秋の山と円盤に乗った忍

作者:沙羅衝

「ここは、自然が豊かな所ね……」
 四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)はそう言いながら、目の前に広がる山を見た。山々の起伏が緑に覆われ、日の光により陰影をつける。しかし、夏のような強烈な光の反射ではなく、あくまでも柔らかく色を映し出している。
「……温泉。良いかもしれないわね」
 秋の空気を感じながら、玲斗は一人スマートフォンの画像を見て頷いた。
 ここは京都府の丹後半島。舟屋で有名な伊根よりも奥深い場所。お世辞にも都会とは言えない場所。だが、静かで、広大な自然が彼女を迎え入れてくれていた。
 玲斗は近場にある一軒の温泉をスマートフォンの地図に展開し、GPSを頼りにそこへと足を進めていく。ゆっくりと、土を踏みしめるように。
 彼女は特に意味があってこの地に来たという訳ではなかった。神職見習いと薬剤師。そしてケルベロス。そんな毎日が嫌になった訳でもない。ただ、休暇を必要としていたのかもしれない。見知らぬ土地での自然とのふれあいは、彼女の心をリセットする事には事欠かなかった。例えそれが、少しの時間だとしても。
「ここから、そう遠くないようね……」
 玲斗の目線の先には、アスファルトで出来た片側一車線の道路が、木々の間から見えていた。もう少しで人が作った人工物が見えてくるだろう。
「!?」
 その時、傍にある少し大きな木に手をかけると、不思議な感覚が彼女を襲った。
 もう一つ遠くの木の陰に、何者かが居る。
 危険の感覚と、蘇る記憶。
(「まさか……!」)
 彼女は愛用の小太刀を懐から取り出し、逆手に構える。
 だが、その一瞬でその気配は視線の先から消える。
(「気のせい……」)
 そう思った時、視界の端にキラリとした光が見えた。
 ドッ!
 彼女は咄嗟に飛びあがり、それを避ける。
 土が舞い上がり、彼女の居た場所が抉れ取られていた。
「こんな所で出会うとは、考えてもいなかったかしら……」
 着地した玲斗は、ついにその姿を捉えた。木々の間に、円盤のような金属に乗って浮かぶその人物を見て、彼女はそう言ったのだった。

「皆、大変や! 四条・玲斗ちゃんが、京都府の山の中でデウスエクスに襲われる事がわかってん!」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、リコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)と共に、ケルベロス達の前に飛び込んできた。
「どうも、玲斗とは連絡が取れない状況みたいだ。皆、急いで助けにいくぞ!」
 リコスがそう言うと、ケルベロス達は頷いた。
「まず、わかってる情報からや。彼女を襲ってくる相手は、螺旋忍軍『シルバーボウル』。金属で出来た円盤に乗って、遊撃戦を仕掛けてくる相手みたいやな。鏡のように反射する金属から、実体化させたグラビティを放ってくるで」
「金属?」
「せや、どうも様々な金属にいろんなモンを映し出してな、こっちを翻弄するのが得意みたいや。金属はなんでもええって訳やない見たいやし、皆の武器とかが武器に使われる事はないけど、シルバーボウル自体がその金属を作り出す事が出来るみたいやから、今回はそれに映し出してくるやろ。
 んで、分かっている攻撃方法は、氷の刃と、捕縛、そんで足止めの剣。これを多人数に使用してくるから、気をつけてな。
 あとや、現場は山中や。木と木の間に隠れながら、攻撃を打ち込んでくるし、素早い。その辺の対策も考えんとな」
 絹はそう言って、ケルベロス達に頷く。
「今から行けば救出可能や。頼んだで!」
 こうしてケルベロス達は、ヘリオンに乗り込んで行ったのだった。


参加者
ギル・ガーランド(義憤の竜人・e00606)
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)
ククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)
東雲・凛(角なしの龍忍者・e10112)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
エリザベス・ナイツ(目指せ一番星・e45135)

