金木犀の庭

作者:雨音瑛

●秋の庭園
 東京都のとある駅から徒歩数分。海にほど近い庭園は、秋の色を帯び始めていた。
 庭園の外に視線を向けると、たくさんのビルが建ち並んでいる。だというのに不思議な静けさで、訪れた人々はそれぞれの憩いの時を過ごしていた。
 庭園には、散歩を楽しむ老人や休憩中のビジネスマン、先生に引率された幼稚園児たち。
 少し冷たい風は彼ら彼女らを迎えるように吹き、甘い香りを運ぶ。
「せんせい、いいにおいがする!」
「これはねえ、『きんもくせい』の匂いよ」
 きんもくせい、と幼稚園児が繰り返したその時、何かが流れる雲を割った。
 ビジネスマンがその光景に目を凝らすと、白く、巨大な牙であることがわかる。驚く間もなく、牙は庭園へと突き刺さった。
 3本の牙は、たちまち鎧兜を纏った髑髏の兵へと姿を変える。
「さあ、グラビティ・チェインをヨコセ!」
「ニゲルナ! キサマもドラゴンサマのカテとナルノダ!」
「そうだ、キョゼツしろ、ニクメ!」
 竜牙兵たちの手にした剣が閃くと、一人、またひとりと倒れてゆく。
 ほのかに香っていた金木犀の香りは、もうしない。
 血と臓物の深いな臭いだけが、庭園に漂っていた。

●金木犀の香りがする場所へ
 ベラドンナ・ヤズトロモ(はらぺこミニョン・e22544)の調査から、東京都の庭園に竜牙兵が現れることが判明した。急ぎ、ヘリオンで現地まで向かうのは同じ。けれど、とベラドンナは困り顔だ。
「竜牙兵が出現する前に避難勧告をすると、竜牙兵は他の場所に出現するんだって。そうなるとケルベロスが駆けつけるのは間に合わなくなってしまうから……事件を、阻止できなくなってしまうの」
 何より、被害が大きくなることで多くの一般人の命が奪われてしまう。
「事前に避難させられないのは心苦しいけど、予知と違う場所に出現する方が大変だから、ここはこらえて竜牙兵の出現を待った方が良さそうだね」
 また、竜牙兵が現れた後は庭園のスタッフに避難誘導を任せられる。既に連絡もいっているから、ケルベロスは避難誘導に人員を割くことなく竜牙兵の撃破に集中できるだろう。
「そんなわけで、今回のお仕事は『竜牙兵3体の撃破』。どの個体もゾディアックソードを装備していて、状態異常の付与を得意としているみたい。うち1体は両手にゾディアックソードを持っているみたいだから……そのへんも気をつけた方がいいかな?」
 ベラドンナに相槌を打つように、ボクスドラゴン「キラニラックス」が小さく鳴く。
「そうそう、ケルベロスとの戦闘が始まれば竜牙兵は撤退しないみたいだから、逃走阻止の動きも不要だね。戦闘に集中して、少しでも早く竜牙兵を倒せればいいよね」
 そして、無事に竜牙兵を撃破できたならば。
「……庭園の散策、なんてどうかな? 花より団子、って人には茶屋がおすすめだよ。抹茶と和菓子も楽しめるみたいだし、よかったら、ぜひ」
 付け足し、ベラドンナは小さく息を吸った。金木犀の香りが、した気がして。


参加者
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)
ゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)
楪・熾月(想柩・e17223)
エレオス・ヴェレッド(無垢なるカデンツァ・e21925)
ベラドンナ・ヤズトロモ(はらぺこミニョン・e22544)
深幸・迅(罪咎遊戯・e39251)
ココ・チロル(箒星・e41772)

