残月の漣

作者:崎田航輝

 欠けた月でも宵の空には煌々と美しい。
 透明な空気は冷たさを孕みながらも真っ直ぐに月光を通し、水面に淡い光を届ける。柔風に撫でられた海が漣を生むと、静やかな音と共に光が宝石のように乱反射した。
 波音だけが支配する世界。
 だが、そこに突如ぼうと妖しい光が奔る。
 それは砂浜に浮遊する怪魚が線引く魔法陣。
 円形の輝きとなったそれは、中央に昏い影を生む。過去ここで命の絶えた巨躯の戦士だ。
 嘗ては蒼の美しき剣と鎧を誇る騎士だったそれは、しかし今では黒く翳った色合いに堕している。
 静やかに自らの美を語る知性も無く、あるのは獣のように狩りを求める本能のみだった。
「美しさも趣も無い、か」
 と、それを隣で蔑むように見つめる影がある。
 それは浜に降り立った、もう一体の巨躯。
 月色の剣と鎧に身を包んだ雅な騎士は、変わり果てた同胞の姿に首を一度振っていた。
「それでも──人を斬る分には問題無さそうだね」
 ならば何も気にすることはないか、と。月色の巨躯はそれきり、黒色の巨体から視線を外して獲物を探し始めた。
 血潮を生み、月夜に殺戮を楽しむ。それさえできれば全ては些末なこと。だから騎士は、骸と共に夜に踏み出す。二色の鎧を、残月が淡く照らしていた。

「本日は死神と、エインヘリアルについての事件となります」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、予知された未来についての説明を始めていた。
「出現することがわかったのは深海魚型の死神。その目的はケルベロスに撃破された罪人のエインヘリアルをサルベージし、デスバレスへ持ち帰ることです」
 ただ、敵はこれにとどまらない。
「サルベージされるエインヘリアルに加え、もう一体の脅威──新たな罪人エインヘリアルが同時に現れることがわかったのです」
 これはエリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が危惧していた、罪人エインヘリアルのサルベージを援護するエインヘリアルの妨害行動と思われる。
「つまりニ体のエインヘリアル──そして深海魚型の死神までもと同時に戦う作戦ということになります」
 サルベージされた罪人エインヘリアルは、出現の七分後には死神によって回収される。
 それを防ぐこと、そして新たな罪人エインヘリアルに寄る破壊活動も防ぐこと。多くのことを成し遂げるためにご協力をお願いします、とイマジネイターは語った。

 説明を続けるイマジネイターは、海沿いの砂浜だという現場の資料を示す。
 サルベージされるエインヘリアルが、以前ケルベロスによって討伐された場所だ。
「甦った個体……こちらの方は便宜的に『黒骸』と呼ぶことにします」
 黒骸は今では知性もなく、変異強化された異形となっている。
「もう1体は、コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれたばかりの罪人エインヘリアル。こちらは見た目から白騎士と呼称することにします」
 白騎士は知性の面では黒骸に勝る、けれど戦闘狂であるため理屈の通じる敵ではない。
 これに加えて深海魚型死神が三体いる。これらも無論警戒は必要だろう。
 周囲の避難は既に行われているが、予知がずれるのを防ぐために戦闘区域外の避難はなされていない。黒骸は戦闘開始から七分後には回収されるが、白騎士については放置されるために、こちらが敗戦すれば野放しになってしまうだろう。
「しっかりと作戦を立てて臨む必要がある相手でしょう」
 だがその分、勝利でもたらされるものは大きいはずだ。
「是非、全力をもってあたってくださいね」
 何より無辜の人々の命を護るために。
「行きましょう──戦いの場所へ」


参加者
スウ・ティー(爆弾魔・e01099)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)

