黄金の宴、甘きカボチャの幸福

作者:坂本ピエロギ

 目の前に並ぶ黄金色の景色に、会場の客達は息を呑んだ。
 そこに並んでいるのは本物の黄金ではない。だがそれを眺める客達は皆、黄金を目にするよりもずっと温かい幸福に満ちた笑顔を浮かべていた。
 いま彼らが鑑賞しているのは、今年の新作カボチャスイーツの品々。ここは年に一度だけ開かれる、カボチャ専門のスイーツバイキング会場なのだ。
 チーズケーキ。モンブラン。シフォン、プリン、タルト、ガトーショコラ。その他、見た事もないような世界中のスイーツ。その全てが、黄金の如きカボチャ色に輝いている。
 料理の世界には「菓子は最初に目で食べる」という格言がある。それを踏まえて語れば、会場に並ぶカボチャスイーツの品々は、客の目と、そして心をも幸福で一杯に満たしてくれる極上の品々ばかりだった。
 カボチャのスイーツバイキング。それは甘き幸福に満ちた黄金の宴――。
 だが、そこへ。
 宴の歓声を耳ざとく聞きつけたように、3本の牙が降り注いだ。
 バイキング会場の広場へと突き刺さった牙は、瞬く間に竜牙兵へと姿を変え、訪れた客達をジロリと睨みつける。
「ホウ人間ドモメ。ドラゴン様ニ食ワレル者共ノ分際デ、スイーツトハ笑ワセル!」
「貴様ラノグラビティ・チェイン、憎悪ト拒絶デ味ヲツケ、ドラゴン様ニ捧ゲテヤロウ!」
「サア、誰カラ料理サレタイカ言ッテミロ! ハーッハッハ!」
 竜牙兵はスイーツの展示台をちゃぶ台のように盛大にひっくり返すと、逃げる人々を剣を振り回しながら追いかけていった。

「竜牙兵には困ったものです。サンマ祭りで飽き足らず、スイーツバイキングまで……」
 ヘリポートに佇むカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)は、憂鬱そうに嘆息した。彼が黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)に依頼した調査の結果報告が、最悪の形で的中してしまったからだ。
「つーわけで……おおよそは、ロッシュさんが話した通りっす」
 ダンテがカルナの話を継いで、依頼の概要を話し始める。
「カボチャのスイーツバイキング会場を竜牙兵が襲う予知があったっす。敵は全部で3体。皆さんが現場に着くのと奴等が会場を襲うのが、ほぼ同時って感じっすね。狙われる場所が変わらないように、避難誘導は到着後に行わせてもらうっす」
 現地にはダンテの手配した警察が待機していて避難誘導は彼らが行う手筈になっている。いちど戦闘が始まれば、竜牙兵はケルベロスを最優先で排除にかかるため、襲撃直後に戦いを挑めば市民が狙われることはないだろう。
「次に敵の情報っす。竜牙兵は全員ゾディアックソードを装備してて、命中と回避を重視した戦闘スタイルで攻撃してくるみたいっすね」
 ゾディアックソードは攻防のバランスに優れ、味方にはバッドステータス耐性を付与し、敵は氷で体力を奪うなど厄介な能力を持っている。調子づく前に、さっさと潰してしまった方がいいだろうとダンテは言った。
「戦いが無事に終われば、スイーツバイキングも再開っす。事件が起こるのは昼頃っすから帰る前に是非! 黄金の宴の甘~い幸せを、存分に堪能してきて下さいっす!」
 ダンテはちょっぴり羨ましそうに目を潤ませて、ヘリオンの発進準備にとりかかった。


参加者
繰空・千歳(すずあめ・e00639)
シィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)
華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)
鬼飼・ラグナ(探偵の立派な助手・e36078)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ

