ファクトリア突入作戦~ガイアがもっと輝けと囁いてる

作者:秋月きり

「みんな、落ち着いて聞いて欲しい」
 神無月の頃合。ヘリポートにケルベロス達を迎え入れたリーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の声は、幾らか、抑え気味のトーンで紡がれていた。
「海底基地破壊作戦の成功。そしてみんなが逐次解決していったライドロイド事件。この二つを解決に導いた事で、ダモクレスの基地に大きな打撃を与えたようなの」
 9月に起きた海底基地破壊と、その後の資材奪取の阻止。それはダモクレス達に痛恨の一撃となったようだ。
 更に、とリーシャは言葉を続ける。それはケルベロス達にとっての吉報だった。
「ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)、そして、オリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050)の3名が瀬戸内海の無人島でダモクレスの巨大基地を発見したそうなの」
 発見した基地の名は『マキナ・ギア・ファクトリア』。
 その基地の役目は、戦闘型ダモクレスの量産。それも、人間を材料とした対ケルベロス用『試作戦闘型ダモクレス』の開発を行っていたようなのだ。
「ただ、工場そのものは資材不足によって運営停止――つまり、開発は中断状態ね。その上、基地の防衛と運営を行う筈の作業用ライドロイドの多くが破壊されちゃったから、工場の防御は大幅に低下した状態なのよ」
 つまり、と続く言葉は、右こぶしが左掌を叩く破砕音と共に紡がれた。
「今がチャンスね。この機会を利用すれば、最小限の戦力で『マキナ・ギア・ファクトリア』の撃破が可能となるわ」
 抑え気味だったトーンはどこへやら。喜びを隠し切れないと、浮かぶ笑顔はとても、にこやかなものだった。
「とは言え、相手はダモクレスの巨大基地。真っ向から乗り込む事は容易い事じゃないわ。……ただ一つの方法を除いて、ね」
 皆はそれを知っていた。デウスエクスの侵略拠点とも言うべき強襲型魔空回廊を攻略する際、同様の事を行っていたのだから。
 こほんと空咳の後、リーシャはその文言を紡ぐ。自身の言葉を強調する為、ばーんと広げられた両腕の中で、豊かな双丘が己を主張していた。
「ヘリオンを利用した高高度からの降下作戦、よ」
 おーっと上がった歓声は誰のものか。何に対する物だったか。
 曰く、予知情報によって特定した突入ポイントに直接降下し、工場の外壁を破壊。中枢を守る『試作戦闘型ダモクレス』を撃破し、工場から脱出する作戦である。
 全チームの脱出を確認後、巨大工場型ダモクレス『マキナ・ギア・ファクトリア』を全チームで一斉攻撃。皆の力を合わせた最大火力で巨大工場全てを破壊する……が、大まかな手順だ。
「『マキナ・ギア・ファクトリア』の中枢を守る試作戦闘型ダモクレスの数は9体。よって、今回の作戦は9チームによる強襲作戦となるわ」
 その中の一員が、ここに集められたメンバーとなるようだ。
「みんなの相手して貰う試作戦闘型ダモクレスの名前は『SR10ブレイブ』。謎のグラビティを操る戦闘型ダモクレスよ」
 おそらくナノマシンを散布し、周囲を、そして自身を優位になるよう、改造していくスタイルと思われる。
「強敵には間違いないから、努々、油断しないでね」
 尚、謎のグラビティの属性は火と水と地らしい。遠近への攻撃に加え、自己治癒の能力もあると言う事で、それだけでも強敵だと予感させるものだった。
「それと中枢へ向かう道も気を付けて欲しい」
 工場の防衛能力が低下しているとは言え、全くの零と言う訳ではない。
 シモーベや作業用ライドロイドと工場内で遭遇する可能性もあれば、駆け付けてきた戦闘用ライドロイドと戦闘になる可能性もある。
 それらを避ける為には、出来るだけ早く中枢地区へ移動し、試作戦闘型ダモクレスと中枢システムを破壊し、脱出する必要がある。
「中枢地区は、未来予知で割り出した突入ポイントから、それ程離れていない筈。だから、地道に探索すれば見つけることは難しくない筈よ」
 だが、作戦をスムーズに進める為には、中枢を素早く見つけ出す方が有利なのも事実。何らかの工夫が必要だろう。
「これまでの積み重ねでマキナ・ギア・ファクトリアの破壊までの道筋を見つける事が出来た。後は、みんな次第」
 だから、とリーシャはケルベロス達を送り出す。彼らが無事、この場所に戻る事を。そして、朗報をもたらす事を信じて。
「それじゃ、いってらっしゃい」


