メタモルフォシス

作者:雨音瑛

●新たな生
 ドラゴン2体が、空を行く。2身体は高く高くどこまでも上昇し、やがて雲を抜ける。
 雲の上には、白い肌をした少女がひとり。少女は2体のドラゴンを前に、うやうやしく礼をする。
「お待ちしていました、ジエストル殿。此度の贄となるのは、そのドラゴンでしょうか」
「そうだ。プロノエー、お主の持つ魔杖と死神の力で、この者の定命化を消し去ってもらいたい」
 ジエストル、と呼ばれたドラゴンの傍らには瀕死のドラゴン。プロノエー、と呼ばれた少女がそちらに視線を移すと、瀕死のドラゴンは呻くように言葉を紡ぐ。
「……我が命は、残りわずか。ならばせめて……ドラゴン種族勝利のための、礎としてくれ」
「かしこまりました。では、これより定命化に侵されし肉体へ、強制的にサルベージを行います。あなたという存在は消え去り、残されるのはただの抜け殻にすぎません。……よろしいですね?」
 瀕死のドラゴンは、重々しく頷いた。
 すると、雲の上に青白く光る魔法陣が現れる。
「う、ぐ、あ……」
 うめき声を漏らすドラゴンの肉体が、溶けて行ゆく。
 溶けた肉体は次第に形を成し、金属の光沢を持つ骨のドラゴンとなった。
 禍々しい姿を前に、成功です、とつぶやくプロノエー。
「この獄混死龍ノゥテウームに定命化部分は残っておりません。ですが……」
「わかっている。奴はすぐに戦場に送ろう。その代わり、完成体の研究は急いでもらうぞ」
 ジエストルの言葉に、プロノエーはただ頭を下げた。

●ヘリポートにて
 ケルベロスの姿を確認したウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)は、タブレット端末に触れた。そうして一度視線を落とした後、ケルベロスたちを真っ直ぐに見る。
「ドラゴン『獄混死龍ノゥテウーム』の襲撃が予知された。出現場所は仙台市宮城野区、ちょうどスタジアムのあるあたりだ」
 そこまでならば、普段のデウスエクス襲撃と同じ。だが、今回は――。
「襲撃までに残された時間が少ないため、市民の避難が間に合っていないんだ。このままでは、多くの死傷者が出てしまう。そういう理由で、君たちには急ぎヘリオンにて迎撃地点に向かって欲しい」
 獄混死龍ノゥテウームは知性が無く、ドラゴンとしては戦闘力が低い部類だが、何せ『ドラゴン』だ。強敵と言っても過言ではないだろう。
「迎撃地点は、出現場所であるスタジアム。ヘリオンでスタジアム上空から降下した後、すぐに獄混死龍ノゥテウームが現れる。高い攻撃力を誇る相手だから、充分に注意してくれ」
 獄混死龍ノゥテウームの使用する攻撃は3つ。炎のブレス、骨の腕での薙ぎ払い、呪詛での加護破壊だ。
「また、獄混死龍ノゥテウームは戦闘開始後8分ほどで自壊して死亡する事がわかっている。獄混死龍ノゥテウームを撃破するか、8ターン耐えきればケルベロス側の勝利だ。……自壊する理由は不明だが、ドラゴン勢力の実験体である可能性が高いのかもしれないな」
 とはいえ、8ターンで自壊するとはいえ、その前にケルベロスが敗北するようなことがあれば、市民には多大な被害が出てしまう。いずれにせよ、全力で事に当たる必要がありそうだ。
「獄混死龍ノゥテウームは、ケルベロスが戦闘を仕掛ければ戦闘を最優先の行動とするようだ。しかし、ケルベロスが脅威にならないと判断すれば、市街地を襲撃する可能性がある」
 8分耐えるだけでなく、敵に脅威を与えるような攻撃も必要となる。しっかりと連携として立ち向かうのが良いだろう。


参加者
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)
タンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)
水無月・一華(華冽・e11665)
ウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)
猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)