●一
 ハロウィンを間近に控えた秋晴れの休日。
 ケルベロス達は、竜牙兵の襲撃が予知されたスイーツバイキングの会場へと到着した。
「うわあ……すごく綺麗ですね、アナスタシア」
 華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)はショーケースに並んだカボチャスイーツに目を奪われ、相棒の翼猫に感嘆の吐息を漏らした。うっかり気でも抜いたら仕事中である事を忘れてしまいそうなほどに、その誘惑は強烈だった。
「黄金色の風景ですカ……小麦畑ではなク、カボチャスイーツとはまた興味深ク」
 とても素敵な錬金術デスネ、と微笑むエトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)の隣では、鬼飼・ラグナ(探偵の立派な助手・e36078)が目を輝かせ、
「カ、ボ、チャ! 俺はな、チーズケーキと、プリンと……」
「楽しみですネ。その為にモ……頼りにしていまス、ラグナ殿」
「も、勿論だ! 甘くて美味しい時間の邪魔なんて絶対許さないぞ!」
 指折り数える手を止めて、相棒の箱竜『ロク』と共に敵の出現を警戒し始めた。人々の命もカボチャスイーツも絶対に守り抜く、そんな決意を抱いて。
「それでは皆さん、襲撃ポイントに向かいましょうか」
 そう言ってカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)は自分達の目と鼻の先、会場からガラス1枚隔てた広場を指さした。芝生を囲むように設けられた木目調のテラスには、客に混じって待機している警察官の姿もちらほらと見うけられる。
 ドアを潜って一行が広場の中央に着くと同時、オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)が寝癖のついた頭を上空へと向けた。
「来た……カボチャの、敵……!」
 オリヴンの視線が捉えたのは、青空を切り裂くように降ってくる3本の牙だ。オリヴン達の眼前に牙は次々突き刺さり、人々に害なす竜牙兵へと姿を変えていく。
「ククク……人間ドモメ、ドラゴン様ニ食ワレル分際デ、スイーツトハ笑ワセル!」
「サア、誰カラ料理サレタイカ言ッテミロ! ハーッハッハ!」
 星辰を宿した剣を振りかざし、破壊と殺戮を宣言する竜牙兵。だが、彼らの耳障りな演説を許す気はケルベロスにはない。グラビティの収奪を許す気も勿論ない。
「待ちなさい。スイーツを楽しめない輩に、この会場へ足を踏み入れる資格はありません」
「そうよ。あたし達ケルベロスが相手するわ!」
 避難する民間人が巻き添えを食わないよう、避難経路と正反対の場所に位置取りながら、カルナとアミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)が竜牙兵に刃を向ける。
「ケルベロスダト? 待チ伏セカ!」
「随分と威勢のいい事ね、あなた達」
 ケルベロスの名に反応するように、その剣を残らず猟犬達へと向ける竜牙兵に向かって、繰空・千歳(すずあめ・e00639)が口を開いた。
「楽しいお祭りごとを邪魔する無粋な輩にはね、さっさとご退場願いましょうか」
 白手袋を外した左腕を、メタリックな兵器へと変化させる千歳。浮かべる微笑とは対照的に、その目の奥に宿った光はこの上なく好戦的だ。
「ええ、無粋で悪い子達は纏めてお仕置きです」
 シィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)もまた、体のブラックスライムを渦巻かせ、凛とした表情で敵を真っ向から凛と睨み返す。宴の場に現れた招かれざる客を、一刻も早く叩き潰すために。

●二
「気をつけて、来ます!」
