死哭

作者:朱乃天

 その場所はまるで天国を思わせるような、真白き雲の上。
 周りを見回せば、澄み渡った青がどこまでも果てしなく広がっていて。幻想的な空の世界の中心に、一人佇む少女の姿がそこにある。
 雲と同化するかのような純白の髪と肌の色。赤き光を放つ魔杖の耀きを、閉じた眸で視ていた時だった。
「――お待ちしていました、ジエストル殿」
 到着した客人に少女は薄く微笑みながら、丁重な言葉遣いで来訪者を招く。
「ところで此度の贄となるのは……そのドラゴンでしょうか」
「そうだ。お主の持つ魔杖と死神の力で、この者の定命化を消し去ってもらいたい」
 ジエストルと呼ばれたドラゴンは、少女の問いにうむと頷き肯定し、彼が引き連れてきたもう一体のドラゴンに、狂気の色を孕んだ視線を投げる。
 我が身を定命化に蝕まれ、脆弱して語る言葉すら失くした哀れな同胞。その者に、少女は憐憫の眼差しを向け、手を翳しながら宣告をする。
「これより、定命化に侵されし肉体の強制サルベージを行います。あなたという存在は消え去り、残されるのは、ただの抜け殻にすぎません。よろしいですね?」
 瀕死のドラゴンは、縋るような目で少女を見つめ、慟哭にも似た咆哮を、最後の生命の炎を燃やすが如く雲海中に響かせる。
 ――残り少ない我が命、ドラゴン種族の勝利の礎として欲しい、と。
 竜の声なき心の雄叫びを、少女の死神――『プロノエー』は黙して静かに聞き入れて。
 魔杖を頭上に掲げると、青く冷たい光を放つ魔法陣が出現し、ドラゴンは死と再生の光に包まれながら、苦悶の声と共に溶けて逝く。そして光は、新たな禁忌の生命を産み出した。
「……サルベージは成功、この獄混死龍ノゥテウームに、定命化部分は残っておりません」
 ですが――と、次の言葉を躊躇うプロノエー。
 生まれ変わった竜の姿は言うなれば、混沌の闇の成れの果て。ジエストルは少女の想いを代弁するように、声を重ねてその続きを言う。
「分かっている。この獄混死龍ノゥテウームはすぐに戦場に送ろう。その代わり――完成体の研究は急いでもらうぞ」
 実験は未だ完成には至らない。ならばこの落とし子は、せいぜい時間稼ぎになってくれればそれで良い。全ては、一刻も早く完成体に辿り着く為に――。

「緊急事態だよ。今すぐ、キミ達の力を貸してほしいんだ」
 ドラゴンが新たな事件を引き起こす。玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が招集したケルベロス達にそう告げる。
 予知で確認されたドラゴンの名は『獄混死龍ノゥテウーム』。
 襲撃までの時間は少なく、今からでは一般人の避難も間に合わない。従って、現地に着き次第、ノゥテウームを食い止め撃破する。それが唯一ケルベロス達にできることである。
「現場はとある地方の繁華街になるよ。今から急げば襲撃前にはどうにか到着できるから、キミ達は敵の迎撃だけに専念してほしいんだ」
 獄混死龍ノゥテウームは、骨の身体に炎と粘液じみた水を宿したドラゴンだ。
 知性はなく、ドラゴンとしては戦闘力も低めだが、それでも強敵である事には違いない。
 ノゥテウームの全長は10mほどで、熱く灼けつく炎と押し寄せる水の渦、そして骨の刃を振るって襲い掛かってくるようだ。
「でもこのドラゴンは、もう生きていられるような状態じゃなく、戦闘開始から8分くらいしか身が持たないみたいだよ」
 その8分を過ぎてしまうと、ノゥテウームは自ら命を断って死亡してしまうらしい。
 どうして自壊するのか理由は不明だが、おそらく実験体の可能性が高いとシュリは言う。
 ただし8分後に自壊する前に、戦いに敗北してしまうと一般人に多大な被害が生じるので油断だけは禁物だ。
 敵はこちらから戦闘を仕掛ければ、ケルベロスを排除しようと動くので、そうして注意を引き付ければ問題ない。
 しかしケルベロスに脅威がないと判断すれば、市街地の襲撃に向かう危険性もある。特に相手の自壊を待って守りに入った戦い方をすれば、その確率は極めて高くなるだろう。
 敵に脅威を与える為にどう立ち回るのか、戦い方への工夫も必要だとシュリは付け加え、ひと通りの説明を伝え終えると思案するかのように呟いた。
「ドラゴン達が何を考えているのか分からないけど……どうも裏では良からぬことが起きているような、そんな気がするんだ」
 だからキミ達も、十分気を付けて……そうケルベロス達の身を案じるように声を掛け、戦地に赴く彼等の背中を見送るのであった。