■リプレイ

●眼前の竜
 その日の仙台市は、暑くもなく寒くもなく。言うなれば、行楽日和。
 人々は、車や交通機関を利用して移動する。そのどれもが法定速度ぎりぎり。観光、という風情ではない。
 そんな人々をヘリオンから見遣るケルベロスたちは、急ぎ降下を始めた。
「あたしたちはケルベロス。仙台市のみなさんは、ここから早く避難を!」
「この龍もどきはお任せ下さいませ。振り返らず、急いで!」
 空中から逃げ行く人々へ届けられた声ふたつ、象徴する彩りは赤と藍。ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)と水無月・一華(華冽・e11665)だ。
 ヘリオンから降下する数は8、加えて小柄なものが2。
 ケルベロスの出現に、人々はどこか安堵した表情を浮かべて避難を続ける。
 着地と同時に陣傘を抑えるガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)の耳に、空気を奮わせるほどの咆吼が届いた。
「来たか。予知のとおりだな」
 鍛えられた肉体は、既に臨戦態勢。一方、対照的なまでに小柄、しかし重量を感じさせるほどの胸を持つ猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)はため息ひとつ、だるそうに背を丸めた。
「ウチこんな少人数でドラゴンと戦うん初めてなんやけどー、イヤやわー緊張するわー。しかもドラゴンゾンビやろー? イヤやわー、なんか鬱陶しい状態異常とか使ってくるんがお約束やん」
 魔法使いのような衣装を身に纏ってつぶやき、
「言うても終わらんと帰れへんし、やる事はやるけど、うん」
 ぴこんと猫耳を動かす千舞輝の隣に黒肌のドラゴニアン、ウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)が着地する。
「やるしかなかろウ。それにしても――個としての死を厭わず、種へ捧ぐ心意気は見事」
 だが、と左の目に焔を灯し、ウォリアは続ける。
「滅ぼス。ドラゴン勢力も対抗策を次々と出して来るナ。だが――その都度潰すのみ。獄混死龍……完膚なきまでに撃滅してやるゾ」
「ええ、多大な被害など出させはしない。それでも……残りの命を同胞の為に使うなんて、ドラゴンにもそういう心はあるのね。だからと言って私も譲れない、この世界は渡さない」
 そもそも、ドラゴンは死に体であろうとその存在を看過できない。うなずくアリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)の緑がかった薄灰の髪が、大きく揺れる。気配など探らなくとも、ドラゴンがすぐ傍までやって来ているのがわかる。
 鉄道ターミナル側が背になるように着地したタンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342)は、太陽を背に降り立つ禍々しい形を見た。一房を残して白い毛並みが、無意識に逆立つ。
「もう聞こえてはいないでしょうが。あなたの選択に敬意を。「やり過ごす」のではなく「葬る」事を以てあなたへの礼とします。勝負」
「目指すは『獄混死龍ノゥテウームの撃破』です。それでは、行きましょう」
 風魔・遊鬼(風鎖・e08021)は、それだけ言って口をつぐんだ。
 とはいえ、とアリシスフェイルは呼吸を整える。
「……負けない事が大前提等、甘いことは言ってられないわ」
 眼前に迫るノゥテウームに金色の強気な瞳を固定したま、アリシスフェイルはタイマーを作動させた。