 カルナの声が飛ぶと同時、竜牙兵は剣に宿す星のオーラを一斉にケルベロスへと向けた。前中後すべての隊列を凍てつく波動で包みながら、竜牙兵は骨の歯を打ち鳴らして笑う。
「凍ッテシマエ、ケルベロス!」
「残念、でした……地デジ、応援動画……」
「シェルヴィーさん、べきべきにやっちゃって下さい! アナスタシア、手伝って!」
 千歳を庇ったオリヴンが、灯と共に祝福の矢を撃ち出した。応援動画と清浄の翼によって竜牙兵の氷を溶かしてゆく後衛の仲間達に、保護を剥ぎ取る力が付与される。
「チャロ! 清浄の翼を頼むわ!」
「ロク、属性インストールだぞ!」
 ケルベロスの対応は実に迅速だった。残る前衛と中衛にアミルとラグナのサーヴァントがBS耐性を付与する傍ら、千歳がスターサンクチュアリを前衛へと施し、剣を手に突進しようとする竜牙兵に相棒のミミックをけしかける。
「さぁ、鈴。思う存分やっちゃいなさい」
 ミミックの口から投擲される酒瓶型のエクトプラズムが錘となって、竜牙兵の動きを石のように鈍く変えるのを合図に、ケルベロスは次々に反撃へと転じてゆく。
「風よ、嵐を告げよ」
 カルナの次元異相から召喚した氷晶が、嵐となって竜牙兵を包み込んだ。竜牙兵は跳躍で回避を試みるも、エトヴァの散布するオウガ粒子によって強化されたカルナの狙いは、それを彼らに許さない。
「さあ、誰も逃がしませんよ」
 衝撃波を伴って叩き込まれたシィラの超加速突撃に、竜牙兵の隊列が乱れを見せた。
 ダメージを逃しきれずによろめいたのは、鈴の攻撃で動きの鈍った竜牙兵。狙いすましたアミルの矢が、その背に追尾して突き刺さる。
「グゥッ――」
「そこだ、隙ありだぞ!」
 竜牙兵が反撃に移るより早く、ラグナの流星の蹴りがその足を蹴り砕いた。直撃を受けた竜牙兵の体が、バランスを崩してぐらりと傾く。
「押しているようね。好機だわ」
「支援はお任せ下さイ。アタッカーの皆様は攻撃ヲ」
 千歳とエトヴァの散布するオウガ粒子で、灯の起動した爆破スイッチのカラフル煙幕で、牙を研ぎ澄ましていくケルベロス。対する竜牙兵は守護星座の保護で体を包んでいく。
「歩調ヲ合ワセロ! 態勢ヲ立テ直ス!」
「残念ですが、無駄な足掻きです」
 シィラのブラックスライムが牙を剥いて竜牙兵に飛びかかり、竜牙兵の身を覆う保護ごと敵の身を噛み砕き、咀嚼する。辛うじて剥離を免れた竜牙兵のBS耐性も、ラグナの叩きつける音速の拳の前にあえなく露と消えた。
「グ……グウウ……」
 ケルベロスの集中砲火を浴びて、地に膝をついた竜牙兵を覆う影。竜牙兵が見上げた先に映ったのは、頭上への跳躍からルーンアックスを振りかぶるアミルだ。
「――これで、終わりよ」
 光の呪力を帯びた一閃が振り下ろされ、唐竹割にされた竜牙兵が消滅する。
「残り、2体だね……」
「この一撃で、叩き潰します」
 オリヴンとカルナが同時に跳んだ。オリヴンのオウガメタルが振り下ろす鋼鬼の拳が剥ぎ取った装甲の隙間を、カルナのドラゴニックハンマーが狙い定める。
 重い打撃とともにカルナのハンマーが打ち砕くのは、標的の『進化の可能性』。その一撃は凍結を伴い竜牙兵の体力を大幅に削り取った。
「オノレエエエェェェ! コノママ斃レテナルモノカ!!」
 悪あがきにも似た執念深さで凍てつくオーラをケルベロスの前衛へと飛ばす竜牙兵。だがその攻撃は、既に戦況を覆す力を持ちえない。
「さぁさ、もう少し。後ろは任せて、頑張ってちょうだいね」
 千歳は左腕をガトリングガンに変え、カルナを庇ったエトヴァに回復グラビティの照準を合わせる。飴屋の店主でもある千歳のとっておき、『飴細工の恋物語』だ。
「おいしい時間はもうすぐよ、なんて」
 ハート型の飴細工から生まれた兵隊とバレリーナがふりまく、可愛らしいハートの飴。
 傷を癒し、千歳に礼を送るエトヴァが、