■リプレイ

●庭荒らす者
 潮風にのって、甘い香りが漂ってくる。
「わぁ……! とっても良い香りですね」
「ああ、いい場所だな、ここは! 開けた海に近い場所、橙色した金木犀が秋空に良く映えるぜ」
 真白の髪と金の髪が、潮風になびく。それはさながら、月と太陽の彩り。エレオス・ヴェレッド(無垢なるカデンツァ・e21925)と草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)の言葉を聞いて、ココ・チロル(箒星・e41772)もゆっくりと息を吸い込んだ。ココの故郷を思わせる、優しい香りだ。
 緩んだ3人の表情は、すぐさま引き締められる。
「こんなに素敵な場所を荒らすなんて……やっぱり見逃せません」
 目を伏せ、エレオスは静かに首を振る。花も命も、穏やかなままが良い。
「ここをブチ壊すなんざ……奴らに風情なんて求めるモンじゃねえな」
 不快そうに、あぽろが上空を警戒する。
「はい。秋を、教えてくれるこの香りを、血腥い臭いで、塗りつぶさせは、しません」
 ココも、ゆっくりと力強くうなずく。この場を襲うと予知されたデウスエクスは、竜牙兵。ケルベロスの到着がなければ、彼ら彼女らが言うような悲劇が起こっていただろう。
 海から来た風が、ひときわ強く金木犀を揺らす。
 ベラドンナ・ヤズトロモ(はらぺこミニョン・e22544)の脳裏に浮かんだのは、金木犀が好きな知人のこと。
「……この季節は、とても大切なの。だから、しっかり倒して――」
「終わったら、ゆっくりお茶を楽しみましょ? ……と、お客様のようね」
 ベラドンナの義理の姉、七星・さくら(日溜まりのキルシェ・e04235)が風を切る音を感知する。その後は人々の方を向いて、
「スタッフさんたちは避難誘導をお願いね。わたし達が食い止めるから、おさない・かけない・しゃべらない、で安心して避難してね? ――さ、行きましょう、べるちゃん」
 ベラドンナを先導する形で駆け出すさくら。
「ぴよ、ロティ、俺たちも行こう」
 楪・熾月(想柩・e17223)はシャーマンズゴースト「ロティ」と、今は雛の姿となっているファミリアロッド「月翼の雛鳥」に声をかけた。
「甘い香を鉄錆の臭いにはさせないよ」
 細身の身体が宿す意思は、綺麗な金木犀を赤色にはさせないという確かなもの。
 ケルベロスたちが牙の突き刺さった場所へ到着すると、牙たちは鎧兜を纏った骨の兵へと姿を変えた。
「さあ、グラビティ・チェインをヨコ……ケルベロスか!」
「キサマらをホウムった後、地球人どもをドラゴンサマのカテとしてクレヨウ!」
「グァハハハ! キョゼツしろ、ニクメ!」
 直後、響き渡った咆吼と巡らせる視線に深幸・迅(罪咎遊戯・e39251)は舌打ちひとつ。
「吠えてンじゃねぇよ……非戦闘員狙うとか精鋭じゃなくて三流だろーが」
 逃げる人々を竜牙兵たちの視界から遮るように、迅は立ちはだかる。
 他の者とは違い、金木犀に思い入れは無い人型ウェアライダーのゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)である。しかし、景観を腐臭で汚されるのは不快としか言いようがない。
 黒猫の尻尾をうかがうように揺らした後は手にした武器を構えて静かに進み出、
「……拒絶し、憎み、お前達を塵に還すが、構わんな?」
 ゼノアは無愛想に言い放った。