■リプレイ

●月夜
 鈍く光る怪魚に、二つの巨影。
 空の機上から見える敵影に、マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)は瞳を細めていた。
「死神……か。まったく厄介なことを引き起こしてくれる……」
「ええ。一筋縄ではいかない相手であることでしょうね──」
 セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)も呟く。けれどその表情にあるのは淀みのない意志だった。
「なればこそ、彼らを見逃すわけにはいきません。ケルベロスとして──騎士としても」
 必ず此処で討ち倒しましょう、と。
 言葉にマティアスも頷いた。
「ああ。全て撃破する。……レプリフォースの志にかけて、思い通りにはさせまい」
 脳裏に過らせるのは先日、敵として倒すこととなった元僚機の姿。
(「『あいつ』も蘇生されてはたまらないな……」)
 だからこそ死神も含めて、確実な撃破を。マティアスは誓うと、皆と共にハッチを蹴って夜の浜へ降下した。
 着地した番犬に始めに気づいたのは、月色の鎧の巨躯、白騎士。
 笑みを浮かべてこちらへ目を向けてきていた。
「これは重畳。丁度、剣戟の相手を探していたんだ。或いは天からの贈り物かな」
「さて、どうかな──地獄からの使いかもしれないぜ」
 ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は紫煙をくゆらせながら声を返す。形の良い目元を微かに笑みの形にして、くるりと銃を手にとって見せていた。
 白騎士は笑う。
「地獄の番犬というわけか。けれどこちらにも、悍ましい存在はいるけれどね」
 言葉を聞いてか否か、のそりと歩む影があった。
 もうひとりの巨影、黒骸。
 言葉無く、ただ獲物を見る視線で番犬を見回している。
 巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)は微かに胡乱げな表情で見上げた。
「ケルベロスに倒されたんだろうに、また地獄の釜の底から出て来ましたよってか?」
「正直、こいつらみたいなのは、繰り返し出てこなくていいんだけどな……」
 長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)は青磁がかった灰の髪をがし、と一度掻く。
 それでもすぐに自身の拳を打ち鳴らした。
 今やるべきことはひとつ。
「とりあえず──望むもんは渡さねぇよ」
「ええ。始めましょう」
 セレナは白銀の剣を抜き、居並ぶ敵へ構えた。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴殿を倒します!」
 刹那、氷片を纏った波動を放って死神を薙いでいく。
 時を同じく、ポン、と爆破スイッチを軽く投げてキャッチするのはスウ・ティー(爆弾魔・e01099)。
「こういうの電光石火って言うんだったかな。ま、手早くやらせてもらうぜ」
 かちりと押下すると、黒骸の眼前で爆撃を発現。放射状に広がった衝撃で黒剣の刃先を欠けさせた。
「さて、白い方は頼んでおくよ」
「任せてくれ!」
 砂を蹴って疾駆するのは渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)。一息に白騎士へ肉迫していた。
 白騎士は愉快げに剣を構える。
「僕の相手は、君かい?」
「ああ」
 一先ずな、と数汰は呟く。
 この厄介な相手を後回しにせざるを得ないことには嘆息も零れた。だが敵を殲滅する為の最適解に一歩でも近づくならば、それに邁進するだけ。
「少し、じっとしててもらうぜ!」
 体を旋転させて放つのは鋭い蹴り。
 巨体が一瞬よろめくと、その間に真紀はマインドリングをフラフープ状へ展開、体にかけて地に手をついていた。
「オーライ、踊るぜ。オレのダンス見てけよ!」
 一点を軸に回転し、ウインドミル。光の輪を踊らせるように回転させて怪魚達を切り裂いていく。
 千翠が焙烙玉を爆破させて煙幕と共に死神を後退させると、その三体は鳴き声を上げて自己回復に走ろうとした。
 が、マティアスがそこへ狙いを定めている。
「戦闘フェーズ移行……攻撃行動を開始する。ミサイル弾数確認、照準セット、ファイア」
 弾頭が命中と共に爆炎を上げれば、死神は痺れて回復もままならない。
 白騎士と黒骸はそれも意に介さず、斬閃と氷の波動を放った。
 余りに強力な連撃。だがセレナとマティアスが確と防御をしてみせれば、ソールロッド・エギル(々・e45970)は惑わない。
「少々お待ちを、すぐに治療させて頂きます」
 月に映える白絹の髪を揺らめかせ、そっと伸ばした手から生み出すのは治癒の光。
 温かく、眩く。それは命を癒やす煌めきのオーラ。
 劇的な回復量と浄化の力に、マティアスは状態を持ち直す。セレナもまた自己で気力を保つことで事なきを得ていた。
 続けて起きた爆発は、ハンナの『掃討作戦』。追尾型多弾頭ミサイルによる射撃で死神の体力を削り取っている。
「そろそろ一匹ずつ掃除できそうだ」
「おっし、やっとくか」
 真紀はたん、と地を蹴ると前傾の姿勢になり、ドルフィン。そこから足を返すと同時に地の砂を巻き上げ、一体の全身を打ち据えて撃破した。
 間を置かず、セレナが如意棒の刺突で二体目を塵にする。
 残る一体は自己回復し、この間に黒骸も走り込んできた。が、そこへはスウが遠隔爆破。眼前を炸裂させて圧を与えている。
「もう少し、邪魔してやりなよ」
「おう!」
 数汰は至近に迫ってから光線を発射。黒骸の足元を凍結させた。
「今だ!」
「じゃ、行くかね」
 ハンナは三節棍で風を切り一撃。研鑽に裏打ちされた無駄のない打撃を喰らわせ、怪魚を宙へ煽る。
 そこへ千翠が跳んだ。
 死神を見据える視線は、強い。コギトエルゴスム化した経験がある身として、誰かに利用される不快感が心に渦巻いていた。
「他人を操り人形になんて出来ない世界に送ってやるよ」
 放たれた蹴撃は柳のように靭やかで、それでいて痛烈。怪魚を地に叩き落とし、そのまま跡形もなく霧散させていく。