参加者
烏夜小路・華檻(一夜の夢・e00420)
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)
白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)
萌葱・菖蒲(月光症候群・e44656)

■リプレイ

●先制
 眼下に広がる海は青く、そして浮かぶ島々は、濃い緑を咲かせている。
 これが瀬戸内か、と窓の外を覗きながら、富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)は目を細める。その仕草はまさしく猫そのものであった。
「見えますか?」
「ああ」
 烏夜小路・華檻(一夜の夢・e00420)の問いに、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が頷く。
 空を飛ぶ9つのヘリオン。目的地は既に視界の内にあった。
「あれがマキナ・ギア・ファクトリア。ダモクレス達の秘密基地」
 大きい、との風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)が零す感嘆に萌葱・菖蒲(月光症候群・e44656)が「ん」と頷く。
 目的地はその中枢。人の常識に照らし合わせれば、建物の中央部がその筈だが、それが何処まで通じるやら。中身が迷宮であっても不思議はない。
「鬼が出るか、蛇が出るか。はたまたびっくり箱だったりして」
 マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)のおどけた口調に、クスリと白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)が笑う。それは微笑とも苦笑とも取れるものだったけれど。
 やがてヘリオンが動きを止める。同時に8人と3つの影が、虚空へと踊り出した。

「悪趣味な工場だねぇ。さっさと燃やして、終わりにしよう」
 轟く砲撃はロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)の悪態と共に。
 それは彼女だけではない。視線を巡らせれば、各々の班もまた様々なグラビティを構え、工場へと向けている。
 一拍置き、立ち上る9つの破砕音は宣戦の狼煙の如く、火柱を噴き上げていた。
『マキナ・ギア・ファクトリア内部に侵入者確認。試作戦闘型ダモクレスは、侵入者の排除を行って下さい。マキナ・ギア・ファクトリア内部に……』
 警告が鳴り響く中、ケルベロス達は建屋へと降り立っていく。

「どうしたの? ジンさん?」
 侵入したマキナ・ギア・ファクトリア内部で、マサムネは黒猫――成犬大の黒豹と化した陣内に問う。器用にも彼の表情が苦み走った物に見えたのだ。同様に、白猫に変身した白亜もピクリと耳を揺らしていた。
 不快げな様子から察するに、二人とも同じ状況なのだろう。曰く。
「動物変身中は隠密気流を使えないって事?」
「ああ」
 ロベリアの指摘に、明日香が頷く。
 動物変身中はグラビティの使用制限が発生する。そして、隠密気流もまたグラビティの一種である以上、併用不可は当然であった。
「それでも普通に進むよりも安心だと思うよ」
 サーモグラフィゴーグルと集音デバイスのヘッドフォンを調整しながら、錆次郎がフォローを飛ばす。
 彼はダモクレスの要塞に科学の力で立ち向うつもりなのだ。デウスエクスにただの装備が何処まで通じるか不明だが、駄目で元々。やってやれない事は無い。多分。
「それにもう引き返せませんわ」
 アリアドネの糸を壁に取り付けながら華檻が告げる。その壁にはロベリアが穿った穴が開いていた。先制攻撃を為した今、引き返す理由はない。既に賽は投げられた後だ。
「行こっか」
 マサムネの台詞に一同が頷く。
 ケルベロス達の歩みに迷いは無かった。――今は、まだ。