■リプレイ

●静寂
 ザザッ……。
 木の陰に隠れ、先程相対した敵の様子を窺う四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)。辺りは静まり返り、少しの物音も聞こえない。だが、ちらりと視線を移した先には、抉り取られた地面だ。気は抜けない。
「!?」
 すると、視界の隅にキラリと反射した光が映った。
 即座に反応し、体をよじる玲斗。だが、その体の周囲に、氷で出来た刃が突き刺さる。
「……く!」
 その痛みに耐えながら、無理矢理その刃を振り払い、刃と反対方向にある大きな木の陰へと跳躍し、身を潜める。再び襲う静寂。その静寂は歴戦のケルベロスで無ければ、恐怖心を駆り立てるのには十分すぎる効果があるだろう。
(「……ここでは、相手のほうに分があるようね」)
 玲斗はそう感じると、山道の隙間から見える道路に視線を向ける。さほど距離はない。四条家伝来の小太刀『光陰逝水』を左手で握り、右手で血の滴る傷口に、強いショックを与えた。
 するとまた、視界の隅に光が見える。今度は頭上だ。突如として現れた鏡のような球体。それが矩形の板に姿を変える。その鏡に映し出されているのは、自らの姿と複数の剣だった。その剣がズルリとこちら側に伸び、鏡から抜け出すように具現化を始める。
 ドドドドド!!
 勢い良くその剣が雨の様に降り注ぎ、地面に突き刺さっていく。
 その雨をかろうじてかわした玲斗は、意を決して踵を返し、道路のほうへと向かい、脚に力を入れた。
「!!」
 だが突如、目の前に敵『シルバーボウル』が姿を現した。大きな球体の仮面が頭を覆っているため、その表情は分からない。代わりといわんばかりの落書きのように描かれた顔が、無表情に嗤う。
「家の蔵から書を盗んでいったとき以来かしらね。目的はわからないけれども、襲ってくる以上は抗わせてもらうわ」
 これまでか。彼女はそう感じたのかもしれない。自らの劣勢は明らかだった。彼女の発した言葉は、意志でもあり、ハッタリでもあった。少しでも時間を稼ぐことが出来れば……。そうすればきっと……。