●懸命
 状態異常を得意とする竜牙兵たちに対し、ケルベロスたちは役割を分担して苛烈な攻撃を重ねる。
 最初に撃破を目指すのは、ゾディアックソードを二本所持した個体だ。
「ほらほらこっちを見ろよ骨共、余所見できるほど余裕なんかねえぞ!」
 強気の笑みを浮かべたあぽろが手にする葉、日本刀「摩利支天大聖」。二本のゾディアックソードを身体の前で構える竜牙兵。あぽろの斬撃は容易く剣を弾く。ゆるやかな軌跡ではあるが、威力たるや凄まじいものだ。竜牙兵の鎧を、骨の身体を砕かんばかりの勢いである。
「グウッ! バカ、な……!」
 鎧に入った亀裂は垂直に、しかし鎧を割るに至る。竜牙兵は動揺した様子で視線を交わし合う。
「マダ、我ラは一人とて倒れてはイナイ!」
「カクゴするがヨイ!」
「ソウダ、マダ、ワレらは……!」
 持ち直した竜牙兵は、二本のゾディアックソードを胸の前で交差させた。刃に宿すは、二つの星座の重力だ。地を滑るように移動した竜牙兵が、ココへと重い斬撃を振り下ろす。受け止めるココの表情は真剣そのもの。耐えきれるが、体力の減りは大きい。
「なかなか、どうして、重い、ですね」
 でも、とココはバレを見遣った。あと2体の竜牙兵は、まだ行動していない。
 バレのランプが点滅する。いつでも動けると言わんばかりに、エンジンが唸る。
 凍てつく星辰のオーラは、まずは前衛に。攻め手を担う二人を庇うココとバレは、次なる竜牙兵が後衛にオーラを飛ばしたのを見て取る。キラニラックスも加わり、盾役は前衛と後衛を完全に守り切った。
「助かった、後は任せろ……夕闇と影は我らが領域。その切っ先に骸を掲げよ――」
 ゼノアの眼下に落ちる影が伸び始めた。それが剣二本を手にした竜牙兵の前に到達すると、漆黒の兵士と槍が現れる。
 竜牙兵の剣ふたつが落ちる。刺突によるダメージを受けたと認識するのと同時だったか。だが、あとは滅びるだけ。気付いたところでその意思が何の役に立つだろう。
「まずは1体、か。次は消耗の大きい個体だな」
 言いつつ、青のツリ目が庇い立てた二人を一瞥する。傷はもちろんだが、状態異常の数もかなりのものだ。ならば、とゼノアはここ最近交流が増えている友人を見遣る。
「……医者の本領発揮だな。存分に癒せ」
「任せてよ、ばっちり癒すからさ。さあココ、繋ぐよ」
 癒やしは熾月の矜持。誰一人落とさせまいと、自らとココ、そして自身を大自然と霊的に接続する。ロティの祈りも重なり、味方を一生懸命庇ってできた傷のほとんどが消えてゆく。
「ありがとう、ございます」
 念のため、とココも癒やしの風を慣れた様子で巻き起こす。主からの癒しを受け、バレは炎を纏って突撃を仕掛けた。
 そのまま正面から体当たり、と思いきや、回り込んでケルベロスの方へ押し出すように突撃する。
「な、ナンダト!?」
「向こうから来てくれるなんてありがたいわね。行くわよ、べるちゃん! なるべく庭園を壊さないよう気をつけながら、ね」
「うん、お姉ちゃんに合わせて行くよ!」
 さくらが、ライトニングロッド「春の鍵」から弾丸を生成した凍結の弾丸を打ち出すと、ベラドンナは竜槌を砲撃形態へと変化させる。
 ちらり見るは、義姉の頼もしい横顔。安堵を覚え、嬉しくなってしまうのは不謹慎かもしれない、が。
「お姉ちゃんと一緒なだけで、割りと無敵な気持ちになるんだよ」
 その声は砲撃の音にかき消される。けれど、さくらは義妹が浮かべている笑みでなんとなしに理解した。
 ボクスドラゴン「キラニラックス」が属性を注入するのを横目に、迅はエレオスへと声をかける。
「各個撃破の作戦は上手ェこといきそうだな」
「それでは、私たちは引き続き牽制していきましょうか」
 迅の放った18本の光線は麻痺を、エレオス清廉な歌声で紡がれる歌は加護の破壊を与えたのだった。