●迷走
「こう、かな?」
「物音もしません」
 方眼紙に位置情報を書き込みながらのマサムネの台詞に、耳を澄ませる華檻の声が重なる。
 手元の方眼紙は複雑な紋様を描き、しかし、それは遅々としてた今の進軍状況を示す様でもあった。
 最初の攻撃から如何程の時間が過ぎただろう。陣内と白亜の先導に従い後を追う。シモーベや作業用ライドロイドの気配を感じれば物陰に隠れてやり過ごす。或いは別の道を選ぶ。それが彼らの行動指針だった。
 確かにそれは戦闘を避ける為の最良手段だった。その証拠に今まで戦闘は一度たりとも起きていない。だが、それで良かったのか? 未だ中枢に辿り着かない現実に、マサムネの胸中に焦りが募って来る。
「みんなで決めた事、だよ」
 だからそんな顔をしないで、とロベリアが微笑を浮かべる。それは不安の伝播を防ぐ物だった。
 彼女の言う通り、戦闘の回避を最優先と決めた。だが、どうしても心が粟立ってしまう。
「Shit!」
 鋭い舌打ちは菖蒲から。
「前方の丁字路にシモーベがいますわ」
 明日香の指し示す先には陣内と白亜の姿がある。黒と猫の尻尾は警戒を示し、耳を澄ませば、駆動音と共に何かが接近して来ている事が判る。
「この道も放棄した方がいいかも」
 錆次郎の言葉に頷き、二者に戻れと、ハンドサインを送る。
 ×印を記入した方眼紙が、視界の端で揺れた気がした。――それは、焦りか、苛立ちか。

 しかし、それも限界があった。
 何分、彼らは敵の拠点を突き進んでいるのだ。加えて言うならば、彼らの目的地は中枢――敵の要所であった。
 結論だけ言うならば、拙速を意識しながらも慎重を主軸とした彼らの進軍は、ダモクレス達にとっては益だった。
 よって、それが現実となるのに、さほど時間は必要なかった。
「戦闘用、ライドロイド……」
「まさか、挟撃だなんて?!」
 誰かが息を飲み、別の誰かが悲鳴を口にする。
 それの到来は予期されていた。ならば、戦闘を避け続けていても、目的地に到達しないのであれば、遭遇は必至。
 朱の身体を持つ二足歩行のロボットは警告音と共に距離を詰めて来る。後方から聞こえる複数の足音は、それが発する警報を受信したシモーベ、或いは作業用ライドロイドだろうか。
「仕方ない、戦うぞ!」
「引き付けない様、速攻で倒す!」
 人型に戻った陣内、白亜が己の得物を構える。
 ――この場で敗北を喫する訳にいかなかった。

