●ファクトリア破壊作戦、決行
望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)が、にやりと笑んだ。
「吉報です。ウォーグ・レイヘリオスさん、アビス・ゼリュティオさん、オリビア・ローガンさんの3名が、瀬戸内海の無人島に身を隠すダモクレスの移動基地を発見しました」
呼集された番犬たちの顔が、はっと上がる。
「経緯を説明します。我々はひと月ほど前『ディープディープブルーファング』が生産されていた海底基地を発見。破壊作戦を決行いたしました」
そして破壊は成功し、死神とダモクレスの繋がりが暴かれた。記憶に新しい作戦だ。
「ですが、情報以外の成果もありました。資源採掘施設でもあった海底基地を破壊したことで、ダモクレス勢力の資材供給が滞ったのです」
それを補う為、各地で『ライドロイド』による資材強奪事件が発生したが、番犬たちによって被害は最小限に抑えられた。ダモクレスの兵站は、大きな打撃を受けたはずだ。
「そしてこの機を逃さず奴らの動向を探っていた方々が、遂に敵基地の所在を掴んだというわけです。瀬戸内の基地以外にも、伊豆半島近海に海底基地の存在を掴んだとも報告が上がっています」
海底基地には少数の偵察潜入部隊を派遣することが決定した。
こちらの担当は、無人島の移動基地だ。配備のライドロイドを多数失って、防衛力が低下しているらしく、こちらの偵察に引っかかったという。
「その名を『マキナ・ギア・ファクトリア』。逆ピラミッドの上に工場を建てた形状の人体機械化工場で、それ自体が移動可能な巨大工場型ダモクレスです。同時に、対ケルベロス戦を想定した『試作戦闘型ダモクレス』シリーズの研究開発施設でもあるとのこと」
試作戦闘型ダモクレスの内、数機は怒涛のダモクレス軍団の侵攻時に確認されている。ここで更なる開発を行っていたが、資材不足によって計画は中断しているようだ。
「この機会に少数精鋭による強襲を仕掛け、完成した試作戦闘型ダモクレスを撃破して、マキナ・ギア・ファクトリアを撃沈する。それが、今回の任務です」
●作戦概要
小夜は敵基地の外観を描いた図面を映し出す。中枢を指す矢印の周囲には、9つの影。
「基地中枢は9体の『試作戦闘型ダモクレス』に警護されています。それに対抗するためこちらも9班を編成。突入作戦を決行します」
なるほど。突入方法は? と、誰かが問う。
「ミッション破壊作戦に倣い、ヘリオンを用いた降下作戦を執ります。予知で算出した9地点に降下し、外壁を破壊して基地内へ突入。基地を探索して中枢を見つけ、警備の試作戦闘型ダモクレスを撃破。その後、中枢施設を破壊して工場から脱出いたします」
全員の脱出を確認後、中枢を破壊された『マキナ・ギア・ファクトリア』に、9班の総火力を叩き込んで撃沈する。
それが、作戦の手順だ。
次に、基地の状況を問う声が上がる。
「防衛能力が大きく低下しているとは言え、最低限の戦力は残っているはずです。シモーベや作業用ライドロイドとの遭遇や、戦闘用ライドロイドの迎撃が予想されます」
無用な戦闘を避ける為には、出来る限り早く中枢施設を見つけ出さなければならない。
「突入地点は中枢にほど近いので、ただ走り回るだけでもやがて見つかるでしょうが、探索の工夫があれば時間を短縮できるでしょうね」
そして小夜は、担当する敵へと話を移す。
「皆さんの侵攻ルート上に現れる試作戦闘型ダモクレスは『SR06影狩人(シャドウハンター)』と予知されました。ダモクレスには理解し得ない『心』を分析し、精神に作用する魔術を機械的に再現した機体です」
試作戦闘型ダモクレスは様々な異能の才能を持つ人間を再現した、言うなれば異能者の模造品。機械らしからぬ魔法や技術を操る、難敵たちだという。
「ですがここで計画を頓挫させれば、敵の陣容が厚くなることを防げます。その為には、完成した試作品を残すわけにはいきません。確実な撃破をお願い申し上げます」
小夜はブリーフィングを終え、大きく頷く。