参加者
アリッサ・イデア(夢亡き月茨・e00220)
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)
鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)
茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
アトリ・セトリ(エアリーレイダー・e21602)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)

■リプレイ


 定命化に冒されて、死神の力によって新たに生まれ変わったドラゴンだった『モノ』。
 その身を鎧う肉は削げ落ちて、骨が剥き出しになった屍のような姿に変わり果てていて。
 僅かな生を得た代償として、知性も理性も失われ、哀れな死に損ないの竜にできるのは、我が身を犠牲に人間達の生命を奪うことのみだ。
 ――全てはドラゴン種族の勝利の礎として。
 獄混死龍の悲痛なまでの咆哮が、多くの人で賑わう市街地の空に木霊する。
 捨て身の覚悟で街に特攻してくるドラゴンを、塞き止めようと地獄の番犬達が迎え撃つ。
「罪無き人を道連れに、自爆突撃なんてやらせない! ここから先は私達が相手だよ!」
 開口一番、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)が気炎を上げて獄混死龍と対峙する。
 華やかなる着物を身に纏い、艶めくように振る舞えば。全身からは光の粒子が溢れ出し、思いを乗せて仲間の戦闘感覚を研ぎ澄ます。
「――身内にチャカを向ける無礼、ご容赦下せえ」
 こちらは着流し姿の黒猫ウェアライダー、茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)が愛用の銃を仲間に向けて突き付ける。
 弾倉に籠めた弾丸一発、銃声響かせ撃ち込めば。閉じ込めた月の魔力が開封し、身体に内包している眠りし力を呼び醒ます。
「ドラゴン達がどんな悪巧みをしても、向かう先にケルベロス有り、ってね」
 左右非対称の不揃いな翅を背に、鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)は円や三毛乃が付与した力を纏って獄混死龍に斬りかかる。
 黄金に咲く紫の短剣片手に、さよなら――と、挨拶代わりに捧げるのは無慈悲な餞別で。稲妻状に変形させた刃で以て、竜の骨の身体を掻き抉る。
「どんな悪趣味な実験かは知らねェが、悪巧みの邪魔はしたくなるのが性ってヤツだよな」
 間髪を容れず戦場を駆ける影。ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)が、高く跳躍しながら風に乗り、重力宿した蹴りを骨のドラゴン目掛けて炸裂させる。
「姿を変えてまで同族の為に……執念深さを感じるね。何にせよ、ここで食い止めないと」
 生命の危機に瀕しているにも関わらず、己を厭わず特攻してくるノゥテウーム。
 アトリ・セトリ(エアリーレイダー・e21602)は以前に戦ったことのある、凍てる氷の竜の姿を獄混死龍に重ね見る。
 そして当時と同様に、この戦いも決して負ける訳にはいかないと。黒い鎖の束を伸ばし、ノゥテウームの巨体を捕えて絡ませ、逃さないよう締め上げる。
「ドラゴン達が何をしようとしてるか知らねえけど、多大な被害なんか出させねえ」
 アトリの縛鎖が獄混死龍を抑えつけている。その隙を突き、ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)が身の丈よりも大きい巨鎚を担いで狙いを定め、竜が猛るが如き号砲轟く砲撃を、獄混死龍に撃ち当てる。
「グオオオオォォッッ……!!」
 番犬達の思わぬ襲撃に、行く手を阻む彼等を獄混死龍は殺意を孕んだ眼窩で睨め付ける。
 身体に宿した混沌の水が放射され、粘液じみた水が渦を巻き、番犬達は渦に呑み込まれて動きが鈍る。
「そうはさせないよ! わたしの癒しのパワーで、みんなを守るんだ!」
 回復役の火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)が、前衛陣に向けて魔力を籠めた手を翳す。
『――例えば素敵な王子様を見つけたら、女の子の視界は光り輝く』
 少女の見えざる白魚の手が、そっと優しく目を撫でる。すると視界を遮る澱んだ水は消え去って、がらりと景色が澄み渡る。
 開けた道を邪魔するモノは、誰もいない。素敵なダンスパートナーはすぐ目の前にいる、だから誘ってみてご覧――そうすれば、望みは必ず手に届くから。
「ならば掴み取るまでね。絶望の先にある、希望という名の勝利の道を」
 ひなみくの不思議な力によって、押し寄せる混沌の水が引いていく。
 アリッサ・イデア(夢亡き月茨・e00220)の語る言葉は穏やかなれど、芯の強さを秘めていて。蔓薔薇の形を成したオウガメタルを翼に纏って獄混死龍に接近し、闇を切り裂くように鬼迫を籠めた鋼の手刀を叩き込む。
 ノゥテウームがこの世に留まることのできる時間は、僅かに8分。相手が自壊をすると分かっている以上、それを待つのも手であろう。しかし彼等の選択は、自らの手で引導を渡すこと。
 ケルベロス達はドラゴン相手であろうと微塵も臆することはなく。完全撃破を目標に、互いに力を合わせて敢然と立ち向かうのだった――。


