全長7mもの巨大な鳥が町を目指す。
ただしその身は機械。色合いは派手な部分が赤く、地味な部分が茶色。
赤銅色に塗り分けられたマシンが人々を襲った。
『キエー!』
灼熱の羽ばたきで熱風を起こし、高速の体当たりで逃げ惑う人々を翻弄する。
散々虐殺の限りを尽くし、数分後にどこかへ消えるまで猛威は続いたのである。
●
「鹿児島県指宿市の郊外に巨大ダモクレスが現れます」
セリカ・リュミエールが言うには、大戦期に封印されていた個体とのことで、枯渇して居るグラビティを回収する為に人々を襲うのだと言う。
「このダモクレスが動き出してから7分経つと魔空回廊が開き撤退してしまいます。そうなると撃破不能になりますので、その前にお願いします」
セリカはそう言いながら、既に避難勧告を出して居るので、街を足場に戦うことが可能だと教えてくれる。
死角を突いても相手のレーダーが強力なので有利不利は無いが、味方に合図を出して連絡を取り合うことはやり易くなるだろう。
「攻撃方法は熱風を引き起こして範囲攻撃を行ったり、高速の突撃で翻弄します。またグラビティが枯渇して居るので滅多に行わない様ですが、一度だけ全力攻撃が可能なので注意してください」
もし使うとしたら、倒される前か逃げる前だろうとセリカは告げた。
攻撃型なので、メンバー次第では時間よりも先に耐久値の方が先に条件に合致するかもしれないとも。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。よろしくお願いしますね」
セリカはそういって資料と地図をテーブルに置くと、出発の準備に向かうのであった。
参加者 | |
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写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309) |
テルル・ライト(クォーツシリーズ・e00524) |
天矢・恵(武装花屋・e01330) |
隠・キカ(輝る翳・e03014) |
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471) |
樒・レン(夜鳴鶯・e05621) |
アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715) |
終夜・帷(忍天狗・e46162) |
●
「この辺りが好都合でしょうかね」
「見晴らし、良いね」
おねえさんとちっちゃい子が、御供を抱えてお散歩中。
本人たちは御供じゃないよ、大切なパートナーだよと主張して居るよ。
「あれ、かな? 大きな翼、きれいだね、キキ」
「うーん、青空に赤い装甲、目立つからすぐに分かるね! おっきいし」
隠・キカ(輝る翳・e03014)は玩具ロボのキキを抱えたまま、遠くを見つめてウンウンと頷いた。
写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)が言う様に、全長7mの鳥ということは、翼を広げればゆうに10mを越えるものね。
「あかがね……純銅なんでしょうか? 伝導率高そうですが」
テルル・ライト(クォーツシリーズ・e00524)はテレビウムの先生に尋ねて見た。
ずっと彼女に教えてくれた先生の返事を聞くと、テルルはデータ取るしか無いですねと頷く。
「にしても、封印されたダモクレスとか、後どれくらい残ってるんだろうねー。400年間くらいだっけ? だからまだまだ残ってるのかなー」
「精鋭集団なら直ぐに減るだろうが、もし主力なら怪しいがな」
在宅聖生救世主の言葉に天矢・恵(武装花屋・e01330)が肩をすくめる。
最初から精鋭として造られた敵ならば数に限りはあるだろう。だが仮にダモクレスが進化する生命体で増えて行くなら、雑魚全てが巨大になる可能性すらあるのだ。
「……しかし機械仕掛けの火の鳥か、どれ程の炎か見極めてやるぜ」
恵は敵の強さを想像しながら不敵な笑みを浮かべた。
いずれにせよ敵ならば倒すだけだと、拳を掌に打ちつけて今か今かと接敵を待ちわびる。
そしてその時が来た時、時間を計測する仲間から合令が下った。
「接敵開始! これより敵の身を、時を刻む成り」
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)は死を告げる夜鳴鶯がやってきたとダモクレスに告げる。
をん・ばやべい・そわかと印を組んで向かい合い、仲間には時間を告知していく。
「全ての機械化を企む輩よ貴様らは決して俺達には勝てん。地球とそこに生きる者たちの想いを背負い、心震わせて戦う俺達にはな」
「これ以上あの子が、何もこわさないように。誰もきずつけないように。すぐに、ねむらせてあげようね」
幸先良くレンが木の葉の竜巻を呼び寄せ、キカが重力の鎖で防護を張った。
結界が仲間達を覆い、迫りくる敵の衝撃に備えることが出来たのだ。
『クルゥゥ』
赤い翼を広げて機械の鳥が飛び込んで来る。
熱風が広範囲にまき散らされ、ダメージが無いのに後方でも暑いくらいだ。
「先生、止めますよ」
テルルは重砲撃を掛けながら先生と一緒に身をかがめ、バレーのブロックの様に並び立った。
頑張ってジャンプしようとする先生可愛いヤッター! とか思う人もいるかもしれない。
しかしながらテルルは、その動きを参考にしてカバーに入る位置を決めていたのだ。流石ですね、先生!