●在り方
 先手を取ったのは、獄混死龍ノゥテウームであった。スタジアムの土が舞い上がり、ガイストの陣傘が吹き飛ばされる。
「お手並み拝見、とゆこうか」
 金の瞳が追うのは陣傘ではなく、ノゥテウーム。骨の腕が大きくしなり、前衛のケルベロスたちを瞬時に薙ぎ払った。吹き飛ばされたガイストは、三節棍を思わせる二本の如意棒を地面に突き立て、すぐに立ち上がる。口を歪めているのは痛みのため、ではない。呵々大笑し、なるほど、と呟いた。
 だが傷は深い。その深さに、アリシスフェイルはわずかに息を呑んだ。
「……ヘリポートで聞いたとおり、ポジションはクラッシャーのようね」
 ならば、一手たりとも間違うわけにはいかない。
「鉄から鉛に至り、シの戯れに敗北せよ。囲み喚くは爛れた骸、奈落に招く這い出る諸手、呪いの歌が汝を捉える――」
 それは、黄泉路の輪唱。アリシスフェイルの両手首に赤と黒の光が奔り、幕が織り上げられる。幕は、世界と黄泉を謳う虚無とを繋ぐ扉。顕現した這い出る手が、ノゥテウームを引きずり込まんと彼の者の頭部を鷲掴みにした。
 どうにか手を振りほどいたノゥテウームであったが、如意棒を手にしたガイストが真上から迫る。
 如意棒の一端を長く伸ばして与える衝撃は、ただのビルであったならば10階から1階まで貫通するほどの威力だっただろう。
 しかし相手はデウスエクス、それも元はドラゴンと来ている。ガイストはノゥテウームの眼前に着地し、くい、と手指を動かした。
「まだ、まだ足りぬ」
 挑発行為は、知性を失った竜にどう映っているのか。答えは、ひときわ長い咆吼だけだ。
 耳をつんざく音を聞こえるがままにして、タンザナイトは地面を蹴る。脚に虹を纏い、口を開くノゥテウームの背へと一撃を決める。炎が割れ、背の骨が一部弾き飛ばされる。骸の頭部がぐるりと動き、タンザナイトを睨む。だから、タンザナイトも見つめ返す。
「そんな姿になって、分裂までして、残霊より惨い姿になって。あなたの誇りは、どこにあるのか」
 身体の一部が弾き飛ばされた衝撃にか、あるいは問いへの苦悶か。ノゥテウームの叫びで、タンザナイトの毛並みが後方へと波打つ。
「相手にどんな事情があっても、あたしは仙台のみんなを守る。そして、彼の心配の種を少しでも取り除く……!」
 オウガメタル「ルーチェ」の光で前衛を照らすヴィヴィアンの意思は、どこまでも真っ直ぐだ。何せ、獄混死龍ノゥテウームは恋人の因縁の相手。精一杯、全力で戦わない理由はどこにもないというもの。
 ボクスドラゴン「アネリー」はヴィヴィアンの意思に同調するかのように、癒し手として最も傷を受けた者へと属性を注入する。
「こういうヤツは早期撃破が一番楽、って相場が決まっとるやんなー。さ、ウチはメディックとして戦線を支える役目やけど……イヤやわー緊張するわー」
 ゲームに例えた思考を口にして、千舞輝は「ブラッドスター」を歌い上げる。
 棒読み口調ではあるが、その実ゲームをプレイするかのように思考を巡らせる千舞輝だ。
 執事のようなウイングキャット「火詩羽」の飛ばした尻尾の輪を追うように、3つのシルエットが異なる方向からノゥテウームを狙う。
 燦速戦脚【韋駄天】を装着したウォリア、Volpe alataを装着した一華、そして遊鬼だ。
「さぁ、参りましょうか」
 一華の言葉から1秒も経過しないうちに、三つの流星がノゥテウームを襲った。
 タイマーの振動を感知し、アリシスフェイルは仲間に告げる。
「まずは1分、経過ね」

