ペイントボールフィールドでお祝い セルベリア誕生日

作者:そうすけ


 セルベリア・ブランシュ(シャドウエルフの鎧装騎兵・en0017)はイスを横へずらすと、シューティングバーのホームページをゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)に見せた。
「いい感じの店だろ。な、ここに遊びに行かないか。お互いデウスエクスどもの相手で忙しいし……そうだな、6日後にしようか」
 言いながらメニューのタブをクリックする。
「料理だってバーとは思えないほどいろいろあるぞ。ジュースもいろいろあるし」
「バー? バーは駄目だよ。ボクたち未成年じゃないか。それに、その日は……」
 ゼノは語尾を濁した。顔を上げて壁のカレンダーを見る。
「む? お酒は飲まないぞ。ジュースもあるって、さっき言ったじゃないか。あ、もしかして……予定でもあるのか?」
 セルベリアは急にしょげた顔になった。ちょっぴり唇を尖らせて、じっとモニターを睨んでいる。
「いや、そういうことじゃなくて……」
「だったら! あ……。か、勘違いするなよ、二人っきりで行こうって言ってるんじゃないからな! だ、誰か他に暇なヤツがいたら誘ってもいいんだぞ」
 だから、そういうことじゃないんだってば。
 ゼノはぐっと言葉を飲みこんだ。
 本人の希望は叶えてやりたいが、バーは駄目だ。かといって、このまま黙り込んでいるとセルベリアの機嫌がどんどん悪くなっていく。まだ誰にも相談してないんだけどなぁ……。
「あ、あのさ……実は僕、前からセルベリアと行きたいところがあって、そっちじゃダメ?」
「そっちって、どっち?」
 尖りまくった声に一瞬、腰が引ける。やばい、完全にオコだ。
「ち、ちょっといいかな?」
 爆発させないようにそっと横からキーボードに指を伸ばし、ぽちぽちとアドレスを打ち込んで画面を移動させる。
 最近発見された封印城バビロンにどことなく似ているようなにいてないような、中世ヨーロッパの城下町風ペイントボールフィールド が表示された。
「ここなんだけど、チームを組んで制限時間内に城を落とすか、攻めてくる敵(運営スタッフ)から城を守るシューティングゲームで――」
 どん、と椅子に座ったまま、セルベリアが体当たりしてきた。よよよ、と横によろける。
「面白そうだな! もちろん、遊ぶなら攻める側だ!」
 いそいそと予約を入れ始めたセルベリアの後ろで、ゼノはほっと胸を撫でおろした。あとで人数の変更をしておこう。それと城にケーキを持ち込こむ許可もとらなくちゃ。

 10月17日。
 その日はセルベリア・ブランシュの誕生日。

 ゼノはヘリポートに戻ると、ヘリオンの中からケルベロスたちに、誕生日パーティー開催の知らせを送った。


 着信音に気づいて携帯電話、あるいはタブレット、PCのメールボックスを開くと、一通新しいメールが届いていた。
 タイトルは『セルベリアの誕生日を祝おう』、差出人はヘリオライダ―のゼノだ。
 クリックして開くと、以下のことが書かれていた。

 こんにちは。
 10月17日、午後から中世ヨーロッパの城下町風ペイントボールフィールド 『開封城パピロン』にて、セルベリアのどっきりお誕生日会を行いたいと思います。
 スケジュールに空きのある人は来てくれると嬉しいな。
 当日はチームを組んで『開封城パピロン』を夕暮れまでに落とす側で遊びます。
 城の最上階のラスボスを倒したらエンディング。誕生日ケーキ(セルベリアには内緒だよ)を出すから、みんなでハッピーバースディを歌ってお祝いしよう。

