隠密し索敵し奇襲せよ!

作者:そらばる

●隠密する竹
 人々が暮らす都市部と、攻性植物が支配する大阪城周辺との狭間に位置する緩衝地帯。
 今や無人の廃墟群となった灰色の都市を、深緑色の影が横切った。
 それは、竹の質感を持った、人型の攻性植物たちの分隊だった。
 音を殺し、互いへの合図はハンドサインで。物陰から物陰へと隠れ潜み、地形に合わせて匍匐前進をも交え……非常な警戒を堅持しながら、攻性植物たちは無人のビルや住宅をくまなく索敵していく。
 順調にクリアリングをこなしながら、少しずつ少しずつ前進していく部隊の遥か前方には、未だ人々が日常を送る市街地の姿があった……。

●バンブーアーミー
 大阪城潜入作戦は無事成功を果たした。
 持ち帰ることのできた貴重な情報は、今後の攻性植物との戦いに生かされることだろう。
「ですが、大阪城のケルベロス侵入を許したことで、攻性植物も警戒レベルを上げている様子」
 そう言って戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)が示したのは、大阪城周辺の地図だった。
「現在、大阪城周辺の警戒区域に、竹型の攻性植物の軍勢の展開が確認されております」
 敵は、大阪城へ接近するケルベロスへの警戒のみに留まらず、大阪市街地への攻撃を敢行するつもりらしい。
 おそらくは、支配エリアの拡大をも視野にいれているに違いない。
「竹型攻性植物は8体一塊で行動し、軍隊のような連携をとりつつ索敵を行っております」
 敵部隊は大阪城周辺の市街地の索敵を行った後、ケルベロスの侵入がないことを確認した場合は、大阪市街地への攻撃を開始する。
 つまり、市街地の被害を防ぐためには、ケルベロスが緩衝地帯で迎撃する必要があるのだ。
「敵は隠密行動をしつつ索敵によりケルベロスを発見しようとしております。ゆえに、皆様も隠密行動をとりつつ索敵により敵部隊の発見に努めてください」
 敵は8体で連携して攻撃を仕掛けてくる。戦闘力はほぼ互角だ。
 それはつまり、先に敵を発見して奇襲をかけた側が、圧倒的有利になるということを意味している。
「大阪城周辺の緩衝地帯は、無人の市街地となっております。この地形をうまく利用できれば、有利に戦うことも可能でございましょう」
 敵は量産化された兵士のような個体である。一体一体は強くはないが、数が揃えば脅威にもなるだろう。
「この攻性植物を駆逐すること叶えば、大阪城への再潜入といった作戦行動も可能になりましょう」
 逆に駆逐できなければ、緩衝地帯の警戒網が完成する上に、市街地への攻撃を許すことになる。任務の成否の影響は大きい。
「いかに敵に補足されず、先に敵を発見するか。それが勝負の分かれ目となりましょう。皆様、よろしくお願いいたします」


参加者
シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)
七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)
端境・括(鎮守の二丁拳銃・e07288)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)
不動峰・くくる(零の極地・e58420)
クロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)