●目標
 市街地には脇目も振らず、ノゥテウームはケルベロスに攻撃を仕掛け続ける。
 それは、ケルベロスも同じ。何せ攻撃を仕掛け続けなければ、ノゥテウームは人々を襲うべく市街地へと向かってしまうのだから。
 無論、攻撃を仕掛け続けるだけで容易く勝てる相手ではないのは百も承知。
「タンザの「願い」を見つけるために、お前の「願い」を頂きます」
 タンザナイトは「鍵」を生成し、ノゥテウームへと突き刺した。同時に吸収するのは「何かを願う心」とドリームエナジーだ。
「結構、吸えるものですね。意識は無くとも意志が残っている、ということでしょうか」
 タンザナイトの呟きに、どうでしょう、と言いたげに遊鬼はわずかに首を傾げた。
 遊鬼は無言で、あらかじめ決めた順に攻撃を繰り出すべく動く。
 現在の狙いは、状態異常を付与しての弱体化。
 骨の抉られた跡を素早く見つけ、正確に傷を広げるべく最短距離を素早く移動する。それは元より高い身体能力のためか、忍の里での修行のためか。無論、当人が語ることはないのだが。
 骨に刻まれた傷跡がいっそう深くなると、ノゥテウームは遊鬼を振り払った。難なく着地する遊鬼は数歩分下がり、代わりとばかりに一華が進み出る。
「力だけあるというのも、また厄介な」
 一華の踏み出す所作は滑らかに、それでいて力強い。だが何よりも目を引くのは、一切の躊躇なく繰り出された斬撃ひとつ。一華が残した白銀の軌跡は、演舞の痕跡にすら見える。
 瞳に宿した意思は明解。倒すと斬る、それだけだ。
 4分経過、アリシスフェイルが言葉にするや否やノゥテウームの首が持ち上がり、あたりが熱を帯び始める。熱源はノゥテウームの纏う炎だ。それが、うねるようにノゥテウームの口元へと集積されてゆく。
 再びケルベロスを捉えた目は虚ろではあるが、狙いはわかりやすい。ヴィヴィアンとタンザナイトは視線を交わし、弾かれたように動いた。炎のブレスが向かう先は中衛。赤の巻き髪と白のたてがみが熱に煽られるが、二人は微動だにしない。
 アリシスフェイルは左の手に握る餞刃-origo-を力に任せて振り下ろした。それでも、なぞる場所は先に仲間が傷を負わせた場所だ。
 8分が経過すれば、ノゥテウームは自壊する。さて、経過した時間は4分。
「折り返し、というところね。自壊したものが今後利用されないとも限らないもの、できることなら打ち倒しておきたいのだけれど……」
 ノゥテウームに蓄積したダメージがいかほどか、把握することはできない。
「やれるだけ、やるしかないよね」
 ヴィヴィアンの口から零れる柔らかな浄化の歌が、ノゥテウームに炎を灯す。
 アネリーと火詩羽が回復に動くと、千舞輝は50円玉をひとつ弾いた。
「ネコマドウの四十二、「猫の花一時」。土管からにょろにょろ」
 消滅した50円玉の代わりに現れたのは、花冠を頭に乗せた猫。ヴィヴィアンの周囲を浮遊しながら踊り回り、決めポーズひとつ。ボフンと消滅した後は数多の花を生み出して癒しを与える。香りのためか、はたまた外観のおかげか。癒しの力の根源は、謎のままだ。
 凶星ノ威迫【全界】を地獄の炎で覆うようにして、ウォリアはノゥテウームの下へと滑り込んだ。
「時間制限がなければ、さらに楽しめたかもしれぬな」
 ウォリアが求めるのは、ただただ戦いのみ。オーラを覆うものと同じ色の炎が彼の顔の左側に灯る。顎を穿つ拳がノゥテウームを打ち上げると、地震とも思えるような衝撃が伝わってきた。
 ノゥテウームが地に落ちた音ではない、ノゥテウームはまだ浮いている。
 腰を落として踏み出したガイストが、掌底を喰らわせたのだ。
 ほう、とウォリアは興味深そうに口にした。自身の求めるものと同じものを、ガイストも求めている。そのような気配を、感じ取って。