●剣戟
 海面が月光を反射してモザイク画のように光る。
 しかし白騎士は美観よりも、番犬の手並みに感心の表情を見せていた。
「僅か二分。鮮やかな腕前だ。しかし騎士を同じように殺せると思わないことだ」
 尤も、一人はとっくに骸だけれど、と。
 白騎士は黒骸に視線を送っていた。
 黒骸はただ浅い吐息と獰猛な瞳だけを見せている。
 言葉にも、自分の変わり果てた姿にも心を動かさない。あるのは獣と堕した本能だけ。一歩一歩、動物的な嗅覚だけを頼りにするように番犬へ歩んでくるばかりだ。
「──美しき死に様を愛でていた者がこの有様」
 と、ソールロッドは鮮やかな紫の瞳を伏せ、呟いた。
 ソールロッドもまた死への美学を持っていた。
 即ち、死は『一切からの解放』であり『明確な終わり』であるべきという事。
 生を謳歌するでもなく、死に消えゆくでもない。煉獄のような時間に揺蕩う巨躯の姿を、そのままにはしておけなかった──なればこそ。
「ここで終わらせて差し上げませんと」
「ああ。みすみす逃すのも気持ち悪いからねぇ──叩けるうちに叩いておく、ってな」
 あくまで飄々と、素早い踏み込みを見せたのはスウだった。
 黒骸が剣を振り上げる頃には、既に懐に迫っている。同時、抜き放ったコンバットナイフで数閃、巨体に無数の傷を刻んで濁った血を散らせた。
「血が出るなんてな。一度死んだってのに、まだ心臓にブチ込まれ足らねーのかよ」
 たたらを踏む巨躯へ、真紀は声を投げる。ブロンクスのステップは挑発するようでもあり、同時に攻撃の助走でもあった。
「それとも病み付きになっちまったか? なら──何度だってやってやるけどな」
 瞬間、スイングするように両足で敵の足元を払って勢いのまま旋回。回転力を増してヘッドスピンし、氷気を巻き込んだ蹴りを胸元へ叩き込んだ。
 呻く黒骸は真紀へ敵意を向ける。が、マティアスが同時に自身の機巧を駆動させていた。
「急冷モジュール起動確認、エネルギー供給完了済み。特殊コマンド、実行」
 冷たい空気が渦巻くのは、水蒸気をコアに集積させ、鋭い氷気へと至るまで急冷させていたからだ。まるで光が煌めくように、圧縮されたそれは白色を纏う。
「──凍てつけ」
 実行されたそれはBefehl”Schneesturm”。発射された氷気は光線のごとく飛来、胸を穿ちながらも表皮を広く凍結させていった。
 ぱり、ぱり、と蝕む氷に、巨躯は急速に弱っていく。それでも黒骸は抗うように、咆哮を上げて刺突を放ってきた。
 その一撃は、機械剣で逸らしても尚マティアスの体力を大幅に奪っていく。けれど同時にソールロッドが治癒魔術を行使していた。
「さあ、私の命を糧に」
 魔導書から召喚したのはぴよっと体を震わせる小さな雛。ぽーんと投擲されたそれは、マティアスに届く頃には体を包むほどの巨大なもこもこと化していた。
 羽毛が優しく覆うと、マティアスの体力は即時に回復。ハンナが疾駆して黒骸の眼前に迫っていた。
 四分が経った頃合い。過ぎる時間を意識してか、或いは戦いを好んでみせるその性格からか。ハンナは紅の瞳に好戦的な色を浮かべた。
「勢いをつけて行くぜ」
 瞬く眼光が夜に線を描くほどの高速な跳躍を見せると、頭部の先鋭化された形状を持つ槌を握った。
 それを槍の如く突き下ろすことで、黒骸の首元を穿って巨体を前傾にさせる。
 面前に立ちはだかっていた千翠はそこへ『破滅への呼び声』をかけていた。
「歪め。蝕め──」
 それは自身を蝕む呪詛と酷似した呪いを与える呪術。心を蝕み破滅に導く聲で、骸の精神さえ摩耗させて動きを鈍らせる。
 黒骸は苦悶しながらも剣を振り回した。が、セレナの剣閃がそれを弾き返す。
「無駄です。譲りはしませんよ」
 セレナが淡く光を帯びるのは、自身の肉体に魔力を巡らせたからだ。
 美しく輝く銀。それはセレナの振るう刃にまで伝わり、月の如き煌めきを生む。
 銀閃月──繰り出された剣撃は三日月のような流線を描き、巨体の腕を斬り飛ばした。
 時間は五分が過ぎ、六分に入る。
 白騎士の猛攻はあれど、ソールロッドや各々の対処が劣勢に陥らせない。時間を経る程にこちらの防備は固まり、反比例して黒骸は加速度的に体力を減らしていた。
 回収の気配も無い段階で、黒の巨躯は満身創痍。
 ただ、死に瀕した骸は戦う以外の事を知らない。命すら顧みず攻めてくるから、数汰もまた全力で相対した。
「そろそろ、終わりにしてやるよ」
 生み出されるのは巨大な魔法陣。それが輝くと、大気が流転し圧縮したグラビティが作り出されていく。
 気配に吼える黒骸。数汰は躊躇わず、その懐へ刃の一撃『時流変転』を打ち込んだ。
 注がれたグラビティは巨体の体内時間を加速させ、負傷を深めてゆく。致命となった苦痛は骸の体を崩壊させ、風に散らせていった。

