ミッション破壊作戦～風に揺らぐ秋

■リプレイ

●奈良県山添村上空
　嘗て五月橋ＳＡ（サービスエリア）と呼ばれた場所はミッション地域となった。
　今や此処を訪れる一般車両は無く、あるものは、錆び付いた車の残骸と戦いの跡、そしてグラビティ・チェインを求めて彷徨う攻性植物、グラトニーマーガレットだけ。
　そう五月橋ＳＡは完全に殺されてしまったのだ。
　そんな状況でも日々ミッション地域を攻略するケルベロスたちの活躍で被害はこの場所に限られている。
「ついに機会が巡って来たのです」
　ティオ・ウエインシュート（静かに暮らしたい村娘・e03129）は、万感を込めてグラディウスを握りしめる。
　グラトニーマーガレットは嘗てティオの故郷に甚大な被害をもたらしたと言われるデウスエクス。
　しかしミッション破壊作戦の開始当初から地域として認識されていながら今日まで攻撃は行われていなかった。
「お辛うございましたね。それにしても攻性植物の侵食も何処まで根を伸ばすのやら……ですが、これ以上の勝手は許しません」
　今日、この攻撃がこの地を取り戻す最初の楔になる。ミルフィ・ホワイトラヴィット（ナイトオブホワイトラビット・e01584）の言葉にティオのちっちゃな胸は熱を帯びた。
　ミッション地域のある五月橋ＳＡは地図で見れば、蛇行する名張川の南西側、名阪国道の無料区間に面した位置にあることがわかる。
　ミッション破壊攻撃の余波が及ぶ可能性を考慮して、国土交通省及び麾下の国道事務所、地方自治体には攻撃日時を通達済み。道路の通行止めや迂回ルートの設定など、必要な措置は取られている。
「作戦の成功とケルベロス殿の武運長久を祈る――か。村役場から届いたメッセージだ」
　出発直前、ヘリオライダーに預けられた電報のひとつを読み上げながら、リィン・シェンファ（蒼き焔纏いし防人・e03506）は、この地に住まう者たちや名阪国道の利用者たちの思いを知る。
「解放を願っている人たちの思い、このグラディウスで届けてやらないとな」
　リィンは髪を結っているシュシュを解いてポニーテールに結び直し、武器飾りのサファイアの表面に軽く指を添えて瞑目する。
　時計の針が午前６時を回って数分ほど、太陽の輝きが東に見えた。東から西へ青黒い地表の風景が絨毯を広げるように鮮やかに塗り替えられて行く様が見えた。
　直後、ヘリオンは急速に高度を上げる。そして目標上空への到達を示すブザー音が鳴り響いた。

●攻撃
「行きます！」
　ロックの解除されたドアをスライドさせると、ティオは外に飛び出す。
　高空の寒気を頬に感じながら、遥か下方に見える、五月橋ＳＡの輪郭の中にある特異に見える点、強襲型魔空回廊を防護するバリアの方に落下を続ける身体を向ける。
　高度から考えるに、衝突までの時間は長くない。
　１分を待たずにグラディウスの行使、ミッション破壊攻撃が終わってしまうと考えると不思議な気分になってくる。
　瞼を閉じる刹那に蹂躙された故郷の思い出が、走馬灯の如くに頭の中を駆け巡る。
　防護バリアは遠くからはお椀を返したような半球状、それが秒刻みで大きくなってくる。
「貴方にとっては歩いた道の小石程度でしょうが、私の村は破壊しつくされ大事な物を踏みにじられ食い散らかされました！」
　叫びそして、両手で構えたグラディウスを、もはや視界を埋め尽くす壁にしか見えないバリアを目掛けて突き出す。
「そして、ここでも非道の限りを尽くす。元より許す気はありません。故郷の仇！　消えろ！　ここだってお前等が好き勝手していい場所じゃない！」
　瞬間、胸中の万感と自分の故郷と同じように苦しめられた山添村の住民、国道事務所の関係者、被害に遭ったドライバー方々からの沢山のメッセージを重ねたティオのグラディウスがバリアに衝突する。
