ファクトリア突入作戦~白炎の守護獣

作者:銀條彦

「海底基地破壊作戦を成功裡に収めた結果ダモクレス基地では資材不足が発生し……、」
 ケルベロスを集めたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)によって語られる昨今の対ダモクレス情勢。
「不足を補うべく資材強奪を目論むライドロイド事件が各地の工場において発生。が、これらも皆さんの活躍によって敵ダモクレス側は充分に目的を果たせぬままでどうやらダモクレス基地へ更なる大打撃を加える事が出来た様です」

 今に到る経緯と成果とについてが手短に語られた後、セリカはその裏で調査を進めていたケルベロス――ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)、オリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050)の3名それぞれから届いた重要報告についてを伝えた。
 ――瀬戸内海の無人島においてダモクレスの巨大基地が発見されたのだ。
「巨大基地の名は『マキナ・ギア・ファクトリア』。基地それ自体が巨大工場型ダモクレスでもあるそうです。本来は人間の機械化……特に対ケルベロスを想定した試作戦闘型ダモクレスの開発が行われていた拠点でした。しかし現在は資材不足の影響で開発は中断されており、それに加えて、基地防衛及び作業用のライドロイドの多くが破壊された事により防衛力も大きく低下した状態にある様子です」
 またとないこの好機を利用すれば最小限の戦力で『マキナ・ギア・ファクトリア』破壊は可能である、様々な意味で決して見過せぬこの開発計画を完全に葬り去る為にも皆さんの力を貸して欲しい、と、ヘリオライダーは頭を下げた。

 今回実行される『マキナ・ギア・ファクトリア』への突入はミッション破壊作戦に近い『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』の形が採られる。
 重力子演算からの予知情報によって特定し割り出された突入ポイントへ直接降下し、工場の外壁を破壊して内部へと侵入、中枢を守る試作戦闘型ダモクレスと呼称される強敵を撃破して残された研究成果等もろともに中枢システムを破壊した後、工場から脱出する作戦である。
 脱出・合流を果たした後は、中枢破壊と全チームの脱出を確認ののち外部から『マキナ・ギア・ファクトリア』を全チームの最大火力で撃破するという手順が取られる。
「存在が確認された中枢護衛の試作戦闘型ダモクレスは全9体。つまりその同数だけ『マキナ・ギア・ファクトリア』中枢が存在し、そこを強襲するケルベロスのチームも全9隊という事になるのです」
 作戦のあらましを告げた後セリカは『マキナ・ギア・ファクトリア』内に配備された敵戦力についての詳細へと説明を移す。
 先にも彼女が述べた通り、各地で多くのライドロイドが破壊された結果、基地の防衛能力は大幅に低下した状態にある。しかし全く戦力が存在し無い訳でも無い。
 工場内でのシモーベや作業用ライドロイドとの遭遇、或いは、駆け付けた戦闘用ライドロイドとの戦闘が発生する可能性はいまだ有り得るのだ。
 不要な戦闘を避ける為には、出来る限り迅速に中枢地区へ移動して試作戦闘型ダモクレスを撃破し、中枢システムの破壊から脱出までを完了させる必要がある。
「中枢地区への到達それ自体は、何処も予知で割り出された突入ポイントからそれほど遠くない箇所ですので、地道に探索すれば難しくはない筈です。ですが、中枢発見をより早め、よりスムーズに作戦を進める為には現場での探索において更に効率を高める何らかの工夫が必要なのかもしれません……」
 少し申し訳なさげに睫毛を伏せながら、それでもセリカは、最後に眼前のチームが倒すべき試作戦闘型ダモクレスの1体、『人狼』についてのデータを開示する。

「今回の基地破壊の好機は、ケルベロスの皆さんが各地で積み重ねて来たこれまでの奮戦と勝利あればこそです。海底に資源採掘基地が存在するという情報もありダモクレスの動きがすぐに終息するという事にはならないでしょうが……それでも当作戦の成功は人類の大きな戦果の1つとなるでしょう」
 故に……確実な成功と、無事を。
 ヘリオライダーの願いと共にケルベロスらは飛び立つ。一路、瀬戸内海の孤島へと。