 繁華街を襲撃しようとするノゥテウームの注意を引き付けようと、積極的に攻勢を掛けるケルベロス達。そうして相手に脅威を与えることこそが、一般人を守る最善策である。
「この間の活きの良いトカゲに比べりゃァ、今度のヤツは可愛いモンさ。何せ死に体だからな……と、おっとコイツは前言撤回だぜ」
 お道化るような口振りでダレンが思い出したのは、熊本城での大戦前に、侵空竜と交えた一戦だろうか。あの時は纏を見送るだけで精一杯だった、しかし今度は一緒に倒してみせると、強い決意で太刀を握って気合を込める。
「ふふ、その蜥蜴さんと真っ向勝負して、痛い目に合った癖に。でもそうね……」
 纏も当時のことを振り返り、あの日と同様に、彼と戦えることを頼もしく思ってチラリと後ろに視線を送る。
 ――今日は、置いてなど行かないから。
 心の中で秘めやかに、囁く誓いを魔力に変換、翼を羽搏かせて高々と翔ぶ。
「一番前で対峙するお嫁さんのカッコいーい姿を、とくとご覧あそばせ!」
 ルーンの力を帯びた木切り斧。纏は獄混死龍の頭上に達すると、ソレを相手の脳天目掛けて振り下ろす。邪悪な竜の呪いを、仮初めの生を、無慈悲に断って、絶つ為に。
 そこへダレンが飛び込んで、空の霊力宿した刃を抜いて。揺らめく陽炎さえも切り裂く太刀筋が、傷を重ね広げるように刻まれる。
「化猫任侠黒斑一家家長、茶斑三毛乃。三途を往くにゃァ渡しが入り用かと存じやす」
 三毛乃の右腕に装着された鉄杭が、螺旋の力でうねりを上げて高速回転。雪さえ退く凍気を纏い、生命の流れを凍結させる巨大な杭が、獄混死龍の骨の身体を刳り貫き穿つ。
「……六文銭は、奢ってやりまさァ」
 腕に伝わる手応えにも、三毛乃は笑みを漏らさない。寡黙な女傑はただ粛々と、次の一手に備えて身構える。
 ケルベロス達は攻撃を緩めることなく、手数で押して攻め立てる。しかし対する獄混死龍も反撃し、群がる番犬達を炎の息吹で灼き尽くそうとする。
「わたしが前にいる以上、ここから先へは通させないわ」
 燃え盛る竜の炎が迫り来る。だが護り手を担うアリッサが、咄嗟に割り込み仲間を庇う。そしてビハインドのリトヴァが敵の背後に回り込み、掌で竜の身体に触れて衝撃波を放つ。
「ひなみくちゃん! 一緒に治療をお願いするよ!」
「うん、円ちゃん! わたし達でみんなを支えよう!」
 円とひなみくの、二人の回復役がすぐさま癒しの術を行使する。円の全身から濃縮されたサキュバスの気が、桃色の霧となってアリッサを守るように包み込む。
 片やひなみくは、翼を広げて光の幕を展開し、護りを固めるサーヴァント達の傷を癒す。
「誰一人として、やらせはしないよ」
 アトリは嘗て、デウスエクスに故郷も家族も奪われた。だからこそ、身近で起こる悲劇だけでも自らの手で阻止したい。
 誰にも悲しい思いをさせまいと。アトリが脚に理力を籠めて、魔法の靴から繰り出す蹴りは、描く軌道に漆黒の星が煌めきながら獄混死龍の巨体を打ち付ける。
「そっちも必死だろうけど……オレ達だって必死なんだ!」
 ラルバもまた、師と仰いだ人物をデウスエクスに殺された過去を持つ。大切な人に命を護られたから今があり、師から伝承された降魔の術は、仲間や多くの人の笑顔を護る為――。
「――宿れ神風、轟き吹き抜け切り刻め!」
 降魔の力と風の御業を融合させた、ラルバ独自のグラビティ。更に自身の魔力を練り合わせ、両の掌から増幅させた力を一気に放つ。
 吹きつける突風は、竜の身体の傷を一層深く抉り裂き。神風が起こしたような爪痕残し、ドラゴニアンの少年は、してやったりと満足そうに笑うのだった。