　同時、閃光が爆ぜて風景が真白に変わる。続いて轟音と共に火球が膨れ上がり天を貫く光条が立ち昇った。
　真下からの閃光の中、ユグゴト・ツァン（めまい・e23397）は降下を続けている。
（「相変わらず、凄まじい余波であるな」）
　続く爆炎の熱と衝撃、凄まじい速度で吹き上がって来る上昇気流に身体が押し戻されるのを感じて、ユグゴトは頭の上でグラディウスを構えた。直後、金の髪を後ろに靡かせ、一本の矢の如くに落下速度を上げる豊満な身体がたおやかに揺れる。
　――ユグゴト・ツァンは総ての母で在る。
　下の仔を嘲笑うような植物に慈悲は要らぬ。
　抱擁。即ち、お仕置きを此処に。
　信じる思いを抱き、ユグゴトは真っ直ぐにバリアに突っ込んで行く。
「さて。植物どもの所業に慈悲は不要か。確かに貴様等も我が仔の類。されど妹や弟を撲りながら玩具を奪うなど莫迦の癇癪。故に我が身は。母親たる己は貴様等を赦さぬ。神を模った不死の群れよ。我が抱擁。お仕置きを受けるが好い！」
　叫びと共に叩き付けられた刃は、この日二度目の閃光を作り出す。爆炎は地を嘗めて巻き上がる風は地上にある物を次々と宙に舞い上げる。
　――攻性植物っていろんな所に出てくるよね。
　光の翼を操る、今・日和（形象拳猫之形皆伝者・e44484）の目に、気流に巻き上げられた何かの塊が、青白い雷光に貫かれて塵と化す様が映った。
「ティオクンの故郷を壊しただけでも許せないのに、ここにも居座り続けるなんてホントに許せない」
　現れた全ての場所に荒廃をもたらし、人々を苦しめ続ける、グラトニーマーガレットという攻性植物を心底倒したいと思いながら、日和はグラディウスを振り上げる。
「だから、この傍若無人で巨大なタマネギは、ボク達の力で倒してみせるんだ！」
　叫びと共に、間近では平坦な壁にしか見えないバリアを目掛けて、グラディウスを振り下ろす。
　直後、凄まじい衝撃が手に跳ね返って来る。
「行くよ、グラディウス。ボクの叫びに応えなさい！」
　衝撃に逆らう様に、日和は更に力を込めた。
「何でもかんでも喰いやがって、子株が際限なく増えちまったら、此処だけじゃねぇ、俺達の居場所まで、果てはこの地球までも浸食されちまうってコトじゃねぇか」
　炎を孕んだ爆炎を切り裂きながら、木霊・ウタ（地獄が歌うは希望・e02879）は降下を続ける。
「この地球の命のつながりを、巡り巡る生命の円環を、壊されて堪るもんかよ！　俺の地獄の番犬の牙が！　逆にお前らを喰らってやるぜ！」
　ぶっ潰れろ！　怒りを込めた叫びと共にウタはグラディウスを叩き付ける。
「命と！　心と！　それが響き合って紡ぐ。未来へのハーモニーを！　それが俺らの叫び、耳かっぽじって聞きやがれ！」
　グラディウスを使わなければあり得ない、凄まじい破壊と衝撃が暴れ回る。
　初めてその威力を目にしたときは驚きもしたが、今は冷静に見られる。
　そんな気持ちの変化を覚えながら、ミルフィは刹那、両瞼を閉じて気持ちを集中させる。
「貴方たち攻性植物は、本当に貪欲に、どんなところでも我が物顔で、侵食しますのね……」
　切り開かれた爆炎の先に、赤黒い炎を映した果ての無いバリア面が見える。
「――そして、そこを貪り尽くせば、又次から次へと侵食の手を伸ばすのでしょう？　この地球に、貴方達が苗床にして良い地などあろう筈がございませんわ……！！」
　爆発、荒ぶる龍の如くに暴れ回る雷光が空中に舞い上げられたあらゆる物を塵に変えて行く。
　正直に言えばこの地にいる攻性植物はそっとしておきたかった。それが、シエナ・ジャルディニエ（攻性植物を愛する人形娘・e00858）の偽らざる気持ちだ。