「うわっちゃー。痛そー。まあこの位置なら大丈夫だとは思うんだけどね。……問題は当たるかなぁ」
彼女が当てられないなら皆当てられないと思うのだが、気にしてはいけない。
在宅聖生救世主の家である写譜麗春は、古代からずっと地球を守ってきた一族。
宿敵であったアポロンや、エインヘリアルの……誰だっけ? を基準にしているだけなのだ。
「まあいいや、とりあえずパーンチ!」
在宅聖生救世主は軽く翼を広げると、ビルから滑空しながら拳を突き出した。
その一撃は見事に敵を揺らし、秋晴れの空を紅葉色に染め上げたのである。
●
「俺達で動きを止める。その後は任せた」
「……」
恵の指示に終夜・帷(忍天狗・e46162)はコクリと頷くことで応えた。
言葉は必要ない。
戦場では必要性と計画こそが勝機を分ける。段取り八分とは良く言ったものだ。
「では、そろそろ行くぞ!」
「了解です。素早い動きですね、ですがこれは避けられますか?」
恵とミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)はアパートや家屋を足場に戦場を駆け抜けた。
そしてタイミングを変えて、次々に蹴りつけることで態勢を崩しに掛る。
「確かに炎を纏った鳥ですね、まるでフェニックスです。ですが不死鳥ではないでしょうし、私達なら勝てると信じますよ」
「ちょっと涼しくなってきたからと言って……燃えるほど暑くなるのはお断り、です!」
ミントが着地しながら感想を漏らすと、ちょうどすれ違ったアンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)が頷くのが見える。
反対側から突っ込む帷と合わせて、進路を塞ぐように攻め掛った。
「ふふ、あなたの炎でも、この氷は溶かせません、です♪」
「合わせる……」
アンジェラと帷は先ほどの二人とは違い、同時に挟み込むように攻め立てた。
ツープラトンの鉄杭が、突き刺さった瞬間ではなくその直後。炸薬の爆発によって激振する。
二人は着地と同時に行動を再開するが、先に動いたのは機敏な帷の方である。
「……。……」
帷はこのまま態勢を崩すかと、ナイフを引き抜いて身を沈めた。
体中の筋肉をバネにして、コンビニの屋根に乗って斜めに疾走することで助走距離を稼いだ。そして速度を上げながら脇を削り取る様に羽の一部を切り裂いたのである。
すると羽ばたきが強くなり、敵も急旋回して戻ってくるではないか。
『ケェー!』
「なるほど、確かにこれは素早そう、です……。なかなかに骨が折れそう、ですが、ちょっとずつ動きを止めていくだけ、です!」
そこへアンジェラが遅れて身を翻し、蹴りを浴びせて足を止めさせる。
高速突撃を掛ける所へ機先を征して攻撃を防いだのだ。そしてその姿が次第にぼやけ始める。
「臨兵闘者皆陣列前行!」
「もるげんすてるん☆私に力を!」
それは陽炎、レンが印を切り替えて行くことで仲間の姿を幾重にも枝分かれさせて行く。
ミントはそこで敵の動きが止まっているのを確認すると、トゲトゲのハンマーを振り切って列風を叩き起こした。
振り抜いた槌の周囲から、ソニックブレードならぬ風のハンマーがかっ飛んで行く。
「カートリッジを間違えてしまいましたが、まあ良しとしましょう」
テルルは命中率にいささか不安を感じたものの、仲間達の援護もあり重力弾を放った。
動きを止めていたこともあり、その一撃は見事にヒット。
圧力が上から下に掛り、炎すら縫い留めたのである。
●
「強くて大きくて、きれいな鳥。あなたが、何もこわさなかったらよかった」
キカは空を見上げてそう呟いた。
確かに真っ赤な鳥が空を駆ける姿は壮観だ。
在宅聖生救世主が言ったように、青空なのだから尚更。
「どれだけ大きくても熱い火を吹いてもきぃはあなたが、こわくない。……動いちゃだめだよ、もっと痛いから」
だってキカにはキキも仲間もいるからね。