 やがて戦闘時間を計測していたひなみくが、経過を知らせる笛の音を鳴らす。それは作戦開始から、半分の4分を回った合図。折り返しを過ぎて、彼等に残された時間は後4分だ。
 万全の態勢で、策を講じて臨んだケルベロス達。互いの力を信じ合い、自分の役目に徹することで、ドラゴン相手に互角の勝負を繰り広げ、被害を最小限に凌いで乗り越えてきた。
 死に物狂いで襲い掛かってくるノゥテウームにも、地獄の番犬達は更なる闘志を奮い立たせて対抗し、戦いの流れを引き寄せようとする。
「多少は効いているんでございやしょう。徐々に焦っているのが見て取れやす」
 三毛乃の閉じた右目から、赤い火の粉がチリチリと、力を抑え切れない具合に零れ出る。
 相手の能力を、現状における損傷度合を見極めようと目を眇め。黒い残滓を槍として、鋭く放った突きが竜の内部を侵食させていく。
「余所見する暇等あげない位、わたし達、本気よ」
 敵に付け入る隙を与えぬよう、続けて纏が呪詛の刃を奔らせ追い討ちを掛ける。
「ガアアアァァッッ……!!」
 ノゥテウームは怒りと苛立ちを露わに雄叫び上げて、骨で構成された剣を薙ぐ。
 獄混死龍の骨の刃が纏を襲う。その時アリッサが、纏を遮るように盾となり、身を挺して竜の刃を受け止める。
「くっ……!? でも、この程度で倒れてなんて……あげないわ」
 細身の四肢に圧し掛かる重い一撃も、踏み止まって耐え抜いて。アリッサの紫水晶色の瞳が濃さを増し、魔力を集めて練り上げる。
「Hen le ariet,cus Ren le ariet――奏で、詠い、響き、廻れ」
 唄うように詠唱される呪文。茨の魔女が響き奏でる旋律に、淡紫の薔薇の影が舞う。
 ――それは、女王の愛した奏花。
 幻夢の様に儚く消える薔薇の花弁が、御身に熔け込むように降り注ぐ。痛みを温もりに変える癒しの力に、アリッサは微笑み浮かべて獄混死龍に目を向ける。
 彼女の瞳に宿る強い耀きは、心の裡の静かな焔を映し出していた――。