「感謝しマス。たいへん美味でしタ――それでハ」
 竜牙兵に向き直り、バスターライフルの砲口を向けて微笑んだ。
「これはお裾分けデス。あなた方モ、この美味を試してみませんカ」
 フロストレーザー、発射。凍化光線を浴びて氷に覆いつくされた竜牙兵が、エアシューズで加速するラグナの流星蹴りを浴びて粉々に砕け散った。
「これで、残るは1体……」
「観念しなさい、逃がさないわよ!」
 オリヴンとアミルの妖精弓から、ホーミングアローが立て続けに発射された。追尾する矢を必死に捌く竜牙兵にシィラはにっこりと笑みを送り、
「スイーツを楽しめないとは可哀想ですね。代わりに、これを差し上げましょう――さあ、どうぞ召し上がれ」
 茨のごとき電極針を、竜の骨へと突き刺した。
「ギ――ギャアアアアアァァァァァァァ!!」
 『Bad Beat!』の電撃で悶絶する竜牙兵。追撃せんと灯が掲げたのは、どう見ても西瓜にしか見えないオウガメタル『ヴェルデ・リーガ』だ。
「さあ、最後のおしおきです!」
 オウガメタルのうなる拳にガードを突き破られ、体中の骨に亀裂を生じさせる竜牙兵。
 そこに古代語の詠唱を終えたカルナが、魔法光線の狙いを定める。
「終わりです。もっとスイーツの素晴らしさを学んでから出直してきてください!」
 カルナはコギトエルゴスムの結晶となって転がった竜牙兵を見下ろすと、シロフクロウのファミリア『ネレイド』に、結晶を粉砕させるのだった。

●三
 バイキング会場の被害は、広場の僅かな損傷で済んだ。
 迅速な避難が奏功して、民間人の被害もゼロ。かくしてカボチャスイーツバイキングは、ケルベロスの修復完了と時を合わせて再開された。
「お疲れさま。皆、とっても頼もしかったわ」
「それでは! めくるめく黄金の楽園へ、いざ突撃です!」
 お菓子のグラビティで広場を修復した千歳の横で、灯が可愛らしい拳を突き上げる。いよいよ、待ちに待ったお楽しみの時間だ。
「やっぱり運動した後には甘い物ですよね。それにしても――」
 会場を埋め尽くすように並ぶショーケース。そこを彩る黄金色のカボチャスイーツたちの誘惑に、甘味に目がないカルナは思わず嘆息する。
(「プリンにケーキにパイに、何から食べるか迷ってしまいますね」)
 洋生菓子コーナーに並ぶ品々を前に、カルナと仲間達の視線はずっと泳ぎ続けていた。
 選びきれない嬉しさに黄色い歓声を漏らすのは、シィラとアミルだ。
「沢山あって目移りしちゃいます。まずパイとタルトは確保するとして……」
「困ったわね……この甘い香り、思考が麻痺しちゃうわ……」
 厳選された上質のカボチャを使って作られた菓子の、素朴だが深みのある味わい。それを口に入れた時の風味を想像して、アミルはつい蕩けた笑みを浮かべてしまう。
「ふふふ……パイとシュークリームと、それからプリンも……」
「プリン、いい香りデス。俺ハ、シフォンもいただきまショウ」
「やっぱりプリンは鉄板……あ、カボチャのアイスも食べたいな」
 お気に入りの菓子を次々と手に取るアミル。それに相槌を打つのはエトヴァと、甘い香りに覚醒したオリヴンだ。
 一方、ケーキのコーナーでは、目当ての品に巡り合えた灯とラグナが頬を綻ばせていた。
「このモンブラン素敵です……渦に吸い込まれそうです……!」
「チーズケーキ! 綺麗な金色だ!」
「ふふ、皆楽しそうね」
 喜びに目を輝かせる二人を眺めるのは、南瓜のパフェを手に収めた千歳。
 シィラの口から『スイーツグラタン』という単語が飛び出たのは、そんな時だった。
「最近流行りの一品なんです。皆さんも、いかがですか?」
「スイーツグラタン……そんな素敵な物もあるのですか!?」
「はい。カボチャのペーストをじっくり焼いて、一度冷やした料理です。アイスやジャムのトッピングもありますよ」