■リプレイ

●密やかに潜む
 大阪城周縁、緩衝地帯。
 人の営みがすっかり絶えてしまった廃墟都市に、八人のケルベロス達は集った。
「ゆるキャラっぽい見た目の割にはかしこい敵だネ。釣り師としては忍耐勝負は臨むとこだヨ」
 ペスカトーレ・カレッティエッラ(一竿風月・e62528)が資料の画像を思い起こしながら小さく呟いたのを最後に、ケルベロス達は言葉を断った。
 ここからはハンドサインが意思疎通の手段となる。一行は地上を進む班と高所から索敵する班の二手に分かれた。
(「シュシュっと上にあがるぅ!」)
 壁歩きを駆使してビルを上がるクロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)。高所に到達すると、小動物の姿に変化し、ビルの内部に潜り込んだ。
(「どこかな、どこかな?」)
 動物の優れた五感と、人型に戻っての暗視ゴーグルで、隅から隅までクリアリングしていく。
(「……こう、じりじりした感じってなんだか苦手だなぁ……いっそ開戦しちゃえば楽なのに……」)
 目立たぬよう心掛けた装いのシェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)は胸中にぼやきつつ、隠密気流を切らさずに高所を探索し、視界内に違和感がないか探っていく。
(「大阪城調査任務に赴いた身として、事後に沸いた竹を放置もできない。刈り込まなきゃね」)
 レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)はライフルを手にビル内の物陰に潜みながら、慎重すぎるほど慎重にビル周辺の様子を確認していく。あまり大きな声では言えないニューヨークでの経験のおかげで、この手の仕事はお手の物だ。
(「タケノコご飯の香りとか若竹を燃やす臭いで釣られてくれませんかねぇ。同族意識があるようでしたらそれはそれでやりづらいですけど」)
 七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)は適度に汚して反射を抑えたケルベロスコートを纏い、注意深く身を隠しながら、高所から周囲を遠望する。地上からは確認しづらい緑や枯れた黄土色は要注意だ。
 一方、地上を行く四人も隠密に抜かりない。
 リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)は特性ブーツで足音を消し、都市迷彩のマントで巧みにカムフラージュし、建物の死角から死角へと音もなく身軽に飛び移っていく。
(「敵影なし……クリア……」)
 明らかに手慣れたその動きは、真っ当ならざる稼業に手を染めていた過去を窺わせた。
(「息を殺して潜み、襲うべき敵と時を探し求めるこの感じ……森の中でこそ馴染みのあるものだけに、こう街中じゃとどうにも妙な具合じゃのぅ……」)
 端境・括(鎮守の二丁拳銃・e07288)も動物に化け、小さな体を利用して物陰に隠れながら索敵した。前のめりになりがちな気持ちを落ち着かせながら、高所からの死角を意識し、冷静かつ速やかにクリアリングしていく。
(「植物に迷彩されていたら厄介だよネ」)
 ペスカトーレはハリモグラ姿で、塀や建物の影に隠れて慎重に索敵していく。針は出来る限り畳んで、少し丸っこい無害なネズミっぽく振る舞いながら。
(「こちらもいない……移動OKでござる」)
 緑色のものはないか、不自然な植物はないか。音を殺して慎重に索敵していた不動峰・くくる(零の極地・e58420)は、手信号で皆に敵の不在を伝えた。
 互いの情報は素早く伝達され、高所班と地上班は同時にエリアを移動する。つかず離れず、この要領を繰り返していくのだ。
 地道な索敵は、四つ目のエリアへと進もうとしたところで、終わりを迎えた。
 ビルの影に潜みながら進んでいた括は、視界の端にちらついた深緑色に、全身の毛を逆立てた。
(「……いた!」)
 急ぎ人型に戻り、手信号での伝達がなされる。
 我、ターゲットを発見せり。