 戦いは佳境に差し掛かり、6分間を過ぎて残りは後2分のみとなる。
 ケルベロス達は奮闘目覚ましく、ここまで一人も倒れる者なく竜の脅威に耐えてきた。
「タカラバコちゃん、無事に終わったらペロキャンあげるから、仲間の為に頑張って!」
「蓬莱! 責任重大だよっ、街も人も私達も……皆を守ってあげて!」
 ひなみくと円がサーヴァントにそれぞれ指示を出し、骨だらけの竜を噛みついたり引っ掻いたりして積極果敢に加勢する。
「キヌサヤ、こっちも合わせるよ」
 アトリの呼び掛けに、従者のウイングキャットが応えるように敵に向かって飛び掛かる。
 尻尾のリングを投げ飛ばし、ノゥテウームの意識が一瞬逸れたその隙に、アトリが疾走しながら大きく跳ねる。そして両脚に、影の刃を宿して急降下する。
「冥く鋭き影、猛禽の剛爪の如く――刺し貫く!」
 その姿は猛禽類の如く、狙った獲物を逃さず捕え。敵を裂き、着地と共に影を自身の脚元へ。溶け行く影は獄混死龍の影と同化して、無数の昏き爪と化し、空へと伸びて竜の巨体を串刺しにする。
「グギギ……グワアアアァァッッ……!!」
 定命化に蝕まれた竜に掛かった禁忌の魔法。仮初めの生命の制限時間が、いよいよ迫る。
 守りに入ることなく終始攻め続ける番犬達の怒濤の猛攻に、力を殺がれて追い詰められるノゥテウーム。
 このまま黙って死を待つよりも、せめて一人だけでも道連れに――理性を失くせど、戦闘種族としての本能が、絶命間近の竜の闘争心を滾らせる。
 吹き荒れる紅蓮の炎が前衛陣を巻き込んで、獄混死龍の決死の執念に、三体のサーヴァント達が倒れて力尽きてしまう。
「後もう一息なんだ。死に損ないのドラゴンなんかに負けてたまるかよ!」
 ラルバが吼え猛るように突進し、竜の力を鎚に籠め、生命進化を凍結させる超重力の打撃を見舞わせる。その衝撃に獄混死龍の巨体が大きく傾ぐ。直後に最後の1分を、総攻撃を知らせる笛が鳴り、ラルバは瀕死の竜を一瞥しながら、大きく息を吸い込み気を引き締める。

「地獄の閻魔も待ちくたびれてるようで。そろそろケジメをつけやしょう」
 閉じた三毛乃の右目が開眼し、眼窩に灯る赤い地獄の炎が噴き上がる。
 棚引く炎は左手のライフル銃に伝って熱を帯び、正面から躊躇うことなく距離を詰め、派手に火を吹く炎の弾が、竜の身体を骨の髄まで灼き焦がす。
「わたしも攻撃に加わるよ! たらふく食らえ! なんだよ!」
 これが最後の総攻撃と、ひなみくも攻め手に回って矢を番え、心も凍てつくような時空を止める矢を放ち、一直線にノゥテウームの胸を撃ち抜いた。
「アリッサちゃん、せーのでいっくよー!」
「ええ、行きましょうマドカ」
 流れに乗じて一気に畳み掛けようと、円とアリッサが、息を合わせて同時に動く。
 アリッサの発する呪力に黒い半月斧が共鳴し、装飾された朱色の花が光を纏い、振り抜く刃は血に染まり、呪いに塗れて、薄く笑む。
 次いで円が掲げるは、伝説上に存在すると云われる月竜を 模した三日月型の竜鱗だ。
 黄金の加護を纏いし鱗を投擲し、眩い光が魅せる幻惑に、獄混死龍は身体が麻痺したように動かなくなってしまう。
 後は手負いの竜に止めの一撃を――ダレンは青い瞳に纏を映して目配せし、すかさず敵の懐へと潜り込む。
「正義の鉄槌、受けてみよ! ……なんてね!」
 胸に抱いた正義の心を、具現化させた光の剣を握り締めるダレン。光の強さは彼の思いを顕していて、迷いのない、澄んだ光は悪しき力を討ち祓う。
 ダレンが繰り出す一閃は、峻烈なる光を散らして軌跡を描き、獄混死龍の罪の枷を断つ。
 ノゥテウームの骨の全身が、重力に引かれるように崩れ落ちていく。終焉の時が近付き、朽ち果てようとするドラゴンに、纏はせめて手向けの花をと、願う想いを魔力に注ぐ。
「――恋せしも 芽吹く想いに 花れ逝く 綻ぶ蕾 鮮やかなれど」
 柔らかな陽射しのような淡い光が空から漏れて、崩壊していく竜の骸を照らし出す。
 息絶えて、土へと還る亡骸に、種を蒔き、蕾が芽吹いて花咲かせ。廻り色づく花達に、風が吹き抜け花弁が舞って散っていく。
 生命の終わりは儚くて、死に逝く獄混死龍の魂に、どうか安らかなれと心の中で囁いて。
 『あなた』を悼む想いを餞に――祈りを捧げるようにして、纏は竜の最期を見届けた。

 斯くして8分間に渡る激闘は、ケルベロス達の完全勝利で幕が閉じられる。
 激しい剣戟の音は止み、戦い終えた戦場に、静かな空気が舞い戻る。
 彼等の思いはそれぞれではあるが、今は唯、人々の尊い命が守られたことに安堵しつつ、勝利の余韻に浸るのだった――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。