●残すもの、残さぬもの
 ルーンを発動しながら振り下ろされる、ルーンアックス「地果斧」。ココのその一撃で、竜牙兵の鎧が落ち、骨が露わになる。その個体を含めた二体の足を、バレが勢いよく轢いてゆく。
「グヌ、……! マサカ、我が……」
「お前はそろそろ限界みたいだな?」
 太陽神『陽々』を自身に降ろし、あぽろは掌を突き出す。金の髪はさらに眩く、太陽のように光り輝いている。
「お前らの存在が景観を損なうぜ、欠片も残す気はねえよッ! 喰らって消し飛べ! 『超太陽砲』!!」
 極大の光線が竜牙兵の1体を包み込む。一瞬だけ黒く見えたシルエットは、すぐさま熱と破壊の力にかき消される。
 腕を降ろしたあぽろが、残る一体を見遣った。
「残るはお前だけだぜ?」
「な、ナゼ……イヤ、我ヒトリにナロウとも、最後マデ……!」
 竜牙兵は剣を掲げ、折れた骨を元に戻した。
「無駄だ」
 言葉とともに地面を蹴ったゼノアが、足先に炎を纏っている。頭部を狙った蹴りは見事、命中。そのまま宙へと一段高く飛び、しなやかに着地するゼノアの様子は、高所から着地する猫を思わせる。
「エレオス、行けるか」
「はい! ちょうど今、ファミリアに魔力を籠めたところです。続きますね」
 射出された小動物が、竜牙兵の肩口を穿つ。エレオスが熾月へと視線を移すと、見慣れた笑顔が首肯していた。
「ぴよ、」
 呼びかけ、こちらも魔力を籠めて一直線。ロティの見えぬ爪も、竜牙兵の霊魂そのものにダメージを与える。
 その間、キラニラックスはすぐに回復を。
 熾月の手元に戻ったぴよの可愛らしい様子に、さくらは小さく微笑んだ。
「かわいいわね。それじゃ、わたしも――ぴぃぴぃ、ぴりり、ちぃちぃ、ころり……おいで、おいで、雷雛遊戯」
 動揺のようなリズムで、ころころした可愛らしい雛たちが呼ばれる。遊ぶように集う先は竜牙兵だ。雛たちはさえずりながら群がり、容赦なく竜牙兵をついばむ。
 腕を振り払う竜牙兵は、頭上から来る影に気付かない。気付こうと気付くまいと、迅のやることはひとつだ。
「鎧の中でバラけるんだ、ちったァ片付けやすくなるだろ?」
 ふわり触れた掌には螺旋の力。竜牙兵の鎧の中で、骨の砕ける音が聞こえる。
 軽業のように竜牙兵の頭を足場にした後、迅は地面を数度蹴って仲間の元へと戻る。
「ベラドンナ、決めるなら今だぜ」
「ですね、決めさせてもらいます!」
 ベラドンナは大きく息を吸い、
「私は私たち。私たちは私。音を紡ぐ。 歌を紡ぐ。沸き上がれ夢たち。起き上がれ死者たち。さよならのさよなら。むこうのむこう」
 再現した楽曲は、かつて舞台に消えた夢たちが残したもの。
 竜牙兵を包み込む、音、夢、希望、悍みの渦。あるいは人生そのものの体現。
 風と同時に音が止むと、動きを止めた竜牙兵は崩れ落ちた。あとは、灰のようになって地へ溶けた。
 ふわり広がった金木犀の香りは、ケルベロスにとっては勝利のファンファーレ。
 ケルベロスたちは被害を確認し、ヒールグラビティで荒れた庭園を修復してゆく。
「ヒール終わり、っと! さーて、せっかくだし、茶屋にでも寄っていくかな」
 気持ちよさそうに、あぽろが大きく伸びをした。