●静謐
 漣の音が聞こえた。
 白騎士はそれに初めて気づいたように、場に静寂が満ちていた事を意識する。
 既に仲間は居らず単騎。それでも白騎士は愉快げだった。
「いいさ。これで邪魔もなく全力で戦えるってことだろう──!」
 刃を握りしめると、砂を散らして走り込んでくる。
 その眼前に数汰が跳んでいた。
「そういうことだ。だから負けねぇよ。俺だけじゃなく……俺たち全員が全力を出すんだからな!」
 旋風を纏い曲線を描く蹴り。
 数汰の加えた一撃に呻きながらも、白騎士は引かず刃を踊らせた。
「悪くないね。騎士として、君らのような強者を殺戮できるなんて光栄だよ!」
「──殺戮を好む騎士。そんなもの、私は認めません!」
 声と共に巨剣が阻まれる。セレナが正面から剣撃を受け止め、鍔迫り合っていた。
 至近で見合い、白騎士は微かに歯を噛む。
「敵を倒してこその、騎士だろう? それ以外の信念など不要だ」
「あなたがそう思うのだとしても。力無き者を守り、仲間の盾となり、剣となる──それが私の、騎士としての在り方です!」
 瞬間、氷の剣閃で袈裟に傷を刻み込む。
 白騎士はふらつきながらも、憤怒の剣風を放った。
 が、そこに目も眩むほどの光が満ちる。ソールロッドが攻性植物から黄金の燦めきを生み出していたのだ。
 果実から漂う芳香を、風の妖精達が広げるように仲間へ届けて傷を癒やしていく。
「夏には陽が昇り、秋には葉が色づいて落ちゆくもの。死すべき者が散っていったのならば──その仲間であるあなたもまた、同じです」
「そういうことだ。罪人は元懲罰部隊所属として、逃すわけにはいかねぇんだよ」
 千翠はファミリアロッドを翡翠色の小鳥の姿へ戻し、解き放っていた。
「碧、頼む!」
 一つ鳴いて宙を翔けてゆく碧は、巨躯を翻弄するように飛び回って斬撃を与える。
 血飛沫に鎧を染めながら、白騎士は反撃しようと剣を振りかざした。が、その手元をハンナの棍が打ち据えている。
 遅えよ、と。
「今まで膂力だけで武器を振り回してたんだろ? 弱ってくれば、差詰め木偶だよ」
 ハンナはその場で横に回転し、勢いを殺さず脇腹へ連撃を叩き込む。
 バランスを崩す巨体へ、マティアスが追いすがっていた。
「標的軌道、予測範囲内。脚装展開確認。近接攻撃、実行」
 靡く熱気は地獄の焔。獄炎を伴った蹴撃は鋭く、重く、白騎士を地に叩きつける。
 血を吐きながら、巨躯は起き上がりざまに炎撃を繰り出した。だが真紀は鎌の柄を軸に、ポールダンスめいた動きであしらってみせる。
 同時に斬撃を入れることで体力を奪い、瀕死に追い込んだ。
「あとは頼むぜ」
「了解、と」
 スウは手元で遊ばせるスイッチのボタンに触れる。
 朦朧とする白騎士は、最後までその輝く刃を振り回そうとした。それをも、爆風は吹き飛ばす。
「派手は好きだが。──厄介なのは俺だけにしといてくれよ」
 軽口と同時に重なる爆撃。煙が晴れる頃には、白騎士は千々に散って消滅していた。