 ・武器は支給品のみ。グラビティでの攻撃は禁止だよ。
 ・貸衣装があるから服の汚れも心配なし。ゴーグルも貸してもらえるよ。

 追伸・誕生日ケーキはみんなで仲良く食べようね。


■リプレイ

●城門前
 セルベリアはライフル銃(モデルガン)を、ゼノから手渡されるなり、高く掲げた。
「よく集まってくれた! プライドをかけた戦いにより街を奪回し、我々の手で必ずやパピロンの城壁に、ケルベロスの旗を翻してみせようではないか!」
「いや、ないから……ケルベロスの旗、ないから」
 ないなら作ればいいじゃないか、と口を尖らす本日の主役(本人には内緒)をなだめながら、ゼノは急遽集まってくれたケルベロスたちにそれぞれ、遊戯用の武器を手渡していく。
 ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)は、騎士の剣を受け取った。試しに一振りしてみる。
 あこがれのケルベロスが見せた鋭い太刀筋と音に、おおっとペイントフィールドのスタッフたちがどよめいた。
「本物の鎧ではないけど、動きにくいね」
 照れ笑いで応じつつ、長い髪を束ねてお団子に結ったウォーレンが言う。
 中世の騎士をイメージして作られた鎧の胸には、特別に『蠍の印』が描かれていた。体に下げる的にも蠍が描かれている。マントの留め具には竜胆が一輪。お洒落だ。
 白い布を頭からすっぽりかぶり、ハロウィンゴーストに扮したミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は、伝説のガンを受け取った。
「開放城パピロン攻略するぞ。えいえいおー」
 セルベリアと一緒に、えいえいおー。二人揃って、青空に武器を持った手をつきあげる。
「それにしても……すごい自信だね」
「うん?」
 ゼノに言われてオバケは首……というか体全体を横に曲げた。
 塔と塔の間を巡るパピロンの城壁は高く灰色で、意図的に黒い泥などで汚されていた。壁の内側も荒廃した街の雰囲気がよく再現されており、暗い。
 フィールドで白のシーツは目立つんじゃないの、的になりやすいよ、と指摘を受けたミリムは、シーツの裾をヒラヒラさせて笑った。
「自分の的にペイント付いたらゼノさんに消して貰うから」
 同じく、伝説のガンを受け取った淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)はパーカーのフードを後ろへ引きおろすと、髑髏の面をつけた顔をあげて城壁の上を見た。
 北町の門、城下町の門に支えられた城壁の上部には、警備のための通路が造られており、竜牙の雑兵に化けた運営スタッフが雰囲気を盛り立てるためにウロウロしている。
 死狼は赤いペイント弾を銃に込めると、のこりの弾をパーカーのポケットに詰めた。
 普段、武器といえば、ブラックスライムとケルベロスチェインをメインで使っているので、銃にはあまりなじみがない。銃を持った腕をまっすぐ伸ばし、試しに門の前に立っていたスタッフの一人に狙いをつけてみた。
 気づいたスタッフが、あわてて逃げる。
「ごめん、ごめん」
 仮面の下で苦笑いしながら腕を降ろす。
「門から中に入った途端、いきなり壁の上から撃たれないよな?」
「それは大丈夫でしゃろ。でも、もし――」
 美津羽・光流(水妖・e29827)は伝説のガンを受け取ると、銃身でテンガロンハットの縁をクイッと押し上げた。
「撃ってきはったなら、スナイパー職としてきっちり俺が撃ちおとしてみせますよって」
 怪しげな関西弁でそう言い切ると、ロシアの妖怪は爽やかに笑った。指で銃をくるくると回してから、腰に下げた皮のホルダーに収めた。
 そんな光流の仮装は「さすらいのガンマン」だ。サキュバスというのは実は嘘だと普段から公言しているので、「さすらいのガンマン」の姿をした「サキュバス」を騙る「水棲妖怪」という二重の仮装になっている(本人談)。
「リリ、銃の扱いは得意だよ、物陰に隠れて襲い掛かってくるような敵を先制攻撃でやっつけるの」
 とんがり帽子をかぶった魔女、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)は勇者のライフルを受け取った。
「援護射撃、頑張る」
 相変わらず無表情だが、魔女の帽子の先についた小さなカボチャのお化けが小刻みに跳ねている様子から、ワクワク感が伝わってくる。
「うむ。よろしく頼む」
 リリエッタはセルベリアが傾けたライフルの銃口に、自分が持つライフルの銃口の横をかちん、と合わせた。
「あの……」
 すでに武器を受け取った仲間たちの後ろから、おずおずとシスター服を着た之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)がゼノの前へ進み出た。普段の着物姿もいいが、シスター服もよく似合っている。京女のしっとりと落ち着いた、気品のある清楚さが、修道女然とした雰囲気を醸し出しているのだろう。
「グラビティでの攻撃は禁止……エンチャントは? 防具の特徴は? 壁歩きで歩いていい?」
 しおんは生命の杖を受け取りながら、立て続けに質問を口にした。不安なのか、杖を握った指が白くなっている。
「うーん。スタッフさんたちに怪我をさせるようなものじゃなければ、いいと思うよ」
 ゼノの言葉に安心したらしく、小さく息をついた。
「準備は整った。いまより進撃を開始する!」
 セルベリアの一言で、パピロン城の城門が音を立てて開く。