●かくれんぼの勝敗
(「お! 見つけたようだね! この好機逃してはいけない!」)
 仲間の伝達に了承サインを返すと、クロエはフック付きロープでの飛び移りを中断し、軍隊さながらの懸垂下降で地上班の元へと合流を急いだ。
「……団地の中、みたいですね。合流お願いします」
 藍色の瞳の黒猫に変化していた七海は、シェミアの腕の中で潜めた声を上げた。
 七海を抱え、高所から高所へと飛び移ろうとしていたシェミアはこくんと頷き、翼を駆使して建物の影を静かに降下していった。団地の渡り廊下を深緑色のシルエットが横切ったのを見取り、目を細める。
(「大人しく大阪城に引き籠ってればいいのに……軍隊じみた動きっていうけど、植物がやれるものか、見せてもらうよ……」)
 竹の攻性植物たちは団地内を索敵中だった。複雑に重なる団地の階層を、手分けしてしらみつぶしにクリアリングしているようだ。
 ケルベロス達は敵に察知されぬよう細心の注意をもって合流し、潜伏して陣営を敷いていく。
 敵一行が建物の谷間にある緑地に到達し、伸び放題の雑草に紛れて匍匐前進を始めたのを見取り、ケルベロス達は頷きあった。
(「いけるネ?」)
(「もちろんでござる!」)
 人型に戻り、仲間たちから若干離れた建物の影に控えたペスカトーレは、傍らのくくると短いサインを交わしあうと、だしぬけに敵前へ飛び出し爆破スイッチを押し込んだ。
 カラフルな爆発が展開し、一瞬、全ての敵の神経がそちらへ集中した。
 その隙こそ、ケルベロスの狙いだ。
「狙撃手は臆病であるほど優秀だ」
 団地中層部の外廊下からレスターの銃口が照準を絞り、引き金を引いた。氷結光線がバンブージェネラルの熱を奪い去る。
 と同時に飛び出したリーナの魔宝刃ファフニールが、雷の霊力を帯びてバンブーボムソルジャーに襲い掛かる。
「貴方達はここでバラバラにしてあげる……」
 神速の突きが匍匐から態勢を変えたばかりの巨体の防護を切り刻んだ。
「ターゲット、合わせるよ! 連携してやっつけるのだーっ! 燃えろー! ブレイジングバースト!!」
「うむ! この依頼、必ず成功させねば……!」
 息を合わせて物陰から飛び出すクロエと括。敵指揮官めがけて大量の弾丸が激しい爆炎を上げ、星型のオーラが追い打ちをかける。
 奇襲は四人までが成功。が、もとよりケルベロスの索敵を任とし警戒を切らさなかった攻性植物たちは、先の爆発が囮であったことを素早く理解し、速やかに態勢を立て直した。いち早く対応したバンブーガンソルジャーの一体が、無防備に見えるペスカトーレめがけて大量の弾丸を連射してくる。
「ここは通さぬでござるよ!」
 未来的なレオタード姿で赤いマフラーたなびかせ、弾丸の軌道に割って入るくくる。同時に巨大手甲『轟天』と『震天』を展開し、激しい雷をお見舞いし返す。
 半数とはいえ、成功は成功だ。バンブーランスソルジャーどもが一斉に投擲してくる竹槍から身を守りつつ、ペスカトーレはルアーをクラゲ型にチェンジしながら胸を張る。
「一本釣り、大漁っ!」
 ジェリーフィッシュレイン。回転するクラゲが降らせる幻想的な慈雨が、七海の混乱を祓いのけてゆく。
「ところで竹って地下茎で増えるんですよね。ならあなた達、繋がりがあるんですかね」
 素朴な疑問を零すや、七海は魔力を籠めた咆哮を解き放った。その圧に後衛全体が怯み、動きを鈍らせる。
 ジェネラルは忌々しげに地を踏み、足元から生やした竹で竹垣を築いて防護を固める。シェミアはそのバリケードの隙を狙った。
「かくれんぼは……ケルベロスの勝ちだよ……!」
 物質の時間を凍結する弾丸が、司令官型を貫く。
 ガンソルジャーどもが必死の抵抗を試み、ボムソルジャーのカラフルな爆発が後衛を治癒するも、焼け石に水。
 リーナは漆黒の翼を生成したかと思えば、神速の加速で一息に距離を詰めた。黒死魔剣・アンサラー。黒く輝く一振りの魔力刃が一閃し、ジェネラルの命を刈り取る。
「奇襲・暗殺はわたしの得意技……望んで得た技術じゃないけどね……」
 バンブージェネラルは指揮官の役目を全うすることなく、滅びの魔力の渦に呑まれて消滅した。

●竹狩り
「まずは一体。悪くない滑り出しだね」
 レスターは団地の外廊下や通路を適宜移動しつつ、次の標的であるボムソルジャーへ正確な狙撃を加えていく。牽制するような銃撃が返ってくるが、それもまた狙い通りだ。
 指揮官を失ってなお、攻性植物たちは戦意を切らさない。ボムソルジャーは大量の爆薬をばら撒き前衛の足止めにつとめ、ランスソルジャーも様々な槍技を駆使して前衛を縫い留める。ガンソルジャーは前衛の弱いところを狙いつつ、後衛の牽制も欠かさない。
「意外ときついですね……っ」
 自分に集中しがちな攻撃の激しさにうめきつつ、七海はナイフを両手に、重力操作による変則的な動きを取り入れながら、舞うが如くボムソルジャーを斬り刻んだ。
「歯を食いしばるのじゃ!」
 全身全霊の治癒力を拳に込める括。渾身のげんこつが、魂とか精神とか何かそういうふわっとしたものを震わせて、七海の負傷を豪快に吹き飛ばす。
「植物なら……よく燃えるよね……! 逆鱗に触れし愚者に相応しき末路を……!」
 シェミアの掌から放たれたドラゴンの幻影が、激しく火を吹きボムソルジャーを焼き捨てる。
 敵の猛攻を凌ぎながら、ケルベロスのグラビティはボムソルジャーへと次々に降り注ぐ。ボムソルジャーは攻撃を治癒に切り替えるも、その程度では間に合わない。
 限界を間近に、ボムソルジャーが自身の治癒をやめて味方前衛へ強化の発破をかけるのを目撃し、レスターは顔の右半分に紋章を浮かび上がらせながら、スコープ越しに目を細めた。
「なかなかに献身的だけど……ここがデッドエンドだ」
 終止路の死十字。特殊な呪文が刻まれた魔弾が、張り巡らされた結界の中を自由自在に走り、敵を引き裂く。
「左腕『震天』、氷結粉砕機構稼働。唸れ絶対零度の氷刃! 凍結手裏剣!」
 くくるは左腕より巨大な氷の手裏剣を形成し、渾身の力で敵へと投擲した。手裏剣はボムソルジャーのふくよかな腹部に深々と突き刺さると、氷結の力を炸裂させた。
 無限大に熱を奪われたボムソルジャーの肉体は、のけぞったまま凍りつき、木っ端微塵に砕け散った。
「残り……六体」
 無表情に呟き、リーナは鋭く斬りこんだ。あとは前衛から一体ずつ切り崩していくのみだ。