 月夜に静けさが戻る。
 千翠は息をついて視線を巡らせていた。
「終わったな。皆、無事か?」
「ええ」
 剣を収めて頷くセレナ。盾役として体力を消費しながらも倒れるには至っていない。
 それはマティアスや、皆にしても同じ。
 結果として綿密な策戦による戦闘は敵の戦略や力を上回った。だからこそ、重い傷を負った者すらいなかった。
 ソールロッドはふわりと、少し柔らかい表情を作ってみせる。
「皆さんのおかげです。ありがとうございました」
「ああ……全員の力だ」
 マティアスの言葉には、皆も頷いていた。
 一度伸びをした真紀は見回す。
「コレで作戦終了だな」
「ああ。後は、ヒールだけしていこうか」
 数汰が荒れた地面の修復を始めれば、スウもそれを手伝いヒール。戦闘痕を消し去って、浜を美しい景色へと戻していた。
「さて。出来ることはこのくらいかね」
「じゃ、帰還といくか」
 ハンナが歩み出すと、皆もそれぞれに踏み出していく。
 静謐の降りた海には変わらず漣が立つ。ほんの少しだけ角度を変えた月は、それでも美しい光を波間に反射させていた。
 二度の剣戟を経たそこは、平和な空気に満ちていく。守ることの出来た景色を背に、ケルベロス達は帰るべき場所へと去っていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月12日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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