●城下町~城1階
 ケルベロスたちは崩れた家の間を、割れた石畳の上を、そびえたつ城に向かってひた走る。
 ここで現れる敵は、黒タイツに骨の絵を描き、竜の頭部の骨(レプリカ)を被った竜牙兵だ。狙うべき的は1つしかない。上半身が、前から背中まですべて的になっているので倒しやすいが、そのぶん数が多いのが厄介だった。
 ミリムは焼け落ちた酒場の中から飛んできたペイントをひらりと跳びかわすと、反撃にペイント弾を連射した。
「ゼノさん、危ない!」
 ひいひい言いながら逃げ回るゼノの腕を引き、背後に気を付け乍ら横倒しになった馬車の陰に隠れる。
「リリちゃんも大丈夫?」
「リリ、平気。それより、赤いのがついているよ」
 途中、仲間を庇った時だろう。シーツについた赤いペンキを、ゼノに消してもらった。 腰につけた的をゴシゴシこすられながら、なんとなく屋根の上を見る。
「……セルベリアさん。あの屋根の上にいる竜牙兵、狙えますか?」
 もちろん、といってセルベリアはライフルを構えた。
 みごと的を撃って倒したところで、三方から竜牙兵たちがワラワラ集まってきた。
「ボクの事はいいから先に行くんだっ!」
 ミリムはすくっと立ちあがると、たった一人で三方から城門通りになだれ込んできた竜牙兵たちに突っ込んで行った。
「……く。尊い犠牲をだしてしもうた」
 残った七人で階段を駆け上がり、前に立つと、パピロン城の重い扉が内へ開かれた。
 城の見た目だけでなく、中は部屋の配置もそっくりに作られていた。入ってすぐ右手にドアが見える。
 リリエッタはまったく躊躇せず、ドアを開いて小部屋に入った。部屋の真ん中に置かれた宝箱を開けてみると、中にスタンプとインク台が入っていた。
 なんだ、これ。首を捻るケルベロスたちの後ろから、ゼノが説明する。
「スタンプラリーだよ。全部の宝箱を開けると六階でいいものがもらえるんだって」
 早く言え、とセルベリア。ゼノからスタンプ手帳を取り上げると、ポンとスタンプを押した。
「たしか反対側にも小部屋があったはず」
 魔女を先頭に次の小部屋へ向かう。
 途中、海皇童帝・闘理豚が現れた。
 マッチョなお兄さんが豚のマスクをかぶって、触手に見立てた太い縄を振り回している。
「邪魔だから、どいて」
 リリエッタは無表情でライフルを構えると、赤いペンキがついた触手(縄)が届く前に、腹につけられた的を撃ちぬいた。わっと、怯んだすきに横を中世の騎士が駆け抜けて背中に回り込み、騎士の剣でバッサリとしかし優しく、後ろの的に赤い印をつける。
 角からケイオス・ウロボロスに扮した全身黒タイツの男が二人現れたが、魔女は慌てずライフルで胸の的を撃ちぬいた。残り一体を反撃の暇を与えることなく、さすらいのガンマンが早撃ちで倒した。
 やられた闘理豚たちはたちあがると、ブヒっと鳴いて、回転する壁からバックヤードへ逃げて行った。
「それにしても、よくここまでそっくりに作ったな」
 階段のある部屋に入ると、パーカーのポケットに両手を入れた死神キッズが感心した。
「……ドラグナーの「フレイ」がいなかったわ」
 まあ、それは仕方がない。何から何まで同じというわけにもいかないだろう。と、その時――。
「この城にどのようなご用件ですか?」
 豚の着ぐるみ(エプロン付き)を二体連れて、おそろしく筋肉質な「フレイ」が階段のある部屋に入ってきた。本物と違って可愛くない。
「先に上がって。すぐ追いつくから」
 リリエッタには勝算があった。なぜなら可愛くない偽「フレイ」の後ろ、こっそりと豚の着ぐるみに忍び寄るミリムの姿を見つけたからだ。三対二だが、ケルベロスと一般人化ではそもそも蓄えてきた戦いの経験値が違う。すぐに仲間に追いつけるだろう。