「現在、複数の勢力が動きを見せており、横の繋がりも確認されています。手をこまねいている内に、万全の準備を整えた複数勢力に連携包囲されていた……というのは笑えません。機先を制し、敵の戦略に打撃を与えてください」
小夜はそうしめくくり、出撃準備を願うのだった。
参加者 | |
---|---|
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468) |
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672) |
新条・あかり(点灯夫・e04291) |
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003) |
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348) |
九十九折・かだん(スプリガン・e18614) |
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130) |
リリベル・ホワイトレイン(怠惰と微睡・e66820) |
●
高速飛行の振動を感じながら、エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672) が、時計を見る。
「降下予定時刻まであと三十秒……準備はいいかい? さあ、ハッチが開くよ」
言い終わらぬ内に金属音が響き、細い光と冷えた風が室内に入り込んで来る。
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348) は、並んだアンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468) に、くすっと笑いかけた。
「ダモクレス……か。いい思い出ないのよ。むしろ、悪い思い出が結構あるの」
「へー。偶然だねー。実はボクも。じゃ、今回で一緒に汚名返上だね」
同じ戦場を渡った二人は、通じ合った笑みをこぼす。
手すりを掴んだ佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)が、それを振り返って。
「一つずつ的確に潰す。それがダモクレス相手にするコツや。まずはここやな……行くで!」
そして、番犬たちは跳躍する。顔を打つ風の中、雲間を滑り降りて。
(「あの人もベストを尽くすはず。自分も、出来ることを全力でやるだけ……みんなと一緒に」)
新条・あかり(点灯夫・e04291)の頭上を九機のヘリオンが飛び抜けて、降下していく他の班が遠目に映る。
向き直れば、無人島はどんどんとその距離を縮めて行く。人のいない山影に、白い工場の姿が段々と大きくなって。
九十九折・かだん(スプリガン・e18614)は空中で、縮こまるようにその全身を丸めた。眼前に迫る壁を睨み据えながら、足の地獄を燃え立たせて。
「デカくて強い奴が、そんな風に隠れるもんじゃないだろ。吹き飛びな……!」
そして彼女は渾身の蹴りを。番犬たちは、それぞれの一撃を解き放った。
音を奪う衝撃の中、砲弾と化した72人の番犬が基地へと激突する……。
……。
ぐらついた意識。無明の闇。そこに、音がゆっくりと戻って来る。
『……ギア・ファクトリア内部に侵入者確認。試作戦闘型ダモクレスは、侵入者の排除を行ってください。繰り返します。マキナ・ギア……』
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は激しい警報の中、頭を振って瓦礫を掃い、立ち上がった。
「……ぃよっし! 派手に壊したぜ。突入は成功みたいだな。みんな、大丈夫か?」
彼が瓦礫を持ち上げれば、シロハとテレ坊がころころと転がり出た。リリベル・ホワイトレイン(怠惰と微睡・e66820)がその後に這い出てきて。
「ふー……ありがと。突入した途端、目覚ましが鳴ってくれるとは親切設計だね」
頭上はすでに瓦礫で塞がっている。
番犬たちは全員の無事を確認すると、崩れたドアを潜り抜けた。