 生唾を飲み込むカルナにシィラが見せたのは、磁器の中でひんやり艶めかしい輝きを放つスイーツだった。焼き色のついた黄金色に、バニラアイスの白は良く映えるに違いない。
 カルナとエトヴァがケースに並ぶグラタンを手に、
「へええ……美味しそうです!」
「ふム。色々なトッピングが試せそうですネ」
 仲間達とカボチャスイーツの話題に花を咲かせるのを見て、いいひと時が過ごせそうだと千歳は静かに微笑んだ。

●四
 憩いの時間が、ゆっくりと流れ始めた。
(「ふふ、皆楽しそうね」)
 カボチャのお菓子を分け合って、サーヴァントに相伴のお裾分けを渡し、他愛もない話題で談笑し――。そんな仲間達の姿を、千歳はパフェを口へと運びながらのんびり眺める。
「カラメルとの絡み具合が実に……ああ、でもお代わりしたら他のスイーツが……」
 カルナはお気に入りのスイーツであるプリンと格闘中で、
「エトヴァ。お土産のアドバイスありがとうなんだ! 甘くって食べ応えもあるマフィン、きっと俺の探偵も喜んでくれるぞ!」
「お力になれて光栄デス。俺も家族土産の良いプリンが選べましタ」
 ラグナとエトヴァは、シェアしたチーズケーキとシフォンに舌鼓を打ちながら、お土産の話を交わしている。時折ロクもお代わりをねだりつつ、会話に加わっているようだ。
 と、そこへ――席を外していたシィラが、白い大皿を掲げて戻ってきた。
「お待たせしました、皆さん!」
 そう言ってシィラは、大皿をテーブルのど真ん中にドン、と置く。
「見て下さい! どうですか、これ!」
「わああああああ!」
 それは、大きく立派なカボチャのホールケーキだった。白いクリームがたっぷりとのった黄金色の幸福に、アミルはたまらず黄色い悲鳴をあげる。
「えへん! というわけで、皆でやりませんか? ホールケーキ争奪戦!」
「美味しそうな、カボチャケーキ……! 大賛成、です!」
 シィラの提案に、オリヴンが、仲間達が、揃ってフォークを手に取った。望むところだと息巻くカルナ。大興奮の鈴を抱えて、千歳が饗宴の開まりを告げる。
「それじゃ皆、用意はいい? ――始め!」
 かくして始まる、ホールケーキの争奪戦。
「最高、です……! 幸せ……! まさにパラダイス……!」
 思う存分カボチャケーキを頬張るオリヴンのテンションは最高潮に達し、
「そのままフォークを入れるのって浪漫を感じる! この戦い、負けられないぞ!」
「この直に、っていうのが贅沢よね。ちょっと悪いことしてるどきどき感もたまんない」
 ラグナとアミルは頷き合いながら、ケーキを皿へと載せていく。甘く楽しい共犯関係に、シィラと灯も童心に返って争奪戦を楽しむ。
「お誕生日以外でこんな風に争奪戦……もとい、分け合いっこするのは新鮮かも」
「ふふふシィラさん、私の速度に付いてこられますか――」
「灯さん、よろしかったら私の分もいかがですか?」
「本当に!? 美味しいー!」
 感動のあまりフォークの手を止める灯を、にっこりと眺めるシィラ。彼女が定めた次なる狙いは、カルナの皿に乗ったクリームたっぷりのケーキだ。
「美味しそうですねカルナさん。私のフォークが唸ります! とう!」
「ああっ、しまった! く~っ、シィラさん早い!」
 灯のケーキをじっと狙うカルナの横から、シィラが獲物を素早くさらう。その見事な手並みにカルナはただ賞賛をおくるばかりだ。
(「幸福な時間……良いものデス」)
 サーヴァント達も加わって皆で過ごす楽しいひと時を、残ったケーキを噛み締めながら、エトヴァは静かに眺めていた。
 深まる秋、竜の牙から守り抜いたカボチャの宴。
 皆で手にした幸せなひと時を、ケルベロス達は心ゆくまで楽しむのだった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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