 彼女はその考えを信じた。
 信じる事が、何よりも大切であると知っているから。
 そしてその信念が間違っていないという事を実感するのには、幾秒もかからなかった。

 バキバキバキ!!!
 上空から木々を切り倒し、何かが墜ちて来る。
 その音を聞き、玲斗は少し目を瞑って安堵の笑みを浮かべたのだった。
「行きます!」
 東雲・凛(角なしの龍忍者・e10112)が日本刀『龍牙刀』に螺旋の力を纏わせて、シルバーボウルへと落下と共に切りかかる。
『この一撃で…沈め!!』
 彼女の着地で、水分を含み柔らかくなっている土が舞い上がる。
 シュッ!!
 だが、シルバーボウルは凛の刀を、姿をかき消すように避ける。
「エリザベス、参上よ! 助太刀に来たわー」
 ドゥン!!
 続けてエリザベス・ナイツ(目指せ一番星・e45135)が、集中したグラビティを爆破させる。しかし先程と同じく、その力が晴れた先には既に敵の姿は無い。敵の動きは速く、隣の木の幹付近へと移動している事がわかる。
 そこに、ケルベロスチェインが出現する。シルバーボウルを捕らえようと、グルグルとスピードを上げながら木の周囲を回り、一気に締め上げる。
 ギン!!
 金属音が森に響き渡るが、その木にシルバーボウルは居ない。
「話に聞いた通り、早いね。でもこれ以上はダウトだよ。戦友を失うわけにはいかない」
 そう言って姿を現したのは、ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)。彼は放ったチェインを素早く手元に戻しながら、ベルトの『プリズムファクター』にチェーンキーを差し込み、回す。すると、CHAINコートに虹色の鎖が重なり始める。
「仮面ライダーチェイン・プリズム、今参上した!」
「うおおおぉぉぉ!!」
 ライゼルの位置を見届けたギル・ガーランド(義憤の竜人・e00606)が、額に聳え立つ一本角を前面に押し出して突進する。
 そしてその突進してくるギルの反対方向から、突如として赤い光のラインが入ったチェーンソー剣がシルバーボウルを捕らえる。
『データアクセス『ドワーフ』!壊・震・撃イィィッッ!!』
 ガツッ!!
「同じウィッチドクターを、こんなとこで死なせるわけにはいかないんでなァ!
 逆にこんなとこで死んでもらうぜェ!シルバーボウル!!」
 ギルの角とククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)のチェーンソー剣が、そのまま次の攻撃へと準備していたシルバーボウルの球体を弾き、体を吹き飛ばした。
『どうだ。俺のは...デカくて、硬くて、痛いだろうがぁ!』
 勝ち誇った笑みを浮かべ、挑発するギル。
「何とか、ギリギリ足りている状態だな。ならば……」
 鋼・柳司(雷華戴天・e19340)がその攻撃の様子を冷静に判断、演算を行い。自らの行動を選択する。彼の出した答えは、命中の足りていない前衛に対しての援護だった。機械化した左腕を露出させ、オウガ粒子を放出させ、ギル、ライゼル、凛、そしてエリザベスに付与していく。
「四条、大丈夫だったかしら? それに、温泉行くって聞いたわ。いいわね。一緒してもいいかしら」
「微力ですが、自分も全力でサポートさせていただきます……!」
 そう言って玲斗の隣に現れたのは、黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)と玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)。ライゼルを含み、戦いを共にしたことがある仲間だ。ユウマは玲斗の無事を確認した後、ライゼルとギルと肩を並べた。
「リコス、援護お願いできる?」
「任せろ」
 するとリコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)が、玲斗を中心にオウガ粒子を浮かべていく。同時に玲斗の隣で、ギルのボクスドラゴン『リウ』が属性の力を与える。
「みんな、……有難う」
 自分が信じた仲間。こんなにも力強い事。心強い事。その事に感謝しながら、玲斗は立ち上がった。そして舞彩の問いに、こう返すのだった。
「そうね。早く片付けて、予定通り休暇を楽しみに行きたい所ね」
 と。
 先程のまでの静寂は、もう何処かに行ってしまっていた。

●撹乱と捕縛
 エリザベスが両腕に構えた二本のゾディアックソードを十字に振り下ろす。
 シュッ!!
 だが風を切る音と共に、シルバーボウルは眼前から消える。その瞬間、周りの木々にまた鏡の板が出現したと思うと、映し出された枝が伸び、前衛のケルベロス達を襲う。
 その攻撃を見たギルと、ライゼルが同時に動く。自らに向かってきた枝は、それぞれの武器でいなし、凛とエリザベスに伸びる枝を掴み取った。
 その掌はグラビティによって硬質化した枝により切り裂かれるが、二人はそれを意に介しはしない。
「俺の身体にすっぽり隠れられるならそうしとけ。オッサンが受け止めるからよ」
 ギルはそう言って、凛にむけて笑う。
「有難う御座います。では私は、私の仕事に専念いたします」
 凛は少しだけ笑い返し、龍牙刀を大きく弧を描くように振るう。しかし、またその攻撃は空を切った。
「ギル、こちらの人数が多いとは言え、念には念をいれよう」
「そうだな……。そうしよう」
 ライゼルはギルにそう言い、オウガ粒子を展開し始める。それに応えるように紙兵を撒くギル。
 ケルベロス達は決して焦る事は無かった。相手の動きは素早く、此方を翻弄してくるが、それに乗って此方が冷静さを欠いてしまえば事を仕損じるからだ。