　だがティオの抱く怒り目にし、沢山の人たちの期待を耳にした時、ケルベロスとして、その個人的な気持ちを貫くことは出来ないと思い知らされた。
　バリアへの直撃コースに入るシエナ。此処に来た以上、満身の力でグラディウスを振るわなければならない。それがケルベロスの背負った十字架。
「Je suis vraiment desole（ごめんなさい）！ これはあなたたちの為ですの！」
　爽やかな早朝の空にグロテスクな赤黒い雲が立ち昇る。
「長旅の休息の場、我らの戦友の故郷に甚大な災いをもたらした貴様の所業。七つの大罪が一つ『暴食』の名のままに、目の前の全てを喰らい尽くしてきた様だがそれも今日で終わり」
　叫びと共に突き出すリィンのグラディウスは、地獄において暴食の罪人を引き裂く牙の如くに見える。
「我ら地獄の番犬が貴様の全てを狩り尽くす。さあ、貴様にとっての最期の晩餐の始まりだ！」
　ケルベロスの呼称は底なしの霊という言葉に由来する。神曲をモチーフにした絵画にしばしば描写されている。甘いものが大好きで、罪人を容赦なく残虐に殺し、零す唾液にはトリカブトの猛毒を含む。
「地球の平和と正義と……まあなんだっていいっしょ。あんなヤツラにデカい面させたくないし」
　どこか虚無を孕む、トリューム・ウンニル（碧き天災の運び手・e61351）の叫びには、生存を主張し合う者が生まれる前から持っている宿業を感じさせた。
　爆発、そして荒れ狂う雷光、山並は衝撃に地震の如くに揺さぶられた。
　気流に乗って空高く昇り続ける茸雲の反対方向、地表側にも濃い灰色の爆煙（スモーク）が広がって行く。
「後から来たヤツはねぇ……ケンキョにしないとイケナイのよ！　そう、ワタシみたいにね！！」
　初めてだからこそ、難しく考えすぎて悔いが残らない様、トリュームは感じたまま思うままを叫びに乗せてグラディウスに持てる気持ちの全てを込めた。
　この日８人が行使したグラディウスは叫びに込めた思いと共に魔空回廊に確かなダメージを刻みつけた。

●撤退戦
「……まだ及びませんか」
　濃霧の如くに景色を遮るスモークの中にあっても、頭上に浮遊する魔空回廊の健在ぶりはすぐに分かった。
「退却地点まで急ごう！」
「でも私は、あきらめません！　いつの日か引導を渡します！」
　顔を上に向けるティオの手を、促すように日和が引く。
　ミッション地域の数は増え続けている。故郷を壊されて自分と同じ様な思いを抱く者も沢山いる。だからケルベロスとして、自身の思いは胸にしまい、いつか訪れる勝利に思いを馳せて、ティオは駆け出す。
　次の瞬間、頭上から迫る気配を一行は察知する。
　――来るぞ！　ウタの警告と共に色鮮やかな爆発が湧き起こった。
「無限の如く成長する球根の弾け。無間沸きで迎えよう」
　思い出すが良い。母なる者が齎す原初の恐怖を、宣告すると同時、ユグゴトの手の内に生み出さされた禍々しい気配は球形状となって飛び行き、吸い込まれる様にして、巨躯を露わにしたタマネギ型の異形『グラトニーマーガレット』に命中した。
　グシャリグシャリ。
　乗用車を丸飲みできるほどの巨大な口を上下させてタマネギ型の異型は自らを癒やした。
「これは厄介でで在る」
　積み重ねた戦いの経験から来る直感がユグゴトに不吉を告げる。
　だが間髪を入れずに日和の繰り出す電光石火の蹴りが巨体を打ち据える。
「スキありっ！　巨体の欠点は、的も大きいってコトだよ」
「ならば火力で圧倒すれ良いですわ」
　ミルフィは両足で踏み込みドラゴニックハンマー、ヘルヘイムの氷霜鎚を砲撃形態と変え、最少の準備動作から砲弾を撃ち放つ。短砲身の巨砲特有の弓なりの曲線を描いて飛翔した弾丸が炸裂しタマネギの如き巨体の破片をまき散らす。