そして、状況は開始する……。
●
『迎撃セヨ! 迎撃セヨ!』
作業用ライドロイドが、騒ぎ立てている。だが、その命令を聞くはずのシモーベは、かだんに捻じ伏せられ、アンノの放った爆炎で焦げカスとなっていた。
それでも騒ぐライドロイドに、剛と速を以って広喜とエリシエルが飛び掛かる。
「さあ、お返しだ。皆の分も、片っ端からぶっ壊してやるぜ!」
「この剣は久しぶりだ……行くよ! 遍く散らせ、天ノ羽々切!」
『迎……ッ!』
拳の一撃で吹き飛んだ敵は、剣閃に裂かれて四散する。
「次が来る……! すぐに隠れるで。こっちや……!」
曲がり角から手招きするのは、照彦。テレ坊を抱き上げたあかりに続いて、番犬たちは即座に身を隠した。目の前を三体のシモーベが喚きながら走り抜けるのを見届けて。
「……初の戦闘だったね。でも、警戒してたおかげで、数が増える前に倒せた」
「ええ。それに道もこっちで正しそう。壁を走る配線の束が増えていってるわ」
あかりに向けて、リリーは壁のパネルを外して中を覗き込む。潜入は順調だ。
「この辺、乗り物がないねー。ヒッチハイカー、使ってみたかったな」
アンノが、ちょっとつまらなそうに呟くほどに。
そのまま歩む一行を、かだんの手がさっと押し留めた。前方を睨む彼女の手から、声ならぬ声が伝わって来る。
『何か……靄? 冷気みたいなもんが前方の廊下から漏れてる。警戒しろ』
丁字路を曲がった先から、微かに漏れる冷気。番犬たちは警戒しつつ、その先を覗き込む。そこは、金網状の廊下が続く通路だった。網の中には、太い配線の束が無数に伸びている。
リリベルが視線を持ち上げると、突き当りにバルブ付きの厳重なドアが見えた。
「あの先に、配線の大本があるはずだね……待ち構えてる奴も一緒に、だけど」
番犬たちは、武装を構える。
ドアは少しだけ開き、その隙間から冷気が漏れ出ている。
すなわち、直前にそこを潜った者がいるということだ……。
身構えながら、番犬たちはゆっくりとドアを潜る。
警報の音は遠くなり、潜ったドアはひとりでにしまった。赤色灯の暗い灯りの中、室内は冷気に包まれていて……。
『ここまで辿り着くとはね。ようこそ。幻惑の満ちる影狩人の領域へ』
響いてくるのは、声。全員が無言のまま、神経を研ぎ澄ます。
配線がどこへ伸びているのか管理する区画だろうか。名称シールが貼られた線が、床下や天井を走っている。中枢は、もう一枚ドアを抜けた先のようだ。
『でもここから先へは行かせない。性能を試す機会を与えてくれて、ありがとう。そして……ここで、さようならだ!』
突如として部屋の中心に、道化姿の人形が着地した。
瞬間的に跳んだ番犬たち目掛けて、宙に浮かんだステッキから焼け付く烙印が迸る。
そして闘いが、始まった……。
●
焼け付く烙印は、心の芯をぐらつかせて薄霧の中の敵を見誤らせんとする。だが。
「あちちち……! とは言え、心を理解してへんやつの精神攻撃なんて大した事あれへんで」
霞の中を飛び出るのは、照彦。直棒を回転させ、人形を突く。それを防いだ人形が退くときには、緋色の影がその後ろに降り立って。
「雑魚はいないわ! 敵は一体! 速攻で行くわよ! 応じ来られよ、外なる螺旋と内なる神歌……!」
高速で交錯する視線。謳うリリーの連撃と、舞い踊る六本のステッキが、火花を散らしてせめぎ合う。
「なかなか速いじゃないか! そこだ……!」
ハッと人形の視線が横を向いた時、空間に亀裂が走り、エリシエルの斬閃が空を断ち割った。瞬間的に飛び退った人形を追うのは、広喜の放った轟竜砲。
「壊すのは俺の十八番だ。逃がさねーぜ……!」
爆炎が人形の周囲を呑み込んだ。だが黒煙の中からは即座にステッキが飛び出し、漆黒の弾丸が放たれる。
被害を防ごうとテレ坊が画面を明滅させ、シロハが弾丸に飛び込んでいく後ろで、あかりは杖【タケミカヅチ】を突き立てて。
「僕たちの心は今、同じものを見ている。みんなの心を惑わさせたりはしない。リリベルさん、お願い」
「任せてー! 私らの目標は、ボスキャラを撃破して移動基地を撃沈すること。真っすぐ見据えて、一気に行くね」