 ククロイが、木々のしなりを利用して跳躍する。そして、シルバーボウルの動きを予測し、飛び込んだ。
「地に堕ちろォ!」
 重力を載せた蹴りを、エアシューズ『オーバーズ』に籠める。
 ギン!!
 金属のような響きが、森全体にこだまする。
 ドゴ!!
 ククロイの蹴りがまともにヒットし、シルバーボウルは地面に叩きつけられる。
「残念。トリッキーなのは貴方だけではないの」
 そこへ舞彩が、狙い済ませたように猟犬と化した鎖をシルバーボウルの足元に食らいつかせ、縛る。
「地獄の番犬を襲ってただで済むとは思わぬことだな」
 柳司はそう言葉をなげつつも、今度は後衛へと紙兵をばら撒く。彼の計算が、これで形勢が崩れることは無いとはじき出す。
 ケルベロス達の救援により、玲斗の劣勢は跳ね返され、一気に逆転していた。
「一つだけ、質問するわ」
 そこに玲斗が、問いかける。
「状況が判断できるなら、理解できると思うのだけれど。この状況は貴方に不利になっていると思うわ。どう? この星のルールを守ってくれるのなら、こちらも争う理由はないのだけれど……」
 だが、シルバーボウルはそれに答えず、円盤の力を使って少しよろめきながら浮かび上がっていく。
「そう。残念ね」
 玲斗はそう言いながら、己を中心として、感覚を研ぎ澄ます光を産み出していく。
『光以て、現れよ。』

●この星のルール
 よろよろとした動きの中、シルバーボウルは目の前のギルへと球体を出現させる。既に先程までの速度ではない。ただその動きは、敵を屠るためだけに行動されているようだった。
「おらぁ!!」
 しかしギルはその球体を、その自慢の角に魂を喰らう降魔を集中させ、頭突き以って相殺する。
『雷華戴天流、絶招が一つ……紫電一閃!!』
 柳司がその弾かれた球体を見て、一気に距離を詰める。体から沸き起こるエネルギーを手刀に集中させ、無駄の無い動きで紫の雷刃を生み出す。
 ズバア!!
 柳司の手刀が、シルバーボウルの円盤を紙のように切り裂く。
「今ならそいつの動きを見切れるだろう。往け!」
 柳司の言葉に、凛が動く。沢山のオウガの力を借り、研ぎ澄まされた切っ先をシルバーボウルへと導く。
『この一撃で…沈め!!』
 螺旋の力を得た凛の刀が円盤を切り刻むと、同時に衝撃波が生まれ、その衝撃と同時にシルバーボウルの円盤が音を立てて割れる。すると、宙に浮いていたシルバーボウルが地へと墜ち始めた。
「ふん!!」
『畳みかけましょう…!』
 そこへリコスが釘をはやしたエクスカリバールをフルスイングし、ユウマが大剣を叩き付ける。
 その衝撃で、シルバーボウルは再度空中へと打ち上げられる。そこへ地から舞彩が駆け、天からエリザベスが舞い、急降下する。
『竜殺しの大剣。地獄の炎を、闘気の雷を纏い二刀で放つ!』
『一撃必殺を受けてみなさいっ!』
 舞彩の二刀が切り上げ、エリザベスがゾディアックソード『月光』渾身の力と共に振り下ろされる。
「ぐ……ぉ……」
 三つの刃に身体を砕かれ、苦悶の声が聞こえてきた。だがケルベロス達は力を緩める事は無かった。
「この世から切除してやるよォ!!」
 決して逃がしはしないと、シルバーボウルの退路を断つかのごとく、死角からククロイがチェーンソー剣『モディファイズ』をシルバーボウルの身体に突き刺し、強引に引き裂く。ククロイの剣は、確実にその装甲部分を切り裂いていた。
「行くよボルトさん!」
 ライゼルがオウガメタル『メタル・チェインボルト』に呼びかける。すると彼の拳に鋼の鬼が現れる。
「ライダー……パンチッ!」
 その拳が、最後の武装と思われたシルバーボウルの周囲に張り付いている球体を、全て打ち砕いていく。
 ドサ……。
 力なく、地面に落下し、動くことが出来ないシルバーボウル。
「もう一度だけ、質問するわ」
 玲斗がそれでも問う。
「この星のルールを、守つもりはあるのかしら?」
 だが、その声にはやはり答えず、グラビティを集中し、己の武装を作り出そうとする。
「そう。残念ね」
 玲斗は少し前と同じ言葉を言うと、小太刀をゆっくりと動かし、弧を描く。その舞う様な動きの行き着く先は、シルバーボウルの身体であった。
 ズ……。
 その切り口が敵の身体を二つに分ける。すると、シルバーボウルは空気に溶けるように、霧散していったのだった。