参加者
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
松永・桃李(紅孔雀・e04056)
除・神月(猛拳・e16846)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
知井宮・信乃(特別保線係・e23899)
草薙・ひかり(闇を切り裂く伝説の光・e34295)
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)

■リプレイ


 眼下、広がる大海原。
 ダモクレス勢力の手によって人知れず実行されていた侵略と掠奪、その拠点となる工業型基地にして巨大ダモクレスたる『マキナ・ギア・ファクトリア』の全容をファインダーへと収めようとする九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)。
 その隣に控える彼女の戦友にして師匠、ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)は例によってお約束、アイズフォン他あらゆる通信への妨害が行われていると同乗するケルベロス達へ伝えた。
「瀬戸内海は観光名所ですし、風光明媚な景色で売っているところですので。違法建築にはお引き取り願いましょう」
 旅の安全に携わる者としてすっかりぷんぷんとご立腹な知井宮・信乃(特別保線係・e23899)とは対照的に。
「でっけー工場だナー。早くぶっ壊してみてーゼ♪」
「ちょっぴり不謹慎かもだけど面白い作戦だよね!」
 除・神月(猛拳・e16846)や草薙・ひかり(闇を切り裂く伝説の光・e34295)ら我らが格闘美女勢はまるっきりいたずらっ子の表情でわくわくと眼を輝かせている。
 今まさに向かおうとする敵地の舞台立てといいそれを攻略する為の電撃作戦のスケール感といい、今回のマッチメイクはひかり好みこの上ないらしい。

 やがて9隊すべてが算出された降下地点へと、狙い違わずに。
「一気にブチ抜くよ」
「おぬし見かけによらずなかなかに豪胆なクチらしいのぅ。ふふ、了解なのじゃ」
 簡潔に号令を発したティユ・キューブ(虹星・e21021)は、宙墜ち再びとばかり、降下の勢い乗せたまま流星の如きハウリングフィストを基地外壁へと叩き込んだ。
 タックルぶちまかし態勢で続いたボクスドラゴンのぺルルの後を心底愉快げな彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)が光翼はためかせ機外へとその身を投じる。
「資材略奪に基地構築……、彼方此方で好勝手してくれた御礼を、きっちり返しに行きましょうか」
 女性だらけの当チームにおいて黒一点。
 ――と表現するのは躊躇われる程に優雅なお姉様な佇まいのオネエ様、松永・桃李(紅孔雀・e04056)もまた『お返し』の最初の一刺しを『マキナ・ギア・ファクトリア』外壁部へと浴びせがてら突入を果たすのだった。


 かくしてケルベロス一行が突入作戦の第一段階をド派手に成功させた直後、基地内にはけたたましく警報とアナウンス音声が鳴り始めた。

『マキナ・ギア・ファクトリア内部に侵入者確認。試作戦闘型ダモクレスは、侵入者の排除を行ってください』

 突入口を起点にティユが素早くアリアドネの糸を仕掛けた後。
 瓦礫の山を遮蔽に眼に付く全てを書き込む精度の地図作りを始めた戀やリュックサックから幾つかの機材を取り出そうとしていた幻に、桃李は素早い離脱を急かした。
 9箇所同時の外壁破壊は、ある意味で、それ自体陽動として機能しているのだからこの利点を活かせる内に中枢到達を果たした方がいいとティユも桃李に同意する。
「とにかく時間との勝負、できうるかぎり最短突破を目指したいところね」
 耳に五月蝿い警報音が続く中、小さく潜めたひかりの言葉に頷く一同。

「地図や配線図の類いは見当たらないか……ま、そもそもダモクレスなら機器や媒体を介さずとも本体同士でデータ遣り取りは容易だろうからな」
「と、いうことはココじゃ情報の妖精さんの出番も無さそうねぇ」
「端末や書籍の形に落とし込んで持ち歩くダモクレスも皆無ではないだろう、が、ほぼマイナー趣味の域だな」
 注意深く隠密気流を展開して仲間を先導するソロとひそひそ会話を交わすひかり。とりあえず幻が空撮した外観写真とティユの糸を頼りに進んだ一行は中層部付近にまで到達した所だった。
 半数がかりで展開した隠密気流の甲斐あっていまだ遭遇戦はゼロである。