雷電が壁となって立ち上り、オーロラの如き輝きが幕を下ろすように仲間たちを包み込む。二重の壁が敵の精神魔術を防ぐ中、かだんの火線が横なぎに部屋を穿ち抜く。
「私は、ちょこまか動く奴が苦手なんだ。ついでに、狙いすますのもな。だから、当たるまで撃たせてもらうぜ……!」
がむしゃらに放たれる弾丸の嵐。その内の二、三発が人形の脇腹を抉る。
『やかましい狗が。幻に吼えていろ』
ステッキを構えた人形を、今度は歪んだ空間が掬い取った。上下左右が物理的に反転するような衝撃を伴って。
『ぐっ……!』
「余所見しちゃダメ。キミの相手はこっちだよ? 元々、手下が沢山居てもキミと躍るつもりだったんだから」
にやりと口角を吊り上げるのは、アンノ。
人形はぎらりと視線を向けて、引きつった笑みを浮かべる。
『雑魚どもを待つまでもない。心の底まで、ぐちゃぐちゃにしてやる……!』
人形は、身に刻まれた四紋を輝かせて、その全力を解き放った。
そして番犬たちは心を焼く閃光の中を、疾駆する……。
その闘いは、どれほど続いたのか。
室内は、竜巻の中の如く荒れ狂っていた。
砲弾が飛び、斬撃が舞い、雷鳴が明滅する。過去の幻影が番犬たちへ襲い掛かり、見定めた目標が惑わされ、癒しと破邪が即座に幻惑を打ち砕く。
溶けた金網が捻じれた棘と化し、千切れた配線が天井から蛇のように垂れさがる中……。
『死ね!』
冷気を破り、シロハとテレ坊を光線が貫いた。胸倉を撃ち抜かれた二体が光と消える。
しかし、今度は黒煙から飛び出した氷の弾丸が、人形の片目を射抜いた。
「手下がもう少しこっちを削ってくれてる計算だったかしら! お生憎ね、潜入対策は十分に取ってきたのよ!」
息を切らしながら火傷に滴る血を掃ったのは、リリー。その指先から、次々と氷弾を放って。
『貴、様ァア……ッ!』
冷徹な仮面も脱ぎ捨てて、人形はリリーと撃ち合う。
その後ろから、仲間たちが跳び出して。
「まずいよ。万事に備えた結果だけど、ちょっと時間かかり始めてる。この状態で他の敵が来たら、こっちの負けだよ」
「けほっ……潜入がうまく行った分の貯金も、もう底が見えて来てる。ここで勝負を決めないと」
そう語るリリベルとあかりの間を、照彦が進み出る。
「オッサンが隙をこじ開けたる。回復頼むで。ガッツリとな!」
二人は、煤を拭って頷き合った。
「あなたは、元気になる。きっと……! 多分……!」
「照彦さん……ごめんね。信じてるよ……!」
背を叩かれるように癒しを送り込まれながら、照彦は息を吐いて突撃する。それに気付いた人形は、全てのステッキを彼に向けて、光の奔流を解き放った。
「お、おぉ……! 耐えれるんは、この一発だけや! マジ、頼むでぇえ!」
直撃を胸倉に受け止めながら、彼はそれを無理矢理に抑え込んだ。
その脇を、二つの影が疾駆して。
「任せな。もう一度会いたいけど二度と相対したくない女の幻を見せてくれた礼は、キッチリするよ!」
「奇遇だぜ! 俺も……もう一度会いたい男と会えた。ああ、礼をしなきゃな! ありがとうよ……!」
駆け抜けたのは、エリシエルの剣閃と、広喜の炎拳。
人形は直撃の寸前で飛び退き……両の足が捥がれたことに気付いた。
『……ッ!』
落ちて来る人形を待ち構え、その全力を球状に練り上げているのは、アンノ。
「ごめんね? でも、こんな物騒で悪趣味な研究を放っておくわけにはいかないから。終わりにしなきゃ……ねっ!」
解き放たれた虚無の球体。だが人形は上体だけになりながらも、ステッキとその両手から迸る魔力で、それを受け止めてみせた。
『まだ……だ! クソッ! 早く来い、雑魚ども! こいつらを……!』
憤怒の形相で、人形はじりじりとそれを押し返す。膨大な魔力の激突による衝撃波の中、番犬たちは床にしがみ付いて。
まずい。この押し合いの中、敵の援軍が来たら……。
と、その時だった。
「おっと、ごめん」
ずだぼろのヘラジカの足が、人形の後頭部に押し当てられたのは。
「私は図体デカいから、トロくてな。後ろにいたんだけど、気付かなかったか? 踏ん張ってるとこ悪いんだけど、一つ訂正させろ……」