キカが手を上げると眩い閃光が煌めき、その光は敵に幻を見せる。
やや遅れて幻影の槍が見えた時にはもう遅い。無数の光の槍は妄想となって、ダモクレスの脳内……演算装置の中で手足を刺し貫くのだ。そしてサーキットには傷と痛みがあるというデータを書き込んで行くんだよ。
「間も無く三分! 十五りゅう……じりゅう」
「んじゃ、これで初期任務はかんりょーかなっ!」
レンが時間の経過を告げると、在宅聖生救世主が口を開けたダモクレスの上から降り注いだ。
翼を広げて上空に回り、急速落下を仕掛けたのである。
彼女が一撃離脱を掛けて下がろうとした時、すれ違う様に声が聞こえた。
「俺を忘れねえでくれよ。……これで間に合うかな」
恵が一瞬だけ裏拳のような仕草を掛けると、気が付けば敵は斬られて居た。
舞い散る炎が剣閃の姿を後追いし、その確かな姿を思い起こさせる。
先ほどの拳は本当に拳であったのか、いやそれとも何時から抜刀して居ないと思っていたのか。
「しかしなんだな。こいつぁ火力はどれも凄げえが、防御力はそれほどでもねえな。なら、この程度凰華を呼ぶ程じゃねぇか」
「……」
恵が頭をかきながら呟くと、帷はその言葉を拾って『脆い』とだけ答えた。
聞こえるか聞こえないかの言葉が交わされた中で、二人は態勢を入れ替えながら飛び出して行く。
ダッシュのルートがクロスした後、一人は軽く足を止めもう一人はそのまま飛び込んで行く。
「所詮つくりもの。逃がしやしねぇ、お前の炎はここまでこれで終わりだ」
恵が手刀を振り抜くと、温度が急速低下して凍気が闘気の代わりに放たれたのだ。
それを援護射撃代わりに帷が走り抜けて行く。
「三……」
帷は鉄杭で敵を貫いた後、炸薬が爆裂する反動に合わせて蹴りを入れ距離を取る。
そしてナイフを片手で構えながら、手甲の杭を下げつつ刀を引き抜いたのである。
「終盤に向けて、逃がさないようにしましょう」
「つかまえました、逃しません、です!」
テルルとアンジェラはアパートやマンションを使って距離を詰めた。
相手の進路を塞いで移動先を制限し、まずはテルルが爆風を吹かせて視界を遮る。
その間にアンジェラが飛び付いて、小さな体を振り回し始めた。
「これで、自由に飛ぶことはできません、です!」
アンジェラはダモクレスの関節機構を理解する事で、本来存在しない方向に動けない事を悟った。
機械は自在に動くようでも可動範囲というものがある。プラモデルを見れば判り易いだろう。
堅い部分がありクルクル動く部分がある中で、ともすればアッサリと曲がるしヘタりもする。
「先に行きます」
「ほ~い」
そこへミントが蹴りを浴びせて横っ面を叩き、首元を露出させた。
在宅聖生救世主がそこに飛来し、斧を振り降ろして切り落としに掛ったのである。
無論その程度で巨大ダモクレスの頭は落ちないが、目に見えて動きが悪くなったような気がする。
「三分終了。四分目!」
「安心してね。これ以上誰かにきらわれなくてすむようにきぃ達が、あなたをこわす」
レンが時間を告げつつ再び、をん・ばやべい・そわかと唱えた。
木の葉が舞い落ちる中で、キカはナイフを装甲の隙間に突き立て凍気や闘気を内部に導くのであった。
せめて痛みを覚える時間が少ない様に。
●
『コッー!』
「五分でこれとは……あくまで攻撃専用、もはや風前の灯と言うことか。我ら一同の総力にして、今度こそ涅槃へ送り届けてやる。覚悟!」
それから時間が経過し、僅か五分程度で敵は全力を出し始めた。
とはいえその間レンは一度も治療を休む事はできず、さすがの攻撃力を味わっていたのも確かだ。
『キィィェー!』
「炎を纏った鳥ですか、まるでフェニックスですね。ですが不死鳥ではないでしょうし、私達なら勝てると信じますよ」
敵の体が炎の淵の中に沈んだ。溢れかえる炎の源泉で強化される姿は確かにフェニックスを思わせる。
ミントはそう思いながらもケルベロスであれば不死性は立ち切れると、それが可能な友人の姿を思い浮かべた。