●八対八の決着
 ボムソルジャーの残した強化は、思いのほか大きな負担となって前衛にのしかかった。ペスカトーレのガジェットやクロエの施す破剣で一つずつ対処しながら、ケルベロス達は果敢に敵を攻め立てていく。
 激しい衝撃に歯を食いしばり、七海は凶暴な咆哮を上げる。
「っ……報いを! 報いを! 尊厳を冒せし者に相応しき報いを!! 尊厳を剥ぎとり晒してやれ!!!」
 淤岐嶋乃鰐。それは原始的な呪い。心魂を護る鎧を暴力的意志で引き剥がし、その足を竦ませる。
「やらせないよ」
 前に出た七海を包囲するように攻撃するランスソルジャーたちを、レスターは両手のバスターライフルから放つ膨大な魔力の奔流で掃射する。
「……動きは達者だけど、所詮植物の真似事かな……惜しかったね……!」
 極限まで研ぎ澄ませた魔力を刃に乗せるシェミア。
「その首……刈り取らせてもらう……!」
 ただ一振りの刃。魂ごと放つ唯一無二の斬撃が、敵を完膚なきまでに討ち斃す。
 一体、また一体と倒れていく攻性植物たち。ケルベロスの猛攻はやむことなく、勢い増すばかり。
「あと少しじゃ! 畳みかけようぞ!」
 拳銃型の武器を両手に構えつつ、括は最後のガンソルジャーにしつこく残っていた強化を打ち破る。
「解体の時間だよ……」
 リーナは高い魔力を空の霊力に変えて、身軽に敵の懐に飛び込んだ。戦傷を正確に斬り広げて、すぐさま飛びのき仲間の射線を開ける。
「ど派手な最期を飾ってやるでござるよ!」
 くくるは心の奥底に抱えた言い知れぬ怒りなどおくびにも出さず、いっそ飄々として盛大な雷撃を振る舞った。
「時間よ止まれ……!! 発動……! ディスティニー・オブ・マキナ!」
 封印の禁呪を発動するクロエ。あたかも時間を止めたかのように制止した敵へと、雷撃呪文を付加した戦斧が振りかぶられる。
「叩き……潰すッ!!」
 強烈な一撃に叩き伏せられた最後の一体に、追い打ちをかけるのは、ハリモグラの鋭い爪。
「終わりだヨ!」
 重量ある一撃が、高速でガンソルジャーの胸部を穿った。
 最後の一体の肉体が無数の竹の葉になって消え果てるのを見届け、ペスカトーレはふぅ、と顔を上げた。
「ゲリラ戦っていうんだっけ? ラクじゃないね~分かってたけど!」
 八体全てを撃退し、勝利に湧き立つケルベロス達。その隅で、クロエは唐突にその場に座り込んでしまう。
「ちょ……ちょっとだけ、休ませて……ね?」
 それはグラビティの代償。カチカチカチカチ……耳の奥で、時計の針が止まらないような気がした。
 かくして、隠密と索敵と激戦を制し、ケルベロス達はまた一つ、大阪城に端を発する危機を退けたのだった。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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