 鳴り止む気配のないサイレンと全基地放送に少し辟易しながらも、これならば多少の物音程度では発見される心配は無いとケルベロスの歩みはやや駆け足にスピードアップを果たしていた。
「ちょっと待って下さい。あそこにシモーベと……線路?」
 信乃が視線で促した先では何本も敷設されたレールとその上を行き来するトロッコに似た貨車が存在し、何体ものシモーベが資材の積み込み作業を行っているらしかった。
「あれも『乗り物』だよナ。まさカ……………やッタ、ビンゴだゼ!」
 防具特徴のヒッチハイカー使用を優先して動物変身による隠密を諦めた神月だったがどうやら正解を引き当てたらしい。
 トロッコの内の1台を指差してアイツは中枢区画行きの直通っぽい気がするとの彼女の言を信じた一行は、更なる用心を重ねて距離を保ちつつ線路沿いに追跡を続けた。
 段々とボイラー室じみた大小の配管が目立つようになり、ほどなく、荷降ろしのポイントに到着すればこちらでもシモーベと作業用ライドロイドが待ち構えてる。
 その背後に見える大型シャッター。その向こうこそおそらくは……。
「無観客路上マッチの緊張感も、たまには悪くないよね!」
 計4体のダモクレス雑兵の排除という地味な遭遇戦で惜しげもなく大判振る舞いされるひかりの大技アテナ・パニッシャー。
「うう、まさか私自身の手で線路トラブルを起こすハメになるなんて……」
 嘆きつつ放たれた信乃の死天剣戟陣がシモーベ達を速やかに一掃してゆく。

 遭遇戦が終わるや否やの勢いでオウガ自慢の膂力を発揮した幻がシャッターを粉砕すればその先に広がるのは無数の配管走る大広間と、そして。


『……――試作戦闘型ダモクレスは、侵入者の排除を行ってください。マキナ・ギア・ファクトリア――』
「まっかせなさい~! 人狼はぜったいにファクトリアちゃんを守ってみせるんだよ♪」
 場違いな程に明るく、繰り返される基地内放送に答えた声はうら若き少女のもの。
 ――中枢システム護衛を任されたSRシリーズが1機、『SR12人狼』の登場である。

 ピピンと立てた獣耳もブンブンとめいっぱい振られた尻尾も、純白のニホンオオカミの毛並みそのもので。
「人間の、機械化。この人狼ちゃんも、その犠牲なのかもしれないけれど……」
 痛ましげに眉を寄せたのは、刹那。唯1人中衛を担う桃李からは百戦百識の中より編み出された破剣の陣が前衛列へと差配されてゆく。
「ふハッ、可愛いツラしてるじゃねーカ? イジめ甲斐がありそーだナ♪」
 一方で。
 これは確かに同族っぽいナと神月の、ウェアライダーの狂戦士としての血は舌なめずりせんばかりに昂ぶる。
「わーい、かわいいっていわれちゃった♪ 『狂吼(がお~)』なんだよー」
「魅せる受けの真髄、その機械のボディにもたっっぷり味あわせてあげるわ!」
 じゃらりと鳴った鎖の音はこれより繰り広げる死闘の為の、チャンピオンからの贈り物。
 お待たせとばかり、窮屈な作業用ツナギを脱ぎ捨ててお馴染みのゼブラ柄のリングコスチューム姿を披露するひかりと相対していると、その高露出な装甲もあいまって『人狼』の方まで善玉レスラーのルーキーかと錯覚してしまいそうになる。
 BS耐性や盾アップの支援受けるディフェンダー3人による防御と請われれば前中後列何処からでも飛ばせるキュアヒール準備は格上ジャマー対策として十全に機能した。
 一方で更に同数を並べたクラッシャーはその破壊力を発揮できているとは言い難い。
 俊敏極まる格上敵相手に命中補正の利くポジションを全く欠く陣容。回避阻害のBSグラビティ使用にも積極的でないケルベロス達にとって序盤はほぼ防戦一方と言ってよい様相であった。
「なるほど。この闘い、はじめから一気呵成にという訳にはいかないか」
 ソロ自身は喰霊刀から引き出した力によって安定した命中精度を保ち続けていたが、彼女が想定していた味方からの足止め支援は今に到るまで一度も行われていない。
 見かねたソロの手から暗黒の鎖が解き放たれる。
「きゃん♪」
 ソロが用意した術の中でも抜群の命中率を誇るその暗黒魔法は、本来なら対雑兵戦用の列攻撃だったが、【足止め】の代用にと意図された【捕縛】の効力は見事『人狼』の片脚にと架される。
「御免なさいね、可愛い顔には騙されないわ」
 僅かな隙も見逃さず矢継ぎ早、桃李が刻んだ弧月の傷によって狼縛める力は飛躍的に強化されてゆく。