 かぽーん。
「湯は古来より、万病に効くって言う話もある。何にせよ、皆お疲れ様だぜ」
 ククロイはそう言って、目の前の崖を見る。高さは4、5メートルは在るだろうか。その崖から源泉駆け流しの湯が伝い、湯船をひたしていた。
 温度は少し熱いが、外は既に夜。涼しくなった空気と相まってちょうどいい。
 ケルベロス達は敵を倒した後に、玲斗が見つけたという宿も頼むことが出来る温泉へと来ていた。
 どうやら部屋も空いており、この後は蟹のフルコースが待っていると言う。
「月もまた、見事なものだな」
 柳司はそう言って、月を見上げる。湯煙が少し風に揺れ、風情良く、虫の声も響いてきた。そこへ、リウがぷかぷかと浮いてきた。どうやら気に入っているようで、主人のギルもまた機嫌が良いようだ。ただそれでも、今日の敵を思い起こす。
「ったく、色んな奴が居るもんだ。デウスエクスってやつぁ……」
「そういえば、あの円盤。ちょっと興味あったかな……。ボクも飛べたらなってさ。消えちゃったから仕方ないけどね」
 そこへライゼルが入ってくる。ふと見ると、ユウマが内湯でまったりしている所が見えた。
 薬湯の香りを運んでくるゆるりとした風が、ケルベロス達を癒していく。

 かぽーん。
 そしてこっちは女湯である。女湯のほうは男湯と違い、広めの露天風呂となっていた。どうやら日替わりで男湯女湯が入れ替わるらしく、湯が好きなケルベロスは明日の朝に別の湯に入るつもりだった。
 そして、おまちかねの女子の入浴シーン。……など、色気のあるものはなく。エリザベス楽しすぎてのぼせ、凛はエリザベスを団扇であおぎながらけらけらと笑っている。リコスは腹が減った、蟹蟹! という言葉と共にさっさと上がろうと言うし、その度に舞彩はもう少し、情緒っていうものを……と、ため息を吐く。
 そして極めつけは、男湯から、滴り落ちる湯の音の隙間から聞こえてきてしまった声。
『そうだライゼル。ちょっと比べてみな……』
『フフ……。後悔する事にな……』
 舞彩は、もう! と言いながら、湯をばしゃんと叩く。折角の風情も台無しである。
「こんな事になるとは、思っても見なかったわ」
 それでも、玲斗は楽しそうであった。
 一人で訪れるはずだったが、仲間と一緒という事もまた、楽しく、心を浄化していく。
 命を狙われた後だが、生の喜びを実感するひとときでもあった。

 この星のルールと彼女は言った。
 デウスエクス達は、未だに地球を襲う。それは、彼女の言うルールからは逸脱する行為なのだろう。
「もう一度、みんなに感謝を言わなければいけないわね。……有難う」
 玲斗は改まってそう言うと、仲間達はにっこりと笑顔を返した。
 月明かりが、玲斗を照らし出す。濡れたブロンドのウェーブヘアから、雫が湯に落ちて波紋を広げると、きらきらとした光を反射し、湯煙がまた漂う。
 舞う湯煙が、この星の一部である事を実感しながら、ケルベロス達は湯に身を任せたのだった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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