●2階~3階
 二階に上がると、天井のスピーカーからドラゴンの咆哮が聞こえて来た。
「まあ、それらしくできてるわな……。さっさと宝箱をあけにいこか」
 ケルベロスたちは宝箱のスタンプを回収すべく、階段がある部屋を後回しにして進む。
 ドラグナー「アンドレアス」が出て来た。顔が半分隠れる赤い鱗面、着ている衣裳までよく再現されている。ロマンスグレイの渋いおじさまが演じているところもポイントが高い。
「残礼にすぎぬ今の私では勝てぬとしても、我らの城に足を踏み入れる者を放置できぬ」
「アンドレアス」の台詞を合図に、角からまたも黒タイツのアイツらがワラワラとでてきた。
 ケイオス・ウロボロスが雑魚なのは一階と同じ。ならば、と全員でわっと突っ込んでいって蹴散らす。あっけなく丸裸になった「アンドレアス」をウォーレンがバッサリと切り捨てて、先を急いだ。
「あれもしかして僕、結構いい的になってたー?」
 蠍の印がついた的の一つが赤くなっていた。銀の鎧やマントのあちらこちらにも、赤いペンキがついている。
 シスターが生命の杖でゴシゴシとこすり、蠍についた赤ペンキを落としてくれた。
「そういえば僕、普段の戦闘でも避けるより受けて耐えるスタイルだったー」
 あはは、と朗らかに笑いながらドアを開ける。
 ずらりとテーブルと椅子が並ぶ大広間に、竜牙兵「ヴァイス」が待ち構えていた。「ヴァイス」の純白の肉体……は再現できないので、代わりに全身白い鎧で固めている。構え持った二振りの大剣の刃から赤いペンキが流れ出し、タイルの床を汚している。
「うーん。どう見てもここは僕でしょ? セルベリアさん、みんな、ここは僕に任せて先へ急いで」
 笑顔でサムズアップしつつ、剣を構える。
「先に行けって……レニ、君を置いていけるわけないやろ!」
 案の定というか、テーブルの下から豚の着ぐるみたちが這い出てきた。銃を構えるガンマン。ほかの仲間たちも応戦の構えを取る。
「光流さん……良いから、早く行って! みんなも、クリアの時間制限があるってこと、忘れてない?」
 ウォーレンはゆっくり剣を薙いで襲い掛かって来た豚たちのエプロン――的に赤ペンキをつけた。的を一つ赤くされながらも、雑魚を一掃。「ヴァイス」に剣先を突きつける。
「君の相手は僕。お相手願うよ」
「レニー!」
 一進一退の攻防を繰り広げる騎士たちの横を走り抜け、ケルベロスたちは三階に上がった。
「右に曲がってすぐの扉を開けば、四階への階段があったはずやけど……」
 階段のある部屋のドアには鍵がかけられていた。記憶が確かであれば、フロアの右側の奥に、宝箱と踏むと鍵が開く仕掛けの矢があったはず。
「よし、いこか」
 ドアの前で横をむくと、「マッドブッチャー」が待ち構えていた。雑魚バージョンの豚よりもぬいぐるみが一回り大きい。背中にフェルトの触手もつけている。ブヒヒ、ブヒヒと鼻を鳴らしながら、こっちにこいと宝箱に足をかけてケルベロスたちを手招きしていた。
 豚をあっさり撃退したあと、鍵を求めてフロアの反対方向へ。
 途中で水晶騎兵クリスタニアたちが現れた。
 透明のプラ板で作られた鎧、七つのガラス玉がはめ込まれた盾で身を守り、槍の先からペイントボールを飛ばして攻撃してくる。一糸乱れぬ動きとはいいがたいが、十人が一斉に向かってくるとそれなりに迫力があった。
「怯むな、進め!」
 激を飛ばしたのは真っ赤に鎧を染めたウォーレンだ。激闘を制して三階に上がって来たらしい。仲間の間を割ってクリスタニアたちのまえに進み出たが、すぐに最後に残っていた的を突かれてしまった。
「レニの犠牲は無駄にせえんで!」
 怒声で敵が気圧された隙を捉え、ケルベロス全員で一斉射撃。盾でかわされてなかなか的に当てることができなかったが、なんとか倒し切った。
 ちなみに。ここでゼノが集中砲火を浴びて、騎士とともに退場なっている。
 残ったケルベロスたちは、先に進んだところにある大広間で宝箱を二つあけた。鍵を求めて奥へ進む。
 と、黒いマントを羽織った「ブラッド」と雑魚豚二頭が、壁の回転扉から現れ出た。
「ん、あれ?」
 よく見ると、「ブラッド」は二階で「アンドレアス」を演じていたスタッフだ。急いで着替えて上がって来たのだろうか、肩で息をしている。
 本物の「ブラッド」は長い口上のあとで、その強固な肉体の上を竜鱗が覆う。が、当然、そんな仕掛けは作れないので、偽物はマントの下に予め竜の鱗を模した鎧を身に着けていた。
 雑魚豚一頭と「アンドレアス」を三秒で撃退。
「鍵はどこや?」と光流。
 踏んだら鍵が開く床など当然ないので、代わりに倒されたブラッドが鍵を投げて渡す。
「おおきに」
 背を向けたとたん、やられたフリで倒れていた雑魚豚が後ろの的に赤ペンキをつけた。
「――くっ。俺としたことが、油断したわ」
 大げさな身振りで派手に倒れる光流の横で、死神キッズが銃を抜いて雑魚豚を倒した。
 さらば、友よ。鍵を手に入れたケルベロスたちは、階段の部屋まで戻ると四階へ上がった。