「斯様なデカ物が自立しとると言うだけでも厄介じゃと言うのに此奴等ときたら……鉄屑は鉄屑らしくしとれば良いのにのぅ。さっさと片付けてしまうに限るのじゃ。油断せず、確実に、徹底的にのぅ?」
 もしも『人狼』がより回避や命中率を重視した立ち位置で戦っていたとしたら……。
 初手の攻防から自陣の不利を察知した戀が、列減衰に更に減衰が重なる悪条件下で掛けてくれたメタリックバーストを受けて尚、戦況は悪化の一途だったに違いない。
「確かに手ごわいですね……ですが!」
 たびたび連携から取り残されながらも踏み留まった最前衛から更に敵ダモクレスへと肉薄した信乃が放ったのは抜合の一撃。
 『人狼』の全身を包む白炎は俄かにその火勢を削がれる。

「くらえ『銀爪(ももいろ肉球あたーっく)』!!」
「さっきから微妙に技名が釈然としないんだけど?」
 力まかせに振り下ろされた金属爪(および肉球型パーツ)が狙うは桃李の喉元。
 おもわずツッコミの台詞を発しながら、強引に割って入ったティユは両腕を交叉させた体勢でその威力を半ば以上受け流す。
 受け流して、なお、全身を軋ませる衝撃。纏う星光から癒しを注げども抜け切らぬ鈍痛。
『――羽も無い飛行場の彗星、大空を泳いだ……』
 戀が紡いだブラッドスターの律動が、虹色の真珠星に自由をとり戻す。

 確かにこのダモクレスは強い。予知情報を元に予め最善と考えられる布陣で臨んだ8人と1匹を相手にまったくひけを取らない性能を発揮して、単機、戦い続けているのだから。
 だが――。
「人狼は負けないんだよ! 燃えろ『白炎(もふもふふぁいあー)』――あれれ?」
「機械のお前にモ、ようやく効いてきたカ。もっともっと狂わせてやるゼ……月にナ」
 白き炎纏わんとした筈の白き狼は、はちきれんばかりのその胸部に自らの爪を突き立てていた。首をかしげた『人狼』に纏う漆黒を深めた神月が妖しく嗤いかける。
 共に戦うケルベロス達の援護あればこそ、敏捷特化敵であるにも関わらず、神月のとっておき『ルナティックエナジー』も遂には命中させ得たのだ。
「くひひ、油断したな?」
「きゃん!?」
 好機と見た幻が選んだのは捨て身も同然の零距離射撃。『雷天』から発射された紅き稲妻の弾丸が畳み掛ける。
 ――時に誰かの齟齬や不足が顔を覗かせようと、その時々に、別の誰かの備えがそれらを繕い補ってくれる。これこそがケルベロスという群れの強さ。
 まったく次元を異にする強さと強さのぶつかり合いの果て、戦いの天秤は今や確実に番犬の側に傾こうとしていた。