●甘やかな庭園
 平穏が戻った庭園で、ココは落ちた葉の一枚を踏んだ。そうして晴れやかな気持ちで吸い込む香りは、いっそう心地よい。
「秋の香り、だね、バレ」
 エンジンをふかす音は、同意を示しているのだろう。
「そうだ、勉強も、しないと、ね。金木犀を、使った、薬……何が、あったっけ……」
 ノートを取り出して文字を視線で追う様子は、とても真剣だった。
 一方、エレオスはぴよと楽しげに戯れている。
「ふふ、もふもふしてあげて。あとね、名前呼ばれるのがお気に入り」
「ふふ、ぴよさん。肩の居心地はどうですか?」
 へらり笑う熾月に言われ、エレオスはさっそく雛の名を呼んでみた。同時にそっと腹部をもふもふすると、柔らかな感触が指先を包む。
 そんな様子を見ていたゼノアの袖を、ロティがくい、と引っ張った。
「ん……なんだ。……構ってほしいのか」
 どれ、とゼノアはしゃがみ、襟巻や嘴をさわさわ撫でてやる。と、金木犀が目に入った。思い立ち、スマホでロティと金木犀をぱしゃり。
 熾月も負けじと、友人や家族を全力で撮影する。それはとても、幸せな時間だ。
「……ん。割と良く撮れた。見てみろ」
 ゼノアがエレオスと熾月に見せれば、
「ゼノアそれ後でちょーだいね!」
 と熾月の無邪気な笑み。後で熾月のスマホに送ることを約束して、ゼノアは茶屋へと向かった。歩き回った後は何かを腹に入れてから帰りたいもの、である。
 茶屋に着くと、お茶と金木犀のきんとんを撮影するあぽろの姿が目に入った。
 ゼノアは団子を買い、あぽろの近くに座る。
「邪魔するぞ」
「場所も風景も俺ひとりのものじゃないしな、ゆっくりするといい。それに、都会の喧騒もここには及ばないことだし――お、その団子美味そうだな!」
 何せ食欲の秋、あぽろは団子を追加で注文する。
 舌鼓を打って遠くを眺めれば、たくさんの金木犀が見える。鮮やかな橙の花は小くとも慎ましくて可愛らしい。秋の訪れを感じつつ、あぽろは弱くなった陽光を感じた。
 太陽の季節も、もう終わり。金木犀の橙色も、太陽を労っているのかもしれない。
「今年もの夏もお疲れ、『陽々さま』」
 そう言って、あぽろは費の当たる場所に団子をひとつ、供えた。
「そっか。もうすっかり秋、だよね」
 あぽろの言葉にうなずき、ベラドンナはほうじ茶を一口飲んだ。お腹が温かくなり、ふにゃっと力が抜けてしまう。それを、キラニラックスが支える。
「ふふ、べるちゃんもキラニラックスくんもお疲れ様」
「お姉ちゃんは――芋羊羹とほうじ茶? 美味しそうだね」
「それじゃ、一口どう? 頑張った後のおやつは格別よね、はいどうぞ」
 目を輝かせて何度もうなずく妹に、さくらが一口取って差し出した。ぱくり、広がる甘みに頬を抑えるベラドンナ。
 花も団子も可愛い妹も全部堪能するつもりのさくらにとって、眼福な光景だ。
 その後は、あらためて金木犀を眺めて。
 最近妙に忙しかったベラドンナは、こうしてさくらとのんびりできるのが嬉しい。
 さくらにとって、金木犀の花と香りは、秋を実感させてくれるもの。ふと隣を見れば、ベラドンナの瞳が秋の日差しを受けて金木犀色に輝いていて。
「ふふ、金木犀がさらに好きになってしまいそう」
「うん、美味しいお菓子と一緒に食べると、いっそう楽しめるよね」
 なんて答えると、迅が空席を探しているのが目に入った。手には、砂糖漬けの金木犀が入った団子と緑茶。
「ミユキさんも休憩ですか? わたしもねぇ、あれです。いっぷく、してるの」
「折角だし、一緒にどう?」
 二人に声をかけられ、迅は少しの間思考する。
「ああ、一緒にお茶すんのも悪くねぇな」
 応え、迅は二人のそばに座った。桂花陳酒があればベストだが、今は昼。苦笑し、まずは緑茶を一口。
 のんびりゆったり、小さなお菓子を大事に美味しそうに食べるベラドンナを、さくらがじっと見つめている。
「栗きんとん美味しそう……お土産に買って帰ろうかな」
「それは、私も先輩にお土産買って帰ろうかな」
「あら、金木犀の包み紙があるみたいよ。それにしてもらう?」
「うん、してもらおう!」
 はしゃぐ二人を見て迅は笑う。香る金木犀に呼び覚まされた記憶は、今は亡き親友。目の前の二人のように一緒にはしゃいで過ごした相手だ。
 そこで思考を止め、迅は砂糖漬けの金木犀が入った団子を口にする。
 内側から抜ける香りは、いっそう秋を、そして流れる時間の早さを感じさせてくれた。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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