●4階~5階
 四階に上がった途端、またしても天井のスピーカーからバリバリガタガタと何かを壊す音が大音量で流された。
「先に左へ行きましょう。宝箱をあけてから玉座の間へ」
 しおんの先導で進み、フロア北端のドアを開くと、中で「誘魔ドラグメイカ―」が待ち構えていた。
「え? 貴女が……ドラグ……メイカ―さん?」
 実際の「誘魔ドラグメイカ―」はほぼ全裸に近いセクシー衣裳のデウスエクスなのだが、ここパピロンでは紫色の肉襦袢を来たおばさんが、髑髏のペイント爆弾を持って演じていた。気のせいか、手にしている髑髏も丸ければ、床にかかれた蠍のマークも丸い。「強さも若さも~死が奪い取る」の台詞も、おばさんが言うとなんだか違う意味で迫力がある。
 三段腹をゆさゆさ揺らして赤ペンキの詰まった髑髏を投げつけてきた。床に落ちて割れた髑髏から大量の赤ペンキが飛び散り、ケルベロスたちが身につける的を赤くする。
 それを機に、銃撃戦(?)が始まった。
 しおんは自分が真っ赤になるのも厭わず、仲間についたペンキを懸命に消していった。
「ここは私に任せて先に進んでください。大丈夫、少し休んだら追いかけます。後で合流しましょう」
「馬鹿なことをいうな、しっかりしろ!」
 床に横たわるシスターの手をセルベリアが取る。
「ううん。私はもう……セルベリアさん。この戦いが終わったら、伝えたいことがあります……」
 そこまで言うと、しおんはセルベリアの手の中に、おばさんからいつのまにかもぎり取っていた鍵を押し込んだ。
 宝箱をあけてから、玉座の間へ。
 天井のスピーカーからまたしても破壊音が流れ出す。
 玉座に座っている「ヴラディスラウス」を無視して、まずは南側の部屋にはいり宝箱を回収。戻って「ヴラディスラウス」と戦闘。巨大な四枚の翼を玉座からはずそうと、もたもたしている隙にさっくり倒して先に進んだ。
 最上階の床はタイルが割れ、壁にヒビが入っていた。部屋を出て進み、右に折れる。
 台車に乗せられた「忘魔竜サマエル」が姿を現した。大きい。人力で動かしているためか、小回りが効かないことが災いして、主に死狼から集中攻撃をうけて退場。
「とんだ見かけだおしだったな」
 細い廊下を抜けると、吹き抜けの広間に出た。その奥にラスボス。七つの首を持つ巨大な竜「大罪竜バビロン」いや「大罪竜パピロン」が鎮座していた。
 七つの首は可動式で、それぞれ大掛かりな仕組みで動かされている。天井からクレーンで吊るされ、動かされていた。体は床に固定式らしく動かない。
「こっちが突っ込んで囮になる。その間に決めてくれ。銃は得意だろ?」
 竜の首たちはそれぞれが咆哮し、赤いペンキ弾を吐き出す。
「そう簡単に負けはしない」
 死狼はセルベリアを援護しながら、抜群の運動能力を発揮して弾をかわし、自らも次々に竜の首を撃ちおとしていった。
 最後に、セルベリアが胴体の的を撃ちぬいて終了。四つの宝箱を開いてスタンプ手帳を埋めた。

●そして最上階
 普段は上がれない、六階へ。
 捕らわれていた仲間たちが、大きなケーキの前で死狼とセルベリアを待っていた。
「せーの」
「「セルベリア! お誕生日、おめでとう!!」」
 一斉にクラッカーが鳴らされる。
「あ……ありがとう。ほんとうに……うれしい……」
 セルベリアの頬についた赤いペンキを、うれし涙が洗い流していった。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年11月3日
難度:易しい
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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