本刀が床に落ち、動きも止まる。
「お喋りしている余裕があるのか?」
「焼かれて、苦しめ」
 入れ替わるようにファルゼンのブレイズクラッシュ。彼女の冷たい声とは正反対の灼けつく劫火が、武器を封じられた敵を包みこむ。
「これで、仕舞いだ!」
 エヴァンジェリンが両手で構えた極大の光刃、天を裂く極光の白刃が、炎に焼かれる影羽衆を縦に斬り裂いた。
「よくも相方をっ」
 仲間を倒され、激昂するもう1人の日本刀所持が斬りかかるが、これをクリームヒルトは盾で防ぐ。
「ボクが皆さまを護るであります!」
 逆に彼女のゲシュタルトグレイブで脚を突かれ、日本刀所持の体がぐらつく。だがケルベロス側の追撃を阻むべく、リーダー格が再び無数の手裏剣を投擲した。
「ふん! 金髪縦ロールを1人残し、後は皆殺しだ!」
 リーダー格だけあって強さは他より頭ひとつ抜けている。手裏剣は雨のように頭上からケルベロスたちに降り注ぎ、足の自由を奪おうとする。


 1人欠いたが、影羽衆たちは果敢にケルベロスたちへ攻撃を仕掛ける。後方からの手裏剣の援護を恃みに、日本刀所持はエヴァンジェリンへと斬りかかった。
「残っている金髪縦ロールは私だけか。だが洗脳も改造もお断りだ!」
 負けじと彼女は切り返し、敵の攻撃の間隙を縫って味方が負傷者の回復を行う。
「まだまだ気を抜けませんね」
「応援動画であります! ここが踏ん張りどころ、まだ倒れるには早いであります!」
 白黒がオラトリオヴェールを張り巡らし、クリームヒルトはサーヴァントに指示を出すと自らは再臨の光を使う。
「貴方たちに許されているのは死ぬ事だけ。命乞いも抵抗も死亡フラグも要らないわ」
 アンナのバトルガントレットが日本刀所持の鳩尾に深く叩きこまれる。
「ただ黙して……死になさい」
「ぐぅっ……『くっころ』を聞けずに死ねるかっ」
 日本刀所持は血を吐きながらも刃を閃かせるが、これをパトリックの斬霊刀が捌いた。
「オレは生きる! テメェは死ぬが良い!」
 そして無数の残像を伴う剣撃が、日本刀所持の身体を斬り裂く。
 残るはリーダー格のみ。ケルベロスたちは最後の1人を囲むように動く。
「拙者と趣味を共にする同好の士たちを……やってくれたなっ!」
 敵は手裏剣を構えるが、それはエニーケが許さない。
「現役の騎士たる私になびかなかった事を後悔させてあげますわ、くっ殺す!」
 くっ殺せ、などと生きる事を捨てた女の言いそうな言葉はエニーケの好みではない。
 彼女の場合、くっころとはくっ殺すの意味。振られた殺魔剣が、敵の手にする手裏剣を粉々に打ち砕いた。
 直後にファルゼンのヴァルキュリアブラストが命中、直撃弾に敵の膝が折れる。
「あとは任せた」
 ファルゼンがさっと身を退き、その後ろから出たイリスは腕を突き出して魔法陣を出現させる。
「時空歪めし光、汝此れ避くるに能わず!」
 魔法陣から発射されたのは無数の光弾。
 空間を歪曲して撃たれるそれは、標的には超高速で迫りくる光弾に見える。
 避けることも叶わず、リーダー格の全身が撃ち抜かれた。
「くっ、殺されるのは拙者か……無念……」
 うつ伏せに倒れたリーダー格の、それが最期の言葉となった。
 変態じみた性癖を持つ影羽衆の討伐、完了。
 しかしコスプレイベントの会場だったホール内は荒れ放題だ。
 コスプレイヤーたちの撮影会にも貸し出されるのだから、この市民ホールはサブカル趣味に理解があるのだろう。また参加者のマナーが良いからこそ、だろう。
 こういう場所は大切にしないといけない。
 この先も滞りなくイベントが開催されるよう、きっちりヒールを行っていこう、とケルベロスたちは思う。

作者:砂浦俊一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。