●勇者
 辿り着いた中枢は、蒸気と轟音に満ちていた。おそらく地熱を利用した発電施設なのだろう。発電機と思わしき機械の前に一人の少女がいた。
「ここ、だね」
 肩で息をしながら、錆次郎が頷く。その身体は、ここまでの激戦を物語る様、治療不能ダメージが刻まれていた。
 ここまでに戦闘回数は2回。そして、それらを無傷で切り抜ける事は不可能だった。
 傷だらけなのは殻だけではない。特に盾役の被害は甚大だった。陣内のサーヴァントは姿を消し、彼自身、そしてマサムネの消耗は激しい。
 可能ならば心霊手術を施したかったが、その間に襲撃されるリスクを思うと、それも叶わなかった。
「貴女がSR10ブレイブね?」
 平静を装いながら華檻が問う。前線で拳を振るい続けた彼女もまた、傷だらけだった。それでも零れた台詞が挑発だったのは、SR10ブレイブの外見が彼女好みであった為だろうか。
 緑の髪、肉感的なボディスーツの外装、そして手に握る光剣。それがSR10ブレイブと言う試作戦闘型ダモクレスの容姿だった。
 そして。
「侵入者は排除する」
 宣言と共一閃の光が生じる。一足の下、SR10ブレイブがケルベロス達に肉薄したのだ。
 煌きを残す光剣の切っ先が強襲したのは、冷たいオーラを纏うマサムネであった。
「問答無用?! って当たり前か!」
 得物で光刃を受けたマサムネは、返す刀とばかりに呪いの詩を紡ぐ。詩はSR10ブレイブの身体を拘束する枷となり、ぎちぎちと身体を縛り上げた。
「ネコキャット!」
 主に続くサーヴァントの攻撃も束縛として作用する。戦輪宜しく投擲したリングはSR10ブレイブの刀を拘束していく。
「これは、『拒絶の矢』。逃げろ、どこまでも」
 動きを止めたダモクレスに陣内が召喚した鉛の矢が突き刺さった。彼の喚ぶ呪いは治癒を阻害する毒として、怨敵を蝕んでいく。
(「このSR10ブレイブって奴も、元は」)
「――すまない。見つけてやれなくて」
「何に謝ってる?」
 謝罪への返答は、意外にも不快感に満ちていて。
「お前の為の祈りだ!」
 陣内に代わり白亜が叫ぶ。彼女が振うは防壁破りの斬撃。折れ曲がった釘抜きはSR10ブレイブのボディスーツを切り裂き、丸みを帯びた身体を零れさせる。
「やっぱりダモクレスだね」
 まびろ出る膨らみを隠そうともしない彼女に、感性の違いをロベリアが指摘する。共に放つ竜砲撃はSR10ブレイブの脚を掠め、血ともオイルとも付かない液体を飛散させた。続くイリスの念力もまた、SR10ブレイブを縛る魔手を伸ばす。
「You think you can kill me? ――Gotcha!」
 問いと喝采は、アンチマテリアルライフルを引き抜いた菖蒲から。撃ち出した重砲弾はSRブレイブの身体を木の葉の様に吹き飛ばす。
「さあ……わたくしと楽しい事、致しましょう……♪」
 連携はそこで終わりではないと、華檻がSR10ブレイブに組み付く。胸に抱え頸椎を捻る関節技、いわゆるネックロックを受けたSR10ブレイブはしかし、華檻の身体を蹴飛ばして脱出。肉食獣の如く四肢で地面へと降り立つ。
「貴様らは強いな」
 にぃと浮かべたそれは、まさしく笑顔だった。共に地面から噴き出す何かを受け止め、自身の身体を、そして破損した衣服を修復していく。
「あれが……ナノマシン?」
「ガイアパワー……」
 オウガ粒子を散布する明日香の呟きと、破壊のルーンをマサムネに施す錆次郎の驚愕が重なる。
 そう。ケルベロス達が強者ならば、対ケルベロス用戦闘兵器と生み出されたSR10ブレイブもまた、強者。
 赤と青の煌きに包まれたSR10ブレイブはゆるりと、ケルベロス達に向かって歩を進めた。

●脱出
 響く戦闘音は激戦の証だった。
 防具は割かれ、血肉は弾け、骨が砕ける。
 死闘の名に相応しい8対1の応酬はやがて、終局へと向かって行く。
 その転機は意外な程早く、訪れていた。

「がっ」
 マサムネの胸板を蹴りが貫く。長身の体躯は壁まで吹き飛ばされ、鈍い音を響かせた。
「マサムネさん!」
 明日香は悲鳴と共に緊急手術のグラビティを準備する。まだだ。まだ終わっていない。立ち上がる事さえ出来れば、自分が、そして錆次郎が癒す事が出来る。
 だが。
「――!」
 駆け付けた錆次郎が首を振る。SR10ブレイブの蹴りが魂を砕く一撃である事を、彼の犠牲で思い知る事となった。
「ちっ!」
 地面から吹き出た爆発――いわゆる間欠泉から華檻を庇った陣内は短い舌打ちと共に、想起の刃を突き立てる。零れた赤茶の液体は、血潮と変わらず熱い物だった。
 マサムネが倒れた今、盾役を担うのは自身だけだ。その矜持だけが彼の身体を突き動かしていた。
「なぁ。SR10ブレイブ」
 思わず口にした呼び掛けは、嘆きの色に染まっていた。その矛先が誰なのか、彼自身、判らなかったけれども。
「如何にもダモクレスって感じの無機質な名前だ。もっと色気のある名前で呼ばせてくれよ。小夜子とかな」
 改造される前、彼女はどの様な生を謳歌していたのか。それを知る事は出来ないのか。問う陣内に刃が迫る。
 肩口を貫く痛みは、己の生きている証。――否。今はそんな感慨に耽る場合じゃない。
「成程、理解した。確かに私は『地球人を素体とした』ダモクレスだ。動揺を誘うには充分な文句だな。だが――」
 ニタリと笑う。言葉はどんな悪鬼よりも醜悪な表情で結ばれていた。
「逆に問おう。お前達は自分が喰った牛や豚の名前を憶えているのか?」
「――ッ!」
「Screw you!」
 菖蒲の蹴りは爆発を伴い、陣内からSR10ブレイブを引き剥がす。それは、激怒が込められた一撃であった。
 このダモクレスは言い放ったのだ。人間などただの素材だと。
 ぜえぜえと喘ぐ陣内も、鋭い視線を向ける錆次郎や白亜も、同じ感情を浮かべている。消耗が激しい。もはやダモクレスの撃破は叶わないだろう。だが――。