「Fascination（そそられますわ）……」
　黄の外皮の内側に見える淡い黄緑を帯びた白が見えた刹那シエナの脳裏にあるイメージが浮かんだ。素早い動きで前に出たボクスドラゴン『ラジンシーガン』が巨体を覆い隠す様にブレスを吐きかける。直後頭の中のイメージを振り払ったシエナはボクスドラゴンの脇を抜けて間合いを詰めると如意棒を振り抜いた。
　ホルダーに納めたグラディウスの重みを感じながらリィンは跳び上がった。
　当てられるのか外れるのかを厳格に考えれば嫌な予感しかしない。
　そうであったとしても流星の輝きを帯びた蹴りは強かに巨体を打ち据え、機を合わせたようにトリュームの蹴りが命中する。
　続けてボクスドラゴン『ギョルソー』の吐き出すブレスの輝きに包まれタマネギの焼けるような匂いが立つ。
　直後、転げ始めたグラトニーマーガレットの巨体がふわりと浮かび上がりシエナを真上から押しつぶす。
　一撃で体力の大部分を削り取られる様を目にした、リィンとティオは同じ前衛に立つ者として危機感を募らせる。
　わずか数百メートルも進めば、逃げ切ることができるはずなのに。
　ちょっと手を伸ばせば届きそうな距離であっても、ミッション地域は人類の手の届かない敵の占領地なのだ。
　時間もまた着々と経過しているのに状況が好転する兆しが見えない。
「愛の為に。貴様を抱擁する」
　愛すべき仔『神』を否定する為、抱擁して『お仕置き』を行う。詠唱と共にユグゴトの視せたイメージがグラトニーマーガレットの命に癒やせぬ異変を刻む。
「それっ、焼けちゃえ！」
　絶対に打ち倒して皆で揃って家に帰るんだ。誰ひとり置き去りなんかにしない。
　ローラーダッシュの火花が生み出す炎と共に繰り出した日和の蹴りが巨体を激しく燃え上がらせる。
　空高く舞い上げられた大量の煤を孕んだ黒い雨が降り始めた。
　スモークはまだ効いているが、その濃度は数分前に比べて明らかに薄くなっていた。
「随分長い間好き勝手してくれたな。しかしそれも今日までだ」
　未だ癒やし切れていないシエナの傷も気になるが、今は攻め時と判断するウタ。身につけたオウガメタルを鋼の鬼と変えて疾駆して銀色の拳を真っ直ぐに突き出した。
　拳は瑞々しい音と共に巨体にめり込み、傷口からは体液が吹きこぼれる。そこにミルフィの撃ち放ったエネルギー光弾が突き刺さり、眩い光と共にグラトニーマーガレットの持つエネルギーを中和して行く。
「ティオ様の故郷の次は此処ですの！？　やらせませんわよ！」
　巨体が揺らぐ様に目を細めたミルフィ。その両脇を抜けたティオとリィンが敵との間合いを一挙に詰める。
「この剣舞は炎の舞、貴様を地獄へと誘う死出の舞！　塵も遺さず消え失せろ！」
　リィンの斬撃は燃えたぎる炎を乗せた連撃に始まり舞うようなステップからの高く跳び上がっての袈裟斬りに至る。その斬撃の全てを刻まれた巨体が傾く。
「助けて下さいとか、ごめんなさいとか、貴方には感情は無いのですか？」
　自身について何も語らない敵を目掛けて、ティオは腕装着型の粉砕機を起動させる。
「起動！　クロノスハート！　粉砕レベル金剛石！　砕け散ってください！」
　その叫びと共に壮絶な振動が巨体を揺さぶり、直後グ、ラトニーマーガレットは微塵に砕け散った。
「終わりました！　追っ手が来ないうちに急ぎましょう」
　かくして強敵を退けた一行は間も無くミッション地域の中枢部の脱出に成功する。
　そして無事の帰還を果たすのだった。

作者：ほむらもやし	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年10月16日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。