「……! みなさん、来ます、です! 熱っ……」
アンジェラが忠告するも、その僅か後に彼女自身が炎に包まれる。
元々傷は徐々に累積していたが、灼熱の炎に彩られ一気に火達磨になった。
「あぶないよ、あぶないよ。いたくない?」
「……い、いいえ、これくらい、まだまだ、です!」
キカは言いながらちょっとだけ涙目になった。
彼女はともかくキキが耐えれそうにない。アンジェラは炎の中から立ち上がり黒コゲになりながら脱出して来る。
「もうちょっとでアフロになるところだった、です。でも、まだやれるの、です」
「まあ、もう治療するより攻撃した方が早いかもねー」
痛みを恐れずに関節技を掛けるアンジェラの髪はまだ燃えて居て、炎のウェーブヘアになっていた。
在宅聖生救世主は自分の髪の毛がボーボーに燃える姿を想像しながら、恰好良いかな―とか他人事のように想いつつ手に冷気を集中させる。
この一撃で倒せはしないが、まあ撫でてあげれば火も消せるだろう。
「とはいえ放っておくわけにもいかないでしょう。楽にしてあげましょう。……冗談ですよ?」
テルルは時間があるならば急いで攻勢を掛ける必要はないだろうと判断した。
取り合えず逃げ道を塞ぎつつ、火傷をして呼吸も苦しそうな仲間に銃を向ける。無論中身は治療用のカートリッジだ。
薬剤を撃ち込むと、良い意味でアンジェラは静かになった。
「大空に咲く華の如き連携を、その身に受けてみなさい!」
ミントが声を張り上げると、世界の一部に亀裂が入った。
ピシピシと空間が砕け、中から夜空のような穂先が見える。
ミントは『彼女』が動き出す前に、嵐のように射撃して突撃して消えて行く友を見送ったのである。
「ようし、敵討と行こうじゃねえか。ま、死んじゃいねーがな」
「う、うん。だいじょうぶ、ゆっくりねむれるよ。おやすみなさい」
今のが直撃したらヤバかったかなとは思いつつ、恵は足を止めたことを後悔しては居ない。
キカが玩具のキキを大切にするように、この街の景色が壊れることを拒んだのだ。
ヒールは変異するがゆえに、できれば避けたいからだ。
そして二人は斬撃を叩き込み、ダモクレスを大人しくさせた。
「……」
終わりだ。とも、トドメとも口にしなかった。
帷は最後に忍者刀で脳天を貫き、息の音を止めたのである。
「忍務完了というところか」
「……」
レンが片手を上げて祈りを捧げると、帷は何も言わずに歩き始めた。
「動くな」
「へう? あ、ありがとなのです」
帷はアンジェラの首元に刃を当てて、まだ燃えている髪の端だけを切り落とした。
「髪の毛は女の子の命です。終わったら派手に壊されたので大変ですけど、仕事ですのでヒールしましょう」
ミントはその様子を眺め、髪の毛を戻す為にヒール。それから街の修復を始めた。
「んじゃ、私達は残骸整理かなー」
「俺は街の方を見て来る」
在宅聖生救世主がダモクレスの残骸を一か所に集中させて行くと、恵は壊れた部分を見回り始めた。
「ふぅ……。なんだか汗だくになった気もします、ですし、シャワーでも浴びに行きましょう、です!」
「確かこっちに銭湯があった気がしますよ」
全て終わったところでアンジェラが汗をふくと、テルルは先生の表示で街を案内し始める。
「もし来世があるのなら心を持つ存在として生まれ変わるといい。さすれば大空を往くとき、大いなる喜びを得がれるだろう」
「そらを自由にとべたら、きっと楽しいよね」
帰り際にレンが空を見上げて呟くと、キカも頷いて火の鳥に来世があるのを祈ったという。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年10月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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