 どれ程傷つき損傷しようとも損なわれない天真爛漫が眼前の『試作機』から発揮されればされる程に刃交えるソロの表情はより険しいものとなってゆく。
「お前は人の頃のことは覚えてないのか……?」
 対ケルベロス試作戦闘型ダモクレス『SR12人狼』。
 ――人より造られ、人の心を模した何かを載せられた、もはや人ではない機械。
「人狼は、ダモクレスのみんなの為に闘ってさえいられれば、それでいいんだよ」
 返されたのは何の疑問も抱かぬしあわせいっぱいの笑顔、を模した、つくりもの。
(「ああ、何ひとつたりと噛み合っちゃいない」)
 ダモクレスとレプリカントの対話のさまを見守り続けたティユは無言の溜め息一つ吐いた後、『極星一至(ポラリスサーチ)』を前衛列へと向けて投影させた。
 そうか、それは結構な事だなと、ばっさりと。
 それ以上の問答を断ち切ったのは黄金角から発せられた眩いばかりの紅雷の迸り。
「私たちの攻撃に耐えられる者などそうは居ないさ。 ……行こうか!」
 師と共にゆくを望む幻は渾身の鬼神角を、眼前の敵へと叩き込み、
「そうだな。悲劇の連鎖は断ち切る――この刀で」
 促されるやぴたり重なり合う呼吸。
(「せめて苦しまずに……逝かせてやる」)
 荒ぶる竜虎二刀を構えたソロもまた神殲ぼす喰霊の連撃を以って技を繋げ『人狼』の命とこの戦いを終わらせるのだった。


 サーヴァント含めここまで味方全員が健在。
 一丸となった彼女達の前には守護獣を失った中枢ブロックの完全破壊も混乱極まる基地内からの脱出も容易い事であった。
「なんか写真のここらへん部分が出入口っぽいよね、くひひ」
 道中、遠方より何度か響いた爆発音や振動が他チームの作戦成功を伝えてくれる。
 その煽りを受けてかアリアドネの糸は脱出行の半ばで途切れたが、もとより、防衛戦力が集結したであろう突入口に引き返すよりは正規の出入口めざして駆け抜けた方がはるかに早かった。

 基地外部でしばし待機する一行の前に続々と他チームの戦友達も脱出を果たす。
 深き痛手を負った隊はあれども戻らなかった者はゼロ。ケルベロスの勝利である。
「さぁて、仕上げだ!」
 再び音頭を取ったのはティユだ。星屑と呼ぶには剣呑な火力乗せたマルチプルミサイルが彼女の周囲にセットされる。
「たまにはこーやって建物ぶっ壊すのも爽快なもんだナ!」
 獣人型に続き今度は巨大ダモクレスを蹂躙する悦びにすっかりとゴキゲンな神月はヒャッハーとその拳を振り上げた。
「全力だ」
 ソロの頭上ではひときわ巨大な虚無球体が浮遊して解き放たれる瞬間を待ち侘びる。
「アテナ・パニッシャー! ――だとどう考えても巻きこまれて相討ちだよねぇ」
 しぶしぶ遠距離でも繰り出せるグラインドファイアにと切り替えてアップを始めるひかり。

 かくして70名を越えるケルベロス達による壮大なる総攻撃が開始される。

「決着はキミの手で――決めろフウメイッ!」
「悪しきインネンを断ち切るデース! フーメイ!!」
 仲間に促されたチャイナドレス姿のレプリカント、李・風美から発射された巨大バスターライフルの一撃が剥き出しの溶鉱炉へと吸い込まれた。
 引き起こされた誘爆は瞬く間に基地全体へと拡がり……『マキナ・ギア・ファクトリア』は、此処に、完全に轟沈する事となる。

 忌まわしき人間機械化工場の最期をしかと見届けた後、
「皆の者、お疲れ様じゃの」
 戀は仲間達に対してそう労いの台詞を掛ける。実年齢より遥かに幼き微笑の内には歴戦のヴァルキュリアとしての澱が浮かんだがそれも瞬く間に消える。
「災いの芽は尽きないけれど……一つ一つ摘み取って、必ず根絶やしにしてみせましょう」
 たおやかに細められた薄紅色の眼差し。涼やかな響きとは裏腹、桃李が口にした決意の底に渦巻くものは熱く重く……。
 取り戻された孤島の地で、深き熱湛えるこの麗人の頬を冷ますかの様に――瀬戸の潮風は清涼と吹き抜けるのだった。

作者:銀條彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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