『狗、がァアッ!』
瞬間、かだんの足が人形の横面を蹴り抜いた。その顔面が、虚無の球体へめり込んで。
「私は……狗じゃ、ねぇんだよ……!」
甲高い絶叫の中、人形は足蹴にされながらゆっくりと削り落とされて行く。
裁断機に引きずり込まれる、紙のように……。
●
……影狩人は死んだ。
しかし、猶予はない。
扉を打ち破ると、露わになったのはガラス質のケース。その中で冷却液に沈められた何枚もの基盤。その黒い板から、無数に伸びた配線の束だった。
「これ、は……メインフレーム? いえ、考えてる場合じゃないわね!」
リリーは思案を払った。ともかくこれは、この基地の頭脳の一つのはずだ。
番犬たちは、一斉に攻撃を解き放った。火炎、弾丸、打撃、斬撃……物理的破壊が荒れ狂い、電気系統が火花を散らしながら死に絶えて行く。
「……動力源になるようなものはない?」
「ああ。恐らく中枢機能は分割されてるんや。一発で全機能がダウンしない工夫やな」
「ったく。複数同時破壊が必須なわけだ。ともかく、仕事は果たしたよ!」
照彦とエリシエルが頷き合い、番犬たちは転がり出るように中枢施設を脱する。
リリベルが走りながら、さっと略地図を広げて。
「潜入の為に作ったものだったけど、脱出の役に立ちそう。多分、道が広かった先が出口だよー!」
その時、基地が轟音と共にぐらつき始める。かだんが、頭を押さえて。
「他の連中も、成功してるっぽい。このままこいつと一緒に沈むのはごめんだ。走ろう」
だがその時、飛び出して来たシモーベが二体、行く手を阻んだ。
「あはっ。脱出の時に邪魔して来るなんて、意地が悪いなあ。どいてもらうよ」
アンノの縛呪が走る。撃破に手間取る余裕はない。瞬く間に一体を撃破し、番犬たちは残る一体に向き直った。
その時。
「こっちですわ!」
耳慣れぬ声がして、壁がぶち抜かれる。
「……!?」
シモーベはいきなり横面を吹き飛ばされ、瓦礫の中へと埋もれた。そして、雪崩れ込むように複数の人影が正面に現れて。
「誰だ!」
「新手か!」
土煙の中、壁を破った集団と身構え合う。だが。
「……あかり?」
浮かび上がったのは、見知った顔。黒豹の獣人を見たあかりの顔に、声にならぬ驚愕が走る。
(「タマちゃん……! その傷は……ううん、でも無事で……よかった」)
それは、脱出中の仲間との邂逅だった。
無事を問う声はない。互いにボロボロで、向こうには護送されている重傷者もいる。こちらも苛烈な闘いだったが、それ以上に厳しい戦況を潜り抜けたことが、一目で分かったからだ。
「……脱出だ。行こう」
重い沈黙を破り、彼らは共に走り出した。
やがて番犬たちは、搬出口のような出口から転がるように外へ出る。
すでに多くの仲間が力を練り上げているのを見つけた広喜が、竜砲を抱えて嬉しそうに走っていく。
「ははっ、みんな無事かー! 遅れるところだったぜ!」
移動基地は中枢の大半を破壊され、残った僅かな機能だけで外殻と生命を辛うじて維持していた。煙を噴き上げ、傾きつつも、苦し気な駆動音を上げている。
「「攻撃!」」
そこへ、70人を超える番犬たちが全力で練り上げた遠距離攻撃が撃ち込まれた。
閃光と轟音が迸り、基地は炎を噴出する。火焔に呑まれた雑兵たちが、燃え盛りながら弾け飛ぶ。
金属の悲鳴が轟く中、移動基地は轟沈し……大爆発を起こした。
視界が戻った時、そこにあるのは赤黒く燃ゆる瓦礫だけ。
「……おっしゃー! やったぜーっ!」
一斉に上る、歓声と安堵のため息。
飛び跳ね、あるいは座り込む仲間たち。
迎えに来る、九機のヘリオン。
マキナ・ギア・ファクトリア突入作戦は、こうして幕を下ろす。
敵基地の破壊と、全員の生還を以って……。
作者:白石小梅 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年10月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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