 戦闘を止めたのは工場を揺らす衝撃と爆発音だった。
「え?!」
 慌てて錆次郎が集音マイクの感度を上げる。聞こえる歓声と幾多の破砕音はおそらく、他の中枢が破壊された為だろう。
 そして全てを理解した時、華檻の行動は早かった。
 鈍い音が響く。金属籠手に包まれた拳が向かった先はSR10グレイブではなく、最寄りの壁だった。
「何をっ?!」
「逃げますわよ!」
 今の衝撃を考えれば、少なくとも5つ6つの中枢の破壊は叶っただろう。ならばここを放棄してもマキナ・ギア・ファクトリアは崩壊する。
 何より中枢破壊の衝撃でSR10ブレイブが呆けている今が最後の勝機だ。ここを逃す手など在る筈も無い。
「判ったっ!」
 彼女の想いに応えたのは、轟竜砲を構えるロベリアだ。放つ竜砲弾の一撃は天井を崩し、イリスの念動力によって加速された瓦礫群がSR10ブレイブを強襲する。
 確かに差し違えれば彼女は倒せたかもしれない。だが、被害はどれ程の物か。ならば、逃げの選択も悪くない。
 砂煙巻き上がる中枢を背に、ケルベロス達は駆け出していく。生きる為に。生き残る為に。

 障害物としての壁を華檻と白亜が破壊し、マサムネを抱えた錆次郎と補助する陣内、そして彼を支える明日香が駆け抜け、時折、ロベリアと菖蒲、そしてイリスが通路を破壊。道を塞ぐ。それでも響く鈍い音は、追跡者の存在を示唆する物か。
「道は合っているのか?」
「判りません!」
 白亜の問いに華檻が叫びで返す。アリアドネの糸はもはや役目を果たしていない。その道順通りに進めば、破滅が必至の予感があった。だから、最期の足掻きとばかり壁を破壊。無理矢理道を作成する。
 悪く言えば無茶苦茶。良く言えば予測不可。
(「もしかしたら」)
 故にSR10ブレイブが追い付く事が出来ないのでは? 一抹の期待が菖蒲に過る。
 そしてそれは光明へと繋がっていた。

 再度破壊した壁の先。
 彼らを出迎えたのは大小合わせた8人の影だった。
「ん?」
 華檻が首を傾げる。その前に何か潰した気がしたが、とりあえず何でも無さそうだ。
 ボロボロの焼き焦げた風体は、彼らが激戦を終えた仲間である証拠。
「……あかり?」
 陣内の独白は、8人の中の一人、白衣の少女に向けられていた。
「何? 知り合い?」
「そうだ」
 明日香の小声の問いに陣内が頷く。浮かぶ表情はバツの悪い、そんな色をしていた。
「……脱出だ。行こう」
 背後の音は止んでいる。おそらく他班に合流した為、敵が追跡を諦めたのか。或いは――今までの音が錯覚だったのか。
 集団となったケルベロス達は喜びを交わす間もなく、外へ駆けていく。
 そして、漸く転がり出る様に脱した出口の外。彼らを出迎えたのは、基地破壊の為のグラビティを練り上げる、多くの仲間達の姿だった。
「終わったんだね」
 70を超えるグラビティの一斉掃射を背景に、錆次郎が安堵の溜め息を吐く。
「崩壊の時は来た。その名はマキナ・ギア・ファクトリア、ってね」

 斯くしてマキナ・ギア・ファクトリアを巡る戦いは、多くの中枢を破壊したケルベロス側の勝利となる。
 空を見上げれば、9機のヘリオンの接近が見て取れる。
 それらが奏でるロータリー音は、まるで、彼らの勝利を祝福するかの様に響いていた。

作者:秋月きり 重傷:マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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