●刻限
 遊鬼はノゥテウームの背後に回り込み、エクスカリバールへと雷撃の力を宿す。
 鮮烈な赤の目は、ノゥテウームの動きを過たず捉えている。
 とたん、ノゥテウームの背骨が軋んだ。見れば、十字に似た傷が深く刻まれている。遊鬼によるものだ。その結果だけ見届け、遊鬼はすぐさまノゥテウームから距離を取る。
 踏み込む一華の視線は、ひたすらに凛と。
「厄は払って落とすもの。おまえはもう祓われなさい」
 型をなぞりながらも、スタジアムを土埃ひとつ立てず歩む様子はいかにも実践に即したもの。視線は当然のこと、狐の耳はぴくりとも動かず、一華は無駄のない動きで刀を振るう。
「其は、ひらく」
 言の葉と同時か、あるいはそれよりも先んじて。磨き抜かれた青の刃は、太く鋭い太刀筋でノゥテウームの角を切り落とした。
 いざ、と向かうのはガイスト。思考を巡らせて選ぶ攻撃は、最も威力の高いもの。
「――推して参る」
 口元はいっそう楽しげに歪み、確かな剣閃を見せた。太刀風を認識する肌に、翔龍を確認する目。
 龍は爪牙を以て、ノゥテウームの首を落とさんと食らい付く。ノゥテウームの首と胴を繋ぐのは皮一枚、いや骨1本か。
 直後、アリシスフェイルはタイマーの振動を感知する。
「あと1分よ!」
 アリシスフェイルが言うが早いか、ノゥテウームが空を見上げた。低く呻くような言葉は、加護を破壊する呪詛。
「重い……! ですが、応えてみせる!」
 押しつぶさんばかりの圧に吼え返すような気迫を見せるタンザナイトの加護が、いくつか破壊される。だが再び加護を受ける時間は無い。
 ヴィヴィアンは、骨の合間を縫っての打撃を。
 タンザナイトは、虹を纏っての蹴撃を。
 アネリーの体当たりでわずかに動いたノゥテウームへ、火詩羽が尻尾のリングを飛ばす。
 ゆるり動いた千舞輝の氷を伴う一撃を叩き込むさまはしなやかだ。千舞輝は、注意深くノゥテウームを観察する。
「ゲームやったら、ここらで攻撃パターン変わるとこやけど」
「その心配はなさそうね」
 千舞輝の言葉に少しばかり笑みを見せ、アリシスフェイルはエアシューズ「凛翔-avis-」でノゥテウームの体長よりも高い位置を取る。
 流星に重力に自らの力を乗せて頭部を弾けば、残る角が砕け散った。
「天に輝く七の星を見よ……オマエに死を告げる赫赫たる星こそが我……全てを棄てて礎へと成り果てた者よ、地獄に堕ちる覚悟はできているな?」
 不敵に笑うウォリアの右目に灯っていた炎が広がり、顔面を包むに至る。
「さぁ、オレ/我がオマエを此処で殺す……終焉の時は、来たれり…来たれ星の思念、我が意、異界より呼び寄せられし竜の影法師よ………神魔霊獣、聖邪主眷!!!総て纏めて…いざ尽く絶滅するが好いッ!」
 ウォリアの足元から奔る炎が火柱となった。次いで現れたウォリアの分身4体は、洋の東西を問わぬ武器を構えている。
 合図など不要。四体は一斉にノゥテウームへ襲い掛かり、突き、崩し、斬り。
 屠る。
 分身4体が灰が崩れるように消え去ると、獄混死龍ノゥテウームの身体が弾け飛んで消滅した。
 軽く黙祷するタンザナイトが再び目を空けた後、残骸はどこにもなかった。
「死神の因子などの細工がされていないか、調べるつもりでしたが……」
「そう容易く証拠を残す相手ではない、ということですね」
 戦闘を終え、遊鬼が再び口を開いた。得られる情報はなし、ならばこの後個別に調査をした方がよいだろう。
 また、幸いなことに市街地への被害は出ていない。修復箇所はスタジアム内だけで済みそうだ。
 不意にするりと風が吹き、陣笠を運んで来る。痛む腕をそのままに拾い上げ、ガイストは懐から煙管を取り出した。
 燻らせた紫煙が立ち上るのを、ガイストは視線で追う。自身がどの高みまで行けるのか。今は答えが無いことを知りながら、身体の火照りを冷ます風に目を細めた。
 ヴィヴィアンもまた、空を見上げる。
「これで終わらないのは、わかってる」
 獄混死龍の背後にいる死神を暴くまでは、この事件は続くのだろう。でも、と思う先は心の中。ひとつの戦いが終わったことを、大切な人へと告げた。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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